・大阪高判平成13年6月28日  「三田屋」事件:控訴審  本件は、「三田屋本店」という表示でレストランを経営し、ハムを製造、販売してい る原告(株式会社三田屋本店)が、「株式会社はざま湖畔三田屋総本家」という商号を 有し、「はざま湖畔三田屋総本家」という表示でハム等の販売を行っている被告に対し、 右商号の抹消と、右商品表示の使用の差止めを求めた事案である。  原判決は、原告表示が周知性を取得しており、被告の商号および商品表示が、原告の 周知表示と誤認、混同のおそれがあるとして、原告の請求を認容したところ、被告が控 訴した。  判決は、「原告表示である『三田屋本店』は、原告の直営店及びフランチャイズ店の 営業表示及びハムに代表される畜産加工食品に係る商品表示として、昭和六〇年ころ、 消費者の間に広く認識され、周知性を取得したことが認められる」とし、「誤認混同の おそれがあるといえる」としながらも、「訴外会社は、遅くとも、昭和五二年七月以降、 「三田屋」の表示を使用して、本件レストランの経営を始めるとともに、自己が製造した ハム等を販売していたから、「三田屋」の表示について、先使用していたというべきであ る。そして、被告は、昭和五六年一二月一〇日に訴外会社の子会社として設立された後、 訴外会社からその営業の一部を承継して、訴外会社の製造するハムを「三田屋」の表示を 使用して販売していたのであるから、右「三田屋」の表示を自己の営業・商品表示として 先使用していたものということができる」と述べて、先使用を認めて、控訴を認容して、 原審を取り消した。 (第一審:神戸地判平成9年10月22日) ■判決文  「訴外会社は、遅くとも、昭和五二年七月以降、「三田屋」の表示を使用して、本件 レストランの経営を始めるとともに、自己が製造したハム等を販売していたから、「三 田屋」の表示について、先使用していたというべきである。そして、被告は、昭和五六 年一二月一〇日に訴外会社の子会社として設立された後、訴外会社からその営業の一部 を承継して、訴外会社の製造するハムを「三田屋」の表示を使用して販売していたので あるから、右「三田屋」の表示を自己の営業・商品表示として先使用していたものとい うことができる。……その後、訴外会社は、右「三田屋」の表示を変更し、「はざま湖 畔三田屋総本家」の表示を使用するようになり、被告もこれに合わせて、被告表示を使 用するようになったことが認められるが、右の変更の時期が原告表示の周知性取得時期 (昭和六〇年ころ)よりも前であったことを認めるに足りる証拠はない。  しかしながら、営業・商品表示は、その恒常性が重んじられる反面、時代や事業活動 の変遷が生じた場合には、その変遷にふさわしい表示に変更されるべき要請も内在して いるから、他人の周知表示と類似の表示でありながら不正競争防止法11条1項3号に 基づいて使用が許される先使用表示が存在する場合には、先使用表示と全く同一の表示 でない限り、およそ先使用権による保護の対象から外れてしまうと解することはできず、 周知表示出現後のある時点で、先使用表示の一部が変更された表示の使用が開始された としても、その変更によっても先使用表示との同一性が識別でき、かつ、不正競争防止 法が意図する周知表示保護の原則を害しない限度では、なお、変更後の表示も先使用権 による保護を受けることができると解すべきである。」