・東京高判平成18年4月26日  ブブカスペシャル7事件:控訴審  本件は、芸能人であるXら(佐藤江梨子、藤原紀香、川村亜紀、後藤理沙、平山綾、新 山千春、堀越のり、後藤真希、安倍なつみ、市井紗耶香、中澤裕子、飯田圭織、矢口真理、 保田圭、深田恭子、優香(岡部広子))が、『ブブカスペシャル7』(2002年)の出版 社(株式会社コアマガジン)、発行人、編集人または代表取締役(3名)であるYらに対 し、Xらの写真等の掲載された本件雑誌を出版、販売したYらの行為はプライバシー権 (肖像、個人情報)およびパブリシティ権を侵害すると主張して、不法行為に基づく損害 賠償を求めた事案である。  第一審判決(東京地判平成16年7月14日判時1879号71頁)は、一部について はパブリシティ権の侵害を肯定したが、当該部分については、Yに違法性の認識可能性が なく有責性を欠くとして損害賠償請求は棄却(他方、プライバシー権侵害に基づく損害賠 償請求は一部認容)。Xら控訴(ただし、市井および後藤理沙は控訴取下げ)。  本判決は、「このような著名な芸能人の肖像等の性質にかんがみると、著名な芸能人の 有するパブリシティ権に対して、他の者が、当該芸能人に無断で、その顧客吸引力を表わ す肖像等を商業的な方法で利用する場合には、当該芸能人に対する不法行為を構成し、当 該無断利用者は、そのパブリシティ権侵害の不法行為による損害賠償義務を負うと解する のが相当である」とした上で、第一審判決がパブリシティ権侵害を否定した個所について もパブリシティ権侵害を肯定した。 (第一審:東京地判平成16年7月14日) ■判決文 第5 当裁判所の判断 1 当事者及び本件雑誌の出版、販売について  前記第3の2の事実(一審原告らが本件雑誌発行時に芸能人であったこと、一審被告会 社が本件雑誌を発行し、一審被告中澤が本件雑誌が出版、販売された当時、一審被告会社 の代表者であり、一審被告太田が発行人、一審被告寺島が編集人であったこと、本件雑誌 の記事内容、本件雑誌発行前の一審被告中澤の対応)については、当事者間に争いがない。 2 プライバシー権侵害の不法行為と損害賠償義務の成否について (1)結論  当裁判所も一審原告らのプライバシー権侵害に基づく損害賠償請求については、本件雑 誌の出版、販売時の代表取締役であった一審被告中澤、編集人であった同寺島、発行人で あった同太田による本件雑誌の出版、販売により、一審原告らのプライバシー権が侵害さ れたものであり、この不法行為による損害について一審被告会社は、民法715条、商法 261条3項、78条2項、民法44条1項による賠償責任を負い、かつ、一審被告らは、 民法709条、上記の民法及び商法の条項、民法719条により、連帯して一審原告らの プライバシー権炉侵害されたことによる損害の賠償義務を負うものと認めるのが相当であ ると判断する。すなわち、前記第3の2(3)ウの各写真及び記述は、同一審原告らの私 生活上の事実を表現するものであり、証拠(甲11〜18)及び弁論の全趣旨によれば、 これらの写真や記述による私生活上の事実は、一般人の感受性を基準にすると他人への公 開を欲しない事柄に該るものであり、これが一般にいまだ知られておらず、かつ、その公 表により同一審原告らが不快、不安の念を覚えたことが認められるから、一審被告太田及 び同寺島がこれらの写真及び記述を本件雑誌に掲載し、それを出版、販売した行為は、同 一審原告らのプライバシー権(肖像及び個人情報)の侵害に該当するものであり、また、 一審被告中澤についても前記第3の2(4)の経過からすると、本件雑誌の編集に具体的 に関与していなかったとしても、本件雑誌の出版、販売以前に、芸能人の肖像等に関する 人格権等の保護につき問題が生じた際、日本音楽事業者協会との間で合意書を取り交わし たり、謝罪文を送付していたものであるから・一審被告雑の代表取締役として一審被告会 社の出版する雑誌においてプライバシー権侵害が生じないように、内部的な取扱方針及び チェック態勢を定める等の方法により、同一審原告らのプライバシー権を侵害しないよう に配慮すべき義務を有しており、一審被告中澤がこれを怠ったことが認められるのであり、 反面において、個々の写真や記事について一審被告らが主張するプライバシー権の侵害に 該当しない、あるいは、違法性が阻却されるとする主張がいずれも理由がないと判断され るのあり、以上のような認定及び判断の理由は、下記(2)(3)に付加するほかは、原 判決「理由」中の2項、3項の認定・説示(原判決18頁2行目から同25頁10行目ま で)のとおりであるから、これを引用する。 (2)公共性とプライバシー権  一審被告らは、社会の正当な関心事の法理の抗弁、すなわち、本件雑誌は、娯楽誌であ り、芸能情報誌であるが、適法に出版された雑誌であって、公衆の正当な関心に応えて、 主として有名若手芸能人に関する写真・記事・情報などを掲載した雑誌であり、これら一 般公衆の関心事を掲載した本件雑誌及び掲載された写真、記事等については、公共性が認 められるものであるから、一審原告らのプライバシー権(肖像)侵害には、該当しないし、 一審被告らの掲載した写真や記事は、いずれも芸能人の珍しい写真、素顔の写真、私服姿 の写真、学校制服姿の写真、魅力的な写真等や趣味、出身、さらには芸能人の服装や帽子 ・サングラスその他の持ち物は、社会の正当な関心事であるところ、本件において一審原 告らがプライバシー侵害と主張する写真濠び記述は、一審原告らのデビュー前の姿、日常 生活上の姿、制服姿及び日離活に関する情報を内容とするものであり、これらに対する大 衆の関心は、社会的に正当なものとして許容される旨の主張を提出する。  しかしながら・社会の正当な関心事の法理は、犯罪報道等の社会的ないし公益的な価値 を有する報道等を保護する考え方であり、この考え方によって、一審原告らが芸能人とし てその芸能活動について論評される、あるいは、批評されるといった領域に属する活動と は異なる純然たる私的な言動ないし活動についてまで「公共の利益」に関わるとしてその プライバシーが制限されるという結果が肯定されることになるとは、到底認められないと ころというべきである。もちろん、芸能人の中には、自らの私的な事項にっいても情報を 発信し、これにより大衆から注目を集めるなどの行動をする者が存在することもあり得る が、このような行為は、自己に関する情報を自ら承諾した結果であって、いわゆる情報化 社会の出現とともに提唱されている「プライバシー権とは、個人が自己に関する情報を、 いつ、どのように、また、どの程度に他人に伝えるかを自ら決定できる権利である。」と する自己情報コント ロール権に基づくものであり、このような行為があることを根拠として芸能人である各個 人が「一人にしておいてもらう権利」という内容をも含むプライバシー権を放棄したもの と解することはできないし、一審原告らについて、本件雑誌の掲載を個別に許諾したこと が全くないことからすると、著名人であるといった理由や大衆の興味の対象であるといっ た理由から、そのプライバシー権侵害の違法性が阻却されるとは、到底解されないところ といわなければならない。 (3)著名人とプライバシー権  また、一審原告らは、芸能人であって、政治家のように私生活の行状等が国民の選挙権 行使に当たって重視される者ではないし、また、本件雑誌に掲載された@一審原告佐藤及 び一審原告後藤の芸能人になる前の写真(一審原告佐藤の小学校のアルバムの集合写真は、 ごく限定された同窓生等の関係する人に対し公開されているものであって、発行部数16 万1600部もの本件雑誌への掲載は、質的にも公開の程度が異なることは、明白であ る。)、A一審原告後藤らの路上で撮影された写真(なお、これらの写真が公共の場所で 撮影されたとしても、ことさら、一審原告後藤らに焦点を合わせて撮影されたものであっ て、年末の空港等の混雑した様子を撮影した中にたまたま写ったというものではない。)、 B一審原告市井らの通学中の写真、C一審原告後藤の実家や一審原告岡部の元実家につい ての記事などについては、これらがいずれも同一審原告らのファンであれば、興味があり、 知りたいと思うところであるとしても、結局のところこれらのファンの興味本位の欲求に 応えるものでしかなく、この情報が民主主義に不可欠な情報であってその制限が許されな いなどという領域に関わるものでないことも明白である。 3 パブリシティ権侵害の不法行為と損害賠償義務の成否について (1)パブリシティ権により保護される法的利益と侵害の違法性  一審原告らは、一審被告らの行った本件雑誌の出版、販売が、一審原告らのパブリシテ ィ権を侵害する不法行為に該当する旨主張するので、まず、一審原告らのような芸能人の パブリシティ権(保護法益)とこれに対する侵害の違法性について、検討する。  一般に、固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した著名な芸能人の氏名、芸名、肖 像等(氏名、芸名を含め、以下「肖像等」という。)を商品に付した場合には、当該商品 の販売促進に有益な効果、すなわち、顧客吸引力があることは、一般によく知られている ところであり、著名な芸能人には、その肖像等が有する顧客吸引力を経済的な利益ないし 価値として把擢し、これを独占的に享受することができる法律上の地位を有するものと解 される。けだし、芸能人は、その芸能の卓越し、秀でることを目指し、その芸能を高める ことを追求しようとする職業人であって、日常的な稽古、練習、レッスン等によりその芸 能を磨き、磨いた芸能を観客、聴衆、視聴者などに披露し、その拍手喝采あるいは逆の不 評、不人気を受けていずれの評価をもこれを糧として更なる披露の機会を目指す者であり、 その固有の名声、社会的評価、知名度等が世の中に知れ渡る著名な芸能人になるためには、 天賦の才能等に加え、相当の精神的、肉体的な修練とその修練を積み重ねるにつき必要不 可欠な出費に耐える労苦とを要することが明らかであり、芸能人がそのように著名な芸能 人として知れ渡った暁には、当該芸能人がその固有の名声、社会的評価、知名度等を表現 する機能がある肖像等が具有する顧客吸引力に係る経済的価値を独占的に享受することは、 当該芸能人が努力した上記のような修練、労苦等のもたらす当然の帰結であるからである。  著名な芸能人の上記のような法律上の地位は、パブリシティ権と称されるところ、著名 な芸能人は、その肖像等が有する顧客吸引力が正当に人々に利用されいよいよ大きなもの となることを望むものの、他の者により無断でこれらが不当に取り扱われることによりそ の有する固有の名声、社会的評価、知名度等が損なわれたり、汚されたりしてその芸能を 披露するのに妨げとなるととに対しては、許せるわけではないし、その肖像等が人々から 悪いイメージで受け止められたり、飽きられたりすることに対しても、無関心ではあり得 ないと認められる。ところが、当該芸能人の顧客吸引力を利用することに伴う多大な経済 的効果に眼を奪われて当該芸能人の肖像等を無断で利用する者が現れるのであって、この ような無断の商業的利用の場合においては、当該芸能人の固有の名声、社会的評価、知名 度等を意識的無意識的に歪曲ないし軽視し、これを損なわせ、汚す(当該芸能人が自らあ るいはその許諾のもとにその顧客吸引力を商品化し、あるいは宣伝に用いる場合とは異な り、とかく猥雑下品、劣等なものとなりがちである)こととなり、ファンなどが離れ、当 該芸能人の肖像等のイメージが悪くなり、これが飽きられるなどの不人気の弊害すら招き かねないのである。  このような著名な芸能人の肖像等の性質にかんがみると、著名な芸能人の有するパブリ シティ権に対して、他の者が、当該芸能人に無断で、その顧客吸引力を表わす肖像等を商 業的な方法で利用する場合には、当該芸能人に対する不法行為を構成し、当該無断利用者 は、そのパブリシティ権侵害の不法行為による損害賠償義務を負うと解するのが相当であ る。  ところで、著名な芸能人であっても、私的活動の領域においては、前記2のとおり、プ ライバシー権を有しており、プライバシー権による法的な保護を受け、あるいは、肖像等 の利用のされ方によっでは、著作権法による保護を受ける場合のほか、人格権に対する名 誉段損として法的な保護を受け得るのであるが、このプライバシー権、著作権法及び名誉 (人格権)による法的保護では、著名な芸能人の肖像等の上記のような性質に鑑みると、 著名な芸能人め肖像等の上記のような無断利用に対する被害の保護には、不十分にとどま る場合が生じることが避けられないと認められるのであって、そうすると、パブリシティ 権について実体法上これを明記する規定がないとしても、何ら法的な保護を受けないと解 することは、社会の変化.社会通念の変化に応じて人々の私法上の法律生活関係が豊かな ものに発展することを否定する考え方というべきであり、著名な芸能人の名声、社会的評 価、知名度等、そしてこれらを表現する肖像等、これが表す顧客吸引力などを無断で利用 する行為に対しては、プライバシー権侵害とは別個の不法行為を構成する場合があると解 するのが、公平の原則にも合致するというべきである。  これまでにもいくつかの裁判例があるように、パブリシティ権という名称を用いるか否 かはさておき、著名な芸能人の肖像等を無断で広告や商品に用いる場合に違法とされる場 合があることが示唆されており、また、NHKサービスセンター事件における謝罪文(甲 61)の作成と日本音楽事業者協会への交付(甲47、当審証人尾木)、毎日新聞社事件 における謝罪文(甲63)の作成と同協会λの交付及び同新聞全国版におけるパブリシテ ィ権についての特集記事(甲64)の掲載(甲47、当審証人尾木)などメディアによる パブリシティ権の承認の動きが認められるのをはじめ、本件にあらわれた甲28ないし3 2の証拠によれば、雑誌掲載に対し、掲載料が支払われる取引慣行が存することが認めら れるほか、同じく甲33ないし44の証拠によれば、日本音楽事業者協会と多くの雑誌出 版社との間で、同本音楽事業者協会に所属する芸能人の肖像・パブリシティ権を最大限尊 重すること、取材に対する取材協力費を支払うこと、芸能人の肖像権の無断使用を行わな いことなどについての覚書が締結されている状況が認められ、そこでは、同時に、取材協 力費について支払対象から除外するものとして@記者会見取材、A音楽演劇等のステージ 取材、B番組取材、C慶弔時に関する取材に限定しており、これらは、芸能活動に対する 正当な紹介、批評、プライバシーに属するといっても著名な芸能人であるがゆえ.に制限 されてもやむを得ない慶弔時の取材に限られており、芸能人のパブリシティ権と正当な表 現の自由との間の相応の利益衡量もなされた内容となっており、一審被告会社も、同様の 和解(甲48)や合意書(甲2)を通じて一旦は、上記の所属芸能人の肖像、パブリシテ ィ権に対する尊重を受け容れたところでもあり、以上のような事実も、前記のように、著 名な芸能人の肖像等の無断利用行為につき不法行為の成立を肯認する解釈適用の正当性を 基礎づけるものと考えられるのである。  これに対し、一審被告らは、競走馬についてパブリシティ権を否定した最高裁判所第二 小法廷平成16年2月13日判決・民集58巻2号311頁をその根拠として、パブリシ ティ権は否定される旨主張するが、この判例は、有体物については・民法上の物権により 所有者の権利が定められているところであり、また、無体物としての利用に関しては、商 標法、著作権法、不正競争防止法等の法律が一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に排 他的な使用権を付与し・その権利を保護し、もって、その排他的な使用権の付与が国民の 経済的活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、立法により 解決しているところである旨を明らかにしていると解されるのであるが、これら有体物及 び無体物については、人格権の内容ないし要素とは、関わりがあるものとは解されない。 著名な芸能人の有するパブリシティ権については、その肖像等というその人格と分離する ことができない法律上の利益に係るものであり.かつ、前示のように当該著名な芸能人以 外の者に無断で利用される場合には、その固有の名声、社会的評価、知名度等が損われ、 汚されるおそれも否定しがたく、物の知名度等を利用する場合と比較して看過できないよ うな当該著名な芸能人自身及び当該芸能人のその後の芸能活動に対する不利益などを生じ させるおそれがあり、その被害も名誉段損やプライバシー権侵害の不法行為についての賠 償では填補が不可能ないし不十分となることもあり得るのである。そうすると、物に対す るパブリシティ権と向様に著名な芸能人にっいてもパブリシティ権は認められないとする 一審被告らの主張は、採用することができない。 (2)パブリシティ権と表現の自由の関係  本件雑誌の出版、販売は、著名な芸能人の名声を利用した広告や商品の販売そのものと いうよりは、一審原告佐藤ら10名のほか、多数の著名な芸能人の写真(肖像等)や記述 を掲載する出版物の販売に該当し、そのため表現の自由の保護対象となる可能性もあるの であるが、出版物であるとの一事をもって、表現の自由による保護が優先し、パブリシテ ィ権の権利侵害が生じないと解するのは相当ではなく、当該出版物の販売と表現の自由の 保障の関係を顧慮しながら、当該著名な芸能人の名声、社会的評価、知名度等、そしてそ の肖像等が出版物の販売、促進のために用いられたか否か、その肖像等の利用が無断の商 業的利用に該当するかどうかを検討することによりパブリシティ権侵害の不法行為の成否 を判断するのが相当である。  この場合、芸能人の職業を選択した者は、芸能人としての活動とそれに関連する事項が、 難誌、新聞、テレビ等のマスメディアによって批判、論評、紹介等の対象となることや、 そのような紹介記事等の一部として自らの写真が掲載されること自体は容認せざるを得な い立場にあるので、芸能活動に対する正当な批判や批評、紹介については、表現の自由と してこれが尊重されなければならないし、慶弔時には、その著名度に比例する重大さが認 められる社会的事象としてそれが報道されることも容認されるべきことは動かないところ であるが、表現の自由の名のもとに、当該芸能人に無断で商業的な利用目的でその芸能人 の写真(肖像等)や記述を掲載した出版物を販売することは、正当な表現活動の範囲を逸 脱するものであって、もはや許されないところといわなければならないし、芸能人として の活動のほかにこれに「関連する事項」を紹介の対象とする記述を内容とする出版物の販 売を容認するとした場合、例えば、若手の芸能人については、芸能活動の内容面(演技、 歌唱力など芸能の本来的部分)よりも美貌、姿態、体型といった外面に記述の中心が向け られ、芸能活動に対する正当な批判、批評の紹介の域にとどまらなくなったり、当該芸能 人のプライバシーに関わることまでも芸能活動に関連するとしてそのすべてに批評や紹介 が及ぶことになったりしかねないのであるし、また、その写真等の利用のされ方によって は、たとえば読者の性的関心に訴えるような紹介方法などその芸能人のキャラクターイメ ージを毀損し、汚すような逸脱も生じかねず、これらの事態が表現の自由としてであれ許 されるべくもないことは明らかというべきである。 (3)一審原告佐藤ら10名の著名性について 《中 略》 (4)本件雑誌の出版、販売について 《中 略》 (5)個別記事についての判断 《中 略》 (6)一審被告太田、同寺島及び同中澤の故意過失について  前記(1)から(4)のとおり、一審原告佐藤らの写真(肖像等)の本件雑誌への掲載 は、同一審原告らのパブリシティ権を侵害するものと認められるところ、一審被告太田、 同寺島及び同中澤には、この侵害につき故意又は過失があったか否かが問題となる。これ らの一審被告らは、それぞれ、前記第3、2、(2)、イないしエのとおり、雑誌等の発 行、出版、販売等を業とする一審被告会社の営業行為である本件雑誌の出版、販売に関し、 同一審原告らの写真(肖像等)の掲載、これらが掲載された本件雑誌の出版販売の可否、 当否の決定に携わり、又は携わることが可能であった者であるところ、前記(1)のとお り、一審被告会社は、本件雑誌の発行より前に、和解や合意書を通じて一旦は日本音楽事 業者協会に所属する芸能人の肖像・パブリシティ権を尊重することを認めていたのであり、 そのことに加えて、本件雑誌の出版前に一審被告会社が一審原告らを含む多くの芸能人に 対しその写真使用の許諾を求めたが、いずれも拒否された経緯があり(乙56から67、 68の1・2)、拒否された理由は、投稿写真や過去の素材に関してはイメージを損なう こと、どういった内容で掲載するか不明であること、わいせつ本のイメージが強いこと、 写真集を発売したばかりであることといった理由すなわちいずれも合理的と認められる理 由によるものであったのであり、それにもかかわらず、本件雑誌の出版、販売が前示のと おり実行されているのであり、そうしてみると一審被告太田、同寺島、同中澤は、著名な 芸能人の写真が雑誌に掲載される場合、掲載のされ方によっては、そのキャラクターイメ ージが損われ、また、発売した写真集の売上げに影響があることなどについての認識があ ることが認められるのであり、一審被告会社が一審原告らに無断で、一審原告らの顧客吸 引力を利用してこれらの写真(肖像等)を用いて本件雑誌の販売による商業的な利益を得 ることについては、一審原告らのパブリシティ権を違法に侵害することになることの認識 があり、又はその認識がなかったことにつき過失があったといわなければならない。  具体的には、一審原告佐藤、同藤原、同後藤、同平山、同川村、同新山、同堀越、同安 倍、同深田、同岡部の写真(肖像等)については、本件雑誌への利用のされ方は、同一審 原告らの写真(肖像等)の有する経済的な価値を毀損するような利用をしているもの(読 者の性的な関心を呼び起こす不当な掲載をしている符号6、7から9、11、12、75 から77)、同一審原告らの有するイメージを維持しているものの通常の掲載であれば取 材協力費が支払われるものと認められるもの(鑑賞に堪えるグラビア写真と同視できる符 号36から39、48から53、70から74)、同一審原告らのプライバシー権(肖像) を侵害する側面もみられるもの(符号2ないし5、36ないし39、48ないし53、6 5ないし74、83から85)、プライバシー権(個人情報)を侵害する側面もみられる 記事を伴って用いられているもの(符号1、77ないし79)であって、その写真(肖像 等)の掲載方法についても、人気の高い一審原告後藤については、枚数も多いことなどに もみられるように、一審被告寺島、同太田、同中澤が同一審原告佐藤らには、著名な芸能 人としての顧客吸引力があることを十分認識し、本件雑誌販売による利益を得る目的で同 一審原告佐藤らの顧客吸引力を無償で用いており、しかも、同一審原告後藤らの紹介の仕 方も腋グランプリのようにそのイメージを貶めるような不当な方法を用いている上、著名 な芸能人に似た者が出演しているというアダルトビデオの紹介記事を同一審原告佐藤らの 写真(肖像等)の掲載部分と容易に見分けしにくいような一体不可分な体裁で記載し、こ れによっても本件雑誌が一部の読者の低俗な関心(芸能人のプライバシーの部分を知りた い、性的な部分について知りたいなど)に応えようとするものであって、そのため、一審 被告会社が事前に写真の使用を求めても同一審原告らを含む芸能人らは、自己の芸能人と しての価値を貶める可能性もあるなどの理由から本件雑誌への掲載を拒否していたのであ り、これらの経緯からすると、一審被告らは、著名な芸能人の名声、社会的評価、知名度 等を表現する肖像等の顧客吸引力に係る経済的価値を十分認識した上で、本件雑誌販売に よる利益を得るといった目的でこれを利用して本件雑誌を出版、販売しているものであっ て、一審被告らには、前示のような故意又は過失があると認められるのである。 (7)結論  以上によれば、一審被告らは、民法709条、715条、商法261条3項、78条2 項、民法44条1項、719条により1パブリシティ権侵害により一審原告佐藤、同藤原、 同後藤、同平山、同川村、同新山、同堀越、同安倍、同深田、同岡部に生じた損害を連帯 して賠償する義務を負うものと認めるのが相当である。 4 損害 (1)プライバシー権侵害の損害とパブリシティ権侵害の損害の算定について  本件は、本件雑誌への一審原告らの写真(肖像等)の掲載等及びその出版、販売という 同一の態様によるプライバシー権侵害とパブリシティ権侵害が認められる事案であり、こ れらの写真の中には、同一の写真についてプライバシー権侵害とパブリシティ権侵害が認 められるものもあり、また、前記3(1)のパブリシティ権の性質からすると、パブリシ ティ権は、名誉やプライバシー権と異なるものではあるが、著名な芸能人の肖像等という その人格と分離することができない法律上の利益に係るものであることにおいて共通する 側面が認められるのであるから、パブリシティ権侵害による損害額の算定においては、プ ライバシー権侵害によ乙損害額の算定とを適切に関連させて検討するのが相当である。 《中 略》 第6 結論 《中 略》 東京高等裁判所第9民事部 裁判長裁判官 雛形 要松    裁判官 中島 肇    裁判官 中山 直子