・東京高判平成15年7月10日  グリーン・グリーン事件:控訴審  控訴棄却。 (第一審:東京地判平成14年12月18日) ■判決文 1 本件基本シナリオの著作者について   (1) 証拠(甲1、2、4、6、8、9、19、乙2、5ないし7、10ないし21。 なお、枝番号の記載は省略する。以下同様である。)及び弁論の全趣旨によれば、本件基 本シナリオの製作過程、被控訴人ガンホーと控訴人との関係、被控訴人Aと控訴人との関 係について、原判決13頁15行から18頁23行に認定したとおりの事実が認められ、 この認定を覆すに足る証拠はない。  本件において前提となる事実(原判決2頁末行から4頁19行)と上記認定事実を総合 すると、本件基本シナリオは、被控訴人ガンホーの発意に基づき、同被控訴人の従業員ら が共同して職務上作成したものであり、また、同被控訴人名で公表することが予定された ものであるから、著作権法15条1項により、同被控訴人が著作者であるというべきであ る。その理由は、原判決18頁25行から20頁10行に記載のとおりであるから、これ を引用する。 なお、当審における控訴人の主張(控訴理由)にかんがみ、以下のとおり判断の理由を補 足する。  (2) 原審の認定判断のうち、@「グリーン・グリーン」の製作スタッフは、被控訴人ガ ンホーが組織したもので、そのメンバーは、被控訴人ガンホーの役員、従業員ら及び同被 控訴人が業務委託契約を締結したフリーのシナリオライター等であったこと(原判決13 頁19行から15頁7行)、A上記製作スタッフは、平成12年11月ころから「グリー ン・グリーン」の脚本の製作を開始し、平成14年2月末日の時点では、本件基本シナリ オの段階まで作成していたが、本件基本シナリオの製作に当たり、控訴人が上記製作スタ ッフに対して指示を与える等の行為をすることはなかったこと(同14頁1、2行、15 頁7行から11行)、B控訴人代表者その他の控訴人の従業員ら(ただし、被控訴人Aの 関与の内容及び控訴人との関係については、争いがある。)は、本件基本シナリオの創作 に関与していないこと(同19頁7行から15行)、以上の点は、控訴人が当審において 争わないところである。  これらの控訴人に争いのない事実関係に照らすと、本件基本シナリオは、被控訴人ガン ホーの業務に従事する者がその職務上作成したものというべきである。被控訴人Aについ ても、次の(3)のとおり、控訴人の業務に従事する者としての立場で本件基本シナリオの作 成に関与したとは認められないから、被控訴人Aの関与に基づき、本件基本シナリオにつ いて控訴人が著作者(被控訴人ガンホーとの共同著作者)となるということはできない。  (3) 控訴人は、控訴人が著作権法15条1項による本件基本シナリオの著作者である とする理由として、控訴人と被控訴人Aとの関係を主張する。その主張は、原審における 主張と合わせると、要するに、被控訴人Aと控訴人との間には業務委託契約に基づく実質 的な雇用関係が存在しており、本件業務委託契約もこれを前提として締結されたものであ って、同被控訴人は、控訴人の契約社員として、又は本件業務委託契約に基づいて、本件 基本シナリオの作成に関与したのであるから、同被控訴人の関与に基づき控訴人について 著作権法15条1項に基づくいわゆる職務著作が成立するというものである。しかし、控 訴人の上記主張は、前記引用に係る原判決の認定判断(原判決2頁末行から4頁19行、 13頁15行から18頁23行、18頁25行から20頁10行)と関係証拠(以下の当 該箇所に掲記)によれば、採用することができない。   ア 被控訴人Aと控訴人との間には本件業務委託契約の締結前に業務委託契約が締結 されていたことがあった(原判決3頁4行から7行の事実摘示参照)が、同契約による被 控訴人の業務内容は、控訴人の前作であるゲームソフト「カナリア」の営業・外注管理に 関するものにすぎなかったと認められ(弁論の全趣旨)、「グリーン・グリーン」に関す る業務については、本件業務委託契約が締結されるまで、控訴人と被控訴人Aとの間で上 記以外の契約関係はなかった。   イ 本件業務委託契約は、平成13年1月29日に締結されたが、これに先立ち、 「グリーン・グリーン」の製作、販売については、被控訴人ガンホーを開発元、控訴人を 販売元とする旨が了解された(弁論の全趣旨)。本件業務委託契約は、これを前提として 締結されもので、控訴人が「グリーン・グリーン」の販売元となるとの想定に基づき、同 契約における被控訴人Aの業務は、「グリーン・グリーン」のプロデュース、広報営業活 動全般、開発請負先の管理・折衝とされていた。なお、本件業務委託契約(甲2)には、 「プロデュース」が被控訴人Aの業務内容として記載されているが、ゲームソフトの「プ ロデュース」とは、製作進行、販売契約、予算管理等を含むゲーム制作全般を統括するこ とを意味することが多く、実際にも、被控訴人Aが行っていたのは、「グリーン・グリー ン」の広報活動等が中心であった。さらに、平成13年1月14日に被控訴人ガンホーが 控訴人に対して渡した企画提案書(甲8)及び平成13年1月19日時点で被控訴人ガン ホーの製作スタッフにより具体化されていたキャラクター設定(乙2、原判決添付別紙 「平成13年1月19日でのキャラクター設定」参照)によれば、本件基本シナリオの作 成は、同被控訴人と控訴人との間に本件業務委託契約が締結された時期には、その大部分 が完了していたと認めることができる。   ウ 以上の事実によって考えると、被控訴人Aが、控訴人との契約上の地位に基づき 控訴人の従業員に準ずる者として本件基本シナリオの作成に関わる創作活動に関与したと 認定することはできないものというべきである。  (4) 控訴人は、また、本件基本シナリオの作成については控訴人を注文主、被控訴人ガ ンホーを請負人とする実質的な請負契約関係が成立しており、本件基本シナリオは、控訴 人の「特注」により作成されたものであるから、著作者は控訴人であると主張する。しか しながら、控訴人と被控訴人との間に成立していたのが実質的な請負契約関係であり、本 件基本シナリオは「特注品」であるとの控訴人の主張は、これを認めるに足りる証拠がな いのみならず、仮に控訴人の主張が証拠上認められたとしても、控訴人の主張する点は、 本件基本シナリオの著作者は控訴人ガンホーであるとの前記認定を左右するものではない。 すなわち、請負契約に基づき外部の独立した請負人によって著作物が作成された場合、そ の著作者は、特別の事情がない限り、請負人であると解されるのであり、このことは請負 人が法人である場合にも妥当するものであるところ、本件において請負人ではなく注文主 を著作者とすべき特別の事情は証拠上見いだすことができない。特に、本件においては、 本件基本シナリオの作成に関わったのは、もっぱら被控訴人ガンホーが組織した製作スタ ッフであり、本件基本シナリオの作成に当たって控訴人が製作スタッフに対し指示を与え る等の行為をすることもなかったのであるから、控訴人が本件基本シナリオについて著作 権法15条1項の規定による著作者となる余地はないというべきである。