・大阪地中間判平成16年1月15日  クレイジーレーサー事件  全事件原告   全事件被告 アルゼ株式会社(以下「被告アルゼ」という。)  丁事件被告 日本アミューズメント放送株式会社  本件には5事件が含まれるが、被告アルゼ(アルゼ株式会社)が製造し、メーシー販売 を通じて販売するパチスロ機「クレイジーレーサーR」「爆釣」に使用されている液晶ソ フト(液晶画面演出プログラム)の画像図柄及び筐体腰部パネル図柄は、原告(株式会社 SNKプレイモア)が著作権を有するパチスロ機「クレイジーレーサー」「IRE−GU I」の液晶ソフトの画像図柄及び筐体腰部パネル図柄を複製するものであり、原告の著作 権を侵害すること、並びに上記パチスロ機「クレイジーレーサーR」及びそのガイドブッ クに付されて使用されている標章は原告が商標権を有する登録商標に類似し、商標権を侵 害すること等を理由とする損害賠償請求、その他の差止請求である。  判決は、中間判決として、被告の行為が原告の著作権および商標権を侵害するものであ ることを認めた。 ■争 点 (1) パチスロ機「クレイジーレーサー」及び「IRE−GUI」の各液晶ソフトの画像図 柄並びに同「クレイジーレーサー」、「IRE−GUI」及び「爆釣」の各筐体図柄は著 作物といえるか。 (2) パチスロ機「クレイジーレーサー」及び「IRE−GUI」の各液晶ソフトの画像図 柄並びに同「クレイジーレーサー」、「IRE−GUI」及び「爆釣」の各筐体図柄の作 成はSNKの職務著作に当たるか。 (3) 原告は上記各著作物並びにSNK製作のゲームソフトのキャラクター「テリー・ボガ ード」及び「不知火舞」の図柄の著作権を破産者SNK破産管財人から有効に譲り受けた か。 (4) 被告アルゼはSNKから上記各著作権を譲り受け、又は上記各著作権について利用許 諾を受けていたか(対抗要件欠缺の主張)。 (5) 被告アルゼの製品(パチスロ機及びゲームソフト)中に用いられている画像図柄及び 筐体図柄は、原告が著作権を有する画像図柄及び筐体図柄を複製ないし翻案したものか。 (6) 被告アルゼが本件商標に類似する標章を商標として使用したといえるか。 (7) 本件商標の登録に無効理由が存在することが明白か。 (8) 原告の被告アルゼに対する本件商標権の行使は権利濫用等により許されないか。 ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 事実経過の認定 《中 略》 2 争点(1)(著作物性)について  本件各著作物は、いずれも当初からパチスロ機に用いることを目的として作成されたも のであることは当事者間に争いがなく、これを反面から見れば、それ自体の鑑賞を目的と して作成されたものではないということができる。  しかしながら、上記各著作物は、いずれも一応独立した図柄であるから、量産品の図面 や金型等とは異なって、それ自体を鑑賞の対象とすることもできるものである。  このような、それ自体を鑑賞の対象とすることができる図柄については、これが平均的 一般人の審美観を満足させる程度に美的創作性を有するものであれば、著作権法にいう美 術の著作物に当たるものと解するのが相当である。  これを本件各著作物についてみるに、甲A第7号証、第8号証の1ないし10、第9号 証、甲B第4号証、第5号証の1・2、第6号証、第7号証の1ないし4、第8号証の1 ・2、第15ないし第17号証、第18号証の1・2と弁論の全趣旨によれば、本件各著 作物は、第3の1で原告が主張するような特徴で描かれた液晶ソフトの画像に登場する人 物ないし動物キャラクターやそれらを背景と組み合わせて作成された図柄や筐体のデザイ ンとして作成された図柄であり、いずれも、その形状、構図等に作成者の思想感情が表現 されており、平均的一般人の審美観を満足させる程度の美的創作性を有するものと認める ことができる。  よって、本件各著作物は、いずれも美術の著作物として、著作権の対象となるものとい うべきである。 3 争点(2)(職務著作)について  (1) 前記1(1)及び(5)で認定した事実関係を前提として、パチスロ機「クレイジーレー サー」、「IRE−GUI」及び「爆釣」の開発態様を、いかなるものであったと評価す べきか検討する。  ア 前記1で認定した事実によれば、次の諸点を指摘することができる。  液晶搭載型パチスロ機は、主基盤、サブ基盤、筐体、リール、パネル等から構成される ところ、これらの開発は、企画を中心とした調整や、規制や機材の限界から来る調整は必 要としても、それぞれ独立して行うことが可能であったし、上記各パチスロ機の開発にお いても、実際にも相互に調整をとりつつも、独立して行われていたといえる。  そして、企画は被告アルゼ社屋内で勤務するSNK従業員が立て、これに基づいて被告 アルゼ社屋内で勤務するSNK従業員が液晶画面図柄の作成やそのデータ化、サブ基盤プ ログラムの作成を行い、またSNK大阪本社で勤務するSNK従業員が筐体図柄等を作成 した。これらSNKの従業員の給与等は、すべてSNKが負担し、出勤状況や休暇等の勤 務面もSNKが管理していた。  この間、パチスロ機開発の進行状況は、毎月SNK大阪本社に報告されていた。  被告アルゼ内部でも、SNK従業員らは「SNKパチスロ制作チーム」等と呼称されて おり、企画書等の文書でもその表記が用いられたり、「SNK」との表記が付されること が多かった。また、SNK大阪本社に対する報告では、開発成果を「商品」と呼び、これ を被告アルゼに「引き渡」すとの表現が用いられ、SNK大阪本社のデザイン制作室から 被告アルゼへの筐体図柄等の提出時には、SNK名義の納品書が作成された。  そして、「IRE−GUI」の液晶画像図柄には、「cSNK」との文字列や、登場人物 の服にSNKが商標権を有していたネオジオポケットのマークが入れられた。  イ 以上の諸事情に照らせば、上記各パチスロ機の開発態様としては、被告アルゼの開 発に、SNK従業員が参加して、被告アルゼの指揮下で作業を行っていたというものでは なく、被告アルゼとSNKが担当箇所を分担し、共同で開発を行っていたもので、SNK が企画及びサブ基盤部分と筐体等の開発を、被告アルゼが主基盤部分の開発、全体の統括 ・調整及び発行済み株式の全部を保有していた子会社であるメーシー販売を通じた販売を、 それぞれ担当していたと評価するのが相当である。  なお、パチスロ機開発の過程で、被告アルゼ側が決定権を持つ場面があったことは認め られるが、被告アルゼが全体を統括し、被告アルゼが発行済み株式の全部を保有していた 子会社であるメーシー販売から販売する前提での共同開発とすれば、むしろ当然のことと いうべきである。  また、パチスロ機開発の過程で、被告アルゼ側の助言や修正の指示があったことは認め られるが、上記各パチスロ機は、被告アルゼが開発する主基盤と合わせて制作され、被告 アルゼが発行済み株式の全部を保有していた子会社から販売することが前提の開発であり、 しかもそれまでSNKはパチスロ機開発の経験に乏しかったのであるから、被告アルゼが 全体の統括・調整を担当する共同開発と認めることと矛盾するものではなく、被告アルゼ 側の助言や修正指示への具体的対処も、すべてSNK従業員において行ったものであるか ら、被告アルゼ側の助言や修正指示も、全体統括・調整の域を出るものとは認めがたい。  さらに、開発作業は、被告アルゼの社屋の、入退室が厳重に管理された部屋で、被告ア ルゼ側が準備した機材等を用いて行われているが、パチスロ機開発に営業上の秘密が伴う こと(証人E)に照らせば、これも上記開発のような共同開発であることと矛盾するもの ではない。  しかも、被告アルゼ自身が、平成13年4月に至って、SNKに対して、パチスロ機の 液晶部及び筐体部の開発を委託する旨の開発委託基本契約の締結を求めていることは、被 告アルゼの認識においても、上記パチスロ機の開発が被告アルゼとSNKとの共同開発で あったことを物語るものというべきである。  被告らは、被告アルゼ社屋内で勤務していたSNK従業員は、SNKから被告アルゼに 出向して被告アルゼの指揮管理下にあったものと主張するが、前記のとおり、SNKがそ の給与等を負担し、勤務面を管理し、その活動の報告を月報として受けていたことに照ら せば、SNKや被告アルゼの作成した文書に「出向」又は「派遣」といった文言があるに しても、その実態として被告アルゼの指揮管理下にあったものとはいえない。  なお、パチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄には、被告アルゼの従業員が作成 したキャラクター図柄も1種類用いられているが、これは、証人Eの証言によれば、パチ スロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄の開発に被告アルゼの従業員が参加したという ものではなく、別のパチスロ機に用いるために作成したキャラクターの図柄を流用して、 顧客の注目を引こうとして、ほんの一部入れたものにすぎないと認められるから、上記の 開発態様の認定を左右するものではない。  ウ 以上のとおりであるから、上記パチスロ機の開発は、態様としては被告アルゼとS NKが、開発部分を分担して行った共同開発であったというべきである。  そして、液晶画像図柄や筐体図柄等は、主基盤等の開発と独立して作成され、これらの 作成に当たったのはSNK従業員であったことは、前述のとおりである。  (2) そして、前記1(5)で認定したとおり、SNKは、平成12年12月ころ及び平成 13年1月ころに、被告アルゼに対し、被告アルゼがSNKにパチスロ機の開発に対する 対価を支払うことを前提とした文書を提出していることに照らせば、SNKは、被告アル ゼに対し、著作権使用許諾料を含めた開発委託費の支払を期待していたことを推認するこ とができ、SNKとして、そこから収益を得るためにパチスロ機の共同開発に参加してい たものと認めることができるから、SNKは、これをSNK自身の事業として行っていた ものであるということができる。  これらの事情に照らせば、本件著作物の作成は、SNKの従業員が、SNKの発意に基 づき、SNKの職務の中で行ったものと認めるのが相当である。  (3) 次に、SNK従業員が本件各著作物を作成する際に、SNKは自己の名義でこれら を公表する予定であったか否かについて検討する。  (1)のとおり、上記パチスロ機は被告アルゼとSNKの共同開発なのであるから、公表時 にSNKの名義を入れて公表することは十分にあり得ることである。  実際に、上記パチスロ機に先立って開発されたパチスロ機「サムライスピリッツ」では、 そこで用いたキャラクターが従前からSNKが販売していたゲームで用いていたキャラク ターであったという事情があるとはいえ、SNKの名義も入れた形式で販売されたことが 認められる(証人E、乙15、弁論の全趣旨)。  そして、パチスロ機「IRE−GUI」では、液晶画像中に「cSNK2001」と表示 して、SNKの名義を明示して公表しているし、液晶画像の人物の服にSNKが商標権を 有していたネオジオポケットのマークも表示されている。  これらの事情に照らせば、本件各著作物の作成時に、SNKは自己の名義をもってこれ らを公表する予定であったと認めることができる。  (4) 以上のとおりであるから、本件各著作物はいずれも著作権法15条にいうSNKの 職務著作に該当するというべきであり、その著作権は原始的にSNKに帰属したものとい うことができる。 4 争点(3)(著作権の譲渡)について  (1) 本件譲渡契約書(甲A10の1)について検討するに、その第1条は、「甲〔SN K破産管財人L〕は別紙目録に掲げる知的財産権(以下『本件知的財産権』という。)を 乙〔原告〕に譲渡する。」と記載され、同契約書の別紙目録には表が添付されている。そ して、当該表には、本件各著作権等はいずれも記載されていない。  しかし、上記の本件譲渡契約書別紙目録添付の表を更に詳しく検討すると、ここには登 録され、あるいは登録を出願している知的財産権しか記載されておらず、一方、登録され ておらず、登録の申請もされていない著作権については全く記載されていないことが認め られる。  ところで、本件譲渡契約は、SNK破産管財人による破産財団の換価の一環として行わ れたものであることはSNK破産管財人の裁判所に対する本件譲渡契約締結の許可申請書 及び裁判所の許可決定書正本(甲A11)の記載から明らかであるが、破産財団の換価と いう観点からみれば、知的財産権を登録され、あるいは登録を出願しているものと、そう でないものとに分割して譲渡するのは、特段の事情がない限り利点に乏しく、本件で提出 された全証拠によっても、そのような特段の事情は見当たらない。しかも、SNKはゲー ムソフトの開発、製造、販売等を業としており、本件譲渡契約書別紙目録添付の表にも、 ゲームソフトに関連する商標権が含まれているところ(甲A10の1、2)、ゲームソフ ト中に用いられる著作物の著作権を商標権と分離して破産財団に留保することは、商標権 の換価方法としても、著作権の換価方法としても不合理であるという他はない。  そして、著作権は、特許権、実用新案権、意匠権及び商標権と異なり、創作によって発 生し、登録は権利行使の要件でもなく、登録を受けることはむしろ例外に属する。  また、SNK破産管財人は、SNKの再生手続廃止決定に続く管理命令に基づく管財人 の当時、SNKの知的財産権の一括譲渡を数社に打診し、その中で最高価の申し出をした 原告との間で本件譲渡契約を締結したという経緯があるが(甲A11)、上記打診の書面 (甲A28)には、「知的財産権の一括譲渡先を探して」おり、その検討を求める旨記載 されている。  これらの事実関係に照らせば、本件譲渡契約の解釈としては、未登録の著作権について は、その特定が未登録であるが故に煩瑣であったために、表に記載しなかったものの、こ れについても同時に譲渡する趣旨であったものと解するのが相当であり、SNK破産管財 人と原告との間の覚書(甲A10の2、3、甲D27の3)もこれを裏付けるものという べきである。  (2) 次に、本件譲渡契約締結にかかる裁判所の許可について検討する。  SNK破産管財人が裁判所に提出した本件譲渡契約締結の許可申請書(甲A11)には、 「許可を求める事項」として「株式会社プレイモア(原告)との間で、別紙知的財産権譲 渡契約を締結し、金2億1000万円で知的財産権を一括譲渡すること」と記載され、別 紙として本件譲渡契約書と同一の書面が付されている。  しかし、前述のとおり、SNK破産財団に属する知的財産権の換価に当たって、未登録 の著作権を留保し、その余の知的財産権のみを譲渡する理由に乏しいこと、許可申請書に、 破産財団に属する知的財産を一括譲渡する旨記載されていることに照らせば、裁判所とし ても、別表に記載されていない未登録の著作権を含め、SNK破産財団に属する知的財産 権を一括して譲渡するという趣旨で本件譲渡契約の締結を許可したものと認めるのが相当 である。  (3) この点、被告らは、破産財団に属する知的財産権について、破産管財人がその詳細 を特定せずに一括譲渡することや、裁判所がこれを許可することはあり得ないと主張する。  しかしながら、権利が多数に及ぶ場合には、詳細にわたる特定をしなくとも、一定の方 法によって譲渡の対象となる権利が特定できれば、これをもって譲渡の対象とすることは 十分に可能であるし、その際には具体的な権利の一々にまで破産管財人や裁判所の認識が 及んでいる必要もないことは当然である。また、多数の権利の詳細な特定と価値査定をす る場合には、それ自体に相当程度の時間と費用を要するところ、破産財団の早期換価の要 請から、これを省いて一括譲渡の方法を選択することも、破産管財人及び裁判所として合 理的な場合もあると解される。したがって、被告らの上記主張は採用することができない。  なお、被告らは、原告が本件譲渡契約によって破産管財人に支払った対価に比べて、本 件における原告の被告らへの金銭請求の額があまりにも過大であるとも主張する。  この主張が意味するところは必ずしも明らかではない。しかし、破産財団に属する知的 財産権の換価に当たっては、当該知的財産権を譲り受けた者は、その実施や権利行使に相 当程度の時間と費用を要し、時として権利行使が不可能になったり困難を伴ったりするな どの各種の危険も負担するのであるから、相当程度の低額による換価をすることは不合理 ではないし、本件譲渡契約のように早期の換価を行う場合には尚更である。したがって、 被告らの上記主張は採用の限りでない。  (4) なお、SNKが、「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄の著作権がSNK に帰属していたことは、甲D第20、第21号証、第22号証の1ないし3、第23号証 の1ないし4、第24号証の1ないし5によって認めることができる。  (5) 以上のとおり、本件譲渡契約の対象には本件各著作物等を含む未登録の著作権も含 まれており、その趣旨で裁判所も締結を許可したものと認められるから、原告は、本件各 著作物等の著作権を有効に譲り受けたものというべきである。 5 争点(4)(対抗要件)について  (1) 被告らは、被告アルゼがSNKから本件各著作物等の著作権を譲り受け、あるいは 利用許諾を受けていたものである旨主張するので、検討する。  前記1(5)のとおり、SNKが、平成12年12月ころ及び平成13年1月ころに、被告 アルゼに対し、被告アルゼがSNKにパチスロ機の開発に対する対価を支払うことを前提 とした文書を提出していること、被告アルゼは、平成13年4月に、被告アルゼがSNK にパチスロ機の開発に対する対価を支払うことを内容とした契約書案を提示していること、 同年7月に、被告アルゼ代理人が、SNK代理人に対し、パチスロ機「サムライスピリッ ツ」及び「クレイジーレーサー」の著作権、対価等について協議を申し入れ、これに対し てSNK代理人が、被告アルゼ代理人に対し、被告アルゼがSNKに対して著作権使用許 諾料を支払うことを内容とする覚書案を提示していること、結局、SNKと被告アルゼと の間で何の合意も支払もされていないことが認められるところである。  これらの事実に照らせば、SNKは、被告アルゼに対し、一貫して著作権使用許諾料を 含めた開発委託費の支払を期待し、その取り決めをするように求め、被告アルゼも、遅く とも平成13年4月には、その取り決めをしていないことを問題として認識するようにな っていたことを推認することができる。  そして、本件全証拠によっても、本件訴訟に至るまで、被告アルゼ自身がパチスロ機 「クレイジーレーサー」等のパチスロ機に使用されている図柄の著作権について、SNK から譲渡を受けたり、利用許諾を受けているとの認識をしていたことを窺わせる事情は認 められない。  以上の各事実によれば、SNKは、本件各著作物等の著作権について、将来的に、被告 アルゼから受ける対価と引き換えに、被告アルゼに対して譲渡し、あるいは利用を許諾す る予定であったものの、結局はその合意に至らなかったと推認できる。したがって、被告 アルゼは、本件各著作物等の著作権について、SNKから、譲渡又は利用許諾を受けたと は認められない。  (2) これに対し、被告らは、本件各著作物等を被告アルゼが使用することが予定されて いなければ、液晶ソフトや筐体図柄の開発はあり得なかったなどと主張する。  確かに、被告らが主張するとおり、本件著作物は被告アルゼが発行済み株式の全部を保 有していた子会社であるメーシー販売から販売されるパチスロ機に用いられるという前提 で作成されたものである。しかし、そうであるからといって、本件著作物の作成時に、著 作権者であるSNKから被告アルゼへの著作権の譲渡や利用許諾が当然になされたと解す る理由にはならない。かえって、被告ら主張の事情の下で、当然に譲渡や利用許諾がなさ れたものと解するならば、その対価について両者の合意が形成されなくても、被告アルゼ は本件著作物を利用することができるということになるが、それでは、SNKが著作権を 有することの意義が失われかねず、不合理である。この点についての被告らの主張は、採 用することができない。  (3) なお、被告らは、被告アルゼがSNKに対し多大な経済的利益を供与し、SNKの 存立基盤自体がこれに依存していたから、本件各著作物等の対価は、間接的ながら十分に 支払われていた旨主張する。  しかしながら、仮に、被告らの主張を前提としても、被告アルゼによるSNKへの経済 的利益供与と本件各著作物等の利用とを対価関係に立たせるとの合意は、明示的にも黙示 的にも存在していたとは認められない。また、SNKの存立基盤が被告アルゼに供与され た経済的利益に依存していたとしても、SNKの発行済み全株式を所有していたわけでは なく、発行済み株式総数の50.88パーセントを所有していたにすぎない被告アルゼが、 SNKの事業の成果を無償で利用することができる理由にはなり得ない。  そもそも、前記1(1)、(5)で認定したとおり、SNKは、平成12年から平成13年当 時は再建の途上にあり、被告アルゼに対しても30億円の負債を有し、再建のために、被 告アルゼから受けるパチスロ機「クレイジーレーサー」や「IRE−GUI」の開発費や 販売ロイヤリティーを期待していたのであるから、SNKが被告アルゼに対して、本件各 著作物等を無償で使用させたり、被告らが主張するような被告アルゼからの経済的利益を もってその対価とする意思がなかったことは明らかである。  (4) 以上のとおりであるから、被告らが主張するような、本件各著作物等の著作権につ いてのSNKから被告アルゼに対する譲渡や利用許諾があったとは認めることはできない。  したがって、被告アルゼと原告が対抗関係に立つという被告らの主張は理由がない。 6 争点(5)(複製ないし翻案)について  (1) パチスロ機「クレイジーレーサーR」について  パチスロ機「クレイジーレーサーR」の液晶画像図柄は、パチスロ機「クレイジーレー サー」のためにSNK従業員らが作成した図柄と同一であることは当事者間に争いがない から、同図柄を複製したものと認められる。また、パチスロ機「クレイジーレーサーR」 の筐体腰部パネルの図柄(別紙図柄目録A2)は、パチスロ機「クレイジーレーサー」の ためにSNK従業員らが作成した図柄(別紙図柄目録A1)の着色を変えた以外は同一で あることも当事者間に争いがないから、やはり同図柄を複製したものと認められる。  (2) パチスロ機「爆釣」について  証人Aの証言及び甲A第45号証によれば、パチスロ機「爆釣」の液晶画像図柄には、 パチスロ機「IRE−GUI」のためにSNK従業員らが作成した図柄と同一のものや、 一部を変更したものが用いられており、一部変更した内容は原告主張の程度にとどまり、 「IRE−GUI」の登場キャラクターのほとんどがそのまま使用されていることが認め られるから、同図柄を複製ないし翻案したものと認められる。また、甲A第65号証、甲 B第19号証によれば、パチスロ機「爆釣」の筐体図柄(別紙図柄目録D1ないし3、4 の1・2)は、同機のためにSNK従業員らが作成した図柄と同一であることが認められ るから、同図柄を複製したものと認められる。  (3) ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」について  ア ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」には、隠し機種として「クレイジーレー サーR」が収録され、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の動作をシミュレートするこ とができるようになっており、その際、同機の液晶パネルに表示される図柄も表示され、 また、「クレイジーレーサーR」の筐体前面の全体図が表示されて、筐体腰部パネル図柄 (別紙図柄目録C8)が現れる場面もある(前記第2の2の「前提となる事実」(3)オ)。 弁論の全趣旨によれば、上記ソフトウエア中の画像データはパチスロ機「クレイジーレー サーR」の画像データがそのまま使用されているものと認められるから、前記(1)で述べた ところに照らして、同ソフトウエアの画像図柄は「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの 画像図柄を複製したものであるというべきであり、また、筐体腰部パネル図柄は「クレイ ジーレーサー」のそれを複製したものというべきである。  イ 「パチスロ アルゼ王国6」中の「隠しムービー」について  甲A第8号証の1ないし10、第9、第14号証、甲C第24号証の1ないし5によれ ば、「隠しムービー」において表示される人物等キャラクターの画像図柄は、パチスロ機 「クレイジーレーサー」の液晶画像図柄と比較すると、主人公に相当するキャラクターの 顔が動物的ではなく、ほとんど人間に近いものであること、各キャラクターの図柄が、パ チスロ機「クレイジーレーサー」の液晶画像図柄では特徴点が相当に強調されているのに 対し、「隠しムービー」の図柄ではさほどの強調がされていないこと、乗り物の車体の形 状が異なるといった相違点があることが認められる。  しかし、上記証拠によれば、登場する人物等キャラクターのうち、1名はひさしのある 帽子をかぶり、耳当てを付け、1名はショートヘアーで頭頂部付近からうさぎのような長 く突き出た耳を持ち、1名は首輪を付け、腕に炎の模様のある擬人化されたゴリラ様であ り、1名は頭頂部に長く伸びた羽を持ち、大きな嘴に眼鏡をかけ、羽が手のようになった オウム様であり、1名はハイエナ様であるというように、各キャラクターの特徴が一致し ていることが認められ、これに加えて、「隠しムービー」自体が、「パチスロ アルゼ王 国6」の中で、もっぱら「クレイジーレーサーR」の導入画像として用いられ、そこにパ チスロ機「クレイジーレーサーR」のキャラクターと関係のないキャラクターの画像を表 示しても意味がないことを考慮すれば、「隠しムービー」において表示される人物等キャ ラクターの画像は、パチスロ機「クレイジーレーサーR」のキャラクターを示すものとし て、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の液晶画像図柄に依拠して、その本質的な特徴 を感得できるようにして作成されたものと認めることができる。また、「隠しムービー」 内には、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の筐体腰部パネル図柄が表示される場面が あるが、これも、前記(1)で述べたところに照らして、「クレイジーレーサー」の筐体腰部 パネル図柄を複製したものというべきである。  したがって、これらも、パチスロ機「クレイジーレーサー」のためにSNK従業員らが 作成した図柄を複製ないし翻案したものと認められる。  (4) ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」について  ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」には、ゲームとして「バクチョウ」が収録さ れ、パチスロ機「爆釣」の動作をシミュレートすることができるようになっており、その 際、同機の液晶パネルに表示される図柄も表示され、また、同ソフトウエアにおいて、同 機の筐体前面の全体図が表示される場面がある(前記第2の2の「前提となる事実」(3)カ)。 弁論の全趣旨によれば、上記ソフトウエア中の画像データはパチスロ機「爆釣」の画像デ ータがそのまま使用されているものと認められるから、前記(2)で述べたところに照らして、 同ソフトウエアの画像図柄はパチスロ機「IRE−GUI」の液晶ソフトの画像図柄を複 製ないし翻案したものであるというべきであり、また、筐体図柄は「爆釣」のそれを複製 したものというべきである。  (5) パチスロ機「IRE−GUI」について  証人Aの証言及び甲第45号証によれば、パチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図 柄(別紙図柄目録D5ないし7、8の1ないし3、9の1・2、10の1・2、11の1 ないし3)には、同機のためにSNK従業員らが作成した図柄と同一のものが用いられて いることが認められるから、同図柄を複製したものと認められる。また、証人Eの証言及 び甲D第16号証の1、2、第17号証の1、2、第18、第19号証、第21号証、第 22号証の1ないし3、第23号証の1ないし4、第24号証の1ないし5によれば、同 機の液晶画面図柄には、「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄が、キャラクター としての特徴を感得できる態様で改変して用いられており、翻案したものと認められる。 さらに、甲A第65号証、甲B第4号証、甲D第33号証によれば、同機の筐体図柄(別 紙図柄目録E1ないし3、4の1・2)は、同機のためにSNK従業員らが作成した図柄 と同一であることが認められるから、同図柄を複製したものと認められる。 7 争点(6)(類似商標の使用)について  (1) 本件商標と別紙標章目録1ないし3記載の標章との類似性について  ア 別紙標章目録1記載の標章は、「クレイジーレーサー」の文字からなる標章と「R」 の文字からなる標章から構成されているところ、同各標章は片仮名とローマ字の違いによ り両部分に区別され、「R」の標章のみでは識別力を有しないから、「クレイジーレーサ ー」の部分が要部であるというべきである。本件商標の「クレージレーサー」と「クレイ ジーレーサー」を比較すれば、以下のとおり、称呼、外観、観念とも類似するというべき である。  すなわち、@ 称呼については、「クレイジーレーサー」には3文字目に「イ」の文字 が入っているのに対して「クレージレーサー」にはこれがないこと、「クレイジーレーサ ー」には2文字目の「レ」が短音、4文字目の「ジ」が長音であるのに対して、「クレー ジレーサー」ではこれらに対応する2文字目の「レ」が長音、4文字目の「ジ」が短音で あるという相違点がある。しかし、前者については、比較的長い称呼を有し、一方が1音 だけ多く、他は同一の場合に該当する上、「レー」と「レイ」では実際の音も大きく離れ たものではないから、類似するというべきである。後者については、長音と短音の差にす ぎないものであるし、2文字目の「レ」については、「クレイジーレーサー」ではその次 に「イ」が続き、上記のとおり「レー」と「レイ」では実際の音も大きく離れたものでは ないから、これらも類似するというべきである。A 外観については、両者とも横書きの ゴシック体の片仮名であり、使われている文字も「イ」の有無を除いて同一であるから、 これらは類似するというべきである。B 観念については、「クレージ」も「クレイジー」 も容易に英語の「crazy」を想起させ、「熱狂的な」などの意義を有することは一般 人に広く知られており、「レーサー」は「競走者」という意味を持つことは広く知られて いるから、両者とも「熱狂的な競走者」という意義を有するのであり、同一の観念を想起 させるものとして類似するというべきである。  以上のとおり、本件商標の「クレージレーサー」と別紙標章目録1記載の標章は、類似 するというべきである。  イ 本件商標の「CRAZYRACER」と別紙標章目録2記載の標章を比較すると、 @ 称呼については、いずれも「クレイジーレーサー」という同じ称呼を生じ、A 外観 については、同じローマ字を横書きにしたという限度で類似し、B 観念については、前 記アBと同様に、両者とも「熱狂的な競走者」という意義を有し、同一の観念を想起させ るものとして類似する。したがって、これらも類似するというべきである。  ウ 別紙標章目録3記載の標章は、書く文字の太さと横幅が別紙標章目録1記載の標章 と若干相異するものの、その他はこれと同一であるから、前記アと同様の理由で本件商標 の「クレージレーサー」と類似するというべきである。  (2) 「パチスロ アルゼ王国6」にかかる商標としての使用の有無について  ア ガイドブックでの使用について  前記第2の2「前提となる事実」(3)オのとおり、被告アルゼが作成したパチスロ機「ク レイジーレーサーR」のガイドブックには、その裏表紙に「パチスロ アルゼ王国6」の 広告が掲載されており、また、同ソフトウエアには「クレイジーレーサーR」が収録され ている。しかし、同ガイドブックの配布時にその情報が流布されていたとしても、同ガイ ドブック自体は、ゲームソフト中のゲームの「クレイジーレーサーR」に関するものでは なく、パチスロ機の「クレイジーレーサーR」に関するものであるから、直ちに同ソフト ウエアの広告を兼ねたものとなる理由にはならない。パチスロ機「クレイジーレーサーR」 のガイドブックに「クレイジーレーサーR」との標章を付することは、被告アルゼ主張の とおり当然であり、他に当該ガイドブックが同ソフトウエアの広告としての性質を有する ことや、これに別紙標章目録1記載の標章を付すことが同ソフトウエアの広告に標章を付 すことに当たることを認めるに足りる事情はない。  したがって、この点についての原告の主張は、採用することができない。  イ ゲーム情報サイト「eg」の記事掲載について  前記第2の2「前提となる事実」(3)オのとおり、インターネット上のゲーム情報サイト 「eg」に、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現情報!」との記事が掲載されたも のであるが、同記事の掲載は、NTT出版株式会社が開設するインターネットのサイトに なされたものであり、同記事の掲載行為の主体は同会社であるというべきところ、本件全 証拠によっても、被告アルゼが関与したことを認めるに足りない。  したがって、この点についての原告の主張も、採用することができない。  ウ 被告アルゼの自社サイトの記事について  前記第2の2「前提となる事実」(3)オのとおり、被告アルゼは、インターネット上の自 社のホームページに、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現!!」として、ゲームソ フト「パチスロ アルゼ王国6」に「クレイジーレーサーR」が収録されていること、そ れが遊戯可能となる前に「隠しムービー」が表示される旨の文書を掲示したものである。 そして、上記記事は、一般の閲覧者が閲覧することが可能な状態で掲載されていることに 照らせば、被告アルゼが主張するような既に購入した消費者に対する商品添付の説明書に 記載していない情報の提供にとどまらず、この記事によって「パチスロ アルゼ王国6」 の購入を検討し、決定する消費者もいることが考えられるから、同ソフトウエアの広告に 該当するものと認められる。  したがって、同記事に別紙標章目録3記載の標章を付することは、本件商標に類似する 標章を広告に付して使用することに当たるというべきである。  エ 「隠しムービー」での使用について  前記第2の2「前提となる事実」(3)オのとおり、ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国 6」の「隠しムービー」内には、別紙標章目録2の標章が表示される場面がある。  これについて、被告アルゼは、「隠しムービー」には標章が付されているとはいえず、 また、「隠しムービー」中に表示される上記標章は同ソフトウエアについて商品識別機能 を果たす態様で使用されていないから商標としての使用に該当しないと主張する。  そこで検討するに、ソフトウエアは、一般に、その記憶媒体のいかんにかかわらず、プ ログラム自体が商品の本質をなすという特質を有するものである。そして、ソフトウエア を実行した場合にその導入部で表示される標章は、需要者に認識され、出所識別機能を果 たすものであるから、商標として使用されているというべきであり、これをプログラムに 組み込むことも、商品に標章を付することに当たるというべきものである。  本件についてみると、「パチスロ アルゼ王国6」の「隠しムービー」で表示される標 章も、上記の趣旨に照らして商標として使用され、同ソフトウエアに付されていると認め ることができる。  したがって、同ソフトウエアの「隠しムービー」で別紙標章目録2記載の標章が表示さ れるように同ソフトウエアに組み込むことは、本件商標に類似する標章を商品に付して使 用することに当たるというべきである。 8 争点(7)(本件商標の登録無効理由)について  (1) 前記1(1)のとおり、パチスロ機「クレイジーレーサー」は、当初からメーシー販 売から販売する予定であったことが認められる。  しかしながら、前記3のとおり、SNKは、同機のサブ基盤のプログラム開発及び筐体 腰部パネルのデザインを、自らの事業として行っていたこと、同機の販売の際に、開発者 の名義として自社の名義を表示することも予定していたことが認められる。そうすると、 同機はSNKにとっても、自己の業務に係る商品であるということができる。  しかも、本件商標の登録出願当時、SNKは被告アルゼの子会社であり、メーシー販売 らと共に被告アルゼの企業グループに属していたところ、一般に、親子会社のような企業 グループ間では、必ずしも商標権者自身が当該商標を使用しなくとも、同じグループの他 の企業が当該商標を使用するのであれば、商標法にいう商標を自己の業務に係る商品につ いて使用するとの要件を欠くものではないというべきである。  以上のとおりであるから、いずれにしても、本件商標について、登録出願当時、SNK が自己の業務にかかる商品について使用する予定がなかったとまで認めることはできない。  したがって、本件商標の登録に被告アルゼが主張するような無効理由が存在することが 明らかであるとはいえない。  (2) 被告アルゼは、第12回口頭弁論期日に陳述した平成15年9月8日付け準備書面 において、本件商標の登録無効理由に関し、争点(7)の被告アルゼの主張欄後段記載のよう な主張を新たに行った。  ところで、本件の訴訟経過をみると、甲ないし戊事件は、平成14年2月28日から同 年10月28日にかけて提訴され、順次併合して審理を進めてきたものであるが、平成1 5年3月13日の第9回口頭弁論期日において、次回口頭弁論期日において双方の主要な 主張が揃うとの前提で双方当事者に人証の申請を促し、同年4月25日の第10回口頭弁 論期日において、それまでに当事者双方から提出された主張と書証を基に、人証として証 人2名を採用し、同年7月17日の第11回口頭弁論期日において証人2名を尋問した上、 第12回口頭弁論期日として同年9月11日を指定して、同期日で侵害論についての審理 を終結する予定としていた。すなわち、同年7月17日の第11回口頭弁論期日以降にお いては、補充的な主張や相手方当事者の主張に対する反論はともかく、新たな主張を追加 するということはないという前提で審理を進めていたものである。  しかるに、被告アルゼは、同年9月8日付け被告ら準備書面において、原告からの商標 権侵害を理由とする請求に対し、それまで提出していなかった抗弁を新たに記載し、これ を同月11日の第12回口頭弁論期日で陳述した。  被告アルゼが提出した上記新たな主張は、その内容からすると、被告アルゼにおいて新 たに知り得た事実に基づくものとは認められず、また、上記の訴訟経過に照らすと、遅く とも第10回口頭弁論期日までに提出することができ、かつ、提出すべきものであったと いうべきであり、その提出が第12回口頭弁論期日に至ったのは、被告アルゼの故意又は 重大な過失によるものというべきである。  そして、上記主張の当否について審理をするならば、原告においてこれに反論する必要 が生じ、その主張内容によっては双方当事者において事実立証のために証拠を提出する必 要が生じると解されるから、第12回口頭弁論期日において侵害論についての審理を終結 することができなくなり、侵害論の審理のためにさらに期日を要し、ひいては訴訟の完結 を遅延させることとなると認められる。  以上のとおり、被告アルゼが第12回口頭弁論期日において提出した上記新たな主張は、 被告アルゼの故意又は重大な過失により時機に後れて提出されたものであり、これにより 訴訟の完結を遅延させることとなると認められるものであるから、民事訴訟法157条1 項を適用して職権で却下することとする。 9 争点(8)(本件商標権行使と権利濫用等)について  (1) 前記のとおり、パチスロ機「クレイジーレーサー」は、当初からメーシー販売から 販売する予定であったことが認められる。  しかしながら、これも前記1(1)で認定したとおり、同機の液晶ソフトの演出を含めた企 画は、SNK従業員によって立案され、その演出の主要部分をなす液晶画像図柄も、SN K従業員によって作成されたものであることが認められるところ、パチスロ機のタイトル である「クレイジーレーサー」も、この企画の当初から仮タイトルとして付されていたも のであり、演出や液晶画像図柄と容易に切り離し得る性質のものではない。  そして、前記3で認定したとおり、パチスロ機「クレイジーレーサー」の企画立案や液 晶部分のプラグラムの作成がSNKの事業として行われたものであり、液晶画像図柄や筐 体腰部パネル図柄の著作権も原始的にSNKに帰属することが認められることに鑑みれば、 そのタイトルをSNKにおいて商標登録することも、その商標権を被告アルゼに対して行 使することも、これを権利濫用ということはできない。  したがって、この点についての被告アルゼの主張は理由がない。  (2) 被告アルゼは、第12回口頭弁論期日に陳述した平成15年9月8日付け準備書面 において、本件商標権行使が権利濫用であること及び権利行使が制限されることに関し、 争点(8)の被告アルゼの主張欄後段記載のような主張を新たに行った。しかし、この新主張 についても、前記8(2)で述べたことがそのまま当てはまるから、被告アルゼの故意又は重 大な過失により時機に後れて提出されたものであり、これにより訴訟の完結を遅延させる こととなると認められるものであるから、民事訴訟法157条1項を適用して職権で却下 することとする。 10 結論  以上のとおりであるから、甲事件ないし戊事件において、被告アルゼ又は被告らは、主 文掲記の限度で、原告の有する著作権及び商標権を侵害するものである。してみれば、今 後、上記判断を前提として、損害額及び差止め等の必要性について審理をする必要がある。  よって、主文のとおり中間判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 小松 一雄    裁判官 田中 秀幸    裁判官 守山 修生