・東京地判平成20年7月4日  ピンク・レディーdeダイエット事件  本件は、女性デュオ「ピンク・レディー」を構成していた原告ら(ミー〔現:未唯、本 名:根本美鶴代〕、ケイ〔現:増田惠子、本名:桑木啓子〕)が、原告らの写真を無断で 使用した記事を女性週刊誌(「女性自身」平成19年2月27日号)に掲載した被告(株 式会社光文社)に対し、不法行為(パブリシティ権侵害。民法715条)に基づいて、損 害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。  被告は、本件雑誌の表紙に「まえけん解説!ストレス発散“ヤセる”5曲」「『ピンク ・レディー』ダイエット」の見出しを載せた上で、16頁から18頁までの3頁において、 ピンク・レディーの代表的楽曲である「渚のシンドバッド」「ウォンテッド」「ペッパー 警部」「UFO」「カルメン’77」の5つの楽曲における振り付けを利用したダイエッ トに関する「ピンク・レディーdeダイエット」と題する本件記事を、原告ら両名が写っ ている写真14枚を使用して掲載した。  判決は、本件写真「の使用により、必然的に原告らの顧客吸引力が本件記事に反映する ことがあったとしても、それらの使用が原告らの顧客吸引力に着目し、専らその利用を目 的としたものと認めることはできない」として、原告の請求を棄却した。 ■争 点 (1) パブリシティ権侵害の有無 (2) 故意過失 (3) 損害 ■判決文 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(パブリシティ権侵害の有無)について (1) パブリシティ権について ア 人は、著名人であるか否かにかかわらず、人格権の一部として、自己の氏 名、肖像を他人に冒用されない権利を有する。人の氏名や肖像は、商品の販売にお いて有益な効果、すなわち顧客吸引力を有し、財産的価値を有することがある。こ のことは、芸能人等の著名人の場合に顕著である。この財産的価値を冒用されない 権利は、パブリシティ権と呼ばれることがある。  他方、芸能人等の仕事を選択した者は、芸能人等としての活動やそれに関連する 事項が大衆の正当な関心事となり、雑誌、新聞、テレビ等のマスメディアによって 批判、論評、紹介等の対象となることや、そのような紹介記事等の一部として自ら の写真が掲載されること自体は容認せざるを得ない立場にある。そして、そのよう な紹介記事等に、必然的に当該芸能人等の顧客吸引力が反映することがあるが、そ れらの影響を紹介記事等から遮断することは困難であることがある。  以上の点を考慮すると、芸能人等の氏名、肖像の使用行為がそのパブリシティ権 を侵害する不法行為を構成するか否かは、その使用行為の目的、方法及び態様を全 体的かつ客観的に考察して、その使用行為が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し、 専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって判断すべきである。 イ なお、原告らも被告も、通常モデル料が支払われるべき週刊誌等における グラビア写真としての利用と同視できる程度のものか否かの基準に言及するが、こ の基準ないし説明は、東京地裁平成16年7月14日判決(判例タイムズ1180 号232頁〔ブブカアイドル第一次事件〕)の事実関係の下では適切なものである としても、他の事実関係の事件にそのまま適用することができるものではないこと に注意を要する。 (2) 本件写真1ないし7について  本件雑誌及びその表紙の態様(前提事実(2))、本件記事及び本件写真の掲載態 様(前提事実(3))、本件記事掲載の経緯(前提事実(4))及び本件雑誌の宣伝広告 状況(前提事実(5))によれば、@ピンク・レディーが歌唱し演じた楽曲の振り付 けを利用してダイエットを行うという女性雑誌中の記事において、その振り付けの 説明の一部又は読者に振り付け等を思い出させる一助として、本件写真1ないし5 及び7を使用し、さらに、ダイエットの目標を実感させるために、本件写真6を使 用したものであり、A使用の程度は、1楽曲につき1枚のさほど大きくはない白黒 写真であり、BCの実演写真、Cのひとことアドバイス、4コマの図解解説など振 り付けを実質的に説明する部分が各楽曲の説明の約3分の2を占め、本件写真2な いし5及び7は、各楽曲についての誌面の3分の1程度にとどまり、Cその宣伝広 告や表紙の見出しや目次においても、殊更原告らの肖像を強調しているものではな い。  したがって、本件写真1ないし7の使用により、必然的に原告らの顧客吸引力が 本件記事に反映することがあったとしても、それらの使用が原告らの顧客吸引力に 着目し、専らその利用を目的としたものと認めることはできない。 (3) 本件写真8ないし14について  本件雑誌及びその表紙の態様(前提事実(2))、本件記事及び本件写真の掲載態 様(前提事実(3))、本件記事掲載の経緯(前提事実(4))及び本件雑誌の宣伝広告 状況(前提事実(5))によれば、@本件写真8ないし14を使用した記事は、ピン ク・レディーが歌唱し演じた楽曲の振り付けを利用してダイエットを行うという記 事に付随して、現在も芸能活動を続ける原告らの過去の芸能活動を紹介する記事で あり、A誌面1頁の約3分の1の中に、原告らが撮影されたさほど大きくはない白 黒写真7枚を掲載し、Bその宣伝広告や表紙の見出し及び目次においても、殊更原 告らの肖像を強調しているものではない。  したがって、本件写真8ないし14の使用により、必然的に原告らの顧客吸引力 が本件記事に反映することがあったとしても、それらの使用が原告らの顧客吸引力 に着目し、専らその利用を目的としたものと認めることはできない。 2 結論  よって、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理 由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61 条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 市川 正巳    裁判官 中村 恭    裁判官 宮崎 雅子