・東京地判平成15年3月17日  アカウント破産事件  破産者株式会社アカウントは、本件プログラムの著作物の著作権を有していたが、平 成14年6月26日、東京地方裁判所により破産宣告を受け、同日、原告が破産管財人 に選任された。被告は、アカウントから、本件プログラムに関するすべての権利を譲り 受けたと主張して、著作権の帰属を争っている。被告は、本件プログラムを格納したC D−ROMの引渡しを受け、現在同CD−ROMを所持している。原告は、本件プログ ラムについての著作権がアカウントの破産財団に帰属することの確認、著作権に基づく 本件プログラムの製造、頒布、複製及び翻案の差止並びに本件プログラムを格納したフ ロッピーディスク、CD−ROM、ハード・ディスク等の記憶媒体の廃棄を求めた事案。  判決は、本件プログラムの著作物性を肯定したうえで、「被告の主張の趣旨は、被告 が譲り受けた目的物は、「有体動産としてのCD−ROM」であるということを前提と するものと理解するのが相当である。……そうすると、原告の本件各請求は、いずれも、 本件プログラムについての著作権に基づく請求であるから、被告の主張は、そもそも、 原告の請求に対する正当な抗弁とはなり得ない。被告の主張は、それ自体失当である。」 として、「原告の請求のうち、本件プログラムの著作権がアカウントの破産財団に属す ることの確認及び本件プログラムの製造、頒布、複製及び翻案を求める請求」を認容し た。 【判決文】 2 抗弁について  被告は、アカウントとの間で、データを化体した、有体動産であるCD−ROMにつ いて、担保権の設定を受ける旨の本件譲渡担保契約を締結し、その後、本件担保権の実 行により、上記CD−ROMに関する一切の権利を譲り受けたと主張する。  被告の主張の趣旨は、裁判所の釈明によっても、被告がアカウントから譲り受けた目 的物が「有体物としてのCD−ROM」であるということを前提とするものか、又は 「本件プログラムの著作権」であるということを前提とするものか、必ずしも明確でな い。  この点につき、弁論の全趣旨によれば、被告は一貫して、本件プログラムが著作物で あることについて争っていること、被告が譲り受けたのは、有体動産であるCD−RO Mであると主張していること、被告は、被告がアカウントから譲り受けたCD−ROM を、既に海外のソフト会社に転売したのであるから、著作権確認を求める訴えは、確認 の利益がないと主張していること等の経緯が認められ、上記の経緯に照らすならば、被 告の主張の趣旨は、被告が譲り受けた目的物は、「有体動産としてのCD−ROM」で あるということを前提とするものと理解するのが相当である。  そこで、被告の主張の趣旨を上記のように理解した上で判断する。そうすると、原告 の本件各請求は、いずれも、本件プログラムについての著作権に基づく請求であるから、 被告の主張は、そもそも、原告の請求に対する正当な抗弁とはなり得ない。被告の主張 は、それ自体失当である。  次に、念のため、被告の主張の趣旨を「被告が譲り受けたとする目的物が、本件プロ グラムの著作権」であるということを前提とするものと理解した上で、被告の主張の当 否を判断する。  ところで、破産管財人は、破産者の一般承継人ではなく、破産債権者のために独立の 地位を与えられた破産財団の管理機関として、民法第177条にいわゆる第三者に当た るものと解すべきである(昭和38年7月30日最高裁第3小法廷判決・裁判集67号 175頁参照)。したがって、仮に、本件譲渡担保契約に基づいてアカウントから被告 へ著作権が譲渡されたとしても、被告は、アカウントが破産宣告を受ける前に、著作権 譲渡についての対抗要件たるプログラム登録原簿への移転登録手続を経由していなけれ ば、原告に対してその譲受けを対抗することはできない。一方、本件において、被告が 本件プログラムの譲受けについてかかる登録手続を経由していないことは、弁論の全趣 旨により明らかである。したがって、本件譲渡担保契約に基づいて本件プログラムにつ いての著作権を取得した旨の被告の主張は、主張自体失当である。 なお、被告は、本件プログラムが格納されたCD−ROMの引渡しを受けたことによ って、対抗要件を備えたものとも主張する。しかし、プログラムの著作物に係る著作権 の移転は、プログラムについての著作権登録原簿へ登録しなければ、第三者に対抗する ことはできないものであるから(著作権法77条1号,78条1項)、この点における 被告の主張も理由がない。