・東京地判平成17年8月31日  @BUBKA事件  被告ら(株式会社コアマガジンほか個人3名)が出版する雑誌「@BUBUKA」20 03年11月号において、本件芸能人らのパブリシティ権を侵害する内容の記事及び付録 DVDを掲載、収録し、また、うち3名(原告安斎、原告安倍、原告名倉)については名 誉を穀損する内容の記事を掲載して、これを発行したものである。被告らの当該行為は、 本件芸能人らに対する共同不法行為(民法719条)を構成するとして、芸能プロダクシ ョンとしての原告会社(株式会社アーティストハウスピラミッド、株式会社アクシヴ、株 式会社アップフロントエージェンシー、株式会社イエローキャブ、株式会社サンズ、株式 会社キヤストコーポレーション、株式会社サンミュージックブレーン、株式会社ジャパン ・ミュージックエンターテインメント、株式会社ホリプロ)、および本件芸能人ら(第1 事件原告(広末涼子、伊東美咲こと安斎智子、押尾学、乙葉こと吉田和代、安倍麻美、名 倉潤)、第2事件原告(安西ひろここと安西紘子、熊田曜子、後藤真希、高橋愛、MEG UMIこと山野仁、根本はるみこと根本晴美、小池栄子、瀬戸早妃、雛形あきここと山本 明子、辺見えみりこと逸見絵実理、小野真弓、矢沢心こと矢澤心、深田恭子、優香こと岡 部広子))が、損害賠償を請求した事案。  判決は、まず、原告プロダクションらには原告適格がないとしてこれを却下した上で、 パブリシティ権については、「制定法上の根拠もなく、慣習としても成立しているとはい えないパブリシティ権を認めるには慎重でなければならず、公法私法を通じた法の一般原 則とみられる正義・公平の原則、信義則、比例原則等に照らしても、著名人としての顧客 吸引力があることだけを根拠としては、著名人に関する情報発信を著名人自らが制限し、 又はコントロールできる権利があるとはいえないというべきである。したがって、以下に おいて説示する本件各記事の多くがそうであるように、著名人の芸能活動を伝える記事や 著名人の噂話に関する記事に著名人の写真等が添付、使用されたとしても、そのことだけ を理由に著名人の権利(パブリシティ権)が侵害されたということはできないというべき である」などとした上で、これを否定した。他方、3名(原告安斎、原告安倍、原告名倉) に関する名誉棄損については、これを肯定して、損害賠償請求を肯定した。 ■判決文  主 文 1 原告株式会社アーティストハウスピラミッド、同株式会社アクシヴ、同株式会社アッ プフロントエージェンシー、同株式会社イエローキャブ、同株式会社サンズ、同株式会社 キヤストコーポレーション、同株式会社サンミュージックブレーン、同株式会社ジャパン ・ミュージックエンターテインメント及び同株式会社ホリプロの本件訴えを、いずれも却 下する。 2 被告らは、連帯して、原告伊東美咲こと安斎智子、同安倍麻美及び同名倉潤に対し、 それぞれ11万円及びこれに対する平成16年4月14日から支払済みまで年5分の割合 による金員を支払え。 3 原告伊東美咲こと安斎智子、同安倍麻美及び同名倉潤のその余の請求をいずれも棄却 する。 4 原告広末涼子、同押尾学、同乙葉こと吉田和代、同安西ひろここと安西紘子、同熊田 曜子、同後藤真希、同高橋愛、同MEGUMIこと山野仁、同根本はるみこと根本晴美、 同小池栄子、同瀬戸早妃、同雛形あきここと山本明子、同辺見えみりこと逸見絵実理、同 小野真弓、同矢沢心こと矢澤心、同深田恭子、同優香こと岡部広子の請求をいずれも棄却 する。 5 訴訟費用は、第1事件についてはこれを10分し、その1を被告らの負担とし、その 余を第1事件原告らの負担とし、第2事件については、第2事件原告らの負担とする。  事 実(当事者の申立) 第1 第1事件について 1 請求の趣旨 (1)被告らは、連帯して、別紙1(第1事件請求額一覧表)の原告名欄記載の原告らに 対し、それぞれ同表の請求額(原告ごと計)欄記載の金員及びこれに対する平成16年4 月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)訴訟費用は被告らの負担とする。 (3)仮執行の宣言。 2 請求の趣旨に対する答弁 (1)原告らの請求をいずれも棄却する。 (2)訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 第2事件について 1 請求の趣旨 (1)被告らは、連帯して、別紙2(第2事件請求額一覧表)の原告名欄記載の原告らに 対し、それぞれ同表の請求額欄記載の金員及びこれに対する平成16年4月14日から支 払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)訴訟費用は被告らの負担とする。 (3)仮執行の宣言。 2 請求の趣旨に対する答弁 (1)原告らの請求をいずれも棄却する。 (2)訴訟費用は原告らの負担とする。 事 実(当事者の主張) 第1 第1事件について 1 原告らの主張 (1)当事者 ア 原告ら (ア)原告株式会社アーティストハウスピラミッド、同株式会社アクシヴ、同株式会社ア ップフロントエージェンシー、同株式会社イエローキャブ、同株式会社サンズ、同株式会 社キヤストコーポレーション、同株式会社サンミュージックブレーン、同株式会社ジャパ ン・ミュージックエンターテインメント及び同株式会社ホリプロは、いずれもアーティス トマネジメントビジネスを業とする、いわゆる芸能プロダクションである(以下、これら の原告らを総称して「原告プロダクションら」ともいう。)。  原告プロダクションらには、それぞれ、別紙1(第1事件請求額一覧表)の所属芸能人 欄記載の芸能人(アーティスト)ら(以下「所属芸能人ら」という。)が所属している。 そして、上記原告プロダクションらと所属芸能人らとの間には、パブリシティ権の侵害に より所属芸能人らに生じた損害を回復するための一切の裁判上及び裁判外の権限を原告プ ロダクションらが有することを定めた契約がある。  所属芸能人らは、いずれもテレビや出版物等の各種メディアを通じて広く国民に知られ ている。 (イ)原告広末涼子、同伊東美咲こと安斎智子、同押尾学、同乙葉こと吉田和代、同安倍 麻美及び同名倉潤は、いずれもテレビや出版物等の各種メディアを通じて広く国民に知ら れている芸能人(アーティスト)である(以下、これらの原告らを総称して「第1事件原 告芸能人ら」ともいう。)。 イ 被告ら (ア)被告株式会社コアマガジン(以下「被告会社」という。)は、雑誌の発行やCD− ROM及びDVDの製造販売等を業とする会社であり、「@BUBKA」というロゴを用 いた「アットブブカ」と称する雑誌(以下「ブブカ」という。)を発行している。 (イ)被告中澤愼マは、被告会社の代表取締役である。 (ウ)被告太田章は、被告会社の取締役であり、ブブカの発行人である。 (エ)被告片山恵悟は、ブブカの編集人である。 (2)不法行為 ア 本件雑誌の発行  被告会社は、平成15年9月16日ころ、雑誌ブブカの11月号(甲2の1及び2。以 下「本件雑誌」という。)を発行した。この際、被告中澤は被告会社の代表取締役として、 被告太田は被告会社の取締役兼本件雑誌の発行人として、被告片山は本件雑誌の編集人と して、下記イ及びウに記載の記事等を本件雑誌に掲載、収録することに関与した(民法7 19条)。 イ パブリシティ権の侵害 (ア)パブリシティ権とは、「著名人の氏名、肖像等の有する顧客誘引力を独立の財産権 と捉え、これを排他的独占的に支配する権利」のことである。所属芸能人らや第1事件原 告芸能人らは、いずれも著名人であるから、パブリシティ権を有する。  本件雑誌には、以下のとおりの記事及び付録DVDが掲載、収録されているところ、こ れらの記事及び付録DVDの内容は、所属芸能人らのパブリシティ権あるいは第1事件原 告芸能人らのパブリシティ権を侵害するものである(所属芸能人ら及び第1事件原告芸能 人らを総称して、以下「本件芸能人ら」という。)。 a 安西ひろここと安西紘子  本件雑誌53頁中段右に、安西の目線(被写体を直ちには特定できないようにするため に顔部の両眼を覆う位置に施された横長の長方形の形状をした黒塗りのことを言う。以下 同じ。)入り上半身写真1葉が無断掲載されている。 b 熊田曜子  本件雑誌11頁下段に、熊田の顔写真2葉及び胸部アップの写真1葉が無断掲載されて いる。  また、付録DVDには、熊田が握手会を兼ねたトークショーに出演している模様を録画 した動画が約3分間にわたり無断収録されている。 c 浜崎あゆみこと浜崎歩  本件雑誌51頁下段に、浜崎の上半身写真1葉が無断掲載されている。  また、本件雑誌57頁左下部にも、浜崎の目線入り上半身写真1葉が無断掲載されてい る。 d 後藤真希.  本件雑誌30頁左下部に、後藤の同人のビキニ姿の写真1葉とその股間部分の拡大写真 1葉が無断掲載されている。 e 高橋愛  本件雑誌15頁右下部に、高橋が出演したテレビ番組の映像を写真にしたもの3葉が無 断掲載されている。 f MEGUMIこと山野仁  本件雑誌16頁左上部に、山野が出演したテレビ番組の映像を写真にしたもの2葉が無 断掲載されている。  また、本件雑誌49頁左下部に、中腰になり太腿に手をやった山野の写真1葉が無断掲 載されている。 g 根本はるみこと根本晴美  本件雑誌72頁下段中央に、根本が赤色のビキニを着用した姿の写真1葉が無断掲載さ れている。 h 小池栄子  本件雑誌16頁左下部に、小池が出演したテレビ番組の映像を写真にしたもの3葉が無 断掲載されている。  また、本件雑誌56頁左下部にも、小池の目線入り写真1葉が無断掲載されている。 i 瀬戸早妃  本件雑誌72頁左上部に、瀬戸が黄色のビキニを着用した姿の写真1葉が無断掲載され ている。 j 雛形あきここと山本明子  本件雑誌56頁左下部に、山本が制服姿にたすきをかけて着座した姿の写真1葉が無断 掲載されている。 k 辺見えみりこと逸見絵実理  本件雑誌33頁中段右に、逸見とは別人の上半身裸体写真1葉が掲載されている。本件 記事には写真の被写体について一部伏せ字にして「辺■えみり」と記載してあるが、全体 の表示から、読者は逸見のことを指すものと理解する。被告らは、逸見の名前を写真の傍 らに付すことで、上記写真を逸見本人の写真として掲載したものである。 l 小野真弓  本件雑誌31頁右下部に、他誌に掲載された小野のグラビア写真2葉が無断掲載されて いる。 m 矢沢心こと矢澤心  本件雑誌の付録DVDには、矢澤が映画の試写会に出演した模様を録画した動画が約十 数秒間にわたり無断収録されている。 n 深田恭子  本件雑誌56頁下段右から2番目に、深田の目線入り写真1葉が無断掲載されている。 o 優香こと岡部広子  本件雑誌49頁中央(同頁左から3番目)に、。岡部の目線入り写真1葉が無断掲載さ れている。  また、本件雑誌55頁左上に、岡部の目線入り写真1葉が無断掲載されている。 p 原告広末涼子  本件雑誌44頁左下部に、原告広末の写真多数葉が無断掲載されている。 q 原告伊東美咲こと安斎智子  本件雑誌33頁左下部に、原告安斎とは別人の全裸全身写真1葉が掲載されている。  本件記事は写真の被写体にっいて一部伏せ字にして「伊■美咲」と記載してあるが、全 体の表示から、読者はこれが原告安斎のことを指すものと理解する。被告らは、原告安斎 の芸名を写真の傍らに付すことで、上記写真を原告安斎本人の写真として掲載したもので ある。 r 原告押尾学  本件雑誌57頁右上部に、原告押尾の目線入り写真1葉が掲載されている。 s 原告乙葉こと吉田和代  本件雑誌44頁中段左端に、原告吉田の写真1葉が無断掲載されている。 t 原告安倍麻美  本件雑誌55頁中段左端に、原告安倍の写真1葉が無断掲載されている。 u 原告名倉潤  本件雑誌85頁ないし88頁に、原告名倉のイラストと実名入りの漫画が無断掲載され ている。 v 上記(ア)に主張した記事及び付録DVDの内容が、本件芸能人らのパブリシティ権 を侵害するものであることについて、原告らは、以下のとおり主張する。  パブリシティ権は、純然たる財産権とは異なり、人格権から派生し、人の社会的評価、 名声及び知名度等を基礎とする権利であって、権利の価値が帰属者の人格と密接な関連性 を有するから、極めて人格権的側面の強い権利である。  したがって、こうした権利の重要性に鑑み、出版物における著名人の氏名や肖像等の使 用が、当該著名人の報道等、正当な表現活動における個人識別情報としての補足的役割を 超えてパブリシティ権を侵害するものか否かについては、被告らが主張するような、当該 使用行為が他人の氏名、肖像等のパブリシティ価値に着目し専らその利用を目的とする行 為であるといえるか否かという狭い判断基準により決するのではなく、当該出版物が重要 部分において著名人の顧客誘引力を利用しているといえるか否かという観点から個別具体 的に判断すべきである。そして、ひとたび著名人の氏名や肖像等が悪用、濫用されれば当 該著名人の名声や社会的評価を損なう場合があるため、著名人の氏名、肖像等の使用許諾 にあたってはその価値を維持すべく常に細心に注意を払わねばならないことに鑑み、パブ リシティ権侵害の有無の判断には、無断使用に係る氏名、肖像等の使用規模のみならず、 当該侵害行為がパブリシティ権自体の価値を害するおそれの大小という使用態様も考慮す べきである。  こうした判断基準に照らして検討すると、被告らは、上記(ア)のaないしuの記事に おいて、本件芸能人らの写真をふんだんに掲載しており、また、その掲載写真のサイズも 小さいものではない。また、上記記事においては、本件芸能人らの芸能活動等に関する創 作的価値のある記載は一切みられず、原告らの氏名、肖像それ自体が記事の中心的役割を 果た している。そして、掲載写真に付された記事は、名誉殿損や侮辱的表現、憶測に基づく記 述あるいは性的妄想をかき立てるような記述であって、本件芸能人らのパブリシティ価値 そのものを毅損するものである。よって、上記(ア)のaないしuの記事は、とうてい正 当な表現活動の成果物と評価することはできず、重要部分において本件芸能人らの顧客誘 引力を利用しているといえるから、パブリシティ権を侵害するものである。 ウ 名誉穀損  本件雑誌には、以下のとおりの記事が掲載されているところ、これらの記事において摘 示された事実は、以下のとおり、原告安斎、同安倍及び同名倉の社会的評価を低下させ、 もって向原告らの名誉を殿損するものである。 (ア)原告伊東美咲こと安斎智子  本誌33頁左下部に、主タイトルを「伊□美咲全裸モデル立ち予習1999年4月1日 @自宅アパート」、副タイトルを「モデル下積み時代、マン毛丸出しでポージング」とし、 原告安斎とは別人の全裸全身写真1葉の下に「この写真の時期1999年の4月といえば、 彼女がCanCam専属モデルになるかならないかの頃。自宅で全裸になってポーズの研 究もしていたことだろう。そんな健気な姿ですら、WinMXのタイムマシン機能によっ て覗かれて、念写されて、ばらまかれる。」等というコメントを付した記事が掲載されて いる。  当該記事の見出しにおける原告安斎の芸名の記載は一部伏せ字であるが、一般読者の普 通の注意と読み方を基準として意味内容を解釈すれば、全体の表示からして、当該記事は 原告安斎のことを指すものと理解されるところ、当該記事は、上託の全裸写真が原告安斎 のプライベート写真であるとの事実を摘示しており、若い女性芸能人としてドラマやテレ ビコマーシャルの出演等で活躍している原告安斎の社会的評価を低下させるものである。 (イ)原告安倍麻美  本誌55頁に掲載されている、主タイトルを「慢心TV断罪ワイド」、副タイトルを 「芸能人の知られざる素顔を徹底追跡1」とする一連の記事の中に、原告安倍に関し、「 喫煙写真に援交疑惑、深夜に渋谷を俳徊してるのも目撃されてるし、このあいだ『ドンキ ホーテ』の大人のオモチャ売場にガラの悪そうな男といたのを見たって、あるタレントミ ュージシャンの方が言ってました。」等と記載した記事が掲載されている。当該記事は、 他人の噂という形式をとりながらも、その噂の内容、すなわち原告安倍が@いわゆる援助 交際、すなわち金銭を得て性行為をしたこと、A深夜に渋谷を俳徊したこと及びB男と連 れ立って性交渉等に使用する器具(「大人のオモチャ」)の売り場にいたことという事実 を摘示するものであり、未成年の女性芸能人である原告安倍の社会的評価を低下させるも のである。  被告らは、本件雑誌が娯楽本位的性格を有していることや、当該記事が匿名の発言、伝 聞に基づく記述であることを指摘するが、そうした事情があったとしても、当該記事によ り原告安倍の社会的評価が低下することに変わりはない。 (ウ)原告名倉潤  本件雑誌85頁ないし88頁に、主タイトルを「死ねば良いのに名●潤」、副タイトル を「有名人“強姦狂”列伝CASE01」とし、原告名倉が強制わいせつや強姦未遂のご とき性犯罪を犯したという設定のもと、原告名倉のイラストと実名が用いられた漫画入り 記事が掲載されている。  当該記事は、漫画という形式をとりながらも、一般の読者の普通の注意と読み方とを基 準としてみると、「有名人“強姦狂”列伝」という副タイトルの表示、原告名倉の実名の 表記、原告名倉が性犯罪を犯したのではないかという疑惑について報じている女性週刊誌 記事(「週刊女性00年3月28日号」)の転載、漫画記事の末尾に付された補足記事 (「結局、名●潤は警察から事情聴取を受けたものの、フ●テレビとナ●プロが「たしか に現場にはいたが、名●は直接、手を下してはいない」という共通見解(口裏を合わせた ?)を主張したこともあって、最終的には「おとがめなし」という灰色決着に終わってい る。」等というもの。)の存在等からして、当該記事が単なるフィクションではなく、原 告名倉が性犯罪を犯したという事実を摘示しているものである(被告らが主張するような、 原告名倉が警察から事情聴取を受けたこと、わいせつ行為の現場にはいたが直接手を下し てはいないと主張したこと及び最終的にはおとがめなしという灰色決着になったことを摘 示しているのではない。)。そして、性犯罪を犯したという事実は、原告名倉の社会的評 価を低下させるものである。 工 以上のとおり、被告らは、本件雑誌に本件芸能人らのパブリシティ権を侵害する内容 の記事及び付録DVDを掲載、収録し、また、原告安斎、同安倍及び同名倉の名誉を穀損 する内容の記事を掲載して、これを発行したものである。被告らの当該行為は、本件芸能 人らに対する共同不法行為(民法719条)を構成する。 (3)損害 ア 上記被告らの不法行為により、本件芸能人らは、それぞれのパブリシティ権を侵害さ れた。その損害額は、それぞれ、別紙1(第1事件請求額一覧表)の「損害」欄のうち 「(パブリシティ権)」欄に記載の額を下らない。 イ また、上記被告らの不法行為により、原告安斎、同安倍及び同名倉は、それぞれの名 誉を穀損され、精神的損害を被った。その損害額は、それぞれ、別紙1(第1事件請求額 一覧表)の「損害」欄のうち「(名誉毀損)」欄に記載の額を下らない。 ウ さらに、原告らは、本件の規模や専門性ゆえ、本件訴訟の提起、遂行を原告ら訴訟代 理人らに依頼したから、弁護士報酬相当額の損害を被った。その額は、原告ら訴訟代理人 らが所属する東京弁護士会の弁護士報酬基準に従って算出すると、それぞれ、別紙1(第 1事件請求額一覧表)の「弁護士報酬」欄に記載の額となる。 エ 以上、被告らの不法行為により原告らに生じた損害額を合計すると、それぞれ、別紙 1(第1事件請求額一覧表)の「請求額(原告ごと計)」欄に記載の額となる。 (4)よって、原告らは、被告らに対し、民法709条及び719条に基づき、連帯して、 第1事件請求額一覧表の「請求額(原告ごと計)」欄記載の金員及びこれに対する平成1 6年4月14日(第1事件の訴状送達の日の翌日)ゆら支払済みまで民法所定の年5分の 割合による遅延損害金を支払を求める。 2 被告らの主張(請求の原因に対する認否及び抗弁) (1)原告の主張(1)(当事者)について  認める。ただし、被告中澤の関与は、民法719条の共同不法行為に該当するようなも のではない。 (2)原告の主張(2)(不法行為)について ア 「ア 本件雑誌の発行」について  認める。 イ 「イ パブリシティ権の侵害」について (ア)本件雑誌中に、原告らが上記1(2)イ(ア)において主張する記事及び付録DV Dが掲載、収録されていることは認めるが、これらの内容がパブリシティ権を侵害するも のであるという主張については全て否認する。  そもそも、パブリシティ権の権利性についてはなお見解の対立もあり、未だ我が国にお いて確立された権利とは言い難い。著名芸能人の肖像写真の雑誌への無断掲載が当然にパ ブリシティ権の侵害となるとする判例はなく、論説も見あたらず、一般的でもないと考え られる。被告らによる上記1(2)イ(ア)の記事及び付録DVDの掲載、収録は、表現 の自由のもとに保障された行為であって、こうした表現の自由の行使を、パブリシティ権 という制定法に根拠のない法益を根拠に不法行為として制限し、損害賠償の対象とするこ とは許されない。  仮にパブリシティ権の権利性を肯定するとすれば、芸能人の写真を雑誌等の出版物に掲 載した場合にパブリシティ権の侵害として不法行為を構成するか否かは、具体的な事案に おいて、他人の氏名、肖像等を使用する目的、方法及び態様等を全体的かっ客観的に考察 して、右使用が他人の氏名、肖像の持つ顧客誘引力に着目し、専らその利用を目的とする ものであるかどうかにより判断すべきである。  上記基準に照らして本件雑誌について検討すると、まず、本件雑誌は男性向けの一般娯 楽誌であって、若者向けの娯楽一般の記事及び芸能人等の著名人を対象にした社会的関心 の強い情報を、記事によって、あるいは写真を付して紹介し、報道するという目的で編集、 制作しているものである。本件雑誌には、所属芸能人らや原告芸能人らの氏名及び肖像写 真が掲載されてはいるが、単に肖像写真を掲載するだけではなく、肖像写真等と記事を合 わせて載せる構成をとっており、その写真と記事を掲載した意図、すなわち企画が中心で あって、被告らは、それを果たすべく編集をしているのである。そして、原告らが上記1 (2)イ(ア)において主張する記事及び付録DVDにおける肖像写真等は、恥ずれも、 見出し及び記事だけでは当該芸能人に関する報道であることが判り難いので、これを判り 易くするという補助的役割で掲載しているものである。さらには、本件雑誌全128ペー ジのうち、所属芸能人らや原告芸能人らの掲載記事は21ページに過ぎず、全体の約16 パーセントを占めるにとどまる。こうした事情を考察すれば、本件雑誌は、当該芸能人の 氏名、肖像の持つ顧客誘引力に着目し、専らその利用を目的とするものではない。  さらに、原告らが上記1(2)イ(ア)において主張する写真等のほとんど全てはイン ターネットから転載された画像であり、粗雑で精度が低い上、被告らが、当該芸能人に関 心を持っている読者は当該芸能人を識別できるが、関心を持っていない人には識別し難い ようにとの配慮で、名前を伏せ字にしたり、写真の顔部分に目線やボカシを入れたりして いるものもあり、こうした利用方法が、所属芸能人らや原告芸能人らの顧客誘引力に着目 し、専らその利用を目的としたものとはとうていいえない。  したがって、本件雑誌に掲載、収録されている記事及び付録DVDの内容が、所属芸能 人らや原告芸能人らのパブリシティ権を侵害することはない。 (イ)さらに、本件雑誌の発行当時、我が国においては未だパブリシティ権についての議 論が成熟していなかったから、被告らには、違法性の認識可能性もなかった。 ウ 「ウ 名誉穀損」について  本件雑誌中に、原告らが上記1(2)ウにおいて主張する記事が掲載されていることは 認めるが、これらの内容が原告安斎、同安倍友び同名倉の名誉を殿損するという主張につ いては、以下のとおり否認する。 (ア)原告伊東美咲こと安斎智子  当該記事に掲載された写真が、原告主張のとおり原告安斎のものではないのであれば、 原告安斎の社会的評価を低下させることはない。  また、本件雑誌の一般読者の普通の読み方と注意を基準にしてみると、当該記事に掲載 された写真は精度が低く、著しく不鮮明であって、この画像によって原告安斎本人のもの であるかを判断することはできないから、こうした意味においても、当該記事が、原告安 斎の社会的評価を低下させることはない。 (イ)原告安倍麻美  当該記事は、「他人の噂」という形式をとったものであるが、噂の内容を事実として読 者に伝えるものであるとの点は否認する。氏名を明らかにしない者が人から聞いた話を記 事としたものであるから、その内容は、一般に真偽のほどは極めて疑わしいと受け取られ ているものである。  また、原告安倍は、当該記事が、原告安倍が@いわゆる援助交際、すなわち金銭を得て 性行為をしたこと、A深夜に渋谷を俳徊したこと及びB男と連れ立って性交渉等に使用す る器具(「大人のオモチャ」)の売り場にいたことという事実を摘示すると主張するとこ ろ、@記事に記載されている「援交疑惑」という文言だけでは、金銭を得て性行為をした という事実を摘示したとはいえない。また、A深夜に渋谷を俳徊したこと及びB男と連れ 立って性交渉等に使用する器具(「大人のオモチャ」)の売り場にいたことは、直ちに原 告安倍の社会的評価を低下させるものではない。  以上の事情に、原告安倍に関する記事が本件雑誌55頁の4段組の1段目の28行の中 の6行程度の部分で、字数も85字程度という小さい記事であって、一般読者に与える印 象は弱いものであること及び本件雑誌が主に娯楽本位の内容を記事にしているものである ことをあわせ考えれば、当該記事を一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した 意味内容は、原告の主張する上記@ないしBを事実とするものではないから、当該記事が 原告安倍に対する社会的評価を低下させることはなく、名誉毅損にあたることはない。  また、仮に当該記事が原告主張のとおり上記@ないしBの事実を摘示し、原告安倍の社 会的評価を低下させるとしても、その程度はわずかであり、侵害行為の態様も軽微である から、違法性はない。 (ウ)原告名倉潤 a 認否  当該記事は、原告名倉が平成15年3月強制わいせつ罪の嫌疑により警察の取調べを受 けたが、おとがめなしの灰色決着に終わったことを伝えるものであるから、原告名倉が性 犯罪を犯したという事実を摘示しているとの原告の主張は否認する。  すなわち、当該記事は、滑稽と誇張を主とする戯画である漫画と、原告名倉が平成15 年3月に強制わいせっ罪の嫌疑により警察の取調べを受けたが、灰色決着に終わったとい う内容の解説記事(本件雑誌85頁左側)で構成されているところ、漫画部分は、上記の とおりの漫画の性質からすれば、原告名倉に関する社会批評、誠刺を主眼とした戯画であ るといえ、記事の中心的部分は、解説記事部分である。 b 抗弁  そして、原告名倉が平成15年3月強制わいせつ罪の嫌疑により警察の取調べを受けた が、おとがめなしの灰色決着に終わったという事実を伝えた当該記事の掲載は、公共の利 害に関する事実に係ることであり、また、専ら公益を図る目的に出たものであり、さらに、 原告名倉が強制わいせつの容疑で警察から取調べを受けたことは真実であるから、違法性 が阻却される。  すなわち、原告名倉が平成15年3月強制わいせつ罪の嫌疑により警察の取調べを受け たが、おとがめなしの灰色決着に終わったという事実は、人の犯罪行為に関する事実であ るから公共性がある。また、当該記事は、有名芸能人が特権的な立揚、地位を利用して自 らの性的欲望を満たす反社会的行為をして警察から取調べを受けることを批判し、また、 原告名倉が大手芸能プロダクションに所属してるが故に、事件が灰色決着したのではない かという疑惑に関しても批判を加える目的で企画、掲載したものであって、公益目的を有 する。さらに、原告名倉が女性に対する強制わいせつの容疑で警察の取調べを受けた事実 については、多数の新聞や雑誌の報道によって、真実のものとして立証されている。 エ 「エ 被告らの責任」について  争う。  なお、特に、被告中澤が不法行為責任を負うことについては争う。被告中澤は、被告会 社の代表取締役として、業務の執行として本件雑誌を発行したものであり、具体的に本件 雑誌の編集に関与したことはないから、原告らの主張する責任を負わない。 (3)原告の主張(3)(損害)について  争う。 第2 第2事件について 1 原告らの主張 (1)当事者 ア 原告ら  原告らは、いずれもテレビや出版物等の各種メディアを通じて広く国民に知られている 芸能人(アーティスト)である。  なお、この第2事件の原告らは、第1事件の所属芸能人らから浜崎歩を除いた者らであ る。 イ 被告ら  第2事件の被告らは、第1事件の被告らと同じである。 (2)不法行為  被告らは、平成15年9.月16日ころ、本件雑誌を編集、発行したことにより(上記 第1の1(2)ア記載のとおり。第1事件と同様。)、著名人である第2事件原告らのパ ブリシティ権を侵害した。その個別具体的な侵害態様は、第1事件に関して、上記第1の 1(2)イのa、b及びdないしoに主張したのと同じである。  第2事件原告らのパブリシティ権を侵害するような本件雑誌の編集、発行は、第2事件 原告らに対する不法行為を構成し、被告らは、第1事件と同様、第2事件原告らに対し、 共同不法行為責任を負う。 (3)損害 ア 上記被告らの不法行為により、第2事件原告らは、それぞれのパブリシティ権を侵害 された。その損害額は、それぞれ、別紙2(第2事件請求額一覧表)の「損害」欄のうち 「(パブリシティ権)」欄に記載の額を下らない。 イ また、第2事件原告らは、本件の規模や専門性ゆえ、本件訴訟の提起、遂行を原告ら 訴訟代理人らに依頼したから、弁護士報酬相当額の損害を被った。その額は、原告ら訴訟 代理人らが所属する東京弁護士会の弁護士報酬基準に従って算出すると、それぞれ、別紙 2(第2事件請求額一覧表)の「弁護士報酬」欄に記載の額となる。 ウ 以上、被告らの不法行為により第2事件原告らに生じた損害額を合計すると、それぞ れ、別紙2(第2事件請求額一覧表)の「請求額」欄に記載の額となる。 (4)よって、第2事件原告らは、被告らに対し、民法709条及び719条に基づき、 連帯して、第2事件請求額一覧表の請求額欄記載の金員及びこれに対する平成16年4月 14日(第1事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ る遅延損害金を支払を求める。 2 被告らの主張 (1)原告の主張(1)(当事者)について  認める。 (2)原告の主張A(不法行為)について  否認する。その個別具体的内容は、第1事件に関して、上記第1の2(2)イにおいて 主張したのと同じである。 (3)原告の主張(3)(損害)について  争う。 理 由 第1 第1事件について 1 原告プロダクションらの当事者適格 (1)民事訴訟は、その帰趨により実体法上の権利義務の得喪や変更及びその有無の確定 をもたらすものであり、その追行は、実体法上の権利義務の主体となる者の意思に委ねら れるべきであるから、当事者適格を有する者は、原則として実体法上の権利義務の主体と なる者に限られ、任意的訴訟担当を一般に無制限に許容することはできないというべきで ある。そして、任意的訴訟担当が認められるのは、選定当事者の制度など具体的な法律の 規定がある場合のほかは、原則として一定の有資格の専門家以外の者による訴訟代理を禁 止し、訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁止するという規制の回避のおそ れがなく、かつ、任意的訴訟担当を認める合理的必要性がある場合に限られるものという べきである。  そこで、こうした規制潜脱のおそれ及び合理的必要性の有無について検討する。 (2)原告プロダクションらが、その所属芸能人らのパブリシティ権の侵害により同人ら に生じた損害を回復するための一切の裁判上及び裁判外の権限を有すると定めた契約があ ること(事実(当事者の主張)欄第1の1(1)ア(ア))については、当事者間に争い がない。  そして、証拠(甲21ないし34)によれば、そのような権限の授与は、受任者である 原告プロダクションらと実体法上の権利義務の主体である所属芸能人らとの間の各人別の 「パブリシティ権(又は権利)侵害事件の処理に関する合意書」と題する文書によるもの であることが認められる。  合意書にはおおむねパブリシティ権を「所属芸能人らの氏名(本名、芸名その他)、肖 像及び所属芸能人らを印象づけるあらゆる情報(文字、言語、記号、映像を含む)から生 ずる経済的利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利」と定義付けた上で、「所属芸 能人らは、原告プロダクションらに対し、所属芸能人らのパブリシティ権が第三者により 侵害された場合、所属芸能人らのため、原告プロダクションらの名において侵害の排除及 び損害の回復など権利侵害を解決処理するに必要な一切の裁判上又は裁判外の権限を授与 する。」という記載がある。  一部の原告プロダクションら(イエローキャブ、サンズ、キヤストコーポレーション、 サンミュージックブレーン)の合意書においては、「権利侵害者から原告プロダクション らに対し賠償金その他の金員が支払われた場合には、原告プロダクションらと所属芸能人 らは、権利侵害の処理に要した費用等を勘案の上、別途協議して配分を決定する。」と定 められている。 (3)原告プロダクションらと所属芸能人らの間には、民法上の組合、講、無尽に類する ような団体的法律関係は存在せず、その他所属芸能人らが自ら原告となって訴訟を追行す ることに法律上又は事実上の困難があって原告プロダクションらが原告となることにより 当該困難さが解消されるというような事情があるとは認められないというべきである。  かえって、証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、本件第2事件以外にも個別の芸 能人が自ら原告となってパブリシティ権侵害を主張している訴訟が少なからず存在するこ とが認められる。そうであれば、実体法上の権利義務の主体である個別芸能人らが自ら原 告となってパブリシティ権俸害を主張する訴訟を提起し、追行することに特に不都合があ るともいえないことが推認できるのである。 (4)さらに、訴訟担当者が訴訟の成果を実体法上の権利義務の主体に還元しないおそれ がある場合には、任意的訴訟担当を許容する合理的必要性を欠くものと考えられる。本件 においては、前記合意文書の一部には、賠償金の全額を実体法上の権利義務の主体である 所属芸能人らに還元せずに、原告プロダクションらがその相当部分を自らの懐に収めてし まうことを前提とするかの文言(「別途協議して配分を決定する。」)があるのであって、 前記合意文書の契約当事者は実質的に対等であるといえるのか、実体法上の権利義務の主 体の保護に欠けるのではないかという危惧をぬぐい去ることができず、この点からも任意 的訴訟担当を許容する合理的必要性を認めることができない。 (5)以上の事情を総合すると、原告プロダクションらに原告適格を認める合理的必要性 があるとはいえず、専門家以外による訴訟代理の禁止や訴訟信託の禁止に由来する規制潜 脱のおそれもないとは言い切れないから、本件訴訟において任意的訴訟担当を認めるのは 相当でない。  したがって、原告プロダクションらには原告適格がなく、原告プロダクションらの訴え は不適法であるから、却下を免れない。  そこで、2以下においては、第1事件原告芸能人らの請求に関する判断を示していくこ ととする。 2 原告らの主張(1)(当事者)について  原告らの主張(1)(当事者)については、当事者間に争いがない。 3 原告らの主張(2)(不法行為)について (1)「ア 本件雑誌の発行」について  被告会社が、平成15年9月16日ころ、本件雑誌を発行したこと、被告中澤は被告会 社の代表取締役として、被告太田は被告会社の取締役兼本件雑誌の発行人として、、被告 片山は本件雑誌の編集人としてこれに関与したことについては、被告らは明らかには争わ ないから(ただし、被告中澤は、雑誌の内容について民事上の責任を負うほどまでに関与 したことはないとして、自己の責任を争っている。)、当事者間に争いがないものとみな す。 (2)「イ パブリシティ権の侵害」について ア パブリシティ権について (ア)人は、自己の氏名及び肖像等につき人格的利益を有し、この利益に対する顕著な侵 害があるときは、侵害行為者に対して損害賠償を請求し、さらに侵害が甚だしく著しい場 合においては、当該侵害行為を差し止める権利を有することがあることを否定することは できない。  そのうち、固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得したテレビや出版物等の各種メデ ィアを通じて広く国民に知られている原告芸能人らのような著名人については、その氏名 及び肖像等を商品に付したり、他の事業者のために広告に利用したり、出版物に掲載した りした場合に、大衆が当該著名人に対して抱く関心や好感、あるいは憧憬等の感情の故に、 当該商品や出版物の販売促進に有益な効果、すなわち顧客誘引力を生じることは、昨今一 般によく知られているところである。そして、こうした顧客誘引力は、著名人の名声、社 会的評価あるいは知名度等から派生するものであるといえるから、当該著名人は、自らの 氏名及び肖像等の有する顧客誘引力を自己固有の経済的利益ないし価値として把握するこ ともでき、現実に氏名及び肖像の利用の対価をその利用者から徴収するという現象もみら れる。そして、こうした氏名及び肖像等に由来する利益ないし価値を現行法上明文で認め る規定はないものの、芸能人等の著名人は、こうした経済的利益を侵害する者に対して損 害賠償を請求し、侵害が著しい場合には侵害行為を差し止めることができる場合があるこ とを否定することができず、これをいわゆるパブリシティ権と称して、保護に値する権利 であると主張する向きも、最近目につくところである。  しかし、権利として認めるということは、対価を支払う旨の契約がなくても、損害賠償 請求権や、場合によっては差止請求権をも認めるということであるから、広告への無断使 用、本人のキャラクターの商品化など、人格権の侵害とみられる場合や氏名や肖像等の使 用が名誉段損、侮辱、プライバシー侵害に当たる場合はともかく、氏名や肖像等の利用と いう事実があっただけで損害賠償請求や差止請求を認めることができるかどうかについて は、慎重な検討が必要であると考えられる。 (い)原告芸能人らをはじめとする著名人は、多くの人々の興味、関心を惹きつけ、この ことにより経済的利益を得ている。このような利益を上げる基盤となっているのは、情報 の自由な流通である。すなわち、著名人の経済的利益は、このような情報の自由な流通市 場が、表現の自由の保障を反映して、著名人らの活動の基盤となる環境として、十分に整 備されていることの恩恵によるものである。このような環境は、著名人らがまだ無名のこ ろに、自らの活動を人々に向けて発信し、社会において認められて著名になっていく過程 においても、その基盤となる環境であったのであり、情報の自由な流通市場という環境整 備なくして、原告芸能人らがここまで著名となり、経済的利益を得ることもなかったもの と考えられる。  情報の自由な流通市場が確保されていること及び多くの人が著名人に興味、関心を有し ていることの反映として、著名人が自ら積極的に公表しない情報であっても、他の者が著 名人の活動に関する評論・意見等、著名人の未完成の活動(企画中のもの、ボツになった ものを含む。)に関する情報著名人の私生活上の実話や噂話に関する情報を公表すること があり、その量は一般の興味、関心に比例する。 (ウ)著名人についての報道その他の情報の発信をしようとする出版業者、放送業者等は、 現在及び将来にわたって、著名人側(自己の意向に沿うような自己イメージの保持を願っ ているのが通常である。)との関係を円滑に保つため、著名人側に情報の使用の許可を求 め、かつ、著名人に係る情報の使用の対価(文字情報、写真・図画情報、映像情報その他 の情報の使用の対価、取材の対価を含む。)を支払うことも、今日のわが国においては、 よくみられるところである(なお、ある者に関する情報の発信について事前に本人の了承 を得ておくことは、報道、評論その他の正当な事由がある場合を除いては、個人情報の保 護の観点からは望ましいことである。)。  しかしながら、著名人の情報使用に対価を支払う現象が多くみられるからといって、著 名人に関する情報の無断使用(写真情報の発信等を含む。)が、直ちに、著名人の情報を 利用したことのみを根拠として、著名人の権利の侵害になるとか、著名人に差止請求権や 損害賠償請求権が発生するかどうかは別論である。そのような権利を認めると、著名人に 関する情報の流通が著名人のコントロールの下におかれ、著名人の意向に沿わない情報が 自由に流通しなくなるなどの現象が生じて著名人に対する批評を封じ、ひいては著名人が 自己の活動の基盤としている情報の自由な流通市場という環境を破壊し、自己の存立基盤 を否定することになるともいえるのである。  また、著名人が自己に関する情報を強くコントロールしたり情報の使用に対して高額の 対価を請求したりするという現象がみられるのも、著名人が人々から興味、関心を持たれ ている期間内に限られ、このような興味、関心にかげりがみられると、著名人の自己に関 する情報をコントロールする力は衰え、情報の使用に対してもさほど高額の対価を請求す ることができなくなるという現象もみられるようになる。  結局、著名人の肖像や記事の情報発信に対価が支払われるという現象も、著名人が人々 から興味、関心を持たれている期間内において、対価を支払ってでも著名人やその所属プ ロダクション等との関係を円滑化して良質な情報の安定的な提供を得たい者が、そのよう な者の間で成立する参加者の限定された市場(有償で著名人の情報発信の許可を得る市場) を形成しているだけのことである。すなわち、著名人との円滑な関係が確保できないこと を覚悟の上で、前記有償の市場の外で、著名人に対する関係では無許可無償で、著名人に 関する情報を取得するという自由市場も存在しているのであって、著名人の情報を使用し たこと自体を根拠として、このような自由市場において取得した著名人情報を利用するこ とを違法とするような制定法、慣習法、事実たる慣習は、現在のわが国には存在しない。 著名人の情報発信の許可を有償で得るべき市場への参加を強制するような制定法、慣習法、 事実たる嶺習は、現在のわが国には存在しないのである。  著名人の著名度が一定レベルを上回っている状態になると著名人の情報発信の許可を得 る市場が発生するが、そのような市場が発生したからといって、著名人に関する情報の発 信に当たって当該市場に参加して当該市場から情報を取得することを強制されるものでは なく(参加するかどうかは各人の自主的な判断に委ねられている。)、著名度が一定レベ ルを下回るに至れば当該市場ほ自然に消滅していくにすぎないのである。 (エ)以上に説示したところをまとめると、制定法上の根拠もなく、慣習としても成立し ているとはいえないパブリシティ権を認めるには慎重でなければならず、公法私法を通じ た法の一般原則とみられる正義・公平の原則、信義則、比例原則等に照らしても、著名人 としての顧客吸引力があることだけを根拠としては、著名人に関する情報発信を著名人自 らが制限し、又はコントロールできる権利があるとはいえないというべきである。したが って、以下において説示する本件各記事の多くがそうであるように、著名人の芸能活動を 伝える記事や著名人の噂話に関する記事に著名人の写真等が添付、使用されたとしても、 そのことだけを理由に著名人の権利(パブリシティ権)が侵害されたということはできな いというべきである。  著名人が、このような情報発信が違法であるとして損害賠償請求(場合によっては差止 請求)ができるのは、著名人に関する肖像、氏名その他の情報の利用という事実のほかに、 情報発信行為が名誉穀損、侮辱、不当なプライバシー侵害など民法709条に規定する不 法行為上の違法行為に該当する場合、著名人のキャラクターを商品化したり広告に用いる など著名人のいわゆる人格権を侵害する場合をはじめとする何らかの付加的要件が必要で あるというべきである。 (オ)ところで、原告らは、第1事件においては、2種類の訴訟物を立てている。1つは、 パブリシティ権に基づく請求(写真等の無断使用)であり、もう1つは一般の不法行為 (当該写真の添付された記事等が名誉駿損にも当たると主張するもの)である。一般の不 法行為をパブリシティ権とは別個の請求原因としていることからも、パブリシティ権に基 づく請求においては、名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害等の民法709条の不法行為に よる損害賠償請求は求めていないものと解するほかない。  そこで、以下においては、原告らの主張する写真等の無断使用がいわゆる広告や商品化 におけるキャラクターの無断使用又はこれに準ずべき人格権の侵害(原告らのいうパブリ シティ権の侵害は、前記1(2)において説示したとおり、本件芸能人らが原告プロダク ションらに権限を授与する契約中において、パブリシティ権が「所属芸能人らの氏名(本 名、芸名その他)、肖像及び所属芸能人らを印象づけるあらゆる情報(文字、言語、記号、 映像を含む)から生ずる経済的利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利」と定義さ れていることからも、これに当たるものと解される。)」に当たるといえるかどうかにつ いて判断をしていくこととし、当該写真の添付された記事が本件芸能人らにとって名誉鍛 損、侮辱等に当たるとしても、それは原告らのパブリシティ権に基づく請求の範囲外であ るから、判断を示さないこととする。 イ 本件雑誌について  証拠(甲2の1及び2)によれば、次のとおりの事実を認めることができる。  本件雑誌は、A4判サイズ、全132頁(表表紙及び裏表紙の表裏合計4頁を含む。以 下、本件雑誌の頁数を示すときは、これらを含んだ通し番号で示す。)であり、全体の約 4分の3がカラーページ、残りが白黒印刷のページである。  芸能人等の肖像等が掲載されている記事は、全体のうちの4分の1程度である上、広告 を除いた部分のうちでも、3分の1程度を占めるに過ぎない。本件雑誌の約半分は、非芸 能人(非著名人)の姿を掲載しているものである(付録DVDも、本件雑誌とほぼ対応す る内容であるから、同様である。)。 ウ 個別の記事について  個別の記事については以下のとおりである。なお、個別の記事における写真等の使用形 態については、別紙3(写真等目録)に記載したとおりである。 (ア)原告広末 a 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌44頁左下部に、「芸界屈指 の芸能スキャンダリズム炸裂!『広末涼子・消えた奇行姫の怪』01年Vo1.5」との 見出しで、過去の本件雑誌関連誌が転載されていること、その転載された関連誌において 原告広末に関する情報が掲載されており、同原告の写真多数葉が無断掲載されていること、 その中で最も大きい写真の大きさは縦5cm×横2.5pであること、当該記事は、本件 雑誌が「@BUBKA」創刊号であることにちなみ、前身となる過去の関連誌において組 まれた特集記事を振り返る企画記事の一部であることを認めることができる。 b 以上によれば、当該記事における原告広末の写真は、全体として、「@BUBKA」 の創刊号である本件雑誌がその前身である過去の関連誌を振り返る企画の一部として組み 込まれた記事、すなわちいわば過去の雑誌記事の紹介の一部を構成するものに過ぎず、、 写真の大きさも小さく、記事における必要な範囲を超えるものではない。当該写真の掲載 は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものとは認められず、情報の自由市場におい て許容される著名人の噂話を記載した記事に添付された写真にすぎないものというべきも のであって、原告広末のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (イ)原告安斎 a 証拠(甲2の1)によれば、本件雑誌33頁左下部に、「伊□美咲全裸モデル立ち予 習1999年4月1日@自宅アパート」との主見出し、「モデル下積み時代、マン毛丸出 しでポージング」との副見出しで、原告安斎とは別人の全裸全身写真1葉が掲載されてい ること、その大きさは、縦約8p×横約9.5pであること、当該写真の被写体である女 性はやや横を向いており、また、画像も不鮮明であることから、顔がはっきり見えないこ と、当該写真は、「残酷WinMXアイドルズ」と題する企画記事の中に記載されている ところ、当該企画記事は、要するに、WinMXというソフトを使用すれば、女性芸能人 らの卑狽な画像等が入手できることを紹介して読者の興味を惹こうとするもので、入手で きる例として延べ15名の女性芸能人らについての画像等を掲載していることを認めるこ とができる。 b 以上によれば、当該記事における写真はそもそも原告安斎のものではないのであるか ら、同原告のパブリシティ権を侵害するものではない。仮に、原告安斎本人の写真でない 場合にもパブリシティ権が侵害される場合があるとしても、当該写真は、WinMXとい うソフトにより入手できるという女性芸能人らの卑狼な画像の一例として紹介されたもの に過ぎず、また、そもそも原告安斎のものであるとは判明しないほどに不鮮明であり、さ らにその大きさ、企画記事全体に占める割合及び本件雑誌全体に占める割合が小さいこと に鑑みれば、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、情報の 自由市場において許容される著名人の噂話を記載した記事に添付された写真にすぎないも のというべきものであって、原告安斎のパブリシティ権を侵害するものではないというべ きである。 (ウ)原告押尾 a 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌57頁右上部に、「『女は眼 で殺す』一撃必殺アーティスト押●学。世界戦略は果たして?』とのコメントを付して、 原告押尾の目線入り写真1葉が掲載されていること、その大きさは縦6p弱×横5cm弱 であること、当該写真は、「芸能人の素顔大暴露!!」、「テレビ局の盲点!意外な関係 者は見た!!」等と題して、芸能人らの噂話を、あることないこと面白おかしく記載した 企画記事のうち、原告押尾が女性と電話で話している様子や自身の女性関係の自慢話をし ている様子について記載した記事に添付されたものであることを認めることができる。 b 以上によれば、当該記事における原告押尾の写真は、全体として、原告押尾を含む芸 能人らにっいて面白おかしく記載することが主眼である記事の一部として補助的に掲載さ れたものに過ぎず、その大きさも、記事における必要な範囲を超えるものではない。当該 写真の掲載は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものとは認められず、情報の自由 市場において許容される芸能人の噂話を記載した記事に添付された写真にすぎないものと いうべきものであって、原告押尾のパブリシティ権を侵害するものではないというべきで ある。 (エ)原告吉田 a 証拠(甲2の1)によれば、本件雑誌44頁中段左端に、「フェラの惑星・アクメ彗 星・衛星ポッチ『アイドルお宝ギャラクシー』01年Vol.4」との見出しで、過去の 本件雑誌関連誌が転載されていること、その転載された関連誌に原告吉田の写真1葉が掲 載されていること、その大きさは縦約5p×横約3c皿であること、転載された関連誌の ページあるいはその周辺に原告吉田の芸名である乙葉という名前は記載されていないこと、 当該記事は、本件雑誌が「@BUBKA」創刊号であることことにちなんで、その前身で ある過去の関連誌において組まれた特集記事を振り返る企画記事の一部であることを認 めることができる。 b 以上によれば、当該記事における原告吉田の写真は、全体として、「@BUBKA」 の創刊号である本件雑誌がその前身である過去の関連誌を振り返る企画の一部として組み 込まれた記事、すなわちいわば過去の雑誌記事の紹介の一部を構成するものに過ぎず、写 真の大きさも小さく、記事における必要な範囲を超えるものではない。当該写真の掲載は、 同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、情報の自由市場にお いて許容される芸能人の噂話を記載した記事に添付された写真にすぎないというべきもの であって、原告吉田のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (オ)原告安倍 a 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌55頁中段左端に、「疑惑の 写真が次々と流出。マルメンがお気に入りな安●麻美」とのコメントを付して、原告安倍 の目線入り写真1葉が掲載されていること、写真の大きさは縦5c皿弱×横5c皿弱であ ること、当該写真は、「芸能人たちの知られざる素顔を徹底追跡!」、「慢心TV断罪ワ イド」、「AD暴露座談会」等と題して、芸能人らに関するAD(アシスタントディレク ター)らの噂話として、あることないこと面白おかしく記載した企画記事のうち、原告安 倍に関して、「喫煙写真に援交疑惑、深夜に渋谷を俳徊してるのも目撃されてる」、「大 人のオモチャ売場にガラの悪そうな男といたのを見たって、あるタレントミュージシャン の方が言ってました」等とのADの噂話が記載されている記事に添付されたものであるこ とを認めることができる。 b 以上によれば、当該記事における原告安倍の写真は、全体として、原告安倍を含む芸 能人らについて面白おかしく記載することが主眼である記事の一部として掲載されたもの に過ぎず、その大きさも、記事における必要な範囲を超えるものではない。当該写真は、 一体として掲載されている記事の内容が名誉穀損を構成するかどうかは別論として、同原 告の顧客誘引力の利用を目的とするものとは認められず、情報の自由市場において許容さ れる写真の利用にすぎないものであって、原告安倍のパブリシティ権を侵害するものでは ないというべきである。 (カ)原告名倉 a 証拠(甲2の1)によれば、本件雑誌85頁から88頁までに、「死ねば良いのに名 ●潤」との主タイトル、「有名人“強姦狂”列伝CASEO1」との副タイトルで、原告 名倉のイラストと実名入りの漫画が無断掲載されていること、その漫画の内容は、全体と して原告名倉を批判する内容であることを認めることができる。 b 以上によれば、当該記事における原告名倉のイラストあるいは氏名は、原告名倉を批 判する内容の漫画を中心とする記事の構成部分であって、当該漫画や記事が名誉段損を構 成するかどうかは別論として、写真ではなくイラストにすぎないことからも、また、その 使用形態からみても、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、 情報の自由市場において許容されるイラスト等の利用にすぎないものであって、原告名倉 のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 エ まとめ  以上、本件各記事によって原告芸能人らのパブリシティ権が侵害されているとはいえず、 第1事件原告芸能人らのこの点に係る請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がな い。 (3)「ウ 名誉毅損」について  ある記事の意味内容が、他人の社会的評価を低下させるべき事実を摘示したものである かどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断す べ きものであるから、以下これに照らして判断する。 ア 原告安斎  証拠(甲2の1)によれば、原告安斎に関する本件雑誌記事は別紙4(名誉殿損関係記 事)(1)のとおりであると認められる。  そして、別紙4(1)に記載の事実の摘示は、女性芸能人としてドラマやテレビコマー シャルの出演等で活躍している原告安斎の社会的評価を低下させるものである。  被告らは、当該記事は、上記WinMXというソフトにより、誰でも無料でインターネ ットにより当該記事に掲載されたような写真を入手できるということについて問題提起を する意図で記載したものであると主張するが、当該記事全体の記載に照らせば、当該主張 等は上記判断を左右するものではなく、採用できない。  また、被告らは、一般読者には、本件記事に拓載された女性の全裸写真が原告安斎のも のであるかどうか判断できないから、当該記事によって原告安斎の社会的評価が低下する とは考えられないと主張する。しかしながら、上記のとおり、写真の被写体の女性は、画 像が不鮮明であるが故に、一見原告安斎に似ているとも思われるものであり、その写真の 下に付してあるコメントの内容は、あくまで写真の被写体の女性が原告安斎であることを 前提としているのであるから、通常の読者であれば写真に写っている女性が原告安斎であ ると即断するか、あるいは原告安斎である可能性が高いと思ってしまうことは明白である。 したがって、この点の被告らの主張も採用できない。  よって、当該記事は、原告安斎の社会的評価を低下させるべき事実を摘示しているもの といえるから、当該記事の掲載は、原告安斎に対する名誉段損の不法行為を構成する。 イ 原告安倍  証拠(甲2の1、16、17、35の1ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、原告安 倍は未成年の女性芸能人であること、原告安倍に関する記事の内容は、別紙4(名誉段損 関係記事)Aに記載のとおりであることが認められる。  そして、別紙4(2)に記載の事実の摘示は、未成年の女性芸能人である原告安倍の社 会的評価を低下させるものである。  被告らは、本件雑誌が娯楽本位的性格を有しているから、本件雑誌の一般読者は、原告 安倍の社会的評価を低下させる事実が摘示されているとは読みとらないと主張するが、本 件雑誌の一般読者も、掲載される記事がおしなべて根も葉もないものと認識しているもの ではなく、幾分かの真実も含まれているものと考えるのが通常であろうと考えられ、その 掲載記事により記事の対象とされた者の社会的評価が低下させられる危険性が生ずること を否定することまではできないから、この点の被告の主張は採用できない。  また、被告らは、当該記事が匿名の発言者の伝聞に基づく記述であるから、信悪性に乏 しく、原告安倍の社会的評価を低下させるべき事実が摘示されているとはいえないとも主 張するが、証拠(甲2の1)によれば、当該記事は、副見出しを「芸能人の知られざる素 顔を徹底追跡1」とし、また記事の左上には「近しい人間だからこそ知り得た、彼ら芸能 人たちの素顔、その俗物っぷりを大暴露する1」と記載し、右下には「現場を熟知する彼 らが「ここだけの話」の数々を一挙に暴露!業界騒然、オフレコ○(【注】○に秘)トー クを大公開!」と記載するなど、むしろ芸能人と日常的に接触するAD達が匿名の発言者 としてが真実を暴露するということを前面に押し出した体裁をとっているのであるから、 上記判断を左右するものではなく、この点の被告らの主張も採用できない。  さらに、被告らは、当該記事は、量的に極めて僅かであり、侵害行為の態様も軽微であ るから、違法性が阻却される旨主張するが、記事が少量であることや侵害行為が軽微であ ることは、違法性を阻却する事由とはなり得ないのであって、この点の被告らの主張も採 用できない。  よって、当該記事は、原告安倍の社会的評価を低下させるべき事実を摘示しているもの といえるから、当該記事の掲載は、原告安倍に対する名誉殺損の不法行為を構成する。 ウ 原告名倉  証拠(甲2の1、38、39、乙11ないし16の各1ないし3、17ないし26)及 び弁論の全趣旨によれば、原告名倉に関する本件記事の内容は別紙4(名誉穀損関係記事) (3)に記載のとおりであると認められる。  そして、別紙4(3)に記載の事実の摘示は、原告名倉の社会的評価を低下させるもの である。  被告らは、当該記事は、漫画と、原告名倉が平成15年3月に犯罪の嫌疑により警察の 取調べを受けたが、灰色決着に終わったという内容の解説記事(別紙4(3)認定事実の ウ)とで構成されているところ、漫画は、滑稽と誇張を主とする戯画であり、記事の中心 的部分は解説記事部分であるから、当該記事は、原告名倉が平成15年3月に警察の取調 べを受けたが、おとがめなしの灰色決着に終わったことを伝えるに過ぎず、原告名倉が犯 罪を犯したことは摘示していないと主張する。しかしながら、漫画が被告らの主張するよ うな性質を有しているとしても、漫画も一つの表現方法である以上、一般読者が、その内 容の全てが根拠のないものと読み取るとは考えられない。そして、むしろ当該記事全体を 見れば、誌面の5分の4程度は漫画の記載で占められており、その漫画の中では、六本木 の高級カラオケルームにおいて原告名倉がわいせっな行為をあおったという内容が主たる 内容の一つとして描かれ、このことと実際にかつて原告名倉の犯罪疑惑を報道した週刊誌 の転載を関連させて表現することにより、名倉が犯罪を犯したという事実を表現している といえる。さらに、漫画の終盤において、「視聴率のためなら犯罪者でも使うこの業界」 と記載して、原告名倉を犯罪者と表現している上、そもそも当該記事の題名には「強姦録」 という言葉を、漫画の題名にも「強姦狂」という言葉を使用し、記事の冒頭付近に刑法1 77条(強姦罪)の条文を掲載し、余白部分には、「強姦未遂も知らんぷり」等の記載を 施しているのである。以上からは、当該記事は、事件が灰色決着に終わったことを報じ、 これに対して問題提起をすることもその意図の一部ではあるかもしれないが、その前提と して、原告名倉が犯罪を犯したという事実をも摘示するものといわざるを得ないのであっ て、この点の被告らの主張は採用できない。  よって、当該記事は、原告名倉の社会的評価を低下させるべき事実を摘示しているもの というべきである。なお、被告らは、当該事実の真実性等の違法性阻却事由を主張立証し ないから、当該記事の掲載は、原告名倉に対する名誉毅損の不法行為を構成する。 (4)以上によれば、被告らは、本件雑誌に、原告安斎、同安倍及び同名倉の名誉を毅損 する内容の記事を掲載してこれを発行したものである。  そして、上記争いのない事実によれば、被告中澤は被告会社の代表取締役として、被告 太田は被告会社の取締役兼発行人として、被告片山は被告会社の編集人として本件雑誌の 編集及び発行に関与したものであるから、被告らは、原告安斎、同安倍及び同名倉に対し、 共同不法行為責任を負う。  被告らは、特に被告中澤が不法行為責任を負うことについて争うが、証拠(甲14の1 及び2、15)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、平成13年4月、社団法人日本 音楽事業者協会マスコミ委員会から、被告会社の発行する本件雑誌の前身となる同種の雑 誌の内容について、芸能人らの人格権侵害の可能性や、侮辱罪該当の可能性等を指摘し抗 議する文書を受け取っており、被告会社は、これに対して、同年5月に謝罪文を提出した 経緯があり、被告中澤もこの経緯に具体的にかかわっていたこと及び被告会社の取締役は 商法255条の定める最低数の3名であり、発行雑誌数も限られ、従業員数も少数の小規 模な企業であるとうかがわれるところ、こうした経緯を経た以上、代表取締役である被告 中澤は、本件雑誌の内容の概要(芸能人の社会的評価を低下させるような事実の記載が含 まれること。)を認識し、かつ認容していたものと推認することができるから、編集、発 行の共同実行行為者として、又は編集、発行を教唆し、若しくは報助した者(民法719 条2項)として、他の被告らと共同不法行為責任を負うものであることは明らかである。  また、被告らは、被告らには違法性の認識可能性がなかった旨も主張するが、上記認定 によれば、被告らが自分達の行為が違法な名誉毅損行為に該当することを認識することが 不可能であったとはとうていいえないから、この点に関する被告らの主張は採用できない。 4 原告の主張(3)(損害)について (1)証拠(甲36、37、39)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌は発行部数が7 万5790部であり、そのうち販売部数が6万9048部であったこと、原告安斎、同安 倍及び同名倉は、上記2(3)アないしウにおいて認定した本件雑誌内の記事によって、 それぞれ精神的損害を被ったことを認めることができる。  上記事情に鑑みて、原告安斎に生じた精神的損害の額は10万円とするのが相当である。  また、同様に、原告安倍に生じた精神的損害の額は、10万円とするのが相当である。  さらに、同様に、原告名倉に生じた精神的損害の額は、10万円とするのが相当である。 (2)また、原告安斎、同安倍及び同名倉について、弁護士報酬としてそれぞれ1万円の 損害が生じたとするのが相当である。 (3)したがって、結局、本件に関・して生じた損害の額は、原告安斎、同安倍及び同名 倉について、それぞれ11万円であるとするのが相当である。 第2 第2事件について 1 原告の主張(1)(当事者)について  原告の主張(1)(当事者)については、当事者間に争いがない。 2 原告の主張(2)(不法行為)について  被告らが本件雑誌を編集し、発行したこと、本件雑誌の形状等及び本件雑誌の構成につ いては、前記第1の3(11及び(21イにおいて説示したとおりである。  そこで、以下、個別に記事について認定する。なお、個別の記事における写真等の使用 形態については、別紙4(写真等目録)に記載したとおりである。 (1)原告安西 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌53頁下段右部に、原告安西 の上半身写真1葉が掲載されていること、その写真には目線が入れられており、写真の大 きさは縦約13c皿弱×横約5pであること、  当該写真は、「芸能Nワイド「梨元が吠える!高須がバラす!」2大巨頭ヤバネタ大公 開」等と題する企画記事の中の「続報1安西ひろこ『幻のヘアヌード騒動』」と題する部 分に添付されたものであること、当該企画記事は、芸能レポーターである高須氏が掴んだ 芸能人らに関する情報を暴露するという形式をとり、低俗であって一般大衆が知り得ない ような話題を掲載することによって読者の興味を惹こうとするものであり、撮影が開始さ れたといわれる原告安西のヘアヌード写真集がトラブルにより出版できずにいる件につい て記載したものであることを認めることができる。 イ 以上によれば、当該記事における原告安西の写真は、全体として、原告安西について 芸能レポーターが有する情報を記載した記事に添付されたものにすぎず、写真の大きさも、 記事における必要な範囲を超えるものではない。当該写真の掲載は、同原告の顧客誘引力 の利用を目的とするものであるとは認められず、情報の自由市場において許容される著名 人の噂話を記載した記事に添付された写真にすぎないものであって、原告安西のパブリシ ティ権を侵害するものではないというべきである。 (2)原告熊田 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌11頁下段右部に、原告熊田 の顔から胸部にかけての写真2葉及び胸部アップ写真1葉が掲載されていること、それら の大きさはそれぞれ縦約9.5c皿弱×横約13cm、縦約6c皿X横約7.5c皿、縦 約3.5c皿×横約5c皿であること、当該写真が掲載されている記事は、「熊田曜子 「私、脱ぎまくり!?」美巨乳宣言」と題するもので、当該記事の上部3分の2程度の部 分には上記において示した写真3葉が掲載され、下部3分の1程度の部分には、同原告が 「みなさんが『もう飽きた』というまで脱ぎ続けます。」と発言したことをはじめとする 平成15年7月21日の同原告のDVD発売記念握手会を兼ねたトークショーの様子など を伝える記事及び下記付録の内容が掲載されていることを認めることができる。  また、証拠(甲2の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌の付録DVDには、 「熊田曜子「私、脱ぎまくり!?」美巨乳宣言」と題して、原告熊田の姿を2分55秒に わたって収録した動画があり、これは上記に認定した本件雑誌11頁下段の記事に対応す るものであること、そのうち前半の約1分30秒は、原告熊田の上記トークショーにおけ る様子を収録したものであり、その中で、同原告が、みなさんが飽きたというまで脱ぎ続 ける旨の発言をしたことも収録されていること、途中に「美貌と天然のギャップがたまら ない。」、「脱ぎまくり宣言が出た!」という文字が挿入されていること、後半約1分3 0秒は、原告熊田が、本件雑誌の記者からの被告会社の委託による取材に答えている姿を 収録したものであることを認めることができる。 イ 以上に照らし検討すると、原告熊田は、発売記念撮影会において、被告会社側からの 質問にも答えているものであること、当該記事における原告熊田の写真及び付録DVDの 画像は、全体としては、原告熊田が、同原告のDVD発売記念握手会において「みなさん が『もう飽きた』というまで脱ぎ続けます。」等と発言したことを主に報じる記事におい て補助的に掲載され、また、同発言を報じる手段として収録されたものであって、当該記 事の主眼は原告熊田の発言であるにすぎない。当該写真及び付録DVDの画像の掲載、収 録は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、情報の自由市 場において許容される著名人の芸能活動のレポートに添付された写真ないし動画にすぎな いものであって、原告熊田のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (3)原告後藤 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌30頁下段左部に、原告後藤 のビキニ姿の写真1葉とその股間部分の拡大写真1葉が掲載されていること、写真の大き さはそれぞれ縦約6p×横約7.5p、縦約4c皿X横約2(皿であること、当該写真が 掲載されている記事は、「残酷WinMXアイドルズ」と題する企画記事の中の「後■真 希熟れ熟れドテマン」というものであること、当該企画記事は、要するに、WinMXと いうソフトを使用すれば、女性芸能人らの卑狼な画像等が入手できることを紹介して読者 の興味を惹くことが主眼のものであり、入手できる例として延べ15名の女性芸能人らに ついての画像等を掲載しているところ、当該記事は、その一環として、原告後藤が発売し ていた写真集の画像も入手できるという情報を紹介するものであることを認めることがで きる。 イ 以上によれば、当該記事における原告後藤の写真は、その大きさ、企画記事全体に占 める割合及び本件雑誌全体に占める割合が小さく、全体として、WinMXというソフト により入手できる女性芸能人らの卑狼な画像の一例として紹介されたものに過ぎない。当 該写真の掲載は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、情 報の自由市場において許容される著名人に関する情報に添付されたものにすぎないのであ って、原告後藤のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (4)原告高橋 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌15頁下段右部に、原告高橋 が出演したテレビ番組の映像を写真にしたもの3葉が掲載されていること、写真の大きさ はそれぞれ縦約8.5p×横約10p、縦約3.5p×横約5p、縦約3.5p×横約5 pであること、当該写真が掲載されている記事は、「アイドル激撮ハプニング」と題する 企画記事の中の「福井生れの高■愛」というものであり、目隠しをした原告高橋が、上か らつり下がっている松茸を顔で探って、それが松茸であることを当てるというゲームをし ている場面を取り出して、「何も知らずに福井から上京してきたばかりの少女に、男性器 を想像させるモノを突きつけるとは」等と記載しているものであること、当該企画記事は、 要するに、女性芸能人らの芸能活動うち、男性ファンの目をひく一場面を取り出して紹介 するも.のであることを認めることができる。 イ 以上によれば、当該記事における原告高橋の写真は、全体として、原告高橋の芸能活 動のうち男性ファンの目をひく一場面を卑狼に表現し紹介する記事の一部として補助的に 掲載されたものに過ぎず、写真の大きさも、記事における必要な範囲を超えるものではな い。当該写真の掲載は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められ ず、情報の自由市場において許容される著名人の芸能活動を伝える記事に添付されたもの にすぎないのであって、原告高橋のパブリシティ権を侵害するものではないというべきで ある。 (5)原告山野 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌16頁上段左部に、原告山野 が出演したテレビ番組の映像を写真にしたもの2葉が掲載されていること、そのうち1葉 は、原告山野の胸部アップの写真で、その大きさは縦約7p×横約10pであり、もう1 葉は、原告山野を含むテレビの出演者4名が写っている写真で、その大きさは縦約3.5 cm×横約5pであること、当該写真が掲載されている記事は、「アイドル激撮ハプニン グ」と題する企画記事の中の「TVにも大量露出中!MEGUMI」というものであり、 共演した女性芸能人が原告山野の胸部に触れるという一場面を取り出して特に記載してい るものであること、当該企画記事は、要するに、女性芸能人らがテレビに出演したりした 活動のうち男性ファンの目をひく一場面を取り出して紹介するものであることを認めるこ とができる。 また、証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌49頁左下部に原告山野の 写真1葉が掲載されていること、その大きさは縦約9p×横約3.5pであること、当該 写真が掲載されている記事は、「タレントの○(【注】○に裏)素顔を暴露する舞台裏○ (【注】○に秘)実況ナマ中継!」等と題して、いわゆる巨乳タレントらの表に現れない 姿について面白おかしく評する内容のものであるところ、いわゆる巨乳タレントとして世 間に知られている原告山野に関する記載(「MEGUMIちゃんもサッパリしていて性格 もいいよ。」等)があるほか、いわゆる巨乳タレントー般についての記載もあることを認 めることができる。 イ 以上によれば、当該記事における原告山野の写真は、全体として、原告山野の芸能活 動のうち男性ファンの目をひく一場面を紹介する記事の一部として補助的に掲載されたり、 あるいは、原告山野を含むいわゆる巨乳タレントらについて面白おかしく記載する記事に 添付されて掲載されたりしたものにすぎず、また、当該写真は、いずれの大きさも、記事 における必要な範囲を超えるものではない。当該写真の掲載は、同原告の顧客誘引力の利 用を目的とするものであるとは認められず、情報の自由市場において許容される著名人の 芸能活動を伝える記事に添付されたものにすぎないのであって、原告山野のパブリシティ 権を侵害するものではないというべきである。 (6)原告根本 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌72頁下段中央に、原告根本 が他の女性芸能人ら3名と共に写っている写真1葉が掲載されていること、その大きさは 縦約7.5p×横約7c皿であること、当該写真は、「あいどるワンダーランド投稿写真 王国」と題する企画記事の中にあり、「ネクストブレイク豪華盛り!」、「テレ朝エンジ ェルアイ」と題するもので、写真中に簡単な付記文言(「カラフルなビキニはテレ朝の顔 ですね」等)があることを認めることができる。 イ 当該原告根本の写真は、その大きさ、企画記事全体に占める割合及び本件雑誌全体に 占める割合が小さいことに鑑みれば、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものである とは認められず、情報の自由市場において許容される著名人の芸能活動を伝える記事に添 付されたものにすぎないのであって、原告根本のパブリシティ権を侵害するものではない というべきである。 (7)原告小池 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌16頁下段左部に、原告小池 が出演したテレビ番組の映像を写真にしたもの3葉が掲載されていること、そのいずれも、 原告小池が牛乳をかけられた場面(番組の企画によるテレビ出演中の画像)を写したもの であり、その大きさはそれぞれ縦約9p×横約10p、縦約3p×横約4p及び縦約3p ×横約4pであること、当該写真が掲載されている記事は、「アイドル激撮ハプニング」 と題する企画記事の中の「エロ仕事の神髄炸裂小■A子」というものであり、原告小池が 番組の中で牛乳をかけられた場面を特に取り出して「コントの中で大量の牛乳を顔面にぶ っかけられたこのシーンも、どこからどう見ても顔射を意識したもの。」等と記載してい るものであること、当該企画記事は、要するに、女性芸能人の活動のうち男性ファンの目 をひく一場面を取り出して紹介するものであることを認めることができる。  また、証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌56頁下部左から2番目 に、「いまや巨乳会のトップに君臨する小●栄子。垂れ乳防止対策は万全だ」とのコメン トを付して、原告小池の目線入り写真1葉が掲載されていること、その大きさは縦約4c 皿×横約6.5c皿であること、当該写真は、「芸能人の素顔大暴露!!』、「高級スポ ーツクラブのインストラクターが赤裸々に!」等と題して、スポーツクラブのインストラ クターの証言と称して、あることないこと面白おかしく記載し、原告小池に関しても、 「すっごくムキになって上半身を鍛えてますよ」等の記載がある記事に添付されたもので あることを認めることができる。 イ 以上によれば、当該記事における原告小池の写真は、全体として、原告小池の芸能活 動のうち男性ファンの目をひく一場面を紹介する記事に添付されて掲載されたり、あるい は、原告小池を含む芸能人らについて面白おかしく記載することが主眼である記事に添付 されて掲載されたりしたものにすぎず、そのいずれの大きさも、記事における必要な範囲 を超えるものではない。当該写真の掲載は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするもの であるとは認められず、情報の自由市場において認められる著名人の芸能活動を紹介する 記事に添付されたものにすぎないのであって、原告小池のパブリシティ権を侵害するもの ではないというべきである。 (8)原告瀬戸 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌72頁上段左に、原告瀬戸の 写真1葉が掲載されていること、その大きさは縦約7.5pX横約10.5pであること、 当該写真は、「あいどるワンダーランド投稿写真王国」と題する企画記事の中の「君こそ No.1コングラッチュレイション!」、「ミスマガジン2003グランプリ」と題する もので、写真中に簡単な付記文言(「実は『ヤンジャン制服コレクション7UP!200 1』にも選ばれている早妃ちゃん」等)があることを認めることができる。 イ 当該原告瀬戸の写真は、その大きさも、記事における必要な範囲を超えるものではな く、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、情報の自由市場 において許容される著名人の芸能活動を紹介する記事に添付されたものにすぎないのであ って、原告瀬戸のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (9)原告山本 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌56頁下部左から1番目に、 「結婚後、1児の母となった雛●あきこ。罪状、不倫。現行犯逮捕!」とのコメントを付 して、原告山本の目線入り写真1葉が掲載されていること、その大きさは、縦約4cmX 横約6.5pであること、当該写真は、曽「芸能人の素顔大暴露!!」、「高級スポーツ クラブのインストラクターが赤裸々に!」等と題して、スポーツクラブのインストラクタ ーの証言と称して、あることないこと面白おかしく記載するものであり、原告山本に関し てもことさらに同原告の不倫を想像させるような記載がある記事に添付されたものである ことを認めることができる。 イ 以上によれば、当該記事における原告山本の写真は、全体として、原告山本を含む芸 能人らについて面白おかしく記載することが主眼である記事に添付されて掲載されものに すぎず、写真の大きさも、記事における必要な範囲を超えるものではない。当該写真の掲 載は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、情報の自由市 場において許容された著名人の噂話についての記事に添付されたものにすぎないのであっ て、原告山本のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (10)原告逸見 ア 証拠(甲2の1)によれば、本件雑誌33頁中段右部に原告逸見とは別人の全裸写真 1葉が掲載されていること、その大きさは縦8p×横約9.5pであること、当該写真は 画像が不鮮明であって被写体の女性の顔がはっきり見えないこと、当該写真が掲載されて いる記事は、「残酷WinMXアイドルズ」と題する企画記事の中の「辺口えみり西■輝 彦と近親ヌード」等と題され、その本文中には、父が娘を思うあまり暴走して撮ったとい われる写真だが「真相は如何に!?」、「本当かよ!」等と記載されているものであるこ と、当該企画記事は、要するに、WinMXというソフトを使用すれば、女性芸能人らの 卑狼な画像等が入手できることを紹介して読者の興味を惹こうとするものであり、入手で きる例として延べ15名の女性芸能人らについての画像等を掲載しているところ、当該記 事は、その一環として、原告逸見のものとも見まがうような卑狼な画像も入手できるとい う情報を紹介するものであることを認めることができる。 イ 以上によれば、当該写真はそもそも原告逸見のものではないのであるから、同原告の パブリシティ権を侵害するものではない。仮に、原告逸見本人の写真でない場合にもパブ リシティ権が侵害される場合があるとしても、当該写真は、WinMXというソフトによ り入手できるという女性芸能人らの卑狼な画像の一例として紹介されたものに過ぎず、ま た、そもそも原告逸見のものであるとは判明しないほどに不鮮明であり、さらにその大き さ、企画記事全体に占める割合及び本件雑誌全体に占める割合が小さいことに鑑みれば、 同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、情報の自由市場にお いて許容される著名人の噂話を記載した記事に添付された写真にすぎないのであって、原 告逸見のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (11)原告小野 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌31頁右側下段に原告小野の 写真2葉が掲載されていること(1枚はもう1枚の拡大写真である。)、その写真の大き さはそれぞれ縦8.5c皿弱×横約9c皿、縦約5cm×横約3.5c皿であること、当 該写真が掲載されている記事は、「残酷WinMXアイドルズ」と題する企画記事の中の 「小■真弓こぼれ落ちる谷間」等というものであること、当該企画記事は、要するに、W inMXというソフトを使用すれば、女性芸能人らの卑狼な画像等が入手できることを紹 介して読者の興味を惹こうとするものであり、入手できる例として延べ15名の女性芸能 人らについての画像等を掲載しているところ、当該記事は、その一環として、原告小野の グラビア写真の画像も入手できるという情報を紹介するものであることを認めることがで きる。 イ 以上によれば、当該記事における原告小野の写真は、その大きさ、企画記事全体に占 める割合及び本件雑誌全体に占める割合が小さく、全体として、WinMXというソフト により入手できる女性芸能人らの卑狼な画像の一例として紹介されたものにすぎない。当 該写真の掲載は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、情 報の自由市場において許容される著名人に関する情報に添付されたものにすぎないのであ って、原告小野のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (12)原告矢澤 ア 証拠(甲2あ1及び2)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌の付録DVDには、原 告矢澤を写した動画が16秒にわたって収録されていること、当該動画は「奥菜恵「人妻 寸前」むんむん則悩殺フェロモン」と題する部分に収録されているところ、この部分は、 映画の試写会における当該映画の主演俳優の舞台挨拶の模様及び当該試写会に訪れた原告 矢澤を含む芸能人5名の姿を収録し、映画の試写会が行われた旨及びそこを訪れた芸能人 らの服装等に焦点をあてて、その魅力的な姿を報じるものであることを認めることができ る。 イ 以上によれば、当該原告矢澤の動画は、その長さが短く、また、全体として、映画の 試写会が行われ、そこに訪れた芸能人の魅力的な姿を報じる趣旨の動画の一部として収録 されたものに過ぎず、同原告の顧客誘引力の利用を目的とすうものであるとは認められず、 情報の自由市場において許容される著名人に関する情報に添付されたものにすぎないので あって、原告矢澤のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (13)原告深田 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌56頁下部左から2番目に、 「驚異の二の腕を披露していた深キ●ン。これもジムでの怠慢が原因か?」とのコメント を付して、原告深田の目線入り写真1葉が掲載されていること、その大きさは縦約4c皿 ×横約5c皿であること、当該写真は、「芸能人の素顔大暴露!!」、「高級スポーツク ラブのインストラクターが赤裸々に!」等と題し、スポーツクラブのインストラクターの 証言と称して、あることないこと面白おかしく記載するものであり、原告深田に関しても 休憩が多いという趣旨のインストラクターの発言が記載されている記事に添付されたもの であることを認めることができる。 イ 以上によれば、当該記事における原告深田の写真は、全体として、原告深田を含む芸 能人らについて面白おかしく記載することが主眼である記事の一部として掲載されたりし たものにすぎず、そのいずれの大きさも、記事における必要な範囲を超えるものではない。 当該写真の掲載は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものであるとは認められず、 情報の自由市場において許容される著名人に関する情報に添付されたものにすぎないので あって、原告深田のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 (14)原告岡部 ア 証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌49頁下部右から1番目に原 告岡部の写真1葉が掲載されていること、その大きさは、縦約13.5p×横約7.5p であること、当該写真が掲載されている記事は、「タレントの(【注】○に裏)素顔を暴 露する舞台裏(【注】○に秘)実況ナマ中継!」等と題して、いわゆる巨乳タレントらの 表に表れなヤ・姿について面白おかしく評する内容のものであるところ、副題として「あ のグラドルたちの意外な素顔優香に囁かれる『ヤ○マン疑惑』」等とし、原告岡部に関す る噂話の記載があることを認めることができる。  また、証拠(甲2の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌55頁中段左端に、「物 好きなのか策略なのか。大物タレントとの噂が絶えない優●」とのコメントを付して、原 告岡部の目線入り写真1葉が掲載されていること、その大きさは縦約5p×横約3.5c 皿であること、当該写真が掲載されている記事は、「芸能人たちの知られざる素顔を徹底 追跡!士、「慢心TV断罪ワイド」、「AD暴露座談会」等と題し、芸能人らに関するA D(アシスタントディレクター)らの噂話として、あることもないことも面白おかしく記 載することを主眼とするものであるところ、原告岡部に関しても噂話の記載があることを 認めることができる。 イ 以上によれば、当該記事における原告岡部の写真は、全体として、原告岡部を含むい わゆる巨乳タレントらについて面白おかしく記載する記事の一部として掲載されたり、原 告岡部を含む芸能人らについて面白おかしく記載することが主眼である記事の一部として 掲載されたりしたものにすぎず、それらの大きさも、記事における必要な範囲を超えるも のではない。当該写真の掲載は、同原告の顧客誘引力の利用を目的とするものとは認めら れず、情報の自由市場において許容される著名人に関する情報に添付されたものにすぎな いのであって、原告岡部のパブリシティ権を侵害するものではないというべきである。 第3 結論  以上説示したところによると、第1事件については、原告プロダクションらの訴えは、 いずれも不適法であるからこれらを却下することとし、原告広末涼子、同押尾学及び同乙 葉こと吉田和代の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、原告伊東美咲こと安 斎智子、同安倍麻美及び同名倉潤の請求はそれぞれ11万円及びこれに対する第1事件訴 状送達の日の翌日である平成16年4月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合 による金員の連帯支払を求める限度で理由があるから同部分についてそれぞれ認容し、そ の余については理由がないからこれらを棄却することとする。また、第2事件については、 原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとする。そして、それぞれの事件に つき、訴訟費用の負担につき民訴法61、64条、65条を適用して、主文のとおり判決 する。 東京地方裁判所民事第13部 裁判長裁判官 野山 宏    裁判官 出口 亜衣子 裁判官酒井正史は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 野山 宏