・東京地判平成15年12月19日判時1847号95頁  「どこまでも行こう」(対フジテレビ)事件  原告Aは、昭和41年、「どこまでも行こう」(甲曲)を作詞作曲して、その歌詞及び 楽曲の各著作物について著作権及び著作者人格権を取得した。そして、原告Aは、昭和4 2年2月27日、原告会社(有限会社金井音楽出版)に対し、甲曲について著作権法27 条及び28条の権利を含む著作権を、その歌詞に係る著作権とともに信託譲渡した。原告 会社は、同月28日、社団法人日本音楽著作権協会に対し、著作権信託契約約款に従い、 甲曲の著作権を信託譲渡して管理を委託した(ただし、譲渡した支分権の範囲については 争いがある。)。  株式会社ポニーキャニオン及び株式会社フジパシフィック音楽出版は、共同で、被告 (株式会社フジテレビジョン)及びその系列局で放送するテレビ番組「あっぱれさんま大 先生」のCDアルバム「キャンパスソング集」を制作することを企画し、ポニーキャニオ ンの担当者Bは、アルバム中の「記念樹」(乙曲)につきその作曲を作曲家であるCに依 頼した。Cは乙曲についての著作権を、Dはその歌詞についての著作権を、それぞれフジ パシフィックに対して譲渡し、フジパシフィックは、平成4年12月21日、JASRA Cに乙曲の作品届を提出し、同月1日付けでJASRACに乙曲及びその歌詞についての 著作権を信託譲渡して管理を委託した。JASRACは、利用者に対し、利用許諾して、 乙曲を利用させた。  被告は、別件訴訟の控訴審判決を受けて、平成14年9月1日放送分を最後に、同月8 日以降は、本件番組において、乙曲を放送しないことを決定し、乙曲の放送を中止した。 また、JASRACは、別件訴訟の最高裁決定を受けて、平成15年3月13日に至り、 乙曲の利用許諾を中止した。  本件は、被告が自ら乙曲を放送し、乙曲を放送用に録音して、系列局に乙曲を放送させ た行為につき、原告会社が甲曲の著作権(法27条又は法28条の権利)侵害を理由とし て、原告Aが甲曲の著作者人格権侵害を理由として、被告に対し、それぞれ不法行為に基 づく損害(平成11年4月1日以降の放送による損害)の賠償を請求する事案である。  判決は、著作権および氏名表示権侵害を認めて、損害賠償請求を認容したものの、同一 性保持権については、「法20条は、条文上、改変行為だけを侵害行為としており、改変 された後の著作物の利用行為については規定されていない。……現行法の解釈としては、 上記のとおり、同一性保持権を侵害して作成された二次的著作物を放送する行為は、同一 性保持権侵害とならないといわざるを得ない」として、侵害を否定した。なお、過失につ いては、別件訴訟が提起された「平成10年7月以降は、乙曲が甲曲に係る著作権ないし 著作者人格権を侵害するものか否かについて真摯に調査検討し、著作権ないし著作者人格 権侵害を防止する方策をとるべき注意義務があった」とした。 ■争 点 (1) 乙曲は甲曲に係る編曲権を侵害する曲といえるか。 (2) 被告の行為により原告会社の著作権が侵害されたか。 (3) 被告の行為により原告Aの著作者人格権が侵害されたか。 (4) 被告に過失があるか。 (5) 損害の発生の有無及びその額 ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(編曲権を侵害する曲といえるか)について  (1) 法27条にいう編曲とは、既存の著作物である楽曲に依拠し、かつ、その表現上の 本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに 思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の 本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物である楽曲を創作する行為をいう (最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4 号837頁参照)。  (2) 依拠性  ア 甲曲は、昭和41年、株式会社ブリヂストンのテレビコマーシャルとして、民放各 社により放送され公表された。原告会社は、昭和42年、歌手Fの吹き込みによる甲曲の レコード化を企画し、キングレコード株式会社により、同レコードが製作・販売された。 また、株式会社ブリヂストンは、甲曲を同社の愛唱歌としてレコード化し、原告Aに甲曲 の変奏又は編曲を依頼して、平成4年ころまで27年間にわたり、甲曲をさまざまなバリ エーションでテレビコマーシャルとして放送した。甲曲は、その後、有名な曲を編集した さまざまな歌集に掲載され、小・中学生の音楽教科書にも掲載された(甲1、3ないし1 5、36、弁論の全趣旨)。  したがって、甲曲は、昭和41年に公表されたコマーシャルソングとしてばかりではな く、その後も、乙曲が創作される平成4年ころまで、長く歌い継がれる大衆歌謡ないし唱 歌として著名な楽曲であることが認められる。  イ Cは、甲曲の公表前ではあるが、昭和35年と昭和37年の2回にわたり歌手Fが 旧ソ連へ公演旅行した際に、伴奏者としてこれに同行し、Fの歌う曲の作編曲を多数手が けている(甲34、乙20)。また、Cは、昭和59年ころ、ブリヂストンの社歌を作曲 している(甲29、34)。  このように、Cは、甲曲を歌唱した歌手やコマーシャルソングとした会社と関係が深か ったのであるから、甲曲に接触する機会があったということができる。また、Cが記者会 見やインタビューの際に甲曲を聴いたことがあることを認めていたことや(甲32、33 の1及び2)、甲曲の著名性及びC自身が音楽家であることに照らせば、Cが乙曲の創作 以前に甲曲を知っていたものということができる。  ウ これらの事情に加えて、後記(3)に認定するとおり、甲曲と乙曲の旋律が類似してい ることに鑑みれば、乙曲は、甲曲に依拠して創作されたものということができる。  (3) 表現上の本質的特徴の同一性  ア 一般に、楽曲に欠くことのできない要素は、旋律(メロディー)、和声(ハーモニ ー)及びリズムの3要素であり、これら3要素の外にテンポや形式等により一体として楽 曲が表現されるものであるから、それら楽曲の諸要素を総合して表現上の本質的特徴の同 一性を判断すべきである。  もっとも、これらの諸要素のうち、旋律は、単独でも楽曲とすることができるのに対し、 これと比較して、和声、リズム、テンポ及び形式等が、一般には、それ単独で楽曲として 認識され難く、著作物性を基礎づける要素としての創作性が乏しく、旋律が同一であるの に和声を付したり、リズム、テンポや形式等を変えたりしただけで、原著作物の表現上の 本質的な特徴の同一性が失われるとは通常考え難いこととされている(甲76、79、8 1)。  そして、甲曲は、歌詞を付され、旋律に沿って歌唱されることを想定した歌曲を構成す る楽曲である。甲曲の構成は、全16小節を1コーラスとする、比較的短い楽曲であり、 後記のとおり、4小節を1フレーズとすると、4フレーズをA−B−C−Aと定式化する ことができる簡素な形式が採用されている。また、和声も基本3和音による3コードで進 行する常とう的な和声が付けられているにとどまる。さらに、甲曲の旋律と類似する楽曲 としても、せいぜい1フレーズ程度の旋律しか発見されず、4フレーズの旋律全体の構成 が類似する楽曲が発見されていないことからすれば(乙2、4、19、26、27、検乙 1、2)、甲曲の楽曲としての表現上の本質的な特徴は、和声や形式といった要素よりは、 主としてその簡素で親しみやすい旋律にあり、特に4フレーズからなる起承転結の組立て という全体的な構成が重要視されるべきである(甲76)。  よって、甲曲のように、旋律を有する楽曲に関する編曲権侵害の成否の判断において最 も重視されるべき要素は、旋律であると解するのが相当であるから、まず、旋律について 検討し、その後に楽曲を構成するその余の諸要素について総合的に判断することとする。  イ そこで、甲曲と乙曲の旋律を対比する。  甲曲を2回繰り返し、その2小節分を1小節として乙曲の1小節と対応させ、いずれも ハ長調に移調して上下に並べると、別紙3のとおりとなる。  甲曲は、4小節(別紙3では2小節)を1フレーズとすると、第1フレーズと第4フレ ーズが同一であるから、4フレーズをA−B−C−Aと定式化することができる。乙曲は、 2小節を1フレーズとすると、第1フレーズと第5フレーズ及び第8フレーズがほぼ同一 であり、第4フレーズは後半部分においてそれらとわずかに異なっており、第2フレーズ と第6フレーズ、第3フレーズと第7フレーズがそれぞれ同一であるから、[a−b−c −a’]−[a−b−c−a]と表すことができ、ほぼ同一の4フレーズを反復する二部 形式となっている(甲79)。  乙曲の全128音中92音(約72%)は、これに対応する甲曲の旋律と同じ高さの音 が使用されている(甲85)。また、甲曲と乙曲は、各フレーズの最初の3音以上と最後 の音が第4フレーズを除く全フレーズにおいて、すべて一致している(甲79ないし8 1)。しかも、両曲は、ともに弱拍で始まる楽曲であり、各小節の最初の音に強拍部が位 置するが、その強拍部の音は第4フレーズを除いてすべて一致する(甲80、81、乙3)。  したがって、両曲の旋律は、起承転結の構成においてほぼ同一であり、そのことが各フ レーズの連結の仕方に顕著に現れているということができる(甲76、77、79)。唯 一相違する乙曲における第4フレーズa’は、二部形式の前半部分を後半部分へとつなぐ 役割を果たしている部分であり、一部形式の原曲を2回繰り返したものを1コーラスの反 復二部形式としてその限度で必要な改変を加えること自体は、編曲の範囲内にとどまる常 とう的な改変にすぎないことを考慮すると、このフレーズにおける相違点をもって、両曲 の表現上の同一性を否定することはできない。  両曲の各フレーズごとの旋律を比較すると、甲曲の第1フレーズAには主音の半音下に あって次の主音を導く導音シが使用されているが、乙曲には使用されていない点(乙2、 19、21、26ないし28)、甲曲の第2フレーズBは音の高さが上がっていくのに対 し、乙曲の第2フレーズbは音の高さが下がっていく点(乙26)が相違するが、その他 の旋律は、単に譜割りを細かくした程度の違いしかない。特に、甲曲の第3フレーズCか ら第4フレーズAへかけてと乙曲の第3フレーズcから第4フレーズa’へかけての部分 は、ほとんど同一ともいうべき旋律が22音にわたって(全体の3分の1以上)連続して 存在するのであり、旋律を全体として聴き較べた場合には、少なくとも、よく似ている旋 律が相当部分を占めるという印象を抱かせるものであり、第1フレーズAとa、第2フレ ーズBとbの相違点も、この印象を覆すには足りない(検甲2)。  したがって、両曲の旋律は、表現上の本質的な特徴の同一性を有するものと認められる。  ウ 甲曲の和声は、基本3和音によるいわゆる3コードの曲であり、明るく前向きな印 象をもたらしているのに対し、乙曲の和声は、きめ細かな経過和音と分数コードを多用し て複雑に進行し、感傷的な雰囲気をもたらしており、この点で両曲には曲想の差異が生じ ている(乙2ないし4、26、27)。しかし、両曲のような大衆的な唱歌に用いられる 楽曲の場合は、アカペラ(無伴奏)で歌唱されることもあるとおり、これに接する一般人 の受け止め方として、歌唱される旋律が主、伴奏される和声は従という位置づけになるこ とは否定し難いから(甲83)、和声の差異が旋律における両曲の表現上の本質的な特徴 の同一性を損なうものとはいえない。  甲曲が2分の2拍子で、4分の4拍子による楽譜もあるのに対し、乙曲が4分の4拍子 であるが、メロディーを比較する場合、2分の2拍子と4分の4拍子はさしたる違いとは いえない(甲77、85)。甲曲の付点二分音符が乙曲では八分音符3個になったりする など甲曲と乙曲で譜割が一部同一でない部分もあるが、同一の音の長さとしては同じで歌 詞の字数との関係にすぎない。その程度の差異は、演奏上のバリエーションの範囲内とい うべきもので、両曲のリズムはほとんど同一といってよい。  また、楽譜上テンポの指定はないが、仮に差異があったとしても、演奏上のバリエーシ ョンの範囲内というべき差異にすぎず、上記両曲の表現上の本質的な特徴の同一性に影響 を与えるものではない(検甲5、6)。  形式については、前記のとおり、甲曲が4フレーズ1コーラスをA−B−C−Aの起承 転結で構成するものであるのに対し、乙曲が、おおむね[a−b−c−a’]−[a−b −c−a]という反復二部形式を採るものであるところ、両者は、むしろ4フレーズの起 承転結に係る構成の共通性にこそ顕著な類似性が認められるものであって、これを繰り返 して反復二部形式とすることは、編曲又は複製の範囲内にとどまる常とう的な改変にすぎ ないというべきである。その他、両曲の楽曲としての表現上の本質的な特徴の同一性を損 なう要因は見当たらない。  エ 被告は、編曲の成否は、一般人が乙曲に接したとき、甲曲の存在を想起し、その表 現形式上の本質的特徴を直感的に想起するか否かによって判断されるべきであるとし、乙 曲の放送開始から原告らのCに対する別件訴訟提起までの5年以上の間、乙曲が甲曲に類 似しているなどという指摘が一切なかったことは、一般人が乙曲に接しても甲曲の存在を 想起しないことを示している旨主張する。  しかしながら、甲曲が最初に公表されたのは、テレビコマーシャルソングとしてI が歌 唱したものであるが、これは実演家としてのI の個性が強く表現されている(検乙2)。 また乙曲が最初に公表されたのは、本件番組のエンディング・テーマに用いるために生徒 一同が斉唱したものであって、子供達による斉唱という特定の歌唱による印象づけが行わ れている上(検甲1)、Eによる編曲とJによるストリングス編曲が施されており(甲1 7)、歌詞の付された歌曲として、歌詞自体が持つ印象の相違が及ぼす影響も無視するこ とはできない。したがって、前記の両曲の類似性にもかかわらず、一般視聴者から指摘が なかったからといって、一般人が乙曲に接しても甲曲の存在を想起しないというのは相当 ではなく、被告の上記主張は、採用することができない。  (4) したがって、乙曲は、甲曲に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を 維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に 表現することにより、これに接する者が甲曲の表現上の本質的な特徴を直接感得すること ができるものということができる。よって、乙曲は、原告会社の甲曲に係る法27条の権 利(編曲権)及び原告Aの甲曲に係る同一性保持権を侵害して創作されたものである。 2 争点(2)(原告会社の著作権が侵害されたか)について  (1) 法27条について  法27条は、「著作権者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色 し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と規定し、法28条は、「二次的著作 物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該 二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定する。この ように、法27条は、文言上、「著作物を編曲する権利を専有する」旨定めており、「編 曲する」という用語に「編曲した著作物を放送する」という意味が含まれると解すること は困難である。そして、法27条とは別個に、法28条が、編曲した結果作成された二次 的著作物の利用行為に関して、原著作物の著作権者に法21条から27条までの二次的著 作物の経済的利用行為に対する権利を定めていることに照らせば、法27条は、著作物の 経済的利用に関する権利とは別個に、二次的著作物を創作するための原著作物の転用行為 自体、すなわち編曲行為自体を規制する権利として規定されたものと解される。  原告会社は、二次的著作物を放送する行為に対しても、法27条の権利侵害が成立する と主張するが、そのように解すると、「編曲」の意味を法27条に例示された形態以上に 極めて広く解することになるし、著作権法が法27条とは別個に法28条の規定を置いた 意味を無にするものとなるから、法27条を理由とする同原告の主張は、採用することが できない。  (2) 法28条について  本件において、甲曲について法27条の権利を専有する原告会社の許諾を受けずに創作 された二次的著作物である乙曲に関して、原著作物である甲曲の著作権者は、法28条に 基づき、乙曲の複製権(法21条)、放送権(法23条)及び譲渡権(法26条の2)を 有するから、原告会社の許諾を得ずに乙曲を放送、録音し、録音物を販売した被告に対し ては、法27条に基づくのではなく、法28条に基づいて権利行使をすることができると 解すべきである。  被告は、原告会社が法28条の権利を有しない旨主張するので、この点について検討す る。  ア JASRACは、昭和40年9月1日、原告会社から、同年10月15日から著作 権の全存続期間を信託期間として、本件信託契約約款により、原告会社の有する総ての著 作権並びに将来取得することあるべき著作権の信託を引き受ける旨の契約を締結した。本 件信託契約約款1条本文において、委託者は「その有する総ての著作権並びに将来取得す ることあるべき総ての著作権」を信託財産として受託者に移転する旨規定されている(甲 72の1及び2、乙35の1及び2)。そして、原告会社は、昭和42年2月28日、J ASRACに対し、甲曲及びその歌詞につき、著作権を信託する旨の作品届を提出した (甲2)。  法61条2項は、「著作権を譲渡する契約において、法27条又は28条に規定する権 利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保され たものと推定する。」旨規定している。原告会社がJASRACに甲曲の著作権を信託譲 渡した昭和40年当時の旧著作権法(法律明治32年法律第39号)においては、2条に 「著作権ハ其ノ全部又ハ一部ヲ譲渡スルコトヲ得」と規定されているだけであったが、現 行著作権法(昭和45年法律第48号)が施行される際、附則9条によって、旧法の著作 権の譲渡その他の処分は、附則15条1項の規定に該当する場合を除き、これに相当する 新法の著作権の譲渡その他の処分とみなす旨定められたため、法61条2項の推定規定は、 旧法時代に行われた著作権譲渡契約にも適用される。  法61条2項は、通常著作権を譲渡する場合、著作物を原作のままの形態において利用 することは予定されていても、どのような付加価値を生み出すか予想のつかない二次的著 作物の創作及び利用は、譲渡時に予定されていない利用態様であって、著作権者に明白な 譲渡意思があったとはいい難いために規定されたものである。そうすると、単に「将来取 得することあるべき総ての著作権」という文言によって、法27条の権利や二次的著作物 に関する法28条の権利が譲渡の目的として特掲されているものと解することはできない。 この点につき、法28条の権利が、結果的には法21条ないし法27条の権利を内容とす るものであるとして、単なる「著作権」という文言に含まれると解釈することは、法61 条2項が、法28条の権利についても法27条の権利と同様に「特掲」を求めている趣旨 に反する。  また、現行の著作権信託契約約款(甲55。平成13年10月2日届出)によれば、委 託者は、その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を信託財産として受 託者に移転する旨の条項(3条)のほか、委託者が別表に掲げる支分権又は利用形態の区 分に従い、一部の著作権を管理委託の範囲から除外することができ、この場合、除外され た区分に係る著作権は、受託者に移転しないものとする旨の条項がある(4条)。そして、 この「別表に掲げる支分権及び利用形態」とは、@ 演奏権、上演権、上映権、公衆送信 権、伝達権及び口述権、A 録音権、頒布権及び録音物に係る譲渡権、B 貸与権、C  出版権及び出版物に係る譲渡権、D 映画への録音、E ビデオグラム等への録音、F  ゲームソフトへの録音、G コマーシャル放送用録音、H 放送・有線放送、I インタ ラクティブ配信、J 業務用通信カラオケであり、二次的著作物に関する法28条の権利 については明記されていない。  他方、JASRACは、法28条の権利をも譲渡の対象とするのであれば、著作権信託 契約約款に、例えば、社団法人日本文藝家協会の管理委託契約約款のように、「委託者は、 その有する著作権及び将来取得する著作権に係る次に定める利用方法で管理委託契約申込 書において指定したものに関する管理を委任し、受託者はこれを引き受けるものとする。 (1) 著作物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物の出版、録音、録画その他の複 製並びに当該複製物の頒布、貸与及び譲渡 (2) 著作物又は当該著作物を原著作物とする 二次的著作物の公衆送信、伝達、上映、上演及び口述 (3) 著作物の翻訳及び映画化等の 翻案」という条項によって、明確に「特掲」することが可能である(弁論の全趣旨)。  以上によれば、原告会社の有する法28条の権利が、明示の合意により、JASRAC に譲渡されたことを認めるに足りない。  イ 被告は、原告らが別件訴訟提起時に、JASRACに対し、乙曲の著作物使用料の 分配保留を求めたこと(乙37)をもって、JASRACへの信託譲渡を容認している旨 主張する。しかしながら、もともと乙曲の管理を委託したのは原告会社ではなく、著作物 使用料も原告会社に支払われていたわけではないから、上記の事実をもって、原告会社が 許諾することなく編曲された二次的著作物の利用に関する権利をもJASRACに信託譲 渡したと認めることはできない。  また、原告会社が、編曲を許諾していない二次的著作物の自由な利用までもJASRA Cに容認していたと認めるに足りる証拠はない。  他に原告会社の法28条の権利が黙示の合意によりJASRACに譲渡されたことをう かがわせる事実はない。  ウ かえって、@ JASRACにおいて、編曲著作物の届出方法が定められ、原著作 物の著作権がある作品については、原著作物の著作権者の承認を証明する文書が必要とさ れ、JASRACにおいて、編曲審査委員会及び理事会に諮って、当該編曲著作物がJA SRACの管理する二次的著作物として妥当なものであるかどうかを決定すること(甲7 3、90、乙36)、A JASRAC発行の「日本音楽著作権協会の組織と業務」と題 する説明書において、「編曲や翻訳等を認める権利はJASRACに譲渡されていないの で、著作権法第61条により、これらの権利は当然著作者なり、著作権者なりに留保され ていることに気を付ける必要がある。」と記載されていること(甲90)等の事実によれ ば、少なくとも原著作物の著作権者の許諾なくして編曲され編曲著作物として届出されて いない二次的著作物に関する権利についてまで信託契約の対象とする意思は、原告会社の みならず、JASRACにもなかったものと認められる。  このように解しても、著作権集中管理団体に対する信託譲渡の実態や仲介業務法に反す るものではない。  逆に、原著作物の著作権者の許諾なくして編曲された二次的著作物に関する権利が信託 契約の対象となり、JASRACに譲渡されたものであるとすると、編曲権を侵害する二 次的著作物が放送等利用された場合に、JASRACが編曲権を侵害する二次的著作物に 当たらないと判断したときには、これと異なる見解を有する原著作物の著作権者が、何ら の権利も行使することができないこととなる。現に、本件において、JASRACは、被 告に対し乙曲について利用許諾を与えて使用料を徴収していたのであるから、JASRA Cがこれらの利用者に対し法28条の権利を行使して利用差止めや損害賠償等の請求をす ることは期待し難く、原著作物の著作権者の保護に欠ける不当な結果となりかねない。  エ したがって、少なくとも、法27条の権利(編曲権)を侵害して創作された乙曲を 二次的著作物とする法28条の権利は、JASRACに譲渡されることなく原告会社に留 保されているということができる。そうすると、原告会社は、法28条に基づき、乙曲の 複製権(法21条)、放送権(法23条)及び譲渡権(法26条の2)を専有するから、 原告会社の許諾を得ることなく乙曲を放送、録音し、録音物を販売した被告は、原告会社 の有する法28条の権利を侵害したことになる。 3 争点(3)(原告Aの著作者人格権を侵害するか)について  (1) 被告が原告Aの氏名を表示することなく乙曲を放送したことは前記第2の1(4)の とおりである。被告の上記行為が法19条1項後段所定の氏名表示権を侵害することは明 らかである。  (2) 法20条によれば、同一性保持権とは、その著作物及びその題号の同一性を保持す る権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない権利である。 そして、法20条は、条文上、改変行為だけを侵害行為としており、改変された後の著作 物の利用行為については規定されていない。  また、法113条1項には、同一性保持権侵害とみなされる行為が規定されているが、 そこで列挙されているのは、頒布行為や頒布目的の所持、輸入などの行為である。すなわ ち、同項は、法21条から法26条の3に定められた支分権の対象となる行為の中から、 一定の類型の行為のみを一定の要件を課して同一性保持権侵害とみなしているのである。 法113条1項においては、頒布行為と同列に扱われるべき公衆送信(放送)行為や複製 (録音)行為は、同一性保持権侵害とはみなされていないし、「頒布」は、法2条1項1 9号において定義されているとおりの行為をいい、公衆送信(放送)や複製(録音)を含 むと解することはできない。  原告Aは、著作者人格権を侵害した楽曲を自由に放送や録音等することができるとする と、著作者人格権を法律上保護することが無意味となる旨主張する。同一性保持権につい ては、立法論としてはともかく、現行法の解釈としては、上記のとおり、同一性保持権を 侵害して作成された二次的著作物を放送する行為は、同一性保持権侵害とならないといわ ざるを得ない。 4 争点(4)(過失の有無)について  (1) 被告は、放送事業及び放送番組の制作等を業としている法人であり、その放送する 番組や音楽等が他人の著作権及び著作者人格権を侵害することのないように万全の注意を 尽くす義務がある。特に、本件においては、平成10年7月に別件訴訟が提起され、乙曲 が甲曲に係る著作権等を侵害するか否かが問題になっていることは大きく報道されたので あるから(甲32、33の1及び2)、被告は、遅くとも平成10年7月以降は、乙曲が 甲曲に係る著作権ないし著作者人格権を侵害するものか否かについて真摯に調査検討し、 著作権ないし著作者人格権侵害を防止する方策をとるべき注意義務があったというべきで ある。そして、被告は、その事業規模からしても、調査能力を十分有していたというべき であり、乙曲が甲曲に係る著作権ないし著作者人格権を侵害していると判断される可能性 があれば、乙曲の放送を中止することによって、著作権侵害の結果を回避することができ たものである。  しかるに、被告は、JASRACの利用許諾を信用したと主張するのみで、一般に放送 する音楽著作物について著作権等の侵害を防止するための何らかの方策を採っているとい う主張も立証もなく、JASRACに任せきりで、自らは全く関知していないで上記注意 義務を尽くさなかったのである。本件全証拠によっても、被告社内において、乙曲が他の 音楽著作物あるいは甲曲に係る著作権ないし著作者人格権を侵害しているかどうかを検討 した形跡すらない。そして、被告は、本件において損害を請求されている平成11年4月 以降の放送分については、別件訴訟が提起された後であるから、乙曲が甲曲の著作権ない し著作者人格権を侵害するものであるか否かについてとりわけ慎重な検討をして権利侵害 の結果を回避すべき義務があった。しかるに、被告は、これを怠り、漫然と乙曲の放送を し続けたのであるから、過失があったといわざるを得ない。  (2) 被告は、被告が尽くすべき注意義務の内容は、利用しようとする楽曲がJASRA Cの管理楽曲に含まれているか否かを調査することに尽きており、それ以上の注意義務を 負わないと主張する。  なるほど、JASRACは、現行の著作権信託契約約款7条において、委託者に管理を 委託する著作物について自らが著作権を有していること、かつ、それが他人の著作権を侵 害していないことを保証させ、29条では、著作権の侵害又は著作権の帰属等について、 告訴、訴訟の提起又は異議の申立てがあったときは、著作物の利用許諾、著作物使用料等 の徴収を必要な期間行わないことができる旨定めている(甲55)。したがって、JAS RACは、楽曲の管理の委託を受けるに際して、他人の著作権を侵害する楽曲の委託を受 けないようにしているものということができる。そして、本件において、JASRACは、 原告らによる別件訴訟提起後も、なお乙曲を管理除外とすることなく、何の制限も付する ことなく乙曲の利用を許諾していたのである。  しかしながら、このように自らが管理する著作物に関して著作権侵害のないように注意 しているJASRACが、乙曲を管理除外とすることなく被告に乙曲の利用を許諾してい たからといって、JASRACから利用の許諾を受けた被告に直ちに過失がないというこ とはできない。JASRACがこのような体制をとりながら被告に乙曲の利用を許諾して いたことは、JASRACが当該曲の管理委託を受けた時点及び別件訴訟が提起された時 点で、乙曲が甲曲に係る著作権を侵害するものと判断しなかったという事情を示すものに すぎず、JASRACと被告との間の内部関係においてこの点を斟酌することがあるとし ても、法28条の権利を有する原告会社との関係で被告に過失がないということはできな い。したがって、被告の上記主張は、採用することができない。  (3) 被告は、乙曲を聴いただけで、世の中に無数に存在する音楽の中から、甲曲と特定 して想起することはおよそ不可能であるとか、視聴者からの問い合わせや指摘も一切なか ったなどと主張するが、遅くとも平成10年7月以降は、乙曲に類似する曲として甲曲が 特定されていたにもかかわらず、被告はそもそも何の調査も検討もしていないのであるか ら、注意義務を果たしたといえないことに変わりはない。  さらに、被告は、乙曲が原告らの権利を侵害していることが一見して明らかとはいえな いとか、Cが甲曲と乙曲との同一性を否定していたとか、高名な音楽家であるCが著作権 を侵害して作曲するとは通常では考えられないとか、別件訴訟第1審では乙曲による甲曲 の著作権侵害を否定する判決が言い渡されたなどと縷々述べるが、いずれも、著作権者又 は著作者人格権を有する原告らとの関係で過失があるとした前記の判断を覆すに足りない。  したがって、被告の前記主張は、採用することができない。 5 争点(5)(損害の発生の有無及び額)について  (1) 原告会社の損害額の算定基準  ア 甲曲及び乙曲を含む音楽著作権の管理が、実際上は大多数の場合において、JAS RACに対する信託を通じてされていること、当該管理はJASRACの本件使用料規程 (甲48)及び著作物使用料分配規程(乙43。以下「本件分配規程」という。)に準拠 して行われていること、使用料規程については、仲介業務法3条の規定により文化庁長官 の認可を受けていたものであることから、JASRACの本件使用料規程及び本件分配規 程に基づく著作物使用料の徴収及び分配の実務は、音楽の著作物の利用の対価額の事実上 の基準として機能するものであり、法114条2項の相当対価額を定めるに当たり、これ を一応の基準とすることには合理性があると解される。  イ JASRACの本件使用料規程及び分配規程によれば、一般放送事業者の行う放送 及び放送用録音に係る使用料については、包括使用料方式のほかに、1曲1回当たりの曲 別使用料を積算する算定方法が定められている。  被告は、原告会社の主張する法114条2項の許諾料相当額は、JASRACから包括 使用料方式で定められた乙曲に関する分配金相当額を超えることはあり得ないから包括使 用料方式によって算定すべきであると主張する。  しかしながら、包括使用料方式は、全体として低廉な使用料を設定することにより、著 作物の利用許諾を受けるインセンティブを与えることに意味があるから、違法な著作物の 利用を行った侵害事件において、包括使用料方式を採用することはできない。したがって、 著作権侵害訴訟における損害額の算定については、包括使用料方式ではなく、1曲1回当 たりの曲別使用料を積算する算定方式を基準とすることが合理的である。  ウ 被告は、相当対価額の算定上、JASRACの管理手数料を控除すべきである旨主 張する。  しかしながら、音楽著作物の著作権の管理をJASRACに委託するかどうかは自由で あり、しかも、前記のとおり、二次的著作物の利用に関する権利は当然にはJASRAC に移転していないと解するから、JASRACの管理手数料は当然に発生するものである とはいえない。また、本件は、使用料請求ではなく損害賠償請求であり、現行法114条 2項において、「通常」の文言が削除された趣旨からすれば、被告の上記主張は、採用で きない。  エ 原告会社は、編曲権を侵害する曲について歌詞を付けた作詞者の行為は、すべて編 曲権侵害行為であるから、作詞者に対する分配分はこれを控除すべきではない旨主張する。  しかしながら、歌詞と楽曲が別個の著作物として独立に保護し得るものであり、しかも、 本件においては歌詞が先に作詞され、それにCが曲を付けたのであるから(甲60の2)、 作詞者Dの行為が編曲権を侵害する行為であるということはできない。  そして、歌曲「記念樹」は、作詞者Dと作曲者Cのいわゆる結合著作物であり、その楽 曲(乙曲)についての著作権とは別個に、歌詞についての著作権が存在している。他方、 JASRACによる著作物使用料の分配額は、歌曲「記念樹」の使用料として分配されて いる種目及び歌詞と楽曲を分けてそれぞれに適用される種目がある。歌詞と楽曲を併せて 算定される使用料については、楽曲としての乙曲の相当対価額の算定上は、歌詞の著作物 の利用の対価額を控除するのが相当である。  オ 原告会社は、翻案権を侵害する曲について編曲した編曲者の行為は翻案権侵害行為 であるから、編曲者に対する分配分はこれを控除すべきではない旨主張する。  しかしながら、このような解釈は、翻案権侵害の範囲を不当に拡大するものであるし、 法2条1項11号は、二次的著作物に著作権法上の保護を与える要件として、当該二次的 著作物の創作過程の適法性を要求していないといえるから、原告会社の主張は、採用でき ない。  そして、乙曲は甲曲を原曲としつつ、Cにより創作的な表現が加えられた二次的著作物 であるから、Cは、二次的著作物として新たに付与された創作的な部分について著作権を 取得し(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6 号2714頁参照)、これをフジパシフィックに譲渡したものである。また、歌曲「記念 樹」は、Eの編曲が施されたものとして公表されているところ、Eの編曲についても同様 である。  そうすると、甲曲を原曲とする二次的著作物である乙曲の利用の対価額中には、原曲の 著作権者に分配されるべき部分と二次的著作物の著作権者及びその編曲者に分配される部 分とを観念することができる。したがって、甲曲の相当対価額を定めるに当たっては、二 次的著作物の著作権者及びその編曲者の分配分を控除すべきであり、その控除されるべき 割合は、原曲の編曲者への分配率に準じて定めるのが相当である。  (2) 原告会社の損害額  ア 被告は、自ら乙曲を放送し、放送用録音等したことにより、原告会社に生じた損害 を賠償すべきであるのみならず、その系列局に録音物を販売して乙曲を放送させたことに より権利侵害を惹起したのであるから、これにより原告会社に生じた損害を賠償すべきで ある。  イ 放送に係る相当対価額  本件使用料規程第2章第3節2(2)(甲48)によれば、1曲1回当たり著作物使用料 最低額は、第1類8000円、第2類5600円、第3類4800円、第4類3200円、 第5類2400円、第6類2000円である。  証拠(甲53、乙29の1ないし94、乙30、弁論の全趣旨)によれば、平成11 年4月1日から被告が乙曲の放送中止を決定するまでの間、被告及びその系列局で乙曲が 放送された回数及びそれらの回数に上記使用料最低額を乗じて算出した使用料相当額は、 別紙「放送による使用料相当額一覧表」の「当裁判所の判断」欄記載のとおり、合計56 8万5600円となる。なお、原告会社は、平成11年4月1日以降の分を請求するため、 平成11年度分の回数を全体の12分の9の割合として計算していたが(乙30)、乙第 30号証の各年度は、毎年4月1日ないし3月31日までを指しているから、12分の9 の割合として計算する必要はない。  そして、本件分配規程8条(乙43)によれば、放送に係る使用料の分配率は、関係 権利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者5/12、作詞者5/12、編曲者2 /12とされているから、作詞者及び編曲者への分配分として7/12を控除する。  よって、放送に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、2 36万9000円と認めるのが相当である。  568万5600円×5/12=236万9000円  ウ 放送用録音による使用料相当額   (ア) 本件使用料規程第2章第4節1(甲48)によれば、「普通映画」に主題歌又は 挿入歌曲として著作物を使用する場合、「文化映画、5分未満」として1曲の使用料は1 200円であるところ、「テレビジョン映画」は、その20/100とされているから、 基準となる1曲の使用料単価は240円(1200円×20/100=240円)である。 この単価は、歌詞、楽曲それぞれに適用されることが明示されているから、作詞者に対す る分配分を控除する必要はないが、楽曲分については編曲者に対する分配分を控除するの が相当であるところ、本件分配規程29条(甲31、乙43)によれば、録音に係る使用 料の分配率は、関係権利者が作曲者及び編曲者の場合、作曲者6/8、編曲者2/8とさ れているから、これに準拠することとする。  被告は、被告が利用許諾契約に基づいて著作権使用料をJASRACに支払っているこ とを根拠に、放送用録音による別個の損害額を算定することは誤りである旨主張する。し かしながら、違法な著作物の利用を行った侵害事件において、包括使用料方式を採用する ことができないことは、前記(1)イに述べたとおりであるから、被告の上記主張は、採用で きない。   (イ) 平成11年4月以降に被告が行った放送用録音の回数、すなわち平成11年4月 期以降に作成されたテープの本数は、次のとおり合計881本である。なお、被告におけ る平成13年11月までの放送分は、別件訴訟においてCが支払ったとして原告会社が請 求していないため、除外している(乙44)。  平成11年4月期(4月1日から9月30日)  系列局用テープ7本×放送回数23回=161本  平成11年10月期(10月1日から翌年3月31日)  系列局用テープ6本×放送回数19回=114本  平成12年4月期  系列局用テープ5本×放送回数24回=120本  平成12年10月期  系列局用テープ6本×放送回数20回=120本  平成13年4月期  系列局用テープ5本×放送回数23回=115本  平成13年10月期  被告用マザーテープ1本×放送回数13回=13本  系列局用テープ5本×放送回数21回=105本  平成14年4月期  7本(被告用マザーテープ1本+系列局用テープ6本)×放送回数19回=133本  次に、系列局の1つである関西テレビ放送株式会社における平成13年11月までの放 送分は、別件訴訟において請求が認容され、これをCが支払い、損害が填補されているた め、除外する。すなわち、平成11年4月1日から平成13年10月21日の間に関西テ レビ放送株式会社で放送された回数は、平成11年度39回、平成12年度30回、平成 13年度11回、合計80回である(乙44)。これらについては、1回当たり1本の放 送用録音が行われたとして、既に損害が填補されている。したがって、上記881本から 80本を控除した801本が本件訴訟における放送用録音の回数となる。   (ウ) 1回当たりの使用料240円に放送用録音の回数801本を乗じて、編曲者への 分配分2/8を控除すると、放送用録音に係る甲曲の利用についての相当対価額は、次の 計算式のとおり、14万4180円と認めるのが相当である。  240円×801本×6/8=14万4180円  エ 弁護士費用  以上のとおり、原告会社の損害額は、上記イ及びウの合計額である251万3180円 (236万9000円+14万4180円=251万3180円)であるから、弁護士費 用としては、その約1割である25万円を被告に負担させるのが相当である。  オ 合計  したがって、原告会社の損害額は、上記イないしエの合計額である276万3180円 となり、遅くとも最終の放送日である平成14年9月1日に遅滞に陥る。  236万9000円+14万4180円+25万円=276万3180円  (3) 原告Aの損害額  ア 慰謝料  被告は、原著作者すなわち甲曲の著作者である原告Aの氏名を表示することなく乙曲を 放送した結果生じた原告Aの精神的損害について賠償すべき義務がある。  被告の上記行為は、乙曲を創作したCとの共同不法行為というべきであるから、被告の 原告Aに対する慰謝料支払義務は、Cとの不真正連帯の関係に立つ。別件訴訟控訴審判決 においては、控訴審の口頭弁論終結時である平成14年5月10日まで約10年間にわた って、被告の本件番組のエンディング・テーマ曲として放送が継続されていた事実も総合 考慮して、原告Aが受けるべき慰謝料の額は500万円が相当であると認定された(甲5 6)。原告Aは、上記別件訴訟控訴審判決に基づいて、Cから慰謝料500万円全額の支 払を既に受けている(弁論の全趣旨)。しかし、被告が乙曲の放送を中止したのは、平成 14年9月1日であり、上記口頭弁論終結時以降更に放送され続けた分については、既払 分以上に原告Aの損害が発生しているということができる。また、別件訴訟控訴審判決に おいては、被告の系列局による放送について、関西テレビによる放送しか認定されておら ず、残り30局による放送の影響が考慮されていない。  したがって、これらの事情を考慮すると、別件訴訟控訴審判決に基づくCによる慰謝料 債務の弁済があったとしてもなお、被告は、原告Aに対し、氏名表示権侵害を理由とする 慰謝料支払義務を負うというべきであり、その額としては、50万円が相当である。  イ 弁護士費用  原告Aの弁護士費用としては、上記アの2割である10万円を被告に負担させるのが相 当である。  ウ 合計  したがって、原告Aの損害額は、上記ア及びイの額の合計額である60万円となり、遅 くとも最終の放送日である平成14年9月1日に遅滞に陥る。 6 結論  以上のとおり、原告会社の請求は、276万3180円及び平成14年9月1日以降の 遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告Aの請求は、60万円及び平成14年 9月1日以降の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからそれぞれ認容し、その余 は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 部眞規子    裁判官 東海林保    裁判官 瀬戸さやか