・東京地判平成14年9月19日判時1802号30頁  日亜化学職務発明事件:中間判決  原告は、被告会社の元従業員であり、昭和54年3月、徳島大学工学部修士課程を卒 業後、被告会社(日亜化学工業株式会社)に入社し、平成11年末に退社するまで、被 告会社で半導体発光素子等の研究・開発に従事した。原告は、平成2年9月ころ、窒素 化合物半導体結晶膜の成長方法に関する発明である本件発明「窒素化合物半導体結晶膜 の成長方法」をした。被告会社は、同年10月25日、本件発明につき原告を発明者、 被告会社を出願人として特許出願をし、平成9年4月18日、被告会社を特許権者とし て設定登録(特許第2628404号)を受けた。原告は、本件発明を含むこれらすべ ての発明につき、昭和60年改正社規第17号の付則−1の定める基準(褒賞金支給基 準)に従って、特許出願時に1万円、設定登録時に1万円(合計2万円)の褒賞金を受 け取っている。  原告は、本件発明は、被告会社社長の青色発光ダイオードの研究を中止して高電子移 動度トランジスタの研究をするようにとの業務命令に反して、原告が行ったものである から、職務発明に該当せず、本件発明についての特許を受ける権利は、本件発明の完成 と同時に発明者である原告に原始的に帰属し、その後、現在に至るまで被告に承継され ていないと主張して、被告に対し、主位的に、一部請求として本件特許権の一部(持分 1000分の1)(共有持分)の移転登録を求めるとともに、被告が本件特許権を過去 に使用して得た利益につき不当利得の返還の一部として、1億円及び遅延損害金の支払 を求めている。  また、原告は、予備的に、仮に本件発明についての特許を受ける権利が職務発明とし て被告に承継されている場合には、特許法35条3項に基づき、発明の相当対価の一部 請求として、本件特許権の一部(持分1000分の1)(共有持分)の移転登録並びに 1億円及び遅延損害金の支払を求めるとしている。  さらに、仮に、特許法35条3項に基づく対価請求として、特許権の一部(共有持分) の移転登録を求めることが許されない場合には、同項に基づき、発明の相当対価の一部 請求として、20億円及び遅延損害金の支払を求めるとしている。  判決は、本件発明の職務発明該当性について、「被告会社は、蛍光体や電子工業製品 の部品・素材の製造販売及び研究開発等を目的とする会社であり、原告は、被告会社で 半導体発光素子等の研究・開発に従事していたものである。そして、本件発明は、平成 2年9月ころ、原告が被告会社の従業員として在職中にしたものであり、窒素化合物半 導体結晶膜の成長方法に関する発明である。以上によれば、本件発明は、被告会社の業 務範囲に属し、その従業員である原告の職務に属する行為として行われたものであるか ら、特許法35条にいう職務発明に該当する」としたうえで、「昭和60年改正社規第 17号は、特許法35条にいう「勤務規則その他の定」に該当するものということがで きる。本件発明は、同社規が施行された後にされた職務発明であるから、同社規の条項 が適用された結果、本件発明についての特許を受ける権利は、被告会社に承継されたも のというべきである」とされ、さらに「……これらの事情、殊に上記Cの出願依頼書の 「譲渡証書」に原告が署名した点に照らせば、本件発明の特許を受ける権利については、 原告と被告会社との間で、原告が被告会社にこれを譲渡する旨の契約が成立したものと 認定するのが、相当である。したがって、このような原告と被告会社との間の個別の譲 渡契約に基づいても、本件発明についての特許を受ける権利は、被告会社に承継された ものと認めることができる。」とした。  結論として、「以上のとおり、本件においては、本件発明は職務発明に該当すると認 められるところ、被告会社の昭和60年改正社規第17号が特許法35条にいう「勤務 規則その他の定」に該当するものとして存在したほか、遅くとも本件発明がされる前ま でには、従業員と被告会社との間で、職務発明については被告会社が特許を受ける権利 を承継する旨の黙示の合意が成立していたと認められ、また、本件発明の特許を受ける 権利については、原告と被告会社との間で、これを被告会社に譲渡する旨の個別の譲渡 契約も成立していたと認められる。したがって、本件発明についての特許を受ける権利 は、特許法35条の規定の効果として、発明者である原告から被告会社に承継されたも のというべきであるから、この旨をいう被告の主張は、理由がある」とした。 (終局判決:東京地判平成16年1月30日)