・東京高判平成15年1月16日  歌謡ショー事件:控訴審  第一審判決は、168件の演奏会中166件について、被告(被控訴人)を演奏の主 体と認めて原告の請求を認容したが、残る2件の演奏会については、被告(被控訴人) オカモトは、主催名義を訴外(有限会社KHMプロモーション)に貸して謝礼を受けた だけであるという理由で、演奏は被告(被控訴人)オカモトによるものではないとして この限りで差止および損害賠償の請求を棄却した。これに対して、原告(控訴人)が残 る2件の演奏会について損害賠償請求を求めて控訴した。  本判決は、問題となった2件の演奏会について、「ダイサンエージェンシーの名称で 興行事業を行ってきていた被控訴人オカモトが、KHMプロモーションの懇請を受けて、 同社に名義を貸したことにより、同社が控訴対象演奏会を開催することが可能ないし容 易になったものであるから……、両者は、協力して、同演奏会を開催したものと解する べきであり、その結果、故意又は過失により、著作物使用料相当額の損害を控訴人に与 えたのであれば、両者のそれぞれにそれを賠償する責任が生じるのは当然というべきで ある(民法719条、709条)」として、この限りで原審判決を取消、原告(控訴人) の損害賠償請求を認容した。 (第一審:東京地判平成14年6月28日) ■判決文  事実関係が被控訴人ら主張のとおりであったとしても、ダイサンエージェンシーの名 称で興行事業を行ってきていた被控訴人オカモトが、KHMプロモーションの懇請を受 けて、同社に名義を貸したことにより、同社が控訴対象演奏会を開催することが可能な いし容易になったものであるから(同社にはスタッフも対外的な信用もなく、会場の確 保ができなかったことは、被控訴人らの自認するところである。)、両者は、協力して 、同演奏会を開催したものと解するべきであり、その結果、故意又は過失により、著作 物使用料相当額の損害を控訴人に与えたのであれば、両者のそれぞれにそれを賠償する 責任が生じるのは当然というべきである(民法719条、709条)。そして、このこ とは、特定の法的側面においては、KHMプロモーションこそが演奏会の主体であると 評価されることがあり得るとしても、そのことによって、何ら影響を受けるものではな い。  被控訴人オカモトが、確定的な故意により、控訴対象演奏会に係る著作物使用料の不 払を惹起させた、と認めるに足りる証拠はない。しかし、前記(1)、(2)で認定したとこ ろによれば、被控訴人オカモトは、歌謡ショー等の演奏会を開催する場合、控訴人の事 前の許諾を得て、その定める著作物使用料を支払う義務があることを認識していたもの であり、かつ、興行事業における事実上の前身ともいうべきダイサン自身の行為等から、 この義務が守られないことも珍しくないことも十分認識していたものというべきである から、KHMプロモーションと協議するなどして、その手続に遺漏のないようにすべき であったのに、そのための行為を何らしていないことは、弁論の全趣旨で明らかである。 そうである以上、控訴対象演奏会に関して、控訴人の管理著作物の許諾が求められてい ないこと、著作物使用料が支払われていないことについて、被控訴人オカモトには、確 定的な故意はなかったとしても、未必的な故意又は重大な過失があったものというべき である。  以上のとおりであるから、控訴対象演奏会についても、被控訴人オカモトは、控訴人 に対し、著作物使用料相当損害金を支払う義務がある、とする控訴人の主張には理由が ある。そして、上記記載の各状況の下では、被控訴人Aも、控訴対象演奏会に係る著作 物使用料相当損害金について、有限会社法30条の3第1項に基づく損害賠償責任を負 うものというべきである。