・大阪地判平成16年9月13日判時1899号142頁  ヌーブラ事件  原告商品は、商品名を「ヌーブラ(NuBra)」という、ストラップおよび横ベルト がなく、また、何らの部品を使用することなく身体に直接粘着させる商品であり、米国カ リフォルニア州法人であるブラジェル社(Bragel International Inc.)が考案し、平成 14年10月から米国及び台湾において販売されている。  原告(ゴールドフラッグ株式会社)は、平成15年1月30日、ブラジェル社との間で、 原告に原告商品の日本国内における独占的販売権を与える旨の契約を締結し、同年2月1 日から、日本における原告商品の輸入及び販売を開始した。  被告(株式会社セラヴィ)は、平成15年6月ころから、ロ号製品を輸入し、日本国内 で、「パス ブラ(Pas Bra)」、「アン ブラ(Un Bra)」、「シリコン ブラジャー」という商品名で販売している。  そこで、原告が被告に対して、不正競争防止法2条1項3号に基づき損害賠償請求を行 った。  判決は、「3号による保護の主体の範囲を考えると、自ら資金、労力を投下して商品化 した先行者は保護の主体となり得るが、そのような者のみならず、先行者から独占的な販 売権を与えられている者(独占的販売権者)のように、自己の利益を守るために、模倣に よる不正競争を阻止して先行者の商品形態の独占を維持することが必要であり、商品形態 の独占について強い利害関係を有する者も、3号による保護の主体となり得ると解するの が相当である」とした上で、「独占的販売権者は、3号による保護の主体となり得るとい うべきである」として、原告の請求を認容した。 ■評釈等 堀江亜以子・発明102巻10号88頁(2005年) ■判決文  甲第1、第2号証によれば、原告が、平成15年1月30日、ブラジェル社との間で、 原告に原告商品の日本国内における独占的販売権を与える旨の契約を締結したこと、原告 が同年2月1日から、日本における原告商品の輸入及び販売を開始したことが認められる。 3(1)上記2認定のとおり、原告は、原告商品の日本国内における独占的販売権を与え られた独占的販売権者であるところ、独占的販売権者が、不正競争防止法2条1項3号 (以下、単に「3号」ということがある。)による保護の主体となり得るかについて検討 する。  まず、3号の趣旨をみると、他人が市場において商品化するために資金、労力を投下し た成果の模倣が行われるならば、模倣者は商品化のためのコストやリスクを大幅に軽減す ることができる一方で、先行者の市場先行のメリットは著しく減少し、模倣者と先行者の 間に競争上著しい不公正が生じ、個性的な商品開発、市場開拓への意欲が阻害され、この ような状況を放置すると、公正な競業秩序を崩壊させることになりかねない。そこで、3 号は、他人が商品化のために資金、労力を投下した成果を、他に選択肢があるにもかかわ らず殊更完全に模倣して何らの改変を加えることなく自らの商品として市場に提供し、そ の他人と競争する行為をもって、不正競争としたものである。  このような3号の趣旨を前提として、3号による保護の主体の範囲を考えると、自ら資 金、労力を投下して商品化した先行者は保護の主体となり得るが、そのような者のみなら ず、先行者から独占的な販売権を与えられている者(独占的販売権者)のように、自己の 利益を守るために、模倣による不正競争を阻止して先行者の商品形態の独占を維持するこ とが必要であり、商品形態の独占について強い利害関係を有する者も、3号による保護の 主体となり得ると解するのが相当である。このような解釈は、公正な競争秩序の維持を目 的とする前記の3号の趣旨にもかなうものである。他方、先行者が商品化した形態の商品 を単に販売する者のように、商品の販売数が増加することについて利害関係を有するとし ても、先行者の商品形態の独占について必ずしも強い利害関係を有するとはいえない者は、 保護の主体となり得ないと解すべきである。  不正競争防止法は、2条1項において「不正競争」を定義し、同項3号では、他人の商 品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争とし、差止請求の主体について、3 条1項において、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれが ある者」としており、損害賠償請求の主体については、4条において、不正競争により 「営業上の利益を侵害」された者を損害賠償請求の主体として予定しているものと解され、 例えば特許法100条1項が差止請求の主体を「特許権者又は専用実施権者」としている のとは異なった規定の仕方をしている。独占的販売権者は、3号所定の不正競争によって 営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者に該当するから、独占的販売権 者を3号の保護主体と解し、その差止請求及び損害賠償請求を認めることは、不正競争防 止法上の文言にも合致するというべきである。  3号は、その主要な要件が、「形態の模倣」という比較的簡易な要件であり、安易に適 用を拡大すると、かえって自由な市場活動が妨げられるおそれがあるとも考えられる。し かし、商品化を行った先行者のほかに、独占的販売権者のように商品形態の独占について 強い利害関係を有する者に限定した範囲で3号の保護の主体を考えるならば、そのような 弊害を生ずることはないというべきである。また、独占的販売権者も3号の保護主体とな ると解したとしても、独占的販売権者が訴訟上3号に基づく権利を行使するためには、先 行者が商品化したこと、及びそのような先行者から独占的販売権を与えられたことを主張 立証しなければならず、先行者が訴訟上3号に基づく権利を行使する場合に比べて、商品 化の点について主張立証責任が軽減されるわけではないから、この点からも、3号の適用 範囲が安易に拡大されることはないといえる。  さらに、実際上、独占的販売権者が商品の製造販売を専ら担当しており、商品化した先 行者が3号に基づく権利行使をする状況にない場合も考え得るところであるから、上記の 解釈は、そのような場合においても、模倣を阻止し、公正な競争秩序の維持を図るという 点からしても、妥当なものということができる。  他方、独占的販売権者は、独占権を得るために、商品化した先行者に相応の対価を支払 っているのが常であり、先行者は商品化のための資金、労力を、商品の独占の対価の形で 回収していることになるから、独占的販売権者を保護の主体として、これに独占を維持さ せることは、商品化するための資金、労力を投下した成果を保護するという点でも、3号 の立法趣旨に適合するものである。  以上によれば、独占的販売権者は、3号による保護の主体となり得るというべきである。 (2)前記2認定のとおり、原告は、原告商品の日本国内における独占的販売権者である から、不正競争防止法2条1項3号による保護の主体となるものと認められる。