・大阪地判平成14年7月25日  オートくん事件  本件は、高知県の公共事業入札及び公共事業における契約関係書類並びに現場管理関 係書類の作成支援ソフトウエア「オートくん」を販売する原告(大斗有限会社)が、 「高知県版書類作成支援ソフト」を製作、譲渡、公衆送信する被告(有限会社冨士測機) に対し、主位的に、被告ソフトウエアが本件ソフトウエアを複製又は翻案したものであ り、被告の製作、譲渡、公衆送信行為が原告の著作権(複製権、翻案権)を侵害すると して、著作権法112条1項に基づきその差止めを求めるとともに、損害賠償を請求し、 予備的に、被告の被告ソフトウエアの製作、譲渡、公衆送信行為が不法行為に該当する として、民法709条に基づきその差止め及び損害賠償を求めたものである。  判決は、本件ソフトウエアの著作物性は認めたものの類似性の欠如を理由として複製 または翻案を認めなかった。他方、「帳票部分は、高知県の土木関係書式をエクセルの ワークシートに入力したものであり、誰が作成しても同一又は類似の記載にならざるを 得ないから、作成者の何らかの個性が表現されたものとはいえず、帳票部分のみで独自 に著作物とすることはできない」としながらも、「これらの被告シート22枚は、被告 において、本件旧バージョン又は本件ソフトウエアから取り出した本件シートを複製し た上で、これを改変したものと推認され」るとしたうえで、「帳票部分も、高知県の制 定書式により近い形式のワークシートを作るため、作成者がフォントやセル数について の試行錯誤を重ね、相当の労力及び費用をかけて作成したものであり、そのようにして 作られた帳票部分をコピーして、作成者の販売地域と競合する地域で無償頒布する行為 は、他人の労力及び資本投下により作成された商品の価値を低下させ、投下資本等の回 収を困難ならしめるものであり、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する 営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである」とし て、損害賠償の請求を認容した。 ■争 点 (1) 主位的請求(著作権侵害) ア 本件ソフトウエアの著作物性 イ 被告ソフトウエアは、本件ソフトウエアを複製又は翻案したものといえるか。 (2) 予備的請求(不法行為)  被告による被告ソフトウエアの製作、譲渡、公衆送信行為が不法行為に当たるか。 ■判決文 (3) 民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律 上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足り るというべきである。他人のプログラムの著作物から、プログラムの表現として創作性 を有する部分を除去し、誰が作成しても同一の表現とならざるを得ない帳票のみを抜き 出してこれを複製し、もとのソフトウエアとは構造、機能、表現において同一性のない ソフトウエアを製作することが、プログラムの著作物に対する複製権又は翻案権の侵害 に当たるとはいえないことは、前記1のとおりである。しかし、帳票部分も、高知県の 制定書式により近い形式のワークシートを作るため、作成者がフォントやセル数につい ての試行錯誤を重ね、相当の労力及び費用をかけて作成したものであり、そのようにし て作られた帳票部分をコピーして、作成者の販売地域と競合する地域で無償頒布する行 為は、他人の労力及び資本投下により作成された商品の価値を低下させ、投下資本等の 回収を困難ならしめるものであり、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値す る営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきである(以 下、上記(2)、イで認定した被告の一連の行為を「本件不法行為」という。)。したがっ て、被告は、原告に対し、本件不法行為により原告が被った損害を賠償する責任を免れ ない。  原告は、不法行為に基づく差止請求として、被告ソフトウエアの製作、譲渡、公衆送 信行為の差止めを求める。しかし、不法行為を理由に相手方の一定の行為を差し止める 請求は、特別にこれを認める法律上の規定の存しない限り、不法行為により侵害された 権利が排他性のある支配的権利である場合にのみ許されるというべきである。本件にお いては、排他性のある権利である著作権の侵害は認められず、取引社会において保護さ れるべき営業活動上の利益が侵害されたにとどまるから、原告は不法行為を理由として 被告に前記行為の差止めを請求することはできない。