・東京高判平成16年8月25日判時1899号116頁  アニメ声優事件:控訴審  原判決一部変更。原判決は、被告日本アニメ(日本アニメーション株式会社)に対する 請求のみを認容したが、控訴審判決は、被告音響映像(音響映像システム株式会社)に対 する債権者代位に基づく請求を認容した。  判決は、「音声製作会社である一審被告音響映像は、動画製作会社である一審被告日本 アニメに対し、日俳連会員である一審原告ら声優に対して一審被告音響映像が支払義務を 負う本件ビデオ化使用料と少なくとも同額以上の金員についても、その支払請求権を有す るものと認められる」、「一審被告音響映像は、無資力であると認めるのが相当である」 とした上で、「以上によれば、一審原告らは、一審被告日本アニメに対して、一審被告音 響映像に対する本件ビデオ化使用料の債権でもって、一審被告音響映像に代位して、一審 被告音響映像の一審被告日本アニメに対する前記の支払請求債権をそれぞれ代位行使する ことができるというべきである」とした。 (第一審:東京地判平成15年11月6日、上告審:平成17年6月28日) ■評釈等  宮下佳之・コピライト535号40頁(2005年) ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も、一審原告ら声優と一審被告音響映像との本件出演契約において、目的外 使用料も含めて実務運用表に従って支払うことが合意されたものと認めるのが相当であり、 一審原告らの一審被告音響映像に対する本件請求は、いずれも、理由があるものと判断す る。そのように判断する珪由は、後記2ないし4のとおり付加するほかは、原判決の「事 実及び理由」の「第6 当裁判所の判断」の第1項及び第2項(原判決21ページ2行目 から28ページ9行目まで)に説示するとおりであるから、これを引用する。 2(1)一審被告音響映像は、一審原告ら声優との本件出演契約において、実務運用表に 従って本件目的外使用料を支払う旨の合意はしていない旨重ねて主張する。 (2)しかしながら、原判決の認定説示するとおり、〔1〕日俳連(その前身である日本 放送芸能家協会)と音声連(その前身である紫水会)は、長年にわたり、声優の出演条件 について協議を繰り返してきたところ、昭和56年10月1日、日俳連、動画連の加盟各 社及び音声連の加盟各社は、本件協定を締結し、これを受けて、日俳連と音声製作会社と は本件覚書を締結し、その中には、日俳連会員が出演する場合の出演料は、実務運用表に よる旨定められていること、〔2〕昭和50年の実務運用表が確認される前後のころは、 いわゆる期限外利用料の支払問題が主な懸案事項であったが、その後、家庭用ビデオの普 及等に伴い、テレビ用に製作されたアニメ作品がビデオ化されて販売されるようになった ために、ビデオ化使用料の支払も問題化し、昭和56年の本件協定のころには、実務運用 表に具体的に定めないその他の目的外使用については、「その都度の協議による。」と規 定し、更に、昭和61年の実務運用表からビデオ化使用料の支払条件が明記されるに至っ たこと、〔3〕音声製作会社と声優との個別の出演契約においては、音声製作会社から、 出演作品のタイトル・役柄、出演作品の本数・時間、出演日時・場所、出演作品の利用目 的のみが告げられ、それに基づいて声優は、出演を承諾するか否かを判断しており、それ 以外の出演料や期限外利用料、目的外使用料等(まとめて以下「出演料等」という。)に ついては具体的な提示等はなされず、出演料等の算定や支払は、実務運用表に基づいてな されていたこと、〔4〕実務運用表は、日俳連、音声連、マネ協の代表者によって構成さ れる実務小委員会で検討され改訂されており、その改訂に当たっては、音声連加盟会社を はじめ関係団体の意見を聞いた上で合意が形成される手続が進められていたこと、〔5〕 弁論の全趣旨によれば、一審被告音響映像は、昭和58年に音声連に加盟し、平成2年か らは理事会社となり、平成4年からは、実務運用表の策定・運用を具体的に扱う実務小委 員会の担当理事であり、実務運用表の内容及び改訂経過については、十分知る立場にあっ たこと、〔6〕一審被告音響映像も、声優との個別の出演契約に当たっては、出演料等に ついて、個別具体的な提示等は行わず、実際には、実務運用表に基づいて算定し、声優に 支払っていたことがそれぞれ認められるから、これらの事実によれば、一審原告ら声優及 び一審被告音響映像は、出演料等の出演条件は、実務運用表に従うことを前提に本件出演 契約を締結していたものと認められ、そして、上記の経過からすれば、ビデオ化使用料に ついても、昭和61年の実務運用表の改訂以降は、同表に基づいて支払う旨を合意してい たものと認めるのが相当である。 (3)一審被告音響映像は、実務運用表は、実務小委員会が作成したものにすぎず、同被 告はこれに同意していない旨主張する。  しかしながら、前記認定説示のとおり、実務運用表の改訂に当たっては、少なくとも音 声連加盟各社の意見を聴取の上、改訂手続が進められたと認められるし、一審被告音響映 像は、声優らとの個別の出演契約においては、契約当時の実務運用表を前提とし、出演条 件はこれに従うことを契約内容として合意したものというべきであるから、一審被告音響 映像のかかる主張は、前記認定を左右するものではない。 (4)一審被告音響映像は、声優の出演料は、実務運用表に基づいて算定されているので はなく、ランク表に基づいて算定されている旨主張する。  しかしながら、本件協定は、前記の経緯を背景に、声優の出演条件について、動画製作 会社、音声製作会社、声優(日俳連)が、その間の基本的合意事項として昭和56年10 月1日に締結されたこと、これを受けて、直接の契約関係に立ち、出演料等の支払関係に ある日俳連と音声製作会社とが本件覚書を締結し、その中で、日俳連会員が出演する場合 の出演料等は、実務運用表による旨定められていること、その後も、実務運用表は、関係 団体の意見を徴しながら改訂を続け、音声連加盟各社はこれに基づいて支払を行っている こと、実務運用表は、ランクが設定され、かつ、声優各人についての個別のランク付けが 存することを前提にして、このような個別のランクとこれに乗ずる一律の料率を用いて出 演料等の算定が行われるべきことを示している文書であることなどの事実によれば、声優 の出演料等は、その契約当時の実務運用表に基づいて算定することが合意されているとい うべきであって、一審被告音響映像が声優各人ごとのランク表に基づいてその声優の出演 料の算定をしているとしても、そのことは前記認定を左右するものではないというべきで ある。 (5)また、一審被告音響映像は、本件目的外使用料は、本件協定及び覚書には含まれず、 したがって、実務運用表に基づいて支払われていることはない旨主張する。  しかしながら、前記のとおり、本件協定は、基本的な合意内容を定め、その詳細を本件 覚書にゆだねていること、そして、本件覚書もまた、出演料等については実務運用表によ ることを合意していること、実務運用表は昭和61年の改訂後は、ビデオ化使用料につい ての規定を置いていること、本件協定は、現在においても、関係団体あるいは加盟各社が 尊重し、動画製作会社、音声製作会社及び日俳連会員である声優の間では、出演条件等に ついては、本件協定、本件合意及び実務運用表に基づいて出演契約の交渉、合意成立等の 契約関係事務が処理されていることなどからすれば、本件協定の書面上は、ビデオ化使用 料に関する文言が記載されていないけれども、昭和61年の実務運用表にビデオ化使用料 についての支払条件が明記された以降は、日俳連、音声連加盟各社、動画連加盟各社は、 ビデオ化使用料についての実務運用表の規定は、本件協定に基づく合意に含まれるものと 位置づけているものと認めるのが相当である。  また、一審被告音響映像は、実際、実務運用表に従った支払はなされていない旨も主張 する。しかしながら、上記のとおり、音声製作会社と声優は、実務運用表に従った内容で 出演契約を締結しているものと認められ、そして、その中にビデオ化使用料も含まれると 解すべきことは前記のとおりであるから、一審被告音響映像が指摘する事実は、音声製作 会社側がビデオ化使用料の支払条件の記載を含む実務運用表に従う出演料等の支払を内容 とする出演契約が成立しているにもかかわらず、それを遵守していない事態が存在してい ることを示すものとも考えることができるのであって、前記認定を左右するものとはいえ ない。 (6)一審被告音響映像は、期限外利用料の支払と同様に、本件目的外使用料についても、 動画製作者の承諾が得られた場合に、初めてこれを支払うのであり、かつ、それは動画製 作者の支払手続を代行するにすぎず、法律上の支払義務を負うものではない旨主張する。  しかしながら、本件出演契約は、一審被告音響映像と一審原告ら声優との間で成立し、 本件目的外使用料の支払もその契約の内容をなすものであり、一審被告音響映像が支払義 務を負うのは、当然というほかない。一審被告音響映像の負担は、最終的には動画製作会 社が負担すべきものであるか否かは、一審被告音響映像の一審原告ら声優に対する支払義 務に影響するものとはいえない。 3 一審被告らは、一審原告らの主張する本件債権は、時効により消滅している旨主張す るので、以下検討する。 (1)声優が、テレビ放送用アニメーション作品に出演して行う行為は、芸能作品につい て声によって演芸をすることにより、対価を得るものであるから、アニメーション作品に 出演して得る対価自身は、民法174条2号の「芸人ノ賃金」に当たるものと解されるが、 本件ビデオ化使用料は、これと異なり、その後、これらのアニメーション作品を別の媒体 に化体して、新たな商品を製作し、これを販売することに基づいて発生する債権であると ころ、「芸人ノ賃金」の債権については短期消滅時効が定められている趣旨は、かかる賃 金は、その出演時、あるいはこれに接着した時間に支払われるその都度の報酬ないし対価 を指すものと解されることなどにかんがみると、本件ビデオ化使用料は、上記のような別 の媒体に化体して新たな商品を製作することに基づき発生する債権であるから、これをも って「芸人ノ賃金」に含まれるものということはできず、通常の商事債権と解されるから、 その消滅時効の期間は5年と解すべきである。 (2)次に、消滅時効の起算点について検討する。  ビデオ化使用料は、本件出演契約の中で、上記のとおり、テレビ放送用アニメーション 作品を将来ビデオ化した場合に、声優らが使用料債権を取得することを合意したことによ る債権であるが、その債権は、実際にビデオ化され、販売に供せられたときに具体的に発 生するものと解される。  この債権は、テレビ放送用アニメーション作品がビデオ化され、販売を開始すれば、具 体的に発生するものであるから、その時から、債権の権利行使は可能となり、したがって、 その時から、消滅時効は進行するものと解される。  一審原告らは、本件ビデオ化使用料は、声優らは、ビデオ化の事実を知らず、仮に知っ たとしても、自分の出演した部分がビデオ化されているかは把握できず、ビデオ化及び販 売の事実を、音声製作者から通知されない限り、声優はこれを知ることができないから、 その通知を受けたときに権利行使は可能となり、その時点から時効は進行すると解すべき である旨主張する。  しかしながら、アニメーション作品がビデオ化され販売されれば、声優らは、ビデオ化 使用料の請求は可能となり、これを妨げる法律上の障碍は認められないのであるから、か かる時点から消滅時効は進行するものと解される。 (3)一審原告らは、一審被告音響映像は、平成9年10月13日付け文書をもって、自 ら音声製作を請け負ったテレビ放送用アニメーション作品すべてを開示し、本件ビデオ化 使用料支払債務が発生した可能性があること及びその場合には第一審原告らに対しビデオ 化使用料の支払債務を負担することを認め、その支払を現実化させるために一審被告日本 アニメとの間で交渉するように通知してきたが、かかる通知は、民法147条3号の債務 の承認に当たる旨主張する。  甲40ないし甲42、甲45、原審証人(当時)dの証言及び弁論の全趣旨によれば、 平成9年ころ、一審被告日本アニメ以外の動画製作会社からは、ビデオ化使用料が支払わ れているにもかかわらず、一審被告日本アニメがこれを支払わないために、一審原告らは 、一審被告音響映像を通じて、一審被告日本アニメに本件ビデオ化使用料の支払を求めて いたところ、一審被告日本アニメがこれに応じようとしないために、一審被告音響映像は、 自らがこれ以上の説得をすることが困難と考え、これ以上は、声優ら、すなわち、日俳連 が直接一審被告日本アニメと交渉してほしい旨の書面(甲40)を日俳連に送付し、その 後、日俳連が、一審被告日本アニメと直接に交渉したことが認められるが、これらの経緯 によれば、一審被告音響映像は、自らは、本件ビデオ化使用料支払の責任を感じながらも、 自社のみがこれを負担することは不可能であり、動画製作会社である一審被告日本アニメ が支払うのであれば、一審被告音響映像も実際に支払う原資ができると受け止めており、 一審被告日本アニメとビデオ化使用料の支払を求めていたが、同社の説得には応じないた めに、その説得の役割を日俳連にゆだねたものと解される。  そうすると、一審被告音響映像は、上記書面を送付することにより、本件ビデオ化使用 料自身の支払義務があること自体は認め、そうはいっても実際には、一審被告日本アニメ が支払わないために、一審被告音響映像は現実にはその支払をする資力が乏しい事情を述 べたものと解され、一審被告音響映像は、本件ビデオ化使用料の支払義務を負うこと自体 は認めていたものと認められるのであり、これにより、時効の進行中であったビデオ化使 用料債務の時効は中断し、また、既に時効が完成していた債務については、時効の援用権 を放棄し、あるいは、信義則上、時効援用権を喪失したものと認められる。 (4)そして、上記(3)の平成9年10月13日時点における一審被告音響映像による 債務の承認及び時効の援用権放棄ないし時効援用権の喪失の事実に加え、本件記録によれ ば、本訴提起に先立つ平成11年8月に申し立てられた調停の手続において、申立人らと の間のビデオ化使用料を支払う旨の団体協約ないし出演契約の存在を争ったものの、全く 消滅時効完成の主張をした形跡がない上、後記4(2)に説示のとおり、一審被告音響映 像は、本訴の原審の審理において、一審被告日本アニメとともに、一審原告ら声優との間 の本件ビデオ化使用料を支払う旨の契約ないし団体協約あるいは商慣習の存在は争ったも のの、一審原告らが請求する一審原告らごとの具体的な請求額とその算定方法については、 当事者間で調査を重ね、慎重にその検討を行うべき弁論準備及び弁論手続を経て、当事者 間に争いのないものとして、主張が整理されたものと認められ、かつ、原審のそのような 手続中に消滅時効完成の主張を全く提出していないのであり、そのため、原判決も、一審 被告らは、本件ビデオ化使用料が一審原告らの本訴請求額となることそれ自体は争ってい ない旨、双方の主張を整理していることが認められるのであり、これらの事情をも併せか んがみると、一審被告音響映像は、平成9年10月13日の時点での前示の債務の承認等 の事実にとどまらず、本訴提起に先立って申し立てられた調停の手続においても、本訴の 原審段階においても、一審原告ら声優との間のビデオ化使用料を支払う旨の契約ないし団 体協約あるいは商慣習の存在は争ったものの、仮にそれらが存在するとすれば、一審原告 らの個別具体的な債権自体については争わない態度を示していたものと認められ、これら を総合すると、一審被告音響映像が、突如、当審において、一審原告らの本件ビデオ化使 用料について消滅時効を援用することは、信義則上許されないものというべきである。 (5)そうすると、一審被告らの消滅時効の抗弁は、理由がないことに帰するといわなけ ればならない。 4(1)一審被告音響映像は、仮に、ビデオ化使用料が認められるとしても、その使用料 率は、平成4年3月31日までは60パーセントである旨主張し、一審原告らは、一審被 告音響映像の控訴審におけるかかる主張は、時機に後れた攻撃防御方法の提出であるから、 却下すべきである旨主張する。 (2)本件訴訟記録によると、当裁判所には、次の事実が明らかである。 〔1〕一審原告らは、本件訴状で、一審原告ら個人別にビデオ化使用料を作品タイトル毎 に算定し、「ビデオ化使用料個人別集計表」を添付して、これを請求した。 〔2〕これに対し、一審被告らは、いずれも、答弁書において、調査中であるとして、上 記集計表を含むアニメ作品の放送の事実に関して認否を留保し、一審被告音響映像にあっ ては、「これが右契約の目的外のビデオとして転用され販売され」たとの一審原告らの主 張に対して否認するとともに、「テレビ放送されたものがすべてビデオになるのではない。 ビデオ化されるのはその一部である。」との認否反論をした(なお、一審被告日本アニメ にあっては、「テレビ放送されたアニメーションをビデオとして販売したことはあるが、 その作品名や巻数についても調査未了であり認否を留保する」旨の認否をした。)。 〔3〕一審原告らは、平成12年9月14日の原審第4回口頭弁論期日で甲1の1(本件 協定)、同2(本件覚書)、甲2(実務運用表)、甲3の1ないし6(実務運用表)等を 証拠として提出した。 〔4〕一審原告らは、平成13年7月6日の原審第1回弁論準備手続期日において陳述さ れた同日付け準備書面において、添付した個人別集計表について、一審被告らに認否を求 めた。 〔5〕一審被告日本アニメは、平成13年11月20日付け準備書面において、ビデオ化 した事実がない作品、あるいは、出演部分はビデオ化していない作品などを指摘し、使用 料率・転用率等は否認する旨記載し、裁判所に提出したが、上記準備書面は陳述しなかっ た。 〔6〕平成14年2月22日の第6回弁論準備手続において、6回にわたった弁論準備手 続は終結され、平成14年5月9日の第8回口頭弁論期日において、弁論準備手続の結果 が陳述された。 〔7〕一審原告らは、平成15年1月24日付け準備書面で請求を拡張し、その個人別作 品別の請求内容を別紙として添付した。なお、同準備書面では、前記の陳述されなかった 一審被告日本アニメの平成13年11月20日付け準備書面でビデオ化されていないなど と指摘された作品等については、これから削除されており、これらによれば、陳述されな かった上記準備書面を踏まえて、請求内容を再検討したことがうかがわれる。   その後、一審原告らの請求内容について一審被告らの弁論行為はなされていない。 〔8〕原判決は、「事実及び理由」の「第3 前提となる事実」の6、(2)(原判決7 ページ2行目から4行目まで)において、「被告らも、原告ら主張のビデオ化使用料の支 払義務が認められると仮定した場合の当該使用料、すなわち、本件使用料が原告らの本訴 請求額となることそれ自体は争っていない。」旨説示している。 〔9〕前記のとおり、一審被告音響映像は、当審において、一審被告らは、一審原告らの 主張のうち、一審被告らにおいて確認できるのは、一審原告らの本名、芸名、放送局名、 放送年月日、作品タイトル名、ランク、巻数についてであり、これについては確認の上間 違いがないことを確認したが、それ以外の使用料率については、否認する旨の主張をする に至った。 (3)本件記録上顕れた以上の経過によれば、一審被告らは、一審原告ら声優との間のビ デオ化使用料を支払う旨の契約ないし団体協約あるいは商慣習の存在自体は争ったものの、 一審原告らが請求する一審原告らごとの具体的な請求額とその算定方法については、当事 者間で調査を重ね、慎重にその検討を行うべき弁論準備及び弁論手続を経て、当事者間に 争いのないものとして、主張が整理されたものと認められるのであって、原判決の前記の ような前提となる事実の摘示も、そのような主張整理を踏まえてなされたものと認められ る。  そうすると、一審被告らは、原審における弁論準備及び弁論手続を経て、争いのないも のとして整理した一審原告らの請求額の算定方法の一つたるビデオ化使用料率について、 原判決において一審被告音響映像の支払責任が認められたことから、当審において、従来 の訴訟対応を覆し、膨大な請求の個別の事実関係について、一から敢えて争おうとするも のであり、かかる訴訟対応は、著しく信義に反するものというべきであるから、重大な過 失により時機に後れて提出した攻撃防御方法で訴訟の完結を遅延させるものとして許され ないものというべきであり、一審被告音響映像のかかる主張は、却下を免れない。 5(1)一審原告らは、一審被告日本アニメは、本件協定の効力として、あるいは、第三 者のためにする契約を根拠として、一審被告日本アニメは、一審被告音響映像が本件ビデ オ化使用料を支払わないときに、これを自ら一審原告ら声優に支払う担保責任がある旨重 ねて主張する。  しかしながら、一審被告日本アニメがかかる責任を負うと認められないことは、原判決 の認定説示するとおり(原判決28ページ11行目から同29ページ16行目まで)であ って、一審被告日本アニメの担保責任をいう一審原告らの主張は失当である。本件協定等 を検討しても、一審被告日本アニメが一審原告ら声優に直接支払義務を負うことまでを定 めたと解すべき規定は見当たらない。 (2)また、一審原告らは、一審被告音響映像及び一審被告日本アニメは、人的及び物的 に一体関係にあるから、一審原告ら声優が一審被告音響映像との間で締結した契約の効力 は、一審被告日本アニメにも及ぶと解すべきである旨主張する。  しかしながら、一審被告両社は、人的関係、資本的関係等において、極めて密接な関係 があり、その連携は顕著と認められるが、なお、法人格においても一体であるとまで認め るに足りる証拠はないから、一審原告らのかかる主張は、採用できない。 6 一審原告らの一審被告日本アニメに対する債権者代位権に基づく請求について検討す る。 (1)一審原告らが、一審被告音響映像に対して、本件ビデオ化使用料の請求権を有する と解すべきことは、前記説示のとおりである。 (2)次に、一審被告音響映像と一審被告日本アニメとの関係について検討するに、前記 引用に係る原判決の認定説示するように、〔1〕日俳連(その前身である日本放送芸能家 協会)と音声連(その前身である紫水会)は、長年にわたり、日俳連会員である声優の出 演条件について協議を繰り返してきたところ、昭和56年10月1日、日俳連及び音声連 の加盟各社に、一審被告日本アニメを含む動画連の加盟各社が加わって、本件協定を締結 し、動画連の会員社(甲)が作品製作のため、音声製作を行うに当たり日俳連(乙)会員 の出演条件及び音声連の会員社(丙)の音声製作条件は本件協定によるものとし、いわゆ る期限外利用料の支払方法は該当作品ごとに甲より丙に利用料を支払い、乙に対する支払 は丙が行う、ただし、乙と丙とは支払方法その他について別途覚書を交換するなどの本件 協定が成立し、これを受けて、日俳連と音声連の各会員社とは、テレビ放送用アニメーシ ョン番組の音声作品(作品)の音声連の会員社(甲)による製作のために日俳連(乙)の 会員が出演する場合の条件に関する合意を成立させて本件覚書を締結し、その中には、日 俳連会員が出演する場合の出演料、期限外利用料等は、本件覚書に添付される実務運用表 による旨定められていること、〔2〕その後、実務運用表は、関係団体等の意見も聴取し ながら、改訂を重ね、その間、一審被告音響映像が音声連に加盟した後に昭和61年に改 訂された以降の実務運用表には、ビデオ化使用料の支払条件が明示的に盛り込まれており、 音声製作会社から日俳連会員である声優に支払われる出演料等は、このような実務運用表 に基づいて支払われていたこと、〔3〕動画製作会社は、テレビ放送用アニメーション作 品のうち音声製作部分を、音声製作会社に請け負わせるものであり、音声製作会社から声 優に支払われる出演料等は、当然、動画製作会社から音声製作会社に支払われる代金に依 拠するものであるから、実務運用表の改訂に当たり、出演料等の改訂に関しては、動画製 作会社の了解なくして、音声製作会社のみの負担を前提に出演料等を改訂することは不可 能であること、〔4〕実務運用表は毎年見直され、多くの改訂を経ているけれども、概ね 改訂にかかる内容に従って、動画製作会社は支払っていたこと、〔5〕一審被告音響映像 は、前示のとおり、昭和58年に音声連に加盟した後、平成2年からは理事会社となり、 平成4年からは実務運用表の策定、運用を具体的に扱う実務小委員会の担当理事であり、 実務運用表の内容及び改訂経過について十分知る立場にあり、一方、一審被告日本アニメ も、前示のとおり、本件協定の締結に自ら加わって本件協定等の内容を知っていたのみな らず、昭和61年の実務運用表にビデオ化使用料についての支払条件が盛り込まれたこと をその当時において音声連ないし日俳連から説明を受けていたと推認され、また、一審被 告音響映像が上記のように音声連に加盟している等の立場にあることも知っていたと推認 されるのであり、このような認識のある一審被告日本アニメが上記のような経過・立場の 一審被告音響映像に対し、昭和61年の実務運用表の改訂後、一貫して、一審原告ら声優 などの日俳連会員である声優の出演があり得る一審被告日本アニメ製作に係るテレビ放送 用アニメーション作品の音声製作を委託する取引を継続してきたことがそれぞれ認められ る。  そうすると、日俳連、音声製作各社、動画製作各社は、昭和56年の本件協定を成立さ せることを通じて、日俳連会員である声優の出演条件及び同声優の出演に係る音声製作条 件につき本件協定等によることとする旨の基本的合意を確認し、日俳連会員である声優と の出演契約は音声製作各社との間で締結されることから、その詳細は、本件覚書及び既に 存在していた実務運用表にゆだね、その内容に従って、テレビ放送用アニメーション作品 の音声製作を進めることを合意し、その後も、これに従って契約されてきたものと認めら れる。  したがって、実務運用表自体は、日俳連会員である声優と音声連の会員社たる音声製作 会社の出演条件を定めるものではあるが、そのような音声製作会社も、もちろん、出演料 等の原資を、その音声製作会社に音声製作を委託ないし発注する動画製作会社からの代金 に依拠せざるを得ないことからすれば、特段の事情がない限り、本件協定等でなされた合 意の存在を前提として、動画製作会社と音声製作会社との間にも、音声製作費用の項目で ある声優の出演料等の価額の算定については、実務運用表に基づくものとする旨の合意が あるものと解されるのであり、前記のような一審被告日本アニメと一審被告音響映像との 間においても、同様の合意があったものと認めるのが相当であり、これを覆すに足りる証 拠は存しない。なお、一審被告日本アニメは、平成2年3月に動画連を脱退しているけれ ども、その前後において、一審原告ら声優と音声製作会社である一審被告音響映像との出 演契約ないし一審被告音響映像と一審被告日本アニメとの音声製作に関する契約の交渉態 様、内容等が従前と異なって実務運用表とは関わりのないものに変わったと認めるべき証 拠はないから、一審被告日本アニメが動画連を脱退した事実は、前記の認定を左右するに は至らない。  そうしてみると、音声製作会社である一審被告音響映像は、動画製作会社である一審被 告日本アニメに対し、日俳連会員である一審原告ら声優に対して一審被告音響映像が支払 義務を負う本件ビデオ化使用料と少なくとも同額以上の金員についても、その支払請求権 を有するものと認められる。 (3)甲54、甲55の1、2、甲56の1、2及び弁論の全趣旨によれば、一審被告音 響映像は、アニメーション作品等の音声製作をその主たる業務とする会社であるにもかか わらず、平成15年3月31日をもって、全ての音声製作の業務を停止し、その業務をサ ンオンキョー有限会社に移譲したこと、一審原告らが一審被告音響映像の取引銀行に対し て差押えを行ったところ、株式会社りそな銀行銀座支店には、預金が56万5588円し か存しないこと、大東京信用組合にあっては、普通預金が1823万7878円存するも のの、同組合は反対債権でもって相殺の予定であることがそれぞれ認められる。  これらの事実に対し、一審被告らは、一審被告音響映像は無資力でない旨主張するもの の、丙26及び丙28は、そのような無資力でないことを示す反証とは認められず、他に 一審被告音響映像が無資力でないことをうかがわせる反証の提出は何ら行われていない。  そうすると、上記の認定事実からすれば、一審被告音響映像は、無資力であると認める のが相当である。 (4)以上によれば、一審原告らは、一審被告日本アニメに対して、一審被告音響映像に 対する本件ビデオ化使用料の債権でもって、一審被告音響映像に代位して、一審被告音響 映像の一審被告日本アニメに対する前記の支払請求債権をそれぞれ代位行使することがで きるというべきである。 7 その他、一審被告らは、一審原告らの本件請求が理由がないとしてるる主張するけれ ども、いずれも採用することができない。 第5 結論  よって、一審原告らの本件請求は、いずれも、理由があり、認容すべきところ、原判決 が一審原告らの本件請求のうち一審被告日本アニメに対する請求を棄却し又は却下したの は不当であり、一審原告らの本件控訴は理由があるから、原判決主文2項を取消し、一審 原告らの一審被告日本アニメに対する本件請求を認容することとし、一審原告らの一審被 告音響映像に対する本件請求について上記と同旨の原判決は相当であり、一審被告音響映 像の本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用について民訴法67条2項、 61条、65条1項本文を、仮執行宣言について同法310条をそれぞれ適用して、主文 のとおり、判決する。 東京高等裁判所第9民事部 裁判長裁判官 雛形 要松    裁判官 山崎 勉    裁判官 浜  秀樹