・東京地判平成17年3月15日  「燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ」事件:第一審  原告Aは訴外(株式会社テレビマンユニオン)に所属するディレクターであったが、昭 和50年に原告会社(株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィ)を設立して以降、原 告会社の代表取締役である。  被告(ユニバーサルミュージック株式会社)の前身である日本フォノグラム株式会社は、 B、C、D、Eをメンバーとするロックバンド「キャロル」が所属していたレコード会社 であったが、平成12年に音楽関係の事業を被告に営業譲渡した。被告は、これにより、 日本フォノグラムが有する音楽関係の著作権その他すべての権利関係を承継した。  昭和50年4月13日、キャロルの解散コンサートが行われたとき、『グッドバイ・キ ャロル』と題するドキュメンタリー映画(本件作品)が製作された。本件作品の撮影は、 原告会社によって行われ、原告Aが監督をした。本件作品は、同年7月12日、株式会社 東京放送(TBS)により放送された。  日本フォノグラムは、昭和59年ころ、本件作品を編集し直し、『燃えつきるキャロル ・ラスト・ライブ』と題するビデオカセット商品として製作販売し、この際、モノラルか らステレオへの音源の入れ替え、映像の劣化や肖像権の問題等に対処するため、映像の編 集を行ったが、日本フォノグラムは、この編集作業を原告会社に依頼し、原告会社がこの 編集作業を行った。本件ビデオの発売に関して、日本フォノグラムは、原告Aに許諾料を 支払う旨の提示はしなかった。  被告は、平成15年1月22日、『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』と題するD VD商品を製作販売した。本件DVDは、本件ビデオの媒体をDVDにしたもので、本件 ビデオと映像が同一である。被告は、本件DVDの製作及び販売について、原告会社から 明示の許諾を受けていない。  また、被告は、本件DVDと同時に『ザ★ベスト』と題するキャロルのベスト盤CDを 発売した。被告は、この両商品の宣伝のために、いわゆるプロモーションビデオ映像を作 ろうと企図し、本件作品の一部を使用して合成し、ワイプ処理で切り刻んだような効果の 編集をするなどして、「ファンキー・モンキー・ベイビー」のプロモーション映像を製作 した(本件プロモーション映像)。被告は、本件プロモーション映像をテレビ放映、街頭 大型ビジョン上映、レコードショップ店頭上映、本社受付等での上映などを行うことによ って、本件CD及び本件DVDを宣伝した。また、本件プロモーション映像を、本件CD の初回購入特典として、DVDに収録し(特典DVD)、これを本件CDに付加して販売 した。被告は、本件プロモーション映像及び特典DVDの映像製作及びその利用について 、原告会社から明示の許諾を受けていない。また、本件プロモーション映像及び特典DV Dにおいては、そのオリジナル映像を撮った監督が原告Aである旨の記述はない。  本件は、原告会社が本件作品の著作権(複製権、頒布権、上映権、放送権及び翻案権) に基づき、原告Aが著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)に基づき、被告に対し、 本件ビデオ及び本件DVDが本件作品を複製したものであり、特典DVD及び本件プロモ ーション映像が本件作品を翻案し、著作者人格権を侵害するものであるなどと主張して、 @著作権法112条1項に基づき、本件ビデオ、本件DVD及び特典DVDの複製及び頒 布の差止め並びに本件プロモーション映像の複製、上映、放送等の差止め、A同条2項に 基づき、特典DVD及び本件プロモーション映像のマスターテープの廃棄、B民法709 条に基づき、損害賠償、C著作権法115条に基づき、謝罪広告を請求した事案である。  判決は、「本件作品の著作者は原告Aであり、著作権者は原告会社である」とした上で、 「本件ビデオの複製頒布については、許諾に基づくものであり、著作権侵害とはいえない」 としたものの、「本件DVDを複製、頒布した行為は、複製権侵害に該当する」、「特典 DVD及び本件プロモーション映像は、本件作品に係る原告会社の翻案権並びに原告Aの 同一性保持権及び氏名表示権を侵害する」と述べて、原告の差止および損害賠償請求を認 容した。 (控訴審:知財高判平成18年9月13日、上告審:最判平成19年1月18日) ■評釈等  奥邨弘司・L&T30号53頁(2006年) ■争 点 (1) 本件作品の著作者及び著作権者は誰か。 (2) 本件ビデオは原告会社の著作権を侵害するか。 (3) 本件DVDは原告会社の著作権を侵害するか。 (4) 特典DVD及び本件プロモーション映像は原告会社の著作権及び原告Aの著作者人 格権を侵害するか。 (5) 損害の発生の有無及びその額 (6) 謝罪広告の必要性 ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 証拠から認められる事実  (1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。  ア 昭和50年4月13日、B、C、D及びEをメンバーとするロックバンド「キャロ ル」の解散コンサートが行われた。  解散コンサートは、キャロルのマネージメント会社であったバウハウスの社長であるG が企画し、バウハウスがコンサートの運営に関する一切の業務を行った。すなわち、バウ ハウスは、解散コンサートの会場の選択、会場費用の支払、機材の搬入と費用の支払、キ ャロルメンバーへの報酬支払、コンサートスタッフの費用の支払、コンサートのポスター やチラシの製作、保険契約の締結(乙28ないし30)等のコンサートの運営に関する一 切の業務を行い、コンサート費用一式の支払をした(乙23の1、24の1及び2、25 の1及び2)。Gは、ラストライブのステージをどのように構成するかを考え、コンサー ト全体のプロデュースを行った。コンサートのちらし(乙27)には、「企画・制作★バ ウハウス」との記載がある。  イ 原告Aは、Gと合意の上、解散コンサートの撮影をすることになった。同原告は、 昭和50年4月9日、テレビ番組を中心とする映像製作を目的とする原告会社を設立した。  本件作品の撮影は、原告会社によって行われ、原告Aが監督をした。原告会社は、カメ ラマン、音声等スタッフと撮影・音声機材等を、テレビ技術会社である株式会社パビック (以下「パビック」という。)に発注して行った。パビックは、原告Aと事前の打合せを 行い、同原告の指示に従ってカメラ位置を定め、撮影したものである(甲10、11、2 7)。  解散コンサート当日、コンサート会場での演奏の収録は、4台のカメラを中継車につな ぎ、ライブ演奏に合わせてカメラを切り換え、スイッチングで1本化して録画した(甲2 7)。カメラは、ステージ後方ドラムスの後のイントレの上に固定カメラ1台と舞台の上 に手持ちカメラ1台、客席の中のイントレの上に固定カメラ2台の陣容で撮影した(甲2 4ないし27)。原告Aは、オープンカーに乗ったキャロルのメンバー4人が親衛隊クー ルズのバイクに囲まれ併走しながら1人ずつ解散への想いを語るシーンを、大型VTR録 画機を積み込んだ車を走らせながら、ハンディカメラでキャロルやクールズを狙って撮る という、当時としては新しいビデオ撮影方法を採用した(甲10、27)。   ウ 当時、原告Aとしては、本件作品を製作するにあたり、製作費の工面は二の次のよ うなところはあったが、事前に当てがあるに越したことはないと考え、以前から面識のあ ったTBSのプロデューサーJ及びKに相談に行った。しかし、企画段階ではTBS側が 難色を示し、撮影編集済みの映像を見て、良ければ放送するとの対応だったので、自主制 作で撮影編集等を行うことになった(甲27)。  原告らは、解散コンサートから数日後に行った番組全体の編集作業で、スイッチングで 1本化して録画したものと、ハンディカメラでのファンへのインタビュー等を原告Aの演 出方針に従って構成し、やや長めの時間で編集した(CM抜きで正味51分。検甲1)。 原告Aは、このように編集して完成した映像(TBSのスタッフ表示のスーパーテロップ 等を入れていないもの)をTBSのJプロデューサーに持ち込み、その形で試写を行った。 そして、その結果として、本件作品をTBSで放映できることになった(甲3、27)。  その後、原告Aは、TBSの指示で、番組として決められた時間ちょうどになるように (CM抜きで正味48分)編集し直した(検甲2)。編集段階で、原告Aは、編成も兼務 していたKプロデューサーに確認を取り、TBSの指示通り黒味を入れ、TBSからの指 示により、Kプロデューサーの名前と制作著作TBSのスーパーテロップを入れて納品し た(甲27、検甲2)。なお、CMを挿入するには、Kに連絡してCMの回数・秒数を確 認することが不可欠であり、テレビ局のフォーマットを知らなければテレビ局へ納品すら できない(甲27)。  エ 原告会社は、昭和50年6月19日、TBSとの間で、TBSでの1回の放送に限 って、本件作品の放送権を譲渡する旨の契約を締結した(甲39)。対価は150万円で あり(3条)、TBSから原告会社に支払われた。  本件作品は、同年7月12日、TBSの「特番ぎんざNOW!」という番組において、 『グッドバイ・キャロル』のタイトルで、テレビ放送された(甲1の1)。  なお、TBS放送前のクレジットは、「技術 パビック、プロデューサー L(原告会 社社員)・G、ディレクター A、制作協力 テル・ディレクターズ・ファミリィ」とな っており、TBSで放送されたクレジットは、「技術 パビック、プロデューサー L・ K、ディレクター A、制作協力 テル・ディレクターズ・ファミリィ、制作著作 TB S」となっている(甲38、検甲1、2)。  原告会社がTBSと契約した後で、日本フォノグラムから原告会社に話があり、地方テ レビ局への番組販売権は、日本フォノグラムへ譲渡することにしたが、対価は支払われて いない(原告本人)。原告Aは、このとき日本フォノグラムのHに対し、TBS放送用に 加工したテープの一段階前の編集途中のテープを地方番組販売用(地方番販用)として引 き渡した(原告本人)。  そして、本件作品は、昭和50年7月12日から翌51年5月1日まで、TBSをはじ め多数回全国で放送され(甲40)、その詳細は、原告会社にも報告されていた。  オ 当時の新聞には、本件作品は原告会社の第1回作品として報道された(甲1の1)。 原告会社も、自社の第1回制作番組として本件作品を広告していた(甲2)。  カ 本件作品の撮影費については、パビックの技術料は200万円を超えたが、初製作 でもあり、値引きをした200万円を原告会社からパビックに支払った。また、撮影機材 を提供したパビックが原告会社に対し、火災で被った損害101万7000円を請求した ので(乙26の2)、いったん原告会社はこれをパビックに支払った上、バウハウスに請 求し(乙26の1)、Gからその支払を受けた。その他編集費や人件費などを合わせると、 本件作品の製作に合計で約400万円を要した(原告本人)。  (2) 前記(1)の認定の事実によれば、原告Aは、本件作品の企画段階から完成に至るま での全製作過程に関与し、本件作品の監督を務め、撮影機材等の手配をし、クールズを撮 影することやファンのインタビューを入れることなど作品の内容を決定し、撮影、編集作 業のすべての指示を自ら行ったものということができる。  (3) 被告は、以上認定の事実に反する主張をするので、以下検討する。  ア 製作の経緯について  被告は、本件作品は、日本フォノグラムにおいて、解散コンサートのLPレコードのプ ロモーションに使用すること等を目的として製作が決定された旨主張し、日本フォノグラ ムのキャロル担当のディレクターであったM及びHの陳述書(乙5、6)、Gの陳述書 (乙4、23の1)にも同旨の記載がある。  他方、原告らは、昭和50年当時は、レコード会社がプロモーションのためにアーティ ストの映像を撮るという考えはなかったと主張し、原告Aの本人尋問の結果及び陳述書 (甲27)、Fの陳述書(甲5)、株式会社ワーナーパイオニアの洋楽部制作課長であっ たNの陳述書(甲12)にも同旨の記載がある。  昭和50年当時、洋楽では既にアーティストの映像を用いたレコードの宣伝がされてい たこと(乙6、13)、昭和50年には、家庭用ビデオテープレコーダーが販売されてい たこと(乙11)、本件作品が全国で多数回テレビ局で放送されていることなどの事実に 照らせば、昭和50年当時にレコード会社がプロモーションのために映像を撮ることは、 あり得ないこととはいえないと解される。そして、キャロルのメンバーであるBもプロモ ーションのために撮影を行うことを認識していたこと(乙20)、LPレコードが発売さ れたこと(乙7)、本件作品が日本フォノグラムを通じて、全国で多数回テレビ放送され ていること(甲40)などからすれば、少なくとも日本フォノグラムの側は、LPレコー ドのプロモーションに使用するつもりであったものと推認される。  他方、原告Aが、前記のように自らTBSへ本件作品を売り込んでいることからすると、 原告Aは、日本フォノグラムが本件作品をプロモーション用に使用するつもりであったこ とを知らなかったものと推認される。そして、原告Aが述べるように、同原告が撮影を思 い立ち、Gないしバウハウスや日本フォノグラムに許諾を求めたのか、Gを始めとする被 告側関係者が述べるように、バウハウスが原告Aに撮影を依頼したのかを、直ちに確定す ることはできない。  したがって、原告AとG及び日本フォノグラムとの間には、認識に差があるままに、原 告Aにおいて解散コンサートを撮影することだけを合意して、撮影が行われたのではない かとも推測されるが、いずれにせよ、原告Aが本件作品の企画段階から完成に至るまでの 全製作過程に関与し、本件作品の全体的形成に創作的に寄与したことを左右するに足りな い。  イ 撮影、編集の段取りについて  (ア) 被告は、Gが原告会社に撮影を依頼した旨主張し、日本フォノグラムの社員Oの 陳述書(乙1)にも、日本フォノグラムが原告会社に撮影を依頼し、日本フォノグラムの 指示に従って、原告会社が撮影編集した旨の記載がある。  しかしながら、Oは、本件作品が撮影された昭和50年4月に日本フォノグラムに入社 したばかりの新入社員であって、解散コンサートでチーフカメラマンを務めたPも舞台監 督を務めていたQも、撮影現場で日本フォノグラムが何か指示したことは全くないし、O が解散コンサートの撮影に立ち会っていたことの記憶もないと述べており(甲10、11)、 Oのような新入社員が撮影に関して何らかの指示を出せるような立場にいたとは考えにく い。  また、Oは、原告Aが、ステージの前後に固定した2台のカメラと移動する2台のカメ ラが捉える合計4つの映像から1つを選択し、編集する等の作業を行った旨述べるが(乙 1)、次のaないしcに照らし、措信し難い。  a 当時の撮影状況について、カメラは、ステージ後方ドラムスの後のイントレの上に 固定カメラ1台と舞台の上に手持ちカメラ1台、客席の中のイントレの上に固定カメラ2 台の陣容であったことは、当時の写真からも客観的に明らかであり(甲24ないし26)、 Oの陳述書に記載されているカメラの陣容は誤っていること。  b 本件作品は、そもそも2インチテープに録画されたものであるところ、昭和50年 当時の2インチVTR録画機は、大きくて1台の重量は数トンもある上高価であり(甲3 0、31)、これを4台も手配して、4台のカメラの映像をそれぞれ別の2インチVTR 録画機に収録することは不可能であったこと(甲27)。  c テープに収録された画像は、映画フィルムのようには目で見ることができないので、 編集するにはテープに記録されたタイムコードを介して行わなければならないが、2イン チVTR時代にはタイムコードは実用化されておらず、そのような編集は全く不可能であ ったから(甲32)、当時は4つの映像を編集室において1つに編集する方法自体が開発 されておらず、4台のカメラで別々に録画したコンサート映像を編集することはできない こと(甲27)。  (イ) なお、被告は、撮影終了後、マスターテープは日本フォノグラムが買い取って保 管し、原告らから本件作品のマスターテープの引渡しを要求されたことはない旨主張し、 Oの陳述書(乙1)及びGの陳述書(乙4、23の1)にも、同旨の記載がある。  しかしながら、Gが撮影テープを原告Aから買い取ったことの裏付けであるとするメモ (乙23の2)は、何のビデオかも特定されておらず、不明確なものであること、また、 原告Aは、後述のとおり、その後、TBSにテープを持ち込んで放映してもらうよう交渉 し、TBSの指示によりCMを入れるための編集作業をしているのであるから、すべての 権利をGに譲渡していたとは考えられないことからすれば、被告関係者の上記陳述は、直 ちに措信し難い。上記陳述は、原告AがTBS用のテープを編集し終わった後で、地方番 販用のテープを日本フォノグラムに引き渡した事実と混同している可能性を否定できない。  (ウ) よって、原告らの主張どおり、撮影及び編集作業は、原告ら主導で行われ、日本 フォノグラムは、ほとんど関与しなかったと認められる。  なお、Gは、クールズを撮影するなどのアイデアをGが提供したと陳述するが(乙4)、 たとえそうであったとしても、それは単にアイデアを提供しただけであり、撮影を日本フ ォノグラム又はGが主導して行っていたことにはならない。また、Gが行ったという打合 せ等は、解散コンサートの主催者としての決定及び協力であり、著作物たる本件作品の製 作を主導して行っていたことにはならない。  ウ TBSでの放送について  被告は、日本フォノグラムが働きかけて本件作品がTBSで放送された旨主張し、Gの 陳述書(乙23の1)及びHの陳述書(乙6)にも同旨の記載がある。  しかしながら、当時TBSのプロデューサーであったJの陳述書(甲3、8)及び当時 TBSの編成兼務で「ギンザNOW」のプロデューサーをしていたKの陳述書(甲4、9) には、日本フォノグラムでキャロルを担当していたHからもUからも、同人らに対して何 らの交渉や連絡はなかったことが記載されていることに照らし、G及びHの上記陳述は信 用できない。また、TBSと原告会社の契約書(甲39)が存在することからすると、T BSに本件作品を持ち込んで放映してもらったのは、原告会社であり、放送権料もTBS から原告会社へ支払われていると認められる。  エ 費用の負担について  (ア) 被告は、本件作品製作のための費用はGが負担し、日本フォノグラムが原告会社 に支払った旨主張し、Gの陳述書(乙4、23の1)、Mの陳述書(乙5)及びHの陳述 書(乙6)にも同旨の記載がある。  しかしながら、日本フォノグラムが撮影費用として200万円を原告会社に支払ったこ とについては、原告Aは否認しており、これを認めるに足りる客観的な証拠はない。むし ろ、前記認定のとおり、原告Aが日本フォノグラムに相談することなく、TBSに本件作 品を持ち込み、TBSにより放送されて150万円の対価の支払も受けていることからす ると、原告Aが本件作品の撮影費用を負担しており、それを回収するためにTBSに本件 作品を持ち込んだとも推測できる。  なお、原告Aは、妻から借金をするなどして本件作品の製作に要した約400万円を負 担した旨供述するが(原告本人)、原告会社が本件作品の製作費をすべて負担したと認め るに足りる客観的な証拠があるわけではない。  (イ) また、前記1(1)アのとおり、解散コンサートは、Gが企画し、バウハウスがコ ンサートの運営に関する一切の業務を行い、コンサート費用一式の支払をしたものである。 しかし、これは、あくまでもコンサートの主催に関する費用であり、クールズのオートバ イ走行やファンへのインタビュー等が含まれた本件作品の製作の費用とは異なるものであ るから、バウハウスが、解散コンサートの運営に関する費用の支払をしたことをもって、 本件作品の製作に関する費用をすべて日本フォノグラム又はバウハウスが負担したとまで は認められない。  (ウ) このように、費用の負担に関しては、原告会社の側も日本フォノグラム又はバウ ハウスの側もすべての費用を負担したとまではいえない。 2 争点(1)(著作者及び著作権者)について  (1) 本件作品の著作者  著作権法16条は、「映画の著作物の著作者は、・・・(中略)・・・制作、監督、演 出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」 と規定している。  本件においては、前記1で認定したとおり、原告Aは、本件作品の企画段階から完成に 至るまでの全製作過程に関与し、本件作品の監督を務め、撮影機材等の手配をし、クール ズを撮影することやファンのインタビューを入れることなど作品の内容を決定し、撮影、 編集作業のすべての指示を自ら行っており、本件作品の「全体的形成に創作的に寄与した 者」と認められる。  したがって、本件作品の著作者は、原告Aである。  (2) 著作権法15条(職務著作)の主張について  被告は、本件作品は、日本フォノグラムの職務著作であると主張する。  ア 著作権法15条1項は、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下にお ける職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公 表されるという実態があることにかんがみて、同項所定の著作物の著作者を法人等とする 旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには、著作物を 作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして、法人等と雇用 関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、 同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者と の関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態に あり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうか を、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に 考慮して、判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第216号 同15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁)。  イ 日本フォノグラムと原告Aとの間には、雇用関係は認められない。そこで、原告A が日本フォノグラムの指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がそ の者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを検討する。  前記1(3)アのとおり、原告AとG又は日本フォノグラムとの間に、本件作品の撮影を することについて合意があったことは認められるが、G又は日本フォノグラムが原告Aに 撮影を委託したものであるのか、原告AがG又は日本フォノグラムに撮影の許可を求めた ものであるのかは、明確には認定できない。  しかし、仮にG又は日本フォノグラムが原告Aに撮影を委託したものであったとしても、 前記1(1)イ及び1(3)イで認定したとおり、本件作品の内容の決定、撮影、編集等は、す べて原告A又は原告会社によって行われ、日本フォノグラムは製作に全く関与していなか ったこと、前記1(1)ウで認定したとおり、原告Aは、本件作品を日本フォノグラムに相 談なく、TBSと交渉して放送に至ったことからすると、本件作品の製作に関して、原告 Aは日本フォノグラムの指揮監督下にあって、日本フォノグラムの手足として撮影だけを 担当したものとはいえず、原告Aと日本フォノグラムは、映画製作会社とレコード会社の 対等な契約関係を前提として、本件作品の撮影を行ったものであると認められる。  なお、日本フォノグラムから原告Aに本件作品に関し支払った金銭があるか否かは明ら かでないが、仮に撮影代金が支払われているとしても、パビックへの支払など、撮影に関 する支払は、すべて原告A又は原告会社から行われていることは、前記1(1)カ認定のと おりであるから、上記認定を左右するに足りない。  したがって、原告Aは、日本フォノグラムの「業務に従事する者」には該当しない。  ウ 原告Aが「業務に従事する者」に該当しないことに加えて、本件作品が、日本フォ ノグラムの名義の下に公表されたものではないこと(甲38、検甲1、2)に照らしても、 本件作品が日本フォノグラムの職務著作であるとの主張は、理由がない。  (3) 本件作品の著作権の帰属  ア 著作権法29条1項は、「映画の著作物・・・(中略)・・・の著作権は、その著 作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、 当該映画製作者に帰属する。」と規定している。そして、同法2条10号は、映画製作者 とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。」と規定している。  著作権法29条が設けられたのは、@従来から、映画の著作物の利用については、映画 製作者と著作者との間の契約によって、映画製作者が著作権の行使を行うものとされてい たという実態があったこと、A映画の著作物は、映画製作者が巨額の製作費を投入し、企 業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作物であること、B映画には著作者の 地位に立ち得る多数の関与者が存在し、それらすべての者に著作権行使を認めると映画の 円滑な市場流通を阻害することになることなどを考慮すると、映画の著作物の著作権が映 画製作者に帰属するとするのが相当であると判断されたためである。  著作権法2条10号の文言と上記の趣旨からみて、「映画製作者」とは、映画の著作物 を製作する意思を有し、同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であっ て、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者 のことであると解すべきである。  イ 前記(2)イで認定したとおり、仮に日本フォノグラム又はバウハウスのGが原告A に本件作品の撮影を委託したものであったとしても、原告Aは、日本フォノグラム又はバ ウハウスの指揮監督下にはなく、日本フォノグラム又はバウハウスと対等な契約関係にあ ったものである。  そして、前記1(1)ウで認定したとおり、原告会社は、本件作品を日本フォノグラムに 相談することなく、TBSと交渉して放送に至っており、本件作品の納品先は日本フォノ グラム又はバウハウスではなく、TBSであったと考えられること、TBSとは、対等に 契約を締結して報酬を受け取っていることが認められ、TBSでの放送後に日本フォノグ ラムが本件作品を各地方で多数回放映していることについては、原告Aが地方番組販売権 を日本フォノグラムに譲渡したと供述していること(原告本人)と矛盾しない。  さらに、前記1(1)カで認定したとおり、仮に最終的には日本フォノグラムから原告A に撮影代金が支払われていたとしても、パビックへの支払など、撮影に関する支払は、す べて原告会社が行っていること、また、前記1(1)イ及び1(3)イで認定したとおり、解散 コンサートを主催し、開催費用を負担したのはバウハウスのGであっても、本件作品に係 るパビックへの支払、機材調達等、撮影に関する事項は、対外的手続も含め、すべて原告 会社が行っていると考えられること、本件作品の撮影方針等には、日本フォノグラム及び バウハウスは、全く関与していないことが認められる。  これらの事実からすると、原告会社は、@特にTBSとの関係において、本件作品に関 する権利が帰属する主体として契約を締結し、放送権料に関する経済的な収入の主体とな っており、Aパビックに対しては、撮影を発注する主体として契約を締結し、撮影費用等 に関する経済的な支出の主体となっており、B日本フォノグラムに対しても、本件作品の 著作権が帰属する主体として、地方番組販売権を日本フォノグラムに譲渡したものである。 したがって、本件において、映画の著作物を製作する意思を有し、同著作物の製作に関す る法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関 する経済的な収入・支出の主体ともなる者に該当するのは、原告会社であると認められ、 日本フォノグラム又はバウハウスではない。  よって、本件作品の映画製作者は、原告会社である。  (4) 著作権の譲り受けについて  被告は、昭和50年4月18日にテープの編集を終え、完成版のビデオを原告らがGに 引き渡し、著作権がGに譲渡されたと主張する。  しかしながら、前記1(3)イ(イ)認定のとおり、裏付けとなるメモは、何のビデオかも 特定されておらず、不明確なものであること、その後、原告AがTBSにテープを持ち込 んで放映してもらうよう交渉していること、TBSの指示によりCMを入れるための編集 作業を原告Aが行っていることからして、原告らがGにテープを引き渡した事実があった とは認められない。  したがって、被告の上記主張は理由がない。  (5) その余の被告の主張について  ア 被告は、当時、キャロルと専属契約を締結していたのは、日本フォノグラムであり、 日本フォノグラムのみが、適法に撮影を行い、その映像を固定する権限を有していたと主 張する。  確かに、日本フォノグラムとキャロルのメンバーは、昭和47年11月10日、専属契 約を締結しており(乙8)、その第5条には、レコーディングされた原盤の所有権及び録 音物、録画物に関する著作権法上のすべての権利は日本フォノグラムに帰属すると記載さ れていた。また、日本フォノグラム及びGとBとは、昭和50年5月15日、キャロルの 解散コンサートのレコードに関する契約を締結しており(乙7)、第4条には、日本フォ ノグラムは、録音物又は録画物を発売した場合、GとBに対し、原盤製作協力印税(印税 率3.75%)を支払うとされ、第8条には、本契約に基づき製作された原盤の所有権、 原盤権及び著作権法上のすべての権利は日本フォノグラムに帰属するものとするとされて いる。  しかしながら、そもそも上記各契約が、解散コンサートそのもののみならずクールズの オートバイやファンのインタビューをも内容に含む、ドキュメンタリー映画たる本件作品 を直接の対象としているか否かは必ずしも明確ではないから、これらの契約の存在をもっ て、日本フォノグラムが本件作品の映画製作者であることの根拠とはいえない。仮に、B や日本フォノグラムが、上記各契約により本件作品の著作権等の権利が日本フォノグラム にあることを前提としていたとしても、上記各契約は、あくまで日本フォノグラムとBな いしキャロルのメンバーとの契約であって、本件作品の著作権の原始的な帰属主体である 原告会社の関与しないところで、本件作品の著作権の帰属主体が第三者の合意によって決 められるものではない。  また、Bと日本フォノグラムは、昭和52年10月31日、Bの実演に係るキャロルの フィルムを上映又は第三者に許諾するときは、Bと協議する旨の覚書を締結したが(乙3)、 その中で、本件作品は、日本フォノグラムの制作・著作であることを確認している。  しかしながら、Bの行動は、必ずしも原告Aの意を受けたものであるとはいえないし、 当事者間の意識にかかわらず、著作権の原始的な帰属主体は著作者である(著作権法17 条)から、客観的に著作者としての要件を満たさない者について、著作権が原始的に帰属 することはあり得ず、これらの事実のみをもって、日本フォノグラムが著作権者であると 認めることはできない。  イ 被告は、日本フォノグラムが地方のテレビ局に放送させ、本件ビデオを販売したこ とをもって、著作権を有する根拠であると主張する。  しかしながら、地方のテレビ局による放送については、前記認定のとおり、原告会社が 日本フォノグラムに対し本件作品の著作権のうち、地方番組販売権を譲渡したものである から、著作権帰属の根拠とはなり得ない。また、本件ビデオの販売についても、後記3の とおり、原告らが許諾を与えていたことに照らせば、日本フォノグラムが著作権を有する ことの根拠とはなり得ない。  ウ したがって、本件作品の著作権は、著作権法29条により、原告会社に帰属すると 認められる。  (6) 小括  以上によれば、本件作品の著作者は原告Aであり、著作権者は原告会社である。 3 争点(2)(本件ビデオ)について  (1) 争いのない事実及び証拠によれば、次の事実が認められる。  ア 本件ビデオは、昭和59年に編集販売されたものであるが、本件ビデオの編集作業 は、原告Aにおいて、自らが編集をやらないのであれば、本件ビデオの販売には同意しな いと主張して、原告Aが行ったものである。編集作業には、原告会社が日本フォノグラム に地方番販用に引き渡したテープと、原告会社が持っていたTBSで放送したテープを使 用した(原告本人)。  本件ビデオを発売する際、編集が必要だった理由は、キャロルの親衛隊として参加して いた者の中に本件ビデオにはしてほしくないと言う者がいたり、他のレコード会社の専属 アーティストになっていた者が登場する部分を削除する必要があったからである。写真に ついての利用許諾を得たのは日本フォノグラムである(乙1)。  イ 本件ビデオには、本件作品の映像に加えて、「涙のテディーボーイ」と「やりきれ ない気持」の映像が加えられているが、これも原告Aが撮影して、加えたものであり(T BS放送前のテープ(検甲1)には入っていたもの)、本件作品から大きく変わったわけ ではない。本件ビデオは、別紙2及び3を比較して明らかなとおり、本件作品と曲の順番 が変動し、ファンのインタビューが多少カットされ、クールズの走行シーンが多少カット され、Vのモノローグがカットされ、ところどころにキャロルの写真が挿入されている。 また、この編集作業で、音源をモノラルからステレオに差し替えられた。なお、本件ビデ オの内容は検甲第3号証と同じである。  ウ 本件ビデオのパッケージには、「制作・著作・発売元日本フォノグラム株式会社」 と記載されている(乙1)。本件ビデオを発売するときの歌詞カードのクレジットは、デ ィレクターが原告A、プロデュースが原告会社となっている(甲6)。  (2) 著作権侵害の成否  著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるも のを再製することをいうと解すべきである(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年 9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁)。そして、複製には、表現が完全 に一致する場合に限らず、具体的表現に多少の修正、増減、変更等が加えられていても、 表現上の同一性が実質的に維持されている場合も含まれるというべきである。  本件ビデオは、前記(1)イのとおり本件作品を編集し直したものであり、具体的表現に 多少の修正、増減、変更等が加えられているものの、表現上の同一性が実質的に維持され ていると評価することができるので、本件作品の複製に該当する。  他方、前記(1)ア記載のとおり、本件ビデオの編集作業は、原告Aが、編集を原告A自 らにやらせないのであれば、本件ビデオの販売には同意しないと主張して、その結果自ら 編集作業を行ったものである。  原告Aも、その本人尋問において、ビデオを作成して販売することに関しては、Bがバ ーターで話を決めてきたことなので、納得していると供述しているとおり、本件ビデオに ついては、原告A又は原告会社は、本件作品の複製物であることを認識した上で、複製販 売を日本フォノグラムに許諾していたものと認められる。  したがって、本件ビデオの複製頒布については、許諾に基づくものであり、著作権侵害 とはいえない。  (3) 原告会社は、対価が支払われることを条件にして、本件作品を有償でビデオ化す ることを許諾したのであるから、対価が支払われなければ著作権侵害に該当すると主張す る。   しかし、原告Aは、このような条件を日本フォノグラムに対して提示しておらず、対価 を支払うとの合意がされた証拠はない。その後、本件ビデオ発売後平成14年末まで、原 告会社が日本フォノグラムに対しても被告に対しても、本件ビデオについて著作権使用料 の請求をしていなかったことに照らすと、原告会社は、日本フォノグラムに対し、本件作 品を無償で本件ビデオとして発売することを許諾したものと認められる。  なお、仮に対価の支払の条件を留保した上での許諾であったとしても、著作権法63条 2項で許諾を得た者は、「その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において」、その許 諾に係る著作物を利用することができると規定されているところ、対価の支払は、「条件」 には当たらないと解すべきであるから、利用者が対価を支払わない場合であっても、その 利用が著作権侵害になるわけではない。  したがって、原告らの本件ビデオに関する主張は、理由がない。  (4) 小括  以上のとおり、本件ビデオは、本件作品に係る原告会社の著作権を侵害するものとはい えない。 4 争点(3)(本件DVD)について  (1) 争いのない事実及び証拠によれば、次の事実が認められる。  本件DVDは、本件ビデオと映像は同一である。そして、本件DVDのクレジットは、 「Director A、Produced by TELL DIRECTOR'S FAMILY、CNIPPON PHONOGRAM CO.,LTD.、P resented by MUSIC TOKYO COMPANY」となっている(検甲3、弁論の全趣旨)。  (2) 著作権侵害の成否  本件DVDの内容は、本件ビデオと同一であるから、本件作品の複製に該当する。  被告は、原告らが本件ビデオ発売時に許諾したことにより、本件DVDの発売も許諾し たことになると主張する。  著作権法63条2項は、前項の許諾を得た者は、「その許諾に係る利用方法及び条件の 範囲内において」、その許諾に係る著作物を利用することができると規定している。上記 「利用方法及び条件」には、例えば、文庫本としての出版とかカセットテープへの録音等 の利用形態も含まれ、著作権者が一方的に付することができるものである。そして、許諾 によって得られる利用の範囲は、取引慣習や社会通念等を前提にして、著作権者の許諾の 意思表示を合理的に解釈して判断すべきものである。   本件DVDについては、本件ビデオと内容は同じであっても、本件ビデオの複製の許諾 がされた昭和59年当時、原告会社ないし原告Aが、約20年後にキャロルのCDの販売 に伴い、日本フォノグラムから営業譲渡を受けた被告によってDVDが販売されることを も念頭に置いていたと解することはできない。よって、媒体が変わることにより上記「利 用方法及び条件」が変わることになるから、本件DVDの製造販売に際しては、再び原告 会社の許諾が必要であるにもかかわらず、被告は許諾を得なかった。  (3) 小括  したがって、被告が、原告会社の許諾なくして、本件DVDを複製、頒布した行為は、 複製権侵害に該当する。  よって、本件DVDの複製、頒布の差止請求は理由がある。 5 争点(4)(特典DVDと本件プロモーション映像)について  (1) 争いのない事実及び証拠によれば、次の事実が認められる。  特典DVDは、平成15年に発売されたCD「キャロル/ザ★ベスト」の初回発売分に 特典として付されていたものである。  本件作品から使用された曲は「ファンキー・モンキー・ベイビー」1曲のみであるが、 映像としては、本件作品のうち、解散コンサートの炎上シーン、クールズ走行シーン、キ ャロルの車上シーン、インタビューシーン、演奏シーンの中でも印象的なシーンがアトラ ンダムに流れ、ところどころに写真が挿入され、めまぐるしくオーバーラップしながら、 上記シーンが切り替わるものである。時間としては約4分30秒と短いものの、本件作品 の中で特徴的な映像が使用されていることから、特典DVDに接した者は、元の映像が本 件作品であることは容易に看取でき、本件作品の表現上の本質的な特徴を直接感得するこ とができる(検甲4)。  また、特典DVD及び本件プロモーション映像には、原告Aの氏名は表示されていない。  (2) 著作権侵害の成否  本件作品に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表 現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、 これに接する者が本件作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものを創 作した場合には、本件作品の翻案に当たる(最高裁平成11年(受)第922号同13年 6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。  前記(1)によれば、特典DVDは、本件作品に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特 徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感 情を創作的に表現することにより、これに接する者が本件作品の表現上の本質的な特徴を 直接感得することができるものということができる。よって、原告らの許諾を受けること なく作成した特典DVD及びこれを放映した本件プロモーション映像は、いずれも本件作 品に係る原告会社の翻案権及び原告Aの同一性保持権を侵害するものである。  また、特典DVD及び本件プロモーション映像には、原告Aの氏名は表示されていない から、原告Aの氏名表示権を侵害するものといえる。  (3) 被告は、本件作品がプロモーション用に製作されたものである以上、原告らは当 初から了解済みであったと主張する。  しかしながら、少なくとも原告らとしては、本件作品がプロモーション用に製作される との認識はなかったことは、前記認定のとおりである。また、仮にプロモーション用の製 作であったとしても、当然に他人による改変を前提としているとはいえない。原告Aは、 他人によって改変されることを嫌って、本件ビデオ作成時に自ら編集を行ったほどである から、原告Aの特典DVDに対する許諾を推認することもできず、他に原告らの許諾を認 めるに足りる証拠はない。  (4) 小括  以上のとおり、特典DVD及び本件プロモーション映像は、本件作品に係る原告会社の 翻案権並びに原告Aの同一性保持権及び氏名表示権を侵害するものである。  よって、特典DVDの複製、頒布の差止め及び廃棄請求並びに本件プロモーション映像 の利用の差止め及びそのマスターテープの廃棄請求は、理由がある。 6 争点(5)(損害)について  (1) 本件ビデオについて  前記3認定のとおり、原告会社は、日本フォノグラムに対し、本件ビデオの製作販売に ついて、許諾をしたと認められるから、本件ビデオの製作販売行為による損害賠償請求に は理由がない。  (2) 本件DVDについて  ア 本件DVDを複製、頒布した被告の行為は、原告会社の著作権を侵害するものであ り、上記侵害については、被告に少なくとも過失があると認められるから、被告はこれに よって原告会社が被った損害を賠償すべきである。  イ 著作権法114条2項適用の可否  (ア) 著作権法114条2項は、当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得て いる以上、著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性が あるという前提に基づき、侵害者が侵害行為により得た利益の額をもって著作権者の逸失 利益と推定する規定であると解される。  したがって、同項の適用が認められるためには、著作権者が侵害者と同様の方法で著作 物を利用して利益を得られる蓋然性があることが必要である。  (イ) 本件については、以下の事実が認められる。  a 有限会社カムストックと原告会社は、昭和58年7月1日、「●●●●ヒストリー」 の原盤を株式会社シービーエス・ソニーに提供し、ビデオディスクに複製し販売頒布せし める目的をもって、株式会社ワーナー・パイオニアに対してビデオカセットによる上記原 盤に基づき製作された商品を販売委託する目的で共同製作を行う旨の契約を締結した(甲 52、56)。同契約においては、原盤製作費、ビデオカセットの製造に要する費用は、 有限会社カムストックと原告会社がそれぞれ50%の割合で負担している。  b 株式会社音と原告会社は、平成13年11月26日、Bの実演による「THE STAR I N HIBIYA」の原盤を株式会社ソニー・ミュージック・エンタテインメントに提供し、DV Dによる上記原盤に基づき製作された商品を販売委託をする目的をもって共同製作を行う 旨の契約を締結した(甲51、57)。同契約によれば、原盤製作費もDVD製造に要す る費用も、原告会社と株式会社音がそれぞれ50%の割合で負担している。  c 原告会社は、今後も株式会社音と共同製作を行う旨の申込みをした(甲54、55)。  d 原告会社は、映像作品の企画製作を行う会社であり、映像をDVD化することはさ ほど困難な作業ではない。  以上の事実からすれば、原告会社は、他社と契約すること等により、本件作品を利用し てDVDを製造販売する方法を有しており、被告と同様の方法で著作物を利用し、同様の 利益を得られる蓋然性があったものと認められる。  (ウ) 被告は、原告会社が行っているのは、作品の製作までで、その後の発売業務や費 用の負担は、株式会社音や有限会社カムストックが行っており、原告会社は事業主体では ないと主張し、株式会社音の代表取締役Rの陳述書(乙122)にも、それに沿う記載が ある。  しかし、原告会社が自己の作品をDVD化して製造販売し、著作権料のみならず、その 販売利益を享受している事実がある以上、原告会社は、本件作品についてもこれを利用し、 被告と同様の利益を得られる蓋然性があったということができ、発売に関して原告会社が 実際に行う業務の内容や費用の負担割合などがどのようなものであろうと、著作権法11 4条2項の適用に障害はないというべきである。  (エ) 被告は、解散コンサート収録時、キャロルと日本フォノグラムが専属契約を締結 しており、原告会社はキャロルの実演を収録する権限やそこに収録されている実演につい ての著作隣接権を有していなかったから、原告会社が本件DVDを製作販売することはで きないと主張する。  前記2で認定したとおり、日本フォノグラムは、Gを通じて解散コンサートを撮影しそ の映像を収録することを原告会社に許諾していたと認められるから、許諾を得て収録した 映像の著作権は、映画製作者たる原告会社に帰属するのであり、原告会社が著作権を有す る本件作品を自らDVD化して販売することに何ら問題はない。  そして、映画の著作物である本件作品は、キャロルの実演を録音し、録画する権利を有 する日本フォノグラムの許諾を得て録音され、録画されたものであり、キャロルの実演に ついては、著作権法91条2項、95条の2第2項により、実演家の録音権、録画権及び 譲渡権が及ばないから、原告会社が本件作品の複製物であるDVDを製作販売することが 著作権法上も可能である。  また、仮にDVDの販売にキャロルの許諾が必要であるとしても、キャロルと日本フォ ノグラムとの専属契約の締結は、原告会社がDVD販売についてキャロルからの許諾を得 ることにつき事実上の障害とはなり得るものの、上記専属契約は、永久に存続するもので はないし、現に、キャロルのメンバーであるC及びDが原告会社に許諾をしたように(甲 33ないし35)、キャロルが原告会社に許諾を与えることもあり得るのであるから、原 告会社によるDVDの販売が、法律上絶対に不可能というわけではない。  よって、キャロルと日本フォノグラムとの専属契約の存在は、本件作品の著作権者であ る原告会社との関係では、著作権法114条2項の適用の可否を決定するものとはいえず、 損害額の算定において、原告会社が被告と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる 蓋然性がないことの根拠とはならない。  (オ) 以上のとおりであるから、原告会社の本件DVDに関する損害は、著作権法11 4条2項に基づいて算定することとする。  ウ 被告の得た利益の額  (ア) 売上額  本件DVDの1枚当たりの税抜き小売価格は3500円である(争いのない事実)。卸 売価格は、小売価格3500円に75%を乗じた2625円である(乙118、119)。 原告らは、売上げについても消費税を加算して計算すべきであると主張するが、売上げに ついての消費税は、被告の利益にならないことが明らかであるから、売上げに含めて算定 すべきではない。なお、費用についての消費税は、それだけ被告が現実に支出しているの であるから、費用に含んで算出すべきである。  本件DVDの販売枚数は、8万9284枚であり(争いのない事実)、268枚が返品 された(乙118)。原告会社は、返品分を控除すべきでないと主張するが、著作権法1 14条3項による場合と異なり、侵害者の利益の額を損害の額と推定する同条2項におい ては、返品分によって利益が生じていないのであるから、これを売上げに計上すべきでは ない。  したがって、本件DVDの売上げは、卸売価格2625円に返品分を控除した販売枚数 8万9016枚(8万9284枚−268枚)を乗じた2億3366万7000円となる。  (3500円×75%)×(8万9284枚−268枚)=2億3366万7000円  (イ) 控除すべき費用  著作権法114条2項において、侵害者が「その侵害の行為により利益を受けていると き」に損害の額を推定される「利益の額」とは、売上額から、侵害者が侵害品の製造販売 を行うために、行わなかった場合に比べて追加的に必要となった費用を控除した額を指す ものというべきである。そこで、控除すべき費用額を検討する。  a リベート(販売手数料)    2442万2370円  リベート(販売手数料)2442万2370円(乙118)を控除すべきことについて は、当事者間に争いがない。  b 製造費        1394万4432円  製造費1394万4432円を控除すべきことについては、当事者間に争いがない。  c マスタリング費用       63万0000円  マスタリング費用63万円を控除すべきことについては、当事者間に争いがない。  d 印税         6281万8917円  (a) B分の印税55万5418円(乙44)、D分の印税50万9133円(乙45)、 I分の印税50万3991円(乙46)、C分の印税48万8562円(乙47)、株式 会社ミューコム分の印税106万1555円(乙48)を控除すべきことについては、当 事者間に争いはない。  (b) 原告会社は、株式会社音に対する印税が不当な支出であると主張する。しかしな がら、日本フォノグラムが本件ビデオを発売する際に、Bとキャロルの楽曲やフィルムを 使用する場合には、Bの許諾が必要である旨の合意をし(乙2の2、乙3)、日本フォノ グラムを承継した被告が、B所属事務所である株式会社音に対し、実際に4884万30 18円の印税を支払ったこと(乙43)に照らせば、本件DVDを製作販売するのに必要 な費用であると考えられるから、同支出4884万3018円は、費用として控除される べきである。  (c) また、原告会社は、有限会社オークランドに対する印税についても、不当な支出 であると主張する。しかし、これは日本フォノグラムとGとの契約に基づく原盤製作協力 印税が根拠となり、オークランドがGから印税受取権を承継したことによるものである (乙7、14)。そして、前記1(1)アのとおり、解散コンサートは、Gが企画し、バウ ハウスがコンサートの運営に関する一切の業務を行い、コンサート費用一式の支払をした ことからすれば、この原盤製作協力印税とは、純粋な映像著作権料というよりは、Gがキ ャロルの解散コンサートを主催した費用を回収するための方策とも考えられるから、原告 会社が映像の著作権者として本件DVDを製作販売する場合には不要になる費用であると はいえない。したがって、同支出も費用として控除されるべきである。  そして、株式会社オークランドに対する本件DVDに関する印税は、乙第49号証の うち、DVDと記載してある項目の786万5863円である。  (d) 印税額は、上記(a)ないし(c)の合計5982万7540円(55万5418円 +50万9133円+50万3991円+48万8562円+106万1555円+48 84万3018円+786万5863円)に5%の消費税を加えた6281万8917円 である。   5982万7540円×1.05=6281万8917円  e 著作権印税       1663万3045円  著作権印税とは、JASRACを通じて楽曲の作詞者、作曲者、編曲者に支払う著作権 使用料のことであり、1663万3045円を費用として控除すべきことについては、当 事者間に争いがない。  f 肖像使用         21万0000円  Sに対する肖像使用料21万円(乙34)を控除すべきことについては、当事者間に争 いがない。  g 宣伝販促費        734万4782円  (a) 宣伝販促費を控除すべきこと自体については、当事者間に争いがない。  (b) 宣伝販促費の算定方法について、当事者間に争いがあるが、宣伝販促費に関する 証拠(乙50ないし90、101ないし117)のうち、明らかに本件DVD用又は本件 CD用のいずれかであると認められるもの以外は、合計額を本件DVDと本件CDの総売 上比で按分して算定するのが相当である。本件DVDと特典DVD付きの本件CDは、同 時期に発売されており、宣伝販促費も両者の宣伝のために使用されたと考えられるからで ある。   なお、乙第116号証については、証拠上本件DVD又は本件CDのための宣伝販促 費であるとは認められないので、控除すべき費用として認められない。  (c) 上記証拠のうち、本件CD(UMCK9525)用であることが証拠そのものか ら認められるものは、乙第63号証、乙第65及び第66号証の一部、乙第83、101、 106ないし115号証である。  (d) 本件DVD(UMBK1524)用であることが証拠そのものから認められるも のは、乙第65号証(5万9595円×1.05=6万2574円、円未満切り捨て)、 乙第66号証(7万9530円×1.05=8万3506円、円未満切り捨て)、乙第6 7号証(3万0694円)、乙第74号証(2万1000円)、乙第80号証(1万05 00円)の合計20万8274円である。被告は、乙第101ないし105号証も本件D VD用の宣伝販促費であると主張するが、これを認めるに足りる証拠上の記載はない。  (e) 上記証拠を除いた乙第50ないし62、64、68ないし73、75ないし79、 81、82、84ないし90、102ないし105、117号証は、本件DVDと特典D VD付きの本件CDのいずれの宣伝販促費かを判別することができないので、その合計額 1801万6592円を本件DVDと特典DVD付きの本件CDの売上比で按分する。本 件DVDの売上げは、前記(ア)のとおり、2億3366万7000円{2625円×(8 万9284枚−268枚)}である。特典DVD付きの本件CDの売上げは、3億638 0万3184円{2286円×(16万1335枚−2191枚)}である(乙119。 ただし、返品枚数は被告の主張の限度で認める。)。したがって、上記合計額のうち、本 件DVD分は、次のとおり、704万6180円となる。   1801万6592円×2億3366万7000円/(2億3366万7000円+ 3億6380万3184円)=704万6180円(円未満切り捨て)  (f) 被告は、サンプル盤として581枚製造していることが認められるので(乙32)、 前記bの製造費と同様に算定したサンプル盤の製造費9万0328円は、宣伝販促費とし て控除する。   100円×581枚×1.05=6万1005円(ディスク代)   35円×581枚×1.05=2万1351円(ケース代、円未満切り捨て)   145万9683円×581枚/11万1700枚×1.05=7972円(円未満 切り捨て)   6万1005円+2万1351円+7972円=9万0328円  (g) 本件DVDの宣伝販促費は、上記(d)(e)(f)を合わせた734万4782円と するのが相当である。  20万8274円+704万6180円+9万0328円=734万4782円  h デザイン費         3万0114円  本件DVDのジャケットのデザイン費については、文字入力・版下代として3万011 4円(乙92)を被告が支出したことが認められ、被告が本件DVDの製造販売を行うた めに、行わなかった場合に比べて追加的に必要となった費用と認められるから、これを控 除すべきである。  被告が主張する改版代8万0640円(乙91。7万6800円×1.05)について は、前記bの製造費のうちジャケット印刷代として含まれている(乙33の別途新譜時改 版代7万6800円と同じものと認められる。)ので、費用としては斟酌されているから 、 再び控除することはしない。  i 搬送費         615万0914円  搬送費615万0914円を控除すべきことについては、当事者間に争いがない(乙1 18)。  j ビクター手数料       490万7007円  原告会社は、ビクター手数料は控除すべきでないと主張する。しかし、被告はビクター と販売業務受委託契約を締結しており(乙120、121)、本件DVDの販売による売 上げに直接の影響を及ぼしていると認められる。したがって、前記に認定した本件DVD の売上げをあげるために必要な経費として、控除すべきである。  その金額は、490万7007円と認められる(乙118)。  k 部門費            0円  被告は、原告会社が本件DVDを製作販売するためには、新たな部門費(人件費及び一 般管理費)が発生するとして、控除すべきであると主張する。しかし、人件費及び一般管 理費は、被告の事業において日常的に発生しているものであり、本件DVDの製作販売特 有の費用として生じたものではない。したがって、費用としては控除すべきではない。  l 費用合計   上記aないしjで認められる費用を控除すべきであり、その合計は、1億3709万1 581円である。  (ウ) 寄与度  本件DVDは、音源は日本フォノグラムから被告が承継したステレオ音声を用いている ことに争いはない。本件DVDは、ドキュメンタリー映画でもあるが、キャロルという人 気の高いロックバンドの解散コンサートを記録したものであり、全編を通してキャロルの 音楽が中心に据えられているといえる。したがって、映像とともに音楽も重要な役割を占 めているから、本件作品の寄与度は2分の1とする。  (エ) 損害額   本件DVDの売上げ2億3366万7000円(前記(ア))から費用合計1億3709 万1581円(前記(イ))を控除した額に寄与度2分の1(前記(ウ))を乗じた額が原告 会社の請求できる利益賠償額となる。したがって、本件DVDの製作販売による原告会社 の損害は、次のとおり、4828万7709円となる。  (2億3366万7000円−1億3709万1581円)×1/2=4828万77 09円(円未満切り捨て)  (3) 特典DVDについて  ア 特典DVDを複製、頒布した被告の行為は、原告会社の著作権及び原告Aの著作者 人格権を侵害するものであり、上記侵害については、被告に少なくとも過失があると認め られるから、被告は、これによって原告会社が被った損害を賠償すべきである。  イ 主位的請求について  著作権法114条2項は、当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以 上、著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があるこ とに基づく規定であると解される。  特典DVDは、前記5認定のとおり、著作者である原告A及び著作権者である原告会社 に無断で本件作品の映像を切り貼りして作成したものであり、その出来映えも原告らの意 に沿うものではなく、原告Aは、著作者人格権侵害を主張し、慰謝料の請求をしているほ どである。そうすると、原告会社は、被告と同様の方法で、自ら本件作品の映像を切り貼 りして、特典DVDを製作することはあり得ない。したがって、原告会社が特典DVDを 利用して利益を得られる蓋然性は認められないから、著作権法114条2項に基づく損害 の主張も認められない。  ウ 予備的請求について  (ア) よって、特典DVDの販売による損害は、著作権法114条3項に基づき算定す ることとする。  (イ) 販売額  特典DVD付きの本件CDは、これがないものよりも135円価格が高く、著作権使用 料の算定においても135円とみなされているから、特典DVDの価格は135円とする のが相当である(乙93、94)。原告会社は、500円であると主張するが、これを認 めるに足りる証拠はない。  特典DVD付きの本件CDの販売枚数は、16万1335枚である(乙119)。著作 権法114条3項に基づく損害の算定にあたっては、翻案権を侵害する特典DVDを複製 した時点で、複製に関し受けるべき原告会社の損害は発生しているのであるから、その後 返品されたかどうかは損害額の算定に影響しない。  (ウ) 寄与度  特典DVDには、本件作品を素材にした映像を使用した「ファンキー・モンキー・ベイ ビー」と、本件作品とは無関係の映像を使用した「ルイジアンナ」の2曲が収録されてい るので、2分の1を乗じることになる。  特典DVDの音源につき被告のものを使用していることは、当事者間に争いがないので、 映像部分に当たる本件作品の貢献度を2分の1として、これを乗じることとする。  (エ) 著作権の行使につき受けるべき金銭の額  原告らは、使用料の割合が25%であると主張し、権利元に支払う印税率は、ビデオグ ラムの希望小売価格の20%から26%程度になるという陳述書(甲36)が存在し、被 告が株式会社音に対して支払っている印税率は20ないし22%であることも認められる。 しかし、原告らが主張する割合が映像部分の著作権者が受けるべき金銭の割合として一般 的であると認めるに足りる証拠はない。他方、被告は、日本フォノグラムとGの契約(乙 7)における原盤製作協力印税の割合を根拠に、使用料の割合として2%が相当であると 主張するが、前記原盤製作協力印税は、あくまでも日本フォノグラムに著作権があること を前提として、解散コンサートを主催したGへの経費の支払であると考えられるから、こ れを著作権使用料の基準とすることはできない。  上記の事情に前記1で認定した本件作品の製作経緯や、本件作品についての原告ら、日 本フォノグラム、Gらの関与の程度などを総合考慮し、原告会社が受けるべき金銭の額は、 売上げの10%と認める。  したがって、特典DVDにつき、原告会社が著作権の行使につき受けるべき金銭の額は、 次のとおり、54万4505円となる。  135円×16万1335枚×1/2×1/2×10%=54万4505円(円未満切 り捨て)  (4) 本件プロモーション映像による損害について  ア 本件プロモーション映像を放送、上映した被告の行為は、原告会社の著作権及び原 告Aの著作者人格権を侵害するものであり、上記侵害については、被告に少なくとも過失 があると認められるから、被告は、これによって原告会社が被った損害を賠償すべきであ る。  イ 被告が、原告らの許諾を受けることなく、本件プロモーション映像をテレビ放映 (スポット及び番組エンディングテーマとして使用)、街頭大型ビジョン上映、レコード ショップ店頭上映、本社受付等での上映などを行うことによって、本件DVD及び本件C Dを宣伝し、本件DVD及び本件CDを販売したことは、当事者間に争いがない。もっと も、放送ないし上映の正確な回数を認めるに足りる証拠はないが、これにより原告会社に 損害が発生したことは認められるから、著作権法114条の5により、口頭弁論の全趣旨 及び証拠調べの結果に基づき、その額を30万円と認めるのが相当である。  なお、原告会社の主張する損害額を認めるに足りる証拠はない。  (5) 原告会社の損害  したがって、原告会社の損害額は、次のとおり、4913万2214円となる。  4828万7709円+54万4505円+30万円=4913万2214円  (6) 原告Aの慰謝料について  原告Aは、本件作品の著作者であるにもかかわらず、被告により無断で本件作品を改変 され、その氏名を表示されることなく、特典DVDとして販売され、本件プロモーション 映像をテレビ放送等されたのであり、これによる精神的損害を被ったと認められる。  この著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害による慰謝料は、本件に現れた 一切の事情を勘案して、100万円と認めるのが相当である。  (7) 消滅時効について  被告は、消滅時効を援用すると主張するが、損害として認められる本件DVD及び特典 DVDの販売を開始したのは、平成15年1月22日であり、本件訴訟提起は、平成15 年2月14日であり、消滅時効が完成しないことは明らかであるから、被告の上記主張は 理由がない。 7 争点(6)(謝罪広告)について  原告らは、名誉回復措置として謝罪広告を求めているが、財産権侵害を理由に名誉回復 措置を求める原告会社の主張は失当であるし、原告Aの著作者人格権の侵害による損害は、 前記慰謝料の支払で填補されており、これ以上に名誉回復措置が必要であると認めるに足 りる証拠はない。  したがって、原告らの名誉回復措置請求は理由がない。 8 結論  以上のとおりであるから、原告会社の請求は、@複製権、頒布権に基づく本件DVDの 複製・頒布の差止め、A翻案権に基づく特典DVDの複製・頒布の差止め及び廃棄、B複 製権、上映権、放送権に基づく本件プロモーション映像の利用の差止め及びマスターテー プの廃棄、C損害賠償として4913万2214円の支払の限度で理由がある。  原告Aの請求は、@同一性保持権、氏名表示権に基づく特典DVDの複製・頒布の差止 め及び廃棄並びに本件プロモーション映像の利用の差止め及びマスターテープの廃棄、A 損害賠償として100万円の支払の限度で理由がある。  原告らのその余の請求は理由がない。  担保を条件とする仮執行免脱宣言は相当でないから付さないこととして、主文のとおり 判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高部眞規子    裁判官 東海林 保    裁判官 瀬戸さやか