・東京地判平成14年8月30日判時1808号111頁  「DEAD OR ALIVE 2」事件:第一審  原告(テクモ株式会社)が著作権および著作者人格権を有するプレイステーション2 用ゲームソフト「DEAD OR ALIVE 2」に「かすみ」という名称で登場す るキャラクターについて、そのユーザーが裸体の「かすみ」を選択できるようにメモリ ーカード上のパラメータ・データを編集できるプログラム(本件編集ツール)を開発し、 これをCD−ROMマガジン「お楽しみCD」30号、「お楽しみCD」31号中のC D−ROMに収録し、全国490店舗に販売した被告(株式会社ウエストサイド)に対 して、原告が、翻案権または同一性保持権を侵害するものであると主張して、損害の賠 償を請求した事案。  判決は、「本件編集ツールは、本件裸体画像を表示することができることを主要な目 的としているところ、被告は、そのような本件編集ツールを使用して作成した本件メモ リーカードを使用して、本件裸体画像を表示させる者がいることを予期して、本件編集 ツールを含む本件CD−ROMを多数販売し、その結果、ユーザーが被告の指示した方 法に従って機器を操作することによって本件メモリーカードを作成し、それを通常のメ モリーカードの使用方法に従って使用することにより、本件裸体画像が表示され、本件 ゲームソフトが改変されたものと認められるから、本件CD−ROMに本件編集ツール を収録して販売し、その使用を意図して流通に置いた被告は、本件メモリーカードの使 用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、民法709条 の不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である」として、損害賠償請 求を認容した。 (控訴審:東京高判平成16年3月31日) ■評釈等 岡邦俊・JCAジャーナル49巻10号68頁(2002年) ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)について (1) 上記争いのない事実並びに証拠(甲1の1、2、甲2、3、61、62、検甲 1、3、検乙1)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。 ア 本件ゲームソフトは、ゲームを行う主人公(プレイヤー)が12人のキャラク ターの中から1人のキャラクターを任意に選択し、さらに複数のコスチュームから1つ を任意に選択し、8つのゲームモードから1つを任意に選択した上で、対戦相手と戦闘 し、戦闘に勝利すると場面が変わり他の対戦相手と戦闘するというストーリーを内容と する。 イ プレイヤーが、市販のPS2用メモリーカードをPS2所定のスロットに挿入 した状態で本件ゲームソフトを起動させると、主要登場キャラクターの戦闘姿をデモン ストレーションするオープニングムービーがモニター上に表示される。このオープニン グムービー中にゼリー状のカプセルに包まれた裸体の「かすみ」が登場する。これは本 件ゲームソフトのストーリー中に「偽かすみ」がクローン技術によって作られたとの設 定があり、そのストーリーの中で「かすみ」が捕らえられているシーンを表示したもの である。 ウ プレイヤーが、PS2所定のアナログコントローラを操作し、「CHARAC TER SELECT」と題する画面を表示させると、画面下中央部分に12人のキャ ラクターの顔を表示したアイコンが表示される。ユーザーはアナログコントローラを操 作し、この中の1人のキャラクターのアイコンにカーソルを合わせて選択すると、画面 左下部分に、「C1」、「C2」等が白い文字で記載された、角がやや丸い横長の長方 形のアイコンが縦に並んで表示される。これは当該キャラクターのコスチューム数デー タの数だけ表示される。プレイヤーがこの中から1つのコスチュームのアイコンにカー ソルを合わせると、画面上左側にコスチュームが表示され、そのアイコンをプレイヤー が選択すると、戦闘シーンにおいて当該キャラクターが着用するコスチュームが決定さ れる。 エ プレイヤーが12人のキャラクターから「かすみ」というキャラクターを選択 した場合、初期段階では、画面左下に下から順に「C1」、「C2」と表示された2つ のアイコンから2種類のコスチュームを選択することができ、対戦相手との戦闘に勝利 しゲームをクリアするごとに選択可能なコスチュームが増えていき、最終的には6種類 のコスチュームを選択することができるようになる。上記コスチュームの中には本件裸 体画像は含まれていない。 オ 本件ゲームソフトにおいては、ユーザーがセーブコマンドを選択した際にメモ リーカードに記録されているパラメータ・データ・ファイルの13E0A番目から13 E15番目のアドレスにその時点で各キャラクターが選択可能なコスチュームの数を記 録している。「かすみ」の場合、13E0F番目のアドレスにゲームの進行具合に応じ て「02」から「06」までのいずれかが記録され、このアドレスに「02」というデ ータが格納されたときはプレイヤーは2種類のコスチュームを選択でき、「06」とい うデータが格納されたときは6種類のコスチュームを選択できる。本件ゲームソフトに おいては、通常、13E0F番目のアドレスに「07」というデータが格納されること はなく、仮に「07」というデータが格納された場合でも、チェックサムプログラムに よりエラーとなる。したがって、コスチュームリミットテーブル上の「かすみ」の使用 可能なコスチューム数の最大値は6である。  カ 「かすみ」については、その裸体画像が3Dポリゴンデータの形式で、本件ゲ ームソフトに格納されている。  キ 被告は、本件ゲームソフトのプレイヤーが「かすみ」について戦闘シーンの際 に、裸体画像を選択できるように、メモリーカード上のパラメータ・データを編集でき るプログラム(本件編集ツール)を開発し、これを本件CD−ROMに収録して、本件 CD−ROMを包装したCD−ROMマガジン「お楽しみCD」30号及び31号とし て全国490店舗に販売した。   なお「お楽しみCD」30号のパッケージ表紙に「ここまでやっていいのか? ヌードのかすみでゲームする!PS2 DEAD OR ALIVE2」との宣伝文言 が掲載され、被告作成のホームページにも本件編集ツールの効果として「[PSメモリ ーカード変更]裸霞、全コスチューム使用可能」との記載がある。 ク 本件CD−ROMを購入したユーザーは、それに収録されている本件編集ツー ルによってPS2用メモリーカードに記録されたパラメータ・データを編集して、本件 メモリーカードを作成することができる。   本件編集ツールは、メモリーカードの13E0F番目のアドレスに格納されて いるデータを「07」とすると共に、これに応じてチェックサムデータを変更するもの である。 ケ ユーザーが、PS2所定のスロットに本件メモリーカードを挿入し、12人の キャラクターの中から「かすみ」を選択すると、初期段階から、画面左下の「C1」か ら「C6」までのアイコンに加えてさらに「C6」の上に「C2」と表示され、合計7 種類のコスチュームが選択可能となる。ユーザーが「C2」のアイコンにカーソルを合 わせると、画面上左側に「かすみ」の裸体の静止画像が表示される。プレイヤーが「C 6」の上の「C2」を選択し、8つのゲームモードのうちストーリーモードを選択する と、本件裸体画像の「かすみ」が対戦相手と戦闘することになる。 (2) 本件ゲームソフトの映像は、思想又は感情を創作的に表現したもので、文芸、 学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法2条1項1号にいう著作物と いうことができるものと解される。そして、上記(1)で認定した事実によると、本件編集 ツールによって編集された本件メモリーカードを使用して、本件裸体画像を表示するこ とは、本件ゲームソフト中の「かすみ」のコスチュームの映像を改変するものであって、 原告の本件ゲームソフトに対して有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当 である。なぜなら、上記(1)で認定した事実によると、通常市販されているメモリーカー ドを使用した場合には、「かすみ」の使用可能なコスチューム数の最大値は6であって、 本件裸体画像を表示することはできないところ、本件メモリーカードを使用することに よって、上記コスチューム数の制限を超え、本件裸体画像を表示することが可能になる からである。   以上のとおり、通常市販されているメモリーカードを使用した場合には、表示さ れない本件裸体画像が、本件メモリーカードを使用することによって、表示される以上、 上記(1)認定のとおり、本件ゲームソフトには、「かすみ」の裸体画像が3Dポリゴンデ ータの形式で格納されており、また、オープニングムービー中に「かすみ」の裸体画像 が表示され、その他、前記第3の1【被告の主張】(1)において被告が主張する事実が存 するとしても、これらのことは、上記同一性保持権を侵害するとの認定を左右すること はないというべきである。 (3) 上記(1)で認定した事実によると、被告は本件編集ツールを含む本件CD−RO Mを雑誌に収録して販売し、多数の者が現実に本件CD−ROMを入手したものと認め られる。そうすると、被告は、現実に本件編集ツールを使用して作成した本件メモリー カードを使用する者がいることを予期した上で本件CD−ROMを流通に置いたものと いうことができ、他方、本件編集ツールを購入したユーザーが、現実にこれを使用して 本件メモリーカードを作成し、本件裸体画像を表示させたことを推認することができる。 また、上記(1)で認定した事実及び弁論の全趣旨によると、ユーザーによる本件メモリー カードの作成は、ユーザーが被告の指示した方法に従って機器を操作することによって することができ、ユーザーがそのメモリーカードを通常のメモリーカードの使用方法に 従って使用することにより、本件裸体画像が表示されるものであり、そこには、ユーザ ー固有の判断は必要とされていないものと認められる。   ところで、上記(1)で認定したとおり、ユーザーは本件編集ツールによって作成 される本件メモリーカードを使用することにより、本件裸体画像を表示することが可能 になるにとどまらず、最初から本件裸体画像を含むすべての「かすみ」のコスチューム を戦闘シーンで使用することが可能になるものと認められるが、前記(1)キ認定のとおり、 「お楽しみCD」30号のパッケージ表紙に「ここまでやっていいのか?ヌードのかす みでゲームする!PS2 DEAD OR ALIVE2」との宣伝文言が掲載され、 被告作成のホームページにも本件編集ツールの効果として「[PSメモリーカード変更] 裸霞、全コスチューム使用可能」との記載があることからすると、本件編集ツールが、 本件裸体画像を表示することができることを主要な目的としていることは明らかである。   以上述べたところを総合すると、本件編集ツールは、本件裸体画像を表示するこ とができることを主要な目的としているところ、被告は、そのような本件編集ツールを 使用して作成した本件メモリーカードを使用して、本件裸体画像を表示させる者がいる ことを予期して、本件編集ツールを含む本件CD−ROMを多数販売し、その結果、ユ ーザーが被告の指示した方法に従って機器を操作することによって本件メモリーカード を作成し、それを通常のメモリーカードの使用方法に従って使用することにより、本件 裸体画像が表示され、本件ゲームソフトが改変されたものと認められるから、本件CD −ROMに本件編集ツールを収録して販売し、その使用を意図して流通に置いた被告は、 本件メモリーカードの使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したも のとして、民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当であ る(最高裁判所第3小法廷平成13年2月13日判決・民集55巻1号87頁参照)。 (4) 被告は、ユーザーによる本件メモリーカードを使用する行為は、通常それによ って表示された「かすみ」の裸体画像を公衆に見せるものではないから、同一性保持権 侵害に当たらないと主張するが、上記(3)で述べたとおり、被告は、本件編集ツールを本 件CD−ROMに収録して多くの本件CD−ROMを販売することにより、それを買い 受けた者が、本件メモリーカードを使用して、本件ゲームソフトを改変するという結果 を生じさせたのであるから、その結果は、広範囲に生じており、不特定多数の者が改変 された映像を見たものと認められる。したがって、被告の行為により同一性保持権侵害 が生じたものということができることは明らかである。 (5)  被告は、現実に利用行為を行っているわけではない者を規範的に利用行為の主 体と認定するためには、@その者の管理、支配の下に、現実の行為者が当該利用行為を 行っていること、Aその者が、現実の行為者により利用行為がされることにより利益の 得ることを目的としていること、以上の要件が具備されることを要するところ、本件に ついては、これらの要件を具備していないから、被告を侵害行為の主体と考えることは できないと主張する。 上記@、Aの要件を具備している者が、著作権侵害の主体として責任を負うこと があるとしても、著作権侵害の責任を負う者が、このような者に限定される理由はない。 本件においては、前記(3)のとおり、被告は、本件編集ツールを含む本件CD−ROMを 多数販売し、その結果、ユーザーが、本件メモリーカードを作成使用することにより、 本件ゲームソフトが改変されたものと認められるから、このような事実関係の下では、 被告について不法行為の成立を認めるのが相当であって、それが妨げられる理由はない。 (6)  被告は、本件CD−ROMには、本件編集ツール以外に様々なソフトやデータ が収録されていると主張するが、このことは、複数のソフトウェア等が一つのCD−R OMに収録して販売されたというにすぎないから、この事実は、前記不法行為の成立を 妨げるものではない。  (7) 以上の次第であるから、被告は原告の本件ゲームソフトに対する同一性保持権 を侵害した者として不法行為責任(民法709条)を負うものというべきである。 2  争点(2)について 上記1で認定判断したとおり、被告の同一性保持権侵害行為の内容は、本件ゲーム ソフトにおいて、本件裸体画像を表示することができるようにしたものである。そして、 前記(1)キ認定のとおり、被告は、本件CD−ROMを包装したCD−ROMマガジン 「お楽しみCD」30号及び31号を全国490店舗に販売したことが認められる。こ れらの事実に、本件に現れたその他の事情を総合すると、被告の同一性保持権侵害行為 による慰謝料の額は、200万円が相当である。  なお、前記第3、1【原告の主張】(3)の事実があり、これが不法行為に当たると しても、認容額は、上記金額を超えることはないものと認められるので、この点は、判 断しないこととする。 3  よって、原告の請求は主文の限度で理由がある。    なお、翻案権侵害を理由とする請求は、これが認められたとしても、上記認容額 を超えることがないものと認められるので、この点は、判断しないこととする。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 森  義之    裁判官 内藤 裕之    裁判官 上田 洋幸