・東京地中間判平成13年5月25日判時1774号132頁  自動車データベース事件:中間判決  甲事件原告・乙事件被告(翼システム株式会社)は自動車整備業用システムである「ス ーパーフロントマン」を開発した。この原告システムは、自動車整備業者において、見積 書、作業指示書、納品書等の作成が容易にできるほか、顧客や車両等に関する入力データ をデータベース化し、顧客管理やダイレクトメールの発送等に活用できるように構成され たものであるが、日本国内において実在する四輪自動車に関する一定の情報を収録したデ ータベースである「諸元マスター」を構成要素としている。原告は、平成6年ころ、諸元 マスターの平成6年度版(本件データベース)を作成し、同年6月ころ、その販売を開始 した。これに対して、甲事件被告・乙事件原告(株式会社システムジャパン)は、自動車 整備業用システムである「トムキャット」を製造販売している。被告システムは、自動車 整備業者において、見積書、作業指示書等の作成が容易にできるほか、顧客や車両に関す る入力データをデータベース化し、顧客管理等に活用できるように構成されたものであり、 実在の自動車に関する一定の情報を収録したデータベース(被告データベース)がその構 成要素となっている。 本件のうち、甲事件は、原告が、「被告は、本件データベースを複製しているところ、 この複製は、本件データベースの著作権を侵害するか又は不法行為を構成する。」と主張 して、被告システムの製造等の差止め及び損害賠償を求める事案であり、乙事件は、被告 が、「原告が被告の取引先等に虚偽事実を告知した。」と主張し、虚偽事実の告知等の差 止めを求める事案である。  本件判決は、中間判決として、「本件データベースは、データベースの著作物として創 作性を有するとは認められない」としながらも、「被告が、本件データベースのデータを 上記件数分複製して、これを被告データベースに組み込み、顧客に販売していたことは明 らかであるというべきである」から、「被告が本件データベースのデータを被告データベ ースに組み込んだ上、販売した行為は、取引における公正かつ自由な競争として許される 範囲を甚だしく逸脱し、法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものとして不法行為 を構成するというべきである」として、主文として「甲事件の請求中、不法行為に基づく 損害賠償請求の原因は理由がある」と判示した。 (終局判決:東京地判平成14年3月28日) ■評釈等 平嶋竜太・L&T15号61頁(2002年) 蘆立順美・コピライト486号25頁(2001年) 水谷直樹・発明99巻7号92頁(2002年) 上野達弘・判例評論529号183頁(2003年) 牧野和夫・発明101巻8号99頁(2004年) ■争 点 (1) 本件データベースの著作物性 (2) 被告が本件データベースないしその車両データを複製したかどうか (3) 被告が本件データベースの車両データを複製したことが不法行為に当たるかどうか ■判決文 第4 争点に対する判断 1 争点(1)について  原告は、本件データベースにつき、対象となる自動車の選択、自動車に関する情報の選 択及び体系的構成に創作性があると主張するので、以下検討する。 《中 略》 (3) 証拠(甲12、27、乙58、検甲4)と弁論の全趣旨によると、本件データベー スは、型式指定−類別区分番号の古い自動車から順に、自動車のデータ項目を別紙「デー タ項目の分類及びその属性等」のとおりの順序で並べたものであって、それ以上に何らの 分類もされていないこと、他の業者の車両データベースにおいても、型式指定−類別区分 番号の古い順に並べた構成を採用していることが認められるから、本件データベースの体 系的な構成に創作性があるとは認められない。 (4) 以上によると、本件データベースは、データベースの著作物として創作性を有する とは認められない。 2 争点(2)について (1) 原告は、前記第2の1(2)のとおり、平成6年6月ころ、本件データベースの販売を 開始した。  証拠(甲12、27、56、79、乙58、60、検甲4)によると、本件データベー スには、型式指定−類別区分番号1398−039から9542−012まで12万34 07件の車両データ(代表データを除くと11万9039件)が収録され、その中には、 他業者による複製を検知するためのダミーデータが9件含まれていたことが認められる。 《中 略》 (7) 以上のとおり、被告が鏑木自動車や大谷自動車に販売した被告データベースについ ては、本件データベースの車両データのうち、約6万件が一致し、被告が富士モータース に販売した被告データベースは、本件データベースの車両データのうち、10万件以上が 一致すること、被告が鏑木自動車、大谷自動車、富士モータースに納入したいずれの被告 データベースにおいても、本件データベースに収録されたダミーデータが、それぞれの収 録範囲において全て含まれており、また、これらのデータベースには、本件データベース における誤入力や、本件データベースが独自に使用している車名や車種の名称がそのまま 用いられていること、被告が、本件訴訟係属後にこれらの被告データベースをいずれも無 料で更新したこと、原告は、この3社以外の被告システムのデータベースにおいても、本 件データベースのダミーデータ等を発見していること、以上の各事実が認められ、これら の事実からすると、被告が、本件データベースのデータを上記件数分複製して、これを被 告データベースに組み込み、顧客に販売していたことは明らかであるというべきである。 3 争点(3)について  民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の 具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるとい うべきである。そして、人が費用や労力をかけて情報を収集、整理することで、データベ ースを作成し、そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合におい て、そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを、その者の販売地域と 競合する地域において販売する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社 会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵 害するものとして、不法行為を構成する場合があるというべきである。  これを本件についてみると、上記1認定のとおり、本件データベースは、自動車整備業 を営む者に対し、実在の自動車に関する情報を提供する目的で、官報、年製別型式早見表、 車検証等の種々の資料をもとに、原告が実在の自動車と判断した自動車のデータを収録し たものであるが、証拠(甲25)と弁論の全趣旨によると、このような実在の自動車のデ ータの収集及び管理には多大な費用や労力を要し、原告は、本件データベースの開発に5 億円以上、維持管理に年間4000万円もの費用を支出していることが認められる。  また、弁論の全趣旨によると、原告と被告は、共に自動車整備業用システムを開発し、 これを全国的に販売していたことが認められるから、自動車整備業用システムの販売につ き競業関係にあり、証拠(証人B)によると、実際に、富士モータースにおいて、従前は 原告システムを導入していたものの、その後、被告システムに変更したことが認められる。  また、被告は、上記認定のとおり、本件データベースの相当多数のデータをそのまま複 製し、これを被告の車両データベースに組み込み、顧客に販売していたものである。  以上の事実によると、被告が本件データベースのデータを被告データベースに組み込ん だ上、販売した行為は、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を甚だしく 逸脱し、法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成するとい うべきである。  したがって、被告は、原告に対し、上記不法行為により原告が被った損害を賠償する責 任を免れない。  東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 森  義之    裁判官 岡口 基一    裁判官 男澤 聡子 (別紙)      物  件  目  録   製品名  トムキャット   種 類  自動車整備業・板金塗装業用コンピュータシステム   製作者  株式会社システムジャパン (別紙)      不 正 競 争 目 録 1 システムジャパン社は翼のデータを盗用している。 2 システムジャパンは経営状態が悪く危ない。 3 システムジャパンはおもしろいことになるので、お金は支払わない方がよい。 4 東京海上は、システム 5 ジャパンとの提携をやめて翼社に一本化する。 6 システムジャパンの工数は、日整連の工数とは違う。