・東京地判平成20年6月11日  「激数占い」事件:第一審  本件は、原告書籍『数霊占術講義(1)入門初級編(改訂版)』(数霊占術学会)の著者で あり未来予知学研究家と称する原告(田上晃彩)(http://www.miraisouken.jp/)(「数 霊」=かずたま)が、被告ら(泉谷綾子、講談社、テレビ朝日)に対し、被告書籍1『運 命の激数占い』(講談社)および被告書籍2『激数占い』(テレビ朝日コンテンツ事業部) が、原告の著作権(複製権、翻案権)等を侵害すると主張して、差止および損害賠償等を 請求した事案である。  判決は、類似性を否定して原告の請求を棄却した。 (控訴審:知財高判平成20年11月27日) ■争 点 (1) 争点1 複製権又は翻案権の侵害の有無及び同一性保持権の侵害の有無  ア 実質的同一等  イ 依拠 (2) 争点2 故意又は過失 (3) 争点3 損害の有無及び額 (4) 争点4 謝罪広告の必要性 ■判決文 第3 当裁判所の判断 1 複製、翻案等  著作権法は、思想又は感情の創作的な「表現」を保護するものである(著作権法 2条1項1号)。したがって、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、 感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体ではない部分又は表現 上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合に は、複製にも翻案にも当たらない(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決民 集55巻4号837頁参照)。また、上記の複製にも翻案にも当たらない著作物は、 同一性保持権を侵害するものでもない。 2 原告書籍と被告書籍1との実質的同一性について (1) 旧暦に基づく算出 ア 前提事実(2)イ(ア)によれば、被告書籍1の1は、原告書籍1と表現において 全く異なっていると認められ、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいず れにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、「旧暦に従って、毎年の立春から翌年の節分ま でを1年として区分する」という「アイデア」における同一性を指摘するものにす ぎず、到底採用することができない。 (2) 「命数」の出し方 ア 前提事実(2)イ(イ)によれば、被告書籍1の2は、原告書籍2と表現におい て全く異なっていると認められ、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のい ずれにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、生年月日を構成する数字を順次加算し、1桁の 数字になるまで繰り返すという「アイデア」における同一性を指摘するものにすぎ ず、到底採用することができない。 (3) 具体例 ア 前提事実(2)イ(ウ)によれば、被告書籍1の3は、足し算の数式の部分で同 一性を有すると認められないではないが、その部分は創作性のない部分であると認 められる。その余の部分では、被告書籍1の3は、原告書籍3と表現において全く 異なっていると認められる。よって、被告書籍1の3は、複製権侵害、翻案権侵害、 同一性保持権侵害のいずれにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、「命数」の出し方という「アイデア」における 同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。 (4) 「数霊盤」の数の展開 ア 前提事実(2)イ(エ)によれば、被告書籍1の4は、原告書籍4と表現におい て全く異なっていると認められるから、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵 害のいずれにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、「数霊盤」の数の展開という「アイデア」にお ける同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。 (5) 「破壊数」の説明 ア 前提事実(2)イ(オ)によれば、被告書籍1の5は、原告書籍5と表現におい て全く異なっていると認められるから、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵 害のいずれにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、「破壊数」の概念という「アイデア」における 同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。 (6) 数字の印の付け方 ア 前提事実(2)イ(カ)によれば、被告書籍1の6は、破壊数の記号等の部分で、 原告書籍6と同一性を有すると認められないではないが、印の付け方として、○や ×を採用し、殊に悪いものに×を付することはありふれた表現であると認められる から、上記の箇所での同一性は、創作性のない部分におけるものであると認められ る。その余の部分では、被告書籍1の6は、原告書籍6と表現において全く異なっ ていると認められる。よって、被告書籍1の6は、複製権侵害、翻案権侵害、同一 性保持権侵害のいずれにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、×の使用等の創作性のない部分での同一性を指 摘するものにすぎず、到底採用することができない。 (7) 数霊簡易暦 ア 前提事実(2)イ(キ)によれば、被告書籍1の7は、「節入(日)」、「(生)月数 理」、月ごとの「破壊数」の部分で、原告書籍7と同一性を有すると認められるが、 占いの方法として旧暦を採用すれば、「節入(日)」が同一となるのは当然の結果で あるし、占いの方法として原告と同じ方法を採用すれば、「(生)月数理」、月ごと の「破壊数」の部分で同一となるのは当然の結果であるから、これらの部分での同 一性は、「アイデア」などの表現それ自体ではない部分での同一性にすぎないと認 められる。  また、月ごとの「破壊数」等を表形式で、時系列に記載することは、ありふれた 表現であると認められる。しかも、被告書籍1の7は、各年を旧暦では前年に属す る1月を除外して2月から開始し、原告書籍7には存在する「十二支」や年ごとの 破壊数等を有しないなどの点で、原告書籍7と異なっていると認められる。 よって、被告書籍1の7は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいず れにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、到底採用することができない。 (8) 破壊数一覧表 ア 前提事実(2)イ(ク)によれば、月ごとの「破壊数」等を表形式で、時系列に 記載することは、ありふれた表現であると認められるから、表形式の採用の点で、 被告書籍1の8が原告書籍8と同一であると認めることはできない。その余の部分 では、被告書籍1の8は、原告書籍8とは、内容においても表現においても全く異 なっている。  よって、被告書籍1の8は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいず れにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、到底採用することができない。 (9) 数霊盤 ア 前提事実(2)イ(ケ)によれば、原告書籍9と被告書籍1の9とは、正方形を 9等分したマス目に1〜9の数字の配列順序を記入したものである点で共通すると 認められるが、原告が主張するとおり、原告書籍9は、1〜9までのすべての数を 数霊理論で展開したときに各場にどのような数が配置されるかを表した別紙Eの複 数枚の図(6図。原告書籍36頁)を統一的に表したものであり、原告の数霊に関す る思想と計算方法をマス目にアルファベットと数字を配置することによって視覚的 に表現したものであるとすると、このような思想を分かりやすく説明するために他 に様々な表現方法があるとは認められないから、被告書籍1の9における9つに区 分した正方形のマス目の部分は、表現上の創作性のない部分において、原告書籍9 と同一であるにすぎないと認められる。  その余の部分においては、被告書籍1の9は、例示された数字が異なり、数字を 配列する順序を黒丸数字で示している点で、原告書籍9とは異なっている。 よって、被告書籍1の9は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいず れにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、到底採用することができない。 (10) まとめ  以上のとおり、被告書籍1の1ないし9は、原告書籍の複製ないし翻案であると はいえないし、その同一性保持権を侵害するものでもない。  よって、原告書籍の複製権又は翻案権に基づく被告書籍1の販売等の差止請求等、 上記複製権又は翻案権侵害を理由とする損害賠償請求、並びに同一性保持権侵害を 理由とする謝罪広告の掲載請求は、その余の点について判断するまでもなく、いず れも理由がない。 3 原告書籍と被告書籍2との実質的同一性について (1) 旧暦に基づく算出 ア 前提事実(2)ウ(ア)によれば、被告書籍2の1は、原告書籍1と表現におい て全く異なっていると認められ、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のい ずれにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は「、 旧暦に従って、毎年の立春から翌年の節分ま でを1年として区分する」という「アイデア」における同一性を指摘するものにす ぎず、到底採用することができない。 (2) 「破壊数」の説明 ア 前提事実(2)ウ(イ)によれば、被告書籍2の5は、原告書籍5と表現におい て全く異なっていると認められるから、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵 害のいずれにも当たらない。 イ これに反する原告の主張は、「破壊数」の概念という「アイデア」における 同一性を指摘するものにすぎず、到底採用することができない。 (3) 破壊数一覧表 ア 前提事実(2)ウ(ウ)によれば、占いの方法として原告と同じ方法を採用すれ ば、「破壊数」の部分で同一となるのは当然の結果であるから、これらの部分での 同一性は、「アイデア」などの表現それ自体ではない部分での同一性にすぎないと 認められる。  年ごとの「破壊数」等を表形式で、時系列に記載することは、ありふれた表現で あると認められるから、表形式の採用の点で、被告書籍2の8が原告書籍8と同一 であると認めることはできない。 その余の部分では、被告書籍2の8は、昭和又は平成による年を併記せず、年齢 を併記している点で、原告書籍8とは内容においても表現においても異なっている と認められる。  よって、被告書籍2の8は、複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害のいず れにも当たらない。 イこれに反する原告の主張は、到底採用することができない。 (4) まとめ  以上のとおり、被告書籍2の1、5及び8は、原告書籍の複製ないし翻案である とはいえないし、その同一性保持権を侵害するものでもない。 よって、原告書籍の複製権又は翻案権に基づく被告書籍2の販売等の差止請求等、 上記複製権又は翻案権侵害を理由とする損害賠償請求、並びに同一性保持権侵害を 理由とする謝罪広告の掲載請求は、その余の点について判断するまでもなく、いず れも理由がない。 4 結論  よって、原告の請求はいずれも理由がないから、棄却することとし、主文のとお り判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 市川 正巳    裁判官 大竹 優子    裁判官 中村 恭