・東京地判平成14年6月28日判時1795号151頁  歌謡ショー事件:第一審  本件は、(1)被告ダイサンが、平成5年1月16日から平成7年12月2日までの間に、 本件演奏会(1)を開催し、原告の管理する管理著作物を演奏使用した行為について、原告 との間で著作物使用料に関する和解契約を締結したにもかかわらず、同契約のとおり履 行しないとして、被告ダイサンに対して未払著作物使用料等の支払を求める請求、(2)被 告ダイサンは、平成8年1月28日から平成9年8月20日までの間に、本件演奏会(2) を開催し、原告の許諾を受けることなく管理著作物を演奏使用したとして、被告ダイサ ンに対して、将来にわたる演奏会の開催禁止を求めるとともに、被告ダイサン及び被告 Aに対して、著作物使用料相当損害金の支払を求める請求、(3)被告オカモトは、平成9 年8月30日から平成13年5月18日までの間に、本件演奏会(3)を開催し、原告の許 諾を受けることなく管理著作物を演奏使用したとして、被告オカモトに対して、将来に わたる演奏会の開催禁止を求めるとともに、被告オカモト、被告B及び被告Aに対して、 著作物使用料相当損害金請求からなる。  被告らは、上記演奏会にいわゆるプロモーターとして関与した。具体的には、(ア)演奏 会の会場を設定すること、(イ)入場料金を決定すること、(ウ)チケットの印刷及び販売を すること、(エ)演奏会に関する宣伝方法を決定し、実施すること、(オ)集客のためのセー ルス活動をすること、(カ)演奏会当日の会場内外の警備関係を処理すること、(キ)演奏会 当日の会場の運営及び管理をすること、(ク)諸官庁への届出及び許可申請などをすること、 がふくまれ、これらの演奏会の広告等には、被告らが主催者として記載されていた。他 方、これらの演奏会に出演する歌手等が所属するプロダクションの業務内容は、(ア)歌手 が演奏会において歌う曲目を選定すること、(イ)演奏会の時間を決定すること、(ウ)演奏 会での舞台上の照明や音響を設定すること、(エ)バックバンドを設定すること、(オ)演奏 会の演出等を関係者と打ち合わせること、であった。  判決は、本件演奏会(3)中の79番、90番をのぞき、その演奏の主体について、「被 告ダイサン又は被告オカモトの管理の下に行われており、かつ、被告ダイサン又は被告 オカモトは、その演奏によって経済的利益を得ることができる地位にあったものと認め られるから、これらの演奏会に関しては、被告ダイサン又は被告オカモトが、原告の管 理著作物を演奏使用したものと認めることができる」としたうえで、差止および損害賠 償の請求を認容した。  これに対して、本件演奏会(3)中の79番、90番については、「KHMプロモーショ ンが、会場の設定、チケット販売、セールス活動、演奏会当日の会場の管理等を行い、 売上げを管理し、経費を支出したもので、被告オカモトは、KHMプロモーションが会 場を確保する際に、名義を貸し、KHMプロモーションから謝礼として10万円か20 万円を受け取ったのみであることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そうす ると、上記演奏会に関しては、被告オカモトは、KHMプロモーションが会場を確保す る際に、名義を貸し、その謝礼を得たのみであると認められるから、その演奏の主体が 被告オカモトであるとは認められない」として、この限りで原告の請求を棄却した。 (控訴審:東京高判平成15年1月16日) ■争 点 (1) 本件各演奏会における演奏の主体は、被告ダイサン又は被告オカモトであるかどう か (2) 原告は、被告ダイサンに対して未払著作物使用料等の請求権を有するかどうか (3) 原告は、被告オカモト及び被告ダイサンに対して、差止請求権及び損害賠償請求権 又は不当利得返還請求権を有するかどうか並びにその数額 (4) 原告は、被告A及び被告Bに対して、商法266条の3第1項又は有限会社法30 条の3第1項に基づく請求権を有するかどうか及びその数額 ■主 文 1 被告有限会社ダイサンプロモーション及び被告有限会社オカモトは、別添平成13 年度版全国公立文化施設名簿記載の施設をはじめとする日本国内の演奏会場において、 別添楽曲リストに記載の音楽著作物を、歌謡ショー等の催物を開催し、歌手及びバンド により演奏(歌唱を含む)させる方法により使用してはならない。 2 被告有限会社ダイサンプロモーションは、原告に対し、金1529万6364円を 支払え。 3 被告有限会社ダイサンプロモーション及び被告Aは、連帯して、原告に対し、金6 76万5140円及び別紙演奏会目録(2)記載の各使用料額に対する同目録記載の各遅延 損害金起算日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告有限会社オカモト及び被告Bは、連帯して、原告に対し、金1509万690 0円及び別紙演奏会目録(4)記載の各使用料額に対する同目録記載の各遅延損害金起算日 から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の、その余を被告らの負担とする。 7 この判決は、第1項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。 ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)について   (1) 前記争いのない事実に証拠(甲18、甲19の1ないし78、甲22の1ない し52、甲23の1ないし116、甲26ないし33、甲34の1ないし9、甲35の 1ないし38、甲36、乙2、3、証人C、被告A)及び弁論の全趣旨を総合すると、 以下の事実が認められる。    ア 被告ダイサンは、本件演奏会(1)及び本件演奏会(2)(37番、41番、42 番を除く)に、被告オカモトは、本件演奏会(3)(79番、90番を除く)に、いわゆる プロモーターとして関与した。  これらの演奏会は、いわゆる歌謡ショーであって、歌手やバンドが楽曲を演奏 するものであるところ、上記演奏会において、原告の管理著作物が演奏された。演奏さ れた楽曲の大部分が原告の管理著作物であった。    イ これらの演奏会における被告ダイサン又は被告オカモトのプロモーターとし ての業務内容は、概ね以下のとおりである。 (ア) 演奏会の会場を設定すること     (イ) 入場料金を決定すること     (ウ) チケットの印刷及び販売をすること     (エ) 演奏会に関する宣伝方法を決定し、実施すること     (オ) 集客のためのセールス活動をすること     (カ) 演奏会当日の会場内外の警備関係を処理すること     (キ) 演奏会当日の会場の運営及び管理をすること     (ク) 諸官庁への届出及び許可申請などをすること  また、これらの演奏会の広告等には、被告ダイサン又は被告オカモト(ダイサ ンエージェンシー)が主催者として記載されていた。    ウ 他方、これらの演奏会に出演する歌手等が所属するプロダクションの業務内 容は、概ね以下のとおりである。     (ア) 歌手が演奏会において歌う曲目を選定すること     (イ) 演奏会の時間を決定すること     (ウ) 演奏会での舞台上の照明や音響を設定すること     (エ) バックバンドを設定すること     (オ) 演奏会の演出等を関係者と打ち合わせること    エ 平成10年7月28日、被告オカモトは、平成10年9月3日に「はまホー ル(浜松市民会館)」で開催されるEコンサートに関し、Eのプロダクションである有 限会社MO綜合企画との間で、概ね以下のような内容の契約を締結した。     (ア) 出演料  777万7777円+消費税38万8889円     (イ) 出演料支払条件 被告オカモトは、同年8月20日200万円支払い、残 額は同年9月3日公演前に支払う。     (ウ) 交通費、宿泊費及び食費、現地送迎費、現地照明費は、いずれも被告オカ モトが実費を負担する。        運搬費は、被告オカモトが負担する。        音響照明費、制作費、源泉課税は、MO綜合企画の負担とする。        その他アルバイト10名は被告オカモトの実費負担とする。    オ 被告ダイサン又は被告オカモトは、プロダクションに対して支払う出演料及 びその他の経費(250万円程度は必要である)を基に、いくらのチケットが何枚販売 できると利益が上がるかを計算して、入場料金を決定する。プロダクションに対しては 一定額の出演料を支払うのみであるので、予想よりも収入が多かった場合は、被告ダイ サン又は被告オカモトの利益となり、逆に予想よりも収入が少なかった場合は、被告ダ イサン又は被告オカモトの損失となる。    カ 上記アの各演奏会については、被告ダイサン又は被告オカモトとプロダクシ ョンとの間で、著作権使用料をいずれが負担するかの明示の契約はない。一般的にも、 著作権使用料を、プロダクションが負担するのか、プロモーターが負担するのかを、契 約書上明示しない場合が多い。    キ 原告は、原則として、プロモーターに対して、著作権使用料の支払手続をす るよう求め、プロモーターから著作権使用料の支払を受けている。   (2) 以上認定した事実からすると、確かに、演奏会の内容(演奏時間や演奏楽曲、 使用するバンド等)に関しては、演奏会に出演する歌手等が所属するプロダクションが 決定し、かつ、プロダクションは、出演料収入を得ていると認められる。しかしながら、 上記認定した事実からすると、演奏会の内容以外の点、すなわち、演奏会の会場を設定 し、入場料金を決め、チケットを販売し、演奏会に関する宣伝を始めとするセールス活 動を行い、演奏会当日の会場の運営、管理をするなどの業務は、すべてプロモーターで ある被告ダイサン又は被告オカモトが行っていたこと、プロダクションが得る出演料は 定額で、演奏会の損益は被告ダイサン又は被告オカモトに帰属すること、以上の事実が 認められ、これらの事実からすると、上記(1)アの各演奏会における演奏は、被告ダイサ ン又は被告オカモトの管理の下に行われており、かつ、被告ダイサン又は被告オカモト は、その演奏によって経済的利益を得ることができる地位にあったものと認められるか ら、これらの演奏会に関しては、被告ダイサン又は被告オカモトが、原告の管理著作物 を演奏使用したものと認めることができる。   (3) 本件演奏会(2)中の37番、41番、42番について  証拠(甲22の37、41、42、甲36、被告A)及び弁論の全趣旨によると、 本件演奏会(2)中の37番、41番、42番の演奏会については、Fのプロダクションで あるアベインターナショナルから直接被告ダイサンに対して、演奏会の開催に関する相 談があり、被告ダイサンは、会場を確保すると共に、チケットの販売、営業活動等通常 の演奏会開催に向けての準備と同一の活動を行ったこと、売上げから諸経費を控除して 残った金額を、アベインターナショナルと被告ダイサンで折半する約定であったが、実 際は利益が出なかったこと、これらの演奏会では、原告の管理著作物が演奏されたこと、 以上の事実が認められる。以上の事実からすると、上記演奏会に関しては、被告ダイサ ンは、通常行っている演奏会におけるプロモーターとしての活動と同一の活動を行って おり、その損益もアベインターナショナルとともに被告ダイサンに帰属するものと認め られるから、これらの演奏会に関しては、被告ダイサンが、原告の管理著作物を演奏使 用したものと認めることができる。   (4) 本件演奏会(3)中の79番、90番について  証拠(甲23の79、90、被告A)及び弁論の全趣旨によると、本件演奏会(3) 中の79番、90番の演奏会については、KHMプロモーションが、会場の設定、チケ ット販売、セールス活動、演奏会当日の会場の管理等を行い、売上げを管理し、経費を 支出したもので、被告オカモトは、KHMプロモーションが会場を確保する際に、名義 を貸し、KHMプロモーションから謝礼として10万円か20万円を受け取ったのみで あることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そうすると、上記演奏会に関し ては、被告オカモトは、KHMプロモーションが会場を確保する際に、名義を貸し、そ の謝礼を得たのみであると認められるから、その演奏の主体が被告オカモトであるとは 認められない。     この点、原告は、名義を貸したか否かは対内的な問題にすぎず、対外的な関係 では主催者として表示された者が責任主体となると主張するが、対外的に主催者とされ ているとしても、実際に演奏の主体としての行為をしなかった者を、演奏の主体と認め ることはできないから、原告のこの主張を採用することはできない。