・東京地判平成15年9月29日  極真会館事件[東京訴訟]  本件は、「極真会館」等の本件標章を使用して空手の教授等を行っている原告らが、昭 和39年に「国際空手道連盟極真会館」(極真会館)という名称の空手流派を創設した訴 外G(大山倍達)の危急時遺言(もっとも、本件危急時遺言の確認を求める審判申立ては その作成過程に疑義が残ることを理由に却下され、同決定は確定した)において後継者と 指名された被告(松井章圭)に対して、本件標章の商標権者である被告が原告らに本件標 章の使用の禁止を求めることは権利の濫用に当たり、また、原告らに対して本件標章の使 用を禁止するためにとった被告の行為が不法行為に当たると主張して、@原告らが本件標 章と同一又は類似の標章を空手の教授に関する広告等に使用することを本件商標権に基づ いて差し止める権利を有しないことの確認、A不法行為に基づき、被告に本件標章の使用 を禁止されたことなどにより生じた損害の賠償を求めた事案である。  判決は、「極真会館は、Gが死亡した後、一旦は、被告を中心としてその運営がされた が、その後、被告に反発する者が続出し、それらの者がいくつかにまとまって、各勢力を 形成するようになり、それぞれの勢力に属する者が自らの道場で極真空手の教授等を行い、 それぞれの勢力ごとに極真空手の大会を開催しているのであるから、現在は、極真会館は、 いくつかの分派に分かれた状態であるというべきである」としたうえで、「極真会館の分 派の代表にすぎない被告が本件商標権に基づき、原告らに対して、同じく極真会館の分派 に属する者に対して、本件標章の使用を禁止することは権利の濫用に当たると解すべきで ある」として、被告の差止請求権の不存在を確認した。  また、不法行為については、「原告らは、NTT発行の平成13年度のタウンページに 本件標章を使用した広告を掲載させることができなかったことによって、原告らに精神的 毀損及び信用毀損を与えたものと認めることができ」るとして、その精神的損害および弁 護士費用として合計50万円の損害賠償請求を認容した。 ■争 点 (1) 被告が原告らに本件標章の使用の差止めを求めることは権利の濫用に当たるか。 (2) 損害の発生の有無及び損害額 ■判決文 (2) 権利濫用の有無についての判断  以上認定した各事実を基礎として、被告の原告らに対する本件商標権に基づく権利行使 が権利濫用に当たるか否かについて検討する。  ア 前記(1)で判示したように、本件標章は、遅くともGが死亡した平成6年4月時点で は、少なくとも空手及び格闘技に興味を持つ者の間では、「極真会館」ないし「極真空手」 を表す標章として広く認識されるに至っていたのであるから、本件標章が表示する出所は 極真会館であることは明らかである。そして、前記(1)で判示したように、本件標章が極真 会館ないし極真空手を表す標章として広く認識されるに至ったのは、G及び同人に認可を 受けた原告ら及び被告も含めた支部長の努力により、極真会館及び極真空手を全国に普及 し、発展させた結果である。  イ そして、被告は、本件商標権を取得したが、前記(1)で判示したとおり、被告は、G が死亡した後、極真会館から分かれた一つの分派の代表にすぎないというべきであり、一 方、原告らも、Gから支部長の認可を受け、認可を受けた地域において、極真空手の道場 を設置して、極真空手の教授を行う等して極真空手の普及に努め、本件標章の信用性の向 上に貢献してきており、現在も、従前どおり、自ら設置した道場で極真空手の教授等を継 続し、極真会館のうちの一つの分派に属している。  以上の点を考慮すれば、極真会館の分派の代表にすぎない被告が本件商標権に基づき、 原告らに対して、同じく極真会館の分派に属する者に対して、本件標章の使用を禁止する ことは権利の濫用に当たると解すべきである。そして、このことは、本件標章と類似する 商標の使用についても同様に当てはまると解するのが相当である。  この点、被告は、原告らが極真会館に対して認可料や年会費等の支払義務等の義務を負 担していないので、被告の商標権行使の濫用を主張することができない旨主張する。しか し、前記のとおり、極真会館はいくつかの派に分裂し、それぞれの派が独自に活動をして いるのであるから、極真会館を承継する分派の一つである、被告が代表する団体に対して、 上記義務を果たさないことが、何らかの法的な判断に影響を与えるものとはいえない。  なお、原告らは、Gから支部長の認可を受ける際、道場を開設し、空手の教授等を行う 地域を一定の地域に限定されていたのであるから、原告らが、本件商標権に基づく被告の 権利行使に対して、権利の濫用の抗弁を主張できるのは、特段の事情のない限り、Gから 認可された上記の各地域の範囲内において活動を継続する限りにおいてであると解するの が相当である。