・東京地判平成16年3月30日  ケイコとマナブ事件:第一審  原告(株式会社リクルート)は、いわゆる各種学校やその講座内容等の情報を掲載した 情報誌「ケイコとマナブ」(首都圏版、関西版、東海版等)を編集、発行している。本件 において、原告は、被告(株式会社プロトコーポレーション)が同様の内容の情報誌「ヴ ィー・スクール」(首都圏版、関西版、東海版)を製作、発行する行為は、前記情報誌 「ケイコとマナブ」(首都圏版、関西版、東海版。各平成14年4月号)につき原告の有 する編集著作物の著作権を侵害するものであるとして、被告に対し、主位的に、著作権に 基づき雑誌の製作、発売等の差止めおよび損害賠償(著作権法114条3項)を請求し、 予備的に、被告による模倣行為は一般不法行為に該当するとして、不法行為に基づく損害 賠償を請求している。  原告各情報誌には、白黒印刷で構成され、原告の広告主から出稿されるスクール情報及 び講座情報が掲載された広告記事が分類配列されて掲載されている部分(以下「分野別モ ノクロ情報ページ」という。)がある。分野別モノクロ情報ページに掲載される通学講座 の広告記事は、@スクール名、A住所、B最寄駅、Cスクールの特徴を示すアイコン( 「スクール別便利ポイント」)、Dカプセル、E講座の特徴を示すアイコン(「特徴アイ コン」、「○得情報アイコン」)、F資料請求番号、Gコース名、H講座開講日時・費用、 I入学金・受講料の割引を示すマーク、Jコース内容、Kスクール情報、L地図、M交通 案内、及びフリースペースからなり、各要素の配置場所についても、定型的に決められて いる(別紙「通学のレイアウト比較」参照)。  また、原告各情報誌の通信講座の広告記事は、@カプセル、A費用、B標準期間、C講 座名、D資料請求番号、E講座のポイント、F講座の内容、G添削回数等、H特徴アイコ ン・○得情報アイコンの表示(「ここに注目!」)、I教材紹介、Jスクール名、K写真、 L受講のポイントや体験談の掲載欄、Mプロファイルカプセル等からなり、各要素の配置 場所についても、定型的に決められている(別紙「通信のレイアウト比較」参照)。  これに対して、被告各情報誌の被告の広告主から出稿されるスクール情報及び講座情報 が掲載された広告記事が分類配列されて掲載されている部分(以下「カテゴリー別スクー ル情報」という。)に掲載される通学講座の広告記事は、@スクール名、A住所、B最寄 駅、Cスクールの特徴を示すアイコン(「おすすめチェック」)、Dカプセル、E講座の 特徴を示すアイコン(「講座選びのポイント」、「○得ポイント」)、F資料請求番号、 Gコース名、H講座開講日時・費用、I入学金・受講料の割引を示すマーク、Jコース内 容、Kスクール情報、L地図、M交通案内、及びフリースペースからなり、原告各情報誌 の広告記事と同一であるばかりでなく、各要素の配置場所についても、スクールの電話番 号が、スクール名の下に配置されているほかは、すべて同一である(別紙「通学のレイア ウト比較」参照)。  被告各情報誌の通信講座の広告記事は、@カプセル、A費用、B標準期間、C講座名、 D資料請求番号、E講座のポイント、F講座の内容、G添削回数等、H通信講座情報アイ コン・通信講座情報とくとくアイコンの表示(「Check」)、I教材紹介、Jスクー ル名、K写真、L受講のポイントや体験談の掲載欄、Mプロファイルカプセル等からなり、 原告各情報誌の広告記事と同一であるばかりでなく、各要素の配置場所についても、特徴 アイコン・○得情報のアイコン表示場所が異なるほかは、すべて同一である(別紙「通信 のレイアウト比較」参照)。  判決は、原告各情報誌(平成14年4月号)の分野別モノクロ情報ページ部分について は、「広告主から出稿されたスクール情報・講座情報を内容とする個々の具体的な広告記 事を素材としてとらえる限りにおいては、編集著作物に該当するものである」としながら も、素材を異にする等の理由により著作権侵害を否定し、原告の請求を棄却した。 (控訴審:東京高判平成17年3月29日) ■評釈等 横山久芳・コピライト523号32頁(2004年) ■争点 (1) 「分野別モノクロ情報ページ」についての、編集著作物該当性及び被告による著作 権侵害の有無 (2) 分野別モノクロ情報ページ中のツメ見出し・カプセルの編集著作物性及び被告によ る著作権侵害の有無 (3) 原告各情報誌における「学べる内容から探せるスーパーINDEX」の編集著作物 性及び被告による著作権侵害 (4) 原告各情報誌におけるスーパーインデックスの大分類・小分類表示の編集著作物性 及び被告による著作権侵害 (5) 原告各情報誌における「通学アイコン一覧表」の編集著作物性及び被告による著作 権侵害の有無 (6) 原告各情報誌における「通信アイコン一覧表」の編集著作物性及び被告による著作 権侵害の有無 (7) 被告の不法行為責任の有無 (8) 原告の損害 ■判決文 第3 当裁判所の判断 1 原告各情報誌の編集著作物性について(争点(1)ないし(6)関係)  (1) 原告は、原告各情報誌平成14年4月号のうち、@講座情報を素材とした分野別 モノクロ情報ページ部分、A小分類項目たるカプセルを素材とした分野別モノクロ情報ペ ージに掲載の分類・配列体系、Bスクール名等を素材としたスーパーインデックス部分、 C小分類項目を素材としたスーパーインデックスに掲載の分類・配列体系、D原告通学ア イコン一覧表、及び、E原告通信アイコン一覧表が、いずれも編集著作物に該当するとし て、それぞれについて著作権侵害(編集著作物の著作権の侵害)を主張している。そこで、 まず、上記@ないしEの各部分が著作権法12条に規定する編集著作物に該当するかどう かを判断する。  (2) 前記「前提となる事実関係」(前記第2、1)に証拠(甲12ないし18、25、 26、29ないし41、46、47)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認め られ、この認定を左右するに足りる証拠はない。  ア 原告各情報誌平成14年4月号の分野別モノクロ情報ページ部分は、白黒印刷で構 成され、原告の広告主から出稿されるスクール情報及び講座情報が掲載された広告記事が 分類配列されて掲載される部分である。原告各情報誌の編集担当者は、読者が検索しやす いようにあらかじめ定められた分類・配列の基準に従って、入稿してくる広告記事の配置 場所を決め、分野別モノクロ情報ページを完成させていくこととなる。  イ 原告各情報誌平成14年4月号の分野別モノクロ情報ページ部分においては、紙面 の前小口の端から約5センチメートル内の領域に当該ページに掲載されているスクール情 報・講座情報の内容を端的に示す文言(ツメ見出し)が記載されているほか、各広告記事 の冒頭部分には、講座情報の分類指標を示す類型的な文言が長方形型の形態の枠の中に記 載されたもの(カプセル)が見出し的に記載されている。  ウ 上記イのツメ見出し、カプセルは、分野別モノクロ情報ページにおける広告記事の 分類・配列の基準を示し、読者による各スクール情報及び講座情報の比較検討や情報検索 を容易にするための手段として、原告各情報誌の創刊時から記載されていた。具体的には、 ツメ見出しを設けることで、読者が目指す情報を容易に検索でき、かつ読者の関心を惹き つけることができるようになり、カプセルを設けることで、スクール情報及び講座情報の 掲載されているページを読者が一見したときに、「どんなジャンルの講座で何が習えるの か」といった概略をつかむことが可能となる機能が期待されている。  原告各情報誌の編集担当者は、原告各情報誌の創刊時から必要に応じてツメ見出し及び カプセルの内容やこれらの体系に変更を加え、平成14年4月号における原告各情報誌の リニューアル時には、別紙「カプセル体系」記載のとおりのツメ見出し及びカプセルの体 系に従った広告記事の分類・配列が行われるようになった。  エ 原告各情報誌平成14年4月号には、講座の種類について大分類と小分類からなる 2段階の分類を行った上で、スクール名を配列し、情報誌本文における掲載ページを掲げ るとともに、資料請求のための「共通はがき」の利用の可否、原告サイトでの情報検索の 可否、通学と通信教育の別、割引の有無を知ることができるようにしたスーパーインデッ クスが、情報誌末尾に掲載されている。大分類は基本的にツメ見出しに対応しているもの の、業種による区別をするなど、ツメ見出しよりやや細分化された項目となっており、小 分類は上述のカプセルに対応するものとなっている。  このスーパーインデックスは、原告各情報誌の分野別モノクロ情報ページ、特集ページ 及び通信教育講座の広告記事に掲載された多数のスクール情報及び講座情報について、読 者が完全に希望の講座を有するスクールを検索し、かつ各スクールの比較検討を行うこと ができるように、平成14年4月号のリニューアル時以降導入されたものである。  具体的には、原告各情報誌の平成14年4月号のリニューアル時において、ツメ見出し を「常設ツメ」と「特集ツメ」に区別し、「特集ツメ」のページにおいては「常設ツメ」 とは別個の分類・配列を行うこととしたため、これまで「常設ツメ」のページに収録され ていた講座の一部が、「常設ツメ」による分類の枠外のものとして「特集ツメ」のページ に収録されるということが生じ、読者にとって目指す講座が探しにくくなり、それらの講 座を比較検討できなくなるという不都合が生じた。そこで、読者の利便性を確保するため に、「常設ツメ」と「特集ツメ」の双方を通じた検索手段として、原告各情報誌の編集担 当者による検討の結果、スーパーインデックスが導入されたものである。このスーパーイ ンデックスにおける大分類・小分類の分類配列の発想は、ツメ見出し・カプセルによる分 類・配列の場合と基本的には同一であるが、ツメ見出しの場合には一つのツメ見出しの下 に割り振られる情報量をなるべく均等にする必要があるのに対し、スーパーインデックス における大分類・小分類の分類配列の場合にはそのような制約がないため、大分類自体は、 業種・業界によって区別するなど細分化し、そこにカプセルが割り当てられるという体系 となっている。  オ 原告各情報誌平成14年4月号には、別紙「原告通学アイコン一覧表」及び別紙 「原告通信アイコン一覧表」のとおりの各一覧表が掲載されている。この原告通学アイコ ン一覧表及び原告通信アイコン一覧表は、スクール情報・講座情報を記載した広告記事に おいて用いられているアイコンに説明を付し、原告通学アイコンについては「スクール便 利ポイント」(当該スクールの立地条件、設備のほか、受講生が受けられるサービスに関 するもの)、「特長アイコン」(開講時間、受講制度、レベル、講師に関する事項等、講 座・コース独自の特徴、メリットに関するもの)及び「○得情報アイコン」(受講料の支 払い方法や、割引に関する特長・メリットに関するもの)の3つのカテゴリーに分類し、 原告通信アイコンについては「特長アイコン」及び「○得情報アイコン」の2つのカテゴ リーに分類して一覧表としたものである。  原告通学アイコン一覧表及び原告通信アイコン一覧表が原告各情報誌に掲載されるよう になったのは、次のような経緯による。原告は、平成14年4月号からの原告各情報誌の リニューアルに際し、原告各情報誌の読者が一目で各スクール情報・講座情報の特徴を把 握し、容易にスクール・講座の情報を比較することができるように、スクールや講座の特 徴のうち読者が関心を持ちそうな事項を抽象的に整理して広告記事に記載することにした。 そこで、各広告記事に読者の多くが関心を持つスクールや講座の独自の特徴やメリットを 短いフレーズで端的に表すマーク、すなわちアイコンを掲載することとした。そして、過 去3年分のケイコとマナブ首都圏版に記載されたスクール情報・講座情報、読者アンケー トはがきの回答等を参考にしてアイコンの選定を行い、最終的に原告通学アイコン一覧表 及び原告通信アイコン一覧表記載のアイコンを選定した。この検討作業の結果、原告各情 報誌の広告記事に用いられるようになったアイコンを読者に分かり易いように説明を付し て分類整理して一覧表としたものが、原告通学アイコン一覧表及び原告通信アイコン一覧 表である。  (3) 上記(2)において認定した事実関係によれば、原告が編集著作物と主張する原告各 情報誌(平成14年4月号)の各部分のうち、分野別モノクロ情報ページ部分は、広告主 から出稿されたスクール情報・講座情報を内容とする個々の具体的な広告記事を素材とし てとらえた場合には、これらの素材を読者の検索の便宜に資するように独自の分類配列方 針に従って配列したものであり、当該配列は五十音順等の何らかの既存の基準に基づいて 行ったものとは認められないから、これらの具体的広告記事の配列に創作性を有するもの として、編集著作物に該当する。  (4) 原告は、上記のような具体的な広告記事を離れて、抽象的な編集体系自体を編集 著作物としてとらえ得るものと主張し、原告各情報誌(平成14年4月号)の分野別モノ クロ情報ページ部分について、抽象的な「学ぶ内容」(カプセルとして設定された項目)、 あるいは大分類項目たるツメ見出し及び小分類項目たるカプセルを素材としてとらえ、こ れらを関連付けることにより構築した分類体系自体を編集著作物ということができると主 張する(原告の主張する分類体系の内容の詳細は、平成15年2月25日付け原告第1準 備書面3頁以下及び甲25(佐々木健作成の陳述書)参照)。  しかしながら、著作権法12条に規定する編集著作物は、あくまでも具体的な編集物に 具現化された編集方法を保護するものであって、具体的な編集対象物を離れた、編集方法 それ自体をアイデアとして保護するものではない。原告は、抽象的な「学ぶ内容」(カプ セルとして設定された項目)、あるいはツメ見出しの項目及びカプセルの項目がそれぞれ 編集著作物の素材となり得るものと主張するが、これらの項目は、あくまでも具体的な広 告記事を分類配列するための指標にすぎず、これらを関連付けしたものは、抽象的な体系 的構成ということはできるにしても、編集著作物ということはできない。具体的な編集対 象物を離れた体系的な構成は、データベースの著作物(著作権法12条の2)として保護 されることがあるとしても、編集著作物として保護されることはない。原告の主張は、デ ータベースの著作物と編集著作物を区別しないで論ずるものであって失当である。  原告は、原告各情報誌の分野別モノクロ情報ページ部分につき、ツメ見出し及びカプセ ルによる分類体系自体を編集著作物と主張し、これと同様の分類体系により広告記事を分 類配列した情報誌の製作・発売等の差止めを求めているが(第1「原告の請求」第1項な いし第3項)、これらの請求はその前提を欠くものであり、理由がない。  (5) 原告は、原告各情報誌(平成14年4月号)の末尾に掲載されているスーパーイ ンデックス部分が編集著作物に該当すると主張する。  スーパーインデックスは、上記(2)で認定のとおり、分野別モノクロ情報ページ、特集 ページ及び通信教育講座に分類配列された広告記事の検索やスクール情報の比較を容易に するために設けられたものであって、広告記事の掲載されているスクールの名称ごとに情 報誌本文における掲載ページを掲げるとともに、資料請求のための「共通はがき」の利用 の可否、原告サイトでの情報検索の可否、通学と通信教育の別、割引の有無を知ることが できるようにした一覧表であり、各スクールは基本的には分野別モノクロ情報ページ等で の分類配列方針に従って並べられている。  原告は、スーパーインデックスにおいて大分類、小分類を設け、これを関連付けた編集 体系そのものが、編集著作物として保護されると主張するが、スーパーインデックスにお いて記載されている具体的なスクール名及び当該スクールの広告記事掲載ページを離れて、 当該分類体系自体が編集著作物となる旨の原告の主張は、上記(4)において説示したとこ ろと同様の理由により、失当といわざると得ない。したがって、スーパーインデックスに つき、大分類及び小分類による分類体系自体を編集著作物と主張して、これと同様の分類 体系による索引を掲載した情報誌の製作・発売等の差止めを求める原告の請求(第1「原 告の請求」第4項ないし第6項)は、その前提を欠くものであり、理由がない。  スーパーインデックス部分を編集著作物として、その著作権侵害を理由として損害賠償 を求める請求についても、上記のとおり、スーパーインデックスの分類体系自体を編集著 作物ということができないものであり、また、スーパーインデックス部分を本文に掲載さ れたスクールの広告記事を素材とする編集著作物ととらえた場合であっても、理由がない。 すなわち、スーパーインデックスについては、スクールの名称等を掲載する順序としての 分類配列方針には創作性を認め得る。そして、原告各情報誌におけるスーパーインデック スは、当該情報誌の本文に掲載された個々の広告記事の掲載場所(掲載ページ)を示すた めのもの、すなわち広告記事を検索するための索引であるから、そこで素材とされている のは、当該原告情報誌に掲載されている広告記事であり(インデックスに記載されたスク ールの名称が広告記事を表すものであることは、当該スクール名と共に広告掲載ページが 記載されていることから明らかである。)、他方、被告各情報誌のカテゴリー別インデッ クスに記載されているスクールの名称は、当該被告情報誌に掲載されている広告記事を表 すものであるから、両者は素材を異にするものであり、編集著作物の著作権の侵害は生じ ない。  したがって、スーパーインデックス部分の著作権(編集著作物の著作権)の侵害を理由 とする損害賠償請求も理由がない。  (6) 原告は、原告各情報誌(平成14年4月号)に掲載されている原告通学アイコン 一覧表及び原告通信アイコン一覧表が編集著作物に該当すると主張する。  前記(2)において認定のとおり、原告通学アイコン及び原告通信アイコンは、モノクロ 情報ページ等に掲載された個々の広告記事中に付された、小さな矩形ないし楕円形中に短 い語句を記載したマークであって、スクールや講座の特徴や受講生の享受できるメリット を示すものである。原告通学アイコンは、例えば、「駅前」「シャワー完備」「駐車場有 り」「予約制」「土日OK」「給付制度対象」「月謝制」などであり、原告通信アイコン は、例えば、「スクーリング」「無料体験」「給付制度対象」「分割分納」などである。 そして、原告各情報誌平成14年4月号に掲載されている原告通学アイコン一覧表及び原 告通信アイコン一覧表は、前記各アイコンに説明を付し(例えば、「シャワー完備 シャ ワー設備のあるスポーツクラブなどにこのマークがついています。」「土日OK 土日も 開講しているレッスン・コースです。」「給付制度対象 厚生労働省教育訓練給付制度の 対象講座です。」など)、原告通学アイコンについては「スクール便利ポイント」(当該 スクールの立地条件、設備のほか、受講生が受けられるサービスに関するもの)、「特長 アイコン」(開講時間、受講制度、レベル、講師に関する事項等、 講座・コース独自の特徴、メリットに関するもの)及び「○得情報アイコン」(受講料の 支払い方法や、割引に関する特長・メリットに関するもの)の3つのカテゴリーに分類し、 原告通信アイコンについては「特長アイコン」及び「○得情報アイコン」の2つのカテゴ リーに分類して一覧表としたものである。  上記によれば、原告通学アイコン一覧表及び原告通信アイコン一覧表は、原告各情報誌 に掲載されている広告記事中に用いられているこれらのアイコンについて、まとめてその 意味を説明するいわば「凡例」であり、個別のアイコンを素材とする編集著作物ととらえ 得るとしても、上記各アイコン一覧表は、素材たるアイコンの選択又は配列において創作 性を認め得るものではないから、編集著作物と認めることはできない(さらにいえば、原 告各情報誌(平成14年4月号)に掲載されている原告通学アイコン一覧表及び原告通信 アイコン一覧表と、別紙「雑誌目録」記載の被告各情報誌における通学アイコン一覧表及 び通信アイコン一覧表を比較すると、アイコンの個数、種類及び名称並びにその配列の順 序は完全に一致するものではなく、異なる部分も存在するものであるから、両者を類似す ると直ちに認めることはできないのであり、この点からも原告の主張は失当である。甲1 ないし5、12ないし14、22ないし24、36ないし38、50ないし52)。  原告は、原告通学アイコン一覧表及び原告通信アイコン一覧表がいずれも編集著作物に 該当すると主張して、これと同様のアイコン一覧表を掲載した情報誌の製作・発売等の差 止めを求めているが(第1「原告の請求」第7項、第8項)、これらの請求はその前提を 欠くものであり、理由がない。  また、原告通学アイコン一覧表及び原告通信アイコン一覧表の著作権(編集著作権)の 侵害を理由とする損害賠償も理由がない。 2 原告各情報誌(平成14年4月号)の分野別モノクロ情報ページについての被告によ る著作権(編集著作物の著作権)侵害の有無(争点(1)関係)  (1) 前記1(3)(4)において説示したとおり、原告各情報誌(平成14年4月号)の分 野別モノクロ情報ページ部分は、広告主から出稿されたスクール情報・講座情報を内容と する個々の具体的な広告記事を素材としてとらえる限りにおいては、編集著作物に該当す るものである。  そこで、被告が別紙「雑誌目録」記載の被告各情報誌を製作して販売したことにより、 原告の上記分野別モノクロ情報ページの著作権(編集著作物の著作権)を侵害したかどう かを検討する。  (2) 前記「前提となる事実関係」(前記第2、1)に証拠(甲1ないし5、12ない し14、22ないし24、36ないし38、50ないし52)及び弁論の全趣旨を総合す ると、別紙雑誌目録1の(1)ないし(15)、同目録2の(1)ないし(10)、並びに同目録3の(1) ないし(10)記載の被告各情報誌は、様々な分野のスクール情報・講座情報を掲載したスク ール情報誌であること、上記の被告各情報誌のカテゴリー別スクール情報の部分は、カラ ー印刷で構成され、被告が被告の広告主からスクール情報・講座情報を記載した広告記事 の出稿を受けて掲載していることが認められる。  原告各情報誌(平成14年4月号)の分野別モノクロ情報ページと上記被告各情報誌の カテゴリー別スクール情報とを比較すると、編集著作物たる原告分野別モノクロ情報ペー ジの素材は、前記のとおり、広告主から出稿されたスクール情報・講座情報を内容とする 個々の具体的な広告記事である。他方、被告カテゴリー別スクール情報は、同様に、広告 主から出稿されたスクール情報・講座情報を内容とする個々の具体的な広告記事を素材と してとらえる場合には、編集著作物に該当するものである。両者を比較すると、原告分野 別モノクロ情報ページが、原告が自己の広告主から出稿を受けた広告記事を素材とするも のであるのに対して、被告カテゴリー別スクール情報は、被告が自己の広告主から出稿を 受けた広告記事を素材とするものであり、素材を異にするものである。すなわち、原告及 び被告はいずれも広告主からの広告記事の出稿を待って上記の各情報ページの編集を行う ものであり、広告主に対して広告掲載の依頼を強制することはできないし、また、広告主 から出稿された広告記事は例外的な場合を除いて必ず情報誌に掲載するものであるから、 素材の選択において原告ないし被告の意思が関与する余地はなく、広告主のすべてが一致 しているものでもない(前掲各証拠によれば、例えば、原告各情報誌平成14年4月号と 被告各情報誌平成15年5月1日号の間においては、掲載される広告記事のスクール名が それぞれ4割ないし5割程度しか一致していない。)。また、同じ広告主から出稿された 広告記事であっても、具体的な広告記事の内容は異なるものである(被告各情報誌は、い ずれも原告各情報誌(平成14年4月号)に後れて製作・発売されたものであり、広告記 事の内容は異なる。)。そうすると、素材を異にする以上、被告カテゴリー別スクール情 報が原告分野別モノクロ情報ページの著作権(編集著作物の著作権)を侵害することはな い(なお、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告分野別モノクロ情報ページにおけ る広告記事の分類・配列方法のうち、ツメ見出しについては、原告各情報誌は19分類で あるのに対して被告各情報誌は22分類であって分類数が異なるほか、分類名のうち異な るものがあり、配列方法もすべてが同一ではなく、また、原告が大分類(ツメ見出し)と 小分類(カプセル)の2段階分類による配列を行っているのに対して、被告は1段階分類 による配列を行っているものであって、配列についても直ちに類似していると認めること はできないから、この点からしても、原告の主張は採用できない。)。  したがって、分野別モノクロ情報ページの著作権(編集著作物の著作権)の侵害を理由 とする損害賠償請求は、理由がない。 3 争点(7)(一般不法行為の成否)について  原告は、仮に被告各情報誌の製作、発売等が原告各情報誌の著作権侵害に該当しないと しても、被告は、被告各情報誌の編集において、原告各情報誌のカプセル体系を模倣し、 アイコン一覧表及びアイコンによりスクール・講座の特徴を表示するというアイデアを模 倣し、レイアウトを模倣し、ウェブサイトの利用方法についても模倣しているのであって、 このような模倣行為は、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上 の利益を奪うものとして一般不法行為(民法709条)に該当する旨を主張する。  しかしながら、一般に、市場における競争は本来自由であるべきこと、自由な言論活動 はできる限り保障されるべきであることに照らせば、著作権侵害行為に該当しないような 情報誌の編集・発行行為については、当該行為がことさらに相手方に損害を与えることの みを目的としてなされたような特段の事情が存在しない限り、民法上の一般不法行為を構 成することもないというべきである。  本件においては、このような特段の事情が存在することは証拠上認められないものであ り、加えて、前記1及び2において説示したとおり、原告各情報誌と被告各情報誌の間で は掲載される広告記事のスクール名がそれぞれ4割ないし5割程度しか一致していない上、 広告記事の分類配列方法についても完全に一致しているものではなく、アイコンの個数、 種類及び名称並びにその配列の順序も完全に一致しておらず、証拠(甲1ないし5、12 ないし14、22ないし24、36ないし38、50ないし52)によれば、情報誌全体 におけるカラーページの割合、全体的構成や主要ページのレイアウトも異なる印象を与え るものであるから、これらの事情に照らせば、被告による被告各情報誌の製作・販売等が 一般不法行為を構成する旨の原告の主張は、到底採用できない。  したがって、一般不法行為を理由に損害賠償を求める原告の請求も理由がない。 4 結論  以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は、いずれも理由が ない。  よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 三村 量一    裁判官 大須賀寛之    裁判官 松岡 千帆