・東京地判平成20年5月28日  ロクラクU事件  原告ら(テレビ局10社)は、被告(株式会社日本デジタル家電)において、「ロク ラクUビデオデッキレンタル」との名称で行っている事業は、ハードディスクレコーダ ー「ロクラクU」(以下「ロクラクU」という。)2台のうち1台を日本国内に設置して、 受信するテレビ放送の放送波をその1台に入力するとともに、これに対応するもう1台 を利用者に貸与又は譲渡することにより、当該利用者をして、日本国内で放送されるテ レビ番組の複製を可能とするサービスであるとし、その事業を行う被告の行為は、原告 らが著作権または著作隣接権を有する番組または放送に係る音又は影像を複製する行為 に当たるから、原告らの著作権(複製権)および著作隣接権(複製権)を侵害するとし て、差止および損害賠償を請求した。  判決は、「クラブキャッツアイ事件最高裁判決等を踏まえ、問題とされる行為(提供 されるサービス)の性質に基づき、支配管理性、利益の帰属等の諸点を総合考慮して判 断すべきである」とした上で、「被告は、別紙サービス目録記載の内容のサービス、す なわち、本件対象サービスを提供しているものということができ、本件番組及び本件放 送に係る音又は影像の複製行為を管理支配していると認めることができるとともに、そ れによる利益を得ているものと認められる」として、差止請求および損害賠償請求を認 容した。 (仮処分決定:東京地決平成19年3月30日) ■判決文 第3 争点に対する当裁判所の判断 1 争点1(本件サービスにおいて、被告は、本件番組及び本件放送に係る音又 は影像の複製行為を行っているか)について 《中 略》 (2)検討  以上の事実に基づいて、被告が、本件番組及び本件放送に係る音又は影像 の複製行為を行っているといえるか否かについて検討する。 ア 複製主体についての考え方  著作権法上の侵害行為者を決するについては、当該行為を物理的、外形 的な観点のみから見るべきではなく、これらの観点を踏まえた上で、法律 的な観点から、著作権を侵害する者として責任を負うべき主体と評価でき るか否かを検討すべきであるから、事案に応じて、カラオケ装置を設置し たスナック等の経営者について、客の歌唱についての管理及びそれによる 営業上の利益という観点から、演奏の主体として、演奏権侵害の不法行為 責任があると認めたクラブキャッツアイ事件最高裁判決等を踏まえ、問題 とされる行為(提供されるサービス)の性質に基づき、支配管理性、利益 の帰属等の諸点を総合考慮して判断すべきである。  被告は、上記最高裁判決は、直接的な利用行為を行っていない者を行為 主体とみなす判断をするに当たって十分な正当化根拠を示しておらず、そ こで示されたカラオケ法理を一般化された法理として本件に援用すること は許されるべきではない旨主張するが、行為の管理支配性や利益の帰属と いう上記最高裁判決において示された要素を充足する者について、行為の 主体として評価し得る場合が存するのであるから、同判決等を踏まえつつ 行為の性質等の事情を総合的に考慮することは、規範的に行為の主体性を 検討する上で、有用かつ必要であると解され、被告の上記主張は採用でき ない。 イ 検討 (ア) 本件サービスの目的  本件サービスの利用者は、上記第2、1(4)のとおり、手元に設置した 子機ロクラクを操作して、離れた場所に設置した親機ロクラクにおいて 地上波アナログ放送を受信し、これを録画することによりテレビ番組を 複製し、複製した番組データを子機ロクラクに送信させ、子機ロクラク に接続したテレビ等のモニタに、当該番組データを再生して、複製した テレビ番組を視聴することができることになる。用いられる親機ロクラ クにおいて受信できるのが日本国内の地上波アナログ放送であることか ら、親機ロクラクは、日本国内に設置されることが必要であるが、子機 ロクラクの設置場所については、ブロードバンドのインターネット環境 等が必要となるほかは、機器の機能及び設定環境による制約はなく、日 本国内外の設置が可能である。  しかしながら、上記(1)ウ(ア)のとおり、本件サービスの正式開始前の 本件モニタ事業において、本件モニタ要領上(同3項)も、利用者は、 1台のモニタ機器(子機ロクラク)を日本国外の手元に設置し、もう1 台のモニタ機器(親機ロクラク)を日本国内に設置することが求められ るとされ、申込欄の住所記載欄の表示(甲30)も、子機ロクラクは日 本国外に設置することが当然の前提とされていたと解される。また、本 件サービスについては、上記(1)エのとおり、日本国外で日本のテレビ番 組を視聴することができる点を強調して広告が行われ、サービス内容の 説明においても、利用者が日本国外で利用する場合を想定した説明のみ が行われ、利用申込欄の住所記載欄の表示も、国名の入力が求められて いる。さらに、本件サービスに係る代理店の募集についても、見出しに 海外での代理店を募集する旨が明記され、募集地域も、日本国内の国際 空港周辺か世界各地域が列挙されており、アジア地域の一部として「日 本」が、場所も限定せずに記載されているのみである。  これらのことからすれば、本件サービスは、利用者において例外的に 異なる利用形態をとる場合があるとしても、日本国外にいる利用者が、 日本のテレビ番組を視聴することができるように、当該利用者に、日本 のテレビ番組の複製物を取得させることを目的として構築されたもので あると解するのが相当であり、一連の操作において、日本のテレビ番組 を複製し、複製した番組データを日本国外に送信することが、重要な意 味を有するものということができる。  被告は、本件サービスの目的について、デジタル家電機器であるロク ラクUを広く普及させ、利用を促進すること等であり、利用者に対し、 子機ロクラクのみにより録画、再生する方法、インターネットビデオを ダウンロードして視聴する方法なども紹介している旨主張するが、被告 の指摘する事情によっても、上記の各事情からすれば、本件サービスの 主たる目的は上記のとおりであるというべきである。 (イ) 親機ロクラクの設置場所及びその状況 a 本件モニタ事業実施時の親機ロクラクの設置場所等について  本件モニタ事業実施時、被告が利用者に対しレンタルしていた親機 ロクラクは、上記(1)ウ(イ)のとおり、被告事業所内に設置されていた が、そこでは、被告において、被告事業所のテレビアンテナ端子に分 配機が接続され、分配機の各出力端子と各親機ロクラクのアンテナ入 力端子が、アンテナ接続ケーブルで接続され、電源は、電源コンセン トから供給され、各親機ロクラクと高速インターネット回線とは、ハ ブ及びルーターを介して接続されていたのであって、本件サービスと 同様、本件モニタ事業において重要な意味を有する、親機ロクラクの 録画(複製)機能を発揮し得るように、被告によって管理されていた ということができる。 b 本件モニタ事業終了後の親機ロクラクの設置場所等について (a) 本件モニタ事業終了後、本件サービスが開始されたが、利用申 込書において、上記(1)エ(ウ)のとおり、親機ロクラクの設置場所の 確保について被告が一切関与しない旨が示され、上記(1)エ(ク)のと おり、現在、被告事業所内に、本件サービスに利用されている親機 ロクラクは存在しない。 (b) しかしながら、以下のような諸事情からすれば、被告は、親機 ロクラク設置場所に一定の関与をしているものと認められる。 @ まず、上記(1)エ(ア)のとおり、本件モニタ事業終了の決定から、 同事業を終了し本件サービスを開始するまでが、1か月に満たな い短い期間であり、本件サービスの提供者である被告自身に、親 機ロクラクの設置場所の確保が強く求められていたものと推測さ れる。すなわち、従前の本件モニタ事業の利用者の中には、同事 業終了後も親機ロクラクの移動先を指定せず、被告事業所内に親 機ロクラクを設置したままにしている利用者がいたことがうかが えるが(甲9)、大多数の利用者は、親機ロクラク設置場所確保 を検討し、被告自身や取扱業者や代理店に対して、その問合せや 確認をしていたことが推認される。また、取扱業者や代理店も、 自己の契約上の立場を維持するために、本件モニタ事業の利用者 であった者が本件サービスの申込みをして利用関係が継続される ように努めていたと考えられる(被告も取扱業者等はこのような 立場にあることを認めている。甲39)ところ、海外の取扱業者 が、日本国内で直ちに適切な親機ロクラク設置場所を一定数確保 するのは困難であると解されるから、本件サービスの提供者であ り親機ロクラクの所有者である被告自身に、親機ロクラクの設置 場所の確保が強く求められていたものと推測される。しかも、被 告によれば、取扱業者の規模や活動方法、活動状況などは様々な のであり(甲31)、小規模の事業者であるような場合には、一 層、被告に対する要請が強いものと解される。 A また、取扱業者の広告においては、親機ロクラク設置場所の賃 貸物件の斡旋が行われているが、同広告は、被告サイト内に構成 されているものであったり(甲1)、被告サイト上(甲2の1 等)や子機ロクラクに表示される画面上に被告を示す表示として 用いられていた「NYX」という標章(甲10)を、取扱業者を 表示するものとして用いていたり(NYX INTERNATIONAL PTE LTD.による広告、甲1)、被告サイトに用いられている説明図 面をそのまま利用したり(甲5の1〜3、5の6〜7)するなど、 親機ロクラクの設置場所の斡旋において、取扱業者と被告の関連 性が深いことをうかがわせる。 B さらに、NS 社による親機ロクラク設置場所の賃貸に関する広 告が、本件サービス利用者の子機ロクラクに提供され、「Nustar Supply レントダイ」なる名称の者に対して、親機ロクラク設置 場所の賃料が支払われ、その際、被告以外には伝えていないクレ ジットカード情報に係るクレジットカードでの決済がされている (甲10)などの事情も認められる。しかも、「Nustar Supply レントダイ」名義でクレジットカード決済を行っている事業者 は、当初、被告自身であり、その後、日本コンピュータ社に変更 された(なお、同決済に係るベリトランス社との収納代行サービ ス契約は、平成19年3月31日に解約された。乙16)ところ、 日本コンピュータ社は、上記(1)エ(キ)のとおり、被告と人的結び 付き及び経済取引面において密接な関連を持つ会社である。  この点につき、被告は、上記クレジットカード決済は、DD 社 からの依頼で「Nustar Supply レントダイ」として決済の代行を した旨主張するが、そうであれば、取扱業者である同社とのより 一層密接な関連がうかがえるところである。 C そして、親機ロクラクは、本件サービスにおける利用者の用に 供されているものの、その所有権は被告にあり、上記(1)エ(ウ)の とおり、本件サービス開始に当たっては、設置場所の安全度が被 告の基準に適合しない限り、利用者に保証金の支払が求められ、 本件サービスでA は、被告の都合による機器の交換も可能であ り、定期的にメンテナンスが実施される上、本件サービス終了時 には返還が求められているものであるし、被告が、親機ロクラク の設置場所を不相当と判断した場合には、別の設置場所を登録し なければならないとされる。したがって、親機ロクラクがどのよ うな場所に設置され、どのような環境に置かれているかは、被告 にとっての重大な関心事項であるとともに本件サービスの運営上 重要な情報であると解される。  被告は、親機ロクラク設置場所について、取扱業者扱いとする 旨の処理が選択される場合には、取扱業者において破損、盗難等 により生じた損失に責任を持ち、終了時にも返還の保証がされる から、それ以上に設置場所を明らかにさせず、保証金の支払も求 めない運用をしている旨述べる。  しかしながら、取扱業者が親機ロクラクの損失に責任を持ち返 還を保証するとしても、被告が利用者に対して本件サービスを提 供する責任を負い、機器に対するメンテナンスも実施することと されている以上、親機ロクラクの設置場所及び環境等は、当然、 被告にとって重大な関心事項であるとともに本件サービスを運用 する上で重要な情報であるというべきであり、例えば、親機ロク ラクによる録画機能や送受信機能等に不具合が生じた場合には、 その不具合の原因が、被告の所有する親機ロクラクの機器自体に あるのか、その設置場所や環境等にあるのかを判断して対処しな ければならないのであるから、親機ロクラクに関する設置場所や 環境等を被告において把握できない事態は、明らかに不自然であ るといわなければならない。  そうすると、被告は、取扱業者を介する申込みにおいても、親 機ロクラクの設置場所の選定、維持、環境整備等に関与している ものと考えざるを得ないところである。 (c) これらのことからすれば、親機ロクラク設置場所の紹介等は取 扱業者が行っているもので、被告は一切関与せず、設置場所も知ら ないという被告の主張は、到底、採用し難いものといわなければな らない。 c 先行仮処分決定後の親機ロクラクの設置場所について  被告は、先行仮処分決定後、静岡県内に設置されている親機ロクラ クの移動を取扱業者に要請し、それを受けて、DD 社において、平成 19年4月19日に、静岡県内の2か所に設置していた親機ロクラク を東京都内の2か所に移動した旨主張し、DD 社が作業を委託したス カッシュ社作成名義の本件移動報告書(乙13)を提出する。  しかしながら、静岡県内の設置場所として示されたスター電子工業 及びスカッシュ社については、被告代理人からの照会に対し、平成1 8年1月から平成19年3月までの間、ロクラクUが置かれていた旨 回答するが、原告TBS の従業員に対する回答では、その点が明確に されなかったこと、回答内容が異なったことについて合理的な説明が されているとは言い難いこと、電子機器の設置管理やハウジング業務 とは関係がないと思われるそれらの場所において、親機ロクラクの設 置が可能な環境が整備されていたか否か疑問がないではないことから、 実際に親機ロクラクが設置されていたのか否かは明らかではない。 また、スカッシュ社が東京都内への移動を行ったとしながら、実際 のレンタカー手配及び運転が日本コンピュータ社の従業員により行わ れたという事実が認められ、原告らからこの矛盾点を指摘されている にもかかわらず、被告から何らの説明もされていない。  そして、東京都内の設置場所として報告されている場所の1つであ るクロスワン社は、平成19年6月ころに1か月程度預かったことが あるが、電源やテレビアンテナに接続することはしていないと回答し ている(甲38)ところ、この点の合理的な説明はされていない。親 機ロクラクが機能する環境を整えない以上、親機ロクラクにおいてテ レビ番組を録画することはできず、当該親機ロクラクに対応する子機 ロクラクの利用者は、本件サービスの主たる目的としている内容を享 受することができないのであって、そのような事態を長期にわたって 生じさせることは、およそ考え難いものである。  さらに、東京都内のもう1つの設置場所として挙げられているホラ イズン社は、実際に家電製品のハウジング業務を行っていることが認 められる(乙28の1〜28の9)ものの、ロクラクUを含めたハウ ジング業務は平成19年10月1日から開始したものであり(乙26 の1〜26の3、乙28の6)、同年4月19日に静岡県内から移動 されて、親機ロクラクとして機能していたか否かは、必ずしも明確で はない( 社の取DD 締役の地位にある者において、NS 社がホライズ ン社から場所を借り、その後、同年10月1日に同社に業務を引き継 いだ旨述べる(乙25)が、クロスワン社への移動に関する上記状況 や、静岡県内からの移動日とされる同年4月19日から同社が預かっ たとされる6月までの間における保管状況及びそれ以降の移動、保管 等の状況が不明であることなども併せ考えると、設置状況が明確に示 されているとは言い難い。)。  そもそも、静岡県内から東京都内に親機を移動する場合、受信する 放送波が異なり、本件サービスの利用に当たっては、当該地域に対応 する番組表を取得して番組の録画予約をすることになり、上記(1)イ (ウ)bのとおり、子機ロクラクにおいて、受信チャンネル番号を各放 送局ごとに入力する必要があると解されるが、そういった作業を利用 者に要請して、上記のような短期間のうちに移動することが可能であ るのかについては、疑問が残るところであり、また、実際にそのよう な要請がされたという事実を認めるに足りる証拠もない。  なお、被告は、取扱業者5者から被告あてに、平成19年4月23 日又は同月24日の時点で、親機ロクラクが静岡県内に存在しないこ とを回答した書面(乙15)を提出するが、これらは、内容が抽象的 で、さほど高い信用性が認められない上、作成者が取扱業者のすべて であるのかも明らかではなく、これらの書面のみから、上記時点で静 岡県内に親機ロクラクが存在しないと認めることはできない。  このようなことからすると、仮に、現在、ホライズン社において、 700台程度のロクラクUのハウジング業務を行っているとしても、 それは、静岡県内から移動されたものであるか否かは明らかでないと いわざるを得ず、静岡県内からの移動についての被告主張は、採用し 難いものであるというべきである(ただし、ホライズン社が700台 程度のロクラクUのハウジング業務を行っているとした場合、それら について、被告が支配し、管理していることを認めるに足りる証拠は ない。)。 d 先行仮処分手続以降の被告の対応  被告は、先行仮処分手続時点から、親機ロクラクの設置や設置場所 について一切関与していない旨主張し、本件モニタ事業実施時の状況 を踏まえ、裁判所又は原告らから、取扱業者が設置場所確保に関与し た場合とそれ以外の場合との割合等も含めた親機ロクラクの設置状況 や、被告事業所内からの移動に関する事実関係を明確にすることを求 められても、上記のとおり回答するほか、被告代表者や取扱業者の作 成に係る、「取扱業者が依頼した人物が引取りに来たので渡した」旨 の、具体的な送り先、台数、業者名等を明らかにしない抽象的な内容 を述べる陳述書(甲39)や、その後の静岡県内からの移動に関する 上記(1)オに示した書面を提出するのみで、被告において実行が可能で あると考えられる客観的な資料の提出を行わない(弁論の全趣旨)。 そして、被告は、被告が上記事実関係を明らかにすることによって、 原告らから、設置場所に関連する者に対し、無用な攻撃、妨害行為、 嫌がらせ等が想定されるから、これを回避すべく、親機ロクラクの設 置場所に一切関知しないという対応を徹底するために、事実関係を明 らかにしない旨を述べる(乙34)。  しかしながら、親機ロクラクが複製(録画)をすることは、上記 (ア)のとおり、本件サービスにおいて重要な意義を有するものであり、 録画の指示が利用者の手元にある子機ロクラクの操作によってされる としても、それを受信し、実際に複製の機能を果たし得るようにする という観点で、親機ロクラクの設置管理は、本件サービスの複製の主 体が誰であるかを法的に検討する上で極めて有力な要素であり、その ことは、先行仮処分決定において示され、当裁判所によっても指摘さ れているところである。しかも、本件サービスに先立つ本件モニタ事 業の実施時には、被告事業所内に親機ロクラクが設置されて被告が管 理していたという事実が認められる以上、被告において、親機ロクラ クの移動及びその後の設置場所について、一定の客観的な資料をもっ て明らかにすべき状況にあることは当然といえる。そして、上記bの とおり、親機ロクラクの設置場所や状況は、被告にとって重大な関心 事項であって、本件サービスにおいても、重要な情報であると位置付 けられているのであるから、被告は、自ら、本件サービス契約時に利 用者から親機ロクラク設置場所の登録を受け、また、取扱業者から事 情を聴取するなどして、それらの事実関係を容易に把握することがで き、また、実際に把握している可能性が高いというべきである。この ような状況にあるにもかかわらず、上記の客観的事実関係を明らかに しようとしない被告の対応は、本件訴訟の当事者として、極めて不相 当なものといわざるを得ない。 e 小括  以上の、被告が主張する事実関係の不自然さや本件訴訟における対 応からすれば、利用者が被告とかかわりなく親機ロクラクを設置して いるような例外的な場合を除いて、被告は、本件サービスにおいて、 親機ロクラクの設置場所の提供に関与し、親機ロクラクの保守、環境 整備等に関して、被告事業所内に親機ロクラクを設置していた場合と 同様に、その管理を継続しているものと考えざるを得ない。そして、 その場所については、上記(1)エ(イ)のとおり、被告が、親機の設置場 所として、東京周辺地区、名古屋周辺地区、静岡西部地区の設定が可 能である旨を説明していることからも、静岡県内及び東京都内のいず れにも存在するというべきである。  そうすると、本件サービスに供されている被告所有の親機ロクラク は、原則として、被告の実質的な支配下にあり、被告は、これらの親 機ロクラクを、本件サービスを利用するための環境の提供を含め、実 質的に管理しているものと解すべきこととなる。 (ウ) 本件サービスにおける親機ロクラクの設置管理方法に関する選択の 仕組み  本件サービスにおいて、利用者による申込みがあり、被告において親 機ロクラクを取扱業者を通じて提供する場所に設置する場合には、10 万円の親機ロクラク保証金が不要となる(弁論の全趣旨)とともに、親 機ロクラクは、利用者の手を介さずに、当該場所に直接送付されること となり、これらの点で、利用者が自ら機器を持ち込む場合と比較して、 本件サービスをより利用しやすいものということができる。特に、利用 者が日本国外において利用の申込みをする場合には、取扱業者を通じて 上記のような手配を行うのであって、その容易さは、購入機器を用いて 同様の機能を利用しようとする場合とは、大きく異なるものである(な お、被告自身も、前記1(1)エ(イ)のとおり、本件サービス開始後少なく とも平成18年4月ころまでの間、親機ロクラク設置場所の賃貸物件の 斡旋を行う取扱業者の広告を、被告サイト内においていたのであり、親 機ロクラクの設置場所を日本国内の自宅とするより管理者のいるアパー ト(設置場所)とすることを推奨していたものといえる。)。  したがって、本件サービスは、日本国外の利用者にとって、自らが親 機ロクラクを設置するよりも、取扱業者を通じて被告の提供する場所に 親機ロクラクを設置させ、被告にそれを管理させるという方法を選択す る方が、有利な点が多くなるような仕組みを採用しているものというべ きである。 (エ) 利用者の録画可能なテレビ番組  上記(1)エ(イ)のとおり、現在の本件サービスにおいて、親機の設置場 所は、東京周辺地区、名古屋周辺地区、静岡西部地区に限定されている が、これは、利用者が親機ロクラクを地域による周波数の相違に対応さ せる作業を行わなくとも、設置場所の地上波アナログ放送を受信できる ように、被告によってあらかじめ親機ロクラクが調整されており、その 場所が上記3地区に限定されているからであると推認される。 (オ) 本件サービスを利用する際の送受信の枠組み 本件サービスを利用する場合には、上記(1)イ(ウ)のとおり、被告にお いて、ロクラクUに親子機能を持たせて利用する場合に、IP アドレス をDHCP によって自動的に取得できる設定とし、また、親機ロクラク に子機ロクラクのID を登録して出荷していることから、利用者は、自 らアドレスの取得手続を経る必要がない。そして、録画予約、データ送 信等に用いられるメール通信のサーバは、被告の管理するメールサーバ であり、本件サービスの利用者が、この利用についての手続を別途とる ことも不要である。なお、メールサーバについては、被告の管理するメ ールサーバのほかに、通信費用などの状況を踏まえて、随時他のメール サーバが利用される場合もあるが、その場合も、利用者が、別途、メー ル機能を利用するための手続をとることは不要である。 (カ) 本件サービスによる利益の帰属  被告は、本件サービスによって、上記(1)エ(ウ)のとおり、「初期登録 料」及び「レンタル料」を取得している。 (キ) まとめ  以上の事情を総合考慮すれば、親機ロクラクは、本件サービスを成り 立たせる重要な意味を有する複製を行う機能を有する機器であるところ、 被告は、日本国外の利用者に日本のテレビ番組の複製物を取得させると いう本件サービスの目的に基づき、当初、親機ロクラクの設置場所を提 供して管理支配することで、日本国外の利用者が格段に利用しやすい仕 組みを構築し、いまだ、大多数の利用者の利用に係る親機ロクラクを、 東京都内や静岡県内において管理支配しているものということができる。 この場合、上記の、本件サービスにおいて親機ロクラクの果たす役割か らすれば、被告は、別紙サービス目録記載の内容のサービス、すなわち、 本件対象サービスを提供しているものということができ、本件番組及び 本件放送に係る音又は影像の複製行為を管理支配していると認めること ができるとともに、それによる利益を得ているものと認められる(なお、 被告は、登録料やレンタル料は、親機ロクラクの管理に係る利益とはい えない旨主張し、親機ロクラクの管理に係る賃料等を取得していない旨 の報告書(乙4)などを提出するところ、上記登録料等は、名目のいか んにかかわらず、被告が本件対象サービスを提供することによって得る 経済的対価であるから、被告は、利益を得ているというべきであり、被 告の主張は採用できない。)。 ウ 結論  以上から、被告は、本件対象サービスを提供し、本件番組及び本件放送 に係る音又は影像の複製行為を行っているというべきであり、原告NHK 及び東京局各社の本件番組についての複製権(著作権法21条)及び原告 らの本件放送に係る音又は影像についての著作隣接権としての複製権(著 作権法98条)を侵害するものといえる。  被告は、本件サービスが、あくまでも利用者個人がその私的使用目的で 賃借したロクラクUを利用する行為であって、その利用に関与するもので はなく、利用者が賃貸機器を利用してテレビ番組を複製する行為の主体は、  利用者本人であり、被告ではあり得ない旨主張する。 しかしながら、被告は、上記判示のとおり、本件対象サービスにおいて、 自らが本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているの であり、このことと、本件サービスの利用者によるテレビ番組の録画が、 私的使用目的で行われるか否か、あるいは、利用者の指示に基づいて複製 されるテレビ番組が選択されるか否かとは、直接関連するものではないか ら、被告の上記主張は、失当といわなければならない。 2 争点2(原告らの損害の有無及びその金額)について (1) 被告の責任  被告は、上記1(2)ウのとおり、本件対象サービスを提供して、本件番組及 び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っていると評価されるものであ り、原告及び東京局各社NHK の複製権(著作権法21条)及び原告らの著 作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものである。そして、 この侵害については、被告に、少なくとも過失があると認められる。  したがって、被告は、これによって原告らに生じた損害を賠償すべき義務 がある。 (2) 逸失利益について ア 著作権法114条2項の適用について(主位的な主張)  原告らは、複製権(著作権法21条)又は著作隣接権としての複製権 (著作権法98条)の侵害による損害について、主位的に、著作権法11 4条2項が適用されるべきであるとして、被告が、平成17年3月10日 から平成19年4月18日まで(著作隣接権としての複製権の侵害につい て)又は平成19年5月及び同年6月の2か月間(著作隣接権としての複 製権の侵害について)、利用者500人から、初期登録料3000円のほ かに、1か月当たり1万0500円の支払を受け、これに対する利益率9 0パーセントの割合による利益を受けていることを前提として、それを基 に計算した被告の利益の額が原告らの損害の額となる旨主張する。  しかしながら、本件対象サービスの利用者が何人存在するのか、その中 に、子機ロクラクを購入し、親機ロクラクのみをレンタルする本件B サ ービスの利用者がどの程度含まれるのか(本件B サービスを利用する場 合、1か月当たりの支払は6500円となる。)、親機ロクラクの管理に ついての対価はいくらか、本件対象サービスにおける被告の利益率がどの 程度かの諸点については、原告の上記主張を裏付ける証拠はなく(上記1 (2)イ(イ)cのとおり、ホライズン社が700台程度のロクラクUのハウジ ング業務を行っているとした場合、それらについて、被告が支配し、管理 していることを認めるに足りる証拠はなく、同台数に対応する利用者が本 件対象サービスの利用者であると認めることはできない。)、被告が本件 サービスによって受けている利益の金額を算定することができない。 そうすると、他の点について検討するまでもなく、著作権法114条2 項を適用して損害を算定することはできないことになる。 イ 著作権法114条3項の適用について(予備的な主張)  そこで、著作権法114条3項により、原告らの損害額を計算すること ができるかが問題となるが、本件対象サービスの利用者数、本件番組又は 本件番組の放送に係る音又は影像の複製回数等の事実関係については、上 記ア同様、何ら立証されておらず、原告らが受けるべき利益の額を算定す ることはできないから、同項により損害の額を算定することもできないと いわざるを得ない。 ウ 著作権法114条の5による損害の算定  被告による本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為により、 原告らに損害が生じていることは認められるところ、上記ア及びイのとお り、本件対象サービスの利用者数、複製回数等の事実関係が立証されてお らず、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性 質上極めて困難であると認められるから、著作権法114条の5により、 口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて、損害額を認定すること が相当である。 (ア) 複製権(著作権法21条)の侵害について a 本件番組の複製権(著作権法21条)の侵害に係る損害を検討する 上で考慮され得る事情として、以下のような事実が認められる。 (a) 本件番組の、平成16年1月1日から平成19年4月18日まで (本件番組3については平成20年3月31日まで)の平均視聴率 は、本件番組1が10.0パーセント、本件番組2が0.7パーセ ント、本件番組3が15.9パーセント、本件番組4が16.0パ ーセント、本件番組5が7.4パーセント、本件番組6が13.2 パーセント、本件番組7が8.6パーセントである(甲41〜4 6)。 (b) 東京局各社は、番組をインターネットを通じて配信しているが、 視聴が有償である場合があり、その際の料金として、1話につき1 05円ないし1050円のものがある(甲48の2〜48の4、5 0の2〜50の4、52の2、52の3、54、56の2、56の 3、なお、これらの配信を受ける場合、各番組ごとに、視聴可能時 間が設定されており、その時間内で何回でも視聴できる仕組となっ ている。)。 (c) 本件番組の、平成16年1月1日から平成19年4月18日まで (本件番組3については平成20年3月31日まで)の放送回数は、 本件番組1が161回、本件番組2が488回、本件番組3が14 3回、本件番組4が163回、本件番組5が166回、本件番組6 が146回、本件番組7が139回である(甲41〜46)。 (d) 上記1(1)オ(ウ)のとおり、ホライズン社は、ロクラクU700台 程度についてハウジング業務を行っている旨回答している。 b 以上の事情を踏まえ、本件の一切の事情も総合考慮し、本件対象サ ービス開始後の平成17年4月から平成19年4月18日まで(本件 番組3については平成20年3月31日まで)の損害として、以下の 金額を認めるのが相当である。  本件番組1 5万円  本件番組2 1万円  本件番組3 8万円  本件番組4 8万円  本件番組5 4万円  本件番組6 6万円  本件番組7 4万円 (イ) 著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害について a 本件放送に係る音又は影像についての複製権(著作権法98条)の 侵害に係る損害を検討する上で考慮され得る事情として、上記(ア)a に掲げたもののほか、テレビの視聴時間に関して、株式会社ビデオリ サーチ作成による「テレビ視聴率・広告の動向テレビ調査白書20 06」(甲40)では、1日1世帯当たり視聴時間として、2006 年度の平日平均が7時間41分、土曜日が8時間05分、日曜日が8 時間43分、週平均が7時間54分と報告されていること、他方、 レコーダー保有者HDD を対象とした調査において、1週間にテレビ をリアルタイムで見る時間が平均18.0時間、録画番組を見る時間 は7.5時間であったとの報告もある(乙31)ことがあげられる。 b 以上の事情も踏まえ、本件の一切の事情を総合考慮し、著作隣接権 としての複製権(著作権法98条)の損害として、以下の金額を認め るのが相当である。  原告NHK 200万円  東京局各社各20万円  静岡局各社各80万円 エ 小括  したがって、原告らの逸失利益の額は、以下のとおりであり、被告は、 以下の金額について、それぞれ、賠償する義務を負う。  原告NHK 206万円(5 万円+ 1 万円+ 200 万円)  原告日本テレビ28万円(8 万円+ 20 万円)  原告TBS 28万円(8 万円+ 20 万円)  原告フジテレビ24万円(4 万円+ 20 万円)  原告テレビ朝日26万円(6 万円+ 20 万円)  原告テレビ東京24万円(4 万円+ 20 万円)  原告静岡第一テレビ80万円  原告SBS 80万円  原告テレビ静岡80万円  原告あさひテレビ80万円 (3) 弁護士費用  原告らが、本件訴訟の提起及び追行を、原告らの代理人に委任したことは 当裁判所に顕著であり、本件での逸失利益額、事案の難易度、審理の内容等 本件の一切の事情を考慮し、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費 用としては、原告NHK について20万円(複製権(著作権法21条)の侵 害について1万円、著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害に ついて19万円)、東京局各社について各5万円(複製権(著作権法21 条)の侵害について1万円、著作隣接権としての複製権(著作権法98条) の侵害について4万円)、静岡局各社について各8万円と認めるのが相当で ある。 (4) まとめ  以上から、被告は、以下の金額について、それぞれ賠償する義務を負う。  原告NHK 226万円(206 万円+ 20 万円)  原告日本テレビ33万円(28 万円+ 5 万円)  原告TBS 33万円(28 万円+ 5 万円)  原告フジテレビ29万円(24 万円+ 5 万円)  原告テレビ朝日31万円(26 万円+ 5 万円)  原告テレビ東京29万円(24 万円+ 5 万円)  原告静岡第一テレビ88万円(80 万円+ 8 万円)  原告SBS 88万円(80 万円+ 8 万円)  原告テレビ静岡88万円(80 万円+ 8 万円)  原告あさひテレビ88万円(80 万円+ 8 万円) 3 争点3(原告らの請求は権利の濫用といえるか)について  被告は、原告らの本件請求は権利の濫用に当たる旨主張するが、上記1及び 2において認定したところによれば、本件請求が権利を濫用するものであると いうことはできないし、他に、これを認めるに足りる証拠はない。 したがって、上記被告の主張は認められない。 第4 結論  以上の次第で、@原告NHK 及び東京局各社の、本件番組を複製の対象とす ることの差止めの請求(なお、本件番組3を除く本件番組については、現在、 複製することができない措置がとられているが、同措置は暫定的なものである から、侵害のおそれがあると認められる。)、A原告らの、本件放送に係る音 又は影像を録音又は録画の対象とすることの差止め及び本件対象サービスに供 されているロクラクUの親機の廃棄の請求、B原告らの、複製権の侵害による 損害(弁護士費用を含む。)の賠償及び本訴状送達の日の翌日である平成19 年8月4日から、各支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損 害金の支払の請求のうち、主文記載の限度において(原告日本テレビの複製権 (著作権法21条)の侵害による損害並びに原告NHK 及び東京局各社の著作 隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害(弁護士費用を含 む。)については、損害の算定期間経過後である平成20年4月1日が遅延損 害金の起算点となる。)、それぞれ理由があるからこれらを認容することとし、 その余は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 清水 節    裁判官 國分 隆文 裁判官山田真紀は、転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 清水 節 (別紙)サービス目録  被告の製造に係るハードディスクレコーダー「ロクラクU」の親機を日本国 内の保管場所に設置し、同所で受信するテレビ放送の放送波を同親機に入力す るとともに、同親機に対応する子機を利用者に貸与又は譲渡することにより、 当該利用者をして、日本国内で放送される放送番組の複製及び視聴を可能なら しめるサービス