・大阪地判平成17年10月24日判時1911号68頁  選撮見録事件  本件は、大阪市に所在するテレビ放送事業者である原告ら(株式会社毎日放送、朝日放 送株式会社、関西テレビ放送株式会社、讀賣テレビ放送株式会社、テレビ大阪株式会社) が、被告(株式会社クロムサイズ)が販売する、「選撮見録」という名称の被告商品(集 合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステム)が、原告らがテレビ番組の著作者 として有する著作権(複製権および公衆送信権)ならびに原告らが放送事業者として有す る著作隣接権(複製権および送信可能化権)の侵害にもっぱら用いられるものであると主 張し、上記各権利に基づいて、被告に対し、その商品の使用等および販売の差止め並びに 廃棄を請求した事案である。  判決は、「被告商品の利用者の数は、公衆送信の定義に関して「公衆」ということを妨 げない程度に多数であるというべきである」とした上で、「被告の、被告商品による録画 行為に対する管理・支配の程度が強いということはできず、その受けている利益(保守業 務の対価)も高いかどうか明確なものでもないため、全体としてみて、被告は、設置者が 被告商品によって録画する行為を幇助しているということはできても、録画の主体として 被告商品により録画しているというためには、これを認めるに足りる証拠がないというべ きである」、「マンションに被告商品を採用するのは、被告商品の設置者(集合住宅全体 の所有者や管理組合・管理組合法人等)であって、設置者には、被告商品を採用(購入) するかしないかの自由があるから、設置者によって採用された後の被告商品の利用者であ る各居室の入居者を被告の手足と評価することはできない」、「滋賀県、京都府、大阪府、 兵庫県、奈良県及び和歌山県の地域内で…被告商品を使用すれば、必然的に、原告らの放 送事業者としての複製権及び送信可能化権が侵害される…こととなり、被告商品の設置者 に対する裁判による被告商品の使用差止めを別にすれば、その回避は社会通念上不可能で あるということができる」、「本件においては、@被告商品の販売は、これが行われるこ とによって、その後、ほぼ必然的に原告らの著作隣接権の侵害が生じ、これを回避するこ とが、裁判等によりその侵害行為を直接差し止めることを除けば、社会通念上不可能であ り、A裁判等によりその侵害行為を直接差し止めようとしても、侵害が行われようとして いる場所や相手方を知ることが非常に困難なため、完全な侵害の排除及び予防は事実上難 しく、B他方、被告において被告商品の販売を止めることは、実現が容易であり、C差止 めによる不利益は、被告が被告商品の販売利益を失うことに止まるが、被告商品の使用は 原告らの放送事業者の複製権及び送信可能化権の侵害を伴うものであるから、その販売は 保護すべき利益に乏しい。このような場合には、侵害行為の差止め請求との関係では、被 告商品の販売行為を直接の侵害行為と同視し、その行為者を『著作隣接権を侵害する者又 は侵害するおそれのある者』と同視することができるから、著作権法112条1項を類推 して、その者に対し、その行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当であ る」などと述べて、請求を認容し、「大阪府内の集合住宅向けに、それぞれ、被告商品を 販売してはならない」旨命じた。 (控訴審:大阪高判平成19年6月14日) ■争 点 (1) 〔本案前の主張〕本件請求は特定を欠くものとして不適法なものであるか (2) 被告商品の構成 (3) 著作権に基づく原告らの請求について、これを基礎付けるに十分な事実が主張され ているか (4) 被告商品の使用によって、被告商品のサーバーのハードディスクに録画された放送 番組は、公衆送信されるといえるか (5) 被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録 画することは、放送を送信可能化するといえるか (6) 被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組ない し放送に係る音及び影像を複製する主体、放送番組を公衆送信する主体、放送を送信可能 化する主体は、被告といえるか (7) 被告が、複製、公衆送信ないし送信可能化の主体ではない場合における被告商品の 販売差止め等の対象とすることの可否 (8) 被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組ない し放送に係る音及び影像を複製することは、著作権法30条1項(同法102条1項によ り準用される場合も含む。)により適法化されるか(「私的使用のための複製」の抗弁・ 「公衆用自動複製機器」の再抗弁) 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本案前の主張)について  (1) 被告は、原告らが差止め等を求める被告商品の特定が十分ではないと主張する。  しかしながら、本件における原告らの請求は、被告商品を使用し又は使用させることの 差止め、被告商品を販売することの差止め及び被告商品の廃棄であるところ、このような 請求をするにあたっては、商品名によって請求の対象物を特定すれば足り、その構造や性 能による特定は、請求の対象物の特定としては、必ずしも必要ではないというべきである。  なぜならば、差止め等に係る請求の特定という観点からすれば、商品名を特定すること により、口頭弁論終結時においてその商品名が付された商品すべてという形式で、請求の 対象物は特定することができるのであり、商品の構造や性能は、その請求を基礎づける請 求の原因として、主張立証されるべきものにすぎないからである。  もちろん、同一の商品名の商品であっても、商品の構造や性能が異なり、これによって、 同一の商品名の商品のうちで、請求の理由の有無が分かれることもあり得るけれども、こ れは請求の理由の有無に係る問題であって、訴えの適法不適法に係るものではない。  そして、本件においては、被告商品は、別紙物件目録記載のとおり、商品の名称及び種 類によって特定されているのであるから、請求の特定としては十分である。  (2) 被告は、原告らが放送事業者としての著作隣接権に基づいて請求するならば、少 なくとも周波数、地上・衛星放送の別、チャンネルなどによって「放送」を特定すべきで あり、また、放送番組の著作権に基づいて請求するならば、個々の番組をすべて特定し、 著作権の取得原因及びその番組の放送予定を具体的に主張すべきであるのに、原告らはこ れを怠っていると主張する。  しかしながら、仮に、放送事業者の著作隣接権に基づく請求の際に「放送」の特定が十 分ではなかったり、放送番組の著作権に基づく請求の際に番組の特定やその著作権の取得 原因等の主張が十分ではなかったとしても、それは請求原因の主張が十分にされていない というにすぎないものであり、これも請求の理由の有無に係る問題であって、訴えを不適 法とするものではない。  (3) 被告は、被告商品を使用し又は使用させることの差止めの請求につき、「商品の 使用」とは、日本語の通常の用法としても意味が不明であると主張する。しかし、「商品 の使用」は、日本語の通常の用法として意味が明らかであるから、被告の主張は採用する ことができない。  また、被告は、「使用」が著作隣接権等の侵害行為となることはあり得ないと主張する が、仮にそうだとしても、それは請求を理由のないものとするにすぎないものであって、 訴えを不適法とするものではない。  (4) 被告は、被告商品を販売することの差止めの請求につき、「販売」が著作隣接権 等の侵害行為となることはあり得ないと主張するが、仮にそうであったとしても、それは 請求を理由のないものとするにすぎないものであって、訴えを不適法とするものではない。  また、被告は、販売の相手方が誰であるかは不明であると主張するが、請求において特 定されていない場合には販売の相手方を限定する趣旨ではないことは当然に明らかであり、 これも訴えを不適法とするものではない。  さらに、被告は、「選撮見録」は、個々の建設業者等の発注に応じ製作される特注品で あり、その構造、機能等がその都度決定されるものであるから、原告らは、建設業者及び 設置場所を特定した上で、被告が販売納品しようとしている特定の商品について差止請求 権を行使しなければならないと主張する。  しかしながら、仮に被告が主張する上記事情が存在するとしても、個々の商品によって 構造や機能が異なることにより、原告らが販売差止めを求める被告商品のうち、特定の構 造や機能の有無によって請求の理由の有無が分かれることが生じ得るとしても、これは請 求の理由の有無に係る問題であって、訴えの適法不適法に係るものではない。  その他、被告が縷々主張するところも、いずれも請求の理由の有無に係るかはともかく、 訴えの適法不適法に係るものとはいえない。  (5) 以上のとおり、被告が本案前の申立ての理由として主張するところはいずれも理 由がないから、被告による本案前の申立ても理由がないものである。 2 争点(2)(被告商品の構成)について  (1) 「選撮見録」について被告が作成したカタログ(甲15)、「選撮見録」の取扱 説明書の版下(乙7)及び「選撮見録チャンネルプリセット変更マニュアル」(乙8)、 「選撮見録」についての被告のウェブサイト上での説明(甲16)、被告が作成した「選 撮見録」についての説明(乙9)、弁護士P1他1名作成の2004年7月15日付被告宛 書面(甲17)、被告代表取締役P2作成の陳述書(乙21)、「選撮見録」の導入が予定 された集合住宅の広告(甲10、31、42)及び導入予定先の被告商品についての回答 書(甲19、46、64)並びに弁論の全趣旨によれば、被告は、「選撮見録」という名 称を付した集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムとして、少なくとも、 以下の構造及び機能を有する商品の販売の申し出をしていることが認められる。  なお、被告は、「選撮見録」は、個々の建設業者等の発注に応じ製作される特注品であ り、その構造、機能等がその都度決定されるものであると主張する。しかし、上記各証拠 に照らしても、また、本件における被告の主張に照らしても、「選撮見録」は、少なくと も、共通して、以下の構造及び機能を有する商品であることが認められる。  したがって、本件において原告らが差止め等の請求の対象とする被告商品は、以下の構 造及び機能を有する、集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムであるとい うことができる。  @ 被告商品は、大要、テレビ放送受信用チューナーと放送番組録画用ハードディスク を備えたサーバー並びに各利用者用のビューワー及びこれを操作するコントローラーから なる。  その設置者は、集合住宅全体の所有者や、集合住宅が区分所有に係る場合には、その管 理組合ないし管理組合法人であるが、集合住宅の建築時に導入される場合には、建築業者 が設置し、その後、上記のような者が設置者の地位を承継することもある。  A サーバーは、集合住宅の共用部分(管理人室等)に設置される。また、サーバーの チューナー部はテレビ放送受信用アンテナに接続される。  各利用者用のビューワー及びそのコントローラーは、集合住宅の居室に、各戸1台ずつ 設置され、各ビューワーとサーバーとの間が配線で電気的に接続される。また、ビューワ ーにはテレビ受像機を接続することを予定しているが、ビデオテープレコーダー等の録画 装置を接続することもできる。  1サーバー当たりのビューワー数は、具体的な設置場所によって異なるが、その上限は 50個(50戸)程度とすることが予定されている(ただし、この上限は技術的な上限で はない。)。したがって、これを超える数のビューワーを設置する際には、これに応じて サーバーを増設することとなる。  B 「選撮見録」は、そのサーバーによって、テレビ放送から、あらかじめ選定され設 定された、最大5局分の番組を、同時に、1週間分録画することができる。  この放送局の選択は、導入時に設置者が選定して被告が設定するが、「選撮見録」の設 置後にも、設置者において変更することができる。  放送番組の録画は、サーバーのハードディスク上にされ、1週間を経過した番組の音声 及び映像の情報は、自動的に消去される。  C 放送番組の録画は、ビューワーからの録画予約指示によって自動的にされる。  録画予約モードには、「個別予約モード」と「全局予約モード」があり、各利用者にお いて、各ビューワーごとに設定することができる。  個別予約モードは、各利用者において、ビューワーを用いて、録画すべき番組を個別に 予約するものであり、全局予約モードは、1週間分5局分の番組すべてを録画するように 予約するものである。  サーバーに接続された複数のビューワーから、同一の番組について複数の録画予約(全 局予約モードの設定による予約も含む。)がされていても、1つの放送番組は、1サーバ ーにおいては、1か所にしか録画されない(したがって、1つの放送番組についての音声 及び映像の情報は、1サーバーにおいて1つしか記録されない。)。  D 録画された放送番組の再生は、ビューワーからの再生指示によって自動的にされる。  各利用者が、ビューワーを用いて、既に録画予約(全局予約モードの設定による予約も 含む。)の指示をしてある番組の中から、再生すべき番組を指定して再生の指示をすると、 サーバーから当該ビューワーに録画してある番組の音声及び映像の情報が信号として送信 され、各利用者は、当該ビューワーに接続されているテレビ受像機を用いてその番組を視 聴することができる。  ビューワーの録画予約モードが個別予約モードに設定されている場合には、当該ビュー ワーから録画予約の指示をしていなかった番組については、仮にサーバーにおいてその番 組の録画をしていても、当該ビューワーから再生の指示をして番組の視聴をすることはで きない。  (2) 上記(1)Cの点につき、被告は、「選撮見録」においては、「全局予約モード」は オプションで付属させることができるものであると主張する。  しかしながら、「選撮見録」について被告が作成したカタログ(甲10)及び「選撮見 録」についての被告のウェブサイト上での説明(甲16)のいずれにおいても、「選撮見 録」の機能として、「全局予約」が主要な機能として記載されており、これがオプション であるとの記載は全く存在しないことに照らせば、被告の上記主張は採用することができ ない。 3 争点(3)(著作権に基づく請求)について  原告らは、自社制作により自らが著作権を有する放送番組があり、原告らが日々継続的 に行っている放送の中に、そのような番組が必ず含まれていると主張し、甲第14号証と して、平成16年12月6日から同月12日までの新聞紙上のテレビ番組表に掲載された 放送番組のうち、原告らが著作権を有する番組に原告らにおいて印を付けたとするものを 提出する。  しかしながら、同号証は、原告らが印を付けた番組について、原告らが著作権を有する と主張するに等しいものであって、直ちに原告らが著作権を有していることの証左となる ものではない。  そして、被告において、原告らが放送番組について著作権を有していることを否認し、 また、原告らが著作権を有する放送番組の特定等について争っているにもかかわらず、原 告らは、これ以上の特定や著作権の取得原因について主張せず、また、同号証以外に、原 告らの上記主張を裏付けるに足りる証拠を提出しない。また、原告らが自ら著作権を有す ると主張する放送番組についても、その内容が明らかではなく、これらの著作物性の有無 についても判断することができない。  したがって、原告らの上記主張は採用することができず、本訴請求のうち、原告らの著 作権に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないとい うほかはない。  また、原告らが著作権を有すると主張する放送番組について、原告らが放送事業者とし て放送を行っている地域以外の地域において、これらが放送されていることは、原告らは 明確に主張せず、本件の全証拠によっても、その範囲をを認定することができないから、 これらの地域についての請求は、この点においても理由がない。 4 争点(5)(送信可能化性)について  (1) 著作権法における、「送信可能化」(2条1項9号の5)、「自動公衆送信」 (同項9号の4)、「公衆送信」(同項7号の2)、「放送」(同項8号)及び「有線放 送」(同項9号の2)の定義は、それぞれ以下のとおりである。  @ 送信可能化  次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすること。  イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用 に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供 する部分(以下「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力され る情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。)の公衆送信用記録媒体に情報を記 録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加 え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に 変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。  ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入 力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続 (配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により 行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。  A 自動公衆送信  公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当す るものを除く。)。  B 公衆送信  公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(有線 電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その 構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にある ものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うこと。  C 放送  公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として 行う無線通信の送信。  D 有線放送  公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として 行う有線電気通信の送信。  また、著作権法において、「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとされている (同条5項)。  以上を前提として、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスク に放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということができるか、検 討する。  (2) 前記2のとおり、被告商品は、個々の利用者が全局予約モードに設定しているか 個別予約モードに設定しているかに関係なく、サーバー毎に、これに接続されたビューワ ーのいずれかから録画予約された番組(全局予約モードに設定しているビューワーがある 場合は全番組)について、そのサーバーのハードディスク上の1か所にのみその音声及び 映像の信号を記録し、そのサーバーに接続されたビューワーで、当該番組の予約をしたビ ューワー(全局予約モードに設定しているビューワーは当然にこれに含まれる。)から、 録画から1週間の保存期間内に番組再生の要求があった場合には、自動的に、録画した番 組の音声及び映像の情報信号を、当該ビューワーにのみ、送信するものである。  そして、前記2のとおり、被告商品は、サーバーとビューワーが有線回線によって電気 的に接続され、サーバーは集合住宅の共用部分に、ビューワーは個々の入居者の居室に設 置されている。  以上によれば、被告商品の使用時においては、被告商品のサーバーのハードディスクに 放送番組を録画することによって、「サーバーに接続されたビューワーの設置された居室 の入居者によって直接受信されることを目的とした有線電気通信の送信」であり、「当該 入居者からの求めに応じ自動的に行われるもので、放送又は有線放送のいずれにも該当し ないもの」が、行われ得る状態になるということができる。  (3) ところで、これが、自動公衆送信し得る状態であるというためには、送信を要求 し、信号を受信する者、すなわち各居室の入居者が「公衆」である必要がある。  この点につき、被告は、@あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーの利用者のみが、 番組の再生指示(送信の要求)をしてその信号を受信し、番組を受信することができるの であるから、送信を要求し、信号を受信する者を「公衆」ということはできない、A「公 衆」とは特定かつ多数の者を含むとされているが、被告商品では1サーバーに接続される ビューワー数は50個程度を上限としているから、その数に照らして、その利用者を「公 衆」ということはできない、と主張する。  しかしながら、前記2のとおり、被告商品においては、番組の録画は、録画予約をした ビューワーの数にかかわらず、サーバーのハードディスク上の1か所にのみ、1組のみの 音声及び映像の情報が記録されるものである。したがって、あらかじめ録画予約の指示を したビューワーすべてに対し、その要求に応じて、記録された単一の情報が信号として送 信されるものであるから、その人数の点を別とすれば、被告商品の利用者は、「公衆」で あることを妨げる要素を含んでいるものではない。被告は、公衆送信における「公衆」と は、不特定者や第三者であることを要すると主張するかのようでもあるが、そのように解 することができない。  そして、被告商品においては、ビューワーは、集合住宅の各戸に設置されることが予定 されているから、1サーバーに接続されるビューワー数は、設置場所によって異なるとし ても、集合住宅向けに販売される以上、少なくとも10個以上は接続されるものと推認さ れる。これは、10世帯以上の入居者(したがって、その入居者数は10に留まるもので はない。)が利用者となることを意味するものである。ところで、上記のとおり、著作権 法における公衆送信の定義においては、有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所 が他の部分の設置の場所と同一の構内にあるものによる送信を除くこととされているが、 その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域を単位 として上記の「同一の構内にある」か否かを判断することとされており、その結果、同一 の建物でも、その内部が区分され、占有者を異にする区域が複数存在する場合には、その 建物の中で「公衆送信」がされ得ることとされている。このことに照らせば、被告商品の 利用者の数は、公衆送信の定義に関して「公衆」ということを妨げない程度に多数である というべきである。  したがって、被告の上記主張は採用することができず、被告商品の利用者、すなわち、 送信を要求し、信号を受信するものは、「公衆」であるということができる。  よって、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組 を録画することにより、その放送番組は自動公衆送信し得る状態になるものである。  (4) さらに進んで、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディス クに放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということができるか、 検討する。  既に検討したところに照らせば、被告商品において、サーバーとビューワーとを接続し ている配線が、電気通信回線であり、これが公衆に該当する利用者の用に供されているこ と、被告商品のサーバーが、自動公衆送信装置に、そのハードディスクが、公衆送信用記 録媒体に、それぞれ該当することは、明らかである。  そして、利用者がビューワーにより録画予約の指示をすることにより、被告商品のサー バーに、放送番組の音声及び映像の情報が記録され、これによって、上記(2)、(3)のとお り、当該放送番組の情報が自動公衆送信し得るようになるのであるから、被告商品のサー バーのハードディスクに放送番組が録画されることにより、その放送は「送信可能化」さ れるということができる(上記(1)@イ)。  (5) この点につき、被告は、「送信可能化」とは、いわゆる「ウェブキャスト」のよ うに、受信した番組を録音・録画せず、サーバー等を通じてそのまま流す場合のみを対象 とし、いったん録画されたビデオ等を用いて送信可能化する行為は、送信可能化にはあた らないと主張する。  しかしながら、上記(1)@イのとおり、著作権法上、公衆の用に供されている電気通信 回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に、情報を記録することによ り、自動公衆送信し得るようにすることも、「送信可能化」として定義されているのであ るから、被告の上記主張は採用できない。  (6) 以上のとおりであるから、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハ ードディスクに放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということが できる(ただし、「送信可能化」の主体が誰であるかについては、後記5において検討す る。)。 5 争点(6)(被告は、複製行為ないし送信可能化行為の主体か)  (1) 複製及び送信可能化の主体  一般に、放送に係る音及び影像を複製し、あるいは放送を送信可能化する主体とは、実 際に複製行為をし、あるいは実際に送信可能化行為をする者である。  そして、被告は、被告商品を販売するとしても、直接には、複製行為や送信可能化行為 をするわけではない。  しかしながら、直接には、複製行為あるいは送信可能化行為をしない者であっても、現 実の複製行為あるいは送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を 受けている者がいる場合には、その者も、著作権法による規律の観点からは、複製行為な いし送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、その者も、複製行 為ないし送信可能化行為の主体となるということができると解するのが相当である。  (2) まず、被告商品の設置者(集合住宅が賃貸住宅である場合には集合住宅全体の所 有者、集合住宅が区分所有に係るものである場合には、管理組合ないし管理組合法人)の 立場について検討すると、以下の点からみて、設置者は、本件商品による複製行為あるい は送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けているというこ とができる。  ア 上記設置者は、その出捐において被告商品を集合住宅に導入し、又は導入した建築 業者等から買い取って所有権を取得している。したがって、被告商品導入による負担や損 失は設置者に帰属する。  イ 乙第12、第14号証(枝番のあるものは特に摘示しない限り枝番も含む。以下同 じ。)によれば、被告商品導入後は、被告による保守業務がされることが予定されている が、その保守業務を被告に委託するのは、設置者であることが認められる。  ウ 乙第12、第14号証によれば、被告商品は、サーバーにおいて複製ないし送信可 能化が行われ、そのサーバーは集合住宅中の共用部分に設置され、被告との保守業務委託 契約では、その個所は施錠され、各居室の入居者は排除されている。なお、同契約では、 鍵の管理は被告が受託するが、設置者が合鍵を持てない趣旨とは認められないから、設置 者が当該箇所から排除されているとは認められない。  エ 被告商品が受信するテレビ放送のチャンネルは、設置者が決定する。  オ 設置者にとって、集合住宅が賃貸住宅である場合には、被告商品を導入し、各居室 の入居者に録画させることは、テレビ番組の視聴を好む者にとっての住宅の魅力を高め、 賃借人の募集が容易になることになるから、これより利益を受けることになる。集合住宅 が区分所有に係るものである場合には、管理組合の構成員である各居室の所有者が、自ら 居室に居住していれば直接に、他人に賃貸等している場合は賃借人の募集が容易になるこ とによる利益を受け、結局組合全体として利益を受けることになる。  カ 被告商品においては、ビューワーから録画指示がされると、放送番組がサーバーの ハードディスクに録画され、その結果、放送に係る音及び影像が複製され、放送が送信可 能化される。ビューワーからの録画指示モードには、「個別予約モード」と「全局予約モ ード」があるが、これらを比較したとき、「個別予約モード」を選択することには何の利 点も存在せず、被告商品の導入を予定していた集合住宅3か所の広告(甲10、31、4 2)においても、いずれも、「全局予約モード」を選択した場合を前提として被告商品の 利点を述べていることからみて、被告商品の利用者(各居室の入居者)は、通常、常時 「全局予約モード」を選択して使用するもの、逆にいえば、各居室の入居者は、どの番組 を録画するかということを逐一選択しないものと認められる。したがって、各居室の入居 者からの、各録画に対する関与は乏しい。  キ 乙第7号証によれば、各居室の入居者向けの被告商品の取扱説明書には、複製ない し送信可能化が行われているサーバーの仕組みについての説明が乏しいことが認められる。 したがって、各居室の入居者は、被告商品の使用と放送の著作隣接権の関係を十分理解し ないで使用することになる可能性が高い。  (3) もっとも、設置者が複製行為ないし送信可能化行為の主体であるとしても、他に 同行為の主体が存在し得ないというものではなく、被告も共同で、又は重畳的に同行為の 主体となっている可能性もあるので、この点について検討する。  ア 原告らは、@被告は被告商品を開発、販売から販売後のサービス・サポートまで一 貫して行なっている、A被告は、被告商品販売後も、24時間体制でサポート業務を行な い、月々の使用料も徴収している、B被告は、保守業務委託契約において、固定グローバ ルIPアドレスが割当てられること、及び、設置場所へ施錠が可能であること、また、施 錠鍵の管理を被告が受託できること、との条件を付し、被告商品サーバーを常時、遠隔操 作によってリモートコントロールし、それによって被告商品の運用保守を行っている、C 被告は、保守業務委託契約において、被告の確認なしの設置、移設、増設、撤去等を行っ た場合の契約解消を規定し、被告が被告商品の所有者に対して被告商品サーバーをブラッ クボックス化しているとして、被告が被告商品やこれによる管理支配行為を行っていると 主張するので、検討する。  イ(ア) 前記2(1)@ないしDのとおり認められる事情のほか、甲第38、第42、第 46、第64号証、乙第12、第13、第21号証によれば、過去に被告が販売しようと した「選撮見録」については、@その設置者と被告との間で、保守業務委託契約が締結さ れることが想定されていたこと、A従来、保守業務の対価は、導入先によって異なるが、 月額で、1戸当たり1200円ないし1600円程度、1サーバー当たりにすると3万円 ないし4万円程度(いずれも消費税別)とされていたこと、B保守業務にあたっては、固 定グローバルIPアドレスを取得して被告商品のサーバーをインターネットに接続し、被 告において、インターネットを介してリモートコントロールで作業することもあるとされ ていたこと、C保守業務委託契約では、サーバーの設置場所を施錠すること及びその鍵の 管理を被告が受託することとしていたこと、D保守業務委託契約では、被告商品の設置者 が、被告の確認なく被告商品の移設や改造を行ったときには、契約が解消されるとされて いたこと、が認められる。  (イ) 甲第37ないし第39号証によれば、Eマンション「グレンパーク初台」には、 被告が開発して販売した商品が設置され、被告においてその保守業務をしているところ、 同商品は、当初は画面上「ウィークリーネビオ」と表示されていたが、被告がサーバーな いし部品を変更したことによって「選撮見録」との画面表示がされるようになっているこ と、F被告従業員は、上記マンションの入居者から強く要求された際に過去の番組を録画 したVHSビデオテープを提供したことがあること、Gグレンパーク初台の賃貸人である エイブル保証株式会社(以下「エイブル保証」という。)は、「選撮見録」が同マンショ ンの管理人室に設置されており、選撮見録サーバーを管理しているのは被告であって、エ イブル保証は入居者からのメンテナンス及び故障等の問い合わせは被告と入居者との間で 行われており、エイブル保証は、毎月のランニング費用を入居者から集金して被告に送金 していると認識していることが認められる。  ウ 前記イ(ア)、(イ)の事実を全体としてみれば、被告は、被告商品を設置者等に販売 するとともに、保守契約を締結し、自らが各居室の入居者に対する窓口となって、インタ ーネットを介するリモートコントロールとサーバーの保管場所の鍵の管理によって、被告 商品を管理して運営の円滑化に努め、これによって被告商品の販売代金と毎月必要な維持 管理をする費用(ランニング費用)を得ているという、録画代行サービスの一種を被告商 品の設置者と共同で行っているように見えないこともない。  しかし、乙第21号証には、前記イ(ア)A及び(イ)Gに関し、設置者やマンション販売 業者がどういう名目で各居室の入居者から金員を徴収しているかは知らないし、「選撮見 録使用料」名目で徴収しようとしていた場合には抗議して変更させた、また、被告は保守 によって利益を上げるつもりはない旨、(ア)Bに関し、現在の被告商品の仕様(第三次仕 様)ではリモート保守を行わないことにしている旨、(イ)Eに関し、「グレンパーク初台」 に設置されているのは被告商品ではなく、その前身となった仕様の実験機であり、「選撮 見録」と表示されるようになったのは誤表示であって、その後「HVR」と表示されるよ うに修正した、したがって、同マンションの状況は被告商品に当てはまらない旨、同Fに 関し、グレンパーク初台入居者に過去の番組を録画したVHSビデオテープを提供したの は従業員の個人的行為であって、被告は、同マンションに設置された商品に録画されたデ ータを取得できない立場にある旨の記載があり、これに反する証拠はない。  そして、現在の被告商品ではリモート保守を不採用にしたとしている旨を始めとする同 号証の記載からみると、「グレンパーク初台」に設置された「ウィークリーネビオ」やそ の後被告が販売しようとした「選撮見録」は、開発間もなく動作が不安定なためにリモー ト保守等による被告の濃密な維持管理が必要であったが、被告商品は、本来は自動的に運 用可能な商品であって、現在では不具合発生の際(リモート保守をしなくとも、その都度 被告従業員が現場に行けば足りる程度の頻度)に被告が修補すれば足りる性質のものでは ないかとの疑問が払拭できない。  エ このように、被告商品が、本来は自動的に運用可能なものであるとの前提に立って みれば、前記イ(ア)@(保守契約の締結)、A(保守業務の対価)が通常の電気機器の保 守を超えているものとも直ちにはいいがたく、同D(移設や改造による無保証)について も、電気機器である被告商品を、他者が不必要に操作したり、改造したりするようでは、 被告として十分な動作保証を行うことはできないことから定められたもののようにも思わ れ、同C(施錠と鍵の保管)は、これに加え、夜間や休日等に、設置者側の立ち会いがな くとも、被告が保守作業を行うことを可能にするという意味とも解され、同(イ)Gは、被 告商品ではないうえ、設置者ではなく賃貸人にすぎないエイブル保証の誤解と理解できな いこともなく、これをもって、被告が被告商品について、電気機器に通常みられる保守を 超えた運用管理を行っている証左とまですることはできない。  オ また、被告は、被告商品の導入時に、購入者の指示に応じて受信すべきテレビ放送 のチャンネルを設定することがあることは認められる。しかし、このチャンネル選択は購 入側に決定権があること、設置後に、購入者(被告商品の設置者)において、チャンネル 設定を変更することができることに照らせば、これをもって、被告が導入後の被告商品を 管理・支配しているとはいえない。  カ 被告は、被告商品を販売することにより、利益を受けることとなる。しかし、本来 は自動的に運用可能な商品であるとすれば、被告としては、被告商品が販売された後、実 際に使用されようとされまいと、利益状況には変わりがないことになるから、被告商品の 販売により被告が受ける利益は、被告商品によって録画行為が行われることにより被告が 受ける利益ということはできない。  また、原告らは、被告商品の利用頻度によって機器の劣化も進むから、録画数に応じて 被告の利益が増加する関係にもあると主張する。しかし、利用によって機器の劣化が進み、 次の部品等購入時期が若干早まるとしても、その程度のことをもって、被告について、被 告商品によって録画行為を行う主体という根拠とすることはできない。  キ 以上の事実からすれば、被告の、被告商品による録画行為に対する管理・支配の程 度が強いということはできず、その受けている利益(保守業務の対価)も高いかどうか明 確なものでもないため、全体としてみて、被告は、設置者が被告商品によって録画する行 為を幇助しているということはできても、録画の主体として被告商品により録画している というためには、これを認めるに足りる証拠がないというべきである。  (4) 原告らは、被告商品が採用されたマンション住戸を購入した者は、否が応でも被 告商品を取得することになり、そのマンション入居者が被告商品を利用する場合には、必 ず著作隣接権侵害となるから、被告は「被告商品の利用者を自己の手足として著作隣接権 侵害行為を行わせる」ということができると主張する。  なるほど、前記(2)カ、キのとおり、各居室の入居者の、各録画に対する関与も乏しく、 被告商品の使用と放送の著作隣接権の関係を十分理解しないで使用する可能性が高いとい うことはできる。しかし、マンションに被告商品を採用するのは、被告商品の設置者(集 合住宅全体の所有者や管理組合・管理組合法人等)であって、設置者には、被告商品を採 用(購入)するかしないかの自由があるから、設置者によって採用された後の被告商品の 利用者である各居室の入居者を被告の手足と評価することはできない。  (5) なお、原告らは、複製行為ないし送信可能化行為の主体となるか否かを決するに あたっては、複製行為ないし送信可能化行為の管理・支配を中心に観察して評価を行うべ きであると主張する。  しかし、仮に、原告らの主張に従うとしても、上記のとおり、証拠上は、被告による複 製行為ないし送信可能化行為の管理・支配の程度を前示の程度以上には認定できないから、 いずれにしても、この点についての原告らの主張は理由がない。  (6) 以上のとおり、被告商品による放送に係る音及び影像の複製ないし放送の送信可 能化の主体を、被告と認定することはできない。したがって、被告が集合住宅向けに販売 した被告商品による複製行為ないし送信可能化行為に関して、「被告が被告商品を使用し ている」とか、「被告が集合住宅の所有者をして被告商品を集合住宅の入居者に使用させ ている」とか、と認めることもできない。 6 争点(7)(被告が複製ないし送信可能化の主体ではない場合における被告商品の販売 差止め等の可否)  (1) 事実認定  ア 被告商品が使用された場合の結果については、以下の事実を認めることができる。  @ ビューワーから録画指示がされると、放送番組がサーバーのハードディスクに録画 され、その結果、放送に係る音及び影像が複製され、放送が送信可能化される(前記2(1) BC、前記4)。  A ビューワーからの録画指示モードには、「個別予約モード」と「全局予約モード」 があるが、これらを比較したとき、「個別予約モード」を選択することには何の利点も存 在せず(前記2(1)CD)、被告商品の導入を予定していた集合住宅3か所の広告(甲1 0、31、42)においても、いずれも、「全局予約モード」を選択した場合を前提とし て被告商品の利点を述べていることに照らせば、「全局予約モード」を選択して被告商品 を使用することが合理的であり、利用者としても、そのような選択をすることが当然に予 測される。  B 放送普及基本計画(昭和63年郵政省告示第660号)によれば、原告らの放送が 行われている滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県においては(これら の地域についてのみ検討することについては後記8(2)、(3)で述べる。)、地上波テレビ 放送の放送系は、一般放送事業者である原告らの他、県域放送系として、日本放送協会が 各府県にそれぞれ総合及び教育の2放送系ずつ、一般放送事業者の放送系が各府県にそれ ぞれ1放送系ずつ存在するのみである(ただし、大阪府を放送対象地域とする県域放送系 の放送局は後記8(3)のとおり原告テレビ大阪株式会社が設置するものである。)から、 滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県においては、受信することができ る地上波テレビ放送は、7放送系、放送対象地域外で受信できる放送系を考慮しても8放 送系程度にとどまる(なお、被告は、放送大学の地上波テレビ放送も受信することができ ると主張するが、これが上記地域で受信することができないことは、甲第12、第13号 証及び放送普及基本計画において放送大学の地上波テレビ放送の放送対象地域が関東放送 圏とされていることに照らして明らかである。)。  したがって、最大5局まで同時に受信・録画対象とすることができる被告商品を使用す る際には、その対象局を5局より少なくする理由も利点も見当たらない以上、少なくとも、 原告らが行う放送のうち2放送系以上を対象として使用することとなるのが自然である。  C 原告らが、被告商品の設置者に対し、原告らの行う放送に係る音及び影像の複製並 びに放送の送信可能化の許諾をすることが論理的にあり得ないということまではできない としても、証拠(甲18、19、23、27ないし29、32ないし34、50ないし5 2、55、56、59、乙1ないし4、18〔乙18の2を除く。〕)により認められる 本件訴訟に至るまでの経過並びに本件訴訟の提起及び本件訴訟における原告らの主張態度 に照らせば、本件の口頭弁論終結時において、原告らが、被告商品を設置しようとする者 に対し、被告商品の使用により、上記複製及び送信可能化を許諾する意思がなく、当面そ の見込みもないことは明らかである。  D 本件の審理の過程で、平成17年5月24日に行われた第2回弁論準備手続期日に おいて、受命裁判官は、被告に対し、原告らの権利を侵害することなく、被告商品を使用 する現実的な方法があるか、釈明を求めた。  これに対し、被告は、その役員であるP3の陳述書(乙22)において、大邸宅の個人向 け機器としての使用法と、選撮見録サーバーを集合住宅向け監視カメラシステムの中央装 置として利用する方法がある旨を示した。  しかしながら、前者は、そもそも集合住宅向けに販売されるものではないから、本訴に おける販売差止めの対象となっているものではない。  また、後者は、上記陳述書に記載されているとおり、被告商品のサーバーを応用的に使 用するものであって、被告商品そのものではない。  そして、他に、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県において、原告 らの著作隣接権を侵害することなく、被告商品を使用する現実的な方法は示されず、証拠 上も窺うことができない。  イ 上記アの各事実によれば、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県 の地域内で(ただし、原告テレビ大阪株式会社については、このうち大阪府内で)被告商 品を使用すれば、必然的に、原告らの放送事業者としての複製権及び送信可能化権が侵害 される(被告の抗弁によって複製行為が適法となるものでないことは後記7で判断すると おりである。)こととなり、被告商品の設置者に対する裁判による被告商品の使用差止め を別にすれば、その回避は社会通念上不可能であるということができる。  そして、被告が被告商品を集合住宅向けに販売した場合、すなわち、被告商品の設置者 が被告商品を購入した場合、被告商品が設置された集合住宅において、被告商品を使用し ないことは社会通念上あり得ないというべきであるから、上記地域の集合住宅への被告商 品の販売によって、上記結果が生じることは、これもまた必然である。  ところが、上記地域は相当な面積があり、集合住宅が非常に多数存在することは明らか であるから、被告が被告商品を販売した場合には、原告らが、被告商品の設置者を相手と して、放送事業者の複製権及び送信可能化権侵害行為を差し止めようとしても、設置後 (侵害行為開始後)であってさえ、どの集合住宅に被告商品が設置されているのか(誰が どこで侵害行為を行っているのか)を知ることは非常に難しく、まして、これを事前に知 って予防することは、更に一層困難であって、結局、原告らの権利保護に欠けることにな る。他方、被告が被告商品の集合住宅向けの販売を止めることは、被告の販売利益が失わ れる点を除けば容易であって、これにより、被告商品による原告らの放送事業者の複製権 及び送信可能化権侵害行為は行われなくなる。 (2) 著作権法112条1項の適用による差止めについて  著作権法112条1項は、著作隣接権者は、著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそ れのある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を定める。  一般には、ここでいう、「侵害」とは、直接に著作隣接権を侵害する行為を意味し、 「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」とは、著作隣接権を侵害する行 為(本件では複製ないし送信可能化する行為)の主体となる者を意味するものと解される。  ア 原告らは、直接的物理的には著作隣接権を侵害する行為(直接行為)をしておらず、 間接的な行為(間接行為)をしている場合であっても、その間接行為が、直接行為と異な らない権利侵害実現の現実的・具体的蓋然性を有する行為であれば、これを直接行為と同 視することができ、そのような間接行為自体が、著作隣接権の侵害行為そのものであると 主張する。  そして、被告による被告商品の販売行為は、被告商品がもっぱら原告らの著作隣接権の 侵害にのみ用いられるものであるから、上記の理由で、被告商品の販売行為それ自体が、 原告らの著作隣接権の侵害にあたると主張する。  イ なるほど、もっぱら権利侵害にのみ用いられるような器具の販売といった、権利侵 害に至る高度の現実的・具体的蓋然性を有する間接的行為が行われた場合には、その後、 権利侵害が行われる蓋然性は極めて高いものということができる。  しかし、そのような販売行為が行われたその時点においては、具体的には何らの法的利 益も害されていないこともまた事実である。  また、著作隣接権の侵害行為は、著作権法119条により犯罪とされている。ところが、 原告らの主張に従えば、上記のような間接的行為は、それが間接正犯(複製ないし送信可 能化の主体)とはいえない場合にも、それ自体が著作隣接権の侵害行為であるということ になってしまい、現実の具体的な権利侵害行為が行われていないにもかかわらず、それが 犯罪行為にも該当するという結論に至るものといわざるを得ない。  のみならず、例えば、特許法においては、物の発明の特許について、業として、その物 の生産にのみ用いる物を製造販売する行為や、方法の発明の特許について、業として、そ の方法にのみ用いる物を製造販売する行為は、特許権を侵害するものとみなす旨の規定 (101条。いわゆる間接侵害の規定)が置かれている。ここで、この特許法の規定にお いては、そのような間接行為は、侵害行為と「みなす」ものとされているのであり、本来 は侵害行為とはいえない行為を、権利侵害に結びつく蓋然性の高さから、侵害行為として 法律上擬制しているものである。しかるに、著作権法においては、そのような趣旨の規定 は存在しない。なお、著作権法においても、一定の行為については、これらを著作権や著 作隣接権等を侵害するものとみなす旨の規定を置いているが(113条)、上記のような 間接行為はそこに掲げられていない。  したがって、間接行為が、たとい直接行為と異ならない程度に権利侵害実現の現実的・ 具体的蓋然性を有する行為であったとしても、直ちにこれを、著作隣接権の侵害行為その ものであるということはできないから、被告商品の販売行為そのものを原告らの著作隣接 権を侵害する行為とすることはできない。  (3) 著作権法112条1項の類推による差止めについて  ア 本件においては、@被告商品の販売は、これが行われることによって、その後、ほ ぼ必然的に原告らの著作隣接権の侵害が生じ、これを回避することが、裁判等によりその 侵害行為を直接差し止めることを除けば、社会通念上不可能であり、A裁判等によりその 侵害行為を直接差し止めようとしても、侵害が行われようとしている場所や相手方を知る ことが非常に困難なため、完全な侵害の排除及び予防は事実上難しく、B他方、被告にお いて被告商品の販売を止めることは、実現が容易であり、C差止めによる不利益は、被告 が被告商品の販売利益を失うことに止まるが、被告商品の使用は原告らの放送事業者の複 製権及び送信可能化権の侵害を伴うものであるから、その販売は保護すべき利益に乏しい。  このような場合には、侵害行為の差止め請求との関係では、被告商品の販売行為を直接 の侵害行為と同視し、その行為者を「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある 者」と同視することができるから、著作権法112条1項を類推して、その者に対し、そ の行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。  イ すなわち、著作隣接権は、創作活動に準じる活動をする者や、著作物の公衆への伝 達に重要な役割を果たしている者に、法律が規定する範囲で独占的・排他的な支配権を与 えるものであり、その享受のために、権利者に、妨害の排除や予防を直接請求する権利を 与えたものである。ここで、その行為が行われることによって、その後、ほぼ必然的に権 利侵害の結果が生じ、その回避が非常に困難である行為は、権利を直接侵害する行為では ないものの、結果としてほぼ確実に権利侵害の結果を惹起するものであるから、その結果 発生まで一定の時間や他者の関与が必要になる場合があるとしても、権利侵害の発生とい う結果から見れば、直接の権利侵害行為と同視することができるものである。   ところで、物権的請求権においては、その行使の具体的方法が物権侵害の種類・態様 に応じて多様であって、例えば、妨害排除請求権及び妨害予防請求権の行使として具体的 行為の差止めを求め得る相手方は、必ずしも妨害行為を主体的に行った者に限定されるも のではない。このこととの対比において、上記著作隣接権の性質を考慮すれば、上記のよ うな行為については、その侵害態様に鑑み、差止めの請求を認めることが合理的である。  また、著作権法は、他の法益との衝突の可能性を考慮して、著作隣接権侵害を発生させ る行為について、差止めの対象を一定の範囲に限定し、それ以外のものは、行為者の故意 過失等を要件として不法行為として損害賠償の対象とするに止めているものと解される。 しかし、本件においては、前示のとおり、差し止められるべき行為は、保護すべき利益に 乏しく、かつ、その行為を被告が止めることも容易であるから、差止めによって損なわれ る法益があるものとは認めがたい。したがって、本件においては、著作権法において差止 めの対象が限定されている趣旨にも反せず、著作権法112条1項の規定を類推するに適 合したものということができる。  ウ なお、特許法等と異なり、著作権法においては、上記のような行為は、権利侵害行 為とみなす旨の、いわゆる間接侵害の規定は存在しない。  しかしながら、間接侵害の規定は、そのような行為を、単に差止めの対象行為とするだ けではなく、権利侵害行為として法律上擬制し、直接の権利侵害行為と同一の規律に服せ しめるものである。  したがって、間接侵害の規定がないことは、このような行為が差止めの対象行為となる と解することの妨げとはならない。  エ 以上の次第で、原告らは、原告らの放送事業者としての著作隣接権である複製権及 び送信可能化権に基づいて、被告に対し、上記権利の侵害の予防のために、被告商品の販 売行為の差止めを請求することができるものというべきである。  (4) 被告は、原告らが放送事業者としての著作隣接権に基づいて請求するならば、少 なくとも周波数、地上・衛星放送の別、チャンネルなどによって「放送」を特定すべきで あると主張する。  しかしながら、放送事業者としての著作隣接権に基づく請求の原因としては、最低限、 請求者が放送事業者であり、放送を行っていること(本件に即していえば、被告商品がテ レビ放送を対象とするものであるから、テレビ放送を行っていること)で足りるものと解 すべきである。  そして、原告らは、この事実を請求原因として主張しているのであるから、請求原因の 主張は十分であって、被告の上記主張は採用することができない。  (5) また、被告は、被告商品の使用によって、原告らに損害が生じないと主張する。  しかしながら、放送事業者の著作隣接権としての複製権ないし送信可能化権は、放送事 業者に、その放送に係る音及び影像の複製や、その放送の送信可能化をコントロールし、 もって、自らの放送の経済的価値を維持する手段や、あるいは、他者に複製や送信可能化 を許諾する際に、使用料等の経済的対価を得る機会を確保するものであると解される。  したがって、原告らが主張するような損害が発生するか否かはともかくとして、権利者 の許諾を受けないで行われる複製や送信可能化は、権利者に、少なくとも、使用料相当額 の損害を生じさせるものであることは明らかである。  よって、被告の主張は、採用することができない。 7 争点(8)(私的使用のための複製の抗弁及び公衆用自動複製機器の再抗弁)について  (1) 前記5の認定に照らせば、被告商品の使用時において、放送に係る音及び影像を 複製する主体は、被告商品の設置者であるというべきである。  これに対し、複製された放送に係る音及び影像の使用者は、ビューワーが設置された居 室に居住する集合住宅の入居者であるから、複製の主体とその使用者が異なることになる  したがって、著作権法102条1項により準用される同法30条1項本文の、私的使用 のための複製の抗弁は、理由がない。  (2) また、その点にかかわらず、被告商品は、複製の機能が自動化されている機器で あるから、著作権法30条1項1号にいう自動複製機器であるということができる。そし て、前記4(3)のとおり、被告商品の1サーバー当たりの利用者数(これは必ずしもビュ ーワー数と一致しないことは前述のとおりである。)は、同号にいうところの「公衆」に もあたるということができる程度に多数であるというべきである。  したがって、被告商品の使用時における、放送に係る音及び影像の複製については、著 作権法102条1項が準用する同法30条1項1号(公衆用自動複製機器の使用)に該当 する。  (3) 以上のとおりであるから、いずれにしても、被告商品の使用時における放送に係 る音及び影像の複製は、著作権法102条1項が準用する同法30条1項により、適法と なるものではない。 8 原告らが放送事業者の著作隣接権に基づき被告商品の販売差止めを求めることができ る地理的範囲と廃棄請求の可否について  (1) 以上の次第で、原告らの請求は、放送事業者としての著作隣接権に基づいて、被 告商品の販売の差止めを求める限度で理由がある(廃棄請求については後述する。)。  ところで、上記のとおり認められる原告らの請求の根拠は、放送事業者としての著作隣 接権であるから、被告商品の販売行為を差し止めることができる地理的範囲も、原告らに よるテレビ放送が行われている地域、すなわち、原告らが行うテレビ放送を受信すること ができる地域に限られる。  (2) そこで、原告らの請求が認められる地理的範囲について検討する。  放送普及基本計画においては、一般放送事業者の地上波テレビ放送の放送系の数は、近 畿放送圏(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県)を放送対象地域とし た広域放送系については4と、大阪府を放送対象地域とした県域放送系については1と、 それぞれ定められている。そして、甲第2号証の1・3・5及び弁論の全趣旨によれば、 原告株式会社毎日放送、原告関西テレビ放送株式会社、原告朝日放送株式会社及び原告讀 賣テレビ放送株式会社は、放送普及基本計画にいう近畿放送圏を放送対象地域とした広域 放送系の放送局の設置者、原告テレビ大阪株式会社は、大阪府を放送対象地域とする県域 放送系の放送局の設置者であると認められる。  甲第2号証の1・3によれば、原告株式会社毎日放送及び原告関西テレビ放送株式会社 の行う地上波テレビ放送は、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の全 域及び徳島県の東側の一部地域等で受信することができるものと認められる。また、原告 朝日放送株式会社及び原告讀賣テレビ放送株式会社は、原告株式会社毎日放送及び原告関 西テレビ放送株式会社と同じく、放送普及基本計画にいう近畿放送圏を放送対象地域とし た広域放送系の放送局の設置者であるから、原告朝日放送株式会社及び原告讀賣テレビ放 送株式会社の地上波テレビ放送についても、これと同じ地域で受信することができるもの と推認することができる。  もっとも、上記地域のうち、徳島県の東側の一部地域等の、滋賀県、京都府、大阪府、 兵庫県、奈良県及び和歌山県以外の地域については、元来上記原告らの放送対象地域では なく、証拠上も、その放送を受信することのできる地域は具体的に特定することができな い。  したがって、上記原告ら4社については、その請求を認めることができる地域としては、 滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県を限度として認めるのが相当であ る。  (3) これに対し、原告テレビ大阪株式会社については、甲第2号証の5によれば、そ のテレビ放送は、大阪府の全域及び兵庫県の東側の一部地域等で受信することができるも のと認められる。  もっとも、上記地域のうち、兵庫県の東側の一部地域等の、大阪府以外の地域について は、元来、大阪府を放送対象地域とする県域放送系である上記原告による放送の放送対象 地域ではなく、証拠上も、その放送を受信することのできる地域は具体的に特定すること ができない。  したがって、上記原告については、その請求を認めることができる地域としては、大阪 府を限度として認めるのが相当である。  (4) 以上のとおりであるから、被告に対し、被告商品の販売差止めを請求することの できる地理的範囲は、原告株式会社毎日放送、原告朝日放送株式会社、原告関西テレビ放 送株式会社及び原告讀賣テレビ放送株式会社については、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫 県、奈良県及び和歌山県の各府県内に、原告テレビ大阪株式会社については、大阪府内に、 それぞれ限られるものというべきである。  (5) 廃棄請求については、著作隣接権に基づく差止め請求は、上記地域内での被告商 品の販売差止めを求める限度で認められ、原告らは、これ以外の地域における被告商品の 販売差止めは認められないのであるから、著作権法112条2項に基づき被告物件の廃棄 を求める請求は、著作隣接権の侵害の停止又は予防に必要な措置として認められる範囲を 越えるものであるから、廃棄請求はこの点においても理由がない。 9 結論  以上のとおりであるから、原告らの請求のうち、著作権に基づく請求はいずれも理由が なく、著作隣接権に基づく請求は、主文掲記の各原告の放送地域の範囲内での被告商品の 販売差止めを求める限度で理由がある。  なお、仮執行の宣言は、相当でないからこれを付さない。  よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 山田 知司    裁判官 高松 宏之    裁判官 守山 修生 (別紙) 物件目録  1.商品の名称 選撮見録  2.商品の種類 集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステム 以 上