・東京高判平成15年6月26日  石油精製論文事件事件:控訴審  控訴棄却。 (第一審:東京地判平成13年12月25日) ■判決文  「2 本件書籍には、標題の直下に控訴人、C及びDの氏名が記載されている(甲第 1号証)。これらの氏名の記載は、本件書籍の著作者としての表示であると認められる。 著作権法14条は、「著作物の原作品に、・・・その氏名が・・・著作者名として通 常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。」と規定してい る。本件書籍に著作者として表示されている控訴人は、上記規定により、本件書籍の著 作者であるとの推定を受けることが明らかである。 しかしながら、本件においては、上記推定を覆すに足りる事実を認めることができる というべきである。 (1) 著作者とは、「著作物を創作する者」(著作権法2条1項2号)であり、書籍 の著作者とは、当該書籍の表現の創作に関与した者をいう(なお、控訴人は、原判決が 創作行為の有無を問題とせず、「書籍の作成」という物理的行為の有無を問題としてい る、と主張する。しかしながら、原判決が「書籍の作成」の語を、創作行為を意味する ものとして用いていることは、その説示自体から明らかである。原告の主張は、原判決 の誤った理解に基づくものであり、採用することができない。)。」  「上記@ないしBを総合するならば、反対に解すべき事情の認められない限り、控訴 人は、本件書籍の原稿の作成に関与しておらず、その表現の創作に関与していないと推 認するのが相当である。 イ そこで、本件において、控訴人が本件書籍の表現の創作に関与していない、との上 記認定を覆すに足りる反対の事情が認められるか否かについてみる。 @ 控訴人は、原審において、著作権法14条の推定規定がある以上、同人の創作行 為への具体的関与の態様を示す必要はない、と主張して、これを明らかにしなかった (本件記録上明らかである。) A 控訴人は、当審において、同人の本件書籍の表現の創作への関与として、(a) 書物の構成、全体の表現など、終始、共著者間で討議してその創作的表現に関与した、 (b)控訴人は、中央研究所から転出した後も、研究所の各研究グループの検討会には、 欠かさず研究所に出張し、検討会終了後、本件書籍について、共著者らとともに、実際 のスライドを用いて発表方法について検討し、意見を述べた、(c)検討の際には、外 国で理解を得るため、いかに訴えていくかについて心を砕いた、と主張する。 しかしながら、控訴人の上記主張は、それ自体、具体性に乏しいものであり、これを もって、同人が本件書籍の表現の創作に関与したのではないかと思わせるに足りるもの とすることはできない。 B 本件書籍及び被控訴人書籍(1)、(2)は、いずれも、新規触媒の販売促進という同 じ目的のため、ほぼ同じ時期に作成された、ほぼ同一内容のものであることは、上記の とおりである。そうである以上、本件書籍の表現の創作に関与した者であれば、被控訴 人書籍(1)、(2)の作成についても関与しているか、少なくともその存在を知っていたと 考えるのが自然である。ところが、控訴人は、本件訴訟において、被控訴人書籍(1)、 (2)の存在を知ったのは、平成10年3月になってからである、と主張する。同主張が正 しいものと仮定すると、控訴人が本件書籍の表現の創作に関与した、との主張は不自然 であるといわざるを得ず、これを簡単に信用することはできない。 C 控訴人は、同人が、本件書籍に記載された触媒の開発研究に関与しており、本件 書籍に用いられた図、表の基となった本件報告書の作成にも関与したから、同人を本件 書籍の著作者と認めるべきである、と主張する。 しかしながら、本件において請求の根拠とされているのは、控訴人が本件書籍の共同 著作者の一人であるということであるから、問題とすべきは、控訴人が本件書籍の表現 の創作に関与したか否かである。控訴人が触媒の開発研究や本件報告書の作成に何らか に形で関与していたとしても、そのことは、直ちに控訴人が本件書籍の表現の創作に関 与したことに結び付くわけではなく、控訴人が本件書籍の表現の創作に関与していない、 との上記認定を覆すに足りるものではない、というべきである。控訴人の主張は採用す ることができない。 以上のとおりであるから、控訴人が本件書籍の表現の創作に関与していない、との前 記認定を覆すに足りる反対の事情があると認めることはできないというべきである。」