・東京地判平成14年6月26日判時1810号78頁  2ちゃんねる「ペット大好き板」事件:第一審  ネット掲示板サイト「2ちゃんねる」の「ペット大好き板」において書き込まれた発 言によって名誉を毀損されたとして、原告(動物病院および経営者)が、被告(「2ち ゃんねる」管理者・ひろゆき)に対して、損害賠償および削除を求めた事案で、判決は、 合計400万円の損害賠償および発言の削除を命じる判決を出した。  判決は、「……以上のような諸事情を考慮すると、被告は、遅くとも本件掲示板にお いて他人の名誉を毀損する発言がなされたことを知り、又は、知り得た場合には、直ち に削除するなどの措置を講ずべき条理上の義務を負っているものというべきである」と した。  また、「プロバイダー責任法は、平成13年11月30日に公布され、本件口頭弁論 終結後の平成14年5月27日に施行されたことは、当裁判所に顕著な事実であり、本 件に直ちに適用されるものではないが、その趣旨は十分に尊重すべきである」としなが らも、「被告は、前記のとおり、本件掲示板上の発言を削除することが技術的に可能で ある上、通知書、本件訴状、請求の趣旨訂正申立書等により、本件1ないし3のスレッ ドにおいて原告らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発言が書き込まれたことを知ってい たのであり、これにより原告らの名誉権が侵害されていることを認識し、又は、認識し 得たのであるから、プロバイダー責任法3条1項に照らしても、これにより責任を免れ る場合には当たらないというべきである」とされた。  差止については、「……被告が本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置を講じなか った行為は、原告らの名誉を毀損する不法行為を構成するのであり、これに加え、本件 各名誉毀損発言の内容は、真実と認めるに足りず、その表現も極めて侮辱的なものであ り、獣医である原告Bの受けた精神的苦痛の程度は大きかったものと認められ、原告B の経営する原告Aもその経営に相当の影響を受けたものと認められ、さらに本件各名誉 毀損発言が削除されない限り、原告らに継続して損害が生じると予想されること、被告 は、通知書、本件訴状及び請求の趣旨訂正申立書において本件各名誉毀損発言の削除を 求められた後も、これに応じて削除をすることはなく、本件各名誉毀損発言は現在も本 件掲示板に存在し、不特定多数人の閲覧し得る状態に置かれていること、本件各名誉毀 損発言を削除すべきものとしても、その内容及び匿名で発言していることに照らし、発 言者が被る不利益は少なく、また、被告が被る不利益も少ないといえることなどの諸事 情を考慮すると、原告らは、それぞれ、人格権としての名誉権に基づき、被告に対し、 本件各名誉毀損発言の削除を求めることができるものというべきである」とした。 (控訴審:東京高判平成14年12月25日) ■判決文 第3 当裁判所の判断 1 認定事実について 《中 略》 2 争点(1)(被告の削除義務違反の有無)について   (1) 被告の削除義務 ア 前記1で認定した事実及び前記第2の2(5)の事実によれば、次のようにいうことが できる。  (ア) 被告は、本件掲示板を設置し、本件掲示板上の発言を削除する際の基準、削除 依頼の方法等について定めるなどして、本件掲示板を運営・管理している。そして、本 件掲示板においては、削除人は削除ガイドラインに従って発言を削除することができる 旨が定められているところ、削除人は被告によって適任であると判断された者が任命さ れているのであるから、被告は当然に本件掲示板における発言を削除する権限を有して いると認められる。  (イ) 本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がなされた場合、名誉を毀損さ れた者は、その発言を自ら削除することはできず、本件掲示板において定められた一定 の方法に従って、本件掲示板内の「削除依頼掲示板」においてスレッドを作って書き込 みをするなどして発言の削除を求め、削除人によって削除されるのを待つほかない。  被告が定めた削除ガイドラインは、個人に関する書き込みについて、個人の性質に応 じて3種類に定義して分類した上、発言の内容について、「個人名・住所・所属」に関 する発言、誹謗中傷発言等に分けて、上記各分類ごとに削除するか否かの基準を定めて いるが、そもそも個人の性質に関する3種類の定義が不明確である上、各分類ごとの削 除するか否かの基準も不明確であるほか、管理人である被告の判断に委ねている部分も 存在する。また、法人に関する発言の削除の基準についても、電話番号を除き、削除さ れない場合についてしか定められておらず、削除されない場合についても、その内容は 不明確である。結局、本件掲示板の削除ガイドラインは、その表現が全体として極めて あいまい、不明確であり、個人又は法人を誹謗中傷する発言がいかなる場合に削除され るのかを予測することは困難であるといえる。  このように、削除人が削除する際の基準とされている削除ガイドラインの内容が不明 確であり、しかも、削除人は、それを業としないボランティアにすぎないことから、本 件掲示板における発言によって名誉を毀損された者が、所定の方式に従って発言の削除 を求めても、必ずしも削除人によって削除されるとは限らない。 (ウ) 本件掲示板においては、管理者である被告において、利用者のIPアドレス等の 接続情報を原則として保存せず、その旨を明示していることにより、匿名で利用するこ とが可能であり、利用者が意図しない限り、利用者の氏名、住所、メールアドレス等が 公表されることはない。したがって、本件掲示板における発言によって名誉を毀損され た者が、匿名で名誉を毀損する発言をした者の氏名等を特定し、その責任を追及するこ とは極めて困難である反面、発言者は、自らの責任を問われることなく、他人の権利を 侵害する発言を書き込むことが可能である。そして、このような匿名で利用できる電子 掲示板においては、他人の権利を侵害する発言が数多く書き込まれることが容易に推測 され、証拠(甲1、2、21)によれば、現に、本件1、2のスレッドに限っても、原 告らのほかに、多くの動物病院、獣医等の名誉を毀損する発言が書き込まれていること が認められる。 (エ) 本件掲示板は、約330種類のカテゴリーに分かれており、1日約80万件の書 き込みがあること、削除人はそれを業とする者ではないいわゆるボランティアであるこ とからすると、被告が本件掲示板において他人の権利を侵害する発言が書き込まれてい るかどうかを常時監視し、削除の要否を検討することは事実上不可能であった。  イ 以上のような諸事情を考慮すると、被告は、遅くとも本件掲示板において他人の 名誉を毀損する発言がなされたことを知り、又は、知り得た場合には、直ちに削除する などの措置を講ずべき条理上の義務を負っているものというべきである。 ウ この点につき、被告は、本件掲示板における発言の公共性、公益目的、真実性等が 明らかでない場合には、削除義務を負わないと主張する。   ところで、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する 事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実が その重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性 がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記事 実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定され、また、 ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が 公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、 上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明 があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての 域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものとされ、上記意見ないし論 評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記 事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解 されている(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51 巻8号3804ページ参照。以下、合わせて「真実性の抗弁、相当性の抗弁」という。)。   被告の主張は、被告において上記の真実性の抗弁、相当性の抗弁について主張・立 証責任を負うことはなく、むしろ原告らにおいて反対の事実を主張・立証することを要 求するものと解される。   しかしながら、本件掲示板における発言によって名誉権等の権利を侵害された者は、 前記のとおり、被告が、利用者のIPアドレス等の接続情報を原則として保存していな いから、当該発言者を特定して責任を追及することが事実上不可能であり、しかも、被 告が定めた削除ガイドラインもあいまい、不明確であり、また、他に本件掲示板におい て違法な発言を防止するための適切な措置を講じているものとも認められないから、設 置・運営・管理している被告の責任を追及するほかないのであって、このような被告を 相手方とする訴訟において、発言の公共性、目的の公益性及び真実性が存在しないこと を削除を求める者が立証しない限り削除を請求できないのでは、被害者が被害の回復を 図る方途が著しく狭められ、公平を失する結果となる。   このことからすれば、本件において、本件各発言に関する真実性の抗弁、相当性の 抗弁についての主張・立証責任は、管理者である被告に存するものと解すべきであり、 本件各発言の公共性、公益目的、真実性等が明らかではないことを理由に、削除義務の 負担を免れることはできないというべきである。   よって、この点に関する被告の主張を採用することはできない。 エ また、被告は、この点に関連して、匿名の発言も表現の自由の一環として保障され るべきであり、匿名による発言の場を提供していることを先行行為として条理上作為義 務を認めることは許されないとも主張する。  しかし、表現の自由といえども絶対無制約のものではなく、正当な理由なく他人の名 誉を毀損することが許されないのは当然であり、このことは匿名による発言であっても 何ら異なるところではない。しかも、被告は、本件掲示板について、IPアドレス等の 利用者の情報を一切保存していないので、本件掲示板にいったん掲示された発言につい ては事実上被告以外に管理者はいないから、被告が管理者としてその責任を負担するの は当然というべきであり、被告の上記主張は採用することができない。  (2) 以上を前提に、被告が本件各発言を削除しなかったことが上記削除義務の違反に 当たるかどうかについて以下検討する。   ア 本件1の発言の番号16、32、35、36、96、427、457、623、 662、669、678、682、683、685、686、696、761、765、 772、773、788、811ないし813、815、817、826、828ない し831、833、848、874ないし876、882、912、918、921、 922、925、929、930の各発言、本件2の発言の番号6ないし8、10、2 3、297、308、312、320、344、605、711、712、791、7 92、801の各発言は、いずれも、「悪徳動物病院告発スレッド!!」又は「悪徳動 物病院告発スレッド−Part2−」という題のスレッドの下で、原告らあるいは原告 A又は原告Bのいずれかの名前を挙げ、又は、原告らの名前の 一部を伏字等にするものの、原告らを指し示すことが容易に推測される文言を記載した 上、「ブラックリスト」、「過剰診療、誤診、詐欺、知ったかぶり」、「えげつない病 院」(本件1の発言の番号16、32、35、36、96)、「ヤブ(やぶ)医者」 (本件1の発言の番号678、811、882、本件2の発言の番号792)、「A’」 (本件1の発言の番号773、912、918、921、925、929、本件2の発 言の番号711)、「精神異常」(本件1の発言の番号427、848、)、「精神病 院に通っている」(本件1の発言の番号812、本件2の発言の番号801)、「動物 実験はやめて下さい。」(本件1の発言の番号623)、「テンパー」(本件1の発言 の番号669)、「責任感のかけらも無い」(本件1の発言の番号 682)、「不潔」(本件1の発言の番号683、761)、「氏ね(死ねという意味)」 (本件1の発言の番号685)、「被害者友の会」(本件1の発言の番号696、76 1、788、930、本件2の発言の番号23)、「腐敗臭」(本件1の発言の番号6 96、788)、「ホント酷い所だ」(本件1の発言の番号815)、「ずる賢い」 (本件1の発言の番号817)、「臭い」(本件1の発言の番号826)などと侮辱的 な表現を用いて誹謗中傷する内容であり、原告らの社会的評価を低下させるものである ことは明らかである。 また、本件1の発言の番号18、425、664、677、697、789、814、 823、919、920の各発言は、その発言自体には原告らを特定する文言はないも のの、本件1のスレッドの他の発言と併せ読めば、これらの発言がいずれも原告らに向 けられていることは、その内容に照らし明らかであり、原告らの社会的評価を低下させ るものであるといえる。  さらに、本件3の発言は、本件1の発言の番号662、682、683、812の各 文言と同一の文言が書き込まれたものであり、これも原告らの社会的評価を低下させる ものである。  したがって、上記各発言(本件1の発言〈番号764、872を除く。〉、本件2の 発言、本件3の発言。以下「本件各名誉毀損発言」という。)は、原告らの名誉を毀損 するものというべきである。  なお、原告Aは、動物病院の経営等を目的とする有限会社であるところ、本件各名誉 毀損発言は、いずれも悪徳動物病院の告発を目的とするスレッドにおいて、原告Aの経 営体制、施設等を誹謗中傷するとともに、代表者・獣医である原告Bの診療態度、診療 方針、能力、人格等をも誹謗中傷するものであり、原告Aと原告Bの両名に対して向け られ、原告らの社会的評価を低下させるものというべきである。 イ 以上に対し、本件1の発言の番号764、872の各発言については、これを本件 1、2のスレッドの各スレッド名及び他の発言と併せ読んでも、いずれも原告らの社会 的評価を低下させる内容のものということはできず、原告らに対する名誉毀損には当た らない。 ウ そして、前記第2の2(3)記載のとおり、原告Aは、被告に対し、平成13年6月2 1日付けの通知書をもって発言の削除を求め、同通知書は、同月22日、被告に到達し たから、これにより、被告は、本件各名誉毀損発言のうち、本件1の発言の番号16、 18、32、35、36、96、425、427、457、662、664、669、 677、678、682、683、686、696、697、761、765、772、 773、788、789、811ないし815、817、823、826、828ない し831、833、848、874ないし876、882、912、918ないし92 2、925、929、930の各発言並びに本件2の発言の番号6ないし8、10、2 3の各発言について、本件掲示板に書き込まれたことを具体的に知ったものと認められ る。また、原告らは、本件訴状の別紙発言目録1において、上記通知書で削除を求めた 発言の他に、本件1の発言の番号623、685の各発言についても削除を求め、本件 訴状は平成13年8月4日、被告に送達されたので、被告は、同日までに、上記各発言 が本件掲示板に書き込まれたことを具体的に知ったものと認められる。さらに、本件3 の発言が記載された甲第9号証は、平成13年11月5日に被告代理人が受領し、同月 7日の本件第2回口頭弁論期日に提出されたから、被告は、同日までに、本件3の発言 が書き込まれたことを具体的に知ったものと認められる。また、原告らは、平成14年 1月30日付け「請求の趣旨訂正申立書」において、被告に対し、本件2の発言の番号 297、308、312、320、344、605、711、712、791、792、 801の各発言の削除を求め、同申立書は、同日、被告に送達されたので、被告は、同 日までに、上記各発言が本件掲示板に書き込まれたことを具体的に知ったものと認めら れる。 エ しかるに、被告は、前記のとおり、本件口頭弁論終結時である平成14年4月17 日においても、本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置を講じていないのであるから、 被告には作為義務違反が認められ、原告らに対する不法行為が成立する。 オ なお、被告は、本件にはプロバイダー責任法が適用され、同法の制定経緯、規制範 囲等に照らすと、被告が本件各発言を削除しなかったことにつき削除義務違反はないと 主張する。  プロバイダー責任法は、平成13年11月30日に公布され、本件口頭弁論終結後の 平成14年5月27日に施行されたことは、当裁判所に顕著な事実であり、本件に直ち に適用されるものではないが、その趣旨は十分に尊重すべきであるところ、同法は、3 条1項において、特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、 プロバイダー等は、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講 ずることが技術的に可能な場合であって、当該プロバイダー等が当該特定電気通信によ る情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき、又は、当該 プロバイダー等が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当 該電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることがで きたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ、当該プロバイダー等が当該権 利を侵害した情報の発信者である場合を除き損害賠償責任を負担しない旨定めている。  しかしながら、被告は、前記のとおり、本件掲示板上の発言を削除することが技術的 に可能である上、通知書、本件訴状、請求の趣旨訂正申立書等により、本件1ないし3 のスレッドにおいて原告らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発言が書き込まれたことを 知っていたのであり、これにより原告らの名誉権が侵害されていることを認識し、又は、 認識し得たのであるから、プロバイダー責任法3条1項に照らしても、これにより責任 を免れる場合には当たらないというべきである。  3 争点(2)(被告によるその他の不法行為)について   (1) 原告らは、被告は、原告Bが本件掲示板において発言の削除を求めたのに対し、 削除依頼の方法が間違っているなどとして原告Bを嘲笑ったなどと主張するが、前記の とおり、原告Bの削除依頼に対し揶揄・侮辱する発言が書き込まれたことは認められる が、被告がそれらの発言を書き込んだことを認めるに足りる証拠はなく、原告らの主張 は理由がない。   (2) また、原告らは、被告がその発行するメールマガジンにおいて本件訴訟の内容 を公開したため、原告らに対する更なる中傷発言が誘発され無言電話等がなされたなど と主張する。  証拠(甲10、21、24、27)によれば、本件訴訟の提起後も本件掲示板におい て原告らを誹謗中傷する発言がなされていたことが認められ、また、原告Aに対し無言 電話が多数回かかってきたことがうかがわれる。しかし、本件メールマガジンには本件 第1回口頭弁論期日における両当事者の発言等について記載されているにすぎず、原告 らに対する誹謗中傷に当たる記載、あるいは、原告らに対する中傷や嫌がらせを誘発す る記載は認められないことからすれば、被告が本件メールマガジンを発行したことが原 告らに対する不法行為を構成するものということはできない。よって、この点に関する 原告らの主張も理由がない。  4 争点(3)(原告らの損害)について (1) 本件各名誉毀損発言については、その内容が真実であることを認めるに足りる証拠 はないし、専ら公益を図る目的のためになされたものであることを認めるに足りる証拠 もない。そして、本件各名誉毀損発言において用いられている表現には、「ヤブ医者」、 「精神異常」、「動物実験」、「氏ね(死ね)」、「臭い」などと激烈かつ侮蔑的なも のが多数含まれている。  本件掲示板は、誰でも自由に閲覧することができ、極めて多数の利用者がある著名な 電子掲示板であり、本件掲示板内の「ペット大好き掲示板」における本件1、2のスレ ッド及び「法律勉強相談掲示板」における本件3のスレッドに書き込まれた本件各名誉 毀損発言は、動物病院の利用者、獣医等を含む不特定多数の者が認識し得るものであり、 その影響は大きい。しかも、被告は、原告らが通知書や本件訴状等をもって本件各名誉 毀損発言の削除を求めた後も、現在に至るまでこれに応じて削除することがなく、本件 各名誉毀損発言が書き込まれた本件1ないし3のスレッドは、現在も、本件掲示板に存 在しており、不特定多数の者が閲覧し得る状態に置かれている。  原告Bは、昭和58年に動物病院を開業し、現在まで、原告Aの代表者・動物病院の 院長として動物病院を経営し、獣医として診療を行い、日本獣医学会、日本臨床獣医学 会等にいくつかの論文を発表しており、そのため、上記動物病院は、日本各地から多数 の飼主が訪れる病院であること(甲27ないし32)からすれば、本件掲示板に本件各 名誉毀損発言が存在し続け、現在まで不特定多数の者の閲覧し得る状況に置かれている ことは、原告Bに多大な精神的苦痛を与えたほか、原告Aの経営にも相当の影響を及ぼ すものと認められる。 (2) 以上のような諸般の事情に鑑みれば、本件各名誉毀損発言がなされた時点において、 電子掲示板を運用・管理する者が掲示板上の発言を削除する際の指標となるべき法令等 が存在しなかったこと、本件各名誉毀損発言の書き込みをしたのは、複数人と思われる 匿名の者であり、被告自身が本件各名誉毀損発言の書き込みに直接関与したものとは認 められないことなどの事情を考慮しても、被告が本件各名誉毀損発言を削除するなどの 措置をとらなかったことにより、原告らが被った精神的損害、経営上の損害は、各20 0万円を下らないものと認めるのが相当である。  5 争点(4)(本件各発言の削除を求めることの可否)について   (1) 人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評 価である名誉を違法に侵害された者は、損害賠償及び名誉回復のための処分を求めるこ とができるほか、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵 害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めるこ とができる場合がある(最高裁昭和56年(オ)第609号同61年6月11日大法廷判 決・民集40巻4号872ページ参照)。   (2) そして、前記のとおり、被告が本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置を講 じなかった行為は、原告らの名誉を毀損する不法行為を構成するのであり、これに加え、 本件各名誉毀損発言の内容は、真実と認めるに足りず、その表現も極めて侮辱的なもの であり、獣医である原告Bの受けた精神的苦痛の程度は大きかったものと認められ、原 告Bの経営する原告Aもその経営に相当の影響を受けたものと認められ、さらに本件各 名誉毀損発言が削除されない限り、原告らに継続して損害が生じると予想されること、 被告は、通知書、本件訴状及び請求の趣旨訂正申立書において本件各名誉毀損発言の削 除を求められた後も、これに応じて削除をすることはなく、本件各名誉毀損発言は現在 も本件掲示板に存在し、不特定多数人の閲覧し得る状態に置かれていること、本件各名 誉毀損発言を削除すべきものとしても、その内容及び匿名で発言していることに照らし、 発言者が被る不利益は少なく、また、被告が被る不利益も少ないといえることなどの諸 事情を考慮すると、原告らは、それぞれ、人格権としての名誉権に基づき、被告に対し、 本件各名誉毀損発言の削除を求めることができるものというべきである。   (3) 以上に対し、本件1の発言の番号764、872の各発言については、前記2 (2)イのとおり、原告らの名誉を毀損するものとは認められないから、これらの発言の削 除を求めることはできない。   (4) また、原告らは、被告に対し、本件掲示板内の各掲示板における本件1、2の 発言と同一の文言の削除を求めており、その趣旨は必ずしも明らかではないものの、現 に書き込まれている名誉毀損発言の削除を求めているものと解される。     そして、前記のとおり、本件3の発言(本件3のスレッドの番号93の文言) については、人格権としての名誉権に基づき、削除を求めることができると解するのが 相当である。しかし、上記以外には、本件掲示板内のいずれかの掲示板に本件1、2の 発言と同一の文言が書き込まれていることを認めるに足りる証拠はなく、上記以外の発 言の削除を求めることはできないというほかない。     仮に、原告らの請求が、将来生ずべき侵害の予防として削除を求めているとし ても、本件記録中に本件掲示板内の各掲示板に本件各名誉毀損発言と同一の文言が記載 される具体的なおそれがあるものと認めるに足りる証拠はないから、本件掲示板内の各 掲示板において本件各名誉毀損発言と同一の文言の削除を求めることはできない。  (5) なお、原告らは、民法723条を根拠としても本件各発言の削除を求めているが、 同様に、本件各名誉毀損発言以外の各文言の削除を認めることはできない。  6 結論   以上によれば、原告らの請求は、各200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌 日であることが記録上明らかな平成13年8月5日から支払済みまで民法所定の年5分 の割合による遅延損害金の支払並びに本件各名誉毀損発言の削除を求める限度で理由が あるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 なお、削除請求及び訴訟費用の仮執行宣言については、相当でないから付さないことと する。 東京地方裁判所民事第24部 裁判長裁判官 山口 博    裁判官 伊東 顕    裁判官 寺尾 亮 ・別紙発言目録1 (各番号はレス番号 スレッド題名「悪徳動物病院告発スレッド!!」 URL「(略)」) (略) ・別紙発言目録2 (各番号はレス番号 スレッド題名「悪徳動物病院告発スレッド−Part2−」 U RL「(略)」) (略) ・別紙発言目録3 (番号はレス番号 スレッド題名「a動物病院vsひろゆき」 URL「(略)」) (略)