・大阪地判平成17年1月17日  クラブ共同経営事件  被告Bは、平成11年2月1日から平成13年12月31日まで被告店舗を経営してい た者であり、被告Aは、少なくとも平成14年1月1日から被告店舗を単独で経営してい る者である。  原告(日本音楽著作権協会)は、被告らが、その経営する被告店舗において、歌手およ び楽器奏者をして、歌唱と楽器演奏により、原告の管理著作物の演奏を行わせ、これを来 店した不特定多数の客に聴かせているとし、被告らのこのような演奏行為により、管理著 作物の著作権(演奏権)が侵害されているとして、著作権(演奏権)に基づき、被告Aに よる管理著作物の演奏の差止め、被告店舗からの別紙物件目録記載の物件の撤去、被告店 舗への楽器類および音響装置の設置の差止めを求めるとともに、被告らに対し、著作権 (演奏権)侵害による不法行為に基づき、管理著作物の使用料相当額および弁護士費用の 損害賠償を求めた。  判決は、「飲食店における楽曲の演奏主体としての経営者がだれかを判断するためには、 店舗の設置、設備の調達、従業員の雇用、従業員への営業上の指揮監督、営業許可の取得 など経営の内容をなす行為の主体、及び営業による利益の帰属の主体がだれかを検討すべ きであるが、その際には、名義のみならず、実質をも考慮する必要がある。そして、経営 の内容をなす行為の相当程度の部分を分担し、営業による利益の分配に実質的にあずかっ ているならば、必ずしも、経営者として行うべきすべてのことを自らの名義によって行っ ていなくても、共同経営者と認定し得る場合があるというべきである」とした上で、「平 成11年2月1日から平成13年12月31日までについて、被告Aが被告Bと被告店舗 を共同経営していたことは、自然なことというべきである」などとして、損害賠償請求を 認容するとともに、差止請求についても、「被告Aは、別紙店舗目録記載の店舗において、 別添楽曲リスト……記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。(1) 歌 手をして歌唱させる方法、(2) 楽器奏者をして楽器演奏させる方法」などと判示した。 ■争 点 (1) 管理著作物の演奏の有無  被告店舗において管理著作物の演奏が行われているか。 (2) 被告Aによる経営の有無  被告Aは、平成11年2月1日から平成13年12月31日まで、被告Bとともに被告 店舗を経営していたか。 (3) 損害額 ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(管理著作物の演奏の有無)について  (1) 甲第5号証、第8ないし第11号証、第15ないし第17号証によれば、被告店 舗においては、毎日午後8時30分から1時間おきに各30分ずつ合計4回のステージが 行われ、楽曲が歌唱又は楽器演奏されていたことが認められる。  (2)ア 甲第8、第9号証によれば、原告が株式会社オリファに委託して平成13年5 月25日に行った被告店舗の実態調査は、午後8時30分から午後11時40分まで行わ れ、楽曲の調査は第1ステージから第4ステージの途中まで行われたこと、同実態調査に よれば、調査時間内に演奏された全21曲のうち不明曲1曲を除いた20曲が管理著作物 であったことが認められる。  イ 甲第10、第11号証によれば、原告が株式会社オリファに委託して平成14年7 月25日に行った被告店舗の実態調査は、午後10時から翌日午前1時20分まで行われ、 楽曲の調査は第3ステージと第4ステージについて行われたこと、同実態調査によれば、 調査時間内に演奏された16曲全部が管理著作物であったことが認められる。  ウ 前記(1)、(2)ア、イの認定事実によれば、被告店舗においては、平成11年2月1 日の開店時から平成15年7月31日までは、少なくとも1日平均24曲の管理著作物が 歌唱又は楽器演奏により演奏されていたものと認められる。  (3)ア 甲第15号証によれば、原告が平成15年9月12日に行った被告店舗の実態 調査は、午後8時8分から翌日午前0時30分まで行われ、楽曲の調査は第1ステージか ら第4ステージまで行われたこと、同実態調査によれば、調査時間内に演奏された全19 曲のうち不明曲6曲を除いた13曲(第1ステージ4曲、第2ステージ1曲、第3ステー ジ4曲、第4ステージ4曲)が管理著作物であったことが認められる。なお、乙第9号証 には、同日の実態調査の結果として、第3ステージと第4ステージで演奏された全11曲 のうち不明曲を除いた5曲(第3ステージ3曲、第4ステージ2曲)が管理著作物である 旨記載されている。しかし、乙第9号証には、不明曲についても精査を継続することによ り管理著作物であることが判明する可能性が高いものと思われる旨記載されており、甲第 15号証によれば、その後、第3ステージの不明曲のうち1曲、第4ステージの不明曲の うち2曲について管理著作物であると判明したことが認められるから、乙第9号証記載の 調査結果は調査途上のものであり、最終的な調査結果は甲第15号証記載のものであると 認められる。  イ(ア) 仮処分手続等の経緯は、前記第2、2(5)のとおりであり、当庁は、平成15 年7月28日、被告Aによる管理著作物の演奏の差止め等を命ずる旨の仮処分決定を行い、 同年8月5日、仮処分の執行が行われ、その後、被告Aは仮処分異議を申し立てたが、当 庁は、同年11月12日、仮処分決定を認可する旨の仮処分異議決定を行った。また、甲 第14号証及び弁論の全趣旨によれば、被告Aは、仮処分の審尋の段階から、被告店舗に おいては楽器奏者の自作曲を演奏しており、管理著作物を演奏しておらず、管理著作物が 演奏されていたとしてもわずかである旨の主張をしていたことが認められる。  (イ) しかし、仮処分の申立てから仮処分決定、仮処分の執行を経て仮処分異議決定が 行われるまでの間及びその後において、被告店舗の営業が中止されたことをうかがわせる 証拠はなく、甲第13号証、第15号証及び弁論の全趣旨によれば、被告Aは、仮処分が 執行された後、封印された電子オルガン、ウッドベース、マイクとは別の電子オルガン、 ウッドベース、マイク等を被告店舗に搬入し、管理著作物の演奏を継続していたことが認 められる。したがって、被告Aは、前記(2)ウのとおり、被告店舗において平成15年7 月31日まで管理著作物を演奏していたものであるが、仮処分決定後の同年8月1日以降 も、管理著作物の演奏を停止することなく継続していたものと認められる。  もっとも、前記ア認定のとおり、原告が平成15年9月12日に行った被告店舗の実態 調査によれば、1日の管理著作物の演奏曲数は、13曲にとどまっていたから、被告Aは、 同年8月1日以降は、演奏する管理著作物の曲数を半減させ、その数は、1日平均12曲 であったと認めるのが相当である。  (4)ア 甲第16号証によれば、原告が平成16年1月27日に行った被告店舗の実態 調査は、午後8時から翌日午前0時まで行われ、楽曲の調査は第1ステージから第4ステ ージまで行われたこと、同実態調査によれば、調査時間内に演奏された全30曲のうち不 明曲1曲を除いた29曲が管理著作物であったことが認められる。  イ また、甲第17号証によれば、原告が平成16年7月1日に行った被告店舗の実態 調査は、午後8時11分から午後10時25分まで行われ、楽曲の調査は第1ステージと 第2ステージについて行われたこと、同実態調査によれば、調査時間内に演奏された全1 5曲のうち11曲が管理著作物であったことが認められる。  ウ 前記ア、イの認定事実によれば、被告Aは、平成16年1月1日以降は、演奏する 管理著作物の曲数を再び従前どおりに増やし、その数は、1日平均24曲であると認める のが相当である。  (5) 被告Aは、被告店舗において平成14年1月1日以降演奏されている楽曲は、ほ とんどが楽器奏者の自作曲であり、管理著作物ではない旨、仮に被告店舗において同日以 降管理著作物が演奏されていたとしても、その曲数は1日平均5曲である旨主張する。そ して、楽器奏者の陳述書である乙第6、第7号証、被告Aの陳述書である乙第10号証に は、その主張に沿う記述があり、乙第8号証の1ないし3として、楽器奏者の自作曲を収 録したコンパクトディスク及びディスクケースの写真が提出されている。  しかし、上記証拠によっても、楽器奏者が具体的にどの自作曲をどの程度の頻度で演奏 しているのかは明らかでなく、自作曲が多数演奏されていることが裏付けられているとは いえない。また、甲第10、第11号証、第15ないし第17号証により認定される実態 調査の結果(前記(2)イ、(3)ア、(4)ア、イ)に照らし、乙第6、第7号証、第10号証 の上記記述は、信用することができない。  したがって、被告Aの前記主張は、採用することができない。  (6) 以上によれば、被告店舗における管理著作物の演奏曲数は、平成11年2月1日 から平成15年7月31日までは1日平均24曲(前記(2)ウ)、平成15年8月1日か ら同年12月31日までは1日平均12曲(前記(3)イ(イ))、平成16年1月1日以降 は1日平均24曲(前記(4)ウ)であると認められる。 2 争点(2)(被告Aによる経営の有無)について  (1)ア 弁論の全趣旨によれば、被告Aは、平成3年11月ごろ、大阪市Eビル地階に おいて、「D」の屋号で飲食店を経営していたこと、平成6年11月ごろ、その店舗を大 阪市Fビルに移転したこと、被告店舗の所在する大阪市Gビルは、上記Fビルに隣接して いることが認められる。  イ 甲第8号証、第10号証、乙第10号証及び弁論の全趣旨によれば、被告Aは、平 成11年2月1日の開店以来、被告店舗にママとして在店し、従業員を指揮して営業を行 っていたことが認められる。  ウ 甲第8号証、第10号証によれば、平成13年5月25日付け及び平成14年7月 25日付けの被告店舗の領収証の収入印紙の消印は、いずれも被告Aの印であることが認 められ、被告Aが平成14年1月1日の前後を通じて被告店舗の金銭の出納を管理してい たことが推認される。  エ 乙第2号証及び弁論の全趣旨によれば、被告Bが平成10年2月28日に賃借人と して締結した被告店舗の賃貸借契約について、被告Aは、被告Bの連帯保証人となってい たことが認められる。  オ 甲第7、第8号証、乙第10号証及び弁論の全趣旨によれば、被告店舗の事務所は、 大阪市Hに所在すること、同事務所の電話は、被告Aが平成8年9月2日に設置したもの であることが認められる。  また、甲第6号証、乙第10号証及び弁論の全趣旨によれば、被告店舗の電話は、被告 Aが平成11年2月1日に設置したものであることが認められる。  カ 乙第4号証及び弁論の全趣旨によれば、被告Aは、少なくとも平成13年1月20 日から同年6月20日までの間、被告Bから、日額9万5000円、月額平均約178万 円の給料の支払を受けていたことが認められる。  (2)ア ところで、飲食店における楽曲の演奏主体としての経営者がだれかを判断する ためには、店舗の設置、設備の調達、従業員の雇用、従業員への営業上の指揮監督、営業 許可の取得など経営の内容をなす行為の主体、及び営業による利益の帰属の主体がだれか を検討すべきであるが、その際には、名義のみならず、実質をも考慮する必要がある。そ して、経営の内容をなす行為の相当程度の部分を分担し、営業による利益の分配に実質的 にあずかっているならば、必ずしも、経営者として行うべきすべてのことを自らの名義に よって行っていなくても、共同経営者と認定し得る場合があるというべきである。  イ 被告Aは、平成11年2月1日の開店以来、被告店舗にママとして在店し、従業員 を指揮して営業を行い(前記(1)イ)、被告店舗の金銭の出納を管理し(前記(1)ウ)、実 際の営業活動を指揮、管理していたものであり、また、被告店舗の賃貸借契約の連帯保証 人となり(前記(1)エ)、被告店舗及び事務所に被告A名義の電話を設置する(前記(1)オ) など店舗の設置や設備の調達にも深くかかわっており、経営の内容をなす行為の相当程度 の部分を分担していたものと認められる。また、被告Aは、被告Bから相当高額の給料の 支払を受け(前記(1)カ)、実質的に被告店舗の営業による利益の分配にもあずかってい たと認められる。  したがって、被告Aは、単なる従業員ではなく、被告Bとともに被告店舗を経営する共 同経営者であったと認めるのが相当である。被告Aの陳述書である乙第10号証の記述の うち、この認定に反する部分は、信用することができない。  ウ 乙第1号証、第11号証によれば、被告Bが平成11年度の税務申告をしていたこ とが認められ、乙第2号証によれば、被告Bが、平成10年2月28日、賃借人として被 告店舗の賃貸借契約を締結したことが認められ、乙第3号証によれば、被告Bが、平成1 1年2月26日、被告店舗について食品衛生法上の営業許可を受けたことが認められ、前 記(1)カ認定のとおり、被告Aは、少なくとも平成13年1月20日から同年6月20日 までの間、被告Bから給料の支払を受けていた。  しかし、被告Bについては、被告店舗の従業員を指揮し、金銭の出納を管理するなどの 実際の営業活動に関与していたことをうかがわせる証拠はなく、前記イ認定のとおり、こ れらの行為は、被告Aが行っていたものであるから、被告Aは、被告Bと、経営の内容を なす行為を分担し、共同して経営を行っていたものと認められる。また、被告Aの受けて いた給料は相当高額であり、実質的に被告店舗の営業による利益の分配に当たると認めら れるから、給料の支給という形式が採られていたとしても、それによって、被告Aが共同 経営者であったという認定が妨げられることはないというべきである。  エ 前記(1)ア認定のとおり、被告Aは、平成3年11月ごろから、被告店舗所在地の 近隣で「D」の屋号で飲食店を経営していたものであり、他方、前記第2、2(3)ウのと おり、被告Aは、少なくとも平成14年1月1日から被告店舗を単独で経営しているから、 このことに照らしても、この間の平成11年2月1日から平成13年12月31日までに ついて、被告Aが被告Bと被告店舗を共同経営していたことは、自然なことというべきで ある。 3 著作権侵害の成立について  (1)ア 前記第2、2(4)ウのとおり、被告らは、被告店舗における管理著作物の利用に ついて原告の許諾を受けていなかったから、被告店舗において管理著作物を演奏すること は、原告が管理著作物について有する著作権(演奏権)を侵害する。  イ 甲第5号証及び弁論の全趣旨によれば、著作権管理事業者等の許諾を受けないで著 作権の存続している音楽を飲食店において演奏等により利用することが著作権侵害を構成 することは、一般に広く認識されているものと認められる。したがって、被告店舗におい て無許諾で管理著作物を演奏することによりその著作権を侵害することにつき、被告らに は故意又は少なくとも過失があったものと認められる。  (2)ア 前記第2、2(3)アのとおり、被告Bは、平成11年2月1日から平成13年1 2月31日まで被告店舗を経営していたものであり、前記2(2)イ認定のとおり、被告A は、同期間において、被告Bとともに被告店舗を経営する共同経営者であったから、同期 間の被告店舗における管理著作物の著作権侵害行為は、被告Bと被告Aによる共同不法行 為というべきである。  イ 前記第2、2(3)ウのとおり、被告Aは、平成14年1月1日からは被告店舗を単 独で経営しているから、同日以降の被告店舗における管理著作物の著作権侵害行為は、被 告Aによる不法行為というべきである。 4 争点(3)(損害額)について  (1) 前記1(6)認定のとおり、被告店舗における管理著作物の演奏曲数は、平成11年 2月1日から平成15年7月31日までは1日平均24曲、平成15年8月1日から同年 12月31日までは1日平均12曲、平成16年1月1日以降は1日平均24曲であると 認められる。  (2) 管理著作物1曲当たりの使用料  甲第3号証、第5号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が著作権等管理事業法に基づい て定め、文化庁長官に届け出た使用料規程(甲第3号証)によると、被告店舗は、使用料 規程の「第2章 著作物の使用料」、「第1節 演奏等」、「5 社交場における演奏等」 の「(2) 使用料の適用区分」のうち「業種2 バー、クラブ、カフェーなど酒類の提供 を主たる目的とするものであって、ホステス等の社交員の接待が通常伴うもの(業種1に 該当するものを除く。)」に該当し、座席数80席まで、標準単位料金(社交場をその営 業の目的に従って利用する場合に客1人当たりにつき通常支払うことを必要とされる税引 き後の料金相当額をいい、著作物使用料規程取扱細則に基準が定められている。)4万5 000円までに該当するから、使用料規程の別表16の1により、管理著作物1曲1回の 使用料は、380円であると認められる。  (3) 1か月の営業日数  甲第5号証、第8号証、第10号証及び弁論の全趣旨によれば、被告店舗の1か月の営 業日数は20日であると認められる。  (4) 1か月当たりの使用料相当額  ア 平成11年2月1日から平成15年7月31日まで、及び平成16年1月1日から 同年4月30日までは、管理著作物の演奏曲数は1日平均24曲であり、1か月の営業日 数は20日であるから、1か月当たりの使用料相当額は、19万1520円(380円× 24曲×20日×1.05(消費税)=19万1520円)であると認められる。  イ 平成15年8月1日から同年12月31日までは、管理著作物の演奏曲数は1日平 均12曲であり、1か月の営業日数は20日であるから、1か月当たりの使用料相当額は、 9万5760円(380円×12曲×20日×1.05(消費税)=9万5760円)で あると認められる。  (5) 各期間の使用料相当額  ア 平成11年2月1日から平成13年12月31日まで  平成11年2月1日から平成13年12月31日までの1か月当たりの使用料相当額は、 前記(4)ア認定のとおり19万1520円であるから、この35か月間の使用料相当額は、 670万3200円(19万1520円×35か月=670万3200円)であると認め られる。  イ 平成14年1月1日から平成16年4月30日まで  (ア) 平成14年1月1日から平成15年7月31日まで  平成14年1月1日から平成15年7月31日までの1か月当たりの使用料相当額は、 前記(4)ア認定のとおり19万1520円であるから、この19か月間の使用料相当額は、 363万8880円(19万1520円×19か月=363万8880円)であると認め られる。  (イ) 平成15年8月1日から同年12月31日まで  平成15年8月1日から同年12月31日までの1か月当たりの使用料相当額は、前記 (4)イ認定のとおり9万5760円であるから、この5か月間の使用料相当額は、47万 8800円(9万5760円×5か月=47万8800円)であると認められる。  (ウ) 平成16年1月1日から同年4月30日まで  平成16年1月1日から平成16年4月30日までの1か月当たりの使用料相当額は、 前記(4)ア認定のとおり19万1520円であるから、この4か月間の使用料相当額は、 76万6080円(19万1520円×4か月=76万6080円)であると認められる。  (エ) 平成14年1月1日から平成16年4月30日までの使用料相当額は、前記(ア) ないし(ウ)認定の使用料相当額の合計488万3760円(363万8880円+47万 8800円+76万6080円=488万3760円)であると認められる。  (6) 弁護士費用  ア 甲第5号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、弁護士に仮処分手続等及び本件訴 訟の追行を委任せざるを得なかったものと認められ、前記第2、2(5)の仮処分手続等の 経緯、本件訴訟の事案の性質、審理の経過等に鑑みると、被告らによる著作権侵害と相当 因果関係にある損害としての弁護士費用は、使用料相当額の15%に当たる金額とするの が相当であり、被告らは、各期間の使用料相当額の15%に当たる金額につき、弁護士費 用として損害賠償義務を負うとするのが相当である。  イ(ア) 平成11年2月1日から平成13年12月31日まで  前記(5)ア認定のとおり、平成11年2月1日から平成13年12月31日までの使用 料相当額は670万3200円であるから、この期間に対応する弁護士費用は、その15 %に当たる100万5480円と認められる。  (イ) 前記(5)イ(エ)認定のとおり、平成14年1月1日から平成16年4月30日ま での使用料相当額は488万3760円であるから、この期間に対応する弁護士費用は、 その15%に当たる73万2564円と認められる。  (7) 損害の合計額  ア 平成11年2月1日から平成13年12月31日までにつき、管理著作物の使用料 相当額は、前記(5)ア認定のとおり670万3200円であり、弁護士費用は前記(6)イ(ア) 認定のとおり100万5480円であるから、損害の合計は、770万8680円である と認められる。  イ 平成14年1月1日から平成16年4月30日までにつき、管理著作物の使用料相 当額は、前記前記(5)イ(エ)認定のとおり488万3760円であり、弁護士費用は前記 (6)イ(イ)認定のとおり73万2564円であるから、損害の合計は、561万6324 円であると認められる。 5 将来給付請求の必要性について  (1) 甲第4、第5号証によれば、原告の被告らに対する催告等の経緯に関して、次の 事実が認められる。  ア 原告は、被告店舗において、原告の許諾を受けることなく管理著作物が利用されて いることを把握し、平成11年8月12日、被告店舗宛に普通郵便で案内文書を送付し、 被告店舗内における生演奏等について、原告の許諾を得て適法に管理著作物を利用するよ う通知するとともに、音楽著作物利用許諾契約の締結に必要な申込書等手続書類一式を同 封し、無許諾利用期間分の使用料相当額を清算し、音楽著作物利用許諾契約を至急締結す るよう申し入れた。しかし、被告らから原告に対して、連絡はなかった。  イ その後、原告は、複数回にわたって被告店舗宛に督促文書を送付し、原告の許諾を 得て適法に音楽を利用するよう求め、被告店舗に職員又は契約取扱委託員を派遣して、被 告ら又は被告店舗の責任者との接触を度々試みたが、被告らは、これに応じなかった。  ウ 原告は、平成13年10月29日、被告店舗の事務所に電話連絡し、応対したIと 称する女性事務員に対し、音楽著作物利用許諾契約の重要性を説明した上で、被告店舗の 経営者との面談の約束を求めたところ、Iから、「オーナーに確認の上折り返し電話連絡 する。」との申し出があったが、その後もI又は被告らからの連絡はなかった。原告は、 同年11月20日、再度被告店舗の事務所に電話連絡した際、Iから、オーナーの名がB であることを聞いた。  エ 原告は、平成13年12月3日、被告店舗の事務所に職員を派遣し、応対したIに 対し、重ねて音楽著作物利用許諾契約の重要性を説明したところ、Iは、「本件は社長に 伝えてある。社長は事務所には来ないので、これ以上ここに来てもらっても困る。」と返 答したため、原告は、これ以上管理著作物の違法利用を看過できないことを指摘し、音楽 著作物利用許諾契約を至急締結するよう被告Bへ伝言することを依頼した。  オ 原告は、平成14年2月8日、被告Bの自宅宛に配達証明郵便及び普通郵便で、被 告店舗宛に宅配便及び普通郵便で、被告店舗の事務所宛に配達証明郵便及び普通郵便で、 いずれも督促文書を送付し、同文書記載の期日までに適法利用に係る手続を完了しない場 合は、無許諾利用期間分について、原告との間で事前に利用許諾契約を締結した音楽の利 用者が通常月々支払う割安な包括使用料の規定を適用せず、割高な損害金での清算が必要 になることを通知し、改めて音楽著作物利用許諾契約を早急に締結するよう申し入れた。 しかし、被告らからは連絡がなかった。  カ 原告は、平成14年3月19日、被告Bを相手方として民事調停を申し立てたが、 被告Bは調停期日に出頭せず、同調停は、同年6月7日、不成立となった。  キ 原告は、平成14年7月31日、被告Aの自宅に職員を派遣したが、同人が不在で あったため、同職員は、同年8月7日までに申込書を提出するか、原告宛に至急電話連絡 するよう記載した書面を、申込書類や民事調停不成立証明書等に添付して郵便受けに投函 したが、被告らから連絡はなかった。  ク 原告は、平成14年10月1日、被告らの各自宅宛に、配達証明郵便及び普通郵便 で、被告店舗及び事務所宛に宅配便で、いずれも警告書を送付し、被告らに対し、損害金 の支払と今後の音楽著作物利用許諾契約の締結を直ちに行うよう通知するとともに、同文 書記載の期日までに手続を完了しない場合は、相応の措置をもって対応することを伝えた。  (2) 前記(1)アないしク認定のとおり、被告らは、原告による再三の催告等に応じなか ったものであり、前記1(3)、(4)認定のとおり、被告Aは、仮処分決定、仮処分の執行、 仮処分を認可する旨の仮処分異議決定が行われたにもかかわらず、被告店舗において、管 理著作物の著作権侵害行為を継続している。そして、弁論の全趣旨によれば、管理著作物 の演奏は、飲食店(クラブ)としての雰囲気を作るために必要性が高く、その営業と密接 に結びついているものと認められ、被告店舗の営業が続けられる限り、反復継続される性 質の行為であると認められる。したがって、被告Aは、今後も、原告の許諾を受けずに被 告店舗における管理著作物の利用を継続するおそれが強いものと認められ、将来の使用料 相当額の損害賠償についても、予めその請求をする必要があると認められる。 6 結論  (1) 被告Aは、被告店舗において管理著作物を使用して著作権侵害行為を継続してい るから、その使用を差し止める必要があるというべきである。したがって、著作権法11 2条1項に基づき、被告Aに対し、被告店舗における管理著作物の使用差止めを求めるこ とができる(主文第1項)。  (2) 前記第2、2(4)イのとおり、別紙物件目録記載の物件は、管理著作物の演奏に使 用されるものであるから、その撤去を求めることは、著作権(演奏権)の侵害を停止又は 予防するために必要な行為に該当するというべきである。したがって、著作権法112条 2項に基づき、被告Aに対し、被告店舗からの別紙物件目録記載の物件の撤去を求めるこ とができる(主文第2項)。  (3) 被告店舗内に電子オルガン、キーボード、ウッドベース、エレクトリックベース その他の楽器類、及びマイク、ベースアンプ、ミキサーアンプ等の音響装置を設置するこ との差止めを求めることは、著作権(演奏権)の侵害を停止又は予防するために必要な行 為に該当するというべきである。したがって、著作権法112条2項に基づき、被告Aに 対し、それらの楽器類及び音響装置の設置の差止めを求めることができる(主文第3項)。  (4) 前記3(2)ア認定のとおり、平成11年2月1日から平成13年12月31日まで の被告店舗における管理著作物の著作権侵害行為は、被告Bと被告Aによる共同不法行為 であり、前記4(7)ア認定のとおり、同期間の損害の合計は770万8680円である。 また、遅延損害金は、各月の使用料相当額(別紙遅延損害金目録1の元本欄記載の各金員) に対する不法行為の後である各翌月1日(別紙遅延損害金目録1の起算日欄記載の各年月 日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、及び弁護士費用100 万5480円に対する不法行為の後である平成16年6月4日(本件訴状送達の日の翌日) から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。し たがって、原告は、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償として、被告らに対し、 各自上記金員を支払うよう求めることができる(主文第4項)。  (5) 前記3(2)イ認定のとおり、平成14年1月1日から平成16年4月30日までの 被告店舗における管理著作物の著作権侵害行為は、被告Aによる不法行為であり、前記4 (7)イ認定のとおり、同期間の損害の合計は561万6324円である。また、遅延損害 金は、各月の使用料相当額(別紙遅延損害金目録3の元本欄記載の各金員。前記4(4)イ 認定のとおり、平成15年8月1日から同年12月31日までの1か月当たりの使用料相 当額は9万5760円であるから、別紙遅延損害金目録2と同目録3は、その点が異な る。)に対する不法行為の後である各翌月1日(別紙遅延損害金目録3の起算日欄記載の 各年月日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、及び弁護士費用 73万2564円に対する不法行為の後である平成16年6月4日(本件訴状送達の日の 翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができ る。したがって、原告は、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償として、被告Aに 対し、上記金員を支払うよう求めることができる(主文第5項)。  (6) 前記5(2)認定のとおり、被告Aは、今後も、原告の許諾を受けずに被告店舗にお ける管理著作物の利用を継続するおそれが強いものと認められ、将来の使用料相当額の損 害賠償についても、予めその請求をする必要がある。したがって、原告は、著作権侵害に よる不法行為に基づく損害賠償として、被告Aに対し、平成16年5月1日から、被告店 舗において管理著作物の演奏を停止するまで、毎月末日限り、1か月当たり19万152 0円(使用料相当額)の割合による金員を支払うよう求めることができる(主文第6項)。  (7) よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山田 知司    裁判官 中平 健    裁判官 守山 修生