・大阪高判平成17年12月15日  風呂バンス事件:控訴審  本件は、原告・控訴人(株式会社パアグ)が、被控訴人(株式会社津田商事)が製造販 売する商品名を「風呂ポット」という被控訴人商品の商品形態及び商品名が、控訴人の製 造販売している商品名を「風呂バンス」という控訴人商品の周知となった商品表示である 商品形態及び商品名と類似し、控訴人商品と混同を生じさせるおそれがあり、被控訴人に よる被控訴人商品の製造販売行為等が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当た ると主張して、被控訴人に対し、差止及び損害賠償を求めるとともに、被控訴人商品に添 付された取扱説明書及びその一部のものに用いられたイラストが、控訴人商品に添付され た編集著作物たる取扱説明書及びその一部のものに用いられたイラストを複製したもので あり、これらについて控訴人の有する著作権を侵害すると主張して、被控訴人に対し、差 止および損害賠償を請求するなどした事案である。  原審は、控訴人の請求をいずれも棄却した。  判決は、不競法上の請求について周知性および類似性を否定して棄却した上、著作権法 に基づく請求も棄却した。 (第一審:大阪地判平成17年2月8日) ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 不正競争防止法に基づく請求について 《中略》 2 民法709条に基づく請求(予備的請求)について 《中略》 3 著作権法に基づく請求について  次のとおり、原判決を訂正等し、当審主張に対する判断を付加するほかは、原判決67 頁24行目から80頁末行までに記載のとおりであるから、これを引用する。  (1) 原判決の訂正等  ア 67頁25行目及び68頁3行目の各「の一部」を削る。  イ 69頁24行目から25行目にかけての「吸盤で固定されている様子が描かれてい る」の次に、「(ただし、被控訴人商品は吸盤を備えている〈検甲2〉が、被控訴人取扱 説明書として控訴人から提出された甲12の被控訴人イラスト1に該当する部分のイラス トには、吸盤は描かれていない。)」を加える。  ウ 70頁15行目の「浴槽内の湯の表示の有無」の次に、「(ただし、被控訴人イラ スト1には、浴槽内の湯は表示されていないが、被控訴人取扱説明書として控訴人から提 出された甲12の被控訴人イラスト1に該当する部分のイラストには、控訴人イラスト1 と同様に、浴槽内の湯が表示されている〈甲12〉。)」を加える。  エ 75頁17行目の「スイッチを入れる」の次に「→「入」へ」を加える。  オ 76頁6行目の「左側」を「右側」と改める。  (2) 争点(3)ア(控訴人イラストの著作物性と複製の有無)について  ア 引用にかかる原判決認定、説示のとおりであって、商品の取扱説明書の場合、商品 の使用方法、機能、生じ得る問題点とその対処方法、部品や部分の名称、注意事項や禁止 事項などが文章やイラストで説明されるが、説明すべきこれらの内容が共通し、その説明 内容等がありふれた表現でなされる限り、別の商品の取扱説明書であっても表現として同 一又は似通ったものとなることが考えられる。しかし、著作権法が保護するのはあくまで 思想や感情の創作的表現であること(著作権法2条1項1号)からすれば、仮に上記のよ うな点に共通性が認められたとしても、そのことをもって、創作性ある部分が実質的に同 一であるとか、表現上の本質的な特徴が直接感得できるとかいうことはできない。  そうすると、控訴人イラストが著作物性を有するか否かの点はともかくとして、被控訴 人イラストと控訴人イラストは、それぞれが共通する部分は、結局、控訴人商品と被控訴 人商品の部品や商品部分の説明としてありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎ ないし、また、ありふれた表現以外の部分において相違点が認められ、被控訴人イラスト が、控訴人イラストの創作性ある部分と実質的に同一であるとか、控訴人イラストの表現 上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから、被控訴人イラストが控 訴人イラストを複製したものであるとはいえない。  したがって、争点(3)ア(ア)(著作物性の有無)を判断するまでもなく、控訴人イラス トの著作権侵害を理由とする控訴人の請求は、いずれも理由がない。  イ もっとも、控訴人が主張するように、控訴人商品と同種商品である「ユーフィー」 及び「湯美人」の取扱説明書には、控訴人イラストと同一ないし似通ったイラストは見当 たらない(甲4、26、27)。  しかしながら、説明内容が共通している場合に、これをありふれた表現で説明すると、 同一又は似通った表現になることがあるからといって、必ず同一又は似通った表現になる とまではいえない。  そうすると、控訴人商品と同種商品であって、その説明内容に共通する点もあると考え られる「ユーフィー」及び「湯美人」の取扱説明書中のイラストが、いずれも控訴人イラ ストと異なっているからといって、直ちに、控訴人イラストの当該表現がありふれた表現 ではないとはいえない。  したがって、上記同種商品の取扱説明書の存在は、前記認定判断を左右するものではな い。  (3) 争点(3)イ(控訴人取扱説明書の著作物性と複製の有無)について  ア 引用にかかる原判決認定、説示のとおりであって、編集著作物は、「素材の選択又 は配列によつて創作性を有するもの」に限り著作物として保護される(著作権法12条1 項)ところ、商品の取扱説明書は、当該商品に関する各種情報という素材を扱うものであ るから、控訴人取扱説明書と被控訴人取扱説明書とは対象とする商品が異なっており、 「素材」となる情報も異なるから、既にこの点において、被控訴人取扱説明書が控訴人取 扱説明書の編集著作権を侵害するものということはできない。  また、この点をおいて、控訴人の主張する説明文(文章内容及び文字の大小・太細、下 線の有無など)、イラスト、絵表示自体を著作権法12条1項の「素材」ととらえて、そ の編集著作物性の有無を検討しても、控訴人主張にかかる、@控訴人商品の使用方法、特 徴点、生じ得る問題とその対処方法、手入れ方法、各部の名称等、安全上の注意事項及び 警告事項等の章立て、使用方法の説明においては時系列に沿って説明文を配列しているこ と、A生じ得る問題点とその対処方法の説明において、問題点を頁の左に、対処方法を頁 の右に配置していること、禁止事項についてはイラストに「×」印を付していること、B 注意事項と警告事項を分け、各事項の説明においては頁の左側に絵表示を、その右側上段 に各事項を、その右側下段に説明文を配置していること、C説明文に沿って適宜イラスト をその横や下に配置していること、D注意事項等の前には絵表示を置いて注意事項等であ ることの注意喚起を促していることは、いずれも、商品の取扱説明書における、章立て、 文章、イラスト、絵表示の配列としてありふれたものといわざるを得ないから、「配列」 の創作性を肯定することはできない。  したがって、いずれにせよ、控訴人取扱説明書には編集著作物性を認めることはできな いから、争点(3)イ(イ)(複製の有無)について判断するまでもなく、控訴人取扱説明書 の編集著作権侵害を理由とする請求は、いずれも理由がない。  イ これに対し、控訴人は、本件の場合、編集著作物としての「素材」は、「浴湯保温 器という商品の各種情報」であり、控訴人取扱説明書と被控訴人取扱説明書とで素材は共 通していると主張する。  しかし、控訴人商品と被控訴人商品は、「浴湯保温器」という点では同じであるが、既 にみたとおり、商品の形態及び商品名とも類似するものとはいえず、別個の会社の製造販 売する別個の商品であることは否定できないから、「素材」となる情報は異なるといわざ るを得ない。  また、控訴人が主張するように、同種商品である「ユーフィー」及び「湯美人」の取扱 説明書と控訴人取扱説明書とで、説明文、イラスト、絵文字の配列が異なっている(甲4、 26、27)としても、同種商品の取扱説明書における、説明文、イラスト、絵文字のあ りふれた「配列」がたった一つしか存在しないとはいえないから、上記同種商品の取扱説 明書の存在も、前記認定判断を左右するものではない。 4 結論  その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし、原審 及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、当審及び当審の引用する原審の 認定判断を覆すほどのものはない。  以上の次第で、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であ って、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。  (当審口頭弁論終結日 平成17年9月27日) 大阪高等裁判所第8民事部 裁判長裁判官 小野 洋一    裁判官 長井 浩一    裁判官 中村 心