・東京地決平成14年4月11日判時1780号25頁  ファイルローグ事件:仮処分(平成14年(ヨ)22010号)  債務者(有限会社日本エム・エム・オー)が運営するインターネット上の電子ファイ ル交換サービスにおいて、債権者(社団法人日本音楽著作権協会)が著作権を有する音 楽著作物をMP3形式で複製した電子ファイルが、債権者の許諾を得ることなく交換さ れていることに関して、債権者が、上記電子ファイル交換サービスを提供する債務者の 行為は、債権者の有している著作権(複製権、自動公衆送信権、送信可能化権)を侵害 すると主張して、上記電子ファイルの送受信の差止めを求めた事案。  判決は、以下のような主文により差止の仮処分を命じた。 ■主 文  債権者が本決定送達後7日以内に金5000万円の担保を立てることを条件として、 債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファ イル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって 複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利 用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙楽曲リ ストの「原題名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文 字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「アーティスト」欄記載の文字(漢字、 ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。 姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利 用者に送信してはならない。 ■評釈等 横山経通・NBL736号6頁(2002年) 作花文雄・コピライト498号34頁(2002年) 早稲田祐美子・法律のひろば2002年6月号40頁 ■判決文 第3 当裁判所の判断  1 争点(1)ア(著作権の直接侵害の成否)について (1) 利用者の著作権侵害の有無(前提問題)  債務者は、本件サービスを運営して、MP3形式によって複製され、かつ、送受信可 能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示すファイル情報を受信者に送信す るなどしているが、債務者の同行為は、送信可能化権を直接的に侵害する行為といえる か否かについて判断する。  まず、その前提として、送信者が行う複製行為、自動公衆送信行為及び送信可能化行 為が、それぞれ、複製権侵害、自動公衆送信権侵害、送信可能化権侵害を構成するかに ついて検討する。  ア 送信者の行う複製行為と複製権侵害の有無  (ア) 楽曲を演奏し、その演奏を録音した音楽CDは当該楽曲の複製物である(法2 条1項15号、同13号)。また、音楽CDのMP3形式へ変換する行為は、聴覚上の 音質の劣化を抑えつつ、デジタル信号のデータ量を圧縮するものであり、変換された音 楽CDと変換したMP3形式との間には、内容において実質的な同一性が認められるか ら、レコードの複製行為ということができる。したがって、音楽CDをMP3形式で複 製することは、同音楽CDに複製された楽曲の複製行為である。  ところで、利用者が、パソコンの共有フォルダに蔵置するMP3ファイルは、@利用 者が、自らパソコンで音楽CDをMP3ファイルに変換する場合、A他の者が音楽CD から変換したMP3ファイルを何らかの方法で取得する場合、B利用者が、他の者が音 楽CDから変換したMP3ファイルを、本件サービスを利用して受信する場合が想定さ れるが、前記のとおり、音楽CDをMP3形式で複製することは、同音楽CDに複製さ れた楽曲の複製行為に当たるのであるから、上記@ないしBの場合のいずれにの場合で あっても、利用者がMP3ファイルを自己のパソコンの共有フォルダに蔵置することは、 当該MP3ファイルの元となった音楽CDに複製された楽曲の複製行為に該当する(法 2条1項15号)。  (イ) 法30条1項は、著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた 範囲内において使用すること(私的使用)を目的とするときは、使用する者が複製する ことができる旨を規定している。また、法49条1項1号は、法30条1項に定める目 的以外の目的のために、当該レコードに係る音を公衆に提示した者は複製を行った者と みなす旨を規定している。  そうすると、@利用者が、当初から公衆に送信する目的で、音楽CDをMP3形式の ファイルへ変換した場合には、法30条1項の規定の解釈から当然に、また、A当初は、 私的使用目的で複製した場合であっても、公衆が当該MP3ファイルを受信して音楽を 再生できるような状態にした場合には、当該複製物により当該著作物を公衆に提示した ものとして、法49条1項1号の規定により、複製権侵害を構成する。  以上のとおり、本件サービスの利用者が、本件各管理著作物の著作権を有する債権者 の許諾を得ることなく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに置いて債務 者サーバに接続すれば、複製をした時点での目的の如何に関わりなく、本件各管理著作 物について著作権侵害(複製権侵害又はそのみなし侵害のいずれか)を構成する。  イ 送信者の行う自動公衆送信行為及び送信可能化行為と自動公衆送信権侵害及び送 信可能化権侵害の有無  (ア) 前記前提事実のとおり、本件サービスは、ユーザー名及びパスワードを登録す れば誰でも利用できるものであり、既に4万人以上の者が登録し、平均して同時に約3 40人もの利用者が債務者サーバに接続して電子ファイルの交換を行っている。そして、 送信者が、電子ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して、本件クライアントソフ トを起動して債務者サーバに接続すると、送信者のパソコンは、債務者サーバにパソコ ンを接続させている受信者からの求めに応じ、自動的に上記電子ファイルを送信し得る 状態となる。  したがって、電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま債務者サーバに接続して上 記状態に至った送信者のパソコンは、債務者サーバと一体となって情報の記録された自 動公衆送信装置(法2条1項9号の5イ)に当たるということができ、また、その時点 で、公衆の用に供されている電気通信回線への接続がされ、当該電子ファイルの送信可 能化(同号ロ)がされたものと解することができる。  さらに、上記電子ファイルが受信側パソコンに送信された時点で同電子ファイルの自 動公衆送信がされたものと解することができる。  なお、本件各MP3ファイルは、その内容において、本件各管理著作物と実質的に同 一であるから、本件各MP3ファイルを送信可能化及び自動公衆送信することは本件各 管理著作物を送信可能化及び自動公衆送信することに当たる。  (イ) 以上によれば、本件サービスの利用者が、本件各管理著作物の著作権の管理者 である債権者の許諾を得ることなく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダ に置いて債務者サーバに接続すれば、本件各管理著作物について、著作権侵害(自動公 衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)を構成する(法23条1項)。  ウ まとめ  利用者が、本件各管理著作物を複製し、送信可能化をし、又は自動公衆送信するに当 たり、債権者がこれを許諾した事実のないことは前述のとおりである。したがって、本 件サービスの利用者の前記各行為は、著作権侵害(複製権侵害、自動公衆送信権侵害及 び送信可能化権侵害)を構成する。 (2) 債務者の著作権侵害(自動公衆送信権及び送信可能化権侵害)の有無  ア 以上認定したとおり、送信者は、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォル ダに蔵置し、かつ、その状態で債務者サーバにパソコンを接続させているのであり、送 信者の上記行為は、債権者の有する送信可能化権を侵害し、さらに、受信者が送信側パ ソコンの共有フォルダに蔵置された本件各MP3ファイルを受信すれば、自動公衆送信 権を侵害する。  しかし、債務者自らは、パソコンに蔵置した本件各MP3ファイルを債務者サーバに 接続させるという物理的行為をしているわけではない。  そこで、債務者の行為が、債権者の有する送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害す ると解すべきかを考察することとする。債務者の行為が、送信可能化権及び自動公衆送 信権を侵害するか否かについては、@債務者の行為の内容・性質、A利用者のする送信 可能化状態に対する債務者の管理・支配の程度、B本件行為によって生ずる債務者の利 益の状況等を総合斟酌して判断すべきである。  イ 本件サービスの内容・性質  (ア) 前記前提事実及び審尋の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。  債務者サーバは、@債務者サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内 の電子ファイルに関するファイル情報を取得し、Aそれらを一つのデータベースとして 統合して管理し、B受信者の検索リクエストに応じた形式に加工した上、Cこれを、同 時に債務者サーバに接続されている他の利用者に対して提供し、D他の利用者が本件ク ライアントソフトにより、好みのファイルを検索・選択し、画面に表示されたダウンロ ードボタンをクリックするだけで(送信者のIPアドレスを知る必要もないまま)当該 電子ファイルの送信を受けることができるようにしている。このように、ファイル情報 の取得等に関するサービスの提供並びにファイルをダウンロードする機会の提供その他 一切のサービスを、債務者自らが、直接的かつ主体的に行っている。利用者は、債務者 のこれらの行為によってはじめてパソコンの共有フォルダ内に蔵置された電子ファイル が他の利用者へ送信し得る状態を実現できる。  ところで、審尋の全趣旨からすると、本件サービスを利用すれば、市販のレコードと ほぼ同一の内容のMP3ファイルを無料で、しかも容易に取得できるのであるから、市 販のレコードを安価に取得したいと希望する者にとって、本件サービスは極めて魅力的 である。一方で、現時点においては、自己が著作した音楽等の電子ファイルを不特定多 数の者に無料で提供したり、他の不特定の者が著作した音楽等の電子ファイルを取得し たいと希望する者は比較的少ないものと推測される。仮に、そのような音楽等の電子フ ァイルの取得を希望する者がいたとしても、本件サービスにおける検索機能は、希望す る作品の所在を正確に確認するには不十分であり、結局、本件サービスはそのような作 品の電子ファイルを交換するためには有効に機能しないものと解される。実際にも、前 記前提となる事実のとおり、債務者サーバが送受信の対象としているMP3ファイルの 約96.7パーセントが、市販のレコードを複製したファイルに関するものである。し たがって、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法コピー に係るものとなることは避けられないものと予想され、債務者としても本件サービスの 開始当時から上記事態に至ることを十分予想していたものと認められる。  したがって、本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分については、利用 者に市販のレコードを複製したMP3ファイルを交換させるためのサービスであるとい うことができる(したがって、利用者が、本件サービスを利用して、市販のレコードが 複製されたMP3ファイルを送受信の対象とすることは、正に、本件サービスを提供す る債務者の意図、目的に合致した行為ということができる。)。  (イ) 以上のとおり、本件サービスは、送信者が、市販のレコードを複製したファイ ルが大多数を占めているMP3ファイルを、送信可能化状態にするためのサービスとい う性質を有する。  ウ 管理性等  (ア) 前記前提事実及び審尋の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。 すなわち、  a 利用者が本件サービスを利用して、電子ファイルを自動公衆送信するには、債務 者サイトから本件クライアントソフトをダウンロードして、これを自己のパソコンにイ ンストールすることが必要不可欠である。  b 利用者は、パソコンを債務者サーバに接続させることが必要不可欠であるが、同 接続は、通常、本件クライアントソフトを起動することによりしている。  c 自動公衆送信の相手方も、パソコンに本件クライアントソフトをインストールし、 そのパソコンを債務者サーバに接続することが必要不可欠である。  d 送信者が自動公衆送信をするのは、受信者が希望する電子ファイルを検索して、 その電子ファイルの蔵置されているパソコンの所在及び内容を確認できることを前提と しているが、これに必要な一切の機会は債務者が提供しており、送信者の自動公衆送信 を可能とすることについて、債務者サーバが必要不可欠である。  e 本件サービスにおいては、受信者は、希望する電子ファイルの所在を確認した場 合、本件クライアントソフトの画面上の簡単な操作によって、希望する電子ファイルを 受信することができるようになっており(その際、受信者は、送信者のIPアドレス及 びポート番号を認識する必要はない。)、受信者のための利便性、環境整備が図られて いる。  f 受信者が受信可能な電子ファイルは、債務者サーバに接続しているパソコンの共 有フォルダ内に蔵置されているものに限られている。  g 債務者は、本件サービスの利用方法について、自己の開設したウェブサイト上で 説明をし、ほとんどの利用者が同説明を参考にして、本件サービスを利用している。  (イ) 上記認定した事実を基礎にすると、利用者の電子ファイルの送信可能化行為 (パソコンの共有フォルダに電子ファイルを置いた状態で、同パソコンを債務者サーバ に接続すること)及び自動公衆送信(本件サービスにおいて電子ファイルを送信するこ と)は、債務者の管理の下に行われているというべきである。  ウ 債務者の利益  (ア) 前記前提事実及び審尋の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。  a インターネット上にウェブサイトを開設した場合、同ウェブサイトに接続する者 の人数が多数に上れば、同ウェブサイトの開設者は同ウェブサイト上に広告を載せるこ と等により収入を得ることができ、ウェブサイト上の広告掲載への需要は、当該ウェブ サイトへの接続数と相関関係があり、接続数が多くなれば、広告掲載の需要が高まり、 広告収入等も多くなる。  b 本件サービスの登録者数は4万2000人であり、債務者サーバに同時接続して いる利用者数は平均約340人、そのMP3ファイル数は平均約8万であるところ、上 記人数は、将来さらに増加することも予想され、債務者サイトは広告媒体としての価値 を十分有する。  c 債務者は、本件サービスにおいて、送信者に債務者サイトに接続させてMP3フ ァイルの送信可能化行為をさせているが、同行為はそれ自体、債務者サイトへの接続数 を増加させる行為であるとともに、受信側パソコンの接続数の増加に寄与する行為でも あるといえるから、債務者サイトの広告媒体としての価値を高め、営業上の利益を増大 させる行為ということができる。  d 現時点では、債務者サイト上に掲載した広告による収入は僅かであるが、債務者 は、将来、債務者サイトに広告を掲載することによる広告収入の獲得を債務者の営業に 取り入れていく意図を有している。  e 本件サービスにおいては、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信しよう とする者から受信の対価を徴収するシステムとしていないが、債務者は、将来、同サー ビスを利用してMP3ファイルを受信した者から受信の対価を徴収するシステムに変更 することを予定している。  (イ) 上記認定した事実を基礎にすると、利用者に債務者サイトに接続させてMP3 ファイルの公衆送信化行為をさせること、及び同MP3ファイルを他の利用者に送信さ せることは、債務者の営業上の利益を増大させる行為と評価することができる。  エ 小括  以上のとおり、本件サービスは、送信者が、市販のレコードを複製したファイルが大 多数を占めているMP3ファイルを、送信可能化状態にするためのサービスという性質 を有すること、本件サービスにおいて、送信者が本件各MP3ファイルを含めたMP3 ファイルの自動公衆送信及び送信可能化を行うことは債務者の管理の下に行われている こと、債務者も自己の営業上の利益を図って、送信者に上記行為をさせていたことから、 債務者は、本件各管理著作物の自動公衆送信及び送信可能化を行っているものと評価で き、債権者の有する自動公衆送信権及び送信可能化権を侵害していると解するのが相当 である。 2 争点(2)(保全の必要性の有無)について  上記認定したとおり、@本件サービスには、平成13年12月の時点で、既に4万人 以上が登録し、平均でも約300人以上が債務者サーバに接続して、希望する電子ファ イルを自由に受信しており、しかも、その利用者は個人として特定されていないこと、 A債務者は、交換情報を遮断するなどの措置を何ら採っていなかったこと、B今後も同 情報が公開されるおそれがあること等の事実に照らすならば、債権者の許諾のないまま 本件各管理著作物の送信可能化行為がされ、利用者が自由に本件各MP3ファイルを取 得することが続けられた場合、債権者に著しい損害が生じることは明らかである。  そうすると、本件において、保全の必要性は存在する。 3 仮処分において命ずる不作為の範囲について (1) 債権者は、本件申立てにおいて、債務者が本件サービスで本件各MP3ファイ ルを送受信の対象とすることの差止めを求めている。  しかし、前記のとおり、@本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置し、 その状態で債務者サーバにパソコンを接続させる物理的行為は、専ら送信者が実施し、 又、Aファイル情報を確認することにより、取得を希望するMP3ファイルを選択し、 送信を指示し、そのMP3ファイルを蔵置しているパソコンからMP3ファイルを受信 し、保存先として設定した受信者のパソコンのフォルダ内に複製する物理的行為は、専 ら受信者が行っている。  このように、債務者サーバは、利用者の共有フォルダに蔵置された本件各MP3ファ イル自体については、送受信の対象としていないのであるから、債務者サーバにおいて は、いかなる内容のMP3ファイルが利用者間で送受信されているかを判別することは できず、本件各MP3ファイル自体の送信又は受信の差止めを認めるのでは、本件申立 ての目的を達成できないことになる。  他方、仮に、利用者(送信者)が本件各MP3ファイルを自己のパソコンの共有フォ ルダ内に蔵置したとしても、債務者サーバがそのファイル名等についてのファイル情報 を、他の利用者(受信者)に送信することを差し止めれば、受信者は受信を希望するM P3ファイルを選択することができなくなる結果、送信者の行う送信可能化及び自動公 衆送信を阻止することができるといえる。そこで、債務者サーバにおいて、利用者に対 するファイル情報の送信行為を差し止めることによって、債権者の本件申立ての目的は 達成されると解される。  したがって、本決定では、本件サービスにおいて、ファイル情報を利用者に送信する 行為の差止めを認めるのが相当である。 (2) 次に、債務者サーバが送信者から受け取った送信者情報のうち、差し止めるべ き(受信者への送信を遮断すべき)ファイル情報の範囲について検討する。  債務者サーバが送信者から受け取った送信者情報のうち、受信者への送信を遮断すべ きファイル情報の範囲としては、受信者のファイル選択を不可能ならしめ、かつ、本件 各管理著作物以外の著作物を複製したレコードのファイルと誤認混同を回避するのに必 要かつ十分なファイル情報にとどめるべきであるとするのが相当である。  まず、審尋の全趣旨によれば、別紙楽曲目録の「原題名」欄に記載されている題名は、 当該楽曲を複製したレコードの題名と一致し、「アーティスト」欄に記載されている実 演家名は、当該楽曲を複製したレコードの実演家名と一致することが認められる。次に、 前記のとおり、MP3ファイルのファイル名は利用者が自由に設定できるのであるから、 利用者が設定したファイル名等は、本件各MP3ファイルの複製元であるレコードの題 名及びそれを実演する実演家とは、常に一致するとは限らない。しかし、本件疎明資料 によれば、本件サービスの利用者(送信者)がレコードを複製したMP3ファイルにフ ァイル名を設定しようとする場合、他の利用者(受信者)が識別可能なファイル名を付 するのが自然であるということができ、この場合、通常は、当該レコードの題名及び実 演家名を表示する文字を使用することが考えられ、また、その題名及び実演家名の表記 方法は、当該レコードの表記方法とは必ずしも一致するとは限らず、適宜、漢字、ひら がな、片仮名及びアルファベット等で代替することが推測される。なお、題名や実演家 名の一部を省略して表記する場合も予想されるが、省略部分が多い場合は、本件各管理 著作物と異なる著作物を複製したレコードのファイルと誤認混同する可能性も大きくな るといえる。  このような観点から検討した結果、送信側パソコンから送信されたファイル情報のう ち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに本件各管理著作物の「原題名」及び「アー ティスト」を表示する文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及 び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のあるものについては、いずれか一方のみ の表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報の範囲で、その受信者への送信の差 止めを認めるのが妥当であると判断した。 4 結語  以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、本決定において、MP 3形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内 容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれ かに別紙各楽曲目録の「原題名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルフ ァベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「アーティスト」欄記載 の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方 法を問わない。姓又は名のあるものについては、いずれか一方のみの表記を含む。)の 双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信することの差止めを認めることとする。 平成14年4月11日 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 飯村 敏明   裁判官 榎戸 道也   裁判官 佐野 信