・東京地判平成14年4月23日  パソコン亭事件  原告らは、被告が福岡市において、パソコン用ゲームソフトの販売店である「パソコ ン亭」を経営し、原告らの許諾を得ずに違法にCD−Rに複製した本件ゲームソフトを、 同店に会員として登録した顧客に対して、真正品よりも著しく安価(ソフト1タイトル につき、1枚2300円、2枚組3300円、3枚組以上4000円)で販売したとし て、主位的に著作権法114条1項にもとづき、予備的に114条2項にもとづき、著 作権侵害で損害賠償を請求した事案である。被告欠席。  判決は、損害賠償請求を認容した。その際、損害額について、著作権法114条1項 における、「「利益」とは、侵害者が当該複製物の販売によって得た現実の利益、すな わち複製物の売上高から製造等に要した費用を控除した金額を意味するものである。」 としたうえで、「本件においては、……被告は、本件ゲームソフトの1タイトルにつき、 1枚2300円、2枚組3300円、3枚組以上4000円の価格で販売したというと ころ、原告らは、別紙一覧表記載の本件ゲームソフトの各タイトルにつき、これを構成 するCD−Rの枚数(1枚か、2枚組か、3枚組以上か)を明らかにしないので、本件 ゲームソフトについてはいずれも上記価格の中央値である3300円を販売価格として 売上高を算定する。また、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件ゲームソフトを製造販 売するにつき、CD−Rの購入費用、複製用機器の購入費用ないし賃借費用、人件費、 複製の基となる真正品のゲームソフトの購入費用等を要するところ、被告から具体的な 費用の内容が主張されていない本件においては、販売価格から控除すべき費用としては、 CD−Rの購入費用を中心として考慮し、ゲームソフト1本当たり300円と認めるの が相当である。そうすると、被告が本件ゲームソフトの販売により得た利益については、 ゲームソフト1本当たりの利益を3000円として、これに販売数……を乗じた結果で あるところの、別紙一覧表の「認容額」欄の「小計」欄記載の金額と認められる」と述 べた。 ■判決文 2 原告らの損害額について   そこで、次に被告において自白したものとみなされる前記事実(第2の1(1) (2)記載の事実)を前提として、本件における原告らの損害額について判断する。   著作権法114条1項は、「著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失 によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受 けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けて いるときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害 の額と推定する。」と規定する。   上記規定の文言によれば、著作物を無断で複製した者が当該複製物を販売している 場合には、侵害者が当該複製物を販売することによって得た利益の額をもって、著作権 者が受けた損害の額と推定するものであることが明らかである。そして、この場合にお ける「利益」とは、侵害者が当該複製物の販売によって得た現実の利益、すなわち複製 物の売上高から製造等に要した費用を控除した金額を意味するものである。   本件においては、前記第2の1(2)記載の事実関係によれば、被告は、本件ゲー ムソフトの1タイトルにつき、1枚2300円、2枚組3300円、3枚組以上400 0円の価格で販売したというところ、原告らは、別紙一覧表記載の本件ゲームソフトの 各タイトルにつき、これを構成するCD−Rの枚数(1枚か、2枚組か、3枚組以上か) を明らかにしないので、本件ゲームソフトについてはいずれも上記価格の中央値である 3300円を販売価格として売上高を算定する。また、弁論の全趣旨によれば、被告は、 本件ゲームソフトを製造販売するにつき、CD−Rの購入費用、複製用機器の購入費用 ないし賃借費用、人件費、複製の基となる真正品のゲームソフトの購入費用等を要する ところ、被告から具体的な費用の内容が主張されていない本件においては、販売価格か ら控除すべき費用としては、CD−Rの購入費用を中心として考慮し、ゲームソフト1 本当たり300円と認めるのが相当である。そうすると、被告が本件ゲームソフトの販 売により得た利益については、ゲームソフト1本当たりの利益を3000円として、こ れに販売数(別紙一覧表「本数」欄記載の数)を乗じた結果であるところの、別紙一覧 表の「認容額」欄の「小計」欄記載の金額と認められる。   したがって、著作権法114条1項により、原告らの被った損害額は、別紙一覧表 におけるそれぞれ対応する「認容額」欄の「小計」欄の金額と推定されることになる。   なお、著作権法114条2項によって原告らの被った損害額を計算する場合であっ ても、別紙一覧表「真正品の小売価格」欄記載の金額と上記の3000円という額とを 対照すれば、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(利用料相当額)は 本件ゲームソフト1本当たり3000円を上回るものではないことが明らかである。そ うすると、著作権法114条2項による損害額は、同条1項による損害額である上記金 額を上回るものではない。   また、弁護士費用については、本件はプログラム著作物の著作権侵害を理由とする 損害賠償請求事件であり、原告数も侵害を受けた著作物の数も多数にのぼるものではあ るが、刑事事件が先行したものであることから、被告において積極的に原告らの請求を 争うことなく、口頭弁論期日に出頭しないままで審理が終結され、判決に至ったという 訴訟経緯等の事情をも考慮すれば、損害として考慮し得るのは、別紙一覧表における 「認容額」欄の「小計」欄記載の金額の5%である別紙一覧表の「認容額」欄の「弁護 士費用相当額」欄記載の金額と認めるのが相当である。   以上によれば、被告は、別紙一覧表「原告ら」欄記載の各原告に対し、それぞれ対 応する「原告ら主張の損害額」欄の「合計額」欄記載の金員及びこれに対する侵害行為 の日の後である平成13年12月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金 を支払う義務を負うものである。 3 原告らの主張について (1)原告らは、著作権法114条1項にいう「利益」は、侵害品の販売等による積極 的利益に限られず、財産の減少を免れたといった消極的利益をも含むものであり、本件 において、被告は自ら本件ゲームソフトを無許諾で複製することにより、真正品のゲー ムソフトを市場において正規小売価格で購入することを免れたのであるから、正規小売 価格と同額の利益を得たと主張する。    なるほど、著作権法114条1項にいう「利益」については、積極的利益に限ら ず、消極的利益がこれに該当する場合があり得るものであるが、本件のように、著作物 を無断で複製した者が当該複製物を販売している場合には、上記の「利益」が、侵害者 が当該複製物の販売によって得た現実の利益、すなわち複製物の売上高から製造等に要 した費用を控除した金額を意味するものであることは、同項の条文の文言上明らかとい うべきである。    原告らが引用するLEC事件第1審判決は、パーソナルコンピュータ用のビジネ スソフトウェアを無許諾で複製した者がこれを自ら使用していたという事案についての 判断である。同事件においては、侵害者は複製品の販売を行っておらず、専ら自社にお ける事務処理において使用することにより利益を得ていたものであって、当該複製ソフ トウェアを使用して事務処理を行うことにより得た利益を具体的な金額として算定する ことが困難であることから、仮に当該複製ソフトウェアを使用したことにより得た営業 上の利益又は免れた人件費の支出の額がこれを上回る額であったとしても、真正品の小 売価格をもって「利益」の上限とする趣旨の判断を示したものである。上記のとおり、 LEC事件は本件とは全く事案を異にするものであって、LEC事件第1審判決を引用 する所論は、牽強付会の主張というほかはなく、到底採用の余地がない。 (2)著作権法114条1項は、平成10年法律第51号による改正前の特許法102 条1項(以下「改正前特許法102条1項」という。現行特許法102条2項と同じ内 容である。)と同様の構造となっているが、改正前特許法102条1項については、侵 害者が廉価又は無償で特許侵害品を頒布した場合には権利者において十分な救済を受け ることができないことが従来から指摘されてきたところであり、このような点をも含め て従来の特許法の規定では権利者の救済に十分ではないとして、従前の102条1項の 条文を同条2項とした上で、新たに現行の102条1項を設けたものである。他方、著 作権法においては、著作権侵害の場合における損害額の推定等に関する規定である11 4条については、現行特許法102条1項に対応する規定を設ける改正は行われていな い。    原告らは、本件において、著作権法114条1項、2項に基づく損害として、被 告が販売した複製品の数と同数の真正品の小売価格の金額を主張するが、原告らの上記 主張は、その実質において、何らの条文上の根拠もなく、著作権侵害について現行特許 法102条1項と同様の効果を求めるものである(正確にいうと、自らの販売価格であ る卸売価格を超える金額である小売価格を基準とし、しかも製造原価等の控除をしてい ない点において、現行特許法102条1項を超える損害額の賠償を求めている。)。所 論は、著作権法の条文の基本的な理解を欠き、立法論と解釈論を区別しないで論ずるも のであって、独自の見解というほかはなく、到底採用の余地がない。 (3)なお、原告らは、著作権法114条1項に基づく損害についての予備的主張にお いて、平成10年10月1日から平成12年9月10日までの「パソコン亭」の全営業 期間において、本件ゲームソフトの海賊版の製造・販売という著作権侵害行為によって 得た積極的利益(売上利益)の額は、本件ゲームソフトの真正品の小売価格に相当する 額(総合計額2078万1700円)を下らないと主張している。しかし、原告らが、 被告による複製品の販売について主張する具体的事実は、別紙一覧表「タイトル名」欄、 「本数」欄記載のゲームソフトについて、ソフト1タイトルにつき、1枚2300円、 2枚組3300円、3枚組以上4000円の価格で販売したというものであるから、上 記事実関係に基づいて算定される金額を超えて被告の得た積極的利益を認定することは できない。そして、別紙一覧表「タイトル名」欄、「本数」欄記載のゲームソフト(本 件ゲームソフト)の製造・販売によって被告が得た利益は、上記認定のとおりである。