・東京地決平成13年12月19日  「チーズはどこへ消えた?」著作権事件(平成13年(ヨ)22103号)。  債権者(扶桑社)が出版する書籍「チーズはどこへ消えた?」が、書籍「バターは どこへ溶けた?」を出版する債務者(道出版)の行為は、債権者甲の有する著作権並 びに債権者株式会社扶桑社の有する出版権及び編集著作権を侵害すると主張して、債 権者らが債務者らに対して、出版等の差止め及び債務者書籍の廃棄を求めている事案 である。  決定は、「債務者書籍は、上記(2)で挙げた具体的な表現部分において、債権者甲の 本件著作物についての著作権(翻案権)を侵害するものと認められる」などとして、 差止の仮処分決定を行った。 (裁判官 和久田道雄) ■判決文 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(債権者らの有する権利)について  前記第2の1の事実及び疎明資料(疎甲1の1、2、同3の1、2)によれば、債権 者扶桑社は、平成10年(1998年)12月10日、原著作物の著作者である丙から 権限の委託を受けていたペンギン・パットナム社との間で、原著作物を日本語に翻訳す ること及びその翻訳した著作物を出版することにつき許諾を得たこと、債権者扶桑社は そのころ債権者甲に原著作物の翻訳を依頼し、債権者甲はこれに基づき原著作物の翻訳 である本件著作物を著作したこと、債権者甲が債権者扶桑社に本件著作物を納入した時 点で債権者扶桑社は債権者甲から本件著作物につき出版権の設定を受けたこと、を認め ることができる。 したがって、債権者甲は、本件著作物の著作権者として翻案権を有 し(著作権法27条)、債権者扶桑社は、本件著作物の出版権者として出版権を有する (同法80条)。 2 争点(2)(翻案権侵害の成否)について (1)一般に、言語の著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現の本 質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに 思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上 の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい、既存の 著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事 件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物 と同一性を有するにすぎない場合には翻案に当たらないと解するのが相当である(最高 裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第1小法廷判決・民集55巻4号8 37頁参照)。  そして、本件著作物は丙の著作に係る原著作物の二次的著作物(著作権法2条1項1 1号)に当たるところ、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与さ れた創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通する部分には生じないと解するのが 相当である(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第1小法廷判決・民 集51巻6号2714頁参照)。 (2)上記(1)によれば、債務者書籍が債権者甲の著作権を侵害するか否かは、債務 者書籍の具体的な表現から本件著作物において新たに付与された創作的な表現部分の本 質的な特徴を感得できるかどうかによることになる。  そこで、債権者らが債務者らが本件著作物を翻案した根拠として指摘する部分につい て、著作権侵害が認められるか否かを具体的に検討する。 ア〔1〕表紙  表紙に記載されている内容は書名及び著者名であるが、丙が原著作物を著作したこと は事実であり、書名はそれ自体著作権の対象となるものではないから、これらについて 著作権侵害は成立しない。また、表紙及び前書きに続く部分で裏話として物語の内容の 特色を指摘している点についても、「裏話によれば」という形で語り手が物語の内容を 語るという記述形式はありふれたものであって、創作性を有しないから、債務者書籍の これに類似する記載部分は翻案に当たらない。 イ〔2〕全体の構成及び第1部に相当する「ある集まり」の場面設定  債権者らの指摘する事実のうち、本件著作物と債務者書籍がともに3部構成をとって いること、第1部に相当する「ある集まり」の章の場面設定が地方都市出身者の久々の 同窓会であり、そこである本が話題になって、語り手がその内容を他の出席者に聞かせ る点において共通すること自体は、原著作物に由来するものであって、本件著作物にお いて新たに付与された創作的部分に当たらないから、これにつき著作権侵害は成立しな い。  他方、「ある集まり」の章を構成する具体的な表現のうち、少なくとも次の部分は本 件著作物による創作的な表現部分であると認められる。 (ア)「確かにね」ネイサンも言った。(13頁7行目) (イ)「どんなふうに?」ネイサンが聞いた。(14頁12行目) (ウ)「それで、たちまち物事がうまくいくようになったんだ、仕事でも生活でも。」 (15頁3行) (エ)「小学校で聞かされるような話」(15頁5行)  そして、債務者書籍におけるこれらに対応する表現部分は、上記の本件著作物の各表 現部分に類似し、かつ本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる ものと認められる。 (オ)「たしかにね」健二も言った。(17頁8行目) (カ)「どんなふうに?」好子が聞いた。(18頁14行目) (キ)「それからは、たちまち物事がうまくいくようになったんだ。仕事でも生活でも」 (19頁3行) (ク)「まるで子供向けの物語」(19頁6行)  したがって、上記の限度では、債務者書籍は本件著作物を翻案したものということが できる。 ウ〔3〕本編のストーリー設定  債権者らの指摘する、登場人物の構成及び数、登場人物がものを生産しないで探し回 っているという設定自体は、原著作物に由来するものであって、本件著作物において新 たに付与された創作的部分に当たらないから、著作権侵害は成立しない。  また、この章における本件著作物の具体的な表現と債務者書籍の表現を対比した場合 に、創作性のある表現部分につき類似性は認められないから、著作権の侵害は成立しな い。 エ〔4〕ものを発見する場面  債権者らの指摘する、探し続けていたものが探していた場所で発見されたという設定、 登場人物が朝早く起きて、同じ道を通って見つけた場所に通うことが日課になったとい うこと、毎日ごちそうに舌鼓を打っているということ自体は、原著作物に由来するもの であって、本件著作物において新たに付与された創作的部分に当たらないから、これに つき著作権侵害は成立しない。  他方、この場面を構成する具体的な表現のうち、少なくとも次の部分は本件著作物に よる創作的な表現部分であると認められる。 (ア)それでも、スニッフとスカリーも、ヘムとホーも、とうとうそれぞれ自分たちの やり方で探していたものをみつけた。(21頁13行目) (イ)それからは毎朝、ネズミも小人もチーズ・ステーションCに向かった。(22頁 1行目) (ウ)ヘムとホーも初めは毎朝、チーズ・ステーションCに急ぎ、新しい美味なごちそ うに舌つづみを打った。(22頁6行目)  そして、債務者書籍におけるこれらに対応する表現部分は、上記の本件著作物の各表 現部分に類似し、かつ本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる ものと認められる。 (エ)それでも、ある日、彼らはとうとう探していたものを見つけた。(27頁1行目) (オ)それからは毎日、キツネもネコもそのペンションに向かった。(28頁1行目) (カ)タマとミケもはじめのうちは毎朝、池のほとりのペンションに急ぎ、久々にあり ついたごちそうに舌鼓を打った。(28頁6行目)  したがって、上記の限度では、債務者書籍は本件著作物を翻案したものということが できる。 オ〔5〕引っ越しの話  債権者らの指摘する、登場人物が次第に早起きをやめて、のんびりするようになった ということ、どのみち、ものがある場所も行く方法も分かっているとしていること、そ れが自分たちに与えられたものであると思い込み、ものがある場所の近くに引っ越して きたということ自体は、原著作物に由来するものであって、本件著作物において新たに 付与された創作的部分に当たらないから、これにつき著作権侵害は成立しない。  他方、この場面を構成する具体的な表現のうち、少なくとも次の部分は本件著作物に よる創作的な表現部分であると認められる。 (ア)どのみちチーズがある場所も行く道もわかっているのだ。(23頁2行目) (イ)チーズがどこから来るのか、誰が置いていくのかはわからなかった。ただそこに あるのが当然のことになっていた。(23頁3行目)  そして、債務者書籍におけるこれらに対応する表現部分は、上記の本件著作物の各表 現部分に類似し、かつ本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる ものと認められる。 (ウ)どのみちバターのある場所も行き方もわかっているのだし、(28頁9行目) (エ)バターがどこからくるのか、だれが置いていくのかはわからなかった。ただそこ にあるのが当然のことになっていた。(29頁1行目)  したがって、上記の限度では、債務者書籍は本件著作物を翻案したものということが できる。 カ〔6〕消失と疑い  債権者らの指摘する、チーズ又はバターが少しづつなめていることで消えたというこ と、登場人物がそのことに気づかないこと、次に姿の見えない他の仲間を疑い始めるこ とそれ自体は、原著作物に由来するものであって、本件著作物において新たに付与され た創作的部分に当たらないから、これにつき著作権侵害は成立しない。  他方、この場面を構成する具体的な表現のうち、少なくとも次の部分は本件著作物に よる創作的な表現部分であると認められる。 (ア)事態は変わっていなかった。チーズはなかった。(31頁3行目) (イ)「それはそうと、スニッフとスカリーはどこにいったんだろう?あいつら、われ われの知らないことを知ってるんじゃないだろうか?」(31頁11行目)  そして、債務者書籍におけるこれらに対応する表現部分は、上記の本件著作物の各表 現部分に類似し、かつ本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる ものと認められる。 (ウ)事態は変わっていなかった。バターはそこにはなかった。(37頁3行目) (エ)「ところでマイケルとジョニーはどこにいったんだろう?あいつら、バターがな くなったことについてなにか知ってるかも……」(37頁10行目)  したがって、上記の限度では、債務者書籍は本件著作物を翻案したものということが できる。 キ〔7〕展開  債権者らの指摘する、一方の登場人物である小人又はネコがチーズ又はバターが無く なったことを嘆いている間に、他方の登場人物であるネズミ又はキツネが探し求めてい た大量のチーズ又はバターを発見し、残された者たちも、やがて無くなったものを探し に行こうと決意するという物語の展開自体は、原著作物に由来するものであって、本件 著作物において新たに付与された創作的部分に当たらないから、これにつき著作権侵害 は成立しない。  他方、この場面を構成する具体的な表現のうち、少なくとも次の部分は本件著作物に よる創作的な表現部分であると認められる。 (ア)彼らのところにはまだチーズがあるのだろうかと思った。彼らも厳しい事態にな って、あてもなく迷路を走りまわっているのかもしれない。でも、それもやがては好転 するに違いない。(34頁4行目) (イ)スニッフとスカリーが新しいチーズをみつけ、たらふく食べているのではないか と思うこともあった。自分も迷路へ冒険に出かけ、新鮮な新しいチーズをみつけられた らどんなにいいだろう。そのときのことが目に見えるようだ。(34頁7行目) (ウ)新しいチーズをみつけて味わっているところを想像するにつけ、ホーは、チーズ ・ステーションCを離れなければと思った。 「出かけよう!」ふいに、彼は叫んだ。(34頁10行目)  そして、債務者書籍におけるこれらに対応する表現部分は、上記の本件著作物の各表 現部分に類似し、かつ本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる ものと認められる。 (エ)彼らのところにはまだバターがあるのだろうか。はたまた、彼らもきびしい事態 になって、あてもなく森を走りまわっているのだろうか。でも、それもやがてはうまく いくにちがいない。(46頁2行目) (オ)マイケルとジョニーが新しいバターを見つけ、たらふく食べているのではないか と思うこともあった。自分も森に出かけ、新鮮なバターを見つけられたらどんなにいい だろう。そのときの自分が目に見えるようだった。(46頁5行目) (カ)新しいバターを見つけて味わっている自分を想像するにつけ、ミケは、なんとし てもここを離れなければという気になった。 「出かけよう!」ふいに、彼は叫んだ。(46頁7行目)  したがって、上記の限度では、債務者書籍は本件著作物を翻案したものということが できる。 ク〔8〕探索  債権者らが指摘する、残された者がすぐに飛び出すのではなく周りを探し求めるとい うこと、その作業を何日も繰り返すこと、最後にはその無意味さにようやく気づくとい うこと自体は、原著作物に由来するものであって、本件著作物において新たに付与され た創作的部分に当たらないから、これにつき著作権侵害は成立しない。  他方、この場面を構成する具体的な表現のうち、少なくとも「ホーは、勤勉に働いて も成果があがるとは限らないことがわかってきた。」(36頁8行目)という部分は本 件著作物による創作的な表現部分であると認められる。そして、債務者書籍のこれに対 応する表現部分である「ミケは、ただがむしゃらに動きまわっても成果があがるとはか ぎらないことがわかった。」(48頁10行目)という部分は、本件著作物の上記表現 部分に類似し、かつ本件著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるも のと認められる。  したがって、この限度では債務者書籍は本件著作物を翻案したものということができ る。ケ〔9〕第3部に相当する「話の後の集まり」の場面設定  債権者らが指摘する、語り手が物語を話し終わると、周りで聴いていた者たちの表情 が和らぎ、微笑んでいたという設定、後で話をしようという提案に多くの者が賛成し、 その場は散会したという設定自体は、原著作物に由来するものであって、本件著作物に おいて新たに付与された創作的部分に当たらないから、これにつき著作権侵害は成立し ない。  また、この章における本件著作物の具体的な表現と債務者書籍の表現を対比した場合 に、創作性のある表現部分につき類似性は認められないから、著作権の侵害は成立しな い。 (3)そして、上記(2)の翻案が認められる表現部分の中には、表現が全く同一のも のや登場人物の名前ないしチーズかバターかが違うだけでその他の表現が同じ部分が少 なからず存在すること、債務者書籍中には「最近、世界中の人が感動した一冊の本があ ります。ここに、その話に似ているようで、よく読むと、まったく異なる一つの物語が あります。」(表紙の扉部分)、「なにやら似たような話が世の中に出まわっておると 聞いて、」(7頁6行目)といった本件著作物の存在を意識した記載があること(疎甲 2の1)からすれば、債務者書籍が本件著作物に依拠していることは明らかである。  したがって、以上を総合すると、債務者書籍は、上記(2)で挙げた具体的な表現部 分において、債権者甲の本件著作物についての著作権(翻案権)を侵害するものと認め られる。 3 争点(3)(パロディーとして許される表現行為といえるか)について (1)一般に、先行する著作物の表現形式を真似て、その内容を風刺したり、おもしろ おかしく批評することが、文学作品の形式の一つであるパロディーとして確立している。 パロディーは、もとになる著作物の内容を踏まえて、これを批判等するものであるから、 もとになる著作物を離れては成立し得ないものであり、内容的にも読者をしてもとにな る著作物の思想感情を想起させるものである。しかし、パロディーという表現形式が文 学において許されているといっても、そこには自ずから限界があり、パロディーの表現 によりもとの著作物についての著作権を侵害することは許されないというべきである。 (2)これを本件についてみるに、本件著作物と債務者書籍のそれぞれの内容を比べる と、本件著作物は、仕事や生活の場で変化に直面したときに、変化に素早く適応し、従 来のやり方には固執せず、進んで自分自身を変えなければ、事態は好転しないと説く内 容であるのに対して、債務者書籍は、変化で失ったものに代わる何かを追い求め、必死 に前進しなければという焦燥感から自分を見失うことの無意味さを訴え、何となく感じ る日常の幸せを大事にしようと説く内容であることが認められる(疎甲1の1、2の1)。  以上によれば、債務者書籍は本件著作物を前提にして、その説くところを批判し、風 刺するものであって、債務者らの主張するとおりパロディーであると認められるが、前 記2でみたとおり、債務者書籍は、本件著作物とテーマを共通にし、あるいはそのアン チテーゼとしてのテーマを有するという点を超えて債権者甲の本件著作物についての具 体的な記述をそのままあるいはささいな変更を加えて引き写した記述を少なからず含む ものであって、表現として許される限界を超えるものである。 (3)債務者らは、憲法で保障されている表現の自由の一つの行使態様として債務者ら が債務者書籍を出版することは許される旨主張する。しかし、表現の自由といえども公 共の福祉との関係、本件でいえば他者の著作権との関係での制約を免れることはできず、 しかも債務者らとしては債権者甲の著作権を侵害することなく本件著作物の内容を風刺、 批判する著作物を著作することもできたのであるから、上記のように解したとしても不 当にパロディーの表現をする自由を制限するものではない。債務者らの主張は理由がな い。 4 争点(4)(出版権の侵害)について  出版権者は、著作権者との間の契約で定めるところにより、頒布の目的をもって、そ の出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文 書又は図画として複製する権利を専有する(著作権法80条)。  本件において、前記1で認定したとおり、債権者扶桑社は債権者甲との間の契約によ り本件著作物の出版権を取得したが、その内容は本件著作物を原作のまま印刷し文書と して複製するというものである。  他方、債務者道出版の出版に係る債務者書籍は、前記2で認定したとおり本件著作物 を翻案した部分を含むものであるが、本件著作物の複製物でないことは明らかである (疎甲1の1、2の1)。  したがって、債権者扶桑社の出版権侵害を理由とする申立ては、理由がない。 5 争点(5)(編集著作権の侵害)について  編集著作物といえるためには、当該著作物が素材の選択又は配列によって創作性を有 するものであることが必要である(著作権法12条1項)。  本件で、債権者扶桑社が編集著作権の侵害として主張する内容のうち、表紙の装丁編 集については、外国の書籍を翻訳した出版物に一般的にみられるもので創作性は認めら れない。イラストの配色、書籍の大きさについても本件著作物に特有のものではなく、 創作性は認められない(なお、イラスト自体は創作性の認められる著作物に当たるが、 その内容は編集著作権の対象となるものではないし、また、債務者書籍のイラストが本 件著作物のイラストに類似するとも認められない。)。さらに、その他外形的に類似す るという点についても、編集著作物としての創作性を認めることはできない。  したがって、債権者扶桑社の編集著作権の侵害を理由とする申立ては、理由がない。 6 争点(6)(保全の必要性)について  前記第2の1(3)の事実及び審尋の全趣旨によれば、債務者書籍は日本全国で販売 されており、しかも多くの書店では本件著作物と並べて展示されていることが認められ る。そして、本件仮処分手続において、債務者らが著作権侵害の事実を争っていること に照らすと、本案訴訟の提起及びその確定を待っていては、債権者甲に回復し難い損害 が生ずるおそれがあるものと認められるから、保全の必要性はこれを肯定するべきであ る。 7 債務者乙に対する申立てについて  疎明資料及び審尋の全趣旨によっても、債務者乙について、債務者書籍の発行者の欄 に氏名が記載されていること以外に、債務者道出版の代表者としての立場を超えて、個 人として同債務者による債務者書籍の出版に関与したことをうかがわせるに足る疎明は ない。  したがって、債権者甲の債務者乙に対する申立ては、理由がない。 8 まとめ  以上によれば、本件の各申立てのうち、債権者甲の債務者道出版に対する債務者書籍 の販売等の差止めを求める申立ては理由があるが(債務者書籍の廃棄を求める申立てに ついては保全の必要性が認められない。)、債権者甲の債務者乙に対する申立て及び債 権者扶桑社の申立ては理由がない。  よって、債権者甲に金1200万円の担保を立てさせて、主文のとおり決定する。 平成13年12月19日 東京地方裁判所民事第46部 裁判官 和久田道雄