・東京地判平成15年12月26日  「どこまでも行こう」ライセンス(対JASRAC)事件  Bは、昭和41年、歌曲「どこまでも行こう」を作詞作曲し、この歌曲は、同年、株式 会社ブリヂストンのテレビコマーシャルとして、民放各社により放送され公表された。原 告(有限会社金井音楽出版)は、昭和42年2月27日、Bから「どこまでも行こう」の 歌詞及び楽曲(甲曲)の各著作物の著作権をその編曲権を含めて信託譲渡を受けた。原告 は、同年2月28日、被告(社団法人日本音楽著作権協会)に対し、甲曲の著作権を信託 譲渡して管理を委託した。この信託譲渡の対象に著作権法27条の編曲権は含まれていな い(ただし、法28条の権利については争いがある。)。  そこで、Eは、平成4年、歌曲「記念樹」に係る楽曲(乙曲)を作曲した。Eは乙曲に ついての著作権を、Fはその歌詞についての著作権を、それぞれフジパシフィックに対し て譲渡し、フジパシフィックは、平成4年12月21日、被告に乙曲の作品届を提出し、 同月1日付けで被告に乙曲及びその歌詞についての著作権を信託譲渡して管理を委託した。  被告は、音楽著作権管理団体として、平成4年12月1日から平成15年3月13日ま での間、継続的に音楽著作物利用者に対して「記念樹」の利用許諾をすることにより、そ の許諾を受けた利用者をして、放送、録音、演奏等をさせた。  フジテレビは、別件訴訟の控訴審判決を受けて、平成14年9月1日放送分を最後に、 同月8日以降は、テレビ番組「あっぱれさんま大先生」において、乙曲を放送しないこと を決定し、乙曲の放送を中止した。被告は、別件訴訟の最高裁決定を受けて、平成15年 3月13日に至り、乙曲の利用許諾を中止した。  本件は、被告が、音楽著作物利用者に対し、平成15年3月期から同年9月期の使用料 分配に対応する期間、編曲権を侵害する乙曲を利用許諾した前記行為につき、原告が、被 告に対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を請求する事案である。  判決は、「原告の許諾を得ることなく乙曲を利用した者は、原告の有する法28条の権 利を侵害したものであり、上記利用者に乙曲の利用を許諾した被告は、上記権利侵害を惹 起したものというべきである」「乙曲の利用者に乙曲の利用を許諾した被告は、利用者に よる原告の有する法28条の権利の侵害を惹起した者として、その利用による損害を賠償 すべき責任がある」として、損害賠償請求を認容した。 (控訴審:東京高判平成17年2月17日) ■評釈等 潮見佳男・コピライト527号46頁(2005年) 岡邦俊・JCAジャーナル51巻7号40頁(2004年) ■争 点 (1) 被告の行為により原告の著作権が侵害されたか。 (2) 被告に過失があるか。 (3) 被告の行為は債務不履行といえるか。 (4) 損害の発生の有無及びその額 ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(原告の著作権が侵害されたか)について  (1) 法27条について  法27条は、「著作権者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色 し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と規定し、法28条は、「二次的著作 物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該 二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定する。この ように、法27条は、文言上、「著作物を編曲する権利を専有する」旨定めており、「編 曲する」という用語に「編曲した著作物を複製する」とか「編曲した著作物を放送する」 という意味が含まれると解することは困難である。そして、法27条とは別個に、法28 条が、翻案した結果作成された二次的著作物の利用行為に関して、原著作物の著作権者に 法21条から27条までの二次的著作物の経済的利用行為に対する権利を定めていること に照らせば、法27条は、著作物の経済的利用に関する権利とは別個に、二次的著作物を 創作するための原著作物の転用行為自体、すなわち編曲行為自体を規制する権利として規 定されたものと解される。  原告は、二次的著作物を利用許諾する行為に対しても、法27条の編曲権侵害が成立す ると主張するが、そのように解すると、「編曲」の意味を法27条に例示された形態以上 に極めて広く解することになるし、著作権法が法27条とは別個に法28条の規定を置い た意味を無にするものとなるから、法27条を理由とする原告の主張は、採用することが できない。  (2) 法28条について  本件において、甲曲について法27条の権利を専有する原告の許諾を受けずに創作され た二次的著作物である乙曲に関して、原著作物である甲曲の著作権者は、法28条に基づ き、乙曲を利用する権利を有するから、原告の許諾を得ずに被告から利用許諾を受けて乙 曲を利用した者は、原告の法28条の権利を侵害することになり、原告は、上記利用者に 対し、法27条に基づくのではなく、法28条に基づいて権利行使をすることができると 解すべきである。  被告は、原告が法28条の権利を有しない旨主張するので、この点について検討する。  ア 被告は、昭和40年9月1日、原告から、同年10月15日から著作権の全存続期 間を信託期間として、本件信託契約約款により、原告の有する総ての著作権並びに将来取 得することあるべき著作権の信託を引き受ける旨の契約を締結した。本件信託契約約款1 条本文において、委託者は「其ノ有スル総テノ著作権並ニ将来取得スルコトアルベキ総テ ノ著作権」を信託財産として受託者に移転する旨規定されている(乙1の1及び2)。そ して、原告は、昭和42年2月28日、被告に対し、甲曲及びその歌詞の著作権を信託す る旨の作品届を提出した(争いのない事実)。  法61条2項は、「著作権を譲渡する契約において、法27条又は28条に規定する権 利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保され たものと推定する。」旨規定している。原告が被告に甲曲の著作権を信託譲渡した昭和4 0年当時の旧著作権法(明治32年法律第39号)においては、2条に「著作権ハ其ノ全 部又ハ一部ヲ譲渡スルコトヲ得」と規定されているだけであったが、現行著作権法(昭和 45年法律第48号)が施行される際、附則9条によって、旧法の著作権の譲渡その他の 処分は、附則15条1項の規定に該当する場合を除き、これに相当する新法の著作権の譲 渡その他の処分とみなす旨定められたため、法61条2項の推定規定は、旧法時代に行わ れた著作権譲渡契約にも適用される。  法61条2項は、通常著作権を譲渡する場合、著作物を原作のままの形態において利用 することは予定されていても、どのような付加価値を生み出すか予想のつかない二次的著 作物の創作及び利用は、譲渡時に予定されていない利用態様であって、著作権者に明白な 譲渡意思があったとはいい難いために規定されたものである。そうすると、単に「将来取 得スルコトアルベキ総テノ著作権」という文言によって、法27条の権利や二次的著作物 に関する法28条の権利が譲渡の目的として特掲されているものと解することはできない。 この点につき、法28条の権利が結果的には法21条ないし法27条の権利を内容とする ものであるとして、単なる「著作権」という文言に含まれると解釈することは、法61条 2項が法28条の権利についても法27条の権利と同様に「特掲」を求めている趣旨に反 する。  また、現行の著作権信託契約約款(甲5、乙3。平成13年10月2日届出)によれば、 委託者は、その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を信託財産として 受託者に移転する旨の条項(3条)のほか、委託者が別表に掲げる支分権又は利用形態の 区分に従い、一部の著作権を管理委託の範囲から除外することができ、この場合、除外さ れた区分に係る著作権は、受託者に移転しないものとする旨の条項がある(4条)。そし て、この「別表に掲げる支分権及び利用形態」とは、@ 演奏権、上演権、上映権、公衆 送信権、伝達権及び口述権、A 録音権、頒布権及び録音物に係る譲渡権、B 貸与権、 C 出版権及び出版物に係る譲渡権、D 映画への録音、E ビデオグラム等への録音、 F ゲームソフトへの録音、G コマーシャル放送用録音、H 放送・有線放送、I イ ンタラクティブ配信、J 業務用通信カラオケであり、二次的著作物に関する法28条の 権利については明記されていない。  他方、被告は、法28条の権利をも譲渡の対象とするのであれば、著作権信託契約約款 に、例えば、社団法人日本文藝家協会の管理委託契約約款のように、「委託者は、その有 する著作権及び将来取得する著作権に係る次に定める利用方法で管理委託契約申込書にお いて指定したものに関する管理を委任し、受託者はこれを引き受けるものとする。(1) 著 作物又は当該著作物を原著作物とする二次的著作物の出版、録音、録画その他の複製並び に当該複製物の頒布、貸与及び譲渡 (2) 著作物又は当該著作物を原著作物とする二次的 著作物の公衆送信、伝達、上映、上演及び口述 (3) 著作物の翻訳及び映画化等の翻案」 という条項によって、明確に「特掲」することが可能である(弁論の全趣旨)。  以上によれば、原告の法28条の権利が明示の合意により、被告に譲渡されたことを認 めるに足りない。  イ また、原告が、編曲を許諾していない二次的著作物の自由な利用までも被告に容認 していたと認めるに足りる証拠はなく、他に原告の有する法28条の権利が黙示の合意に より被告に譲渡されたことをうかがわせる事実はない。  ウ かえって、@ 被告において、編曲著作物の届出方法が定められ、原著作物の著作 権がある作品については、原著作物の著作権者の承認を証明する文書が必要とされ、被告 において、編曲審査委員会及び理事会に諮って、当該編曲著作物が被告の管理する二次的 著作物として妥当なものであるかどうかを決定すること(甲6、34、40、59、乙 2)、A 被告発行の「日本音楽著作権協会の組織と業務」と題する説明書において、 「編曲や翻訳等を認める権利はJASRACに譲渡されていないので、著作権法第61条 により、これらの権利は当然著作者なり、著作権者なりに留保されていることに気を付け る必要がある。」と記載されていること(甲34)等の事実によれば、少なくとも原著作 物の著作権者の許諾なくして編曲され編曲著作物として届出されていない二次的著作物に 関する権利についてまで信託契約の対象とする意思は、原告のみならず、被告にもなかっ たものと認められる。  逆に、原著作物の著作権者の許諾なくして編曲された二次的著作物に関する権利が信託 契約の対象となり、被告に譲渡されたものであるとすると、編曲権を侵害する二次的著作 物が放送等により利用された場合に、被告が編曲権を侵害する二次的著作物に当たらない と判断したときには、これと異なる見解を有する原著作物の著作権者が何らの権利も行使 することができないこととなる。現に、本件において、被告は、フジテレビやポニーキャ ニオン等の利用者に対し、乙曲について利用許諾を与えて使用料を徴収していたのである から、被告が利用者に対し法28条の権利を行使して利用差止めや損害賠償等の請求をす ることは期待し難く、原著作物の著作権者の保護に欠ける不当な結果となりかねない。  エ したがって、少なくとも法27条の権利(編曲権)を侵害して創作された乙曲を二 次的著作物とする法28条の権利は、被告に譲渡されることなく原告に留保されていると いうことができる。  オ 被告の主張について  (ア) 被告は、本件信託契約約款1条本文について、二次的著作物が第三者によって無断 で編曲されたかどうかによって、法28条の権利の移転に何らの区別を設けていない旨主 張する。しかしながら、第三者が編曲した場合には、編曲届に原権利者の承認を得ること により、法61条2項の推定が覆されて法28条の権利が譲渡されたものと解することが できるが、原権利者の承認がない場合において、同様に解することはできない。  また、被告は、原被告間の著作権信託契約に法61条2項が想定するような利害の対立 関係はない旨主張する。しかしながら、著作権の管理委託の場面においては、利害の対立 がないとしても、法27条の権利を有する原告がこれを侵害されたとして別件訴訟を提起 した後も、被告は編曲権を侵害した曲の利用者との関係では、現に何らの措置も執らなか ったのであり、原告との間に深刻な利害の対立がある。  さらに、被告は、原告が法28条の権利の一部を被告に信託譲渡したことを認める本件 においては、法61条2項の推定を働かせる余地はない旨主張する。しかしながら、原告 が認めるのは、原権利者の承認を得た編曲届の提出された二次的著作物についてであって、 無断で編曲された二次的著作物についてあらかじめ法28条の権利を譲渡することを認め る趣旨とは解されない。  (イ) 被告は、二次的著作物に関する法28条の権利の移転の帰趨が許諾の有無によって 影響を受けるとすると、著作権集中管理団体は、画一的・定型的な処理による効率的かつ 実効的な著作権管理を行う目的を達することが不可能である旨主張する。しかしながら、 演奏の段階で多少の修正・増減・変更を加えられているとしても、通常は、これが法27 条の編曲に該当する程度の創作性を有することは稀であるし、法27条の編曲権を侵害す る曲が無断利用された場合に、現に本件では被告は利用者に対する差止めや損害賠償の請 求をすることなく、原告自身が訴訟を提起したことは前記のとおりであって、前記判断が 著作権集中管理団体の管理の目的に反することはない。  (ウ) 被告は、仲介業務法の下では、文化庁長官の許可を得ていなかった原告は、仲介業 務を行うことが禁止されていたから、法28条の権利のすべてを文化庁長官の許可を受け た仲介業務団体である被告に移転していた旨主張する。しかしながら、仲介業務とは、著 作物の利用に関する契約につき、著作権者のために代理又は媒介を業としてなすことをい い(仲介業務法1条)、編曲権を侵害する二次的著作物を無断で利用する者に対し、原告 が差止めや損害賠償を請求することが、仲介業務法2条に違反するものとはいえない。  (エ) 被告は、第三者によって著作物に改変が加えられても、著作者がこれを問題としな いときは、第三者の利用を禁じる必要はないにもかかわらず、原告の主張に従えば、被告 は第三者の経済的利用から使用料を徴収することができず、著作者の正当な経済的利益を 損なう旨主張する。しかしながら、著作者の有する著作者人格権と著作権者の有する著作 権は、別個の権利であるから、著作者が改変を問題としないときであっても、法28条の 権利を有する者が権利行使することが妨げられるものでもない。  (オ) 被告は、被告が編曲届の提出に際し「原権利者の承認を証明する文書」の添付を要 求しているのは、二次的著作物に関する法28条の権利を管理するか否かを定めるための ものではない旨主張する。しかしながら、仮に、編曲届における原権利者の承認が、原著 作物の著作権者の使用料分配率が減少することについての承認という意味を有するもので あるとしても、原著作物の著作権者の承認のない二次的著作物に関し、使用料の全額につ いて編曲者への分配を承認することを意味するものではないから、被告が原著作物の著作 権者の承認のない二次的著作物を管理することはできないはずである。  (カ) 被告は、原告及びBが被告に対し、乙曲の著作物使用料の分配保留を求めたことを もって、被告への信託譲渡を容認している旨主張する。しかしながら、もともと乙曲の管 理を委託したのは原告ではなく、著作物使用料も原告に支払われていたわけではないから、 上記の事実をもって、原告が許諾することなく編曲された二次的著作物の利用に関する権 利も被告に信託譲渡したと認めることはできない。  (キ) 以上のとおり、被告の主張は、いずれも理由がない。  カ したがって、原告は、編曲権を侵害して創作された乙曲を二次的著作物とする法2 8条の権利を有し、乙曲を利用する権利を専有するから、原告の許諾を得ることなく乙曲 を利用した者は、原告の有する法28条の権利を侵害したものであり、上記利用者に乙曲 の利用を許諾した被告は、上記権利侵害を惹起したものというべきである。 2 争点(2)(過失の有無)について  (1) 被告は、平成13年9月30日までは、仲介業務法により文化庁長官より許可を受 けた音楽著作権に関する我が国唯一の著作権管理団体であり、平成13年10月1日から は、著作権等管理事業法に基づき文化庁長官の登録を受け、音楽著作権を管理している公 益社団法人である。被告は、音楽の著作物の著作権者の権利を擁護し、あわせて音楽の著 作物の利用の円滑を図り、もって音楽文化の普及発展に資することを目的とし、この目的 を達成するため、@ 音楽の著作物の著作権に関する管理事業、A 音楽の著作物に関す る外国著作権管理団体等との連絡及び著作権の相互保護、B 特別の委託があったときは、 音楽の著作物以外(小説、脚本を除く。)の著作物の著作権に関する管理事業、C 私的 録音録画補償金に関する事業、D 著作権思想の普及に関する事業及び音楽の著作物の著 作権に関する調査研究、E 音楽文化の振興に資する事業、F 会員の福祉に関する事業、 G その他被告の目的を達成するために必要な事業を行うものである(乙7)。このよう な被告の目的や業務の性質上、被告は、自ら管理し著作物の利用者に利用を許諾する音楽 著作物が他人の著作権を侵害することのないように、万全の注意を尽くす義務がある。  被告は、多数の著作物を管理しており個別の調査義務はない旨主張するが、本件におい ては、平成10年7月に別件訴訟が提起され、乙曲が甲曲に係る著作権等を侵害するか否 かが問題になっていることは大きく報道されたのであるから(甲50の1、62、63、 弁論の全趣旨)、被告は、遅くとも平成10年7月以降は、乙曲が甲曲に係る著作権を侵 害するものか否かについて真摯にかつ具体的に調査検討し、著作権侵害の結果が生じるこ とのないようにする方策をとるべき注意義務があったというべきである。そして、被告は、 その事業の目的及び規模からしても、著作権侵害に当たるか否かについての調査能力を十 分有しており、音楽専門家の間でも侵害非侵害の両論があったのであるから、著作権侵害 の結果が生じる可能性を予見すべきであり、また、乙曲が甲曲に係る著作権を侵害してい ると判断される可能性があれば、乙曲の利用許諾を中止したり、利用者に訴訟が係属して いることを注意喚起すること等によって、著作権侵害の結果を回避することができたもの である。  しかるに、被告は、別件訴訟が提起された後に、原告の依頼に基づき平成10年9月3 0日付けで著作物使用料分配保留の措置を執ったものの(甲69、乙5)、利用者に対し て、格別に注意喚起すら行っていなかった。被告は、別件訴訟の控訴審判決が言い渡され、 フジテレビが乙曲の放送を中止した平成14年9月6日以降も、従前どおり利用許諾を続 け、同月19日になって初めて、インターネット上の「記念樹」の作品詳細表示に「注: 訴訟継続中」との表示を加えたのみであった(甲70)。その後、平成14年11月20 日開催の被告の通常評議員会において、別件訴訟控訴審判決が取り上げられ、国の判断が 出た以上、被告は「記念樹」の利用許諾を中止すべきであるとの意見や、利用許諾を一旦 停止し、最高裁の判決が出た場合に改めて取扱いについて判断して欲しいという意見が評 議員から出されたにもかかわらず、被告は、最高裁の決定が出たときに結論を出すとして、 格別の措置を執らなかった(甲42)。また、平成15年2月19日開催の被告の通常評 議員会において、再度Bから利用許諾を中止するよう要請があったが、被告は係争中であ る限りは、現在の状況を続けるとして、利用許諾を中止しなかった(甲43)。結局、同 年3月11日にされた別件訴訟の最高裁決定を受けて、被告は、同月13日に至り、よう やく乙曲の利用許諾を中止したものである。  そして、本件において損害を請求されている平成15年3月期以降の著作物使用料分配 保留分の利用許諾行為については、別件訴訟が提起された後であり、一部は編曲権侵害を 肯定する別件訴訟控訴審判決が言い渡された後でもあるのであるから、被告としては、乙 曲が甲曲の著作権を侵害するものであるか否かについてとりわけ慎重な検討をして著作権 侵害の結果を回避すべき義務があった。しかるに、被告は、これを怠り、別件訴訟の控訴 審判決前に関しては、利用者に対して、格別に注意喚起すら行っておらず、控訴審判決後 も漫然と乙曲の利用許諾をし続けたのであるから、過失があったといわざるを得ない。  (2) 被告は、管理除外は被告の権限であって義務ではなく、逆に原告の要求のみに基づ いて乙曲の管理除外措置を実施することは、多数の委託者の著作権を公平に管理すべき義 務に反し、債務不履行に当たるなどと主張する。  しかしながら、これは、被告と乙曲の管理を委託したフジパシフィックとの間の内部関 係であって、法28条の権利を専有する原告との関係において過失を否定することにはな らない。また、遅くとも、別件訴訟控訴審判決の後は、最高裁判所の判断が示されていな いとはいえ、乙曲が甲曲の著作権を侵害している蓋然性が極めて高くなったのであるから、 被告としては、管理を除外しあるいは一旦利用許諾を控える等、損害を拡大しないような 措置を執るべきであった。被告は、著作権信託契約約款上、委託者に他の作品の著作権を 侵害していないことの保証義務を課しているから(乙3。7条)、このような措置を執っ ても、乙曲の管理を委託したフジパシフィックとの関係において、信託契約上の債務不履 行に当たることはない。  したがって、被告の主張は、採用することができない。  (3) よって、乙曲の利用者に乙曲の利用を許諾した被告は、利用者による原告の有する 法28条の権利の侵害を惹起した者として、その利用による損害を賠償すべき責任がある。 3 争点(4)(損害の発生の有無及び額)について  (1) 損害額の算定基準  ア 甲曲及び乙曲を含む音楽著作権の管理が、実際上は大多数の場合において、被告に 対する信託を通じてされていること、当該管理は本件使用料規程(甲53、64)及び本 件分配規程(乙3)に準拠して行われていること、本件使用料規程については、仲介業務 法3条の規定により文化庁長官の認可を受けていたものであることから、本件使用料規程 及び本件分配規程に基づく著作物使用料の徴収及び分配の実務は、音楽の著作物の利用の 対価額の事実上の基準として機能するものであり、法114条2項の相当対価額を定める に当たり、これを一応の基準とすることには合理性があると解される。  イ 原告は、編曲権を侵害する曲について歌詞を付けた作詞者の行為は、すべて編曲権 侵害行為であるから、作詞者に対する分配分はこれを控除すべきではない旨主張する。  しかしながら、歌詞と楽曲は別個の著作物として独立に保護し得るものであり、しかも、 本件においては歌詞が先に作詞され、それにEが曲を付けたのであるから(甲39)、作 詞者Fの行為が編曲権を侵害する行為であるということはできない。  そして、歌曲「記念樹」は、作詞者Fと作曲者Eのいわゆる結合著作物であり、その楽 曲(乙曲)についての著作権とは別個に、歌詞についての著作権が存在している。他方、 被告による著作物使用料の分配額は、歌曲「記念樹」の使用料として分配されているもの である(甲54、乙8)から、楽曲としての乙曲の相当対価額の算定上は、歌詞の著作物 の利用の対価額を控除するのが相当である。  ウ 原告は、編曲権侵害曲について編曲した編曲者の行為は編曲権侵害行為であるから、 編曲者に対する分配分はこれを控除すべきではない旨主張する。  しかしながら、このような解釈は、編曲権侵害の範囲を不当に拡大するものであるし、 法2条1項11号は、二次的著作物に著作権法上の保護を与える要件として、当該二次的 著作物の創作過程の適法性を要求していないと解されるから、原告の上記主張は、採用で きない。  そして、乙曲は甲曲を原曲としつつ、Eにより創作的な表現が加えられた二次的著作物 であるから、Eは二次的著作物として新たに付与された創作的な部分について著作権を取 得し(最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号 2714頁参照)、これをフジパシフィックに譲渡したものである。また、歌曲「記念樹」 は、Gにより編曲されたものとして公表されているところ、Gの編曲についても同様であ る。  そうすると、甲曲を原曲とする二次的著作物である乙曲の利用の対価額中には、原曲の 著作権者に分配されるべき部分と二次的著作物の著作権者及びその編曲者に分配される部 分とを観念することができる。したがって、甲曲の相当対価額を定めるに当たっては、二 次的著作物の著作権者及びその編曲者の分配分を控除すべきであり、その控除されるべき 割合は、原曲の編曲者への分配率に準じて定めるのが相当である。  (2) 原告の損害額  以上を前提として、以下、原告の主張する損害の種目ごとに損害額を検討する。  ア 放送に係る使用料相当額  原告は、平成15年3月期の分配期に対応する放送による使用料相当額の分配保留額を 損害として主張するところ、その分配保留額は、3万7357円である(甲54、乙8)。  本件分配規程15条及び8条(乙3)によれば、放送に係る使用料の分配率は、関係権 利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者5/12、作詞者5/12、編曲者2/ 12とされているから、放送に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式の とおり、1万5565円と認めるのが相当である。  3万7357円×5/12=1万5565円   なお、本件分配規程14条(乙3)によれば、民放からテレビ放送(地上波)につい て徴収した放送等の包括使用料(第3類)は、平成14年7月から9月までの期間に使用 された分配対象著作物について、平成15年3月期に分配することとなっている。したが って、平成15年3月期の分配期に対応する放送とは、フジテレビが平成14年9月1日 に中止するまで行っていた乙曲の放送であり、当庁平成14年(ワ)第6709号事件におい てフジテレビが賠償すべき損害と重なるものであるから、上記損害額については、被告と フジテレビとの不真正連帯債務となる。  イ 放送用録音に係る使用料相当額  原告は、平成15年3月期の分配期に対応する放送用録音による使用料相当額の分配保 留額を損害として主張するところ、その分配保留額は、4117円である(甲54、乙8)。  本件分配規程15条及び29条(乙3)によれば、録音に係る使用料の分配率は、関係 権利者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8 とされているから、録音に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとお り、1543円と認めるのが相当である。  4117円×3/8=1543円   なお、上記アと同様に、平成15年3月期の分配期に対応する放送用録音とは、フジ テレビが平成14年9月1日まで行っていた乙曲の放送用録音であり、フジテレビが賠償 すべき損害と重なるものであるから、上記損害額については、被告とフジテレビとの不真 正連帯債務となる。  ウ 録音に係る使用料相当額  原告は、平成15年3月期及び6月期の分配期に対応する録音による使用料相当額の分 配保留額を損害として主張するところ、その分配保留額は、9万4532円である(甲5 4、乙8)。  本件分配規程29条(乙3)によれば、録音に係る使用料の分配率は、関係権利者が作 曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8とされてい るから、録音に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、3万5 449円と認めるのが相当である。  9万4532円×3/8=3万5449円  エ 出版に係る使用料相当額  原告は、平成15年3月期ないし9月期の分配期に対応する出版による使用料相当額の 分配保留額を損害として主張するところ、その分配保留額は、7万9480円である(甲 54、乙8)。  本件分配規程29条(乙3)によれば、出版に係る使用料の分配率は、関係権利者が作 曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8とされてい るから、出版に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、2万9 805円と認めるのが相当である。  7万9480円×3/8=2万9805円  オ 通信カラオケ送信に係る使用料相当額  通信カラオケ送信に係る使用料とは、通信カラオケ業者が電話回線を使用して利用者 (店舗)のカラオケ機器の中のハードディスクに録音するために送信したことについての 著作物使用料である。  通信カラオケ送信についての分配方法は、利用回数基準分配基金90%、端末台数基準 分配基金10%の割合で、各基金ごとに計算されることになっている。利用回数基準分配 基金は、使用者からのアクセスコードごとの利用回数報告に基づく各著作物の利用回数を 点数として分配するものであり、端末台数基準分配基金は、各著作物が利用可能の状態に ある端末装置の全台数を点数として分配するものであり、これは実際の送信回数とは関係 がない(甲51)。  原告が損害として請求する平成15年3月期の送信回数を的確に証する証拠はないが、 被告が平成12年12月期の乙曲の送信回数は1万3906回である旨回答していること (甲51)、上記のとおり、利用回数基準分配基金が90%を占めていることからすれば、 端末台数基準分配基金によって生じる利用回数の差はそれほど多くはないと推認される。 よって、平成12年12月期の分配保留額2万3990円(甲52)を同期の送信回数1 万3906回で除した1.725円を送信単価とし、分配保留額の総額を1.725円で 除したものを総送信回数としても、実際の送信回数とさほど差は生じないと解される。し たがって、平成15年3月期の分配保留額3万4174円を送信単価1.725で除した 1万9811回が同期の送信回数となる。  ところで、平成15年6月期以降の通信カラオケ送信に係る分配保留額は、被告の調査 によれば0円であるが(甲54、乙8)、これは、被告の業務上、関係権利者の確定基準 日が各分配期の分配対象使用料の対象期間の最終日となっているところ(乙3、4条)、 業務用通信カラオケ使用料の平成15年6月の分配期の分配対象使用料は、同年1月から 3月までの期間に徴収した使用料であるので(乙3、44条)、確定基準日が平成15年 3月末日となり、被告が同月13日に乙曲を管理除外としたため、確定基準日において乙 曲が使用料の分配対象著作物となり得ず、分配保留額が発生しなかったものである。しか し、被告は、平成15年3月13日までは乙曲の利用許諾を行っており、被告が乙曲の業 務用通信カラオケによる利用実績が比較的大きかったことを自認していることに照らせば、 被告の分配保留額の算定方法如何に関わらず、その間、被告の利用許諾に基づいて損害が 発生していたものと推認される。したがって、本来なら同年6月期以降の分配期に対応す る同年1月以降に発生した使用料の分配保留額として反映されるべき損害分として、同年 3月期の送信回数1万9811回の約6分の5である1万6 509回を加えた3万6320回を総送信回数と認める。  本件使用料規程第11節2(2)(甲53)によれば、業務用通信カラオケにおける1曲1 回当たりの著作物使用料(複製及び公衆送信に係るものを含む)は40円である。したが って、通信カラオケ送信に係る使用料相当額は、上記金額に送信回数3万6320回を乗 じた145万2800円となる。  そして、本件分配規程8条、29条、43条(乙3)によれば、関係権利者が作曲者、 作詞者及び編曲者の場合、通信カラオケ送信に係る使用料の分配率は、作曲者5/12、 作詞者5/12、編曲者2/12とされており、通信カラオケ蓄積に係る使用料の分配率 は、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8とされていることに鑑み、作詞者及び編 曲者の分配率を29/48と認める。よって、通信カラオケ送信に係る甲曲の利用につい ての相当対価額は、以下の計算式のとおり、57万5066円と認めるのが相当である。  145万2800円×19/48=57万5066円  カ 通信カラオケ蓄積に係る使用料相当額  原告は、通信カラオケ蓄積による使用料相当額の分配保留額を損害として主張するとこ ろ、通信カラオケ蓄積と同送信とは表裏一体であり、前記オのとおり、通信カラオケ送信 に係る使用料として、複製及び公衆送信に係るものを含む額を1曲1回当たりの著作物使 用料として算出した以上、これと別個に通信カラオケ蓄積による使用料相当額を請求する ことはできない。  キ インタラクティブ配信複製及び同送信に係る使用料相当額  インタラクティブ配信に係る使用料とは、音楽配信、テレフォンサービス等ネットワー クを用いた放送及び有線放送以外の公衆送信及びそれに伴う複製により著作物を利用する 場合のうち、業務用通信カラオケの規定が適用になるものを除いた場合についての著作物 使用料である(甲53)。したがって、基本的には前記オの通信カラオケ送信と同様に考 えられる。  また、平成15年6月期のインタラクティブ配信に係る分配保留額は、被告の調査によ れば0円であるが(甲54、乙8)、これは、通信カラオケ送信と同様、確定基準日が平 成15年3月末日であって、被告が同月13日に乙曲を管理除外としたため、確定基準日 において乙曲が使用料の分配対象著作物となり得ず、分配保留額が発生しなかったもので ある。しかし、インタラクティブ配信は、平成15年8月の本件分配規程の改正により、 本件分配規程4条の例外として、利用月の属する四半期の最終日における関係権利者に対 して使用料を分配することに変更された(乙10、44条の2)ため、同年9月期から分 配保留額が発生したものである。したがって、この9月期の分配保留額は、同年1月以降 の乙曲の利用料徴収分を反映した額であると解され、また、被告が乙曲のインタラクティ ブ配信による利用実績が比較的大きかったことを自認していることにも照らし、同年3月 期と9月期の分配保留額を加えた額を基準として損害額を算定する。  平成15年3月期及び9月期の乙曲についての分配保留額総額は、3万5053円であ る。平成15年3月期及び9月期のインタラクティブ配信送信回数を的確に証する証拠は ないが、前記オと同様、インタラクティブ配信送信に係る分配保留額総額3万5053円 を上記オで算出した1回当たりの送信単価1.725で除した2万0320回を送信回数 と認める。なお、原告は、インタラクティブ配信複製に係る分配保留額をも合算した上で 送信単価1.725で除したものを送信回数と主張するが、インタラクティブ配信複製と 同送信とは表裏一体であり、1つのインタラクティブ配信に基づき徴収した使用料を複製 に関する権利者と送信に関する権利者に別々に分配しているにすぎないから、相当でない。  本件使用料規程第12節2(甲53)によれば、インタラクティブ配信における1曲1 回当たりの著作物使用料は20円である。したがって、インタラクティブ配信に係る使用 料相当額は、上記金額に2万0320回を乗じて、40万6400円となる。  そして、本件分配規程8条、29条、43条(乙3)によれば、関係権利者が作曲者、 作詞者及び編曲者の場合、インタラクティブ配信送信に係る使用料の分配率は、作曲者5 /12、作詞者5/12、編曲者2/12とされており、インタラクティブ配信複製に係 る使用料の分配率は、作曲者3/8、作詞者4/8、編曲者1/8とされていることに鑑 み、作詞者及び編曲者の分配率を29/48と認める。よって、インタラクティブ配信送 信に係る甲曲の利用についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、16万0866円 と認めるのが相当である。  40万6400円×19/48=16万0866円  ク 演奏に係る使用料相当額  (ア) 主位的請求について  原告は、被告の平成14年12月期のカラオケ基金総額を91日、1日1室当たりの平 均利用楽曲数43曲及び総カラオケ室数で除すると、1曲1回当たりの平均単価が算出で き、平成15年3月期の演奏の分配保留額を上記の平均単価で除すると、乙曲の同分配期 の使用回数が算出できると主張する。  しかしながら、甲第65ないし第68号証によれば、演奏の分配対象使用料額(分配額 又は分配保留額と同じ。)は、演奏会、カラオケ調査基準、カラオケ出庫基準、カラオケ 再ブランケット分の4つの分配基金ごとに算定された分配対象使用料額の総額である。演 奏会による分配は、個々の演奏会で被告が徴収した使用料の合計額に計算係数を掛けて算 出された分配点数に応じて配分するもので、演奏回数ではなく、使用料額に比例するもの である。カラオケ調査基準による分配とは、分配対象期までの1年間のサンプリング調査 において捕捉された社交場とカラオケボックスにおける演奏回数を基に算出されるもので ある。カラオケ出庫基準による分配とは、サンプリング調査により捕捉されないほど使用 頻度の低い著作物をカバーするために、カラオケ調査基準による分配と組み合わせて行っ ているもので、適用し得る最新の期までの3年間の当該著作物を収録したカラオケソフト の出庫数に比例する分配点数に基づいて配分されるものであるが、この分配点数は、演奏 回数とは関連がない。カラオケ再ブランケット分とは、使用頻度の低い著作物をカバーす る目的のカラオケ出庫基準による分配が、当初の目的を外れ てカラオケ調査基準による分配の最低額を上回った場合に、当該上回った分を当期のカラ オケ分配対象となった全著作物に取分率比に応じて均等配分するもので、演奏回数とは関 連がない。  したがって、演奏の分配対象使用料額には、上記のとおり、演奏回数とは関連なく計算 される演奏会、カラオケ出庫基準及びカラオケ再ブランケット分の額を含んでおり、どの ような単価で除しても、乙曲の使用回数を算出することはできない。  上記のとおり、原告主張のとおりの算定方法では、実際の演奏回数を算出することはで きないから、主位的請求に係る損害額の算定を採用することはできない。  (イ) 予備的請求1について  原告は、曲別使用料が包括使用料の5倍である旨主張するが、これを認めるに足りる証 拠はない。  (ウ) 予備的請求2について  被告は、平成15年3月13日まで乙曲を利用許諾していたのであるから、それまでの 間乙曲が演奏され、原告に損害が生じたことが認められる。しかしながら、本件において、 演奏回数を立証することは、性質上極めて困難である。平成15年3月期の演奏に係る分 配保留額の合計は、8万1801円であること(甲54、乙8)、前記オのとおり、カラ オケ演奏に付随する通信カラオケ送信の回数が平成15年3月期において1万9811回 であること、平成15年3月期のインタラクティブ配信送信回数が1万6519回(分配 保留額2万8496円÷1.725=1万6519回)であること、被告が乙曲のカラオ ケ店における歌唱による利用実績が比較的大きかったことを自認していることその他口頭 弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を総合して、法114条の4を適用し、平成15年3月 期の演奏回数を1万2000回と認める。  また、平成15年6月期以降の演奏に係る分配保留額は、被告の調査によれば0円であ るが(甲54、乙8)、これは、被告の業務上、関係権利者の確定基準日が各分配期の分 配対象使用料の対象期間の最終日となっているところ(乙3、4条)、演奏使用料のうち 第3類社交場における演奏に係る使用料の平成15年6月の分配期の分配対象使用料が、 同年1月から3月までの期間に徴収した使用料であるので(乙3、10条)、確定基準日 が平成15年3月末日となり、被告が同月13日に乙曲を管理除外としたため、確定基準 日において乙曲が使用料の分配対象著作物となり得ず、分配保留額が発生しなかったもの である。さらに、演奏使用料のうち、第1類上演形式による演奏に係る使用料及び第2類 演奏会及びその他の催物における演奏に係る使用料については、平成15年6月期に分配 すべき分配対象使用料である平成14年10月から12月までの期間に徴収した使用料が 0円であったことをも示すものであるから、上記第1類及び第2類については考慮の必要 がないことになる。  被告は、平成15年3月13日までは乙曲の利用許諾を行っていたのであり、被告の分 配保留額の算定方法如何に関わらず、その間、被告の利用許諾に基づいて損害が発生して いたことは明らかである。したがって、同年6月期以降の分配期に対応する同年1月以降 に発生した使用料の分配保留額として反映されるべき損害分として、同年3月期の演奏回 数1万2000回の6分の5である1万回を加えた2万2000回を総演奏回数と認める。  本件使用料規程では、演奏の1回当たりの単価を90円と定めているから、演奏に係る 使用料相当額は、上記金額に2万2000回を乗じた198万円となる。  そして、本件分配規程8条(乙3)によれば、演奏に係る使用料の分配率は、関係権利 者が作曲者、作詞者及び編曲者の場合、作曲者5/12、作詞者5/12、編曲者2/1 2とされているから、作詞者及び編曲者への分配分を控除すると、演奏に係る甲曲の利用 についての相当対価額は、以下の計算式のとおり、82万5000円と認めるのが相当で ある。  198万円×5/12=82万5000円  ケ 弁護士費用   原告の弁護士費用としては、上記アないしクの合計額164万3294円の約1割であ る16万円を被告に負担させるのが相当である。  コ 合計  したがって、原告の損害額は、上記アないしケの額の合計である180万3294円で ある。なお、被告は、平成15年3月13日まで利用許諾を継続しており、上記損害は、 同日までに発生したものであるから、原告の請求する同年4月23日から支払済みまでの 遅延損害金を認める。 4 結論  よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は、180万3294円の 支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、 主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高部眞規子    裁判官 東海林保    裁判官 瀬戸さやか