・東京地判平成14年9月5日判時1811号127頁  「サイボウズoffice2.0」事件:第一審  原告(サイボウズ株式会社)は、その製作・販売するビジネスソフトウェア「サイボ ウズoffice2.0」は、個々の表示画面がそれぞれ著作物であることに加えて、各表示画面 の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると主張する。そして、被告( 株式会社ネオジャパン)が製作・販売するビジネスソフトウェア「i office 2000 バー ジョン2.43」等は、原告ソフトを複製ないし翻案したソフトウェアであり、被告が被告 ソフトを記憶媒体に収録して、これを頒布し、自社のホームページから利用者にダウン ロードさせた上で、使用許諾している行為は、原告ソフトにおける前記各著作物に関し て原告の有する著作権(複製権・翻案権、頒布権、上映権及び公衆送信権)を侵害する 行為に該当すると主張して、著作権法に基づき、差止および損害賠償等の請求をしてい る。また、原告は、原告ソフトの表示画面が、商品形態として不正競争防止法2条1項 1号にいう周知商品等表示に該当するとして、差止および損害賠償の請求をしている。 さらに、不法行為にもとづく損害賠償請求もおこなっている。  判決は、「これを要するに、原告ソフトの表示画面については、仮にこれを著作物と 解することができるとしても、その創作的表現を直接感得することができるような他者 の表示画面は、原告ソフトの表示画面の創作的要素のほとんどすべてを共通に有し、新 たな要素も付加されていないようなものに限られる。すなわち、仮に原告ソフトの表示 画面を著作物と解することができるとしても、その複製ないし翻案として著作権侵害を 認め得る他者の表示画面は、いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限 られるというべきである」などとしたうえで、原告の各請求を棄却した。 (控訴審:東京高裁平成15年5月30日和解) ■評釈等 松本直樹・(http://homepage3.nifty.com/nmat/cnGohou.htm) 岡邦俊・JCAジャーナル51巻8号36頁 ■争 点 (1) 著作権侵害の有無(争点(1)) (2) 不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)の成否(争点(2)) (3) 民法上の一般不法行為(民法709条)の成否(争点(3)) (4) 原告の損害(争点(4)) ■判決文  「個々の表示画面自体に著作物性が認められるかどうかにかかわらず、表示画面の選 択又は組合せ(配列)に創作性が認められれば、著作物性を認めることができるという べきである。そして、編集物における素材の選択・配列の創作性が著作者により1個の まとまりのある編集物として表現されている集合体を対象として判断されることに照ら せば(著作権法12条1項)、このような表示画面の選択と相互間の組合せ(配列)は、 牽連関係にある表示画面全部を基準として、選択・配列の創作性の有無を検討すべきも のである。」  「そして、仮に原告ソフトの表示画面の選択又は組合せに創作性が認められる場合に おいて、他社ソフトにおける表示画面の選択及び組合せが原告ソフトの複製ないし翻案 に当たるかどうかを判断するに当たっては、原告ソフト全体又はそのうちの特定のアプ リケーションを構成する表示画面全部における表示画面の選択及びその相互間の牽連関 係(組合せ)の創作的特徴が、他社ソフト全体又はそのうちの対応する特定のアプリケ ーションを構成する表示画面全部における表示画面の選択及びその相互間の牽連関係 (組合せ)においても共通して存在し、他社ソフトの表示画面の選択及び組合せから原 告ソフトの表示画面の選択・組合せの創作的特徴が直接感得できるかどうかを判断すべ きものである。」  「これを要するに、原告ソフトの表示画面については、仮にこれを著作物と解するこ とができるとしても、その創作的表現を直接感得することができるような他者の表示画 面は、原告ソフトの表示画面の創作的要素のほとんどすべてを共通に有し、新たな要素 も付加されていないようなものに限られる。すなわち、仮に原告ソフトの表示画面を著 作物と解することができるとしても、その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る 他者の表示画面は、いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られると いうべきである」  「以上のとおり、原告ソフトの表示画面については、個々の表示画面をもって、創作 性を有する思想・感情の表現として、著作物に該当すると認めることができるかどうか は検討すべき点があるが、その点をひとまずおくとしても、原告ソフトの表示画面と被 告ソフトの対応する表示画面との間で共通する点は、いずれもソフトウェアの機能に伴 う当然の構成か、あるいは従前の掲示板、システム手帳等や同種のソフトウェアにおい て見られるありふれた構成であり、両者の間にはソフトウェアの機能ないし利用者によ る操作の便宜等の観点からの発想の共通性を認め得る点はあるにしても、そこに見られ る共通点から表現上の創作的特徴が共通することを認めることはできない。したがって、 原告ソフトにおける個々の表示画面をそれぞれ著作物と認めることができるかどうかは ともかく、いずれにしても、被告ソフトの表示画面をもって、原告ソフトの表示画面の 複製ないし翻案に当たるということはできない。  また、原告は、原告ソフトにおける個々の表示画面のみならず、相互に牽連関係にあ る各表示画面の集合体としての全画面も全体として一つの著作物であると主張している が、被告ソフトは、原告ソフトにないいくつかのアプリケーションを備えているほか、 原告ソフトのアプリケーションに対応するアプリケーションを見ても、少なからぬ数の 表示画面が付加され、これに対応する牽連関係(リンク)も存在するから、この点をも って、既に被告ソフトは、ソフトウェア全体においても、対応する個別のアプリケーシ ョンにおいても、原告ソフトと表示画面の選択と配列を異にするというべきである。さ らに加えて、原告が指摘する、原告ソフトと被告ソフトとの間で表示画面とその牽連関 係(配列)を共通とする部分を検討すると、それらの部分における表示画面の選択・配 列に創作性を認めることができない。したがって、原告ソフトの全体又はこれに含まれ る個別のアプリケーションに属する表示画面の選択及び牽連関係(配列)に、創作性を 認めることができるかどうかはともかくとしても、被告ソフトにおける表示画面の選択 ・配列をもって、原告ソフトの複製ないし翻案ということはできない。  したがって、原告ソフトの著作権の侵害を理由とする原告の請求は、いずれも理由が ない。」