・東京高判平成14年1月30日判時1782号109頁  「角瓶」商標事件  原告(サントリー株式会社)は、「角瓶」の文字を左横書きしてなる商標につき、指 定商品を第33類「ウイスキー」として商標登録出願をした(商願平6−48572号) が拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判の請求をし、その後、指定商品を同 類「角型瓶入りのウイスキー」と補正した。特許庁は、本願商標は、指定商品の品質、 形状を表示するにすぎないので、商標法3条1項3号に該当し、また、同条2項所定の 要件を具備していると認めることもできないとして、審判請求について不成立の審決を した。これに対して、原告は、審決が本願商標が商標法3条2項に該当しないとした判 断は誤っているとして、審決取消し訴訟を提起した。  判決は、「需要者において、上記商標が使用された本件製品が原告の業務に係る商品 であることを認識することができるに至っているものと認めることができる」として、 原告の請求を認容して特許庁の審決を取り消した。 ■判決文  「出願に係る商標が、指定商品の品質、形状を表示するものとして商標法3条1項3 号に該当する場合に、それが同条2項に該当し、登録が認められるかどうかは、使用に 係る商標及び商品、使用開始時期及び使用期間、使用地域、当該商品の販売数量等並び に広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して、出願商標が使用をされた結果、需要者が なんぴとかの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるかど うかによって決すべきものであり、その場合に、使用に係る商標及び商品は、原則とし て出願に係る商標及び指定商品と同一であることを要するものというべきである。そし て、同条1項3号により、指定商品の品質、形状を普通に用いられる方法で表示する標 章のみからなる商標が、本来は商標登録を受けることができないとされている趣旨は、 そのような商標が、商品の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表 示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占的使用を 認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、 多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることに よることにかんがみれば、上記の場合に、使用商標が出願商標と同一であるかどうかの 判断は、両商標の外観、称呼及び観念を総合的に比較検討し、全体的な考察の下に、商 標としての同一性を損なわず、競業者や取引者、需要者等の第三者に不測の不利益を及 ぼすおそれがないものと社会通念上認められるかどうかを考慮して行うべきものと解す るのが相当である。」  「以上の各事実を総合すれば、本願商標と同一と認められる商標が、原告により、遅 くとも昭和28年ころから審決時に至るまで、新聞、雑誌の広告及びテレビコマーシャ ル等において、相当量が販売されている本件製品につき我が国のほぼ全域にわたって多 数回使用されており、その使用の結果、需要者において、上記商標が使用された本件製 品が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至っているものと認め ることができる。  このような事実に照らして、審決が、「『角瓶』の文字は、請求人(注、原告)の代 表的な出所表示機能を有する著名なハウスマークである『サントリー』と常に結びつい て使用されているものといわなければならない。してみると、『角瓶』という表示は、 それ単独で多くの銘柄のウイスキーの中の特定のウイスキーを示す商標として使用され ているということができない」(審決謄本5頁10行目〜15行目)、「『角瓶』の文 字についても・・・本願商標と使用に係る標章とは同一であることは、認められない」 (同頁23行目〜30行目)と認定判断したことは誤りというべきであり、この瑕疵が 審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れな い。」