・東京地中間判平成15年1月29日判時1810号29頁  ファイルローグ事件[JASRAC]:中間判決 (平成14年(ワ)第4237号)  本件は、Yが運営するファイル交換サービスにおいて、原告X(日本音楽著作権協会) が著作権を有する音楽著作物をMP3形式で複製した電子ファイルが、Xらの許諾を得 ることなく交換されていることに関して、Xが、上記電子ファイル交換サービスを提供 するYの行為は、Xの有している著作権(複製権、自動公衆送信権、送信可能化権)を 侵害すると主張して、Y1に対して、著作権にもとづき上記電子ファイルの送受信の差 止を、Y1およびその取締役である被告Y2に対して、著作権による共同不法行為にも とづき損害賠償を求めた事案である。  原決定は、Xが著作権を有する著作物の自動公衆送信をYがおこなっており、公衆送 信権の侵害を理由に、一定のファイル情報を利用者に送信してはならないことを命じた。  判決は、中間判決として、「Y1が、Xの有する送信可能化権及び自動公衆送信権を 侵害していると解すべきかを考察することとする。Y1が、送信可能化権及び自動公衆 送信権を侵害していると解すべきか否かについては、@Y1の行為の内容・性質、A利 用者のする送信可能化状態に対するY1の管理・支配の程度、BY1の行為によって受 けるY1の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきである」としたうえで、「Y1は、 本件各管理著作物の自動公衆送信及び送信可能化を行っているものと評価することがで き、Xの有する自動公衆送信権及び送信可能化権の侵害の主体であると解するのが相当 である」などと判示した。 (仮処分:東京地決平成14年4月11日、終局判決:東京地判平成15年12月17 日) ■判決文 1 Y1の著作権等侵害(争点1) (1)利用者の責任  「本件サービスの利用者が、本件各管理著作物の著作権を有するX1の許諾を得るこ となく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して同パソコンをYサ ーバに接続すれば、複製をした時点での目的の如何に関わりなく、本件各管理著作物に ついて著作権侵害(複製権侵害又はそのみなし侵害のいずれか)を構成する。」  「本件サービスの利用者が、本件各管理著作物の著作権の管理者であるX1の許諾を 得ることなく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置してYサーバに 接続すれば、本件各管理著作物について、著作権侵害(自動公衆送信権侵害及び送信可 能化権侵害)を構成する……。」  「利用者が、本件各管理著作物を複製し、送信可能化をし、又は自動公衆送信するに 当たり、X1がこれを許諾した事実がないことは明らかであるから、本件サービスの利 用者の前記各行為は、著作権侵害(複製権侵害、自動公衆送信権侵害及び送信可能化権 侵害)を構成する。」 (2)Y1の責任  「……Y1が、X1の有する送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解す べきかを考察することとする。Y1が、送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害してい ると解すべきか否かについては、@Y1の行為の内容・性質、A利用者のする送信可能 化状態に対するY1の管理・支配の程度、BY1の行為によって受けるY1の利益の状 況等を総合斟酌して判断すべきである。」 @ 本件サービスの内容・性質  「……本件サービスは、MP3ファイルの交換に係る部分については、利用者をして、 市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるための サービスという性質を有する。」 A 管理性等  「……利用者の電子ファイルの送信可能化行為(パソコンの共有フォルダに電子ファ イルを置いた状態で、同パソコンをYサーバに接続すること)及び自動公衆送信(本件 サービスにおいて電子ファイルを送信すること)は、Y1の管理の下に行われていると いうべきである。」 B Y1の利益  「……利用者にYサーバに接続させてMP3ファイルの送信可能化行為をさせること、 及び同MP3ファイルを他の利用者に送信させることは、Y1の営業上の利益を増大さ せる行為と評価することができる。」  「以上のとおり、……Y1は、本件各管理著作物の自動公衆送信及び送信可能化を行 っているものと評価することができ、X1の有する自動公衆送信権及び送信可能化権の 侵害の主体であると解するのが相当である。」 2 Yらの損害賠償責任(争点2) (1)Y1  「……Y1は、遅くとも、本件サービスの運営を開始した直後には、本件サービスに よって、他人の音楽著作物についての送信可能化権及び自動公衆送信権が侵害されてい ることを認識し得た。  そうすると、Y1は、本件サービスの運営を行う際に、このような著作権侵害が行わ れることを防止するための適切、有効な措置を講じる義務があったというべきである。 しかるに、Y1は、著作権侵害を防止するための何らの有効な措置を採らず、漫然と本 件サービスを運営して、X1の有する送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害したので あるから、Y1には、この点で過失がある。したがって、Y1が本件サービスを提供す る行為は不法行為を構成し、Y1は、X1が本件サービスの運営によって被った損害を 賠償する責任があるというべきである。」 (2)Y2  「……Y1は、Y2の個人会社であり、Y1の活動はY2の活動と同視できるものと 認められるから、本件サービスの提供はY2の行為であると解して差し支えない。…… そして、Yらの上記不法行為は、共同不法行為となり、Yらの上記損害賠償債務は不真 正連帯債務となる。」