・知財高判平成17年6月14日  「武蔵」事件:控訴審  映画「七人の侍」は、映画監督黒澤明(故人)ほか2名の共同執筆に係る脚本を基に、 黒澤明が監督を務めて昭和29年に製作された映画である。原告らは、黒澤明の相続人 (子ら)である。  本件において、原告らは、被告日本放送協会の平成15年放送に係る大河ドラマ「武蔵  MUSASHI」第1回の製作に当たり、同番組の脚本を担当した脚本家である被告C が上記映画の脚本及び上記映画を無断で翻案して同番組の脚本を執筆し、被告日本放送協 会が上記番組を製作して、被告らが上記映画脚本についての黒澤明の著作権(翻案権)及 び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)並びに上記映画についての黒澤明の著作 者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害したと主張して、被告らに対し、同番組 の複製・上映等の差止め、同番組の脚本の複製・出版等の差止め、同番組のマスターテー プ等の廃棄、損害賠償金1億5400万円の支払及び謝罪広告・謝罪放送を求めた事案で ある。  原判決は、原告の請求を棄却した。  判決は、「前記番組が前記映画との間で有する類似点ないし共通点は結局はアイデアの 段階の類似点ないし共通点にすぎない」などとして、請求を棄却した原判決を維持した。 (第一審:東京地判平成16年12月24日) ■判決文  当裁判所も、著作権法27条にいう「翻案」とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その 表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、 新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表 現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい、した がって、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事 実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既 存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのを相当 とする(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 前記映画は、原判決も指摘するように、前記番組に比しはるかに高い芸術性を有する作品 であることは明らかであるものの、以下に述べるとおり、前記番組が前記映画との間で有 する類似点ないし共通点は結局はアイデアの段階の類似点ないし共通点にすぎないもので あり、前記映画又はその脚本の表現上の本質的特徴を前記番組又はその脚本から感得する ことはできないというべきであるから、前記番組がDの有する前記著作権(翻案権)を侵 害するものではない。