・大阪地判平成14年3月12日  熊崎式姓名学事件。  本件は、「熊崎式姓名学」の創始者である訴外人の子であり書籍「新姓名の神秘」 の著作者でもある原告らが、被告(住友生命保険相互会社)に対して、被告が「ネー ムウォッチング」と題するパンフレットを発行し、「コンピュータ姓名判断ソフトウ エア」のCD−ROMを利用しているのに対し、原告著作物に記載された「姓名判断 鑑定図形」は図形の著作物」(著作権法10条1項6号)に該当であり複製権および 翻案権を侵害した、文字表現(「天格・人格・地格・総格・外格」)について、複製 権および同一性保持権を侵害したなどと主張して、損害賠償、差止、および謝罪広告 を請求した。  判決は、「原告図形は、熊崎式姓名判断法という姓名判断の方法又はアイデアその ものを記載した極めて単純な図式であって、このような図形は、それ自体では、熊崎 式姓名判断法に基づく限り、誰が作成しても同様の表現になるといわざるを得ない」 などとして著作物性を否定し、原告の請求を棄却した。 ■判決文 (1) 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、 美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)ところ、「創作 的」とは、何らかの知的活動の成果であって、思想又は感情を表現する具体的形式に 作成者の個性が現れたものであれば足り、厳格な意味で独創性の発揮されたものであ ることは必要ないが、アイデアそれ自体は著作権法による保護の対象とはならないし、 データや事実を機械的に記載したにすぎないもの、誰が作成しても同様の表現となる ようなありふれた表現のものは、創作性を欠き、著作権の保護の対象である著作物た り得ないというべきである。 (2) 原告図形は、別紙図形目録にあるとおり、@人の姓名を縦書きする、A姓を構 成する2文字の右側を括弧で結び、「天格」又は「天」の文字を付す、B姓の一番下 の文字と名の一番上の文字の右側を括弧で結び、「人格」又は「人」の文字を付す、 C名の一番上と一番下の文字の右側を括弧で結び、「地格」又は「地」の文字を付す、 D姓の一番上の文字と名の一番下の文字(名が3文字の場合は下2文字)の左側を括 弧で結び、「外格」又は「外」の文字を付す、E姓名の下に横線を引いてその下に 「総格」の文字を付し、又は姓名の下に「総」の文字を付すという構成からなり、原 告著作物で紹介されている「天・人・地・総・外」の五格を構成する字画数によって 姓名判断を行う「熊崎式姓名学」による姓名判断の方法(以下「熊崎式姓名判断法」 という。)を図で示したものといえる。そうすると、原告図形は、熊崎式姓名判断法 という姓名判断の方法又はアイデアそのものを記載した極めて単純な図式であって、 このような図形は、それ自体では、熊崎式姓名判断法に基づく限り、誰が作成しても 同様の表現になるといわざるを得ないから、「地図又は学術的な性質を有する図面、 図表その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)に該当するものではなく、 「思想又は感情を創作的に表現したもの」とはいえない。 (3) 以上によれば、原告図形は著作権法の保護の対象となる著作物に当たらないか ら、原告図形が著作物であることを前提とする請求原因(3)は、その余について判断す るまでもなく理由がない。