・東京地判平成15年12月17日  ファイルローグ事件[JASRAC]:終局判決  判決は、「差止めの対象とすべき被告エム・エム・オーの行為を特定する方法としては、 送信側パソコンから被告サーバに送信されたファイル情報のうち、ファイル名又はフォル ダ名のいずれかに本件各管理著作物の「原題名」を表示する文字及び「アーティスト」を 表示する文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表 記方法を問わない。姓又は名のあるものについては、いずれか一方のみの表記を含む。) の双方が表記されたファイル情報に関連付けて、当該ファイル情報に係るMP3ファイル の送受信行為として特定するのが、最も実効性のある方法といえる」として差止請求を認 容した上で、損害賠償額については、使用料相当額について、「本件においては、本件使 用料規程を形式的に適用することにより使用料相当損害金を算定することはできず、また、 本件の性質上、その他に、原告に生じた損害額を立証するために必要な事実を立証するこ とは極めて困難である」としたうえで、「著作権法114条の4により、本件使用料規程 に基づき算定した上記金額2億7932万8000円の概ね10分の1に相当する300 0万円」と述べるなどした上で、損害賠償請求を認容した。 (仮処分:東京地決平成14年4月11日、中間判決:東京地中間判平成15年1月29 日) ■争 点 (1) 被告エム・エム・オーは、本件各管理著作物について原告の有する著作権を侵害して いるといえるか。 (2) 被告エム・エム・オーに対する差止請求はどの範囲で認められるか。 (3) 原告の被告らに対する著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求は理由 があるか。 (4) 損害額はいくらか。 ■判決文 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)及び(3)に関する裁判所の判断は、本件中間判決記載のとおりである。  2 争点(2)(被告エム・エム・オーに対する差止請求の範囲)について (1) 請求の趣旨1項について  本件中間判決で判示したとおり、被告エム・エム・オー自らは、本件各MP3ファイル をパソコンに蔵置し、その状態でパソコンを被告サーバに接続するという物理的行為をし ているわけではないが、本件サービスは、@MP3ファイルの交換に係る分野については、 利用者をして、市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化 させるためのサービスという性質を有すること、A本件サービスにおいて、送信者がMP 3ファイル(本件各MP3ファイルを含む。)の送信可能化を行うことは被告エム・エム ・オーの管理の下に行われていること、B被告エム・エム・オーも自己の営業上の利益を 図って、送信者に上記行為をさせていたこと等から、被告エム・エム・オーは、本件MP 3ファイルの送信可能化を行っているものと評価することができ、したがって、原告の有 する送信可能化権の侵害の主体であると評価できる。  ところで、原告は、請求の趣旨1項において、被告エム・エム・オーに対して、本件各 管理著作物につき、同被告が運営する本件サービスにおいて、MP3形式によって複製さ れた電子ファイルを送受信の対象としてはならない旨を求める。  しかし、上記請求の趣旨は、単に、原告が著作権を有する本件各管理著作物を複製した 電子ファイルを送受信の対象とする行為について、その不作為を求めるものであって、法 律が一般的、抽象的に禁止している行為そのものについて、その不作為を求めることと何 ら変わらない結果となること、上記請求をそのまま認めると、執行手続きにおける差止め の対象になるか否かの実体的な判断を執行機関にゆだねる結果になること等の理由から、 相当といえない。 (2) 差止めの対象となる行為の特定  そこで、差止めの対象となる被告エム・エム・オーの行為をどのように特定した上で、 原告の求める差止請求を認めるのが相当かを検討する。  まず、原告の有する送信可能化権を侵害する被告エム・エム・オーの行為を客観的に特 定すべきことが必要であることはいうまでもない。しかし、本件においては、この点を厳 格に求めることは、以下の理由から妥当ではない。すなわち、第1に、本件中間判決で判 示したとおり、本件サービスにおいては、被告サーバに接続している利用者のパソコンの 共有フォルダ内の電子ファイルのみが送信可能化されており、当該パソコンが被告サーバ との接続を解消すると、上記電子ファイルは送信可能化の対象ではなくなることから、現 に送信可能化されている個々の電子ファイルを差止めの対象とした場合は、その判決が確 定する段階では、当該電子ファイルのほとんどすべては送信可能化が終了しており、その 判決の実効性がないこと、第2に、将来送信可能化されると予想される電子ファイルを差 止めの対象としようとしても、前述のように、本件サービスにおいては、本件各管理著作 物を複製したMP3ファイルが、送信者により、時々刻々と新たに、送信可能化状態に置 かれるため、当該電子ファイルを、あらかじめ厳格に特定することは、不可能であること 等の事情が存在するからである。  ところで、証拠(甲6、17、20)及び弁論の全趣旨によれば、本件サービスの利用 者(送信者)が市販のレコードを複製したMP3ファイルにファイル名を付す場合、他の 利用者(受信者)が電子ファイルの内容を認識し得るようなファイル名を付することが一 般的であると認められ、そのようなファイル名としては、通常、当該レコードの題名や実 演家名を表示する文字を使用することが最も自然であり、また、その場合の題名及び実演 家名の表記方法は、当該レコードの表記方法と同一のものばかりではなく、適宜、漢字、 ひらがな、片仮名及びアルファベット等で代替して表記することが推認される。  以上によれば、差止めの対象とすべき被告エム・エム・オーの行為を特定する方法とし ては、送信側パソコンから被告サーバに送信されたファイル情報のうち、ファイル名又は フォルダ名のいずれかに本件各管理著作物の「原題名」を表示する文字及び「アーティス ト」を表示する文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字 等の表記方法を問わない。姓又は名のあるものについては、いずれか一方のみの表記を含 む。)の双方が表記されたファイル情報に関連付けて、当該ファイル情報に係るMP3フ ァイルの送受信行為として特定するのが、最も実効性のある方法といえる。  なお、本件の差止めの対象とすべき被告エム・エム・オーの行為を上記のような方法で 特定すると、利用者がファイル名を付する際に、単純に表記を誤ったり、原題名のみを表 記したなどの場合には、本件各MP3ファイルであっても差止めの対象から除かれること になることが考えられる。しかし、証拠(甲6、17、20)及び弁論の全趣旨によれば、 上記のような場合は極めて稀にしか生じないものと認められることに加え、被告エム・エ ム・オーが提供する本件サービスの性質上、他に差止めの対象とすべき本件各MP3ファ イルを特定する的確な方法はないことに鑑みれば、上記の特定方法によっても原告の保護 に欠ける結果とはならないというべきである。 (3) 過大な差止めを肯認するとの被告らの反論について  上記の点に対して、被告らは、ファイル名等に本件各管理著作物の「原題名」を表示す る文字及び「アーティスト」を表示する文字の双方が表記されたファイル情報に係るMP 3ファイルの中には、本件各MP3ファイル以外のMP3ファイルが含まれている可能性 があり、そのようなMP3ファイルの送信可能化を差し止めることは、被告エム・エム・ オーが差止義務を負う範囲を超えて差止めを肯認することになるから許されない旨主張す る。  しかし、いやしくも、利用者は、自ら創作した音楽の電子ファイルをMP3ファイル形 式にして本件サービスにより送信しようとした場合には、可能な限り、市販のレコードとの混同を避けるはずであるから、市販のレコードの題名や実演家名と同一の名称を使用する ことはないと解するのが合理的であること、本件全証拠によるも、本件サービスにおいて、 本件各管理著作物の「原題名」及び「アーティスト」を表示する文字の双方を表記したM P3ファイルであって本件各MP3ファイル以外の電子ファイルが存在することを窺わせ るに足りる事実は認められないこと等に鑑みれば、ファイル名等に本件各管理著作物の 「原題名」及び「アーティスト」を表示する文字の双方が表記されたMP3ファイルの中 に本件各MP3ファイル以外の電子ファイルが含まれていることを前提とした被告らの上 記主張は理由がないことになる。 3 争点(4)(損害額)について  (1) 使用料相当額の算定方法について  被告エム・エム・オーが提供した本件サービスにおいて、本件各MP3ファイルが送信 可能化ないし自動公衆送信されたことによって、原告が被った使用料相当額の損害につい ては、同種のインターネットによる音楽配信サービスにおいて著作権者の受けるべき許諾 料(使用料)を参酌して、算定すべきである。ところで、現在、大多数の音楽著作権は、 原告が信託を受けて管理しており、原告は管理著作物の使用料を本件使用料規程に準拠し て決定していること、本件使用料規程は、著作権等管理事業法13条及び14条に則って 実施されていること、原告は、本件使用料規程について同法23条に基づき利用者代表と の協議に応じる義務を負い、協議が成立しないときは、文化庁長官が同法24条に基づき、 本件使用料規程を変更する旨の裁定をすることができるとされていること(以上は当裁判 所に顕著である。)等に照らすならば、原告の本件使用料規程に基づく著作物使用料は、 事実上、音楽の著作物の利用の対価額の標準的な基準と示すものであると認められる。  そうすると、本件サービスにおいて、本件各MP3ファイルが送信可能化ないし自動公 衆送信されたことによって、原告の受けた使用料相当の損害額については、特段の事情の ない限り、本件使用料規程の定めるの額を参酌して算定するのが合理的であるといえる (なお、本件使用料規程第12節の後記認定の内容からすると、本件サービスのように、 営利目的を有し、ダウンロード数を把握していないサービスについて、原告が原告管理著 作物の利用の許諾をすることはあり得ないが、そうであってもなお、本件使用料規程第1 2節は損害額の算定に際しての参酌資料たり得るというべきである。)。  (2) 本件使用料規程の各規定の意義について  ア 本件使用料規程の第12節の1の各文言について  本件使用料規程の第12節は、「デジタル化されたネットワーク環境において、放送及 び有線放送以外の公衆送信及びそれに伴う複製により著作物を利用する場合(第11節の 規定を適用する場合を除く。)の使用料」の算定について規定する(甲3)。本件中間判 決で判示したとおり、本件サービスにおいては、被告サーバとこれに接続している利用者 のパソコンが一体となって、自動公衆送信装置を構成し、そこに記録されている著作物の 電子ファイルを、送信可能化及び自動公衆送信しているのであるから、本件サービスは上 記「デジタル化されたネットワーク環境において、放送及び有線放送以外の公衆送信及び それに伴う複製により著作物を利用する場合」に当たる。  また、本件使用料規程の第12節の1は、「ダウンロード形式」を「受信者が著作物を 受信者の装置においてオフラインで再生することを目的とした利用の形式」とするが、本 件サービスにおいては、自動公衆送信された電子ファイルはオフラインで再生される(弁 論の全趣旨)から、本件サービスは、同規程の「ダウンロード形式」に当たる。  さらに、本件使用料規程の第12節の1は、使用料の算定方法を情報料がある場合とな い場合とに分けており、情報料を「インタラクティブ配信を利用するにあたり受信先にお いて通常支払うことが必要とされる受信等に伴う対価」と規定する。本件中間判決で判示 したとおり、本件サービスの利用は無料であるから、本件サービスは情報料がない場合に 該当する。  イ 本件使用料規程第12節の1の「広告料等収入」について  本件使用料規程の第12節には、「広告料等収入」の定義について、「インタラクティ ブ配信から直接得られる広告料やスポンサー料等、いずれの名義をもってするかを問わず 、情報料以外に得る収入」と規定されているが、本件使用料規程中には、「広告料等収入」 があるとする場合に、広告の掲載方法について制限するような規定は存しない(甲3)。  また、本件使用料規程の第12節の1では、情報料がなく、原告管理著作物が自動公衆 送信された回数を把握できる場合の使用料の算定方法については、広告料等収入がある場 合は、原告管理著作物の総リクエスト回数に6円60銭を乗じることにより算定し、広告 料等収入がない場合は、総リクエスト回数に5円50銭を乗じることにより算定する旨規 定し、情報料がなく、原告管理著作物が自動公衆送信された回数を把握できない場合の使 用料の算定方法については、広告料収入がある場合は、原告管理著作物が同時に送信可能 化する曲数10曲までにつき年額6万円又は月額6000円(送信可能化する日数が1年 に満たない場合)として算定し、広告料収入がない場合は、同時に送信可能化する曲数1 0曲までにつき年額5万円又は月額5000円(送信可能化する日数が1年に満たない場 合)として算定する旨規定している(甲3)。  このように、本件使用料規程の第12節では、広告料等収入がある場合は、広告料等収 入がない場合と比較して使用料が高く設定されているが、その使用料は、原告管理著作物 が自動公衆送信された回数又は送信可能化された曲数に比例するように決められている。 このように、本件使用料規程において、使用料が自動公衆送信された回数又は送信可能化 された曲数に比例して決められた趣旨は、利用者が自動公衆送信等の行為をするごとに、 本件サービスにおいて掲載された広告に触れ、広告効果が高まるものであるということを 前提にしたものと理解するのが合理的である。すなわち、原告管理著作物が自動公衆送信 された回数又は送信可能化された曲数と広告料等収入とが厳密な相関関係を有するような 場合に限り、本件使用料規程第12節は合理性が認められるというべきである。そうとす れば、インタラクティブ配信において、このような関係が認められるというためには、利 用者がサーバにパソコンを接続させた際に(インタラクティブ配信により電子ファイルを ダウンロードするためには、サーバにパソコンを接続させる必要がある。)、広告を閲覧 できるような仕組みになっていることが必要であると解すべきである。  そして、前記のとおり、本件サービスにおいては、本件サーバに接続した際に表示され る画面上には広告は掲載されていない。ただし、利用者が本件サービスを利用するために 必要な本件クライアントソフトをダウンロードしたり、本件サービスの利用方法について の説明文を閲覧するためにアクセスする必要のある本件サイトには広告が掲載されている が、本件サービスの利用者が本件クライアントソフトをダウンロードするために被告サイ トにアクセスするのは、最初の1回だけであること、原告管理著作物を受信し、又は受信 しようとする度毎に本件サイトに掲載された被告サービスの利用方法についての説明を閲 覧するとはいえないことから、このような広告の掲載方法では、原告管理著作物が自動公 衆送信された回数又は送信可能化された曲数と広告料等収入が厳密に対応する関係にある ということはできない。  したがって、本件サービスは、広告料等収入がない場合に当たるというべきである。  ウ 本件使用料規程第12節1の「同時に送信可能化されている曲数」について  本件使用料規程第12節1(甲3)は、情報料及び広告料等収入のいずれもない場合の 使用料(1(3))について、以下のとおり規定する。  @ 1曲当たりの月額使用料は、5円50銭に月額の総リクエスト回数を乗じた額とす る。  A 営利を目的としない法人等が営利を目的とせず利用する場合(着信メロディ再生専 用データとしての利用を除く。)で、@により難いときは、同時に送信可能化する曲数1 0曲までにつき年額50、000円とすることができる。なお、送信可能化する日数が1 年に満たない場合は、同時に送信可能化する曲数10曲までにつき月額5、000円に予 め定める利用月数を乗じて得た額とすることができる。いずれの場合も同時に送信可能化 する曲数が10曲を超える場合は10曲までを超えるごとに10曲までの場合の額にその 額を加算した額とする。  上記規定の「同時に送信可能化されている曲数」とは、著作物の数を指すのか、当該著 作物を複製した電子ファイルの数を指すのかを検討する。  著作権者は、自動公衆送信される電子ファイルの数に比例して、許諾料を得る機会が失 われることになるのであるから、自動公衆送信された回数を把握できない場合における本 件使用料規程の「同時に送信可能化する曲数」とは、  電子ファイルの自動公衆送信数 (以下では「ダウンロード数」ということもある。)と相関関係(対象となるものの送信 可能化数が増えれば、それに応じて自動公衆送信される電子ファイル数も増えるという関 係)の認められるもの(著作物数又は電子ファイル数)の送信可能化数を意味すると解す べきである。そして、本件サービスのようなピア・ツー・ピア方式のネットワークによる 自動公衆送信の場合は、自動公衆送信される電子ファイル数は、送信可能化されている著 作物数に比例するのではなく、送信可能化されている電子ファイル数に比例するものと認 められる。  したがって、本件サービスに対する使用料相当額を算定する際に参酌する場合の本件使 用料規程の「同時に送信可能化する曲数」の意味については、  「送信可能化されていた 電子ファイルの数」と解するのが相当である。  エ 本件使用料規程において、使用料を原告管理著作物が自動公衆送信された回数によ り得ないときは「送信可能化されている曲数」によることとしたことの合理性の有無  (ア) 上記のとおり、情報料がない場合の原告管理著作物の自動公衆送信1回当たりの 使用料は、広告料等収入がない場合は5円50銭であるが、自動公衆送信数を把握してい ないときは、送信可能化する曲数10曲までにつき、広告料等収入がない場合は月額50 00円とされている。このように規定されたのは、インタラクティブ配信の使用料は、情 報料がない場合は、原則として自動公衆送信数に一定の金額を乗じることにより算定する 方法により求めることとし、ただ、利用者が自らの自動公衆送信数を把握していない場合 は、自動公衆送信数を基準とすることができないため、やむを得ず、送信可能化された1 曲が1か月に自動公衆送信される回数を予測し、これを基礎として月額使用料を算定する という方法によったためであると解される。  そして、上記の自動公衆送信1回当たりの使用料と送信可能化1曲当たりの月額使用料 を対比すると、送信可能化1曲当たり、1か月に約90.9回(6000円÷6円60銭。 5000円÷5円50銭)自動公衆送信されることを想定したものと認められるが、この ような想定回数をもとに送信可能化する曲数を基準として使用料を算定することは、自ら 自動公衆送信数を把握できない利用者側の事情によるものであり、原告としても、自動公 衆送信数を把握できない利用者のために特別に認めた算定方法により算定された使用料が 実際にされた自動公衆送信の数を基準として算定した使用料よりも少なくなるという結果 を避けなければならないというべきであるから、あながち不合理な算定方法であると解す ることはできない。  (イ) 他方、上記のとおり、本件使用料規程においては、送信可能化に対する許諾料が 1曲につき1か月に90.9回ダウンロードされることを想定して定められているが、本 件サービスが運営されていた当時のインターネット環境の下で、送信可能化されているす べての楽曲について、月に90.9回もダウンロードすることが想定できないとする特段 の事情がある場合には、使用料相当の損害額を算定するに当たり、同事情を考慮すべきこ とになる。  (3) 使用料相当の損害額  以上を前提として、本件サービスが運営されていた期間である平成13年11月1日か ら平成14年4月16日まで、同サービスによって、原告が被った使用料相当の損害額を 算定する。  ア 本件サービスにおいて「同時に送信可能化されている本件各管理著作物」の複製物 である本件各MP3ファイルの数  日本レコード協会が調査した結果(甲16)によれば、本件サービスにおいて同時に送 信可能化されているMP3ファイル数の最大値は、平成13年11月は11万9601個、 同年12月は9万4064個、平成14年1月は12万2872個であったことが認めら れる。そして、本件中間判決で判示したように、原告の調査によれば、本件サービスにお いて同時に送信可能化されているMP3ファイルのうちの98.7パーセントが原告管理 著作物の複製物であると推測されたことが認められること、弁論の全趣旨によれば、本件 各管理著作物は原告管理著作物全体の大きな割合を占めているものと推測されることから、 本件サービスにおいて送信可能化されているMP3ファイルのうちの少なくとも90パー セントは本件各管理著作物の複製物であると推認できる。  したがって、本件サービスにおいて同時に送信可能化されている本件各管理著作物の複 製物である本件各MP3ファイルの数は、平成13年11月は最大10万7640個、同 年12月は最大8万4657個、平成14年1月は最大11万0584個であり、これら の平均は10万0960個である。  イ  本件サービスが運営されていた当時のインターネット環境  (ア) 本件サービスの利用者が使用していたインターネット接続回線の種類ごとの比率  証拠(甲25、26、乙21、46、47)によれば、以下のとおりの事実が認められ る。  a 総務省編集、平成14年7月4日発行の「平成14年版情報通信白書」(甲25。 以下「甲25資料」という。)には、「自宅のパソコンからのインターネットアクセスの 方法(複数回答)」という表題の図表が記載され、同図表には、インターネットアクセス 方法の割合について、平成12年12月においては、ブロードバンド回線は6.9パーセ ント、ISDN回線は33.5パーセント、アナログ回線は55.4パーセントであったが、 平成13年12月には、ブロードバンド回線は14.9パーセント、ISDNは24.6パー セント、アナログ回線は47.2パーセントとなったことが示されている。また、甲25 資料には、「ブロードバンド回線加入数は、平成14年3月末で387万加入に達し、こ の1年間で約4.5倍と飛躍的に拡大している。同年4月末には428万加入となってい る。中でも、既存の電話回線を活用するDSLの加入数は、平成14年3月末現在238万加 入となり、この1年間で約34倍と爆発的な伸びを示している。また、ケーブルテレビ網 を利用したインターネット接続サービス(ケーブルインターネット)についても、平成1 4年3月末現在146万加入となり、この1年間で約2倍に拡大している。同年4月末に は153万加入となっている。さらに、無線を活用した高速インターネットについても、 平成14年3月末現在8000加入となり、この1年間で約9倍と大幅な伸びを示してい る。同年4月末には1万加入となっている。このように急速に進展しているブロードバン ドの中でも特に加入数を伸ばしているのはDSLである。平成12年末時点では9、723加 入と1万加入に満たなかったが、平成13年前半以降、急速に加入数が増加し始めた。同 年11月末には100万加入を突破し、翌月の12月末には、152万加入に達し、ケー ブルインターネット加入数を初めて上回った。その後も毎月約30万加入のペースで増加 を続け、平成14年2月には200万加入の大台に乗り」との記載がある。  b 財団法人インターネット協会監修、平成14年7月11日発行の「インターネット 白書2002」(甲26。以下「甲26資料」という。)には、「ブロードバンド/ナロ ーバンド構成比」についての円グラフが記載されており、同円グラフには、ブロードバン ドは32.8パーセント、ナローバンドは63.9パーセント、「わからない」が3.3 パーセントであることが示されているが、同円グラフについて、「回答者個人の世帯から 主に利用している接続方法1つがブロードバンドかナローバンドかを聞いたもので、およ そ1対2となっており、ブロードバンドが全体の3分の1まで浸透したことがわかる。」 と記載されている。また、甲26資料には、「ADSL/xDSL接続サービスは、昨年後半から の各社のサービス向上や大幅な料金値下げ、またコンテンツやインターネット電話などと 組み合わせたパッケージ化などが個人利用者に導入しやすい環境を与えた。そのため昨年 にわずか0.8%にとどまっていた『ADSL/xDSL』は1年間で20.1%にまで急伸し た。」、「一方、ダイヤルアップでは『フレッツ・ISDN等のISDNによるダイヤルアップ接 続』も昨年の11.4%から23.2%と倍増している。」との記載がある。  c 「http=//www.johotsushintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h14/」のウェブサイ トをダウンロードしたもの(乙21。以下「乙21資料」という。)には、平成13年度 末における電気通信サービスの契約数について、ISDNは1033万回線、ケーブルインタ ーネットは145.6万加入、DSLは237.9万加入、FWAが8200契約、FTTHは2. 6万契約であった旨記載されている。  d 「http=//www.soumu.go.jp/s-news/2002/020701_4.html」のウェブサイトをダウン ロードしたもの(乙46。以下「乙46資料」という。)には、DSLの利用者数について、 平成13年10月末は92万1867人、同年11月末は120万4564人、同年12 月末は152万4564人、平成14年1月末は178万7598人、同年2月末は20 7万6302人、同年3月末は237万8795人、同年4月末は269万9285人で あったことを示す表、FTTHサービスの利用者数について、平成14年1月末は1万233 7人、同年2月末は1万8188人、同年3月末は2万6400人、同年4月末は3万4 930人であったことを示す表、CATV網を利用したインターネット接続サービスの加入者 数について、平成13年12月末は130万3000人、平成14年1月末は133万4 000人、同年2月末は139万9000人、同年3月末は145万6000人、同年4 月末は153万3000人であったことを示す表、電話回線等を利用したダイヤルアップ 型接続によるインターネット接続の大手プロバイダ15社の加入者総数について、平成1 3年10月末は1940万人、同年11月末は1953万人、 同年12月末は1974万人、平成14年1月末は1995万人、同年2月末は2007 万人、同年3月末は2023万人、同年4月末は2132万人であったことを示す表が記 載されている。  e 「http=//ma.nikkeibp.co.jp/MA/guests/release/0204_06/02...」のウェブサイト をダウンロードしたもの(乙47。以下「乙47資料」という。)には、平成14年3月 末におけるADSL総開通数は238万であったこと、平成14年3月末におけるダイヤルア ップ、ADSL及びFTTH回線の国内主要44社の合計加入数は2800万強であったこと、AD SLサービスの契約数は、平成13年9月末に65万であったが、同時期から平成14年4 月末まで7か月連続して月に30万前後の増加があったことが記載されている。  以上によれば、本件サービスの運営が開始された平成13年11月1日の時点でのADSL 回線への加入数は100万弱であったこと、その後、ADSL回線への加入数は毎月約30万 ずつ増加し、本件サービスの運営が停止した平成14年4月16日の時点では約255万 であったこと、ADSL回線にケーブルインターネット及びFTTH回線を合わせたブロードバン ド回線への加入数は平成13年末の時点では180万強、平成14年3月の時点では約1 87万であったこと、当時のFTTH回線の加入数は極めて少なかったことが認められる。  しかし、本件サービスが運営されていた時期のアナログ回線の加入数ないしブロードバ ンド回線の全回線に対する比率については、甲25資料によれば、平成13年12月の時 点でのブロードバンド率は約15パーセント、甲26資料によれば、平成14年2ないし 3月の時点でのブロードバンド率は約33パーセント、乙46資料及び乙47資料によれ ば、平成14年3月の時点でのブロードバンド率は、多くとも(国内主要44プロバイダ におけるダイヤルアップ型インターネット接続サービス加入数を全プロバイダにおける同 加入数と同視した場合)約12.8パーセント、平成13年10月末の時点でのブロード バンド率は多くとも(国内主要44プロバイダにおけるダイヤルアップ型インターネット 接続サービス加入数を全プロバイダにおける同加入数と同視した場合)約7.7パーセン トとなり、結局のところ、確定することができない。  (イ) 本件サービスが運営されていた当時のインターネット接続回線の一般的な最大通 信速度等  甲17及び弁論の全趣旨によれば、本件サービスが運営されていた当時のインターネッ ト接続回線の一般的な最大通信速度は、アナログ回線は56kbps、ISDN回線は64kbps、 ADSL回線は上り512kbps、下り1.5Mであること、それらの実効速度は上記最大通信速 度より相当程度小さくなること、インターネットにおいてデータを送受信する場合、送信 者が利用する回線と受信者が利用する回線の実効速度が異なる場合は、遅い実効速度で送 受信がされること、本件サービスにおいて送信可能化されたMP3ファイルのサイズの平 均値は、概ね36000キロビットであること、以上の事実が認められる。  (ウ) 利用者一人が1日にダウンロードできる本件各MP3ファイル数  以上の事実によると、仮にADSL回線の実効速度が170kbps(最大速度の約3分の1) であるとすると、本件サービスにおいてブロードバンド回線の実効速度により受信できる 利用者一人が1日にダウンロードできるMP3ファイル数は、約408ファイル(360 0秒÷36000キロビット×170kbps×24時間)となり、ISDN回線の実効速度が4 3kbps(2回線を同時に利用した場合の最大速度の約3分の1)であるとすると、本件サ ービスにおいてISDN回線の実効速度により受信できる利用者一人が1日にダウンロードで きるMP3ファイル数は、約103ファイル(3600秒÷36000キロビット×43 kbps×24時間)となり、アナログ回線の実効速度が19kbps(最大速度の約3分の1) であるとすると、本件サービスにおいてアナログ回線の実効速度により受信する利用者一 人が1日にダウンロードできるMP3ファイル数は、約46ファイル(3600秒÷36 000キロビット×19kbps×24時間)となる。  なお、被告らは、アナログ回線及びISDN回線では、一つの回線を送信及び受信に用いる ので、2者間でファイルを交換する場合は、単純に一方的にダウンロードする場合に比べ て、理論的にはダウンロード時間が2倍かかる旨主張するが、本件全証拠によっても、同 事実を認めるに足りない。  (エ) 本件サービスにおいて1日にダウンロードできる本件各MP3ファイル数  さらに、仮に、本件サービスが運営されていた平成13年11月1日から平成14年4 月16日までの平均で、本件サービスの利用者のうちADSL回線を利用していた者は全体の 15パーセント(ブロードバンド回線のうちのFTTH回線の利用者は極めて少ないので後記 の算定においては考慮しない。)、ISDN回線を利用していた者は全体の25パーセント、 アナログ回線を利用していた者は全体の60パーセントであったと仮定すると、前記のと おり、インターネットにおいてデータを送受信する場合、送信者が利用する回線と受信者 が利用する回線の実効速度が異なる場合は、遅い実効速度で送受信がされることから、本 件サービスにおいて、ADSL回線の実効速度によりMP3ファイルを受信できた利用者は、 利用者全体の少なくとも2.25パーセント(15%×15%)、ISDN回線の実効速度に よりMP3ファイルを受信できた利用者は利用者全体の13.75パーセント(25%× 25%+25%×15%+25%×15%)、アナログ回線の実効速度でしかMP3ファ イルを受信できなかった利用者は利用者全体の84パーセント(60%×15%+60% ×25%+60%×60%+60%×15%+60%×25%)となる。  そして、これを前提に本件サービスにおいて、1日にダウンロードすることが可能な本 件各MP3ファイル数を算定すると次のとおりとなる。  a ブロードバンド回線の実効速度により受信できる利用者による1日当たりのダウン ロード数  本件中間判決で認定したとおり、被告サーバにパソコンを同時に接続させている利用者 の平均は340人であるところ、前記のとおり、ブロードバンド回線の実効速度により受 信できる利用者は少なくとも全体の2.25パーセントであるから、同時に被告サーバに パソコンを接続させている利用者でブロードバンド回線の実効速度により受信できる者は 7.65人(340人×2.25%)となる。  そして、前記のとおり、本件サービスで送信可能化されているMP3ファイルの平均サ イズは36000キロビットであることからすると、前記のとおり、ADSL回線の実効速度 を170kbpsであると仮定すると、本件サービスにおいてブロードバンド回線の実効速度 により受信できる利用者が1日にダウンロードできる本件各MP3ファイル数は、約31 21ファイル(3600秒÷36000キロビット×170kbps×24時間×7.65人) となる。  b ISDN回線の実効速度により受信できる利用者による1日当たりのダウンロード数  本件中間判決で認定したとおり、被告サーバにパソコンを同時に接続させている利用者 の平均は340人であるところ、前記のとおり、ISDN回線の実効速度により受信できる利 用者は全体の13.75パーセントであるから、同時に被告サーバにパソコンを接続させ ている利用者でISDN回線の実効速度で受信できる者は46.75人(340人×13.7 5%)となる。  前記のとおり、本件サービスで送信可能化されているMP3ファイルの平均サイズは3 6000キロビットであることからすると、前記のとおりISDN回線の実効速度を43kbps であると仮定すると、本件サービスにおいてISDN回線の実効速度により受信できる利用者 が1日にダウンロードできる本件各MP3ファイル数は、約4825ファイル(3600 秒÷36000キロビット×43kbps×24時間×46.75人)となる。  c アナログ回線の実効速度により受信する利用者による1日当たりのダウンロード数  本件中間判決で認定したとおり、被告サーバにパソコンを同時に接続させている利用者 の平均は340人であるところ、前記のとおり、アナログ回線の実効速度で受信する利用 者は全体の84パーセントであるから、同時に被告サーバにパソコンを接続させている利 用者でアナログ回線の実効速度で受信する者は285.6人(340人×84%)となる。  前記のとおり、本件サービスで送信可能化されているMP3ファイルの平均サイズは3 6000キロビットであることからすると、アナログ回線の実効速度を19kbpsであると 仮定すると、本件サービスにおいてアナログ回線の実効速度により受信する利用者が1日 にダウンロードできる本件各MP3ファイル数は、約1万3023ファイル(3600秒 ÷36000キロビット×19kbps×24時間×285.6人)となる。  d 以上を合計すると、本件サービスにおいてダウンロードすることができた本件各M P3ファイルは、1日当たり、2万0969ファイル(3121+4825+1万302 3)となる。  ウ 損害額の認定  (ア) 本件使用料規程第12節1(3)Aを形式的に適用すれば、本件サービスにおいて本 件各MP3ファイルを送信可能化したことに対する使用料は、平成13年11月は538 2万円(1万0764×5000円)、同年12月は4233万円(8466×5000 円)、平成14年1月は5529万5000円(1万1059×5000円)となる。そ して、同年2月以降の本件サービスにおいて送信可能化されているMP3ファイル数は調 査されていないが、平成14年2月から4月までの送信可能化数の最大値は、平成13年 11月ないし平成14年1月までの各月の送信可能化数の最大値の平均値に概ね等しいも のと推認できるから、平成14年2月ないし3月の各使用料は、各5048万円(1万0 096×5000円)となる。また、前記のとおり、本件サービスは4月は16日間しか 運営しなかったのであるから、日割計算をすると、4月の使用料は2692万3000円 (5048万円×16÷30。1000円未満四捨五入)となる。  したがって、本件使用料規程を形式的に適用して、本件サービスにおける使用料を算定 すると、その合計は2億7932万8000円となる(平成13年11月1日から平成1 4年2月28日までについては2億0192万5000円となる。)。  (イ) ところで、前記認定事実、すなわち、@本件サービスの利用者が使用していたイ ンターネット接続回線の種類・比率及び各接続回線の最大通信速度、A本件サービスにお いて利用者の実効速度が異なる場合は遅い速度で送受信される事実、B実効通信速度を最 大速度の約3分の1とした場合の一人の利用者が1日にダウンロードできる本件各MP3 ファイル数、C実効通信速度を最大速度の約3分の1とし、本件サービスの利用者が利用 しているインターネット接続回線の比率を前記イ(エ)のとおりであると仮定した場合の本 件サービスの利用者340人(本件中間判決で判示したとおり、本件サービスにおいて同 時に被告サーバに接続している利用者数は平均で約340人であった。)が1日にダウン ロードできる本件各MP3ファイル数、D被告サーバに接続している利用者は、本件各M P3ファイル以外の電子ファイルも受信しているものと推測されるが、本件サービスにお いては、被告サーバに接続しているパソコンの共有フォルダに蔵置されている電子ファイ ル数は平均で54万弱であったこと等によれば、送信可能化されているすべての本件各管 理著作物について、本件使用料規程が想定する月に90.9回のダウンロードをすること は、あまりにも過大であるというべきであり、この点を損害額の認定に当たり考慮するの が相当である。  (ウ) このように、本件においては、本件使用料規程を形式的に適用することにより使 用料相当損害金を算定することはできず、また、本件の性質上、その他に、原告に生じた 損害額を立証するために必要な事実を立証することは極めて困難である。そこで、上記の 各事実及び本件サービスに対する使用料相当損害金の算定にあたり、本件使用料規程第1 2節のうち、送信可能化数を基礎にした算定方法に係る規定(1(3)A)を参考にするのは、 ダウンロード数を把握していなかった被告エム・エム・オー側の事情によること等の諸事 情を総合し、著作権法114条の4により、本件使用料規程に基づき算定した上記金額2 億7932万8000円の概ね10分の1に相当する3000万円(平成13年11月1 日から平成14年2月28日までについては概ね10分の1に相当する2200万円)を もって使用料相当損害額と認めるのが相当である。   (4) 弁護士費用  原告が本訴訴訟の提起及び追行を原告代理人らに委任したことは当裁判所に顕著である ところ、本件において認容される使用料相当損害金の額、本件事案の難易度、審理の内容 及び期間等本件に現れた一切の事情に照らすならば、被告らの不法行為と相当因果関係の ある弁護士費用としては、450万円と認めるのが相当である。  (5) 過失相殺の可否について  被告らは、原告には、本件損害の発生について以下のとおりの過失があるとして過失相 殺を主張するが、以下のとおり、いずれも理由がない。  ア 被告らは、原告が本件サービス開始時において、本件サービスを、本件各管理著作 物をMP3形式により複製した電子ファイルを無償で交換するためのサービスであると宣 伝したと主張する。しかし、原告が上記のような宣伝をした事実を認めるに足りる証拠は ないから、被告らの上記主張は理由がない。  イ 被告らは、原告が本件サービスを利用して本件各MP3ファイルを送信可能化等し ている利用者に対し、何ら警告を発していないと主張する。しかし、原告には、本件サー ビスの利用者に対して、本件サービスにより原告管理著作物の送信をしないよう警告する 義務はないから、被告らの上記主張は失当である。  ウ 被告らは、原告が、本件サービスによって著作権を侵害されている原告管理著作物 を特定して、これを被告エム・エム・オーに対して指摘しなかった点において原告に過失 があると主張する。しかし、被告エム・エム・オーは、本件中間判決で判示したとおり、 自ら原告の送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害する行為を行っているのであり、被害 を受けた立場の原告が上記のような指摘をしないことをもって、過失があるとすることは できず、被告らの上記主張は理由がない。  エ 被告らは、原告が被告エム・エム・オーに対して求めた内容は、被告エム・エム・ オーが各利用者の共有フォルダに蔵置されている電子ファイルの内容を把握した上で、そ のうち本件各管理著作物をMP3形式で複製した電子ファイルについて利用者間で送受信 することを停止するというものであり、現実的な解決方法を示さなかった点において過失 があると主張する。しかし、自ら本件サービスを提供して原告の送信可能化権及び自動公 衆送信権の侵害行為を行っている被告エム・エム・オーとしては、そのような侵害行為を 避けるための解決方法を自らの責任において実施すべきであって、被害を受けた立場の原 告らに過失があるということはできないから、被告らの上記主張は、採用の限りでない。 (6) 以上により、原告が被告らに対して請求することができる損害額は、前記(3)記載 の使用料相当額である3000万円と前記(4)記載の弁護士費用450万円の合計額である 3450万円となる。なお、原告は、上記金額の内、平成13年11月1日から平成14 年2月28日までの損害額及び弁護士費用の合計額についてのみ遅延損害金を請求してい るところ、同金額は2650万円となる。  4 よって、主文のとおり判決する。なお、原告は、被告らに対して、本件各管理著作 物がMP3形式で複製された電子ファイルの送受信を停止するに至るまでの損害をあわせ て請求するが、前記のとおり、本件サービスは、平成14年4月16日に運営を停止して いること及び弁論の全趣旨に照らし、将来給付に係る部分についてはその必要性を認める ことはできない。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 飯村 敏明    裁判官 榎戸 道也    裁判官 佐野 信