・知財高判平成17年11月21日  「植民地朝鮮の日本人」事件:控訴審  控訴棄却。 (第一審:東京地判平成17年7月1日) ■判決文 第3 当裁判所の判断  当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がなく、棄却すべきものと判断する。その 理由は、次のとおり付加補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所 の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。 1 争点(1)(編集著作物の著作者の権利の有無)について  (1) 原判決の23頁6行目の「また、編集物の」から9行目の「いわざるを得ない。」 までを削除する。  (2) 控訴人X1は、編集著作物においては、編集者の特定の思想・目的に基づく素材 の選択・配列の独自性が保護されるのであり、当該編集物につき保護されるべき著作者人 格権もまた、編集者の独特の思想・目的に起因するものであるから、編集著作物の部分を 構成する著作物が個別に利用されたにすぎない場合でも、その利用の態様が個別の著作物 のみならず、編集者の独特の思想・目的に反し又はこれを侵害するような態様ならば、編 集者自身が著作者人格権に基づいて侵害を排除できる旨を主張する。   しかしながら、編集著作物は、素材の選択又は配列に創作性を有することを理由に、 著作物として著作権法上の保護の対象とされるものであるから、編集者の思想・目的も素 材の選択・配列に表れた限りにおいて保護されるものというべきである。したがって、編 集著作物を構成する素材たる個別の著作物が利用されたにとどまる場合には、いまだ素材 の選択・配列に表れた編集者の思想・目的が害されたとはいえないから、編集著作物の著 作者が著作者人格権に基づいて当該利用行為を差し止めることはできない。   本件においては、被告書籍中における本件文集の利用態様は、あくまで本件文集を構 成する個々の著作物の一部のみを個別に取り出して引用するというものであるから、素材 の選択・配列に表れた編集者の思想・目的を侵害するものとはいえない。したがって、控 訴人X1の主張するその余の点につき判断するまでもなく、同控訴人の編集著作物の著作 者の権利に基づく請求は、理由がない。 2 争点(2)(共同著作物の著作者の権利の有無)について  控訴人X1は、被告書籍における被引用部分2の利用につき、他人の著作物からの引用 であることを明示して引用するものである限り、当該部分それ自体が文章としての創作性 を有するか否かを問わず、勝手な改変・要約や元の著作物全体の趣旨・目的に明らかに反 する趣旨での引用を行うことは許されない旨を主張する。  しかしながら、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから (同法2条1項1号参照)、著作物中のアイデア、事実など表現それ自体でない部分又は 表現上の創作性のない部分を利用する行為に対しては、著作権法上の権利は及ばないもの と解すべきである(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決 ・民集55巻4号837頁参照)。  本件においては、被引用部分2は、本件文集中の「多元座談会 三坂校の終焉T 第一 部」におけるAの発言中の「献金も月に五銭。」との部分であるが、当該被引用部分は単 に事実を述べたものにすぎず、同部分に創作性があるとも認められない(被告書籍が引用 部分2において、文末の括弧内に本件文集を記載しているのは、当該事実を認定した根拠 たる資料を特定する意味で掲記しているにすぎない。)。したがって、控訴人X1の主張 するその余の点につき判断するまでもなく、同控訴人の共同著作物の著作者の権利に基づ く請求は、理由がない。 《以下略》