・東京地判平成16年6月18日判時1881号101頁  NTTリース事件  原告(アイビックス株式会社)は、被告NTTリース(エヌ・ティ・ティ・リース株式 会社)は、財団法人電気通信共済会(訴外財団)(テルウェル)に対してのみ再使用許諾 を行い得るという条件で、原告から本件各プログラム著作物の使用許諾を受けたにもかか わらず、原告に無断で被告ビリングソリューション(エヌ・ティ・ティ・コムウェア・ビ リングソリューション株式会社)に使用許諾を行い、被告ビリングソリューションにこれ らのプログラムを使用させたとして、被告らに対して著作権(貸与権)侵害を理由とする 損害賠償(1次的請求)、被告NTTリースに対して使用許諾契約違反を理由とする債務 不履行に基づく損害賠償、被告ビリングソリューションに対して使用許諾契約に対する積 極的債権侵害の不法行為に基づく損害賠償(2次的請求)、被告NTTリースに対して不 当利得返還請求(3次的請求)を行った。  判決は、「被告NTTリースは、訴外財団以外の者に対して原告の承諾を得ないで貸与 することを禁止されている本件各プログラムにつき、原告の承諾を得ないまま、被告ビリ ングソリューション、東北通信及びテルウェル西日本……に貸与したものと認められ、原 告の本件各プログラムの貸与権(著作権法26条の3)を侵害したものということができ る」、また「被告NTTリースが本件権利義務譲渡契約を承認し、被告ビリングソリュー ションに対して本件各プログラムをリースした行為は、債務不履行にも該当する」として、 損害賠償請求を肯定した。 ■評釈等  金子敏哉・ジュリスト1304号184頁 ■争 点 (1)本件各プログラムに著作物性が認められるか(争点(1)) (2)被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの使用は、本件各使用権設定 契約による原告の許諾の範囲内であったか。 (3)被告らによる著作権侵害(貸与権侵害、複製権侵害、譲渡権侵害)が成立するか。 (4)被告らの行為につき債務不履行ないし一般不法行為が成立するか (5)原告の損害 (6)不当利得が成立するか。 ■判決文 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件各プログラムに著作物性が認められるか)について (1)前記前提となる事実関係(第2、1)に証拠(甲1ないし6、8及び9、17、1 8、20、21、25、乙1ないし8)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認 められる。 ア 本件各プログラムは、NTTにおける料金請求書発行業務において使用されるもので あり、あるフォーマットで記録されている情報を、別のフォーマットに変換するために利 用する、ファイル形式変換のためのプログラムである。  イ NTTでは、料金請求業務に「料金業務総合システム」(通称「CUSTUM」。以 下「カスタム」という。)と「企業料金総合システム」(通称「PRIME」。以下「プ ライム」という。)の2種類のコンピュータシステムを使用していたが、これらから出力 される通話料金の電話番号別等の内訳データをフロッピーディスク等の媒体に記録して提 供するサービスを行うようになった。そして平成6年ころ、NTTは、このサービスに使 用するための「高速媒体変換装置」を導入することとしたものであるが、本件各プログラ ムはこの「高速媒体変換装置」に格納されていたプログラムである。 ウ まず、本件プログラム1は、カスタムに対応したもので、磁気テープ(MT)媒体に 記録された通常の通話明細情報をフロッピーディスクのフォーマット形式で出力する機能 を有するものであり、本件プログラム2は、本件プログラム1をバージョンアップしたも のである。 エ 次に、本件プログラム3は、プライムに対応したものであり、同じく磁気テープ媒体 に記録された大口の割引明細情報をフロッピーディスクのフォーマット形式に出力する機 能を有するものであり、本件プログラム4ないし6、8及び9は、それぞれ本件プログラ ムをバージョンアップしたものである。 オ 原告は、訴外財団を含むNTTグループの関係者とも協議を行った上、本件各プログ ラムの仕様を決定し、プログラムを完成させた上、NTT料金センタ内にあるハードウェ アにインストールした。ただし、本件各プログラムのソース・コードは原告が保有してい る。 カ 本件各プログラムの注文書を発行した被告NTTリースは、本件各プログラムのリー ス期間中の使用権取得の対価として、本件プログラム1につき約2156万円(消費税は 除く。以下同じ)、本件プログラム2につき3192万円、本件プログラム3につき約9 235万円、本件プログラム4につき756万円、本件プログラム5につき6352万円、 本件プログラム6につき約1019万円、本件プログラム8につき2940万円、本件プ ログラム9につき2860万円とする注文書を作成して、それぞれ原告に対して発注した。 (2)以上認定の各事実によれば、本件各プログラムが、単なる模倣であるとかありふれ た表現であるということができないことは明らかであり、本件各プログラムには創作性が 認められるというべきである。したがって、本件各プログラムは著作物性を有するものと 認められる。 2 争点(2)(被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの使用は、本件各 使用権設定契約による原告の許諾の範囲内であったか)について (1)前記前提となる事実関係(第2、1)に証拠(甲1ないし6、8及び9、20、2 1、25、乙1ないし8、32、37ないし42、45ないし47、丙1ないし6)及び 弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。 ア 本件各使用権設定契約に係る注文書等においては、冒頭に「使用権設定者が使用者に 使用を許諾することにした、下記プログラム・プロダクトの非独占的使用権をリース契約 の対象とするため、下記条件にてご注文申し上げますので(以下略)」との記載があり、 本件各プログラムの使用者としては、訴外財団のみが記載されている。また、「取引条件」 欄の第10項においては、「使用権取得者は、使用者とのリース契約の継続が困難と認め たときは、使用権設定者と協議のうえプログラム・プロダクトの使用者を変更することが できるものとします。」との記載があり、被告NTTリースにおいて使用者の変更をする には原告との協議を要するものとされている。 イ 本件各プログラムは、NTTの料金請求書発行業務に必要なものとして、平成6年こ ろ、NTTソフトウェア本部において導入が検討されるようになったものであるが、同本 部(平成9年9月1日に訴外コムウェアが営業を引き継いだ後は、訴外コムウェア)では、 原告にプログラムの開発を行わせることとし、原告を含む関係者との間でプログラムの仕 様等についての協議を重ねた。このような協議の結果を踏まえ、原告において、順次本件 各プログラムを開発したものである。なお、NTTの料金請求書発行業務は、訴外財団が NTT(訴外コムウェア設立後は訴外コムウェア)から委託を受けて行っていたため、プ ログラムの仕様に関する協議には訴外財団の担当者が同席することもあったし、原告にお いても、訴外財団が本件各プログラムの現実の使用者となるものと認識していた。 ウ 本件各プログラムは、NTTの料金センタ内のコンピュータにインストールされ、N TTの料金請求書発行業務において用いられていたものであるが、NTTの料金請求書発 行業務は、訴外財団がNTT(訴外コムウェアへの営業譲渡後は訴外コムウェア)から一 手に委託を受けて行っていたものであり、本件各使用権設定契約当時において、訴外コム ウェアを含め訴外財団以外の者がこの業務を行うことは、現実には想定されていなかった。 エ 被告ビリングソリューションは、訴外コムウェアの100パーセント子会社であり、 平成13年4月1日に訴外コムウェアから営業譲渡を受けて料金請求書発行業務を行うよ うになったものであるが、訴外コムウェア自身は、訴外財団に料金センタ内における料金 請求書発行に関する事務をすべて委託しており、自ら料金請求書発行に関する実際の事務 を行っていたわけではなかった。そして、本件権利義務譲渡契約後、NTT料金センタ内 で実際に作業に当たることになったのは、訴外財団から被告ビリングソリューションに転 籍した者及び訴外財団の時代から同財団の履行補助者として業務を行っていた協力会社で あった。 オ 本件各使用権設定契約において定められた本件各プログラムのリース期間中の使用権 取得の対価は、本件プログラム1が2156万2500円(消費税は除く。以下同じ)、 本件プログラム2が3192万円、本件プログラム3が9235万4400円、本件プロ グラム4が756万円、本件プログラム5が6352万円、本件プログラム6が1018 万600円、本件プログラム8が2940万円、本件プログラム9が2860万円である。 (2)上記認定の各事実を総合すれば、本件各使用権設定契約において、原告は、被告N TTリースに対し、使用者すなわち貸与の相手方を訴外財団だけに限定して使用権を設定 し、原告の承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じていたものであること、 被告NTTリースが原告の承諾を得ないで訴外財団から被告ビリングソリューションに使 用者を変更したことは上記の被告NTTリースに対して契約上設定された使用権の範囲を 超えるものであったことが、それぞれ認められる。 (3)上記の認定に対し、被告らは、本件各使用権設定契約が締結され、本件各プログラ ムが導入されるに至った経緯及び本件各プログラムの実際の使用状況に照らすならば、訴 外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更することは、本件各使用権設定契 約において原告と協議を要するとされている「使用者の変更」には当たらないというべき であるし、仮に、これが原告との協議を要する「使用者の変更」に当たるとしても、原告 は黙示的にこれを承諾していたことは明らかである旨を主張する。そこで、被告らの同主 張について検討する。 ア まず、訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者が変わったことは本件各使 用権設定契約にいう「使用者の変更」に当たらないとの主張について検討するに、前記前 提となる事実に記載したとおり、契約書(注文書及び注文請書)上においては「使用者」 が明確に訴外財団と指定されているところであって、被告ビリングソリューションへの使 用者の変更は例外とするというような扱いをうかがわせるような記載は認められない。ま た、本件全証拠によっても、原告と被告NTTリースとの間で、本件各使用権設定契約と は別に、被告ビリングソリューションへの使用者の変更については承諾を要しないものと する旨の合意があった事実を認めることもできない。  なるほど、本件各プログラムはNTTの料金請求書発行業務の処理のために開発された ものであり、NTTの料金請求書発行業務の委託先に変更があったことに伴い、被告NT Tリースが原告から提供を受けた本件各プログラムの使用者を変更したものであるが、本 件各使用権設定契約当時、訴外財団以外の者がこの業務を行うことは全く想定されておら ず、訴外財団は公益法人であって、被告ビリングソリューションは訴外財団とは全く別個 の法人であるから、この点からしても、本件各プログラムの使用者の変更が、本件各使用 権設定契約における「使用者の変更」に当たらないということはできない。  上記のとおり、この点についての被告らの主張を採用することはできない。 イ 次に訴外財団から被告ビリングソリューションへの使用者の変更を原告は黙示的に承 諾していたとの主張について検討する。  上記(1)認定の事実及び証拠(乙37ないし42、45ないし47)によれば、本件 各プログラムの開発に当たっては、原告はNTTソフトウェア本部や訴外コムウェアを含 む関係者との間で打合せを行ったり、これらの者に対して見積書等を発行したこと、本件 各プログラムはNTTの料金センタ内に設置されたシステムにインストールされていたが、 そこでは訴外財団の作業員のほか訴外財団の履行補助者である協力会社の作業員も作業に 当たっていたこと、本件権利義務譲渡契約後においては、訴外財団から被告ビリングソリ ューションに転籍した従業員及び協力会社の作業員が作業を行うようになったこと、原告 は本件各プログラムのメンテナンスのためNTT料金センタを訪れる機会があったこと、 原告は本件各プログラムの高性能化に関する提案を訴外コムウェアに対して行ったことと いう事実を認めることができるが、これらの証拠によって認められる諸事情を総合しても、 原告が被告ビリングソリューション(及びその前身の訴外コムウェア)が使用者となるこ とを黙示的に承諾していた事実を認めることはできない。かえって、本権利義務譲渡契約 の後である平成13年10月ころになって、被告NTTリースから原告に対して被告ビリ ングソリューションに業務が移管された事実を通知している事実(甲11、12)が認め られるところであって、これらの事実も合わせて考慮するならば、黙示の承諾が存在した と認めることはできない。 (4)被告らは、さらに、被告NTTリースと訴外財団の間に締結された本件各リース契 約は、いわゆるファイナンスリース契約であるところ、ファイナンス・リース契約におい ては、リース会社が物件取得のために投下した費用の回収を確実なものとするため、必要 に応じてサプライヤの個別の承諾なくユーザを変更することができるのは当然のこととさ れているとし、原告は本件各プログラムがファイナンスリースの対象とされることを知り ながら使用権を設定したのであるから、本件各使用権設定契約においては、被告NTTリ ースが原告の個別の承諾なく使用者を変更できることが当然の前提とされていたと主張す る。  しかしながら、被告NTTリースが訴外財団と締結する契約がファイナンスリース契約 であるかどうかという点と、原告が被告NTTリースに対して本件各プログラムにつきど のような条件の使用権を設定したかという点は、必然的に結び付くものではないから、被 告らの上記主張は、まずこの点において首肯することができない。そして、原告と被告N TTリースとの間において、リース会社がサプライヤの許諾なく自由にユーザを変更する ことができることを前提として本件各使用権設定契約が締結されたことを認めるに足りる 事情も存在しない。したがって、結局、被告らの上記主張を採用することはできない。  なお、被告らは、本件各リース契約がファイナンスリース契約であることを強調してい るところ、たしかに、本件各リース契約がそのような性質を有する面があることは事実で あるけれども、本件において、リース対象物件である本件各プログラムを使用するユーザ は、個人情報や通信の秘密にも関わるNTTの通話料金請求書発行業務を行う者であり、 かつ現実にユーザとなっていたのは公益法人である訴外財団であって、本件各リース契約 が、リース会社である被告NTTリースの投下資本回収の必要性が生じた場合に、同被告 において自由にユーザを変更することを想定した契約であったとまでは、認めることがで きない。また、証拠(乙34ないし36)によれば、他のファイナンスリース業者(三井 事業リース株式会社、第一リース株式会社等)においても、プログラムのリースに関して は、リース業者が使用者(リース先)を変更する際には使用権設定者(著作権者)の承諾 を要するものとされているのであって、ファイナンスリースにおいて使用者(リース先) の変更が使用権設定者(著作権者)の承諾を要することなく行われるのが一般的な取扱い であったということもできない。 (5)以上のとおりであるから、被告らの上記主張はいずれも採用することができず、結 局、本件各使用権設定契約において、原告は、被告NTTリースに対し、使用者すなわち 貸与の相手方を訴外財団だけに限定して使用権を設定し、原告の承諾を得ないで訴外財団 以外の者に貸与することを禁じたものであり、被告NTTリースが原告の承諾を得ること なく訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更したことは、本件各使用権 設定契約による原告の許諾の範囲を超えるものであったと認められる。 3 争点(3)(被告らによる著作権侵害(貸与権侵害、複製権侵害、譲渡権侵害)が成 立するか)について (1)貸与権侵害について ア 前記前提となる事実関係(第2、1)及び前記2の認定説示に係る事実に加えて、証 拠(甲1ないし6、8ないし12、乙1ないし17)及び弁論の全趣旨を総合すれば、 〔1〕本件各使用権設定契約において、原告は被告NTTリースに対し、本件各プログラ ムの複製物の被告NTTリースからの貸与の相手方を訴外財団に限定し、原告の承諾を得 ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じる使用権の設定を行ったこと、〔2〕訴外 財団、被告ビリングソリューション及び被告NTTリースは、平成13年6月30日、本 件権利義務譲渡契約を締結し、同年7月以降、被告ビリングソリューションが本件各プロ グラムの複製物を使用するようになったこと、〔3〕訴外財団は、本件プログラム2に関 する一部のリース契約上の地位を本件権利義務譲渡契約の対象とはせずに、東北通信及び テルウェル西日本に譲渡したため、平成13年7月以降は東北通信及びテルウェル西日本 も本件各プログラムの複製物を使用するようになったこと、〔4〕被告NTTリースは、 上記〔2〕及び〔3〕のリース契約上の地位の譲渡について、原告の承諾を得ることのな いまま、これらを承認し、平成13年7月以降は被告ビリングソリューション、東北通信 及びテルウェル西日本からリース料を徴収していたことが認められる。 イ 以上の各事実を総合すると、被告NTTリースは、訴外財団以外の者に対して原告の 承諾を得ないで貸与することを禁止されている本件各プログラムにつき、原告の承諾を得 ないまま、被告ビリングソリューション、東北通信及びテルウェル西日本(以下、この3 社を総称して「被告ビリングソリューション等」という。)に貸与したものと認められ、 原告の本件各プログラムの貸与権(著作権法26条の3)を侵害したものということがで きる。  したがって、被告NTTリースが被告ビリングソリューションに本件各プログラムを使 用させた行為につき貸与権侵害をいう原告の主張は、理由がある。 ウ 被告らは、この点に関し、著作権法26条の3に定める貸与権は、「公衆」に対する 提供を伴うことを要するものであり、訴外財団から被告ビリングソリューション等への貸 与先の変更は、「公衆」の要件を満たさないから、貸与権侵害は成立しないと主張する。  そこで判断するに、著作権法26条の3にいう「公衆」については、同法2条5項にお いて特定かつ多数の者を含むものとされているところ、特定かつ少数の者のみが貸与の相 手方になるような場合は、貸与権を侵害するものではないが、少数であっても不特定の者 が貸与の相手方となる場合には、同法26条の3にいう「公衆」に対する提供があったも のとして、貸与権侵害が成立するというべきである。  この点、本件のように、プログラムの著作物について、リース業者がリース料を得て当 該著作物を貸与する行為は、不特定の者に対する提供行為と解すべきものである。けだし、 「特定」というのは、貸与者と被貸与者との間に人的な結合関係が存在することを意味す るものと解されるところ、リース会社にとってのリース先(すなわちユーザ)は、専ら営 業行為の対象であって、いかなる意味においても人的な結合関係を有する関係と評価する ことはできないからである(被告ら自身、プログラム・プロダクトに関するファイナンス リース契約は、経済的にはユーザに対する金融であり、場合によっては、リース業者はリ ース目的物を換価したり他の者にリース契約を承継させるものであることを認めている。 前記第2、2(2)被告らの主張参照。)。  本件においては、被告ビリングソリューション、東北通信及びテルウェル西日本は、い ずれもNTTグループの企業であるにしても、リース業者である被告NTTリースとの関 係では単なるリース先(ユーザ)であるから、被告NTTリースが被告ビリングソリュー ション等に対して本件各プログラムを貸与した行為は、公衆に対する提供に当たり、原告 の貸与権を侵害するものというべきである。  仮に、被告らの主張するように、訴外財団と被告ビリングソリューション等との間に両 者を同一視できるような密接な関係があったとしても、それは、原告の承諾を得ないでリ ース先を変更することが本件各使用権設定契約違反とならない特段の事情が存在するとい う主張としてはともかく(本件においては、そのような特段の事情があるということはで きないが)、プログラムの貸与先であるリース先(ユーザ)が貸与者であるリース業者と の関係で「公衆」に該当することを否定する事情とは、なり得ないものである。  上記のとおり、被告ビリングソリューション等が著作権法著作権法26条の3にいう 「公衆」に該当しない旨をいう被告らの主張は、採用できない。 (2)共同不法行為について  原告は、被告NTTリースが被告ビリングソリューションに対して本件各プログラムを 使用させたことによる上記貸与権侵害については、被告ビリングソリューションによる共 同不法行為も成立すると主張する。  しかし、著作権法上、貸与行為について一定の行為が著作権(貸与権)侵害とされてい るにもかかわらず、被貸与者の行為について著作権侵害となる行為が規定されていないこ と、著作権法113条2項が、プログラム著作物の違法複製物の使用について、違法複製 物であることを知って複製物の使用権原を取得した場合に限って著作権侵害を構成するも のとしていることに照らせば、プログラム著作物について貸与権侵害行為が行われた場合 においても、被貸与者の行為が独自に著作権侵害を構成することはなく、ただ、被貸与者 において貸与者が権限なく貸与行為を行っていることを知りながら貸与を受けた場合につ き貸与者の行為に意を通じて加功したものとして、共同不法行為者としての責任を負う場 合があるにすぎない。  本件においては、本件全証拠を総合しても、被告ビリングソリューションにおいて、被 告NTTリースが本件各プログラムの複製物を貸与する権原を有していないことを知りな がら、訴外財団からリース契約上の地位の譲渡を受けたとまでは認められない。したがっ て、貸与権侵害につき被告ビリングソリューションが共同不法行為者としての責任を負う とする原告の主張は、採用できない。 (3)譲渡権、複製権侵害について  原告は、さらに、被告らは、本件各プログラムに関する原告の譲渡権又は複製権を侵害 した旨を主張する。しかしながら、本件全証拠によっても、本件各プログラムの原作品又 は複製物が譲渡され、あるいは複製された事実を認めることはできない。  したがって、譲渡権、複製権侵害を理由とする原告の請求は、理由がない。 4 争点(4)(被告らの行為につき債務不履行ないし一般不法行為が成立するか)につ いて (1)上記2において認定説示したとおり、本件各使用権設定契約において、原告は、被 告NTTリースに対し、使用者すなわち貸与の相手方を訴外財団だけに限定し、原告の承 諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じていたものであり、被告NTTリー スが原告の承諾を得ないで訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更した ことは上記の被告NTTリースに対して契約上設定された使用権の範囲を超えるものであ ったというべきである。したがって、被告NTTリースが本件権利義務譲渡契約を承認し、 被告ビリングソリューションに対して本件各プログラムをリースした行為は、債務不履行 にも該当することは明らかである。  原告は、上記債務不履行は被告ビリングソリューションと共同して行われたものである として、被告ビリングソリューションには第三者の債権侵害による不法行為が成立する旨 主張する。しかしながら、債権の帰属自体を侵害したり、給付義務を消滅させるような場 合を除き、債権者の債権の完全な実現を妨げたことが不法行為となるためには、少なくと も故意が必要であると解されるところ、本件全証拠によっても、被告ビリングソリューシ ョンにおいて、被告NTTリースから本件各プログラムのリースを受けた当時、かかるリ ースが本件各使用権設定契約に違反するものであるとの認識を有していた事実を認めるこ とはできない。したがって、被告ビリングソリューションについて、第三者の債権侵害に よる不法行為を主張する原告の請求には理由がない。 (2)また、原告は、訴外財団が本件各プログラムの使用を放棄した時点で、本件各使用 権設定契約は目的を達することができなくなって当然終了することになるから、その後に 行われた、被告NTTリースによる被告ビリングソリューションへのリースは、完全な無 権行為として、不法行為とも評価できると主張している。しかしながら、前記前提となる 事実関係(第2、1)記載のとおり、本件各使用権設定契約の条件10項では、協議を行 った上で使用者を変更することができる旨規定しているところであり、本件各使用権設定 契約は訴外財団以外の者が使用者となる事態も想定しているものであるということができ るから、訴外財団が本件各プログラムを使用しなくなったことにより本件使用権設定契約 が当然に終了することになるとは解されない。原告の上記主張は、採用できない。  5 争点(5)(原告の損害)について (1)被告NTTリースの貸与権侵害による損害額 ア 証拠(乙1ないし17、21、23、25、29、30。枝番号は省略。)及び弁論 の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 〔1〕被告NTTリースと訴外財団との間の本件各プログラムに関するリース契約におけ る月額リース料は、本件1リース契約(14ライセンス分)が41万7562円(消費税 相当額を含む。以下同じ。)、本件2リース契約(5ライセンス分)が63万3360円、 本件3リース契約(1ライセンス分)が191万1000円、本件4リース契約(1ライ センス分)が15万2460円、本件5リース契約(1ライセンス分)が123万837 0円、本件6リース契約(1ライセンス分)が33万7575円、本件8リース契約(1 ライセンス分)が58万0020円、本件9リース契約(1ライセンス分)が55万99 65円であること、 〔2〕遅くとも平成13年7月1日までに、被告ビリングソリューションは、本件1リー ス契約(2ライセンス分)、本件2リース契約(2ライセンス分)、本件3ないし6リー ス契約、本件8リース契約及び本件9リース契約(いずれも1ライセンス分)につきリー ス契約上の訴外財団の地位を承継し、本件各プログラムの使用を開始したこと、 〔3〕被告ビリングソリューションが承継した上記〔2〕の各リース契約に関しては、本 件1リース契約及び本件2リース契約が平成13年9月30日に、その余の本件リース契 約が同年11月30日に、それぞれ合意解約されたこと、 〔4〕被告ビリングソリューションが承継した上記〔2〕の各リース契約に係る本件各プ ログラムについては、上記〔3〕の合意解約前の同年8月31日に、本件1リース契約 (1ライセンス分)、本件2リース契約(1ライセンス分)及びその余の本件リース契約 (各1ライセンス)に係るプログラムがシステムから撤去された。 イ 本件において、原告は被告ビリングソリューションが本件各リース契約を承継した後 における同被告のリース料相当額を損害と主張しているところ、原告と訴外財団との間の 本件各リース契約におけるリース料(上記ア〔1〕)は本件各プログラムの使用権取得価 格を前提にして各月の使用料相当額に見合った額が算定されていると認められる(乙1な いし8、弁論の全趣旨)ことからすれば、上記アの事実関係の下においては、被告ビリン グソリューションがリース契約を承継した後、同契約が合意解約されるまで(ただし、合 意解約前にプログラムが撤去された分(上記ア〔4〕)については、撤去の日まで)の間 の上記リース料額をもって、貸与権侵害による損害額というべきである(著作権法114 条3項)。そうすると、この金額は、別紙損害額計算表のとおり、合計1034万127 0円となる。  そして、原告は、被告NTTリースの貸与権侵害に基づく損害につき、平成13年7月 1日以降支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めていると ころ、上記1034万1270円のうち、同年7月中に生じた損害509万2386円に ついては同年8月1日以降、同年8月中に生じた損害509万2386円については同年 9月1日以降、同年9月中に生じた15万6498円については同年10月1日以降の遅 延損害金の支払いを求める請求は理由がある。 ウ 損害額につき、被告NTTリースは、リース料はリース契約から生じるものであって、 リース物件の使用と対価関係に立つものではないから、リース料収入が著作権侵害行為に よって得た利益ということはできないと主張するが、上記のとおり、原告と訴外財団との 間の本件各リース契約におけるリース料(上記ア〔1〕)は本件各プログラムの使用権取 得価格を前提にして各月の使用料相当額に見合った額が算定されていると認められるから、 本件各プログラムの使用料相当額(著作権法114条3項)の算定に当たって同リース料 額を参酌することは妨げられないというべきである。  他方、原告は、各リース契約承継後、合意解約されるまでの期間に被告ビリングソリュ ーションから被告会社NTTリースに支払われたリース料額合計額と被告ビリングソリュ ーションから被告NTTリースに支払われた本件各リース契約の中途解約金9855万8 460円が、被告NTTリースが貸与権侵害により得た利益として、原告の損害と推定さ れる(同法114条2項)と主張する。しかしながら、被告ビリングソリューションが承 継したリース契約のプログラムのうち、合意解約前にプログラムが撤去された分(上記ア 〔4〕)については、撤去後も合意解約までの期間リース料が支払われているにしても、 その期間についてはプログラムの貸与行為が行われていない以上、当該期間分に対応する リース料については著作権法114条2項の推定が及ばないというべきである。また、中 途解約金は、貸与物件の使用収益とは関係なく、リース契約上の中途解約に関する特約条 項に基づいて発生するものであって、しかも契約当事者が中途解約するかどうかは貸与権 侵害とは直接関係のないことであるから、被告NTTリースによる貸与権侵害行為と相当 因果関係の範囲にあるということができない。 (2)被告NTTリースの本件各使用権設定契約違反による損害  前記4において説示したとおり、被告NTTリースが本件各リース契約を被告ビリング ソリューションに承継させ、同被告に本件各プログラムを使用させた行為は、本件各プロ グラムの貸与権侵害に該当するとともに、本件各使用権設定契約違反の債務不履行にも該 当するものであるが、債務不履行により原告に生じた損害額(原告の逸失利益)は、上記 (1)の損害額を上回るものではない。 6 争点(6)(不当利得が成立するか。)について (1)被告NTTリースの不当利得について  被告NTTリースが本件各リース契約を被告ビリングソリューションに承継させ、同被 告に本件各プログラムを使用させた行為は、前記4、5において説示したとおり、本件各 プログラムの貸与権侵害に該当するとともに、本件各使用権設定契約違反の債務不履行に も該当するものであるが、仮にこの行為に基づき不当利得が成立し得るとしても(請求権 競合)、原告の損失額は、前記4、5において認定した損害額と同額というべきであるか ら、同被告に対する不当利得返還請求権は、前記4、5における損害賠償請求権の額を上 回るものではない。 (2)被告ビリングソリューションの不当利得について  原告は、被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの使用が不当利得に該当 すると主張し、使用期間分のロイヤルティ相当額を請求している。  前記3において説示したとおり、被告NTTリースが本件各リース契約を被告ビリング ソリューションに承継させ、同被告に本件各プログラムを使用させた行為は本件各プログ ラムの貸与権侵害に該当するものであるから、被告ビリングソリューションは法律上の権 原なくして本件各プログラムを使用して利益を得たものであり、原告は同被告が本件各プ ログラムの貸与を受けて使用していた期間につき使用料相当額の損失を被ったものという べきであるから、上記5において認定した損害額(使用料相当額)と同額につき、被告ビ リングソリューションは不当利得を得たものというべきである(被告ビリングソリューシ ョンが被告NTTリースにリース料を支払ったことは、不当利得の発生を否定する事情と はならない。)。  原告は、被告ビリングソリューションの不当利得につき、付帯請求として年6分の金員 を請求しているが、不当利得返還請求権の遅延損害金については、法定利率を適用すべき 理由がないので、年5分の割合によるべきものである。また、被告ビリングソリューショ ンの不当利得返還債務は、被告NTTリースの損害賠償債務(ないし不当利得返還債務) と、不真正連帯の関係に立つものである。 7 結論  以上によれば、原告の本訴請求については、被告らに対して、連帯して1034万12 70円及び被告ビリングソリューションにつき、これに対する平成15年12月18日 (請求拡張に係る原告準備書面(11)の同被告に対する送達の日の翌日)から、被告N TTリースにつき、うち509万2386円に対する同年8月1日から、うち509万2 386円に対する同年9月1日から、うち15万6498円に対する同年10月1日から、 各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する限度において理由がある。  よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 三村 量一    裁判官 松岡 千帆 裁判官大須賀寛之は、転任のため、署名押印できない。 裁判長裁判官 三村 量一