・東京地判平成14年12月13日  国語教材事件  本件は、言語著作物の著作権者である原告らが、被告(株式会社新興出版社啓林館、 株式会社文理)が、国語検定教科書に準拠した本件各書籍において本件各著作物を掲載 したことが、原告らの複製権、著作者人格権を侵害すると主張し、被告らに対し、主位 的に損害賠償、予備的に不当利得の返還を求める事案である。  判決は、引用の該当性は否定し、表記の変更や句読点の削除について同一性保持権の 侵害、および氏名表示権の侵害を認め、損害賠償の請求を認容した。 ■争 点 (1) 被告株式会社文理(以下「被告文理」という。)が、本件各著作物を本件各書籍に 掲載することが、著作権法32条1項にいう「引用」に当たるかどうか (2) 著作者人格権侵害 ア 被告らによる本件各書籍の印刷、出版、販売が、原告A、同B、同E及び同Gの 著作者人格権(同一性保持権)を侵害するかどうか イ 被告株式会社新興出版社啓林館(以下「被告啓林館」という。)による本件各書 籍の印刷、出版、販売が、原告Fの著作者人格権(氏名表示権)を侵害するかどうか (3) 消滅時効の成否 (4) 本件請求が権利濫用又は信義則違反に当たるかどうか (5) 故意又は過失の有無 (6) 損害の発生及び額 ■判決文 (7) 著作権法20条2項1号は、学校教育の目的上やむを得ない改変を認めているが、 上記(1)ないし(6)記載の本件各書籍が同号の「第33条第1項(同条第4項において準 用する場合を含む。)又は第34条第1項の規定により著作物を利用する場合」に当た らないことは明らかであり、同号に該当する教科書に準拠した教材であるからといって、 教科書に当たらないものについて、同号により改変が適法になるものということはでき ない。  また、著作権法20条2項4号は、同一性保持権による著作者の人格的利益の保護を 例外的に制限する規定であり、かつ、同じく改変が許される例外的場合として同項1号 ないし3号の規定が存することからすると、同項4号にいう「やむを得ないと認められ る改変」に該当するというためには、著作物の性質、利用の目的及び態様に照らし、当 該著作物の改変につき、同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同程度の必要性 が存在することを要するものと解される。しかるところ、上記のとおり上記(1)ないし (6)記載の本件各書籍は同項1号で定める場合には当たらず、同項1号で定める場合と同 程度の必要性が存在すると認めることもできないし、その他被告ら主張の事情をもって しても、本件各書籍の発行に当たり上記各著作物に改変を加えるにつき、上記のような 必要性が存在すると認めることはできない。したがって、著作権法20条2項4号が定 める「やむを得ないと認められる改変」に該当するとは認められない。 (8) よって、上記(1)ないし(6)認定の各改変がされたことによって、原告A、同B、 同E及び同Gが本件各著作物について有する同一性保持権が侵害されたものと認められ る。