・大阪地判平成15年12月18日  西沢学園CM事件:第一審  原告は、平成8年4月から平成10年3月まで、被告(学校法人西沢学園)の経営する 大阪コンピュータ専門学校に学生として在籍し、平成10年11月から被告専門学校に非 常勤講師として勤務し、平成13年3月31日付けで退職した者である。原告は、被告専 門学校に学生として在籍中、同校の実習設備を用いて、「AZUSA3」(原告作品@) (人間型のロボットが佇立した姿勢のまま、右腕を肩の高さまで持ち上げた後、その前腕 部分が分離し、ロケット噴射しながら飛び出していくという情景を描いたもの)、「Mi 24」(原告作品A)(軍用ヘリコプターが洋上を飛行中に爆発する情景を描いたもの)、 「ARES」(原告作品B)(戦闘機を描いたもの)というコンピュータグラフィックス 作品を作成した。  原告は、「原告作品@ないしBは、原告の著作物であり、その著作権は原告が有し、被 告のテレビコマーシャルは原告作品@、Aを複製したものであり、被告のパンフレット及 びホームページは、原告作品@ないしBを複製したものであるが、原告は、原告作品@な いしBが被告のパンフレットに複製されて使用されていること、及び原告作品@ないしB が被告のパンフレット、ホームページ、テレビコマーシャルなどに複製されて使用される ことに同意を与えていたものである」として、原告の請求を棄却した。 (控訴審:大阪高判平成16年6月30日) ■判決文 2 抗弁(1)(原告の同意)について検討する。 (1) 抗弁(1)ア(包括的同意)の事実のうち、被告専門学校が、学生の作成した作品をパ ンフレットやテレビコマーシャルに使用していたこと、「Nishizawa Forum 2000」の応 募登録用紙に、提出された作品の著作権を被告に帰属させることが記載されていたことは、 当事者間に争いがない。  上記当事者間に争いのない事実と乙第2、第3号証、第7号証及び被告代表者A本人尋 問の結果を合わせ考えても、被告専門学校の学生が、実習設備を用いて作成した作品が同 校のパンフレットやテレビコマーシャルに使用されることを包括的に同意していたことは、 認めることができず、他にそのような事実を認めるに足りる証拠はない。 (2) 抗弁(1)イ(個別の同意)(ア)の事実のうち、被告のパンフレットに掲載された原告 作品@の横に、原告の顔写真とコメントが掲載されていること、平成9年12月18日ご ろ、被告の学校紹介ビデオを作成した際、コンピュータを操作して原告作品Aを編集する 原告のインタビューシーンが収録されたこと、その際、撮り直しなどがあったことは、当 事者間に争いがない。  抗弁(1)イ(イ)の事実のうち、平成10年11月10日ごろ、被告理事長B、被告専門学 校学校長Aが、被告専門学校において原告と面談したこと、被告が原告を非常勤講師とし て採用することとしたことは、当事者間に争いがない。 (3)ア 前記(2)記載の当事者間に争いのない事実と乙第1号証、第4ないし第6号証、原 告本人尋問の結果(後記の信用することができない部分を除く。)、被告代表者B、同A各 本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。  (ア) 被告専門学校のパンフレットに同校の学生の作品を掲載することは、原告が同校 に入学する前から行われていた。  (イ) 原告作品@ないしBは、被告専門学校のパンフレットに、同校で撮影された原告 の顔写真と共に掲載されていた。  (ウ) 原告が学生として在籍中の平成9年12月18日ごろ、被告専門学校の学校紹介 ビデオが作成され、原告が、原告作品Aの作成過程で演算式をコンピュータに入力して物 理計算を行っている途中でインビューを受け、そのとき行っている作業の説明や、入学希 望者へのメッセージを述べる場面が収録された。その際、原告の背後のディスプレイに原 告作品Aのヘリコプターのワイヤーフレームが分解するシーンが表示されているのも撮影 された。この撮影に当たっては、複数回にわたって撮り直しが行われたが、原告は終始協 力的であった。  (エ) 原告は、平成10年3月に被告専門学校を卒業し、いったん就職したが、短期間 で辞め、新たな就職先を探していた。被告専門学校の講師らは、原告が就職先を探してい ることを知り、原告が在学中に作成した作品が評価されていたことから、同校において広 報の制作や実習の補助などをさせるために雇用するよう、被告代表者らに推薦した。  (オ) 被告代表者Bは、平成10年11月12日ごろ、被告専門学校において原告と面接 し、被告専門学校のパンフレットに使用された原告作品@ないしBなどが評価されている ことを伝え、それらの作品をその後も継続的に広報等に使用させてもらう旨述べるととも に、広報に使用する作品の制作を補助すること、実習の補助をすることなどを業務の内容 として非常勤で採用することを申し入れた。原告は好意的に応対し、採用の申入れを承諾 し、同被告代表者は、勤務時間などの詳細を後日書類で知らせる旨述べた。被告専門学校 の職員は、学科試験と面接を経て採用されることもあったが、原告は、被告専門学校の卒 業生であり、在学中の作品が評価されていたことから、学科試験を免除され、面接の結果 のみにより採用された。  (カ) 被告は、原告に対し、平成10年11月14日ごろ、広報用の2次元媒体及びC Gの作成、並びにマルチメディア実習などを行う非常勤助手として採用することと、勤務 時間、賃金額などを記載した書面を送付した。  (キ) 原告作品@、Aを掲載したテレビコマーシャルは、原告が被告専門学校に雇用さ れた後放映された。  (ク) 原告は、被告専門学校において、広報用のロゴや恐竜のCGを作成し、実習の補 助をするなどした。  (ケ) 原告が被告専門学校に在職する間に、原告が実習の補助をすることについて、学 生から被告専門学校に対して苦情があり、被告は、一部の学生が同校を退学した理由が、 学生の原告に対する不満にあったと認識するに至った。そして、そのようなことから、被 告は、原告の雇用を継続することは適当でないと判断し、原告に対して退職するよう申し 入れ、原告は、平成13年3月31日付けで被告を退職した。原告は、退職時の被告の対 応等に不満を抱き、退職後も被告専門学校を訪れることがあった。  以上の事実が認められる。 イ 原告は、平成10年12月ごろ、被告の学校紹介ビデオに原告作品Aが使用されて いること、及び原告作品@、Aがテレビコマーシャルに使用されていることについて、被 告専門学校の講師、教務部長に対して抗議し又は苦情を述べた旨主張し、甲第1号証、原 告本人尋問の結果中には、それに沿う陳述もある。しかし、前記ア(ウ)の認定のとおり、 原告作品Aの作成過程で収録された学校紹介ビデオの作成に当たって、原告は終始協力的 であったものであり、また、原告本人も、そのような抗議、苦情の申入れをした後も、原 告が、被告専門学校において、広報用のロゴや恐竜のCGを作成していた旨供述している。 さらに、これらの抗議又は苦情の申入れについて、甲第1号証には、申入れの時期、相手 方、具体的な状況は記述されておらず、原告本人尋問の結果中においても、申入れの時期、 申入れを行った際の具体的な状況や被告側の反応についての供述は、曖昧なものにとどま っている。これらの事情並びに乙第6号証及び被告代表者B本人尋問の結果に照らして、原 告が、被告専門学校の講師、教務部長に対して上記のような抗議をし又は苦情を述べた旨 の甲第1号証、原告本人尋問の結果中の陳述は信用することができず、原告の上記主張は、 採用することができない。  その他、甲第1号証、原告本人尋問の結果のうち、前記アの認定に反する部分は、乙第 6号証、被告代表者B、同A各本人尋問の結果に照らし、信用することができず、他に上記 認定を左右するに足りる証拠はない。 (4) 前記1(3)ア、イ記載のとおり、被告のテレビコマーシャルには原告作品@、Aが複 製されており、被告のパンフレット及びホームページには原告作品@ないしBが複製され ているものと認められ、これに前記(3)ア、イの認定を合わせ考えると、原告は、被告に雇 用されるときの面接の際に、原告作品@ないしBの静止画がパンフレットに複製され使用 されていることを知っていたものと推認され、また、原告作品@ないしBを含む原告の作 品が被告のパンフレットのほかホームページやテレビコマーシャルなどに複製されて使用 されることがあり得ることも認識していたものと推認される。そして、その上で、同面接 の際に、広報に使用する作品の制作の補助などを業務の内容として被告に雇用されること を承諾するとともに、原告作品@ないしBが被告のパンフレットに複製されて使用されて いること、及びその後も原告作品@ないしBが被告のパンフレット、ホームページ、テレ ビコマーシャルなどに複製されて使用されることに同意を与えたと認めるのが相当である。  したがって、被告の抗弁(1)イ(個別の同意)は理由がある。 3 以上によれば、原告作品@ないしBは、原告の著作物であり、その著作権は原告が有 し、被告のテレビコマーシャルは原告作品@、Aを複製したものであり、被告のパンフレ ット及びホームページは、原告作品@ないしBを複製したものであるが、原告は、原告作 品@ないしBが被告のパンフレットに複製されて使用されていること、及び原告作品@な いしBが被告のパンフレット、ホームページ、テレビコマーシャルなどに複製されて使用 されることに同意を与えていたものである。 したがって、本件においては、その余の点について判断するまでもなく、原告の著作権 侵害の主張は理由がない。 4 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事 訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 小松 一雄    裁判官 中平 健    裁判官 大濱 寿美