・東京地判平成17年11月17日  「建築設備と配管工事」事件  本件は、原告が、被告に対し、被告が雑誌「建築設備と配管工事」2002年4月号に 掲載した論文「空調機のドレン排除とドレン回収の方法」における図表及び説明文が、原 告の図表及び説明文に類似しているとして、原告が当該図表及び説明文について著作権を 有することの確認、同著作権が侵害されたことに基づき、当該図表及び説明文の複写、印 刷及び頒布の禁止、並びに謝罪広告を求め、また、同著作権及び著作者人格権を侵害され たことに基づく損害賠償として200万円の支払を求めた事案である。  被告は、前記各図表及び説明文の著作物性を否定し、仮に著作物性が認められるとして も被告の使用する前記図表及び説明文とは類似しないと主張してこれを争っている。  判決は、一部について著作物性を肯定し、その限りで確認請求を肯定したが、その点に ついても類似性を否定して、原告の請求を棄却した。 ■判決文 第3 争点に対する判断 1 原告チャート(1) ないし(5) の著作物性(争点1)  (1) 総説  著作権法は、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学 術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定める(同法2条1項1号)のであっ て、思想又は感情の創作的な表現を保護するものである。したがって、思想、感情若しく はアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でないもの又は表現上の創作性がないも のは、著作権法によって保護されないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受) 第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。  原告チャート(1) 及び(2) は、左縦軸と右縦軸と横軸に目盛りを設定した方眼状の図表 であり、原告チャート(3-1) 、(4-1) 及び(5-1) は、その図表に使用例を記載したもので ある。このような図表又は図表の使用例に示される思想ないしアイデアそのものは、著作 権法によって保護されるものではない。また、このような図表又は図表の使用例は、次に 述べるとおり、かかる思想ないしアイデアを表現する際にその個性が表れず、定型的な一 般的にありふれた表現としかならないような場合には、著作権法によって保護し得る表現 上の創作性があるということはできない。  (2) 原告チャートの背景にある基本的な技術思想  前記第2の1の(3) 及び(4) 記載の前提となる事実及び甲1の1ないし4によれば、原 告チャートは、次のような技術思想を基に作成されたものである。  蒸気を熱源とする熱交換器においては、熱交換器側の蒸気の圧力が背圧よりも小さいと き、すなわち、スチーム・トラップの一次側圧力が二次側圧力よりも低くなった場合に、 ドレンが滞留することになる。かかるドレン滞留を防ぐためには、熱交換器にプレッシャ ーポンプを設置する方法があるため、あらかじめドレン滞留が予測される場合を知ること ができれば、熱交換器の設計上有益である。そして、飽和蒸気においては温度と圧力が1 対1で対応し、温度の数値をもって圧力の数値をも捉えることが可能であるため、原告チ ャートにおいては、熱交換器における最大負荷時の蒸気温度、二次側流体入口温度、同出 口温度などの数値を設定することによってドレンが生じるとき(すなわち、熱交換器一次 側の蒸気圧力が背圧よりも小さくなるとき)の熱交換器の負荷率を簡便に算出することが できる。原告チャートは、使用者がドレン発生時の負荷率を簡便に算定できるようにする という目的を踏まえ、横軸に負荷率を、縦軸に温度と圧力を対応させて目盛り付けをする とともに、一次側の温度変化と背圧をいずれも直線で表示し、その交点がドレン発生時の 負荷率を示すようにしたものである。  (3) 原告チャート(1) 及び(2) について  ア 原告チャート(1) 及び(2) は、左縦軸に温度、右縦軸に圧力(ほぼ中央に大気圧を 設定し、そこから上方は正圧、下方は負圧を表示している。)、横軸に負荷率(左端が1 00%、右端が0%である。)を設定した方眼状のチャートである。複数の変数を図表に 表示する場合、各軸に変数を目盛る手法はごく一般的な表現である。実際、マトゥールチ ャートにおいても、左縦軸に圧力、右縦軸に温度、横軸に負荷ファクターを設定している。  イ 原告は、原告チャート(1) 及び(2) について、@図表縦軸の温度と圧力を、蒸気表 において対応する数値によって1対1に対応させて目盛り付けを行ったこと、A従来は温 度に対応するものとして熱交換器の距離が用いられていたものの、負荷を用いることにし、 これを図表の横軸に表したこと、B上記@のとおり左右の縦軸に温度と圧力を表し、上記 Aのとおり下方の横軸に熱交換器の負荷率を表すことにより、熱交換器のすべての条件を 1枚のチャート上で表現することを可能とし、また、負荷を100%から減少させていく という実際の運転の流れに沿って、熱交換器内の入口(左端の100%負荷から始まる。) から出口(右端の負荷0%で仕事を終わる。)に至る加熱流体(蒸気)と被加熱流体(製 品)の温度差の変化と負荷の変化を実際の運転の流れに従って連動させて表現したこと、 C熱交換器のシステムの違い(二次側の被加熱流体の流量が一定のシステムと同流体の入 口と出口の温度差が一定で流量が変化するシステムがある。)にかかわらず、いずれの場 合にも汎用することができるものとして作成したこと、D物理学的法則に従って正確な数 値を追求しているものではなく、実務的な目的に沿って簡便に使用できるように作成した こと、Eドレン滞留は主として負圧の世界で生じる現象であることから、ドレン滞留点 (ストールポイント)を示すための右軸の圧力目盛りには、0(大気圧)を基準として、 マイナスの目盛り(負圧の世界)を表示したこと、F熱交換器内の圧力がトラップの背圧 を下回るのはどの時点であるかを、蒸気減少ラインとトラップの背圧を示す圧力表示(圧 力の目盛りを水平に引いた線)との交点として、表現したことにより、複雑な計算によっ てなされていた作業を簡易化したこと等に創作性がある旨主張する。  確かに、原告チャート(1) 及び(2) をマトゥールチャートと対比してみると、マトゥー ルチャートにおいては、負荷ファクターは右端が100%、左端が0%とされていて、原 告チャート(1) 及び(2) とは逆であり、また、マトゥールチャートでは、縦軸の温度と圧 力とが無関係に目盛り付けされているにすぎないので、温度と負荷率との関係を示す直線 を、蒸気表を用いて圧力と負荷率との関係を示す曲線に変換する作業が必要であり、与え られた数値に基づいて直線を作図するのみでストールポイントが得られる原告チャート(1) 及び(2) とは相違する。また、原告チャート(1) 及び(2)とマトゥールチャートは、二つ の線の交点から横軸に垂直線を降ろすことによってドレン発生時の負荷率を求める点で共 通するものの、マトゥールチャートは、二つの線がいずれも曲線であるのに対し、原告チ ャート(1) 及び(2) は、作図の容易な直線である点でも、相違する。  しかし、原告の上記@の主張については、飽和蒸気においては、圧力が変わるとそれに 対する飽和温度(沸騰を始める温度)が変わり、両者の間には一定の関係が存在し、その 温度と圧力が1対1で対応することは、自然科学上の法則にほかならないのであって(乙 2、3)、かかる法則を用いて、マトゥールチャートにおける縦軸の温度と圧力の目盛り を変更し、これを1対1で対応させて目盛り付けをすることにより、マトゥールチャート をより簡易なものとし、これにより、温度を基準として圧力をも連動的に捉えてドレン滞 留点における負荷率を簡易に算出しようとすること自体は、技術的知見ないしアイデアに ほかならないというべきである。そして、かかる技術的知見ないしアイデアに思い至った 場合に、それを表現するに際しては、図表の縦軸における温度と圧力を1対1に対応させ た目盛り付けを行うこと以外には表現の方法がないのであるから、原告チャートの図表の 表現自体に創作性があるということはできない。すなわち、原告チャートを作成するに至 った技術的知見ないしアイデア自体に独自性や新規性があるとしても、その技術的知見な いしアイデア自体は、著作権法により保護されるべきものということはできず、著作権法 は、その技術的知見ないしアイデアに基づいて個性的な表現方法が可能である場合に、個 性的に具体的に表現されたものについてこれを保護するものであり、原告チャートについ ては、その技術的知見ないしアイデアそのものがそのまま表現されているものといわざる を得ない。  また、原告の上記A、B及びEの主張については、負荷率を横軸の単位として採用する こと、実際の機械の稼働に合わせた表示をするために、横軸の左端を負荷率100%とし、 右端を0%とすること、及び、縦軸に負圧を表示したことは、いずれも使用者の便宜を考 慮してチャート化を行う際の技術的知見ないしアイデアにほかならないのであって、かか る横軸及び縦軸の設定や目盛り付けは、このような技術的知見ないしアイデアに至った場 合に、これをそのまま表現したものにすぎず、このような表現自体について創作性を見出 すことはできない。そして、このように作成された原告チャートがマトゥールチャートに 比べて簡便に使用できるということは、かかる技術的知見ないしアイデアを適用した結果 によるものであるから、その表現の創作性を基礎づけるものということはできない。  さらに、原告の上記C、D及びFの主張については、原告チャートが、自然科学の法則 上の正確さよりも、チャートの目的を踏まえて、1枚のチャートで簡便にストールポイン トを算出できるようにするとの考え方に基づいて作成されたということも、いかなる自然 科学上の法則を用い、また、捨象するかということは、チャートの使用目的を考慮した上 での技術的知見ないしアイデアにほかならないというべきであり、原告チャートは、その 考案者が取捨選択した自然科学上の法則ないし理論線を一般的な表現として記載したにす ぎないものである。原告チャートは、このような技術的知見ないしアイデアに基づいて表 現されたものである以上、このような表現自体について、その創作性を認めることはでき ない。  以上のとおり、原告の上記各主張は、いずれも原告チャートの表現の創作性を基礎づけ るものではない。なお、原告は、原告チャートについて、思想を単純な線によって簡素化 した形にし、かつ視覚的に容易に認識できる形で表現したところに創作性があるとも主張 する。しかし、原告チャートは、両縦軸と横軸に温度、圧力及び負荷率を設定し、ドレン 滞留が発生するポイントを予測するための一定の技術的知見ないしアイデアに基づいて、 そのグラフ内に一定のラインを引き、これによってストールポイント等を表示するという ものであり、原告のいう創作性とは、かかる図表化を可能とするために、いかなる変数を 採用するか、いかなる目盛り付けを用いるかという点についての工夫をいうものであり、 これは技術的知見ないしアイデアにほかならず、創作的な表現の保護を旨とする著作権法 の保護が及ぶものということはできない。  よって、原告の上記各主張はいずれも採用することができず、原告チャート(1) 及び(2) は、いずれも著作物(著作権法2条1項1号、10条1項6号)に該当しないものとい うべきである。  (4) 原告チャート(3) 及び(4) について  ア 原告チャート(3) 及び(4) は、著作物性の認められない原告チャート(1)について、 その使用方法に従って、具体的なラインを記載した部分(原告チャート(3-1) 及び(4-1) ) と、その説明文(原告説明文(3-2) 及び(4-2) )から成る。  イ 原告チャート(3-1) は、二次側の被加熱流体の流量が一定の場合に、原告チャート (1) を用いて、蒸気温度、二次側流体入口温度、同出口温度、背圧を具体的に設定した上 で、ドレン滞留が発生するときの二次側入口温度を求める場合の原告チャートの用法につ いて具体例を記載したものである。原告は、一次側の蒸気温度は熱交換の過程で逐次計算 して算出しなければ数値を把握することができないものの、流量一定の上記前提条件の下 での一次側の温度変化は、一次側の入口温度と二次側の出口温度を直線で結べば、これを 把握することができるとの思想のもとに、これをチャート上に引かれた直線で表現するこ とにした旨主張する。しかし、一次側の蒸気温度について入口温度から二次側の出口温度 に至る温度変化を、原告チャートの使用目的を念頭において、計測上求められる厳密な数 値ではなく、負荷率を変数とする一次関数で把握するということ自体は、自然科学上の法 則を踏まえて、簡便に温度変化を把握するために、必要な範囲内でこれを採用し得る技術 的知見ないしアイデアにほかならない。そして、かかる技術的知見ないしアイデアをチャ ート上に表現する場合には、チャート上の一次関数として表現することになるのであり、 かかる一次関数は、著作物性の認められない原告チャート(1) の枠組みを前提として、所 定の数値に対応する点や線を記入すれば、チャート上では必ず同じ表現に至るのであって、 これを創作性ある表現ということはできない。したがって、原告チャート(3-1) に著作物 性を認めることはできない。  これに対し、原告説明文(3-2) は、原告チャート(3-1) に示されるチャートの具体的作 図方法を説明した文書であり、その説明に使用し得る用語や説明の順序、具体的記載内容 については、多様な表現が可能なものであり、その説明文は、作成者の個性が表れた創作 性のある文章であり、言語の著作物(著作権法10条1項1号)に該当するものと認める のが相当である。  ウ 原告チャート(4-1) は、二次側の被加熱流体の入口温度、出口温度は変化せず一定 であるが、流量が変化する場合に、原告チャート(1) を用いて、蒸気温度、二次側流体の 入口温度、同出口温度、背圧等を具体的に設定した上で、ドレン滞留が発生するときの二 次側流体の流量を求める場合の原告チャートの用法について具体例を記載したものである。 原告は、一次側の蒸気温度は熱交換の過程で逐次計算して算出しなければ数値を把握する ことができないものの、温度が一定で流量が変化するとの上記前提条件の下での一次側の 温度変化を表すには、一次側の入口温度と二次側の中間温度を、二次側の設定温度までの 間、直線で結び、設定温度のところからは横軸に平行線を引き(温度は変化しないことを 示す。)、一方、設定温度を下回る部分は理論上の仮想の数値であるから、破線で表すこ とにした旨主張する。  しかし、一次側の蒸気温度について、入口温度から二次側の設定温度に至る温度変化を、 原告チャートの使用目的を念頭において、計測上求められる厳密な数値ではなく、負荷率 を変数とする一次関数で把握するということ自体は、自然科学上の法則を踏まえて、簡便 に温度変化を把握するために、必要な範囲内でこれを採用し得る技術的知見ないしアイデ アにほかならない。そして、かかる技術的知見ないしアイデアをチャート上に表現する場 合には、チャート上の一次関数として表現することになるのであり、また、設定温度にお いて水平線を記載して、設定温度を下回る部分(実際には生じ得ない温度の部分)につい ては、破線で記載するというのは、一般的な表現であり、かかる直線や破線は、著作物性 の認められない原告チャート(1) の枠組みを前提として、所定の数値に対応する点や線を 記入すれば、チャート上では必ず同じ表現に至るのであって、これを創作性ある表現とい うことはできない。したがって、原告チャート(4-1) に著作物性を認めることはできない。  これに対し、原告説明文(4-2) は、原告チャート(4-1) に示されるチャートの具体的作 図方法を説明した文書であり、その説明に使用し得る用語や説明の順序、具体的記載内容 については、多様な表現が可能なものであり、その説明文は、作成者の個性が表れた創作 性のある文章であり、言語の著作物(著作権法10条1項1号)に該当するものと認める のが相当である。  エ 以上によれば、原告チャート(3) 及び(4) のうち、原告説明文(3-2) 及び(4-2) に ついては著作物性が認められる。被告は、原告チャート(3) 及び(4) に著作物性があるこ とを全面的に争っており、現に紛争が生じているのであるから、原被告間において、原告 説明文(3-2) 及び(4-2) について原告に著作権があることを確認する利益がある。  よって、原告チャート(3) 及び(4) について原告が著作権を有することの確認を求める 請求は、原告説明文(3-2) 及び(4-2) について原告が著作権を有することの確認を求める 限度で、理由がある。  (5) 原告チャート(5) について  ア 原告チャート(5) は、著作物性の認められない原告チャート(2) について、その使 用方法に従って、具体例を記載した部分(原告チャート(5-1) )と、その説明文(原告説 明文(5-2) )から成る。この原告チャート(5) は、原告チャート(4) と同様に、二次側流 体の温度が一定で流量が変化するとの前提条件を与えられた場合のストールチャートであ るから、前記(4) と同様の理由により、チャート上に具体例を記載した原告チャート(5-1) は著作物性が認められないものの、その説明文である原告説明文(5-2)は著作物性を有す るものと認められる。なお、原告チャート(5) は、原告日本支社が作成したものであるた め、いくつかの点で、原告チャート(4) の技術的知見ないしアイデアを誤って表現した部 分が存するものの、誤った表現があるからといって、原告チャート(4) の技術的知見ない しアイデアについて異なる表現が可能であるということができないことは当然である。  そして、被告が原告チャート(5) について著作物性があることを全面的に争っているこ とからすれば、原告チャート(5) について原告が著作権を有することの確認を求める請求 は、原告説明文(5-2) について原告が著作権を有することの確認を求める限度で、理由が ある。  2 原告チャート(1) ないし(5) と被告チャート及び被告説明文との類似性(争点2)  (1) 原告チャート(2) 及び(5) の複写、印刷、頒布の禁止について  原告は、被告が、原告チャート(2) 及び(5) に依拠して被告チャート及び被告説明文を 作成した旨主張し、原告チャート(2) 及び(5) の複写、印刷、頒布の禁止を求める。  しかし、原告チャート(2) 及び原告チャート(5-1) については、上記のとおり、そもそ も著作物性がないので、原告チャート(2) 及び原告チャート(5-1) にかかる原告の請求は、 理由がないことが明らかである。  また、原告説明文(5-2) と被告説明文は、次のとおり、類似するものとは認められず、 原告説明文(5-2) にかかる原告の請求も理由がない。  ア 原告説明文(5-2) では、ストールポイント算出のための条件として、「入口温度」、 「出口温度」、「蒸気の1次圧力」、「ドレン管の背圧」が必要値としてあげられている。 一方、被告説明文では、「被加熱物の最低温度(A)」、「被加熱物の必要温度(B)」、 「装置に供給し得る最高の蒸気圧力(D)」、「スチームトラップ出口側の背圧(E)」 として説明されており、両者は、重要な用語について異なる用語を使用している。  イ 原告説明文(5-2) では、負荷率100%の蒸気圧に対応する温度と出口温度に対応 する圧力を直線で結ぶよう指示されているのに対し、被告説明文では、負荷率100%時 の蒸気圧に対応する温度と平均温度に対応する圧力とを直線で結ぶよう指示されており、 両者は、この点において内容においても相違している。  ウ 原告説明文(5-2) では、加熱蒸気圧力及び背圧について、それぞれ圧力に対応する 温度も併記されている。一方、被告説明文では、加熱蒸気圧力及び背圧について圧力表示 をするにとどまる。  エ 原告説明文(5-2) と被告説明文を対比すると、チャートの引き方をはじめとした説 明内容、説明の順序及び表現方法が、全体としてかなりの程度、相違している。  オ したがって、原告が著作権を有する原告説明文(5-2) と被告説明文が類似していな いことは明らかである。かかる事実を前提とすれば、被告が、現に原告説明文(5-2) を複 写、印刷、頒布するおそれがあると認めることはできない。  (2) 原告チャート(1) ないし(5) にかかる著作権侵害に基づく謝罪広告及び損害賠償の 請求について  原告は、被告チャート及び被告説明文が、原告チャート(1) ないし(5) の著作権を侵害 していると主張し、謝罪広告及び損害賠償の支払を求める。  しかし、原告チャート(1) 、(2) 、(3-1) 、(4-1) 及び(5-1) については、上記のとお り、そもそも著作物性がないので、上記各チャートにかかる原告の請求は、理由がないこ とが明らかである。  また、原告説明文(3-2) 、(4-2) 及び(5-2) と被告説明文は、前記(1) で述べたのと同 様に、重要な用語について異なる用語を使用していること、チャート上のラインの引き方 の説明内容が相違していること、チャートの説明内容、説明の順序及び表現方法が全体と してかなりの程度相違していることに照らし、類似していないことは明らかである。よっ て、上記各説明文にかかる原告の請求も理由がない。  3 結論  よって、原告の請求は、原告説明文(3-2) 、(4-2) 及び(5-2) の著作権が原告に帰属 することの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理 由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び控訴のための付加期間の付与 について、民事訴訟法64条ただし書及び96条2項を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 設樂 隆一    裁判官 古河 謙一    裁判官 吉川 泉