・東京地判平成13年11月8日  「いちげんさん」事件。  本件は、原告ら(株式会社スカイプランニング、株式会社ホリプロ)が、映画「い ちげんさん」につき、被告(株式会社講談社)が原告らに無断で女優A(鈴木保奈美) のヌードシーンを含む映画「いちげんさん」の映像の一部を撮影し、週刊現代に写真 記事を掲載した行為は、原告らが映画「いちげんさん」について有する著作権を侵害 するものであると主張して、被告に対し、著作権侵害を理由とする損害賠償を求め、 被告が、同写真記事の掲載は、著作権法41条所定の時事の事件の報道のための利用 に当たるとして、これを争っている事案である。  判決は、「本件記事への本件写真掲載は、著作権法41条所定の時事の事件の報道 のための利用に当たらない」などとして、原告の損害賠償請求を認容した。 ■判決文  「そこで、本件記事が著作権法41条所定の時事の事件の報道のための利用に該当 するかどうかを検討するに、同条所定の利用というためには、本件記事がその構成、 内容等に照らして、時事の事件を報道する記事と認められることを要するというべき であるが、本件記事においては、前記認定のとおり、本件映画に関して、「A初ヌー ド」「『裸乳シーン』も公開で大騒動!」というような各大見出しが付され、本件活 版記事にAの3つのヌードシーンを具体的に説明する文章があり、さらに本件写真が 本件グラビアの最後の1ページのほぼ全体を使って掲載され「ラブシーンで全裸にな るA。」などの記述が付されているのであって、このような本件記事の構成及び内容 からみれば、本件記事が主として伝達している内容は、女優Aが本件映画で初めてヌ ードになっているということに尽きるものであって、本件記事は、読者の性的好奇心 を刺激して本誌の購買意欲をかきたてようとの意図で記述されているものといわざる を得ない。そして、本件映画においてAがヌードになっているということが時事の事 件の報道に該当しないことは明らかであるから、本件記事への本件写真掲載は、著作 権法41条所定の時事の事件の報道のための利用に当たらないというべきである。  この点について、被告は、本件記事の伝達する内容のうち、「(本件映画をめぐる) 過熱、大騒ぎの最大の原因は、本件映画で主演をつとめた女優Aがはじめてヌードに なって、官能的な場面を大胆な演技で見事演じきったことによるものであった」こと は、文化風俗に関する時事の事件として社会一般に報じられるべき価値の高いもので あり、「時事の事件」に当たると主張する。なるほど、ある映画が短期間に極めて大 きな興行成績を挙げた場合や、新しい映像技術を用いた映画が公開された場合などに は、これらの事実を社会事象として紹介する報道がされることがあり、これらの場合 には映画の筋立てや映像の一部が紹介されることもある。そして、本件記事には、第 2回京都映画祭が大盛況であったこと、その最大の原因となったのが同映画祭参加作 品たる本件映画であったこと、本件映画におけるAの演技が評判となり映画祭期間中 の上映がすべて満員になり、追加上映も行われたことなども記述されている。しかし ながら、本件記事の伝達内容にそうした事項が含まれているとしても、Aのラブシー ンなどを撮影した本件写真は、そうした事項との関連で著作権法41条にいう「当該 事件を構成」するものではなく、また、上記事項を伝達するための「報道の目的上正 当な範囲内」のものともいえない。被告の主張は、採用することができない。  以上によれば、本件写真の本誌への掲載が著作権法41条所定の時事の事件報道の ための利用として適法な行為ということはできない。したがって、本件写真を本誌に 掲載した被告の行為は、本件映画の著作権(複製権)を侵害するものというべきであ る。」