・東京地決平成18年8月4日  まねきTV事件  債務者(株式会社永野商店)は、「まねきTV」という名称で、利用者がインターネッ ト回線を通じてテレビ番組を視聴できるようにするサービスを提供している。本件サービ スは、ソニー株式会社製の商品名「ロケーションフリーテレビ」の構成機器であるベース ステーションを用い、インターネット回線に常時接続する専用モニターまたはパソコンを 有する利用者が、インターネット回線を通じてテレビ番組を視聴できるものである。  そこで、債権者(株式会社フジテレビジョン)(なお、債権者ほか5社のテレビ放送会 社も同様の申立を行っている)が債務者に対し、債務者が行う本件サービスが、本件放送 に係る債権者の送信可能化権を侵害していると主張して、本件放送の送信可能化行為の差 止めを求めた。  決定は、「本件サービスにおける個々のベースステーションは、「自動公衆送信装置」 に当たらず、債務者の行為は、著作権法2条1項9号の5に規定する送信可能化行為に当 たらないというべきである。そうすると、債権者には、著作権法112条1項に基づき、 債務者の本件放送の送信可能化を差し止める請求権がない」として、これを退けた。 (控訴審:知財高決平成18年12月22日) ■争 点 (1) 本件サービスにおいて、債務者が本件放送の送信可能化行為を行っているか否か (2) 保全の必要性 ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。 《中略》 2 争点(1)(債務者の送信可能化行為の有無)について (1) 本件サービスの内容及び利用される機器 ア 本件サービスにおいては、ソニーが製造販売している「ロケーションフリーテレビ」 が使用されている。前記1(1)認定のとおり、ロケーションフリーテレビ自体は、本件サ ービスとは無関係に、外出先や海外等においてもテレビ放送の視聴を可能にする社会的に 見ても有用な装置であって、債権者も、その利用が著作隣接権侵害に当たるとは主張して いない。  ロケーションフリーテレビを利用するにあたっては、必ずしも利用者自身が必要なベー スステーションの取付け及び設定作業を行うのではなく、前記1(2)認定のとおり、ソニ ーの設定サービスにおいて、かかる作業を代行してもらうこともできる。しかも、ソニー の設定サービスについては、海外在住者向けサポートを含め、債権者は、それが著作隣接 権侵害に当たるとは主張していない。 イ 本件サービスにおいて放送データの送信を行う機器は、ベースステーションである。 すなわち、ベースステーションは、テレビチューナーを内蔵し、アンテナ端子からの放送 をデジタルデータ化し、対応する専用モニター又はパソコンからの指令に応じて、インタ ーネット回線を通じて専用モニター又はパソコンへ自動的に送信する機能を有するもので ある。  しかしながら、まず、前記アのとおり、債権者においても、ベースステーションの利用 行為一般が著作隣接権侵害に当たるとは主張していない。  ロケーションテレビは、前記1(3)ウ認定のとおり、本件サービスの利用者において購 入するものであり、本件サービスの利用者は、いつ、どの販売店から、どの種類のロケー ションフリーテレビを、いくらで購入するかにつき自由に意思決定をなし得る立場にあり、 債務者による購入先の指定等はされていないし、債務者においてロケーションフリーテレ ビの購入の仲介ないしあっせんを行ってはいない。また、利用者はいったん債務者にベー スステーションの保管及び管理を依頼した後も、前記1(3)エ認定のとおり、本件サービ スの利用契約を解除して、ベースステーションの返還を受けることができる。なお、債務 者は、前記1(3)オ(イ)認定のとおり、自らのホームページ中でロケーションフリーテレ ビの販売業者の紹介の項目を設けるなどしているが、これはあくまで利用者に対する最低 限の便宜を図る域を出るものではなく、購入自体は申込者が単独で行ったものと評価せざ るを得ない。  そうすると、本件サービスにおいて、ベースステーションの所有権が債務者にあると解 する余地は全くなく、利用者への所有権移転が仮装であるとみる余地もない。債権者にお いても、これを争っていない。  また、前記1(3)イ認定のとおり、その余の機器類は、すべて汎用品であり、本件サー ビスに特有のものではない。 ウ さらに、前記1(3)イ認定のとおり、本件サービスにおいては、ソニーが作成したソ フトウェアが用いられているのであって、ベースステーションから利用者の専用モニター 又はパソコンへの送信につき、債務者が独自に作成したソフトウェア等が利用されている 事情は、全く存しないものである。 エ そして、本件サービスにおいては、1台のベースステーションから送信される放送デ ータを受信できるのはそれに対応する同一の利用者が所有する1台の専用モニター又はパ ソコンにすぎず、1台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送 データが送信されることはない。したがって、特定の利用者のベースステーションと他の 利用者のベースステーションとは、全く無関係に稼働し、それぞれ独立している。  また、本件サービスにおいては、あくまでも、特定の利用者が所有する1台のベースス テーションからは、当該利用者の選択した放送のみが、当該利用者の専用モニター又はパ ソコンのみに送信されるにすぎず、この点に債務者の関与はない。  さらに、債務者は、ベースステーションとは別個のサーバー等を設置してはおらず、ま た、利用者によるベースステーションへのアクセスに同サーバー等の認証手順を要求する などして、利用者による視聴を管理することもしていない。すなわち、利用者はインター ネット回線を通じて自己のベースステーションに直接アクセスし、必要な指令を送って、 ベースステーションから選択した放送データのみの送信を受けているのであって、債務者 が管理する複数のベースステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価 し難いものである。 オ 本件サービスは、ソニーの設定サービスと対比して、ベースステーションを債務者の 事務所に設置保管して、分配機を経由してアンテナ端子から放送波が流入するようにし、 かつ利用者がプロバイダーと契約しなくてもベースステーションからインターネット回線 への接続が行われるようにする点において相違するが、その余は、利用者がソニーの設定 サービスを利用してロケーションフリーテレビのNetAV機能を使用するのと同じであ り、本件サービスを利用しなければ、本件放送を視聴できないというものではない。 (2) 本件サービスにおける債務者の役割 ア 本件サービスにおいて債務者が利用者に対して提供しているサービスの中核は、@  ベースステーション等とアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステー ションが稼働可能な状態に設定作業を施すこと、A ベースステーションを債務者の事務 所に設置保管して、放送を受信できるようにすることである。 イ しかし、このうち、まず前記@は、利用者がテレビ視聴を行う場所以外の場所(自宅 等)に必要なアンテナ端子及びインターネット回線を準備してベースステーションを設置 すれば、本件サービスを利用しなくても可能になることであり、利用者自身が必要なベー スステーションの取付け及び設定作業を行うこともできるし、利用者が用意したアンテナ 端子及びインターネット回線を利用し、ベースステーションとアンテナ端子等を接続して ベースステーションが稼働可能な状態にすること自体は、ソニーの設定サービスにおいて も行われることである。そして、ベースステーションの設置場所が東京都内のテレビ放送 波の受信状態が良好である場所であれば、本件サービスを利用したのと同様の結果を得る ことができる。  しかも、ソニーの設定サービスについては、債権者はそれが著作隣接権を侵害するわけ ではない旨主張している。 ウ さらに、前記Aについても、ベースステーションの所有権は、名実ともに利用者にあ り、それを債務者に寄託しているもの、すなわち、利用者において債務者の事務所にある アンテナ端子及びインターネット回線の利用を許されているのと同視することができる。 いわゆるハウジングサービスにおいても、利用者のサーバーを預かり、利用者のパソコン 等とインターネット接続によりデータの送受信ができるようにされているが、債権者は、 それが本件サービスとは異なるとして、送信可能化権を侵害する旨主張していない。  そして、本件サービスにおいては、あくまでも、特定の利用者が所有する1台のベース ステーションからは、当該利用者の選択した放送のみが、当該利用者の専用モニター又は パソコンのみに送信されるにすぎず、この点に債務者の関与はない。 (3) 送受信の主体 ア 以上によれば、本件サービスは、利用者の所有するベースステーションを債務者の事 務所に設置保管して、放送波を受信するものではあるが、それに使用される機器の中心を なすベースステーションは、名実ともに利用者が所有するものであり、その余は汎用品で あって、特別なソフトウェアも使用していないものであるから、放送波は、利用者が各自 の所有するベースステーションによって受信しているものといわざるを得ない。 イ 本件サービスにおいては、@ それに使用される機器の中心をなし、そのままではイ ンターネット回線に送信できない放送波を送信可能なデジタルデータにする役割を果たす ベースステーションは、名実ともに利用者が所有するものであり、その余は汎用品であり、 本件サービスに特有のものではなく、特別なソフトウェアも使用していないこと、A 1 台のベースステーションから送信される放送データを受信できるのはそれに対応する1台 の専用モニター又はパソコンにすぎず、1台のベースステーションから複数の専用モニタ ー又はパソコンに放送データが送信されることは予定されていないこと、B 特定の利用 者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは、全く無関係に稼働し、 それぞれ独立しており、債務者が保管する複数のベースステーション全体が一体のシステ ムとして機能しているとは評価し難いものであること、C 特定の利用者が所有する1台 のベースステーションからは、当該利用者の選択した放送のみが、当該利用者の専用モニ ター又はパソコンのみに送信されるにすぎず、この点に債務者の関与はないこと、D 利 用者によるベースステーションへのアクセスに特別な認証手順を要求するなどして、利用 者による放送の視聴を管理することはしていないことに照らせば、ベースステーションに おいて放送波を受信してデジタル化された放送データを専用モニター又はパソコンに送信 するのは、ベースステーションを所有する本件サービスの利用者であり、ベースステーシ ョンからの放送データを受信する者も、当該専用モニター又はパソコンを所有する本件サ ービスの利用者自身であるということができる。  そうすると、本件サービスにおけるベースステーションがインターネット回線を通じて 専用モニター又はパソコンに放送データを送信することを債務者の行為と評価することは 困難というべきであって、かかる送信は、利用者自身が自己の専用モニター又はパソコン に対して行っているとみるのが相当である。 ウ 以上のとおり、本件サービスにおいては、利用者が、自己の所有するベースステーシ ョンによって、放送波を受信し、自己の専用モニター又はパソコンから視聴したい放送を 選択し、当該放送を上記ベースステーションによってデジタルデータ化した上、上記専用 モニター又はパソコンに対し、デジタルデータ化した放送データを送信しているものであ る。  これを利用者の立場からみれば、ソニー製のロケーションフリーテレビを債務者に寄託 することにより、その利用が容易になっているにすぎない。 (4) 自動公衆送信装置について ア 債権者は、ベースステーションが自動公衆送信装置に当たる旨主張する。しかしなが ら、まず、「自動公衆送信装置」とは、「公衆の用に供する電気通信回線に接続すること により、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され、又は当該装置に 入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」である(著作権法2条1項9号の 5イ)。  そして、「自動公衆送信」とは、「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行 うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)」であり(同項9号の4)、また 「公衆送信」とは、「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電 気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所 と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属 する区域内)にあるものによる送信(中略)を除く。)を行うこと」をいう(同項7号の 2)。  ここで、同法2条5項は、「公衆」には、「特定かつ多数の者を含むものとする。」と 定めているから、送信を行う者にとって、当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定 又は特定多数の者であれば、「公衆」に対する送信に当たるということができる。 イ 前記(3)のように、本件サービスにおけるベースステーションからの放送データの送 信の主体を債務者と評価することはできないから、ベースステーションによる放送データ の送信は、1主体(利用者)から特定の1主体(当該利用者自身)に対してされたもので ある。そうすると、ベースステーションによる送信は、不特定又は特定多数の者に対する ものとはいえず、これをもって「公衆」に対する送信ということはできない。  したがって、本件サービスにおける個々のベースステーションは、「自動公衆送信装置」 には当たらない。  よって、債務者がインターネット回線に接続されているベースステーションを分配機に 接続して放送波が入力されるようにすることは著作権法2条1項9号の5イに当たらない し、同分配機に接続されているベースステーションをインターネット回線に接続すること は同ロに当たらないというべきである。 (5) 債権者の主張(2)アについて ア 債権者は、債務者が、(a) 既にインターネット回線に接続されているベースステー ションに放送波を入力し、同時に、(b) 既に放送波が入力されているベースステーショ ンをインターネット回線に接続して、利用者が当該放送を視聴し得る状態にしていること が、物理的に、それぞれ著作権法2条1項9号の5イの「情報を入力すること」及びロの 行為に当たる旨主張する。 イ しかしながら、まず、前記(4)のとおり、本件サービスにおけるベースステーション は、「自動公衆送信装置」に当たるとはいえない。 ウ また、送信可能化とは、著作権法2条1項9号の5イ又はロの行為により「自動公衆 送信し得る」ようにすることをいう(同号柱書)。よって、送信可能化について権利侵害 に問われるべき者は、「自動公衆送信し得る」状態にない放送を「自動公衆送信し得る」 状態にしたといえることが必要である。  上記(a)について検討すると、「自動公衆送信し得る」のはデジタルデータ化された放 送データのみであり、アナログのままの状態ではインターネット回線を通じて「送信」す ることができないから、仮にアナログの放送波がベースステーションに流入しているとし ても、その放送波の流入によっては、同号柱書の「自動公衆送信し得る」ようにしたもの とはいえない。また、放送データは、利用者の選択があった場合のみ送信し得る状態にな り、デジタルデータ化するのは利用者が所有するベースステーションであることからすれ ば、債務者が利用者の選択によることなく放送データをベースステーションに入力してい るということはできない。そして、利用者が選択しない限り本件放送がデジタルデータ化 されていることを認めるに足りず、仮にそれがデジタルデータ化されているとしても、利 用者から選択がされない以上、その放送データは送信されることのないものであるから、 「自動公衆送信し得る」ようにしたとはいえない。  上記(b)については、ベースステーションをインターネット回線に接続した結果、利用 者が選択した放送データのみを当該利用者自身が所有するベースステーションから自己の 専用モニター又はパソコンに送信しているのであって、特定の1主体に送信しているとい わざるを得ないから、「自動公衆送信し得る」ようにしたとはいえない。なお、債務者が ベースステーションをインターネット回線に接続することは、利用者に代わって、その手 足として行っているものである。 エ そして、ベースステーションから専用モニター又はパソコンへの放送データの送信が 「公衆」に対するものとはいえないことも、前記のとおりであるから、債務者が「自動公 衆送信し得る」ようにしたということはできない。 オ 以上のとおり、債務者が送信可能化を行っているとの債権者の主張は、理由がない。 (6) 債権者の主張(2)イについて ア 債権者は、本件サービスの本質が、海外及び放送区域外でのテレビ番組視聴ができる ことにある旨主張する。  しかしながら、そのことは、ソニーのロケーションフリーテレビのNetAV機能その ものであって、債権者自身、それを著作隣接権侵害とは主張していないものである。 イ 債権者は、放送波の範囲が債務者によって限定されている旨主張する。  なるほど、本件サービスにおいては、債権者らが提供する地上波がベースステーション から送信されるのみであるが、送信される放送波の範囲が限定されるのは、ベースステー ションの設置場所が東京都内の債務者の事務所(データセンター)内である結果にすぎず、 債務者がかかる限定について関与したとはいえない。なお、かかる放送波の範囲の限定が あることをもって、放送波の受信が債務者においてされているとみることはできない。 ウ 債権者は、放送波の入力やインターネット回線への接続行為が債務者の事務所で行わ れ、そのための機器を債務者が所有し管理している旨主張する。  なるほど、債務者は、自己の事務所内にベースステーションを設置し、アンテナ端子及 びインターネット回線に接続しているところ、放送波のベースステーションへの流入に必 要な分配機及びケーブル類や、ベースステーションからインターネット回線への出力に必 要なハブ、ルーター及びケーブル類等の機器ないし機材は、いずれも債務者の所有及び管 理に係るものである。  しかしながら、前記1(3)イ認定のとおり、本件サービスに利用する機器のうち、中心 となるベースステーションの所有権は名実ともに利用者にあり、各ベースステーション同 士はそれぞれ別個独立のものであって一体の機器を成すものではない。その余の分配機や ケーブル類、ハブ及びルーター等の機器ないし機材は、本件サービスに特有のものではな く、一般的に利用される汎用品である。  そして、本件サービスにおいては、ソニーが作成したソフトウェアがそのまま用いられ、 ベースステーションから専用モニターないしパソコンへの送信につき、債務者が独自に作 成したソフトウェア等が利用されることはない。  なお、ベースステーションは債務者の事務所に設置されているが、その所有権を有する 利用者がこれを債務者に寄託しているものであり、利用者において債務者の事務所にある アンテナ端子及びインターネット回線の利用を許されているのと同視することができる。 そして、利用者自身が所有するベースステーションを他人に寄託して、直接占有する以外 の場所において受信した放送を視聴することは、著作権法上禁止されていない。そもそも、 通常の地上波放送に関しては、集合住宅の屋上部分にテレビアンテナを設置して複数の居 住者のテレビ放送視聴の用に供したり、自己の占有部分以外の場所にテレビアンテナを設 置することが行われており、債権者は受信用アンテナの設置場所ないし設置形態を理由に 放送の視聴を禁じていないが(審尋の全趣旨)、本件サービスはそれに近いものである。  また、債務者が有償でベースステーションを設置する場所を賃借しているとしても、そ のことをもってベースステーションによる送信の主体を債務者とみるのは困難である。 エ 債権者は、債務者においてベースステーションのポート番号の変更の作業が行われ、 債務者がベースステーションを管理している旨主張する。  しかしながら、ポート番号の設定作業は、同一のLAN回線上に複数のベースステーシ ョンが接続されているために、ポート番号が競合して機器の動作上不都合が生じるという 事態を避けるためのものにすぎず(甲5〔41頁〕)、ベースステーションの設定作業の 1つにすぎないところ、ソニーに設定作業の代行を依頼した場合にも行われる作業である と推認できる。  そうすると、債務者がベースステーションのポート番号の変更作業を行っているとして も、この作業のゆえにベースステーションを債務者が管理しているとはいい難い。 オ 債権者は、さらに、債務者がサポート体制を採って管理している旨主張する。  確かに、前記1(3)オ認定のとおり、債務者は、本件サービスの案内をするホームペー ジを作成及び公開して、利用希望者が本件サービスの内容等を容易に知ることができるよ うにした上、利用希望者が容易に本件サービスの申込みをすることができるよう、登録予 約フォームを用意したり、利用希望者が本件サービスの利用が可能な高速インターネット 接続環境を有しているかチェックできる他のウェブサイトを紹介し、サポートデスクと称 する質問窓口を設けて、利用希望者の疑問に答えるなどしている。  しかし、これは、本件サービスの利用者がベースステーションから自己の専用モニター 又はパソコンへの送信を行う上での便宜を図っているにすぎず、利用者に対する付随的な サービスと解される。なお、債務者による継続的な管理行為も、利用者の管理行為を代行 しているにすぎないものと評価することができる。 カ 債権者は、また、債務者が利用料の支払を受けており、それが放送波の送信の対価で ある旨主張する。  しかしながら、債務者が利用者から徴収する利用料金も、最初に徴収する入会金が3万 1500円、その後に徴収する利用料金が月額5040円であって、前記1(2)認定のソ ニーの設定サービスの利用料金や、前記1(4)認定のハウジングサービスの料金水準に比 し、にわかに高額すぎるとはいい難く、このうちに放送の送信の対価が含まれているとい うことは困難である。 キ そして、本件サービスにおいては、前記(3)イ判示のとおり、@ それに使用される 機器の中心をなし、そのままではインターネット回線に送信できない放送波を送信可能な デジタルデータにする役割を果たすベースステーションは名実ともに利用者が所有するも のであり、その余は汎用品であり、本件サービスに特有のものではなく、特別なソフトウ ェアも使用していないこと、A 1台のベースステーションから送信される放送データを 受信できるのはそれに対応する1台の専用モニター又はパソコンにすぎず、1台のベース ステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることは予定 されていないこと、B 特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステー ションとは、全く無関係に稼働し、それぞれ独立しており、債務者が保管する複数のベー スステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価し難いものであること、 C 特定の利用者が所有する1台のベースステーションからは、当該利用者の選択した放 送のみが、当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず、この点に 債務者の関与はないこと、D 利用者によるベースステーションへのアクセスに特別な認 証手順を要求するなどして、利用者による放送の視聴を管理することはしていないことに 照らせば、債務者は、物理的にみても、実質的にみても、送信可能化行為の主体とはいい 難い。  利用者がソニー製のロケーションフリーテレビのNetAV機能を利用することが債権 者の送信可能化権を侵害するものでない以上、ベースステーションの寄託を受け、これを 設置保管してその利用を容易にしているにすぎない債務者の行為をもって、送信可能化権 の侵害と評価することは困難である。 (7) 小括  したがって、本件サービスにおける個々のベースステーションは、「自動公衆送信装置」 に当たらず、債務者の行為は、著作権法2条1項9号の5に規定する送信可能化行為に当 たらないというべきである。  そうすると、債権者には、著作権法112条1項に基づき、債務者の本件放送の送信可 能化を差し止める請求権がない。 3 結論  以上の次第で、その余の点につき判断するまでもなく、債権者の本件仮処分申立てには 理由がないから、これを却下することとして、主文のとおり決定する。 平成18年8月4日 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高部眞規子    裁判官 中島基至    裁判官 田邉実