・東京地判平成21年2月27日  特高警察関係資料集成事件  被告不二出版は、公文書等の歴史資料を復刻した書籍として、『特高警察関係資料集成』 (編・解題者:荻野富士夫)、『百五人事件資料集』(解説者:姜在彦(総説)、北博昭 (解題))、『高等外事月報(十五年戦争極秘資料集第6集)』(編・解説者:宮田節子)、 『思想彙報(十五年戦争極秘資料集第14集)』(編・解説者:吉田裕)、『朝鮮軍概要 史(十五年戦争極秘資料集第15集)』(編・解説者:宮田節子)、『朝鮮思想運動概況』 (編・解説者:宮田節子)を発行した(被告書籍)。被告不二出版は、被告書籍について、 その編著者から、著作権(編集著作権も含む。)の譲渡を受けた。  他方、韓国に所在する出版社韓国高麗書林(被告Aの実兄Fが同社の代表者を務めてい た)が、被告書籍の全版面を複写して製作された書籍を発行した(韓国書籍)。  原告高麗書林は、韓国書籍を韓国統計書籍センターから購入して日本国内に輸入し、日 本国内の大学図書館などに販売した。  そこで、被告代表者Dおよび被告Bは、弁護士会館において記者会見を行い、報道関係 者等に対し、韓国「特高警察関係資料集成」は、被告不二出版が被告「特高警察関係資料 集成」につき有する編集著作権を侵害するものであり、それを知りながら販売している原 告高麗書林も被告不二出版の編集著作権を侵害している旨、および原告高麗書林の著作権 侵害について、被告A及び原告代表者Cを著作権法違反で告訴する旨の発言するなどした。  そこで、原告高麗書林は、後記本件発言および本件ファックス送信が名誉および信用毀 損の不法行為を構成すると主張して、被告不二出版(民法709条、会社法350条)お よびその刑事告訴を代理した弁護士である被告B(民法709条)に対し、謝罪広告の掲 載ならびに損害賠償を求めた(以上、第1事件)。  他方、被告不二出版は、主位的に、著作権侵害(複製権侵害の共謀または幇助、著作権 法113条1項2号)の不法行為に基づいて、原告高麗書林設立時からその代表取締役を 務めていた被告A(民法709条、719条)および原告高麗書林(民法709条、71 9条、会社法350条)に対し、損害賠償を求めると共に、予備的に、いわゆる「版面権」 侵害の不法行為に基づいて、被告Aおよび原告高麗書林に対し、損害賠償を求めた(以上、 第2事件)。  判決は、第1事件について「本件発言及び本件ファックス送信は、公共の利害に関する 事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図るためにしたものと認められ、その摘示事実 の重要な部分は真実であることの証明があった」として、名誉毀損を認めなかったが、第 2事件については、「被告A又は原告代表者Cは、被告『特高警察関係資料集成』に係る 荻野富士夫の著作権(編集著作権を含む。)並びにその余の被告書籍に係る宮田節子らの 各解説及び解題に係る著作権を侵害したものであるから(著作権法113条1項2号)」 として、被告不二出版の損害賠償請求を一部認容した。 ■争 点 (1)告訴状「受理」の摘示の有無 (2)真実性の抗弁 ア 編集著作物性(〔1〕−ア事実) イ 編集著作権の帰属(〔2〕事実) ウ 原告高麗書林の知情(〔1〕−イ事実) (3)第1事件に係る損害 (4)謝罪広告の必要性 (5)著作権侵害行為その1(共謀又は幇助) ア 編集著作物性 イ 編集著作権の帰属 ウ 侵害行為 (6)著作権侵害行為その2(著作権法113条1項2号) (7)一般不法行為(版面権侵害) (8)時効消滅 (9)第2事件に係る損害(著作権法114条2項) ■判決文 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(告訴状「受理」の摘示の有無)について <中略> 2 争点(2)ア(真実性の抗弁−編集著作物性)について (1)事実認定  被告「特高警察関係資料集成」の内容は、次のようなものであると認められる。 ア 編集態様 〔1〕米軍没収資料及び返還文書、旧陸海軍文書等を中心に、一般に公開されている関係 資料を調査し、府県警察等を含めて特高警察に関係する資料を広く所収しようとしている。 〔2〕これまでほとんど知られていなかった資料群、例えば米騒動関係、1920年代の 社会運動資料、3・15事件関係などを数多く含ませようとしている。 〔3〕資料を「共産主義運動」「無産政党運動」「労働運動」「農民運動」「水平運動」 「在日朝鮮人運動」「国家主義運動」「外事警察関係」「出版警察関係」等の12の分野 に分けて、それぞれの分野の中ではおおむね編年順に配列し、特高警察体制の全体像を提 示しようとしている。 〔4〕既刊の「社会運動の状況」のような整理された資料群と異なり、抑圧、取締りの第 一線の現場に近い資料群を数多く含ませ、その実態をなるべくリアルに伝えようとしてい る。 〔5〕外事警察や出版警察、在日朝鮮人運動の抑圧、取締関係などにおいては、従来公刊 されてきた復刻版、諸資料の欠落を補完し、それぞれの全貌の理解を可能にしようとして いる。 イ 構成 (ア)第1巻〜第6巻  第1巻〜第6巻は、「共産主義運動(国内・国外)」とのテーマに従って、「特別要視 察人近況概要」「北海道ニ於ケル日本共産党事件顛末」「在米国邦人社会主義者ノ状況」 など警保局、警視庁、北海道庁、大阪府、埼玉県、兵庫県、長野県、外務省が作成した文 書を、時系列に従って所収しているが、第6巻は、海外関係のものを集めて、時系列に従 って所収している。 (イ)第7巻及び第8巻  第7巻及び第8巻は、「無産政党運動」とのテーマに従って、「無産政党組織運動ノ顛 末」「戦後無産政党関係申報(新潟県)」など警保局、内務省、警視庁、北海道庁、埼玉 県、新潟県が作成した文書を、時系列に従って所収している。 (ウ)第9巻  第9巻は、「労働運動」とのテーマに従って、「労働争議概況」「本道ニ於ケル左翼労 働組合運動沿革史」など警保局、警視庁、司法省、北海道庁が作成した文書を、時系列に 従って所収している。 (エ)第10巻及び第11巻  第10巻及び第11巻は、「農民運動」とのテーマに従って、「農業争議概況」「宮城 県桃生郡前谷地村小作争議ノ概況」など警保局、岐阜県警察部、香川県の作成した文書を、 時系列に従って所収している。 (オ)第12巻  第12巻は、「水平運動・在日朝鮮人運動」とのテーマに従って、「差別撤廃運動状況」 「義烈団一派ノ兇暴計画概要」など警保局、奈良県、京都府の作成した文書を、最初に 「水平運動」関係文書を、その後に「在日朝鮮人運動」関係文書を、それぞれ時系列に従 って所収している。 (カ)第13巻及び第14巻  第13巻及び第14巻は、「国家主義運動」とのテーマに従って、「最近ニ於ケル国家 主義運動情勢ニ関スル件」「血盟団・兵農決死隊事件ノ概要」など警保局、警視庁、神奈 川県、大阪府の作成した文書を、時系列に従って所収している。 (キ)第15巻〜第17巻  第15巻〜第17巻は、「外事警察関係」とのテーマに従って、「外国人取締概況」 「中国共産党日本特別支部検挙事件」など警保局、福井県、神奈川県の作成した文書を、 時系列に従って所収している。 (ク)第18巻  第18巻は、「出版警察関係」とのテーマに従って、「自大正六年一月至大正八年四月 禁止新聞紙出版物ニ現ハレタル記事ノ概要」「各種社会運動機関紙調」など警保局、情報 局、警視庁の作成した文書を、時系列に従って所収している。 (ケ)第19巻及び第20巻  第19巻及び第20巻は、「特高関係重要資料」とのテーマに従って、「大正二年騒擾 事件記録」「特高課事務概要」「社会運動団体現勢調」「非常時と思想対策」「長野県社 会運動史」など警視庁、警保局、個人、宮崎県特高課、鹿児島県特高課、長野県特高課、 神奈川県特高課、北海道庁、長野県警察部、奈良県警察部、大阪府警察部、京都府警察部 の作成した文書を、更に分類した文書の内容に従って、時系列に従って所収している。 (コ)第22巻〜第24巻  第22巻〜第24巻は、「特高関係例規類」とのテーマに従って、「国事警察編」「例 規(通牒)」「出版警察執務心得ほか」「高等警察例規集」など警視庁、警保局、山形県 警察部、岩手県高等課、大阪府警察部、北海道庁、山形県特高課の作成した文書を、更に 分類した文書の内容に従って、時系列に従って所収している。  (サ)第25巻及び第26巻  第25巻及び第26巻は、「特高関係各種会議」とのテーマに従って、「警察部長事務 打合会ニ於ケル指示事項説明資料」「茨城県署長・特高主任会議関係書類」「司法主任特 高主任会議席上訓示指示及講演」「道警察部長会議諮問事項」など警保局、茨城県警察部 ・水戸地裁検事局、司法省刑事局、東京地裁検事局、岡山県、朝鮮総督府、北支警務部、 在上海大使館中支警務部作成の文書を、更に分類した文書の内容に従って、時系列に従っ て所収している。 (シ)第27巻〜第30巻  第27巻〜第30巻は、「特高関係逐次刊行物」とのテーマに従って、「普通選挙促進 運動概況」「労働彙報」「反美濃部運動ノ概況」など警保局、社会局、警視庁、大阪府、 中支警務部、上海総領事館警察署が発行した月報、半年報等の刊行物を、各刊行物ごとに、 時系列に従って所収している。 ウ 原資料について  戦前に各種運動を監視し、取り締まろうとした特高警察又はこれに関連する資料は、膨 大な量が存するが、これら活動は秘密裏にされることを特質とし、戦前には公開されず、 その一方、戦後に処分がされてしまったため、資料は内外各地に散逸してしまっている。 (以上につき、乙4、37、38、52〜64、被告代表者D) (2)判断 ア 上記認定の事実によれば、被告「特高警察関係資料集成」は、特定の官署部局が作成 した文書などその範囲が一義的に定まる資料を単に時系列に従って並べて復刻したという ものではなく、様々な官署部局が作成した文書を、なるべくこれまで知られていなかった り公刊されていなかった文書、なるべく個々の運動、事件に関する直接的な記述があるも のという一定の視点から選択し、これを運動分野又は文書の種類別に配列したものである から、全体として、素材たる原資料の「選択」及び「配列」に編者の個性の発露がみられ る。したがって、被告「特高警察関係資料集成」は、編集著作物というべきである。  これに反する原告高麗書林の主張は、採用することができない。 イ 韓国「特高警察関係資料集成」は、被告「特高警察関係資料集成」全体ではなく、そ の一部である10巻から24巻のみを複製したものであるが、その分量及び複写対象巻か らみて、それらの部分のみの複製であっても、被告「特高警察関係資料集成」の編集著作 物としての創作性を再現しているものと認められる。 3 争点(2)イ(真実性の抗弁−編集著作権の帰属)について (1)著作者表示  被告「特高警察関係資料集成」には、編・解題者として、荻野富士夫が表示されている (前提事実(2)ア〔1〕)。他に著作者表示とみるべき記載はないから、同書籍の編集 著作者は荻野富士夫のみであると推定される(著作権法14条)。 (2)編集制作過程についての事実認定  これに対し、次の事実が認められる。 ア 被告「特高警察関係資料集成」の編集制作過程  昭和60年ころ、Dは、近代日本の治安体制などの日本近代史を研究している小樽商科 大学助教授(当時)荻野富士夫から、特高警察に関する資料を出版したいとの提案を受け、 その準備に取りかかった。  内務省警保局が作成、刊行した資料の数は膨大であり、しかも、「特高警察月報」「社 会運動の概況」など特高警察に関する資料は既に数多く復刻出版されていたことから、D は、荻野との間で、資料収集に当たっての方針を協議して、府県警察に関するものも含め て特高警察に関係する資料を広く掲載する、既に復刻出版されているものは復刻の対象か ら外す、その反面、従来公刊されている復刻資料集の欠落を補うようにし、また、取締り の第一線の現場の手書きの資料などをなるべく多く掲載するなどの方針を合意した。  その後、D及び被告不二出版の従業員は、約4年をかけて、荻野富士夫からの指示、助 言等を受けながら、全国の大学図書館などに足を運び、図書カードを調べたり、マイクロ フィルムの調査を続けるなどして、掲載すべき資料の収集、分類などの作業を行った。新 資料、同種内容の資料などが見つかる都度、Dは、荻野富士夫との間で、なるべく現場に 近いものを掲載するとの方針や掲載すべき資料が適切な量になるようにすることを考慮し ながら協議し、掲載すべき資料の入れ替えや追加を決定した。この結果、収集された資料 には、「社会運動の状況大正15年・昭和2年版」「外事警察報」などの別な企画に使用 されたものや、「朝鮮人概況」「高等警察概況」など全く使用されなかったものも生じた。 また、収集された資料は、運動分野など12の体系に従って分類されていった。  この資料の選択、分類等の作業は、おおむね研究者である荻野富士夫の意見が採り入れ られたものであり、特に12の分野に分けることは、専ら荻野の発案によるものであった が、掲載する資料の選択については、Dの出版業者の立場からの意見が取入れられたこと もあった。  このような作業を踏まえて、荻野富士夫は、Dと協議して、平成3年3月11日、前記 2(1)アに記載の内容の掲載すべき資料及びその分類方法を最終的に決定した。 (乙3の1・2、65、被告代表者D、弁論の全趣旨) イ 荻野富士夫の認識  荻野富士夫は、被告不二出版に対し、平成19年11月26日、被告「特高警察関係資 料集成」に係る荻野富士夫の編集著作権及び解題の著作権を譲渡しているが(前提事実 (2)オ(ア))、その著作権譲渡契約書(乙32)は、「1 甲〔注荻野富士夫〕と乙 〔注被告不二出版〕とは、本出版物〔被告「特高警察関係資料集成」〕につき、甲乙両名 が共同して編集著作権を有することを確認する。」と定めており、荻野富士夫は、被告不 二出版が編集著作権者の一人であることを認めている。 (乙32) ウ 被告不二出版の経歴  被告不二出版は、昭和37年に設立された書籍の出版、販売を主たる目的とする株式会 社であり、昭和56年4月以降、歴史資料の復刻出版を行っており、その総数は約480 0点に及んでいる。 (乙19〜22、65、被告代表者D、弁論の全趣旨) (3)検討 ア 上記(2)で認定した事実によると、被告「特高警察関係資料集成」の編集において、 素材の収集においては、Dは、被告不二出版の従業員と共に奔走したものであるが、〔1〕 編集対象である素材を12の分野別に分け、なるべく現場に近いものを掲載するなどの方 針の決定においては、研究者である荻野富士夫がその方針の大部分を決定したこと、〔2〕 船橋がこれについてある程度の提案をしたことがあっても、それは同書籍の全体量が適切 なものになるようにとの出版業者の立場からの提案であったり、内容にわたる場合も、最 終的には荻野富士夫の同意を得て取り入れられたと認められること、〔3〕荻野富士夫の 共同編集著作の自認(乙32)は、第1事件が提起された後のものであり、かつ、その内 容も抽象的であることからすると、Dの寄与は、飽くまで補助者としての立場からのもの ではないかとの疑問が残り、上記推定を覆すに足りる立証はないといわなければならない。  したがって、被告不二出版が被告「特高警察関係資料集成」につき編集著作権を有し、 告訴権を有する事実(〔2〕事実)が真実であることの立証はない。 イ なお、上記(2)及び(3)アで認定した事実に、本件で問題となっている被告「特 高警察関係資料集成」は、公文書を復刻したものであり、小説や絵画の著作の場合とは異 なり、出版社の編集者がそのような復刻版の編集著作に貢献することができる範囲が広い と考えられることを併せ考慮すると、D及び被告Bが、Dが被告「特高警察関係資料集成」 の共同著作者であると信じたことに、相当の理由があると認められる。 4 争点(2)ウ(真実性の抗弁−原告高麗書林の知情)について <中略> (3)判断 ア 情を知っての販売  以上の事実によれば、被告A及び原告代表者Cは、韓国「特高警察関係資料集成」が被 告「特高警察関係資料集成」の無断複製物であることを知りながら、これを販売したもの と認めるべきである(著作権法113条1項2号)。  これに反する被告Aの供述等は、〔1〕我が国で出版されている専門書と同名で、しか も日本語で解説、解題等が記載された書籍が韓国でも出版されていれば、書籍の輸入販売 業者としては、その同一性の有無及び複製についての許諾の有無を確認することが通常で あると解されるし、そのように行動することは、日本の「朝鮮史研究会」の会員であり、 日本の近現代史の資料等につき相当程度の知識を有している被告Aにとって、極めて容易 なことであること、〔2〕無断複製物の輸入がごくわずかであれば、原告高麗書林の主張 も採用する余地があるが、前記(2)ア、イ、エ並びにオ(ア)a及びbのとおり、同原 告が取り扱った無断複製物は、被告不二出版のものに限定されずに他種類に及び、その数 量も相当数に上ること、〔3〕平成14年4月には、夏の書房「北朝鮮の極秘文書」に関 して、韓国高麗書林発行の書籍につき注意を促されているにもかかわらず、無断複製の事 実について何らかの調査、対応策などを講じた形跡はうかがわれず、その後も韓国「北朝 鮮の極秘文書」の販売を継続していることに照らし、到底採用することができない。   他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。 イ 無断複製についての共謀又は幇助  上記(1)及び(2)の事実によれば、昭和60年にされた韓国「日本人の海外活動に 関する歴史的調査」の複製は、被告Aが韓国高麗書林に話を持ち込んだものであり、平成 5年ころにされた韓国「特高警察関係資料集成」の無断複製も、原告高麗書林が被告不二 出版から購入した被告「特高警察関係資料集成」10巻から24巻に基づきされたものと 認められる。これらの事実に、被告AとFとは実の兄弟であり、韓国高麗書林との取引を 中止したと主張する平成元年(1989年)以降も、依然として関係が続いていることを 示す名刺や定州郡誌の事情があったり、韓国高麗書林の元従業員又はFの子であるGが関 係する会社との取引を続け、韓国高麗書林の発行する無断複製物を数多く輸入して日本で 販売していたことを併せ考慮すれば、被告Aが韓国高麗書林と共謀して無断複製物を製作 したか、少なくともその幇助をした疑いが相当あるといわざるを得ない。  他方、日本で発行された書籍の無断複製は、必ずしも被告Aの助けがなくても、日本の 書籍を1部入手すれば可能なことであり、事実、夏の書房「北朝鮮の極秘文書」は韓国内 に存在し、現にFがこれを借り出していることからすると、被告「特高警察関係資料集成」 を始めとする被告書籍の無断複製につき、原告高麗書林が共謀又は幇助していたとまで認 定することはできない。 (4)まとめ  以上によれば、被告不二出版が本件発言及び本件ファックス送信により摘示した被告 「特高警察関係資料集成」は編集著作物である事実(〔1〕−ア事実)、被告A及び原告 代表者Cが被告「特高警察関係資料集成」につき著作権侵害行為(著作権法113条1項 2号)をした事実(〔1〕−イ事実)、被告不二出版が被告「特高警察関係資料集成」に つき編集著作権を有し、告訴権を有する事実(〔2〕事実)、被告不二出版が告訴状を提 出した事実(〔3〕事実)は、〔2〕事実を除き、真実である。  事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、か つ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分に ついて真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がない。しかるに、 前提事実(4)ウにて説示したとおり、〔1〕−ア事実及び〔1〕−イ事実の摘示だけの 場合に比し、〔2〕事実の摘示が加わることによって、原告高麗書林の社会的評価は更に 低下を招くものではあるが、その社会的評価の低下の大部分は〔1〕−ア事実及び〔1〕 −イ事実の摘示により生じているものである。したがって、本件発言及び本件ファックス 送信により摘示された事実の重要な部分は、〔1〕−ア事実及び〔1〕−イ事実であると 認められる。そうすると、本件発言及び本件ファックス送信は、前提事実(4)エのとお り、公共の利害に関する事実に係り(〔1〕−ア事実及び〔1〕−イ事実に係る部分のみ で公共の利害に関する事実であることは、既に同(4)エにて説示した。)、かつ、その 目的が専ら公益を図ることにあり、そこにおいて摘示された事実が重要な部分について真 実であることの証明があったから、違法性を欠くというべきである(さらに、前記3(3) イのとおり、D及び被告Bが、Dが被告「特高警察関係資料集成」の共同著作者であると 信じたことに、相当の理由がある。)。  よって、原告高麗書林の第1事件の請求は、その余の点について判断するまでもなく、 理由がない。 5 争点(5)及び(6)(著作権侵害行為その1(共謀又は幇助)、及び著作権侵害行 為その2(著作権法113条1項2号))について (1)被告「特高警察関係資料集成」 ア 上記2〜4のとおり、被告「特高警察関係資料集成」は編集著作物であり、荻野富士 夫がその編集著作権を有し、原告高麗書林がこれを我が国で販売した行為は著作権法11 3条1項2号に該当するが、原告高麗書林がその無断複製につき共謀又は幇助していたこ とを認めるに足りる証拠はない。 イ そして、前提事実(2)オのとおり、被告不二出版は、荻野富士夫から、被告「特高 警察関係資料集成」に係る著作権(編集著作権を含む。)の譲渡、及び上記譲渡以前の原 告高麗書林に対する著作権(編集著作権を含む。)侵害に係る損害賠償請求権の譲渡を受 けている。 ウ(ア)原告高麗書林は、前提事実(1)アのとおり、被告Aが昭和42年10月に設立 した株式会社であり、以後、平成15年4月30日までの36年間にわたって、同人は同 社の代表取締役を務めたものであるところ、証拠(甲48、被告A)及び弁論の全趣旨に よれば、原告高麗書林は、被告Aのほかは社員数名程度の会社であり、被告Aが代表取締 役を務めている間は、被告Aがその業務の全般を取扱い、特に韓国からの書籍の輸入、販 売業務においては同被告が一手に担当していたことが認められる。そうすると、被告Aは、 平成15年4月30日までの分については、著作権法113条1項2号に該当する行為の 直接の行為者として、被告不二出版に生じた損害を賠償する義務を負い、原告高麗書林は、 会社法350条により、被告不二出版に生じた損害を賠償する義務を負う。 (イ)そして、上記(ア)に掲記の証拠によれば、被告Aは、原告高麗書林の代表取締役 及び取締役を退いて会長となった後は、体調のよい時のみ出社し、原告代表者Cや社員で は解決できないような韓国との折衝などを不定期に行っていたことが認められる。そうす ると、被告Aが代表取締役及び取締役でなくなった平成15年5月1日以降原告高麗書林 の著作権侵害行為について被告Aが責任を負う理由はない。  平成15年5月1日以降の分については、原告代表者Cが直接の行為者となるから、原 告高麗書林は、会社法350条により、被告不二出版に生じた損害を賠償する義務を負う。 (2)被告「百五人事件資料集」 ア 同書籍は、第1巻(乙39)を「寺内朝鮮総督謀殺未遂被告事件」とし、当該事件の 起訴状、第2審判決、上告論旨、上告審判決を所収し、第2巻(乙40)を「不逞事件ニ 依ツテ観タル朝鮮人」とし、上記刑事事件等に関する国友尚謙に係る同名の論文を所収し、 第3巻(乙41)を「朝鮮陰謀事件」とし、セウルプレッス社発行、朝鮮総督官房総務局 印刷所印刷に係る上記刑事事件等に関する同名の書籍を所収し、第4巻(乙42)を「朝 鮮総督暗殺陰謀事件」とし、ジャパンクロニクル記者である有馬義隆編纂、福音館発行に 係る上記刑事事件等に関する同名の書籍を所収するものである。 (乙39〜42) イ したがって、被告「百五人事件資料集」は、戦前の刑事事件の裁判記録とこれに関す ることの明らかな3つの文献を復刻しただけの書籍であり、その素材の選択又は配列はあ りふれたものであって、創作性を認め難いから、編集著作物とはいえない。 ウ ただし、前提事実(2)エ及びオのとおり、北博昭は、被告「百五人事件資料集」中 の解題部分につき著作権を有し、被告不二出版は、その著作権の譲渡及びその譲渡以前の 原告高麗書林に対する著作権侵害に係る損害賠償請求権の譲渡を受けている。 (3)被告「高等外事月報」 ア 同書籍は、昭和14年7月から昭和15年9月にかけて朝鮮総督府警務局保安課が刊 行した月刊の刊行物である「高等外事月報」をその発行日付順に所収するものである。 (乙43) イ したがって、被告「高等外事月報」は、月刊誌の各号を時系列に従って復刻しただけ であるから、その素材の選択又は配列のいずれにも創作性を認め難く、編集著作物とはい えない。 ウ ただし、前提事実(2)エ及びオのとおり、宮田節子は、被告「高等外事月報」中の 解説部分につき著作権を有し、被告不二出版は、その著作権の譲渡及びその譲渡以前の原 告高麗書林に対する著作権侵害に係る損害賠償請求権の譲渡を受けている。 (4)被告「思想彙報」 ア 同書籍は、昭和4年10月から昭和8年9月にかけて憲兵司令部が刊行した月刊の刊 行物である「思想彙報」をその発行日順に所収するものである。 (乙45、46) イ したがって、被告「思想彙報」は、月刊誌の各号を時系列に従って復刻しただけであ るから、その素材の選択又は配列のいずれにも創作性を認め難く、編集著作物とはいえな い。 ウ ただし、前提事実(2)エ及びオのとおり、吉田裕は、被告「思想彙報」中の解説部 分につき著作権を有し、被告不二出版は、その著作権の譲渡及びその譲渡以前の原告高麗 書林に対する著作権侵害に係る損害賠償請求権の譲渡を受けている。 (5)被告「朝鮮軍概要史」 ア 同書籍は、「朝鮮軍概要史」(著者不明)という1つの文書と、付録として、朝鮮軍 残務整理部作成に係る「朝鮮における戦争準備」及び第一復員局作成に係る「本土作戦記 録第5巻第十七方面軍」の2つの文書を所収するものである。 (乙44) イ 「朝鮮軍概要史」に、「朝鮮における戦争準備」及び「本土作戦記録第5巻第十七方 面軍」を組み合わせた点に創作性があるかが問題となるが、「極端に資料が少い」(同解 説10頁)ことからすると、それらの組合せに素材の選択又は配列の創作性を認め難いか ら、編集著作物とはいえない。 ウ ただし、前提事実(2)エ及びオのとおり、宮田節子は、被告「朝鮮軍概要史」中の 解説部分につき著作権を有し、被告不二出版は、その著作権の譲渡及びその譲渡以前の原 告高麗書林に対する著作権侵害に係る損害賠償請求権の譲渡を受けている。 (6)被告「朝鮮思想運動概況」 ア 同書籍は、昭和11年8月から昭和15年8月にかけて朝鮮軍参謀部が陸軍次官あて に半年ごとに送付した機密報告書である「朝鮮思想運動概観」又は「朝鮮思想運動概況」 を、その作成日順に所収するものである。 (乙47) イ したがって、被告「朝鮮思想運動概況」は、半年ごとの報告書を時系列に従って復刻 しただけであるから、その素材の選択又は配列のいずれにも創作性を認め難く、編集著作 物とはいえない。 ウ ただし、前提事実(2)エ及びオのとおり、宮田節子は、被告「朝鮮思想運動概況」 中の解説部分につき著作権を有し、被告不二出版は、その著作権の譲渡及びその譲渡以前 の原告高麗書林に対する著作権侵害に係る損害賠償請求権の譲渡を受けている。 6 争点(7)(一般不法行為(版面権侵害))について (1)他の出版社の版面をそのまま複写して出版物を製作する行為は、出版業に携わる者 として道義にもとるものであることは明らかである。しかし、法はそのような場合でもこ れを直ちに違法なものと評価しているわけではなく、著作権等の存在を前提に、かつ、一 定範囲の類型に限って違法であると明示的に規定しているものであり(著作権法113条 参照)、著作権法で違法とされていない行為を一般不法行為により違法と判断することは、 謙抑的にされるべきである。  この観点からすると、被告「百五人事件資料集」、被告「高等外事月報」、被告「思想 彙報」、被告「朝鮮軍概要史」及び被告「朝鮮思想運動概況」については、一部の資料の 入手に困難があったことは認められ(乙39の8の解題11頁、乙41の6の解題1頁)、 しかも、その無断複製物を被告書籍の顧客層がいる日本市場向けに製作するものであるが、 他方、資料の修復等(オペーク作業等)に格段の困難を要した等の事情はうかがわれない から、その製作をもって、一般不法行為を構成するものと認めることはできない。 (2)しかも、前記4で判示したとおり、原告高麗書林が被告書籍の無断複製行為自体に 関与したとは認められないところ、販売のみに関与する者につき「版面権」侵害を認める ことは、更に謙抑的にされるべきであるから、販売に関与したことのみをもって、一般不 法行為を構成するものと認めることはできない。 (3)したがって、被告不二出版の版面権侵害の主張は、理由がない。 7 争点(8)(時効消滅)について (1)原告高麗書林は、「朝鮮史研究会論文集」38巻(平成12年10月発行)、同3 9巻(平成13年10月発行)及び同40巻(平成14年10月発行)の3回にわたり、 被告書籍を含む書籍を宣伝する1頁全体大の広告を出し、被告不二出版も、同論文集に毎 号広告を出していた。 (争いのない事実) (2)原告らは、上記事実によれば、被告不二出版は上記各発行日ころ、被告書籍の無断 複製物である韓国書籍が販売されていることを知った旨主張する。  しかしながら、韓国書籍の中で同広告に掲載されているのは「高等警察関係資料集成」 と書名を変えらた韓国「高等警察関係資料集成」のみであるから、上記(1)の事実のみ から、被告不二出版は上記各発行日ころ、被告書籍の無断複製物である韓国書籍が販売さ れていることを知ったと推認することはできず、他にこの点を認めるに足りる証拠はない。 (3)したがって、原告らの時効消滅の主張は、理由がない。 8 争点(9)(第2事件に係る損害−著作権法114条2項)について (1)侵害された部分  以上をまとめれば、被告書籍のうち侵害された部分は、次のとおりである。 ア 被告「特高警察関係資料集成」の荻野富士夫から譲渡を受けた編集著作権の侵害及び 解題に係る著作権侵害、 イ その余の被告書籍の解題又は解説に係る著作権侵害(ただし、被告「百五人事件資料 集」については、姜在彦の総説に係る部分は除かれる。) (2)被告「特高警察関係資料集成」について ア 原告高麗書林の販売価格  証拠(乙6、7)によれば、原告高麗書林は、被告「特高警察関係資料集成」を1セッ ト6万円で販売したことがあるが、特価販売の場合は1セット3万9735円で販売した ことが認められる。  したがって、その平均販売価格を5万円と認める。 イ 原告高麗書林の販売数量 (ア)被告不二出版は、韓国「特高警察関係資料集成」の日本国内における販売部数は2 00セットを下回らない旨主張する。しかし、韓国「特高警察関係資料集成」の販売地域 は、日本に限らず、韓国を含むものであるから、韓国での製造数がそのまま日本での販売 数になるものではないし、正規の出版の場合の製造数と他の書籍を無断複製するだけの出 版の場合の製造数が同じであると考えることもできないから、被告不二出版の上記主張は 採用することができない。この点は、他の被告書籍についても同様である。 (イ)前記4(2)カ(ア)、キ(ア)及びサ(ア)のとおり、平成12年以来、原告高 麗書林は、韓国「特高警察関係資料集成」の販売広告をしたこと(甲50〜52)、平成 17年まで原告高麗書林は韓国書籍の販売広告をしていること(乙6)、並びに平成18 年には韓国高麗書林発行の書籍の取扱いをやめ、在庫も廃棄したことからすると、平成1 2年から平成17年の間、原告高麗書林は韓国「特高警察関係資料集成」を我が国で販売 したことが認められるが、それ以外の期間に販売したことの立証はないというべきである。 この点は、他の被告書籍についても同様である。 (ウ)証拠(甲14、24の6、25の4・5)によれば、原告高麗書林は、平成15年 〜平成16年の約2年間に、韓国「特高警察関係資料集成」を11セット仕入れ、これを 販売したことが認められる。 (エ)そこで、原告高麗書林が平成12年から平成17年の間に販売した数量を33セッ トと認める。  11セット÷2年×6年=33セット ウ 利益率  前記イ(ウ)に掲記の証拠によれば、韓国「特高警察関係資料集成」の仕入値は、一部 は7万5000ウォンであり(弁論の全趣旨によれば、平成15年から平成17年にかけ ての為替レートは、1円9ウォン台から11ウォン台程度であることが認められる、その 多くが1万5000。)ウォン(委託販売)であることが認められるところ、他の経費に つき原告高麗書林からの立証はないから、その利益率が50%を下回ることはないものと 認められる。 エ 小括  以上から、損害額を82万5000円と認める。  5万円×33セット×0.5=82万5000円 (3)被告「百五人事件資料集」について ア 原告高麗書林の販売価格  証拠(乙6、7)によれば、原告高麗書林は、韓国「百五人事件資料集」を1セット8 000円で販売したこともあるが、特価販売の場合は1セット5250円で販売したこと が認められる。  したがって、その平均販売価格を6500円と認める。 イ 原告高麗書林の販売数量 (甲20、弁論の全趣旨)によれば、原告高麗書林は、平成15年〜平成16年の約2年 間に、韓国「百五人事件資料集」を11セット仕入れ、これを販売したことが認められる。  そこで、原告高麗書林が平成12年から平成17年の間に販売した数量を33セットと 認める。  11セット÷2年×6年=33セット ウ 利益率  前記イに掲記の証拠によれば、韓国「百五人事件資料集」の仕入値は、一部は1万ウォ ンであり、その多くが2000ウォン(委託販売)であることが認められるところ、他の 経費につき原告高麗書林からの立証はないから、その利益率が50%を下回ることはない ものと認めれる。 エ 寄与割合  被告「百五人事件資料集」には、著作物と認められる姜在彦の総説が加えられているか ら、北博昭の著作物の寄与度を50%とする。 オ 小括  以上から、損害額を5万3625円と認める。  6500円×33セット×0.5×0.5=5万3625円 (4)被告「高等外事月報」について ア 原告高麗書林の販売価格  証拠(乙6、7)によれば、原告高麗書林は、韓国「高等外事月報」を1セット480 0円で販売したこともあるが、特価販売の場合は1セット3150円で販売したことが認 められる。  したがって、その平均販売価格を4000円と認める。  イ 原告高麗書林の販売数量 (甲22、弁論の全趣旨)によれば、原告高麗書林は、平成15年〜平成16年の約2年 間に、韓国「高等外事月報」を7セットを仕入れ、これを販売したことが認められる。  そこで、原告高麗書林が平成12年から平成17年の間に販売した数量を21セットと 認める。  7セット÷2年×6年=21セット ウ 利益率  前記イに掲記の証拠によれば、韓国「高等外事月報」の仕入値は、一部は6000ウォ ンであり、その多くが1200ウォン(委託販売)であることが認められるところ、他の 経費につき原告高麗書林からの立証はないから、その利益率が50%を下回ることはない ものと認められる。 エ 小括  以上から、損害額を4万2000円と認める。  4000円×21セット×0.5=4万2000円 (5)被告「思想彙報、被告「朝」鮮軍概要史」及び被告「朝鮮思想運動概況」について ア 原告高麗書林の販売価格  証拠(乙6、7)によれば、原告高麗書林は、韓国「朝鮮思想関係資料集」を1セット 2万4000円で販売したこともあるが、特価販売の場合は1セット1万5750円で販 売したことが認められる。  したがって、その平均販売価格を2万円と認める。 イ 原告高麗書林の販売数量  証拠(甲21、弁論の全趣旨)によれば、原告高麗書林は、平成15年〜平成16年の 約2年間に、韓国「朝鮮思想関係資料集」を9セット仕入れ、これを販売したことが認め られる。  そこで、原告高麗書林が平成12年から平成17年の間に販売した数量を27セットと 認める。  9セット÷2年×6年=27セット ウ 利益率  前記イに掲記の証拠によれば、韓国「朝鮮思想関係資料集」の仕入値は、3万ウォンの ものと6000ウォン(委託販売)のものがあることが認められるところ、他の経費につ き原告高麗書林からの立証はないから、その利益率が50%を下回ることはないものと認 めれる。 エ 小括  以上から、損害額を27万円と認める。  2万円×27セット×0.5=27万円 (6)弁護士費用 ア 以上を合計すると、損害額は119万0625円となる。  82万5000円+5万3625円+4万2000円+27万円=119万0625円 イ 弁護士費用は、上記認容額、本件事案の内容、審理経過等にかんがみて、25万円が 相当である。  その合計は、144万0625円である。  119万0625円+25万円=144万0625円 (7)まとめ ア 被告Aに関して  基準算定期間とした平成12年〜平成17年のうち、被告Aが代表取締役を務めていた のは約3.5年であるから、被告Aが、原告高麗書林と共同して不法行為責任を負う額を 84万0364円と認める。  144万0625円÷6年×3.5年=84万0364円 イ 遅延損害金の起算日  遅延損害金の起算日については、平成15年4月30日までの被告Aと原告高麗書林と の連帯支払分84万0364円については、平成15年4月30日とし、その後の期間分 60万0261円については、平成17年12月31日とする。  144万0625円−84万0364円=60万0261円 ウ まとめ  以上から、原告高麗書林と被告Aは、84万0364円の損害賠償金及びこれに対する 平成15年4月30日以降の遅延損害金の連帯支払義務があり、原告高麗書林は、これと は別に、単独で、60万0261円の損害賠償金及びこれに対する平成17年12月31 日以降の遅延損害金の支払義務がある。 9 結論 (1)第1事件  以上によれば、本件発言及び本件ファックス送信は、公共の利害に関する事実に係り、 かつ、その目的が専ら公益を図るためにしたものと認められ、その摘示事実の重要な部分 は真実であることの証明があったから、本件発言及び本件ファックス送信をもって、不法 行為法上違法であると認めることはできない。  したがって、原告高麗書林の被告らに対する名誉毀損の不法行為に基づく請求は、いず れも理由がないから、棄却する。 (2)第2事件  被告A又は原告代表者Cは、被告「特高警察関係資料集成」に係る荻野富士夫の著作権 (編集著作権を含む。)並びにその余の被告書籍に係る宮田節子らの各解説及び解題に係 る著作権を侵害したものであるから(著作権法113条1項2号)、被告不二出版の原告 高麗書林及び被告Aに対する損害賠償請求は、前記8(7)ウに記載の限度で理由がある から認容し、その余は理由がないから棄却する。 (3)訴訟費用等  訴訟費用の負担につき、民事訴訟法61条、64条本文、65条1項本文を適用し、仮 執行宣言は、相当でないからこれを付さないこととする。 (4)まとめ  よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 市川 正巳    裁判官 中村 恭    裁判官 宮崎 雅子