・東京地判平成14年3月26日  「古河市兵衛の生涯」事件:第一審  本件は、被告Aが被告書籍『運鈍根の男 古河市兵衛の生涯』中の記述が原告(株 式会社日本経済新聞社)新聞記事(1999年5月10日付け朝刊)「20世紀 日 本の経済人R挑戦編『伊庭貞剛』」を名誉声望を毀損する方法で利用した、又は原告 の名誉を毀損したとして、被告らに対して、主位的に著作者人格権に基づき、予備的 に名誉毀損による不法行為を理由として、被告晶文社に対して、被告書籍の頒布等の 禁止、被告書籍の回収廃棄を求めるとともに、被告らに対して、謝罪広告の掲載及び 損害賠償の支払を求める事案である。  判決は、「他人の言動、創作等について意見ないし論評を表明する行為がその者の 客観的な社会的評価を低下させることがあっても、その行為が公共の利害に関する事 実に係り専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、意見ないし論評の前提となっ ている事実の主要な点につき真実であることの証明があるときは、人身攻撃に及ぶな ど意見ないし論評としての域を逸脱するものでない限り、名誉毀損としての違法性を 欠くと解される(最高裁判所平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12 号2252頁、平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。 そして、意見ないし論評が他人の著作物に関するものである場合には、上記著作物の 内容自体が意見ないし論評の前提となっている事実に当たるから、当該意見ないし論 評における他人の著作物の引用紹介が全体として正確性を欠くものでなければ、前提 となっている事実が真実でないとの理由で当該意見ないし論評が違法となることはな いものと解すべきである(最高裁判所平成10年7月17日第二小法廷判決・最高裁 判所裁判集民事189号267頁参照)。そして、以上の法理により意見ないし論評 が名誉毀損とならない場合は著作権法113条5項が規定する名誉声望毀損行為も成 立しないものというべきである」としたうえで、本件記述は、「名誉毀損としての違 法性を欠くものと解され、著作権法113条5項が規定する名誉声望毀損行為も成立 しないものというべきである」として原告の請求を棄却した。 (控訴審:東京高判平成14年11月27日)