・東京地判平成16年6月25日〔LEC出る順シリーズ事件〕  原告は、原告イラストにつき、著作者として著作権を有する。被告1(有限会社本間デ ザイン事務所)は、被告イラストを製作し、被告2(株式会社東京リーガルマインド)は、 被告各イラストのいずれかを、『出る順宅建〈2000年版〉試験に出た!宅建過去問集』等 の出る順シリーズの各書籍の表紙および表紙カバーに使用して、本件各書籍を発行した。  原告は、被告各イラストが、原告各イラストの複製物ないし翻案物であるとして、著作 権ないし著作者人格権に基づき、被告LECに対して本件各書籍の一部の出版等の差止め を求めるとともに、被告らに対し、損害賠償および謝罪広告の掲載を求めた。  判決は、被告イラストは原告イラストの翻案に当たるとして、著作権および同一性保持 権の侵害を肯定し、被告らの過失を認めた上で、差止および損害賠償の請求を認容した。 ■判決文 第5 当裁判所の判断 1 著作権侵害の成否  本件において、原告各イラストと被告各イラストの類否等を判断するに当たり、まず、 原告イラスト1と被告イラスト1について検討する。 (1)原告イラスト1と被告イラスト1について ア 争点1(依拠性の有無) (ア)証拠(乙3、丙9、12)及び弁論の全趣旨によれば、被告イラスト1の作成経緯 について、被告本間デザイン主張のような事実が認められる(なお、丙12には、被告各 イラストの中で最初に完成したのが被告イラスト3であった旨が記載されているが、弁論 の全趣旨(第4回弁論準備手続において陳述された平成15年8月25日付準備書面(2)) によれば、Gがコンペのために最初に製作したのは被告イラスト1であったと認められ、 その後、実際に販売する書籍の表紙として最初に完成したものが被告イラスト3であった と推認される。)。  他方、証拠(甲1、5の1、8の1、20の1)によれば、次のような事実が認められ る。 a 原告イラスト1の形状について  原告イラスト1は、次のような特徴を有する。  全体として、立体の木彫製の人形が、左手で立体の家を肩の高さに持ち上げている状態 のものを写真で撮影したもので、人形は、肌色一色で目、鼻、口等の書き込み等細部を省 略してデフォルメされ、うっすら木目が見えており、胴体部分、脚及び腕が下に行くほど 太くなるA型の体型で、頭が小さな球状で、脚及び腕が人形の背丈の約2分の1ほどの長 さで、手足は頭より大きいひしゃげた球状をしている。上半身を中心線から右側にやや下 を向くように傾け、右腕は自然に下方に下がっており、左腕は肘を曲げて手のひらを真上 に向けて肩の高さで物を持ち上げるポーズをしており、脚は、左脚を腰から地面に向けて まっすぐ伸ばしてこれを軸足にして右脚を開くような姿勢をしている。左手の上に三角屋 根と格子状の青色の窓が施され、鮮やかなパステルカラーで着色された家が複数配置され、 手のひらのすぐ上に配置された2つの家の屋根の稜線部分に支えられるように別の家が載 っている。左斜め上にライティングを施し、人体及び人体の左手の上の家の右側部分に影 を作るように撮影されている。 b 被告イラスト1の形状について  被告が最初に作成した被告イラスト1は、次のようなイラストである。  全体として、一見しただけでは素材が不明な人形が、左手で立体の家を肩の高さに持ち 上げている状態のものを写真で撮影したもので、人形は、肌色一色で目、鼻、口等の書き 込み等細部を省略してデフォルメされ、胴体部分、脚及び腕が下に行くほど太くなるA型 の体型で、頭が小さな球状で、脚及び腕が人形の背丈の約2分の1ほどの長さで、手足は 頭より大きいひしゃげた球状をしている。上半身を中心線から右側にやや上を向くように 傾け、右腕は肘を曲げて腰にあて、左腕は肘を曲げて手のひらを真上に向けて肩の高さで 物を持ち上げるポーズをしており、脚は、両脚を開くような姿勢をしている。左手の上に 三角屋根と格子状の青色の窓が施され、鮮やかなパステルカラーで着色された家が複数配 置され、手のひらのすぐ上に配置された1つの家の屋根の稜線部分に支えられるように別 の家が載っている。左斜め上にライティングを施し、人体及び人体の左手の上の家の右側 部分に影を作るように撮影されている。 (イ)原告イラスト1と被告イラスト1の対比  上記によれば、原告イラスト1と被告イラスト1は、次のような点で共通する。すなわ ち、全体として、立体の人形が、左手で立体の家を肩の高さに持ち上げている状態のもの を写真で撮影したものである点、人形は、肌色一色で目、鼻、口の書き込み等細部を省略 してデフォルメされ、胴体部分、脚及び腕が下に行くほど太いA型の体型をしており、頭 が小さな球状で、脚及び腕が人形の背丈の約2分の1ほどの長さで、手足は頭より大きい ひしゃげた球状をしていること、上半身が中心線から右側に傾き、左腕の肘部分を曲げて 手のひらを真上に向けて肩の高さで物を持ち上げるポーズをしていること、左手の上に三 角屋根と格子状の青色の窓が施された複数の家が配置され、手のひらのすぐ上に配置され た家の屋根の稜線部分に支えられるように別の家が載っていること、左斜め上にライティ ングを施し、人体及び人体の左手の上の家の右側部分に影を作るように撮影されているこ と等の点において共通である。  他方、原告イラスト1と被告イラスト1とは、次のような点で相違する。すなわち、原 告イラスト1は、人形が木彫製で木目がうっすら見えており、人形の上半身がやや下を向 くように傾き、右腕は自然に下方に下がっており左脚を腰から地面に向けてまっすぐ伸ば してこれを軸足にして右脚を開くような姿勢をしており、左手の上に配置された家が3つ であるのに対して、被告イラスト1は、人形が一見しただけでは素材が不明であり、人形 の上半身がやや上を向くように傾いており、右腕は肘を曲げて腰にあて、両脚を開くよう な姿勢をしており、左手の上に配置された家が2つである等の相違点がある。 (ウ)上記の認定事実に前記「前提となる事実」(前記第2、2)記載の事実を総合すれ ば、Gは、原告イラスト1に依拠して被告イラスト1を製作したものというべきである。  すなわち、原告イラスト1と被告イラスト1は、人形が木彫製であるか否か、上半身の 傾き方や脚の開き方、右腕の格好、左手上の家の数等の点で相違が見られるものの、A型 の体型にデフォルメされた人形が左手で肩の高さに家を持ち上げている全体的な構図のみ ならず、人形の手のひらの上の家が複数であり、手のひらのすぐ上に配置された家の屋根 の稜線部分に支えられるように別の家が載っているという構図や、人形を肌色一色にした 上、手のひらの上の家を三角屋根にし、窓を青色の格子状にし、鮮やかなパステルカラー で着色するなどの具体的な表現方法を含む多くの点で共通しており、このような一致は偶 然によるものとは考え難い。また、乙3から認められる被告イラスト1の作成経緯は、G が原告イラスト1に依拠して被告イラスト1を作成したとする認定と矛盾するものではな い。 イ 争点2(類否について) (ア)証拠(甲1、5の1ないし3、8の1、20の1)及び弁論の全趣旨によれば、原 告イラスト1及び被告イラスト1の形状は、前記ア(ア)記載の事実のとおりであり、原 告イラスト1と被告イラスト1の共通点、相違点は、前記ア(イ)記載のとおりであるか ら、これを前提として、被告イラスト1と原告イラスト1の類否を判断する。 (イ)原告イラスト1と被告イラスト1の共通点のうち、立体の人形を左斜め上にライテ ィングを施して撮影する表現方法、人形を、頭や手足を球状ないしひしゃげた球状にして デフォルメする表現方法、人形に物を持たせる表現方法等は、美術の著作物としてありふ れた表現方法であって、かかる点が共通していることのみをもって被告イラスト1が原告 イラスト1に類似しているということはできない。しかしながら、人形を肌色一色で表現 した上、人形の体型をA型にして手足を大きくすることで全体的なバランスを保ち、手の ひらの上に載せた物が見る人の目をひくように強調するため、左手の手のひらを肩の高さ まで持ち上げた上、手のひらの上に載せられた物を人形の半身程度の大きさに表現すると いう表現方法は、原告の思想又は感情の創作的表現というべきであり、原告イラスト1の 特徴的な部分であるということができる。  そして、被告イラスト1は、このような原告イラスト1の創作的な特徴部分を感得する ことができるものであるから、原告イラスト1に類似するものというべきである。したが って、被告イラストにおいて、人形の材質、上半身の傾き方、右腕の格好、脚の開き方、 左手の上の家の数等の具体的表現において、独自の表現を加えている点を考慮してもなお、 被告イラスト1は原告イラスト1の翻案物に該当すると認めるのが相当である。  この点について、被告らは、原告イラスト1の人形は、人体のデフォルメとしてありふ れており、ポーズも燈籠鬼のポーズとして一般的なものであると主張するが、被告ら提出 の証拠(乙2の1ないし6、4ないし6、丙2ないし8)には、人体をデフォルメすると いうアイディアが共通するイラストが掲載されているにすぎず、原告イラスト1と同様の 表現は見当たらない。また、燈籠鬼(乙1)と原告イラスト1とでは、上半身を中心線か ら右側にやや下を向くように傾け、右腕を下方に下げ、左腕を肘を曲げて手のひらを真上 に向けて肩の高さで物を持ち上げるポーズをしており、左脚を腰から地面に向けてまっす ぐ伸ばしてこれを軸足にして右脚を開くような姿勢をしているという人物の基本的な姿勢 自体は、共通する点があるものの、それ以外の表現方法において異なっているものであり、 被告らの主張は当たらない。 (2)原告イラスト1ないし3と被告イラスト2ないし11について ア 争点1(依拠性について)  前記(1)記載の認定事実に前記「前提となる事実」(前記第2、2)記載の事実を総 合すれば、Gは、原告イラスト1に依拠して被告イラスト2ないし11を製作したものと いうべきである。  すなわち、前記(1)記載のとおり、Gは、原告イラスト1に依拠して被告イラスト1 の人形を作成し、この人形の左手の上の立体物を取り替えた上で写真撮影することによっ て被告イラスト2ないし11を製作しているものであり、被告イラスト2ないし11にお いて、全体の構成上その中心にあって表現上の中核部分を占める人形が原告イラスト1に 依拠して製作されたものである以上、被告イラスト2ないし11は、原告イラスト1に依 拠して製作されたものというべきである。 イ 争点2(類否について) (ア)証拠(甲1、5の1ないし3、8の1ないし11、20の1ないし3)によれば、 次のような事実が認められる。 a 原告イラスト1の形状について  原告イラスト1の形状については、前記(1)アa記載のとおりである。 b 被告イラスト2の形状について  被告イラスト2の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、紙を重ねた上に円弧を描く ように曲がった赤鉛筆が載ったものであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1) アb記載)と同一である。 c 被告イラスト3の形状について  被告イラスト3の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、入口及び窓を青色の格子状 に表したビルであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一で ある。 d 被告イラスト4の形状について  被告イラスト4の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、薄い緑色に着色した日本列 島であるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。 e 被告イラスト5の形状について  被告イラスト5の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、タンカー様の船舶であると いう点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。 f 被告イラスト6の形状について  被告イラスト6の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、高層ビルを中心とした都市 の一部であるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。 g 被告イラスト7の形状について  被告イラスト7の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、赤いハート及びこれに近接 して飛ぶ2羽の白鳩であるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と 同一である。 h 被告イラスト8の形状について  被告イラスト8の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、目及び口を付けた大きな緑 色のハート及び小さな赤いハートであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1) アb記載)と同一である。 i 被告イラスト9の形状について  被告イラスト9の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、青色に着色したスーツケー スであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。 j 被告イラスト10の形状について  被告イラスト10の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、モニター画面を青色に着 色した白色デスクトップ型パソコンであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1) アb記載)と同一である。 k 被告イラスト11の形状について  被告イラスト11の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、「合格のLEC」等と記 載された赤色の角を丸めた板状のパネルであるという点を除いて、被告イラスト1(前記 (1)アb記載)と同一である。 (イ)原告イラスト1と被告イラスト2ないし11の対比  上記(ア)における認定によれば、被告イラスト2ないし11は、左手の手のひら上に 載せた物がそれぞれ異なる点を除き、いずれも、被告イラスト1と同一の形状である。  上記によれば、被告イラスト2ないし11においては、いずれも全体の構成上その中心 にある人形が表現上の中核部分を占めるものと認められる。  また、原告イラスト1においても、同様に全体の構成上その中心にある人形が表現上の 中核部分を占めるものと認められるところ、両者を比較すると、既に原告イラスト1と被 告イラスト1との対比について述べたのと同様の理由により(前記(1)イ(イ)参照)、 類似するものと認められる。  そうすると、被告イラスト2ないし11は、いずれも全体の構成上その中心にあり表現 上の中核部分をなす人形部分が類似するものであるから、原告イラスト1に類似するもの であり、原告イラスト1の翻案物に該当すると認めるのが相当である。 (3)争点3(被告LECの故意過失の有無) ア 上記(1)(2)において認定したところによれば、被告本間デザインは、原告イラ スト1に依拠して、その翻案物である被告各デザインを製作したものであるから、原告デ サイン1の著作権及び著作者人格権の侵害につき故意又は過失のあることは明らかである が、被告LECは、故意過失を争うので、この点につき検討するに、証拠(甲7、10な いし13、18、乙3、丙9、12、13。枝番号は省略、以下同じ。)及び弁論の全趣 旨によれば、次の事実が認められる。 (ア)原告各イラストは、平成9年から被告イラスト1が製作された平成11年までの間 に、次のとおりポスター、パンフレット等に使用された。  平成9年には、原告イラスト1が藤和不動産のパンフレットに、原告イラスト2が東海 大学のPR誌に使用された。平成10年には、原告イラスト2があゆみ出版の書籍「受験 勉強のしかた」の表紙カバー、大学生協のチラシ、NTTデータ通信のパンフレットに使 用された。平成11年には、原告イラスト1がトヨタ自動車のポスター及びパンフレット に、原告イラスト2が角川書店のポスター、車内吊りポスター、装丁帯、カードに使用さ れた。 (イ)被告LECは、平成11年7月ころ、本件各書籍のシリーズのカバーデザインのコ ンペに際し、被告LECの従業員の知人であったGに参加を持ちかけ、Gは、被告イラス ト1を製作し、被告本間デザインは、これを同コンペに出品した。被告LECは、これを 本件各書籍のシリーズのカバーデザインとして採用し、被告各イラストを使用して本件各 書籍を販売等した。  被告LECは、被告本間デザインを含むコンペ参加者に対し、イラストあるいは写真は、 著作権フリーかオリジナルのものを使用するように述べた。  Gは、被告イラスト1の製作過程において、被告LECに対し、著作権に留意して製作 する旨述べるなど、作成経過を報告することがあった。  被告LECは、被告本間デザインから被告イラスト1の提出を受けた後、被告本間デザ インに対し、手の上のモチーフを軽々と持ち上げているようにしてほしい、堂々と胸をは っているようなイメージがよいなどと要望を述べ、被告本間デザインは、被告LECの要 望を容れて被告イラスト1を修正して完成させた。さらに、被告LECは、被告イラスト 2ないし11の左手の上の立体物のデザインについて「ビルに『○○商事』という看板を 付けてほしい」、「トランクの色をパステル調にし、軽い感じにしてほしい。ステッカー がベタベタ貼ってあるようにできたら望ましい」等の要望を述べることがあった。  被告LECの出版事業部担当者Kは、被告本間デザインの従業員が人形を紙粘土で作成 していることから、平面のデザインとは異なり、他人のデザインを簡単にコピーしてくる とは考えがたく、Gを信頼していたこともあって、被告各イラストは、被告本間デザイン が独自に製作したものと信じた。 (ウ)原告各イラストは、被告イラストが製作された後も、平成13年に、原告イラスト 1が日経ホーム出版の雑誌に、平成14年に、原告イラスト2が皇學館の学校案内に使用 された。 (エ)原告は、平成14年9月9日配達の内容証明郵便で、被告LECに対し、被告LE Cが原告各イラストを模倣改変したイラストを使用しているとして、同イラストを使用し た印刷物の販売・配付の中止及び問題のイラストをデザインした者の名称及び住所を明ら かにするよう求めた。被告LECは、原告に対し、問題のイラストは被告本間デザインに 委託して製作させたものであることを明らかにしたものの、被告各イラストを使用した書 籍の販売中止には応じなかった。  原告は、同月30日配達の内容証明郵便で、被告本間デザインに対し、問題のイラスト を使用しないよう警告し、同日配達の内容証明郵便で、被告LECに対し、問題のイラス トを使用した書籍の販売の中止を再度求めた。被告LECは、原告からの2度目の警告を 受け、Gに問い合わせたが、Gが問題ない旨を回答するとともに、グラフィックデザイナ ーであるLも自らと同意見である(具体的には「被告の作品が原告の作品を模作したもの か否かについて否定的な立場をとらざるを得ない」旨述べている。)と述べたことから、 被告各イラストを使用した書籍の販売を中止しないことにした。  原告は、被告らに対し、同年12月2日付内容証明郵便で3度目の警告をしたが、結局、 被告LECは被告各イラストを使用した書籍の販売を中止することはなかった。 イ 上記アにおける認定事実によれば、被告LECは、被告各イラスト製作当時、被告各 イラストが原告各イラストの著作権ないし著作者人格権を侵害するものであることを具体 的に認識していたとは認められない。  しかしながら、被告LECは、書籍の編集、出版等を業としている株式会社であり、そ の編集、出版する書籍が他人の著作権や著作者人格権を侵害することのないよう注意を払 う義務を負うものである。すなわち、書籍の編集、出版等に携わる者としては、自らが編 集ないし出版等を行う著作物について、当該著作物が自らが著作した物であるか、あるい は既に著作権の保護期間の満了したことが明らかな歴史的著作物であるような場合を除き、 第三者の著作権ないし著作者人格権を侵害する物に該当しないことを確認する義務を負う ものというべきである。  本件において、原告各イラストが、受験用参考書の表紙カバーや大学生協ないし企業の ポスター等に使用されていたこと、被告LECは、コンペを実施して被告本間デザインの 提案するイラストを採用するか否か決定する立場にあったものであり、被告本間デザイン に対し、イラストの製作について参考にした資料の提出を求める等必要な調査を行い得る 立場にあったことに照らせば、被告LECにおいて注意義務を尽くせば、被告イラスト1 と原告各イラストとの類似性について認識し得たものというべきである。  ところが、被告LECは、被告各イラスト製作について、被告本間デザインに対し、コ ンペ出品の条件としてレンタルポジは不可、著作権フリーのものは可、との条件を告げた に留まり、被告各イラストを書籍に使用するにあたって、第三者の著作権や著作者人格権 を侵害することのないように注意を払ったことを窺わせる事実は一切認められない。  この点、被告LECは、美術の著作権について素人なのであるから、専門家である被告 本間デザインに製作を委託した以上、被告LECには特段の事情がない限り、自らその編 著、出版する書籍に使用するイラストが他人の著作権や著作者人格権を侵害することのな いよう注意を払う義務を負うものではないし、そのような注意を払うことは不可能である 旨主張する。しかしながら、書籍の編著、出版には、言語の著作物だけでなく、美術の著 作物をも使用するのが通常であり、書籍の編著、出版を業とする被告LECが、美術の著 作物について著作権等を侵害することのないよう注意を払う義務を負わないということは できない。特に、本件においては、前記のとおり、被告LECは、コンペを実施して被告 本間デザインの提案するイラストを採用するか否か決定する立場にあったものであり、実 際、被告本間デザインに対し、デザインの要望を述べるなどしているのであって、被告本 間デザインに対し、イラストの製作について参考にした資料の提出を求める等必要な調査 を行い得る立場にあったというべきである。 2 同一性保持権侵害の有無(争点4)  前記1(1)ア(ア)(イ)、同イ(ア)(イ)、前記1(2)ア、同イ(ア)(イ) 記載の認定事実を前提にすると、被告本間デザインによる被告各イラストの製作は、原告 の意に反して原告イラスト1の改変をなす行為であり、同一性保持権の侵害に当たる。  また、被告LECが、原告イラスト1に変更等の改変を加えた被告各イラストを使用し て書籍を販売する行為も、また、同一性保持権を侵害する行為にあたる。  そして、前記1(1)ア、同(2)ア、同(3)記載のとおり、被告らにおいて、上記 同一性保持権侵害について、少なくとも過失が認められる。