・最判平成14年2月22日  「ETNIES」商標事件:上告審。  本件は、商標法4条1項19号該当を理由として、本件登録商標に係る商標登録を 無効にすべきとした審決に対する事案について、判決は、商標権の共有者の1人は、 当該商標登録の無効審決がされたときは、単独でその取消訴訟を提起することができ るとして、本件審決の取消請求を棄却した原審判決を取り消して原審に差し戻した事 例。 ■判決文  (1) 商標登録出願により生じた権利が共有に係る場合において、同権利につい て審判を請求するときは、共有者の全員が共同してしなければならないとされている が(商標法56条1項の準用する特許法132条3項)、これは、共有者が有するこ ととなる1個の商標権を取得するについては共有者全員の意思の合致を要求したもの である。これに対し、いったん商標権の設定登録がされた後は、商標権の共有者は、 持分の譲渡や専用使用権の設定等の処分については他の共有者の同意を必要とするも のの、他の共有者の同意を得ないで登録商標を使用することができる(商標法35条 の準用する特許法73条)。  ところで、いったん登録された商標権について商標登録の無効審決がされた場合に、 これに対する取消訴訟を提起することなく出訴期間を経過したときは、商標権が初め から存在しなかったこととなり、登録商標を排他的に使用する権利が遡及的に消滅す るものとされている(商標法46条の2)。したがって、上記取消訴訟の提起は、商 標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるから、商標権の共有者の1人が単独でもすること ができるものと解される。そして、商標権の共有者の1人が単独で上記取消訴訟を提 起することができるとしても、訴え提起をしなかった共有者の権利を害することはな い。  (2) 無効審判は、商標権の消滅後においても請求することができるとされてお り(商標法46条2項)、商標権の設定登録から長期間経過した後に他の共有者が所 在不明等の事態に陥る場合や、また、共有に係る商標権に対する共有者それぞれの利 益や関心の状況が異なることからすれば、訴訟提起について他の共有者の協力が得ら れない場合なども考えられるところ、このような場合に、共有に係る商標登録の無効 審決に対する取消訴訟が固有必要的共同訴訟であると解して、共有者の1人が単独で 提起した訴えは不適法であるとすると、出訴期間の満了と同時に無効審決が確定し、 商標権が初めから存在しなかったこととなり、不当な結果となり兼ねない。  (3) 商標権の共有者の1人が単独で無効審決の取消訴訟を提起することができ ると解しても、その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には、その取消しの効力は 他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項)、再度、特許庁で共有者全員との 関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法181条 2項)。他方、その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には、他の共有者の出訴期 間の満了により、無効審決が確定し、権利は初めから存在しなかったものとみなされ ることになる(商標法46条の2)。いずれの場合にも、合一確定の要請に反する事 態は生じない。さらに、各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には、 これらの訴訟は、類似必要的共同訴訟に当たると解すべきであるから、併合の上審理 判断されることになり、合一確定の要請は充たされる。  (4) 以上説示したところによれば、商標権の共有者の1人は、共有に係る商標 登録の無効審決がされたときは、単独で無効審決の取消訴訟を提起することができる と解するのが相当である。