・東京高判平成14年1月31日判時1815号123頁  エアガン純正部品事件:控訴審  判決は、控訴人商品の形態について、「同種商品が通常有する形態であるとはいえ ない」ものかどうかを個別に検討し、一部について肯定し、さらに被控訴人がこれを 模倣したことを肯定し、そのかぎりで原審判決を取り消し、控訴人による損害賠償請 求を認容した。 (第一審:東京地判平成11年2月25日) ■評釈等 諏訪野大・判例時報1843号206頁 ■判決文 1 「(1) 法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡行為等を他人 の商品が最初に販売された日から3年間に限って不正競争行為とする一方で、その括 弧書きにおいて、当該他人の商品と同種の商品(同種の商品がない場合にあっては、 当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態は、同号 による保護の対象から除外される旨を規定している。「事業者間の公正な競争及びこ れに関する国際約束の的確な実施を確保」して「もって国民経済の健全な発展に寄与 することを目的とする。」(1条)というその目的に鑑みれば、法は、開発に時間も 費用もかけず、先行投資した他人の商品形態を模倣した商品を製造販売して、投資に 伴う危険負担を回避しつつ、市場に参入しようとすることは、公正とはいえないこと に着目し、上記規定により、そのような行為を不正競争行為として禁ずることにした ものと解するのが相当である。  他方、当該他人の商品と同種の商品(同種の商品がない場合においては、当該他人 の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態をも、法2条1 項3号による保護の対象としたならば、上記同種の商品が通常有する形態のすべてを、 通常有する形態であるにもかかわらず、特定の者に独占させることとなる。「商品が 通常有する形態」とは、当該商品のものとして、ありふれた形態、又は、その商品と しての機能及び効用を果たすために不可避的に採用しなければならない形態を意味す るものと解するのが相当であり、このような形態は、それがありふれた形態であると きは、その採用に困難を伴うことのないものであるために保護の必要性に乏しいこと に加えて、そうではないときであっても、このような形態を特定の者に独占させるな らば、後発の者が、同種の商品を製造販売できなくなるおそれがあり、複数の商品が 市場で競合することを前提としてその競争のあり方を規制しようとする法の趣旨に反 することになるので、法は、上記の意味で、同種商品が通常有する形態を、保護の対 象から除外したものと解するのが相当である。そして、法が「同種の商品が通常有す る形態」を同号による保護の対象から除外したのが上記のような理由であるとすると、 保護の対象から除外すべきか否かを判断する際の要件の一つとなる「同種の商品」と して何をとらえるかに当たっては、模倣を主張する者の競争者(本件においては被控 訴人ら)に対してどの範囲において商品の製造販売の自由を保障しなければならない かが、判断要素として重要なものになるというべきである。「同種の商品」としての 機能及び効用を果たすために不可欠に採用しなければならない形態であることを理由 に、模倣することを認め、同号の保護の対象から外すことが是認されるためには、そ の「同種の商品」の製造販売が、公正な競争行為として保障されるべきであるという ことが、その前提として認められなければならないからである。」 「(4) 被控訴人らは、控訴人商品の形態は、いずれも、商品の性質上、一義的に決ま るものであるから、法2条1項3号の同種商品が「通常有する形態」に該当する、あ るいは、商品の機能を確保するために不可欠な形態は、法2条1項3号の同種商品が 「通常有する形態」に該当する旨主張する。 (ア) 控訴人エアソフトガンの部品を製造しようとする場合、その部品は、控訴人 エアソフトガンの関連する他の部品と組み合わされなければならない必要上、控訴人 エアソフトガンの当該部品の基本的形態を踏襲せざるを得ないことが多いことが予想 され、その意味で、部品の形態が一義的に決まっており、選択の余地がないというこ とは十分にあり得ることである。しかし、そうであるからといって、当該部品の形態 が、その商品としての機能及び効用を果たすために不可避的に採用しなければならな い形態であるとして、「同種商品が通常有する形態」に該当するということはできな いというべきである。なぜならば、模倣者は、控訴人エアソフトガンに着目し、その 部品を製造するという選択をしたからこそ、上記のように、控訴人エアソフトガンの 当該部品の特徴ある形態を不可避的に採用しなければならなくなっているのであり、 模倣者による控訴人エアソフトガンの部品の特徴ある形態の模倣は、上記選択による 必然的な結果の一つであるということができ、このような選択をする自由を、特徴あ る形態の部品の保護を犠牲にしてまで、自由競争の名の下に保障することが、法の目 的に適うとは考えられないからである。模倣者は、これを避けるためには、控訴人エ アソフトガンの特徴ある形態の部品の製造をやめ、例えば、控訴人以外の者のエアソ フトガンの、保護に値する特徴を有さない部品の製造販売をするなり、自らの創意工 夫により、控訴人エアソフトガンとは異なった形態の遊技銃及びその部品を考案する などすべきであり、それは、控訴人エアソフトガンが同種商品が通常有する形態のも のではないことからすれば、十分に可能なことというべきである。」 2 「法2条1項3号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねて、 これと全く同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいうものであり、こ こに「商品の形態」とは、商品の形状、模様、色彩、光沢などといった外観上認識す ることができるものの総体をいうものであり、また、実質的に同一であるとは、社会 通念上、需要者がそっくりだと認識し得るほどに客観的に酷似していることをいうも のと解するのが相当である。全く同一の形態の商品のみではなく、上記の意味で実質 的に同一である商品を対象に加えるのは、前述したとおり、法2条1項3号が、開発 に時間も費用もかけず、先行投資した他人の商品形態を模倣した商品を製造販売して、 投資に伴う危険負担を回避して市場に参入しようとすることは、公正とはいえないこ とに着目して、そのような行為を不正競争行為として禁ずることにしたものと解する ならば、問題とされる商品の形態に、既に存在する他人の商品の形態と相違するとこ ろがあっても、その相違がわずかな改変に基づくものであって、酷似していると評価 できるような場合には、実質的に同一の形態であるとして、これを同一の場合と同じ に扱うのが、合理的であるというべきであるからである。」